第六章
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無意識のうちに、瞼が降りていたらしい。人工の明かりがお日様の光に変わり、板張りの床を踏んでいた足を少しずらすと、ジャリと土や小石を踏む感覚が伝わってきた。
「マジかよ…、ドワッ💦」
「おっと」
海燕とマユリは後ろへ引っ張られた。なつみがベッドに倒れ込もうとしたためだ。しかしそこにはベッドが無いため、2人は慌てて彼女の腕を両手で掴みにいった。幸い、なつみの足は踵で都合よく地面を捉えていた。
「引きますよ。せーのっ」
組体操のVの字な体勢から、なつみは前に引き寄せられた。両足全体でピタリと立つと、前に突き出た腕をピッと上に挙げ、Y。
「いぇい🙌」
「何が、『いぇい』だよ」
ぱちくりと辺りを見渡すと。
「あのお店ですよ!ちゃんと来れたんですね😁」
「ああ。しかも、ご丁寧に藪の中だ」
小高くなったところの茂みで3人は佇んでいた。
「フーン…、4割ほど霊力を消耗したようだヨ」
マユリが、手に画面のついた機械を握り、それをなつみへ向けていた。
「ふぇ〜、何でわかるんですかぁ?」
「魔法だヨ」
「おぉ〜✨」
「絶対ぇ違ぇだろ」
「なつみ、あまり力を使おうとするんじゃないヨ」
機械を懐にしまう。
「え?たったの4割ですよ?身体で言うと、このくらいですよね」
太腿の高さに手で線をつくり、4割を示した。
「バーカ。帰りの分が必要だろうが」
「お!4+4!」
鎖骨辺りまで線が上がった。
「にっ⁉️」
「残りがな‼︎お前、そういうことすっから計算間違えんだぞ」
「うぅ💦」
10の中に、4+4でできた8と近くに2が現れたので、つられて4+4=2になってしまった。
「良いじゃないか。一足飛びに答えを言い当てただけだヨ」
(甘ぇな😓)
「厳密に言えば、余裕は2割よりも少ないネ。無茶は絶対にできないヨ。3人で帰れなくなってしまうからネ。やはり、2人連れるのは相当な負担のようだヨ。なつみ、これをお食べ」
またあの巾着を取り出す。そこから出てきたのは、紙に包まれた四角い。
「キャラメル?」
その一粒を受け取り、包みを開ける。くんくん。ぱく。
「お前さぁ、少しは疑えよ」
もぐもぐ。
「味無いですね〜」
「おい!無視かよ💢」
「ふふ〜ん」海燕を見上げる。「大丈夫ですよ。涅隊長は優しい方ですから、全部信じて良いんです」
「んっ…、そうか///」
なつみのキラキラスマイルが眩しかった。
「すまんネ。急いで作ったものだから、味付けまでできなかったんだヨ。我慢してくれ給え」
「はーい。およよ、なんだか力が湧いてきました。新しい顔が来たみたい。元気100倍、アンパンッ…、そういえば涅隊長て、声が」
「そんなことより、うまく効いているネ。それを噛んでいれば、霊力の回復を促進できるんだヨ」
「んふふ〜。とっても良いもの、ありがとうございますっ。味なら想像で何とかしますから、気になさらないでください」
「そうかネ」
頭をぽりぽり掻きながら、海燕は店へと視線を移した。そしてよく知る霊圧を察知した。
「来たぜ、お前と久原」
「ん!」「ほぉ」
「いらっしゃいませ」
「2人です」
「はい。窓際のお席へどうぞ」
「はーいっ」
「では、作戦を第二段階に移すヨ」
今度は別の巾着が出てきて、それを開けると蟲が、プ〜ン、シャカシャカ、と2匹出てきた。飛んでいった蟲は店の窓辺に、這って出た蟲は3人の足元に留まった。
「なんか、キモくね?💧」
「そうですか?」
なつみは技術開発局に行き慣れているせいで、その不自然さに気づけなくなっていた。
「これで店内の会話が聴けるヨ」
「何食べる?」
「俺はね〜」
足元の蟲からなつみとクーちゃんの声が聞こえてきた。
「すご!」
「いや、盗聴だろ💧」
そんな小さなことを気にする海燕は放っておいて、マユリはその場を離れることにする。
「私は先に行くヨ。問題が起きたら、志波が動け。良いネ?」
「了解です」
「またあとで、涅隊長😄」
手を振るなつみの頭を軽く撫でて、マユリは瞬歩で出発した。
「ここ大事っすよ」
「あぁ。いくら理屈を並べようと、未来から来たなんて、信じられねぇし。第一、自分がもう1人いるなんて、受け入れられねぇよな。普通」
マユリが向かった先は、技術開発局にいる昨日の自分。彼に協力を頼み、昨日のなつみを技術開発局へ招き、メタスタシアの話を聞かせる手伝いをさせるつもりだ。
「時間かけても、説得してもらわなきゃ」
「注文したな。頼むから、食い終わるまでに鳴ってくれよ」
「どこ行っちゃうか、わかんないですからね」
「あ…、誰だろ。お、涅隊長からだ。ちょっと外行ってくる。ごめんね」
((早っ‼️‼️))
食事が運ばれてくる前に、涅からなつみへ伝令神機に着信が来た。
「どんだけ〜😅」
「早すぎるだろ。順調すぎて心配になるぜ。強行突破してねぇーだろうな、あの人」
「涅隊長同士のケンカって、誰も止めれなさそうですよね」
「それこそ、世界の破滅を招くかもな」
なつみたちがいるのは店の裏側。店内にいたなつみは入り口へ行ったため、姿は見えない。
「やっぱりあっちのぼくは、ぼくと別人ですよ」
海燕と前後に並んで一本の木の影に隠れているなつみは、しみじみとそう言った。
「見ました?あの寝癖。頭の後ろでぴょんってハネてるの。ぼくはちゃんと、毎朝寝癖をぴちっと直してから出かけるんで、あんな風じゃないですよ。だらしないなぁ〜」
「……」
眼下にある後頭部を見下す。
「お前もハネてるぞ。ほれ」
ぴょんぴょんと、くるんと飛び出たアホ毛を指でいじってやる海燕。
「うそぉー!」
「ずーっとハネてたぞ。そうしてるもんだと思ってたが、違ったのか」
「うゅゅ😖」
自分の頭の後ろを何度も撫でつけて、アホ毛を収めようとするが、押しても押しても反発してはね上がる。
「諦めろよ(笑)」
「ヤです!ダサいです!だらしないです!」
念を込めてぎゅぅぅっと押し付ける。
「どや!」
充分に押し当ててから、パッと手を離す。
「お、直った」
「やった〜😚」
ぐぅぅぅぅ……、びよんッ⤴︎‼️‼️
「クッ、ククククク…」
手で口を覆い、押し殺す。
「もー!堪えるくらいなら、笑ってくださいよ!何で直んないのー😫」
お許しが出たので、遠慮なく。
「ハハハハハッ、こいつぁダメだ。頑固者だな」
ぷくーっと膨れっ面のなつみのクセっ毛を、後ろからおもしろがって撫でつけてやる。何度も何度も上から下に撫でても、その度に起き上がってくる。思わず微笑みが彼の顔に浮かび上がる。
「何してんの、こんなところで」
((‼️⁉️))
聞き慣れた声で第三者の予期せぬ問いかけが、2人の背後から発せられた。振り向く。
「物陰でイチャつくほど、仲良かったっけ💢」
生唾を飲み込んだ。
「…、京楽隊長」
まさかこんなところに現れるとは。
「なつみちゃんの気配がしたから来てみたら。キミたち一体何をしてるの。こそこそと怪しい。説明して、なつみちゃん!」
海燕の肩をドンと突いてから、なつみに詰め寄る京楽。
「あのっ、これはその💦」
目を細めて睨まれる。
「デート?😠」
「違います💦」
「じゃあ、何」
店に背を向け、一歩、京楽から後ずさったとき、蟲の声が小さく届いた。
「ごめーん。お待たせ〜」
(⁉️)
その瞬間。
「あ‼️あれ何ですか‼️⁉️」
なつみがズバッと、迫る京楽の肩の上を通り越して、空を指差した。
「え?」
京楽がそちらへ首を回した。刹那、なつみは抜刀できる間合いに移動。京楽の手が届かないうちに、テレポーテーションをした。
「しまった。逃げられた」
水平にぐるっと視線を走らせたが、姿を捉えられない。
「どこ行ったんだ」
顎がふと上に向かった。
「涅隊長、何だって?」
「なんかね、後で来て欲しいんだってさ」
その会話は聞き取れなかったが、本能的なつみちゃん察知レーダーが働き、店の窓にその2人がいるのを見た。
「あんなところに‼️はあッ…‼️‼️」
何かを悟って息を呑む。
「そういうことか」
取り残された海燕へバッと向き直り、彼越しに木を使って壁ドンを繰り出した。
ダンッ‼️
「久原くんとなつみちゃんをくっつけようっての…。え?💢」
「ヒィッ💦」
非常に珍しい、京楽の相手を脅す視線。それに当てられて、海燕は凍りついた。
「良いかい?キミはかわいい部下の恋を応援しようとしてるんだろうけど、それは無駄な行為だから。彼女はボクに惚れてるんだから、彼に勝ち目は無いよ。余計なことしないでくれるかな」
それからお説教というか、いかになつみと自分が両想いかを説いて聞かせた。
(どうすんだよ、この状況‼︎木之本ーッ‼︎‼︎)
その頃なつみは、木の上に逃げていた。
「危なかった〜」
真下では、海燕が京楽に怒られている。
「あわー、どうしよう。志波副隊長がピンチだ」
なつみがいるところは隣の木の枝と葉と重なり、下から見上げても、上の様子がよく見えなくなっている。
「何とかして、京楽隊長にどっか行ってもらわないと」
(うーん!)と頭を掻いて考えていると、向こうの方で女神を発見した。
「伊勢副隊長!」
どうやら逃亡中の京楽を探している雰囲気だ。しかし、声をかけて気づいてもらうには、だいぶ離れている。どうやって、彼女にこの場所を伝えるべきか。
「ちょっとそれちょうだいよ」
「良いよー」
なつみの肩から声がした。
「これだ!」
グッドアイデアをひらめいた。
盗聴の声を聞かれないようにと、こちらに上がってくる直前にスピーカーの蟲を拾っておいたのだ。これを使うという。
「マイクの子をこっちに向かわせて。できるかな」
肩から優しく掌に移し、蟲にそう頼んでみた。それは「うん」と頷いてみせた。
「ありがとう」
テレパシーのような聞こえない声で、蟲たちは意思を伝え、窓辺にいた蟲が木の上に飛んできた。
「あっちはご飯中だから、しばらく放っておいても大丈夫だよね。ムッちゃん」
「何だ」
呼ばれて、姿を現した。
「このスピーカーくんを、あそこにいる伊勢副隊長の近くに連れてってあげて」
「は⁉︎」
「おいしそうだからって、食べちゃダメだよ」
「食うか‼︎」
ムッちゃんにはそういう問題ではなかった。とりあえず嫌そうだが、主の命令では仕方がないと、渋々両腕でしっかりスピーカーくんを抱えてやった。
「言っとくが、私のサイズからすると、なかなかのビジュアルだからな」
ご立腹。
「文句言ってないで、早く行って!志波副隊長を助けなきゃ!」
「わかった」
能力を使わないようにと忠告されているため、自分で飛ばさず、ムッちゃんに頼んだ。その相棒は主のためと従ってくれた。
「そうだよね。ムッちゃんのサイズだと重いんだ」
バランスが取りにくいのか、ムッちゃんはぎこちなく進んでいった。
(気色悪い。何故私がこんなことを!)
「伊勢副隊長ぉー!」
「?」
抑えた強い声がどこからか聞こえてきた。
「この声は、木之本さん?」
道を歩いていた七緒は、辺りを見渡してなつみを探した。だがその姿は見当たらない。
「右の方です。木の上にいます。手を振ってます!」
指示に従い、そちらを向くと、動くものが視界に小さく入った。
「そこ⁉︎」
あんな遠くから声が届くなどありえないことだが、やっているのがなつみということで瞬時に納得した。
「能力を使っているのね。どうしたのかしら」
目と耳を凝らす七緒。自分の存在に気づいてもらえたと確認したなつみから、メッセージが届く。
「ぼくのすぐ真下に京楽隊長がいます!」
「何と!」
枝を掴んでいない方の空いた手で、なつみは下をガンガンに指した。それを見て、七緒はクッと頷き、サッと姿を消した。
「よし。通じたぞ。ありがとう、ムッちゃん。戻ってきて」
マイクくんに向かって、なつみはそう言った。また1羽の鳥がフラフラと飛んでいる。
「キミもありがとう。任務に戻り給え」
マユリの言葉遣いをマネしてみた。
「京楽隊長❗️そちらにいらっしゃるんですか⁉️」
七緒が到着したようだ。
「ゲッ、七緒ちゃん⁉️」
今やお説教ではなく、なつみがいかにかわいいかを聞かせていた京楽は、七緒の一声で我に返った。彼女から逃げているのを思い出したのだ。
「ヤバい」
ガシッ‼️
「⁉️」
京楽の身体は動かなかった。
「放せよ‼️」
「お断りします」
状況を把握した海燕が、ガッシリと京楽を掴んで放さない。そして声を張り上げる。
「伊勢ぇーッ‼️京楽隊長、こっちだァーッ‼️」
「なッ⁉️呼ぶなよ‼️」
クイと上げた眼鏡のレンズがキラリ。
「こちらにいらしたんですね」
シュルッ、クルルルルーッ、ギュッ
「あぁー😫💦」
華麗に参上した七緒は、慣れた手付きでロープを京楽の身体に巻き付け、手綱を握った。
「捕まえましたよ。観念なさい‼️」
「放して、七緒ちゃん‼️今、仕事してる場合じゃないんだ‼️ なつみちゃんと久原くんの邪魔しなきゃいけないんだよ‼️」
「黙らっしゃい‼️」
ロープをギュッと締める。
「ぎゅぇ💝」
「何、喜んでんすか💧」
京楽の身柄を引き渡す海燕。
「ご協力、感謝いたします」
「いや、構わねぇよ」
七緒は海燕に頭を下げてから、スッと視線を持ち上げた。それは会釈をしたように見えた。
「?」
海燕も上を見てみる。
「あ」
「では、私たちはこれで失礼致します。行きますよ、隊長‼️」
「わぁー、行きたくないよー‼️」
やはり京楽は連行されていった。予想通りだ。
静けさを取り戻した下界に降りてくるなつみ。
「よっと。ご無事ですか、志波副隊長」
「無事だァ❓」
慎重な足取りで木から降りようとするなつみを、海燕は彼女の両脇に手を添えて捕まえた。ふわりと着地。
「ありがとうございまーす」
「てめぇ、俺を置いて逃げんなよ」
「すいませんて」
先程と同じポジションで、張り込みを再開する。
「ぼくが戻ってきてたんですもん。京楽隊長に、ぼくが2人いるところ見られちゃ、まずいじゃないですか。逃げるっきゃないですよ」
「そうだがな…、一瞬生きた心地がしなかったぜ」
海燕はしっかりと木の影に身を隠していた。
「どうしたんですか?そこじゃ見えないんじゃ…」
「さっき叫んだとき、あいつらに見られた」
「そんな」
「すぐそこに小道がある。うちの隊の連中がたまに抜け道として使ってるんだ。だから、ここを俺が通りすがるのは不思議なことじゃねぇ。だが、居続けたら怪しまれちまう。店は、チビのお前が見張ってろ」
「む。チビって言わないでください。このデカ!」
「おう。俺たちゃ今、刑事(デカ)だな」
「ちょっと、くだらないことで、笑かさないでくださいよ!」
「まだ変なことは起きねぇと思うが、後で調整加えてやんねぇとな」
「はぁ…。あんなに組んだ計画なのに、もう誤差が出ちゃいましたね」
「そろそろ行こっか」
「うん」
「出るな」
「はい。表に周りましょう」
一方、八番隊舎へ向かう2人組。
「それにしても、どうしてボクがあそこにいるのわかったの?」
七緒はロープを肩に担いで、進行方向とは逆を向いている京楽を引きずって歩いていた。
「木の上に避難していた木之本さんが教えてくれました」
「え…?」
「相当嫌がられていたようですね」
「待ってよ。なつみちゃんは店の中にいたんだよ。そんなはず…」
疑問に思った京楽は、目を閉じて集中した。
(どういうことだ)
何かを見た京楽が導き出した答えは信じ難いもの。
(嘘だろ……?)
「マジかよ…、ドワッ💦」
「おっと」
海燕とマユリは後ろへ引っ張られた。なつみがベッドに倒れ込もうとしたためだ。しかしそこにはベッドが無いため、2人は慌てて彼女の腕を両手で掴みにいった。幸い、なつみの足は踵で都合よく地面を捉えていた。
「引きますよ。せーのっ」
組体操のVの字な体勢から、なつみは前に引き寄せられた。両足全体でピタリと立つと、前に突き出た腕をピッと上に挙げ、Y。
「いぇい🙌」
「何が、『いぇい』だよ」
ぱちくりと辺りを見渡すと。
「あのお店ですよ!ちゃんと来れたんですね😁」
「ああ。しかも、ご丁寧に藪の中だ」
小高くなったところの茂みで3人は佇んでいた。
「フーン…、4割ほど霊力を消耗したようだヨ」
マユリが、手に画面のついた機械を握り、それをなつみへ向けていた。
「ふぇ〜、何でわかるんですかぁ?」
「魔法だヨ」
「おぉ〜✨」
「絶対ぇ違ぇだろ」
「なつみ、あまり力を使おうとするんじゃないヨ」
機械を懐にしまう。
「え?たったの4割ですよ?身体で言うと、このくらいですよね」
太腿の高さに手で線をつくり、4割を示した。
「バーカ。帰りの分が必要だろうが」
「お!4+4!」
鎖骨辺りまで線が上がった。
「にっ⁉️」
「残りがな‼︎お前、そういうことすっから計算間違えんだぞ」
「うぅ💦」
10の中に、4+4でできた8と近くに2が現れたので、つられて4+4=2になってしまった。
「良いじゃないか。一足飛びに答えを言い当てただけだヨ」
(甘ぇな😓)
「厳密に言えば、余裕は2割よりも少ないネ。無茶は絶対にできないヨ。3人で帰れなくなってしまうからネ。やはり、2人連れるのは相当な負担のようだヨ。なつみ、これをお食べ」
またあの巾着を取り出す。そこから出てきたのは、紙に包まれた四角い。
「キャラメル?」
その一粒を受け取り、包みを開ける。くんくん。ぱく。
「お前さぁ、少しは疑えよ」
もぐもぐ。
「味無いですね〜」
「おい!無視かよ💢」
「ふふ〜ん」海燕を見上げる。「大丈夫ですよ。涅隊長は優しい方ですから、全部信じて良いんです」
「んっ…、そうか///」
なつみのキラキラスマイルが眩しかった。
「すまんネ。急いで作ったものだから、味付けまでできなかったんだヨ。我慢してくれ給え」
「はーい。およよ、なんだか力が湧いてきました。新しい顔が来たみたい。元気100倍、アンパンッ…、そういえば涅隊長て、声が」
「そんなことより、うまく効いているネ。それを噛んでいれば、霊力の回復を促進できるんだヨ」
「んふふ〜。とっても良いもの、ありがとうございますっ。味なら想像で何とかしますから、気になさらないでください」
「そうかネ」
頭をぽりぽり掻きながら、海燕は店へと視線を移した。そしてよく知る霊圧を察知した。
「来たぜ、お前と久原」
「ん!」「ほぉ」
「いらっしゃいませ」
「2人です」
「はい。窓際のお席へどうぞ」
「はーいっ」
「では、作戦を第二段階に移すヨ」
今度は別の巾着が出てきて、それを開けると蟲が、プ〜ン、シャカシャカ、と2匹出てきた。飛んでいった蟲は店の窓辺に、這って出た蟲は3人の足元に留まった。
「なんか、キモくね?💧」
「そうですか?」
なつみは技術開発局に行き慣れているせいで、その不自然さに気づけなくなっていた。
「これで店内の会話が聴けるヨ」
「何食べる?」
「俺はね〜」
足元の蟲からなつみとクーちゃんの声が聞こえてきた。
「すご!」
「いや、盗聴だろ💧」
そんな小さなことを気にする海燕は放っておいて、マユリはその場を離れることにする。
「私は先に行くヨ。問題が起きたら、志波が動け。良いネ?」
「了解です」
「またあとで、涅隊長😄」
手を振るなつみの頭を軽く撫でて、マユリは瞬歩で出発した。
「ここ大事っすよ」
「あぁ。いくら理屈を並べようと、未来から来たなんて、信じられねぇし。第一、自分がもう1人いるなんて、受け入れられねぇよな。普通」
マユリが向かった先は、技術開発局にいる昨日の自分。彼に協力を頼み、昨日のなつみを技術開発局へ招き、メタスタシアの話を聞かせる手伝いをさせるつもりだ。
「時間かけても、説得してもらわなきゃ」
「注文したな。頼むから、食い終わるまでに鳴ってくれよ」
「どこ行っちゃうか、わかんないですからね」
「あ…、誰だろ。お、涅隊長からだ。ちょっと外行ってくる。ごめんね」
((早っ‼️‼️))
食事が運ばれてくる前に、涅からなつみへ伝令神機に着信が来た。
「どんだけ〜😅」
「早すぎるだろ。順調すぎて心配になるぜ。強行突破してねぇーだろうな、あの人」
「涅隊長同士のケンカって、誰も止めれなさそうですよね」
「それこそ、世界の破滅を招くかもな」
なつみたちがいるのは店の裏側。店内にいたなつみは入り口へ行ったため、姿は見えない。
「やっぱりあっちのぼくは、ぼくと別人ですよ」
海燕と前後に並んで一本の木の影に隠れているなつみは、しみじみとそう言った。
「見ました?あの寝癖。頭の後ろでぴょんってハネてるの。ぼくはちゃんと、毎朝寝癖をぴちっと直してから出かけるんで、あんな風じゃないですよ。だらしないなぁ〜」
「……」
眼下にある後頭部を見下す。
「お前もハネてるぞ。ほれ」
ぴょんぴょんと、くるんと飛び出たアホ毛を指でいじってやる海燕。
「うそぉー!」
「ずーっとハネてたぞ。そうしてるもんだと思ってたが、違ったのか」
「うゅゅ😖」
自分の頭の後ろを何度も撫でつけて、アホ毛を収めようとするが、押しても押しても反発してはね上がる。
「諦めろよ(笑)」
「ヤです!ダサいです!だらしないです!」
念を込めてぎゅぅぅっと押し付ける。
「どや!」
充分に押し当ててから、パッと手を離す。
「お、直った」
「やった〜😚」
ぐぅぅぅぅ……、びよんッ⤴︎‼️‼️
「クッ、ククククク…」
手で口を覆い、押し殺す。
「もー!堪えるくらいなら、笑ってくださいよ!何で直んないのー😫」
お許しが出たので、遠慮なく。
「ハハハハハッ、こいつぁダメだ。頑固者だな」
ぷくーっと膨れっ面のなつみのクセっ毛を、後ろからおもしろがって撫でつけてやる。何度も何度も上から下に撫でても、その度に起き上がってくる。思わず微笑みが彼の顔に浮かび上がる。
「何してんの、こんなところで」
((‼️⁉️))
聞き慣れた声で第三者の予期せぬ問いかけが、2人の背後から発せられた。振り向く。
「物陰でイチャつくほど、仲良かったっけ💢」
生唾を飲み込んだ。
「…、京楽隊長」
まさかこんなところに現れるとは。
「なつみちゃんの気配がしたから来てみたら。キミたち一体何をしてるの。こそこそと怪しい。説明して、なつみちゃん!」
海燕の肩をドンと突いてから、なつみに詰め寄る京楽。
「あのっ、これはその💦」
目を細めて睨まれる。
「デート?😠」
「違います💦」
「じゃあ、何」
店に背を向け、一歩、京楽から後ずさったとき、蟲の声が小さく届いた。
「ごめーん。お待たせ〜」
(⁉️)
その瞬間。
「あ‼️あれ何ですか‼️⁉️」
なつみがズバッと、迫る京楽の肩の上を通り越して、空を指差した。
「え?」
京楽がそちらへ首を回した。刹那、なつみは抜刀できる間合いに移動。京楽の手が届かないうちに、テレポーテーションをした。
「しまった。逃げられた」
水平にぐるっと視線を走らせたが、姿を捉えられない。
「どこ行ったんだ」
顎がふと上に向かった。
「涅隊長、何だって?」
「なんかね、後で来て欲しいんだってさ」
その会話は聞き取れなかったが、本能的なつみちゃん察知レーダーが働き、店の窓にその2人がいるのを見た。
「あんなところに‼️はあッ…‼️‼️」
何かを悟って息を呑む。
「そういうことか」
取り残された海燕へバッと向き直り、彼越しに木を使って壁ドンを繰り出した。
ダンッ‼️
「久原くんとなつみちゃんをくっつけようっての…。え?💢」
「ヒィッ💦」
非常に珍しい、京楽の相手を脅す視線。それに当てられて、海燕は凍りついた。
「良いかい?キミはかわいい部下の恋を応援しようとしてるんだろうけど、それは無駄な行為だから。彼女はボクに惚れてるんだから、彼に勝ち目は無いよ。余計なことしないでくれるかな」
それからお説教というか、いかになつみと自分が両想いかを説いて聞かせた。
(どうすんだよ、この状況‼︎木之本ーッ‼︎‼︎)
その頃なつみは、木の上に逃げていた。
「危なかった〜」
真下では、海燕が京楽に怒られている。
「あわー、どうしよう。志波副隊長がピンチだ」
なつみがいるところは隣の木の枝と葉と重なり、下から見上げても、上の様子がよく見えなくなっている。
「何とかして、京楽隊長にどっか行ってもらわないと」
(うーん!)と頭を掻いて考えていると、向こうの方で女神を発見した。
「伊勢副隊長!」
どうやら逃亡中の京楽を探している雰囲気だ。しかし、声をかけて気づいてもらうには、だいぶ離れている。どうやって、彼女にこの場所を伝えるべきか。
「ちょっとそれちょうだいよ」
「良いよー」
なつみの肩から声がした。
「これだ!」
グッドアイデアをひらめいた。
盗聴の声を聞かれないようにと、こちらに上がってくる直前にスピーカーの蟲を拾っておいたのだ。これを使うという。
「マイクの子をこっちに向かわせて。できるかな」
肩から優しく掌に移し、蟲にそう頼んでみた。それは「うん」と頷いてみせた。
「ありがとう」
テレパシーのような聞こえない声で、蟲たちは意思を伝え、窓辺にいた蟲が木の上に飛んできた。
「あっちはご飯中だから、しばらく放っておいても大丈夫だよね。ムッちゃん」
「何だ」
呼ばれて、姿を現した。
「このスピーカーくんを、あそこにいる伊勢副隊長の近くに連れてってあげて」
「は⁉︎」
「おいしそうだからって、食べちゃダメだよ」
「食うか‼︎」
ムッちゃんにはそういう問題ではなかった。とりあえず嫌そうだが、主の命令では仕方がないと、渋々両腕でしっかりスピーカーくんを抱えてやった。
「言っとくが、私のサイズからすると、なかなかのビジュアルだからな」
ご立腹。
「文句言ってないで、早く行って!志波副隊長を助けなきゃ!」
「わかった」
能力を使わないようにと忠告されているため、自分で飛ばさず、ムッちゃんに頼んだ。その相棒は主のためと従ってくれた。
「そうだよね。ムッちゃんのサイズだと重いんだ」
バランスが取りにくいのか、ムッちゃんはぎこちなく進んでいった。
(気色悪い。何故私がこんなことを!)
「伊勢副隊長ぉー!」
「?」
抑えた強い声がどこからか聞こえてきた。
「この声は、木之本さん?」
道を歩いていた七緒は、辺りを見渡してなつみを探した。だがその姿は見当たらない。
「右の方です。木の上にいます。手を振ってます!」
指示に従い、そちらを向くと、動くものが視界に小さく入った。
「そこ⁉︎」
あんな遠くから声が届くなどありえないことだが、やっているのがなつみということで瞬時に納得した。
「能力を使っているのね。どうしたのかしら」
目と耳を凝らす七緒。自分の存在に気づいてもらえたと確認したなつみから、メッセージが届く。
「ぼくのすぐ真下に京楽隊長がいます!」
「何と!」
枝を掴んでいない方の空いた手で、なつみは下をガンガンに指した。それを見て、七緒はクッと頷き、サッと姿を消した。
「よし。通じたぞ。ありがとう、ムッちゃん。戻ってきて」
マイクくんに向かって、なつみはそう言った。また1羽の鳥がフラフラと飛んでいる。
「キミもありがとう。任務に戻り給え」
マユリの言葉遣いをマネしてみた。
「京楽隊長❗️そちらにいらっしゃるんですか⁉️」
七緒が到着したようだ。
「ゲッ、七緒ちゃん⁉️」
今やお説教ではなく、なつみがいかにかわいいかを聞かせていた京楽は、七緒の一声で我に返った。彼女から逃げているのを思い出したのだ。
「ヤバい」
ガシッ‼️
「⁉️」
京楽の身体は動かなかった。
「放せよ‼️」
「お断りします」
状況を把握した海燕が、ガッシリと京楽を掴んで放さない。そして声を張り上げる。
「伊勢ぇーッ‼️京楽隊長、こっちだァーッ‼️」
「なッ⁉️呼ぶなよ‼️」
クイと上げた眼鏡のレンズがキラリ。
「こちらにいらしたんですね」
シュルッ、クルルルルーッ、ギュッ
「あぁー😫💦」
華麗に参上した七緒は、慣れた手付きでロープを京楽の身体に巻き付け、手綱を握った。
「捕まえましたよ。観念なさい‼️」
「放して、七緒ちゃん‼️今、仕事してる場合じゃないんだ‼️ なつみちゃんと久原くんの邪魔しなきゃいけないんだよ‼️」
「黙らっしゃい‼️」
ロープをギュッと締める。
「ぎゅぇ💝」
「何、喜んでんすか💧」
京楽の身柄を引き渡す海燕。
「ご協力、感謝いたします」
「いや、構わねぇよ」
七緒は海燕に頭を下げてから、スッと視線を持ち上げた。それは会釈をしたように見えた。
「?」
海燕も上を見てみる。
「あ」
「では、私たちはこれで失礼致します。行きますよ、隊長‼️」
「わぁー、行きたくないよー‼️」
やはり京楽は連行されていった。予想通りだ。
静けさを取り戻した下界に降りてくるなつみ。
「よっと。ご無事ですか、志波副隊長」
「無事だァ❓」
慎重な足取りで木から降りようとするなつみを、海燕は彼女の両脇に手を添えて捕まえた。ふわりと着地。
「ありがとうございまーす」
「てめぇ、俺を置いて逃げんなよ」
「すいませんて」
先程と同じポジションで、張り込みを再開する。
「ぼくが戻ってきてたんですもん。京楽隊長に、ぼくが2人いるところ見られちゃ、まずいじゃないですか。逃げるっきゃないですよ」
「そうだがな…、一瞬生きた心地がしなかったぜ」
海燕はしっかりと木の影に身を隠していた。
「どうしたんですか?そこじゃ見えないんじゃ…」
「さっき叫んだとき、あいつらに見られた」
「そんな」
「すぐそこに小道がある。うちの隊の連中がたまに抜け道として使ってるんだ。だから、ここを俺が通りすがるのは不思議なことじゃねぇ。だが、居続けたら怪しまれちまう。店は、チビのお前が見張ってろ」
「む。チビって言わないでください。このデカ!」
「おう。俺たちゃ今、刑事(デカ)だな」
「ちょっと、くだらないことで、笑かさないでくださいよ!」
「まだ変なことは起きねぇと思うが、後で調整加えてやんねぇとな」
「はぁ…。あんなに組んだ計画なのに、もう誤差が出ちゃいましたね」
「そろそろ行こっか」
「うん」
「出るな」
「はい。表に周りましょう」
一方、八番隊舎へ向かう2人組。
「それにしても、どうしてボクがあそこにいるのわかったの?」
七緒はロープを肩に担いで、進行方向とは逆を向いている京楽を引きずって歩いていた。
「木の上に避難していた木之本さんが教えてくれました」
「え…?」
「相当嫌がられていたようですね」
「待ってよ。なつみちゃんは店の中にいたんだよ。そんなはず…」
疑問に思った京楽は、目を閉じて集中した。
(どういうことだ)
何かを見た京楽が導き出した答えは信じ難いもの。
(嘘だろ……?)