第六章
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戻ってきたなつみには、ひとつ問題があった。
「んー☹️」
「どうしたの?」
隊長らを拘束し続けるのはよろしくないということで、プランが立った時点で隊首会は解散していた。今、秘密の病室に残っているサポーター陣は、京楽、市丸、藍染、元柳斎、雀部、浮竹、そしてもちろん海燕である。卯ノ花は患者の見回りに行っていた。
「ぼく今日いっぱい寝たので、眠くないですよ。寝ないと飛べないのに」
「どうするとええかな」
「疲れれば寝ますけど、行く前に疲れちゃダメですよね」
「本でも読むか?」
雀部がそんなこともあろうかと用意していたのか、1冊の小説をさっと出した。
「シャーロックホームズじゃないですか!」
「読みたがっていただろう?」
「ブルーカーバンクル‼︎あの…、面白くて逆に目が冴えるんすけど」
「そ、そうか。すまん💧」
そこに一見手ぶらなマユリが入室してきた。
「涅隊長、おかえりー。何か取りに行ったんじゃなかったの?」
「ああ、持ってきたヨ。なつみ、おいで。これを飲みなさい」
「🙂❓」
とことことマユリのところに近づいて、袖から取り出された巾着の中身に注目。液体の入った小瓶が出てきた。
「寝つきが良くなる魔法の薬だヨ」
「ほぉ〜✨魔法(マッホゥ)✨」
不思議の国に置いてありそうなDrink Meに跳びつく。
「ちょうど困ってたところなんですよ!寝れそうになくて!ありがとうございまぁーすっ!」
部屋の明かりに薬を透かしてみる。
「それからネ、お守りも持ってきてあげたヨ。時間旅行の無事を祈って、身につけてくれ給え」
「わぁー✨至れり尽くせりですね!」
怪しく膨らんだお守りを、なつみの首にかけてあげたマユリ。
「失くすんじゃないヨ」
「はーい✋」
と、そんな風に信じるのはなつみだけ。周り全員は気づいている。
(絶対計測しようとしているな……)
「涅」
元柳斎がマユリを呼び寄せた。
「測るのはかまわんが、あの子の力を自分のものにしようと思うな。良いな」
「…、覚えておきましょう」
小瓶の蓋を開けて、なつみはくんくん匂いを確認する。
「そんな変なの飲んで大丈夫?」
「変じゃないですよ。イチゴっぽい匂いがします。おいしいかもです」
くぴっと迷いなく飲み干した。
「んー、ちょっと苦いですね。良薬口に苦しってヤツですよ」
「即効性はさすがに無いヨ。眠りやすい環境は作った方が良いネ」
「そうなんですね」
ふーんと悩むなつみ。
「眠りには、体温の低下が必要なんですよ。そうなると、日番谷隊長がいないのが残念ですよね」
「何をしたら眠たくなるか、心当たりは無いのかな」
「いつもは明るい時間は動き回ってて、夜は自然と疲れて寝てるんです。読書は楽しくて起きちゃうし、クラシック音楽は音を追いたくなりますし。眠くなることか…」
例えば昨日の夜を思い出す。
「あ!」
と何かイメージが頭の上に浮かんだが、すぐに恥ずかしそうにパタパタ消してしまった。
「なになに!今何か頭の上に出てたでしょ」
「うぅう、きかないでください💦」
「木之本くん、些細なことでもそれが答えになり得るなら、簡単に切り捨てちゃいけないよ」
それでも、真っ赤になった顔を手で覆って、フリフリ体を揺すっていた。
「あ❗️なつみちゃん、エッ」
言いかけた市丸の口を押し倒して押さえ込むなつみの陰が、一瞬皆の視界に入り込んで沈んだ。
「んーんっ😡‼️」
なつみは全否定する。が、一応ちょっと手を離して確認してみることにする。彼女の勘違いだといけないので。
「チしたら」モゴモゴモゴ
勘違いではなかった。塞いでおきましょう。
(もーっ、何でわかっちゃうの⁉︎///)
床に倒した市丸の上に馬乗りになっていたなつみは、見られないように市丸の胸に顔を埋めた。その力無い手を口から離す悪い人。
「なつみちゃん、襲う相手、間違えてるで」
「そうだよ」
もっと悪い人現る。
ひょいとなつみを抱え上げた。
「じゃあ、ボクのお部屋に行こうか」
「や‼︎行きませんったらー‼︎💦」
京楽に抱えられるなつみは頑張って暴れた。
「左様。お前の部屋で寝かせてどうする💢」
「え、ここでやれって言うの⁉️それはちょっと…😚」
「場所は問題じゃないだろ!」
「浮竹たいちょぉ、たすけてください」
「浮竹とするの⁉︎ダメだよ!」
「相手の問題でもないだろ‼︎」
「それなら、これを使うかネ?」
「「「?」」」
マユリが徐に懐から取り出したのは、玉のようなくびれが連なった棒状のもの。柄の近くには突起がある。スイッチオン。
グニョグニョ ブイーン
「「「‼︎⁉︎」」」
激しく曲がりくねる棒、激しく振動する突起に目を奪われる。
「ひぃッ😱」
「何でそんなもん持ち歩いてるんだよ‼︎‼︎」
驚きで思わずなつみを解放する京楽。
「念のため」
「いや、答えになってないって‼︎‼︎」
「1人でならしたいということじゃあないのかネ」
「「違うだろ‼︎‼︎」」
「日番谷隊長が帰ってて良かったよ」
なつみは急いで安全地帯へ避難した。
「先生、あれ何ですか😣」
「私にきかないでくれ💧」
とりあえず、彼女の目を覆っておく。
「そんなもの使ったら、眠るどころか、気絶してしまうよ」
藍染がそう抗議して、棒を奪い、スイッチを切った。
「これはこっちに置いていってもらう。木之本くんにこんなもの、近づかせないでくれ」
「君はその子の何を知っているんだネ」
ふとその瞳に影が降りてきたとき、部屋の戸が開かれた。
「随分と大きな声で話されていましたが、眠る準備をするのではありませんでしたか?」
「卯ノ花隊長ぉー!」
ぱたぱたとなつみは卯ノ花のもとへ駆けて行った。
「助けてください!ぼく、いじめられてます!」
「あら…」
「そんなことないだろ?ボクは、なつみちゃんを優しく寝かしつけてあげようとしただけじゃないか」
「むぅっ!(大事なミッションの前に!何考えてんの、京楽隊長!もっとぼくとのこと大切にしてくださいよ!)」
ぷいっと京楽から視線を逸らした。
「困っているだろうと思い、あなたのために良いものを持ってきましたよ」
「え!何ですか、何ですか?」
さすが頼れる卯ノ花隊長様!と喜んだなつみの目の前に差し出される良いもの。
「どうぞ」
「ゲッ‼️😱💦」
計算ドリル…。
「計算の問題集?これが良いもの?目が冴えちゃいそうだけど」
なつみフリークといえど、京楽にはピンとこなかった。
「うわぁ…、卯ノ花さんわかってはるわ」
「どゆこと?」
「なつみちゃんは、数字がごっつ苦手なんです。『1,2,3,4いっぱいです』て言うた日は驚いたわ。もうちょっと頑張って数えて?て(笑)」
卯ノ花はベッドの上に机を用意し、天板をぽんぽんと叩いた。
「やりなさい」
「やっぱりぼくはいじめられてます」
「あなたのためです」
ため息をつきながらも、なつみは卯ノ花の言うことに従った。ベッドに上がり、鉛筆を握って机に向かう。卯ノ花はドリルをペラペラとめくり、適当な問題を探した。
「簡単すぎるものは、やめておきましょうね」
「うぅー🥺」
半べそで、開かれたページと向き合う。
「3桁⁉️小数⁉️四則全部⁉️計算器くださーい‼️✋」
「暗算とは言いませんよ。筆算の問題ですから、あなたにもできるはずです」
まるで宿題に取り組む小学生と、それを見守る保護者の図。ここでは、小学生1人に対して、保護者が9人なのだが。
「涅隊長、忘れ物はありませんか?」
「ひとつ没収されてしまったが、支障は無いネ。万端整っているヨ」
「志波副隊長も、準備はよろしいですか?」
「はい。行けます」
卯ノ花が最終確認をすると、お供の2人は、ベッドを挟んで位置に着いた。なつみの右側にマユリ、左側に海燕が立つ。
「くぅぅ〜(泣)」
間でなつみが唸っていた。
1つの数字を書き足すのに、体感では5秒ずつかかっていそうなスローペース。周りではコソコソと大人たちの会話がなされた。
「ほんとに計算苦手なんだね。書類作業するときは、こんなに大変そうじゃなかったと思うんだけど」
「自力やと絶対間違うから、計算するときは必ず計算器使いなさいて言うてあるんです」
「回道では精度を上げるために、各部位の機能と質量の測定や、回復の速さを計算して予測することがあります。学んでいく際に必要となる知識なのですが、この子は数字嫌いのせいで、ほとんど目分量でこなそうとしてしまいます。なんとか改善しようと、この問題集をやらせるのですが、ご覧の通り。今まで大きな失敗をしてこなかったのは、この子の運と観察力のおかげでしょうね」
「お世話おかけして、すいません」
お兄ちゃんは少し申し訳なさそうだったが、その妹は自分の苦手を公表され、出来の悪さを晒され、居た堪れないことこの上なかった。
「ぼくの嫌いな5+7だぁ。えーっと、7から5無いと2だから、12だ。5+8と似てるからヤダ!6+7も嫌い。あの辺嫌い」
わからない訳ではない。遠回りをしてしまうのだ。遠回りが故に、寄り道し、ミスが生まれてしまう。
「んーと、かけ算だから、小数点は1コ2コ3コで、ここだ」
(それは良いけど、3×6が24になってるよ〜😅)
(53を8で割り切ろうとするとは、大胆だネ)
(コイツ、ヤベェ…💧)
なつみが1問解く毎に、周囲は内心一喜一憂していた。彼女の気が散ってしまうといけないので、口出ししないようにしていたが、よく見ると、何度眉間に皺がピクッと寄ったことか。1問毎にハッとするということは、つまり。
(全問不正解…。逆にお見事)
(器用にやりおる)
しかし、今回は計算で正しい答えを求めることが目標ではないため、「全然できてねぇじゃねーか‼️」と叱っても仕方がない。ここはグッと堪えねば。今回の目的はそう。
(これで眠る、のか?)
睡眠導入には刺激が強すぎるように見える作業。正にその通りで、なつみの頭から煙が出そうなほど、脳はフル回転していた。すごく注目されながらの苦手な計算。プレッシャーにも押しつぶされ、正解など導き出せる訳もなく。ついになつみはキレた。
「もーッ‼️🔥わかってんすよ❗️全部間違ってんの❗️どこで間違ってるかわかんないけど❗️残念な空気が充満してんだもん‼️こんな見られて、できるわけないじゃないすか‼️だいたい、2桁の足し算だって」くてん「すーすー💤」
((((((((寝たーーーッ⁉️))))))))
なつみは言葉を終える前に、首から力が抜けてオフモードになった。
「これは…、計算に悩まされ、上昇した脳の熱を冷却するためと、計算への拒否反応からなる現実逃避が睡眠を誘発したようだヨ」
「分析してやるな。可哀想に💧」
「起きて、なつみちゃん!昨日に戻るて考えな!」
肩を揺すられ、なつみはボケーっと薄っすら目を覚ました。
「むにゃむにゃ…。そうなんですよ…、昨日ですよ…」
鉛筆をころりと置いて、両手を宙に上げた。
「いきますよぉ…」
「おお!💦」
「いよいよだネ」
海燕とマユリはパシリとなつみの手を取った。
計算から解放され、安心したなつみはふわふわと眠りに落ちていく。
(昨日のお昼、あのお店…)
(戻る。昨日に戻る!)
(どこへなりと連れていき給え、なつみ)
それぞれの祈りがなつみを後ろへ押していく。後方へ身体が倒れていく中、かの鳥の声が響いた。
「飛ぶぞ」
なつみがドサッとベッドに倒れるはずだったが、その身体はマユリと海燕と共にパッと消えてしまった。
「消えた……」
「信じていなかった訳じゃないが、本当だったんだな」
「あとは、3人がうまくやることを祈るのみじゃ」
「大丈夫ですよ。頼もしい方達ですから」
「いってらっしゃい、なつみちゃん。ここから応援してるよ」
「心配させんうちに、早よ帰ってきてや」
「頼んだぞ、みんな……」
海燕と明日を迎えられるようにと祈る浮竹は、ひとつ、ある事に気づいた。
「おい。これ、見ろよ」
「あ…」
キレる直前に取り組んでいた問題の解答。
「フフッ、最後だけ合うてるやん」
「まぁ」
「良い兆しじゃないか?」
卯ノ花が赤ペンを取り出して、その答えにすっと丸をつけてやった。
「終わり良ければ全て良し、じゃな。…、ちと甘すぎかの」
「これがなつみのやり方なので、仕方ありませんよ」
「失敗は、通過点にすぎないということですね」
「そーそー!なつみちゃんのやることは、全部、みんなの幸せに繋がってるんだよ。どんなことがあっても、帰ってきたら、うんと褒めてあげようよ!」
「木之本だけか?海燕も涅もいるんだぞ」
「せや!みんな向こうで頑張ってるで。ちゃんと時間流れてるし、ちゃんと全部覚えてるから、今んとこうまくいってる証拠ですよね?」
「そのはずです」
「無事に帰れるよう、迎える支度でもしようかの」
コンコンコン……
「んー☹️」
「どうしたの?」
隊長らを拘束し続けるのはよろしくないということで、プランが立った時点で隊首会は解散していた。今、秘密の病室に残っているサポーター陣は、京楽、市丸、藍染、元柳斎、雀部、浮竹、そしてもちろん海燕である。卯ノ花は患者の見回りに行っていた。
「ぼく今日いっぱい寝たので、眠くないですよ。寝ないと飛べないのに」
「どうするとええかな」
「疲れれば寝ますけど、行く前に疲れちゃダメですよね」
「本でも読むか?」
雀部がそんなこともあろうかと用意していたのか、1冊の小説をさっと出した。
「シャーロックホームズじゃないですか!」
「読みたがっていただろう?」
「ブルーカーバンクル‼︎あの…、面白くて逆に目が冴えるんすけど」
「そ、そうか。すまん💧」
そこに一見手ぶらなマユリが入室してきた。
「涅隊長、おかえりー。何か取りに行ったんじゃなかったの?」
「ああ、持ってきたヨ。なつみ、おいで。これを飲みなさい」
「🙂❓」
とことことマユリのところに近づいて、袖から取り出された巾着の中身に注目。液体の入った小瓶が出てきた。
「寝つきが良くなる魔法の薬だヨ」
「ほぉ〜✨魔法(マッホゥ)✨」
不思議の国に置いてありそうなDrink Meに跳びつく。
「ちょうど困ってたところなんですよ!寝れそうになくて!ありがとうございまぁーすっ!」
部屋の明かりに薬を透かしてみる。
「それからネ、お守りも持ってきてあげたヨ。時間旅行の無事を祈って、身につけてくれ給え」
「わぁー✨至れり尽くせりですね!」
怪しく膨らんだお守りを、なつみの首にかけてあげたマユリ。
「失くすんじゃないヨ」
「はーい✋」
と、そんな風に信じるのはなつみだけ。周り全員は気づいている。
(絶対計測しようとしているな……)
「涅」
元柳斎がマユリを呼び寄せた。
「測るのはかまわんが、あの子の力を自分のものにしようと思うな。良いな」
「…、覚えておきましょう」
小瓶の蓋を開けて、なつみはくんくん匂いを確認する。
「そんな変なの飲んで大丈夫?」
「変じゃないですよ。イチゴっぽい匂いがします。おいしいかもです」
くぴっと迷いなく飲み干した。
「んー、ちょっと苦いですね。良薬口に苦しってヤツですよ」
「即効性はさすがに無いヨ。眠りやすい環境は作った方が良いネ」
「そうなんですね」
ふーんと悩むなつみ。
「眠りには、体温の低下が必要なんですよ。そうなると、日番谷隊長がいないのが残念ですよね」
「何をしたら眠たくなるか、心当たりは無いのかな」
「いつもは明るい時間は動き回ってて、夜は自然と疲れて寝てるんです。読書は楽しくて起きちゃうし、クラシック音楽は音を追いたくなりますし。眠くなることか…」
例えば昨日の夜を思い出す。
「あ!」
と何かイメージが頭の上に浮かんだが、すぐに恥ずかしそうにパタパタ消してしまった。
「なになに!今何か頭の上に出てたでしょ」
「うぅう、きかないでください💦」
「木之本くん、些細なことでもそれが答えになり得るなら、簡単に切り捨てちゃいけないよ」
それでも、真っ赤になった顔を手で覆って、フリフリ体を揺すっていた。
「あ❗️なつみちゃん、エッ」
言いかけた市丸の口を押し倒して押さえ込むなつみの陰が、一瞬皆の視界に入り込んで沈んだ。
「んーんっ😡‼️」
なつみは全否定する。が、一応ちょっと手を離して確認してみることにする。彼女の勘違いだといけないので。
「チしたら」モゴモゴモゴ
勘違いではなかった。塞いでおきましょう。
(もーっ、何でわかっちゃうの⁉︎///)
床に倒した市丸の上に馬乗りになっていたなつみは、見られないように市丸の胸に顔を埋めた。その力無い手を口から離す悪い人。
「なつみちゃん、襲う相手、間違えてるで」
「そうだよ」
もっと悪い人現る。
ひょいとなつみを抱え上げた。
「じゃあ、ボクのお部屋に行こうか」
「や‼︎行きませんったらー‼︎💦」
京楽に抱えられるなつみは頑張って暴れた。
「左様。お前の部屋で寝かせてどうする💢」
「え、ここでやれって言うの⁉️それはちょっと…😚」
「場所は問題じゃないだろ!」
「浮竹たいちょぉ、たすけてください」
「浮竹とするの⁉︎ダメだよ!」
「相手の問題でもないだろ‼︎」
「それなら、これを使うかネ?」
「「「?」」」
マユリが徐に懐から取り出したのは、玉のようなくびれが連なった棒状のもの。柄の近くには突起がある。スイッチオン。
グニョグニョ ブイーン
「「「‼︎⁉︎」」」
激しく曲がりくねる棒、激しく振動する突起に目を奪われる。
「ひぃッ😱」
「何でそんなもん持ち歩いてるんだよ‼︎‼︎」
驚きで思わずなつみを解放する京楽。
「念のため」
「いや、答えになってないって‼︎‼︎」
「1人でならしたいということじゃあないのかネ」
「「違うだろ‼︎‼︎」」
「日番谷隊長が帰ってて良かったよ」
なつみは急いで安全地帯へ避難した。
「先生、あれ何ですか😣」
「私にきかないでくれ💧」
とりあえず、彼女の目を覆っておく。
「そんなもの使ったら、眠るどころか、気絶してしまうよ」
藍染がそう抗議して、棒を奪い、スイッチを切った。
「これはこっちに置いていってもらう。木之本くんにこんなもの、近づかせないでくれ」
「君はその子の何を知っているんだネ」
ふとその瞳に影が降りてきたとき、部屋の戸が開かれた。
「随分と大きな声で話されていましたが、眠る準備をするのではありませんでしたか?」
「卯ノ花隊長ぉー!」
ぱたぱたとなつみは卯ノ花のもとへ駆けて行った。
「助けてください!ぼく、いじめられてます!」
「あら…」
「そんなことないだろ?ボクは、なつみちゃんを優しく寝かしつけてあげようとしただけじゃないか」
「むぅっ!(大事なミッションの前に!何考えてんの、京楽隊長!もっとぼくとのこと大切にしてくださいよ!)」
ぷいっと京楽から視線を逸らした。
「困っているだろうと思い、あなたのために良いものを持ってきましたよ」
「え!何ですか、何ですか?」
さすが頼れる卯ノ花隊長様!と喜んだなつみの目の前に差し出される良いもの。
「どうぞ」
「ゲッ‼️😱💦」
計算ドリル…。
「計算の問題集?これが良いもの?目が冴えちゃいそうだけど」
なつみフリークといえど、京楽にはピンとこなかった。
「うわぁ…、卯ノ花さんわかってはるわ」
「どゆこと?」
「なつみちゃんは、数字がごっつ苦手なんです。『1,2,3,4いっぱいです』て言うた日は驚いたわ。もうちょっと頑張って数えて?て(笑)」
卯ノ花はベッドの上に机を用意し、天板をぽんぽんと叩いた。
「やりなさい」
「やっぱりぼくはいじめられてます」
「あなたのためです」
ため息をつきながらも、なつみは卯ノ花の言うことに従った。ベッドに上がり、鉛筆を握って机に向かう。卯ノ花はドリルをペラペラとめくり、適当な問題を探した。
「簡単すぎるものは、やめておきましょうね」
「うぅー🥺」
半べそで、開かれたページと向き合う。
「3桁⁉️小数⁉️四則全部⁉️計算器くださーい‼️✋」
「暗算とは言いませんよ。筆算の問題ですから、あなたにもできるはずです」
まるで宿題に取り組む小学生と、それを見守る保護者の図。ここでは、小学生1人に対して、保護者が9人なのだが。
「涅隊長、忘れ物はありませんか?」
「ひとつ没収されてしまったが、支障は無いネ。万端整っているヨ」
「志波副隊長も、準備はよろしいですか?」
「はい。行けます」
卯ノ花が最終確認をすると、お供の2人は、ベッドを挟んで位置に着いた。なつみの右側にマユリ、左側に海燕が立つ。
「くぅぅ〜(泣)」
間でなつみが唸っていた。
1つの数字を書き足すのに、体感では5秒ずつかかっていそうなスローペース。周りではコソコソと大人たちの会話がなされた。
「ほんとに計算苦手なんだね。書類作業するときは、こんなに大変そうじゃなかったと思うんだけど」
「自力やと絶対間違うから、計算するときは必ず計算器使いなさいて言うてあるんです」
「回道では精度を上げるために、各部位の機能と質量の測定や、回復の速さを計算して予測することがあります。学んでいく際に必要となる知識なのですが、この子は数字嫌いのせいで、ほとんど目分量でこなそうとしてしまいます。なんとか改善しようと、この問題集をやらせるのですが、ご覧の通り。今まで大きな失敗をしてこなかったのは、この子の運と観察力のおかげでしょうね」
「お世話おかけして、すいません」
お兄ちゃんは少し申し訳なさそうだったが、その妹は自分の苦手を公表され、出来の悪さを晒され、居た堪れないことこの上なかった。
「ぼくの嫌いな5+7だぁ。えーっと、7から5無いと2だから、12だ。5+8と似てるからヤダ!6+7も嫌い。あの辺嫌い」
わからない訳ではない。遠回りをしてしまうのだ。遠回りが故に、寄り道し、ミスが生まれてしまう。
「んーと、かけ算だから、小数点は1コ2コ3コで、ここだ」
(それは良いけど、3×6が24になってるよ〜😅)
(53を8で割り切ろうとするとは、大胆だネ)
(コイツ、ヤベェ…💧)
なつみが1問解く毎に、周囲は内心一喜一憂していた。彼女の気が散ってしまうといけないので、口出ししないようにしていたが、よく見ると、何度眉間に皺がピクッと寄ったことか。1問毎にハッとするということは、つまり。
(全問不正解…。逆にお見事)
(器用にやりおる)
しかし、今回は計算で正しい答えを求めることが目標ではないため、「全然できてねぇじゃねーか‼️」と叱っても仕方がない。ここはグッと堪えねば。今回の目的はそう。
(これで眠る、のか?)
睡眠導入には刺激が強すぎるように見える作業。正にその通りで、なつみの頭から煙が出そうなほど、脳はフル回転していた。すごく注目されながらの苦手な計算。プレッシャーにも押しつぶされ、正解など導き出せる訳もなく。ついになつみはキレた。
「もーッ‼️🔥わかってんすよ❗️全部間違ってんの❗️どこで間違ってるかわかんないけど❗️残念な空気が充満してんだもん‼️こんな見られて、できるわけないじゃないすか‼️だいたい、2桁の足し算だって」くてん「すーすー💤」
((((((((寝たーーーッ⁉️))))))))
なつみは言葉を終える前に、首から力が抜けてオフモードになった。
「これは…、計算に悩まされ、上昇した脳の熱を冷却するためと、計算への拒否反応からなる現実逃避が睡眠を誘発したようだヨ」
「分析してやるな。可哀想に💧」
「起きて、なつみちゃん!昨日に戻るて考えな!」
肩を揺すられ、なつみはボケーっと薄っすら目を覚ました。
「むにゃむにゃ…。そうなんですよ…、昨日ですよ…」
鉛筆をころりと置いて、両手を宙に上げた。
「いきますよぉ…」
「おお!💦」
「いよいよだネ」
海燕とマユリはパシリとなつみの手を取った。
計算から解放され、安心したなつみはふわふわと眠りに落ちていく。
(昨日のお昼、あのお店…)
(戻る。昨日に戻る!)
(どこへなりと連れていき給え、なつみ)
それぞれの祈りがなつみを後ろへ押していく。後方へ身体が倒れていく中、かの鳥の声が響いた。
「飛ぶぞ」
なつみがドサッとベッドに倒れるはずだったが、その身体はマユリと海燕と共にパッと消えてしまった。
「消えた……」
「信じていなかった訳じゃないが、本当だったんだな」
「あとは、3人がうまくやることを祈るのみじゃ」
「大丈夫ですよ。頼もしい方達ですから」
「いってらっしゃい、なつみちゃん。ここから応援してるよ」
「心配させんうちに、早よ帰ってきてや」
「頼んだぞ、みんな……」
海燕と明日を迎えられるようにと祈る浮竹は、ひとつ、ある事に気づいた。
「おい。これ、見ろよ」
「あ…」
キレる直前に取り組んでいた問題の解答。
「フフッ、最後だけ合うてるやん」
「まぁ」
「良い兆しじゃないか?」
卯ノ花が赤ペンを取り出して、その答えにすっと丸をつけてやった。
「終わり良ければ全て良し、じゃな。…、ちと甘すぎかの」
「これがなつみのやり方なので、仕方ありませんよ」
「失敗は、通過点にすぎないということですね」
「そーそー!なつみちゃんのやることは、全部、みんなの幸せに繋がってるんだよ。どんなことがあっても、帰ってきたら、うんと褒めてあげようよ!」
「木之本だけか?海燕も涅もいるんだぞ」
「せや!みんな向こうで頑張ってるで。ちゃんと時間流れてるし、ちゃんと全部覚えてるから、今んとこうまくいってる証拠ですよね?」
「そのはずです」
「無事に帰れるよう、迎える支度でもしようかの」
コンコンコン……