第六章
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地震が止み、辺りが落ち着くと、なつみは立ち上がった。
「うー、怖かったぁ。変に長かったな」
体の向きを技術開発局方面から、三番隊舎や宿舎の方に変える。
「大丈夫だったかな」
そのなつみの様子に、海燕は困っていた。
(今の地震で、行くのやめちまうんじゃねぇか。どうする。俺が出て行くわけにもいかねぇしな)
すると、なつみのもとへ1人の男がやってきた。
「なつみちゃーん!大丈夫やった?」
「あれ⁉︎市丸隊長!どうしてここに?」
「ん?」
その登場も確認し、海燕は更に動揺した。
(市丸⁉︎ 木之本と別れて、こっちに来たってことか⁉︎)
先程の地震の原因は、なつみと市丸の間に起きた何かだと思っていたのだが、何故か今市丸は何も知らない方のなつみのところに駆けつけ、もう1人のなつみはまだ海燕のところに追いついてこないでいた。
(何が起きたんだ。あいつを困らせたのは、市丸じゃないのか。だとしたら誰だよ)
それも悩みの種だが、別の悩みもある。そちらの方が重大かもしれない。
(市丸は、木之本が2人いることに気付いていないはずだ。さっき会ったことをあいつに話したら、話が噛み合わなくなって、勘付かれるかもしれねぇ。ややこしくなる。クッソ。何話してんだよ)
市丸となつみの会話は、海燕が隠れている場所からは聞き取れない。状況を把握できず、行動を起こせなくてもどかしい。
「その辺お散歩してたんよ。ほんでなつみちゃんの気配したから、こっち来よう思たんやけど、地震起きたやんか。びっくりやんな」
海燕は驚いた。聞こえるはずのない市丸の声が、聞こえてきたのだ。
(何だ)
音源を探って目をやると、そこにはスピーカーくんが。
「お前!木之本といたろ。……、移動したってのか」
なつみにひとりで帰るように言われたスピーカーくんは、猛スピードで走り、海燕の足元に到着していた。マイクくんはというと、スピーカーくんの接近に気付き、また空気を読んで独断で市丸たちの方へ飛んでいっていたのだ。
「お前ら。ありがとよ」
海燕はスピーカーくんを肩に乗せ、盗聴に集中する。会話の流れによっては、自分の出番があるかもしれないと備えつつ。
市丸となつみのおしゃべりは以下の通りだった。
「隊長、今の地震で、隊舎の中の物が倒れたり、落ちたりしてるかもしれませんよ。すぐ行った方が良いかもしれません」
「せやね」
「ぼくもついていきます。手伝いますよ。ぼくの部屋も気になりますし」
海燕はドキリとした。嫌な方に予想が的中する。
「んー、そうして欲しいけど、なつみちゃん、どっか行く途中やったんとちゃう?おうちとちゃう方に歩いてたやん」
(お?)
意外な展開。
「あの、涅隊長に呼ばれてて。技術開発局に行こうとしてたんです。おもしろい話を聞かせてくれるって」
「そうなんや」
海燕の眉間に皺が寄った。
(おかしい。返しがおかし過ぎる。あの野郎、あいつが別人なのに気付いてやがるな。どういうつもりだ)
思わず、壁に当てている拳に力が入った。
(何する気だ)
今度は海燕の前にピンチが訪れていた。
「せやったらなぁ、先に十二番隊長さんのとこ行き?」
「ですが…」
「約束したんに、行かへんのは失礼やろ?」
「んー…」
「お話聞くだけやったら、そんなに時間かからんやろうし。とりあえずボクは隊舎戻るで、様子見て、キミの助けが欲しくなったら連絡するわ。そんでええやろ」
「ぷぅー😠」
「はよ行き。十二番隊長さんが待ってるで」
「急ぐのは隊長の方です!早く行ってください!」
「はいはい。ほなな〜👋」
市丸は姿を消し、なつみは進路を元のルートに戻した。
姿を消した市丸が三番隊舎へ向かった、というのは見せかけで、実際は海燕のところに移動しただけだった。
「どういうつもりですか」
「酷い言われようやね。キミらのためにしてあげたのに」
「どこまで知ってるんですか」
「なつみちゃんが2人おるな。何でかは知らんけど」
「あいつに、ついてこないように言われてなかったんですか」
「言われたで。せやからって、かわいい妹の隠し事をほったらかすわけないやろ。今はたぶん、まだ京楽さんとおる。どっか行ってまったけど。京楽さんもなつみちゃんが2人おるの知ってるで。あの人に詰め寄られて困ったなつみちゃんは、暴走してさっきの地震を起こしてしもた。キミのおかげで立ち直れたから良かったけど」
市丸は陰から出て行った。
「ボクは京楽さんとおるなつみちゃんを追うで。キミらの邪魔はせんから、心配せんとって」
そう言った市丸の笑顔は、正直信じられるものに見えなかった。いつものこと、だが。
(んの野郎ッ……)
2人は別々の方へ走り出した。
「はぁ…はぁ…」
「なつみちゃん、口封じするって言ったけど、そんなんじゃ無理だよ。ボク相手に」
京楽は、この景色を見て思う。
「随分懐かしい所に連れてきてくれたね。あの頃と比べると、上手に使えるようになったよ」
彼は手を添える。
「けど、ボクより弱い人を連れて、この技を使っちゃダメだよ。ただじゃ済まなくなる」
「はぁ…、はい。はぁ…」
なつみは早くあの場所から離れたかった。京楽があちらに近づかないように。斬魄刀を解放し、京楽の腰周りにタックルして、瞬間移動でここまで飛んできたのだ。技術開発局から遠く、行き方がわかっていて、誰もいないはずの場所。なつみは京楽といるせいで、一箇所しか思い浮かばなかった。初めて京楽の前で始解を見せて、ちょっとした暴走があったあの場所だ。
「キミが強くなったのもよくわかった。でも無茶しすぎだよ」
2人は屋根の上で、くっついて立っている。なつみの左腕は京楽の腰に、右手は斬魄刀が当たらないように身体から離していた。
1人で歩くと何も感じないのに、物を持って歩くと重く感じる。自分の体重の半分の物ですら、大抵の人は重くて持ち上げるのがやっとである。そして、上げられたとしても、それを急いで運ぶなど。ましてや自分よりはるかに大きく重いものでは、不可能である。しかし、なつみは無理をしてやってのけた。京楽にもたれて立っているのがやっとであるが、なんとか左腕に力を入れて、身体を離そうとする。
「今は、無茶しなきゃ、いけないんですよ」
よたよたと距離を取り、下げていた斬魄刀を持ち上げていく。
「なつみちゃん……」
京楽にまっすぐ切先が向けられた。視線も彼を真剣な眼差しで捉えていた。この現場に誰かが駆けつければ、なつみは罪人として取り押さえられるかもしれない。
なつみの唇が、音もなく何かを呟いた。
ふっと呼吸を整え、なつみはそこで急に斬魄刀を鞘に収めてしまった。それを見て京楽は驚き、彼女の行動を疑った。素手で京楽を倒すつもりだというのか。いや、そんなはずはない。なつみが今できる口封じ。彼女はちゃんと考えている。どんな方法かというと。
裾をさっと撫でて、その場に正座。両手を前に揃えて、頭を下げた。
「どうか、今日のところはぼくたちのこと、そっとしておいてください!お願いします!」
土下座である。
「お願いしますッ!」
京楽を倒すなど、ありはしない。敵ではないのだから、誠心誠意お願いすれば、必ず聞き入れてくれるはず。そう考えたのだ。力ではない。心だ。彼が、なつみの知っている彼であるならば、きっとうまくいくと。
「なつみちゃんっ、やめてよ!頭を上げて。わかったから。キミの本気は充分わかったから」
駆け寄った京楽も座り込み、正面からなつみの肩を掴んだ。辛そうな彼女の身体を起こしてやる。
「こんなになってまで頑張る程、やり遂げなきゃいけないことをしてるんだよね。ボクは邪魔したりしないよ。いつだってキミを信じてるんだから。そんなふうに頭下げないで。警戒しなくて良いんだよ」
そう言って、肩で息をするなつみを抱き寄せた。
「大丈夫?どう辛いの?」
「力使って、疲れてるだけですよ」
言葉が丸く響いた。
「そう。じゃあ、分けてあげるね」
脚を崩し、座り直した京楽の霊力がなつみの身体に注がれ始める。
「ボクね、ショックだったんだ」
なつみの頭がちょっと動いた。
「なつみちゃんが2人いるなんて、とんでもないことが起きているのに、ボクは何も知らなかった。なのに何でか海燕くんはこの件に関わってる。ほとんどキミのこと知らないはずなのに。あと、涅隊長も関わってるね。さっき持ってた蟲といい、あっちのなつみちゃんが向かった先は技術開発局だ。市丸隊長と話してるのも聞こえた。彼は、ボク同様に知らされてない側らしいね。この極秘任務を依頼した人は偉い人って。山じいのことでしょ。
蚊帳の外って感じで、悲しかった。何がどうして起きてるのか、知りたかったよ。どっちのなつみちゃんも本物みたいだし。大変そうだから、手伝えることがないか、確かめたかったんだ。でも、逆に迷惑をかけちゃったみたいだね。ごめん」
なつみは京楽の優しさに包まれながら、申し訳なさを感じていた。
「心配させてしまって、こちらこそすいませんでした」
「キミは悪くないよ。頼りないボクが悪いんだ。キミの助けになれなかった」
確かに今現在、この男は進行中の計画において邪魔な存在である。市丸も然り。事情をここで打ち明けられたら、どれだけ心が楽になるだろうか。しかし、言うわけにはいかない。なつみは京楽の背中に腕を回し、彼の胸に額を当てた。
「明日…。明日になれば、今日のことがわかると思います。他のことも。今日は、何も知らずに過ごしていただきたかったです。京楽隊長には、明日お願いしたいことがあるんですよ」
「何だい?」
なつみがチラッと視線を上げると2人の視線が交わったが、すぐ下に逸らした。
「内緒です///」
「もー。ホントに教えてくれないね」
「今日はです!今日は!」
京楽は諦めたようにため息をついた。
「明日、か…。まるでなつみちゃんは未来がわかるみたいだね」
ドキリとした。もしや、勘付かれているのか。ここはなんとか誤魔化さねば。
「そ、そんなわけないじゃないですか!未来がわかってたら、さっきみたいにパニクったりしませんよ!問題を起こすわけないじゃないですか!」
説明が丁寧すぎかと思われたが、京楽は1拍考えると納得した。
「それもそっか。そうだよね」
(ふ〜…)
「なつみちゃん、さっきより楽になったかい?」
回復具合を確認する。
「はい。だいぶ良くなりました。もう大丈夫ですよ」
また1拍の間。にっこりと微笑む。
「この嘘つきッ」
「あわッ///」
なつみを強く抱きしめ、再び力を渡していった。なつみはモゾモゾと抵抗する。
「大丈夫って言ったじゃないですか❗️」
「まだ足りてないんでしょ❗️お鼻がヒクッてしたもん❗️」
「してません‼️」
「したよ‼️」
「うぅぅ💦放してくださいぃ‼️」
明日の分を残してもらいたいのに、今日こんなにもらうわけにはいかないのだ。
「うぎゃぁーーーッ‼️」
がんばって押してもびくともしない。何か、解放してもらえる良い理由はないものか⁉︎
「はっ、恥ずかしいから、放してください‼️こんなところ見られたら、誤解されちゃいますっ‼️」
「させれば良いだろ、そんなの」
「⁉️///」
「第一、誰も見てないんだから、気にすることないよ」
なつみはズボッと下へ、なんとか強力な腕から抜け出し、後ろに仰け反って、建物の階下を指差した。
「そこ❗️市丸隊長がいます‼️」
「……。気のせいだよ」
口をツンと尖らせて、とぼける京楽。
「いますって‼️霊圧抑えててもわかりますって‼️」
「おらんよ〜」
「返事しちゃってんじゃないすか‼️‼️」
ということで、市丸も合流した。
「ボクのこと気にせんと、京楽さんとイチャイチャしとったらええのに」
「そうだろ?キミは話がわかるな」
なつみはムスッとしていた。右手は京楽に取られ、左手は市丸に取られ、間に座らされながら、2人の霊力を注入されている。
「もういらないですって!」
「遠慮しないの」
「せやで。隠し事せんと、もっと甘えてや、なつみちゃん」
「むぅ!」
とにかく、動けなかった。
「んー」市丸は、眩しそうに空を見上げた。「ここ、日に当たりすぎやない?暑いわ。焼けてまう」
市丸の白い肌には少し厳しい日差しだった。
「よし!じゃあ帰りましょう!」
「それはイヤ」
なつみが変顔で睨む顔の前を、京楽の手が横切る。
「これ被りなよ」
パサリと笠が市丸の頭に被せられた。
「わぁ」
「うわ〜」
「どう?」
市丸は片方の手で笠をちょっとだけ傾けた。
「おぉ、悪ないなぁ」
笠の効果を実感する市丸の姿を見て、なつみはくすくす笑っていた。
「ぷくくくっ、似合ってない(笑)」
「あぁ!失礼やで。でもそうやろな。ほんなら、キミが被っとき」
今度はなつみの頭に被せられた。
「うわっ」
彼女の両手は塞がっているため、市丸が前を見えるように調節してあげる。なつみは嬉しそうにぴょこぴょことした。
(あわ〜っ、京楽隊長の笠だぁ‼️被っちゃったぁ‼️)
「どう?なつみちゃん。涼しい?」
京楽が問いかけると、 なつみはきゅっと彼を見上げて微笑んだ。
「はいっ😊」
その眩しい答えに思わず心が眩む。
「かわいすぎるっ‼️このまま持って帰りたい‼️」
「あかんやろ」
「させませんよ」
「いーやッ❗️2人いるんだから、片っぽもらったって良いだろ‼️」
「‼️⁉️」
なんてことを言うんだと、なつみは京楽のことを疑った。市丸はそのことを知らないのに。慌ててフォローしようと、なつみは左を見た。
「そやけどあかんて。もうそろそろ十三番副隊長さんが迎えに来るんとちゃう?」
思わずパチクリと瞬きをする。何を言い出すだこの人はと。
「どしてご存知なんですか隊長」
「ん?あっちのなつみちゃんとおしゃべりして、十三番副隊長さんともおしゃべりしてきたで」
ガーンッ
「何たることッ⁉️」
頭を抱えたいところだが、ただ空を仰ぐのみ。
「大丈夫。ボクはキミの味方やで。うまくいくように協力してあげたんや」市丸はなつみのほっぺをぷにぷにした。「ボクらも呼び出されるかもしれへんな」
「❓」
ますますよくわからない。
するとそこに2羽の地獄蝶が飛んできた。
「ほら」
蝶たちは各隊長の前で止まった。
「京楽隊長、隊舎にお戻りください。先程の地震で棚がいくつも倒れてしまいました。資料の山が散乱して、大変なことになっています。とっとと片付けに帰ってきなさい‼️」
「市丸隊長、地震被害の復旧作業は振り分けを済ませました。大きな被害は無さそうなので、すぐに通常業務に戻れると思われます。隊首室には入れませんでしたので、そのままにしてあります。物が落下しているかもしれないので、早めに隊舎にお戻りください」
七緒とイヅルの声が再生された。
「なんか、扱いが💧」
「しょうがないですよ。逃げられて怒ってるんですよ」
「ウチの隊は優等生ばっかりで楽やわ」
震源が三番隊所属ですが。
伝達を終えた地獄蝶たちが飛び去ると、今度は人影が2つこちらに接近してきた。
「木之本ーッ‼︎‼︎無事かーッ⁉︎」
この声は。
「志波副隊長ぉーーーっ😭‼️」
海燕とマユリがなつみの救出に現れた。
「厄介なのと一緒にいるネ」
助っ人登場に、なつみは涙する。
「涅隊長ぉーーーっ😭‼️」
2人が現場に到着。
「京楽隊長、市丸隊長、木之本を保護していただき、ありがとうございました。俺らで引き継ぐんで、お2人は隊舎へお帰りください」
海燕がそう言って頭を下げる横で、マユリは例の計測機をなつみに向けていた。
「理由も言わず、隊長に向かって一方的に『帰れ』とは、無礼な男だネ」
「どっちの味方なんすか💧」
「なら、キミが説明してくれるっての?涅隊長」
(ケンカしないでよぉ…💧)
「私とてしないヨ。キミらは部外者だからネ。副隊長共に呼ばれたんだろ。だったら大人しく帰り給え」
(俺より無礼💧)
マユリは懐に計測機をしまった。海燕もなつみの無事を確かめようと、彼女の正面に片膝をついて座り、抱きしめた。
「んなッ⁉️💢」
「あれま」
自称恋人と兄の目の前で繰り広げられる。
「無茶すんなっつったろ、バカ」
「ごめんなさい」
「……」マユリに振り返る。「涅隊長、回復薬を」
海燕は手を差し伸べたが、マユリの表情が予期せぬものだった。
「そうか。私が持っているはずだったか」
「無いんすか⁉︎」
「済まないネ。邪魔者のせいで、予想外な事が起きたんだヨ。早くその子をうちへ連れて行く。運び給え」
「…、はい」
「急げ。時間が無いヨ」
しかし海燕は動かなかった。なつみにもその理由がわかっていた。なので、彼女が動いた。
「市丸隊長、京楽隊長、あとは涅隊長と志波副隊長にお任せください。大丈夫です。信じてください。悪いことはもう起きませんから」
すっと手を2人から放し、海燕のことも離した。なつみは笠を京楽に返してあげて、こう続けた。
「力を分けてくださって、ありがとうございました」
市丸の方に向く。
「隊長は何されたか知りませんけど、でも助けてくれたんですよね。ありがとうございました」
そして大きく息を吸って、一言。
「明日も良い日になりますっ‼️‼️」
にっこり。
ブワッと風が舞い上がったと思ったら、次の瞬間からもう心は方向転換していた。この子のために。
「了解。キミがそう言うなら、きっとそうさ。帰るとするよ」
京楽はなつみの頭を撫でて立ち上がる。
「せやね。なつみちゃんは何でもできる子やもんね。ボクも大人しく帰るわ」
市丸も立ち上がり、歩き出した。
京楽と市丸がマユリと並ぶ。
「君たちが思うようなことではないヨ。安心し給え」
そう言い残してマユリは、海燕となつみのもとへ進んだ。
2組は背を向けていた。背後で海燕が、なつみを抱えて立ち上がるのがわかった。それで何を思ったか、京楽はふと少しだけ振り返って、彼らが去るのを肩越しに見ようとした。
「⁉︎」
自分の目を疑い、しっかり見ようと身体をそちらへ向けたが、もう遅かった。3人の姿は消えてしまった。その焦りの表情に、市丸が気付いた。
「どないしたんですか」
「いや…。見間違いだと思う」
「何がです?」
京楽は口元に手をやる。
「なつみちゃんの足が、無かった……」
「うー、怖かったぁ。変に長かったな」
体の向きを技術開発局方面から、三番隊舎や宿舎の方に変える。
「大丈夫だったかな」
そのなつみの様子に、海燕は困っていた。
(今の地震で、行くのやめちまうんじゃねぇか。どうする。俺が出て行くわけにもいかねぇしな)
すると、なつみのもとへ1人の男がやってきた。
「なつみちゃーん!大丈夫やった?」
「あれ⁉︎市丸隊長!どうしてここに?」
「ん?」
その登場も確認し、海燕は更に動揺した。
(市丸⁉︎ 木之本と別れて、こっちに来たってことか⁉︎)
先程の地震の原因は、なつみと市丸の間に起きた何かだと思っていたのだが、何故か今市丸は何も知らない方のなつみのところに駆けつけ、もう1人のなつみはまだ海燕のところに追いついてこないでいた。
(何が起きたんだ。あいつを困らせたのは、市丸じゃないのか。だとしたら誰だよ)
それも悩みの種だが、別の悩みもある。そちらの方が重大かもしれない。
(市丸は、木之本が2人いることに気付いていないはずだ。さっき会ったことをあいつに話したら、話が噛み合わなくなって、勘付かれるかもしれねぇ。ややこしくなる。クッソ。何話してんだよ)
市丸となつみの会話は、海燕が隠れている場所からは聞き取れない。状況を把握できず、行動を起こせなくてもどかしい。
「その辺お散歩してたんよ。ほんでなつみちゃんの気配したから、こっち来よう思たんやけど、地震起きたやんか。びっくりやんな」
海燕は驚いた。聞こえるはずのない市丸の声が、聞こえてきたのだ。
(何だ)
音源を探って目をやると、そこにはスピーカーくんが。
「お前!木之本といたろ。……、移動したってのか」
なつみにひとりで帰るように言われたスピーカーくんは、猛スピードで走り、海燕の足元に到着していた。マイクくんはというと、スピーカーくんの接近に気付き、また空気を読んで独断で市丸たちの方へ飛んでいっていたのだ。
「お前ら。ありがとよ」
海燕はスピーカーくんを肩に乗せ、盗聴に集中する。会話の流れによっては、自分の出番があるかもしれないと備えつつ。
市丸となつみのおしゃべりは以下の通りだった。
「隊長、今の地震で、隊舎の中の物が倒れたり、落ちたりしてるかもしれませんよ。すぐ行った方が良いかもしれません」
「せやね」
「ぼくもついていきます。手伝いますよ。ぼくの部屋も気になりますし」
海燕はドキリとした。嫌な方に予想が的中する。
「んー、そうして欲しいけど、なつみちゃん、どっか行く途中やったんとちゃう?おうちとちゃう方に歩いてたやん」
(お?)
意外な展開。
「あの、涅隊長に呼ばれてて。技術開発局に行こうとしてたんです。おもしろい話を聞かせてくれるって」
「そうなんや」
海燕の眉間に皺が寄った。
(おかしい。返しがおかし過ぎる。あの野郎、あいつが別人なのに気付いてやがるな。どういうつもりだ)
思わず、壁に当てている拳に力が入った。
(何する気だ)
今度は海燕の前にピンチが訪れていた。
「せやったらなぁ、先に十二番隊長さんのとこ行き?」
「ですが…」
「約束したんに、行かへんのは失礼やろ?」
「んー…」
「お話聞くだけやったら、そんなに時間かからんやろうし。とりあえずボクは隊舎戻るで、様子見て、キミの助けが欲しくなったら連絡するわ。そんでええやろ」
「ぷぅー😠」
「はよ行き。十二番隊長さんが待ってるで」
「急ぐのは隊長の方です!早く行ってください!」
「はいはい。ほなな〜👋」
市丸は姿を消し、なつみは進路を元のルートに戻した。
姿を消した市丸が三番隊舎へ向かった、というのは見せかけで、実際は海燕のところに移動しただけだった。
「どういうつもりですか」
「酷い言われようやね。キミらのためにしてあげたのに」
「どこまで知ってるんですか」
「なつみちゃんが2人おるな。何でかは知らんけど」
「あいつに、ついてこないように言われてなかったんですか」
「言われたで。せやからって、かわいい妹の隠し事をほったらかすわけないやろ。今はたぶん、まだ京楽さんとおる。どっか行ってまったけど。京楽さんもなつみちゃんが2人おるの知ってるで。あの人に詰め寄られて困ったなつみちゃんは、暴走してさっきの地震を起こしてしもた。キミのおかげで立ち直れたから良かったけど」
市丸は陰から出て行った。
「ボクは京楽さんとおるなつみちゃんを追うで。キミらの邪魔はせんから、心配せんとって」
そう言った市丸の笑顔は、正直信じられるものに見えなかった。いつものこと、だが。
(んの野郎ッ……)
2人は別々の方へ走り出した。
「はぁ…はぁ…」
「なつみちゃん、口封じするって言ったけど、そんなんじゃ無理だよ。ボク相手に」
京楽は、この景色を見て思う。
「随分懐かしい所に連れてきてくれたね。あの頃と比べると、上手に使えるようになったよ」
彼は手を添える。
「けど、ボクより弱い人を連れて、この技を使っちゃダメだよ。ただじゃ済まなくなる」
「はぁ…、はい。はぁ…」
なつみは早くあの場所から離れたかった。京楽があちらに近づかないように。斬魄刀を解放し、京楽の腰周りにタックルして、瞬間移動でここまで飛んできたのだ。技術開発局から遠く、行き方がわかっていて、誰もいないはずの場所。なつみは京楽といるせいで、一箇所しか思い浮かばなかった。初めて京楽の前で始解を見せて、ちょっとした暴走があったあの場所だ。
「キミが強くなったのもよくわかった。でも無茶しすぎだよ」
2人は屋根の上で、くっついて立っている。なつみの左腕は京楽の腰に、右手は斬魄刀が当たらないように身体から離していた。
1人で歩くと何も感じないのに、物を持って歩くと重く感じる。自分の体重の半分の物ですら、大抵の人は重くて持ち上げるのがやっとである。そして、上げられたとしても、それを急いで運ぶなど。ましてや自分よりはるかに大きく重いものでは、不可能である。しかし、なつみは無理をしてやってのけた。京楽にもたれて立っているのがやっとであるが、なんとか左腕に力を入れて、身体を離そうとする。
「今は、無茶しなきゃ、いけないんですよ」
よたよたと距離を取り、下げていた斬魄刀を持ち上げていく。
「なつみちゃん……」
京楽にまっすぐ切先が向けられた。視線も彼を真剣な眼差しで捉えていた。この現場に誰かが駆けつければ、なつみは罪人として取り押さえられるかもしれない。
なつみの唇が、音もなく何かを呟いた。
ふっと呼吸を整え、なつみはそこで急に斬魄刀を鞘に収めてしまった。それを見て京楽は驚き、彼女の行動を疑った。素手で京楽を倒すつもりだというのか。いや、そんなはずはない。なつみが今できる口封じ。彼女はちゃんと考えている。どんな方法かというと。
裾をさっと撫でて、その場に正座。両手を前に揃えて、頭を下げた。
「どうか、今日のところはぼくたちのこと、そっとしておいてください!お願いします!」
土下座である。
「お願いしますッ!」
京楽を倒すなど、ありはしない。敵ではないのだから、誠心誠意お願いすれば、必ず聞き入れてくれるはず。そう考えたのだ。力ではない。心だ。彼が、なつみの知っている彼であるならば、きっとうまくいくと。
「なつみちゃんっ、やめてよ!頭を上げて。わかったから。キミの本気は充分わかったから」
駆け寄った京楽も座り込み、正面からなつみの肩を掴んだ。辛そうな彼女の身体を起こしてやる。
「こんなになってまで頑張る程、やり遂げなきゃいけないことをしてるんだよね。ボクは邪魔したりしないよ。いつだってキミを信じてるんだから。そんなふうに頭下げないで。警戒しなくて良いんだよ」
そう言って、肩で息をするなつみを抱き寄せた。
「大丈夫?どう辛いの?」
「力使って、疲れてるだけですよ」
言葉が丸く響いた。
「そう。じゃあ、分けてあげるね」
脚を崩し、座り直した京楽の霊力がなつみの身体に注がれ始める。
「ボクね、ショックだったんだ」
なつみの頭がちょっと動いた。
「なつみちゃんが2人いるなんて、とんでもないことが起きているのに、ボクは何も知らなかった。なのに何でか海燕くんはこの件に関わってる。ほとんどキミのこと知らないはずなのに。あと、涅隊長も関わってるね。さっき持ってた蟲といい、あっちのなつみちゃんが向かった先は技術開発局だ。市丸隊長と話してるのも聞こえた。彼は、ボク同様に知らされてない側らしいね。この極秘任務を依頼した人は偉い人って。山じいのことでしょ。
蚊帳の外って感じで、悲しかった。何がどうして起きてるのか、知りたかったよ。どっちのなつみちゃんも本物みたいだし。大変そうだから、手伝えることがないか、確かめたかったんだ。でも、逆に迷惑をかけちゃったみたいだね。ごめん」
なつみは京楽の優しさに包まれながら、申し訳なさを感じていた。
「心配させてしまって、こちらこそすいませんでした」
「キミは悪くないよ。頼りないボクが悪いんだ。キミの助けになれなかった」
確かに今現在、この男は進行中の計画において邪魔な存在である。市丸も然り。事情をここで打ち明けられたら、どれだけ心が楽になるだろうか。しかし、言うわけにはいかない。なつみは京楽の背中に腕を回し、彼の胸に額を当てた。
「明日…。明日になれば、今日のことがわかると思います。他のことも。今日は、何も知らずに過ごしていただきたかったです。京楽隊長には、明日お願いしたいことがあるんですよ」
「何だい?」
なつみがチラッと視線を上げると2人の視線が交わったが、すぐ下に逸らした。
「内緒です///」
「もー。ホントに教えてくれないね」
「今日はです!今日は!」
京楽は諦めたようにため息をついた。
「明日、か…。まるでなつみちゃんは未来がわかるみたいだね」
ドキリとした。もしや、勘付かれているのか。ここはなんとか誤魔化さねば。
「そ、そんなわけないじゃないですか!未来がわかってたら、さっきみたいにパニクったりしませんよ!問題を起こすわけないじゃないですか!」
説明が丁寧すぎかと思われたが、京楽は1拍考えると納得した。
「それもそっか。そうだよね」
(ふ〜…)
「なつみちゃん、さっきより楽になったかい?」
回復具合を確認する。
「はい。だいぶ良くなりました。もう大丈夫ですよ」
また1拍の間。にっこりと微笑む。
「この嘘つきッ」
「あわッ///」
なつみを強く抱きしめ、再び力を渡していった。なつみはモゾモゾと抵抗する。
「大丈夫って言ったじゃないですか❗️」
「まだ足りてないんでしょ❗️お鼻がヒクッてしたもん❗️」
「してません‼️」
「したよ‼️」
「うぅぅ💦放してくださいぃ‼️」
明日の分を残してもらいたいのに、今日こんなにもらうわけにはいかないのだ。
「うぎゃぁーーーッ‼️」
がんばって押してもびくともしない。何か、解放してもらえる良い理由はないものか⁉︎
「はっ、恥ずかしいから、放してください‼️こんなところ見られたら、誤解されちゃいますっ‼️」
「させれば良いだろ、そんなの」
「⁉️///」
「第一、誰も見てないんだから、気にすることないよ」
なつみはズボッと下へ、なんとか強力な腕から抜け出し、後ろに仰け反って、建物の階下を指差した。
「そこ❗️市丸隊長がいます‼️」
「……。気のせいだよ」
口をツンと尖らせて、とぼける京楽。
「いますって‼️霊圧抑えててもわかりますって‼️」
「おらんよ〜」
「返事しちゃってんじゃないすか‼️‼️」
ということで、市丸も合流した。
「ボクのこと気にせんと、京楽さんとイチャイチャしとったらええのに」
「そうだろ?キミは話がわかるな」
なつみはムスッとしていた。右手は京楽に取られ、左手は市丸に取られ、間に座らされながら、2人の霊力を注入されている。
「もういらないですって!」
「遠慮しないの」
「せやで。隠し事せんと、もっと甘えてや、なつみちゃん」
「むぅ!」
とにかく、動けなかった。
「んー」市丸は、眩しそうに空を見上げた。「ここ、日に当たりすぎやない?暑いわ。焼けてまう」
市丸の白い肌には少し厳しい日差しだった。
「よし!じゃあ帰りましょう!」
「それはイヤ」
なつみが変顔で睨む顔の前を、京楽の手が横切る。
「これ被りなよ」
パサリと笠が市丸の頭に被せられた。
「わぁ」
「うわ〜」
「どう?」
市丸は片方の手で笠をちょっとだけ傾けた。
「おぉ、悪ないなぁ」
笠の効果を実感する市丸の姿を見て、なつみはくすくす笑っていた。
「ぷくくくっ、似合ってない(笑)」
「あぁ!失礼やで。でもそうやろな。ほんなら、キミが被っとき」
今度はなつみの頭に被せられた。
「うわっ」
彼女の両手は塞がっているため、市丸が前を見えるように調節してあげる。なつみは嬉しそうにぴょこぴょことした。
(あわ〜っ、京楽隊長の笠だぁ‼️被っちゃったぁ‼️)
「どう?なつみちゃん。涼しい?」
京楽が問いかけると、 なつみはきゅっと彼を見上げて微笑んだ。
「はいっ😊」
その眩しい答えに思わず心が眩む。
「かわいすぎるっ‼️このまま持って帰りたい‼️」
「あかんやろ」
「させませんよ」
「いーやッ❗️2人いるんだから、片っぽもらったって良いだろ‼️」
「‼️⁉️」
なんてことを言うんだと、なつみは京楽のことを疑った。市丸はそのことを知らないのに。慌ててフォローしようと、なつみは左を見た。
「そやけどあかんて。もうそろそろ十三番副隊長さんが迎えに来るんとちゃう?」
思わずパチクリと瞬きをする。何を言い出すだこの人はと。
「どしてご存知なんですか隊長」
「ん?あっちのなつみちゃんとおしゃべりして、十三番副隊長さんともおしゃべりしてきたで」
ガーンッ
「何たることッ⁉️」
頭を抱えたいところだが、ただ空を仰ぐのみ。
「大丈夫。ボクはキミの味方やで。うまくいくように協力してあげたんや」市丸はなつみのほっぺをぷにぷにした。「ボクらも呼び出されるかもしれへんな」
「❓」
ますますよくわからない。
するとそこに2羽の地獄蝶が飛んできた。
「ほら」
蝶たちは各隊長の前で止まった。
「京楽隊長、隊舎にお戻りください。先程の地震で棚がいくつも倒れてしまいました。資料の山が散乱して、大変なことになっています。とっとと片付けに帰ってきなさい‼️」
「市丸隊長、地震被害の復旧作業は振り分けを済ませました。大きな被害は無さそうなので、すぐに通常業務に戻れると思われます。隊首室には入れませんでしたので、そのままにしてあります。物が落下しているかもしれないので、早めに隊舎にお戻りください」
七緒とイヅルの声が再生された。
「なんか、扱いが💧」
「しょうがないですよ。逃げられて怒ってるんですよ」
「ウチの隊は優等生ばっかりで楽やわ」
震源が三番隊所属ですが。
伝達を終えた地獄蝶たちが飛び去ると、今度は人影が2つこちらに接近してきた。
「木之本ーッ‼︎‼︎無事かーッ⁉︎」
この声は。
「志波副隊長ぉーーーっ😭‼️」
海燕とマユリがなつみの救出に現れた。
「厄介なのと一緒にいるネ」
助っ人登場に、なつみは涙する。
「涅隊長ぉーーーっ😭‼️」
2人が現場に到着。
「京楽隊長、市丸隊長、木之本を保護していただき、ありがとうございました。俺らで引き継ぐんで、お2人は隊舎へお帰りください」
海燕がそう言って頭を下げる横で、マユリは例の計測機をなつみに向けていた。
「理由も言わず、隊長に向かって一方的に『帰れ』とは、無礼な男だネ」
「どっちの味方なんすか💧」
「なら、キミが説明してくれるっての?涅隊長」
(ケンカしないでよぉ…💧)
「私とてしないヨ。キミらは部外者だからネ。副隊長共に呼ばれたんだろ。だったら大人しく帰り給え」
(俺より無礼💧)
マユリは懐に計測機をしまった。海燕もなつみの無事を確かめようと、彼女の正面に片膝をついて座り、抱きしめた。
「んなッ⁉️💢」
「あれま」
自称恋人と兄の目の前で繰り広げられる。
「無茶すんなっつったろ、バカ」
「ごめんなさい」
「……」マユリに振り返る。「涅隊長、回復薬を」
海燕は手を差し伸べたが、マユリの表情が予期せぬものだった。
「そうか。私が持っているはずだったか」
「無いんすか⁉︎」
「済まないネ。邪魔者のせいで、予想外な事が起きたんだヨ。早くその子をうちへ連れて行く。運び給え」
「…、はい」
「急げ。時間が無いヨ」
しかし海燕は動かなかった。なつみにもその理由がわかっていた。なので、彼女が動いた。
「市丸隊長、京楽隊長、あとは涅隊長と志波副隊長にお任せください。大丈夫です。信じてください。悪いことはもう起きませんから」
すっと手を2人から放し、海燕のことも離した。なつみは笠を京楽に返してあげて、こう続けた。
「力を分けてくださって、ありがとうございました」
市丸の方に向く。
「隊長は何されたか知りませんけど、でも助けてくれたんですよね。ありがとうございました」
そして大きく息を吸って、一言。
「明日も良い日になりますっ‼️‼️」
にっこり。
ブワッと風が舞い上がったと思ったら、次の瞬間からもう心は方向転換していた。この子のために。
「了解。キミがそう言うなら、きっとそうさ。帰るとするよ」
京楽はなつみの頭を撫でて立ち上がる。
「せやね。なつみちゃんは何でもできる子やもんね。ボクも大人しく帰るわ」
市丸も立ち上がり、歩き出した。
京楽と市丸がマユリと並ぶ。
「君たちが思うようなことではないヨ。安心し給え」
そう言い残してマユリは、海燕となつみのもとへ進んだ。
2組は背を向けていた。背後で海燕が、なつみを抱えて立ち上がるのがわかった。それで何を思ったか、京楽はふと少しだけ振り返って、彼らが去るのを肩越しに見ようとした。
「⁉︎」
自分の目を疑い、しっかり見ようと身体をそちらへ向けたが、もう遅かった。3人の姿は消えてしまった。その焦りの表情に、市丸が気付いた。
「どないしたんですか」
「いや…。見間違いだと思う」
「何がです?」
京楽は口元に手をやる。
「なつみちゃんの足が、無かった……」