第六章
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「久しぶりだね、ムッくん」
「また、忙しないな」
「それは何ですか」
「この子はね、なつみちゃんの斬魄刀だよ」
ルキアは、なつみの頭上を浮遊する鳥頭の生命体に目を奪われていた。
「卍解をする気は無いと、言うとったはずじゃが」
「具象化、名を呼ばずに能力を解放。条件が揃っていますね」
「……」
「何を…、木之本は二十席と聞いています。最下位の席官が卍解など、できるはずがないじゃないですか!」
「ルキアちゃん、卍解修得に肩書きは関係無いよ」
なつみの前では、常識がことごとく弾かれる。
「不都合になる発言は控えさせてもらう」
「儂らは信用できんとな」
「こちらとしては、色々と隠しておきたいことがあるんですよ。私はこの子を護りながら、この子の理想とする世界を見届ける役目を担っている。障害となり得るものは、避けておきたいんだ」
ムッちゃんはなつみの頬に手を添えた。
「もう大丈夫だ。世界はまた、悩む時間に入ったぞ。顔をお上げ」
「ムッちゃん…」
相棒の存在を確認してから、その視線は自分の足、そして海燕へと移った。
「足が戻ってこないよ」
「そうだな」
隊長たちは考えることが多いらしい。
「卍解をしてこうなったならば大事だが、せずにやったならば更に大事」
「ぼく卍解したの?」
「さぁ、どうだかな」
「え…、これ卍解なの」
「考えておけ」
「何で教えてくれないの」
「……」
「ケチ」
「🐤💢」
優しく添えられていた手が、ビッと頬をつねった。
「いだーい😣」
「ケンカしないの😅」
「卍解の件も気になるが、志波となつみ、2人の存在を維持させる方法を考えねば」
「方法は原因を突き止めるのが先だろう」
ここで冴えるのが、名探偵京楽春水。
「わかった。2人の足が消えたままの理由」
「何じゃ」
「きっかけが無いんだよ。なつみちゃんがメタスタシアを昇華してみたいって思うきっかけがさ。
こっちの世界では海燕くんは生きている。あの事件の話をする人はいないんだよ。久原くんもしていなかった。だから昨日の夜、なつみちゃんが過去に戻らなかった時間軸が、生まれようとしてるんじゃない?」
「あ……」
大いにあり得る推理。
「せやったら、これを解決するために、なつみちゃんはまた過去に行かなあかんいうことやん」
「そんな⁉︎そんなことしたらまた知らないうちに世界がめちゃくちゃにッ…」
そこまで言ったなつみは、パッと口に手を当てて、吐き出しそうなものを体内に引き戻そうとした。
「どないしたん?気持ち悪いん?」
ぷるぷると横に首を振った。
「可哀想に…」
「何がだよ」
「馬鹿はこれだから困るヨ」
「アッ⁉️💢」
「自分の発言が再び志波副隊長を苦しめるのではないかと感じ、何も言えなくなってしまったのですよ」
「そういうことか」
「私が代わりに状況を説明してやろうかネ。
今この世界は、なつみの意思に左右されるようだヨ。なつみが残りたいと思えば、志波が生き続けるこの時間軸で進んでいく。しかし彼女が、これまで過ごしてきたもう1人の私たちが住む世界に帰りたいと願えば、志波はメタスタシアに喰われ、朽木ルキアに殺される運命に切り替わる。
誰の苦しみを犠牲にし、どちらの時間軸を選ぶのか。我々は今、未来への分岐に立っているんだヨ。
志波を助ける時間軸を選ぶなら、なつみが過去に戻るきっかけをつくる、または、もう一度メタスタシアを昇華しに戻らなければならないネ。後者の場合、過度の霊力消耗をもう一度繰り返すハメになるから、やめる方が賢いヨ。前者をお勧めするネ。これから昨日に戻り、なつみに志波なりメタスタシアなりの興味を持たせれば、この時間軸上の昨日のなつみが件の夜に戻るんじゃないかネ?その方が、流れとしては自然かもしれないヨ。
なつみが運命に帰る決断をするなら、何もすることは無い。ただじっと待っていれば、勝手に修復が始まるだろうネ。改変された時間軸は、運命に戻りたがる習性を持っていそうだからネ。
さぁ、どうしようかネ。なつみが悩むのも無理は無いヨ。どちらにしろ、利点があり、正しい展開と呼べるからネ」
そこで、我先にと発言したのはルキアであった。
「頼む木之本。過去に戻ってくれ。海燕殿を殺さないでくれ!私に、海燕殿を殺させないでくれ‼︎」
「ルキアさん…。わかってます。わかってますよ。ぼくもそうしたいです」
「ならばッ」
「でも!ぼく、どうやってタイムスリップするのかわかりません。まぐれでできただけなのかもしれないんです」
「そんなこと言わないでくれ、木之本」次は浮竹だった。「俺からも頼む。海燕のことを助けに行けるのは、お前しかいないんだ!頼む、過去に飛んでくれ‼︎」
運命に逆らうために声を上げる2人を前に、なつみはまた動けないでいた。
(だって、犯罪者になるかもしれないって)
その心の声を受け取った男が行動に移った。
「総隊長、隊首会の最中ですが、一旦席を外させて頂きたい」
「構わん。行け」
一礼して、扉へと歩を進める。
「待て、白哉!木之本が掟に背くのか確かめに行くんだろう。だったら俺も行く」
「浮竹隊長!」
「…好きにしろ」
「朽木…」
容態が落ち着いた海燕が口を開いた。
「お前もついてけ」
「海燕殿、しかし!」
「俺なら大丈夫だ。行け。行って、木之本を安心させてやれ。無ぇってことを見つけ出すなら、人手がいる。ここにいるよりか役に立つだろ」
それでもルキアは海燕のことが心配で立てない。
「私がついていますから、お行きなさい」
卯ノ花が彼女の背を押した。海燕の瞳も強い意志で訴えていた。
「わかりました。すぐに連絡をよこします。木之本!それまでに決めてくれ」
立ち上がり、一礼すると扉の外へ駆けて行った。
「兄様!浮竹隊長!私も行きます!」
足音が遠のいていく。
「キミは悪い男だね」
ぼそりと京楽がつぶやいた。
「これで、邪魔されないで済む。木之本、お前の好きにしろ」
「え……」
「帰りたいなら、帰れ。俺のことは気にすんな。覚悟ならできてっからよ」
なつみは目を逸らした。
「俺だってわかってんだよ。あの時死んでるはずだったって。これまで過ごした時間が夢みてぇに消えちまうのは寂しいが、仕方ねぇよ」
海燕は笑ってみせた。しかし彼女の死角にある手は、震えていた。
「悲しいこと言うなよ。夢なんかじゃない。これだってちゃんと現実なんだから」
海燕にそう言ってから、京楽はなつみの方を向き、語りかけた。
「あのね、なつみちゃん。ボクはいつも、キミが嫌がるようなことは絶対に頼まないようにしようって決めてるんだ。覚えはあるかな?」
「…はい」
「うん、よかった。けどね、今回はわがままを言いたいんだよね」
きゅぅとなつみの手を握る。
「ボクからもお願い。過去に行って、海燕くんを助けてあげて。これは彼のためでもあるし、みんなの、この尸魂界のためでもあるからさ」
大好きな人からこのように頼まれたら、とても断れやしないのだが、今回ばかりは素直に承知できない。運命に背き、新しく道を作るということは、神の意思に背くということ。
(バタフライエフェクト……)
蝶の羽ばたきで竜巻が起こるなら、死ぬはずの命を救うという大きな変化は、どんな結末を呼ぶのか。自分の選択ひとつで、世界崩壊へ導いてしまうかもしれない。そこまでいかずとも、もしかしたら、別の誰かが犠牲になるかもしれない。自分である可能性もある。今ならまだ引き返せる。何もしなければ…。
彼女は気付いていなかったが、他の者たちは知っていた。彼女と海燕の足が再び消失を始めていることを。
「あー、ッたりーぜ」
その重苦しい空気に耐えかねた更木。ズカズカとなつみへ歩み寄り、京楽を引き離し、なつみの頭にガバッと右手を置いて、ぐりぐりと撫でまわしながら見事に彼女を見下した。
「ウジウジしてんじゃねーよ。こんな無駄な時間を俺に過ごさせんじゃねぇ。さっきのややこしい話は一個も頭に入っちゃいねぇが、俺にもわかることがある。それはな。確かに、お前ぇが俺らの知ってるお前ぇじゃねぇってことだ」
止まるぐりぐり。
「俺らのなつみは、『みんなを護る』っつって大口叩く無茶な野郎だ。そんでそれを実行する滅茶苦茶な野郎だ。助けてぇ誰かが目の前にいりゃ、迷わず駆けつけるのがなつみなんだよ。
今は志波がそいつだろ。今お前が動かなけりゃ、取り返しがつかなくなんだろ。お前が気にするお前だけの問題は後からいくらでもどうにかできんじゃねーのか?そんなことも見えなくなっちまったのか。あ?
それによ、お前が気に食わねぇのが孤独なら、そんなくだらねぇもん心配すんな。俺らがついてんだからよ」
そっと手をどけ、なつみが周りを見渡せるようにしてやった。
「行け、なつみ。戦って負けんのにビビるタマじゃねぇはずだろ。それとも、こっちのお前ぇは腰抜けか?」
(「そんなことないもーん‼︎」って言いそう(笑))
しかし言わない。ただ。
(…誰にも、腰抜けなんて、言わせないッ)
気持ちが上を向き始めたのは明らかだった。
「馬鹿にしては、気の利くことを言うじゃないか」
続いてなつみの視界に入り込んできたのはこの人。
「なつみちゃん。有給は3日でええ?申請書、代わりに書いといたるで😊」
「市丸隊長」
「意外だねぇ。てっきりキミは、『なつみちゃんが辛いんやったら、帰らせたるべきや!』って言うと思ってたのに。珍しくボクらの味方をするんだね」
「なつみちゃんの心を最優先にするんは絶対や。ちょっと考えればわかるんやもん。このまま何もせんと帰ったら、できたはずやのに彼を助けんかったって、後悔して泣いてまう。ボクにはどうにもできへんのに、慰めたらなあかんねん。そっちの方が辛いわ。せやから、今できること、精一杯やってほしいねん。失敗したら、そん時はそん時や。な?」
市丸はなつみのほっぺをなでなでして言った。くすぐったそうになつみは笑っていた。
「へへーん✌️」
何を思ったか、なつみはピシッとVサインを市丸の顔の前に突き出した。
「なぁに?りょーかいってこと?」
「2日で良いですよ!」
「ほんま?せやかて…」
突き出されたピースの中指を下ろす。
「1日は大冒険に使うやろ」
人差し指も下ろす。
「2日目は寝なあかんやん。余裕を持ってもう1日休んだ方が良え思うよ?」
「だーいじょぅぶですよ!」
えっへんと腰に手を当て、胸を張る。
「そんなに休んだら、仕事いっぱい溜まっちゃいそうですし」
「偉い!偉いよ、なつみちゃん!」
「見習え、戯け」
元柳斎に小突かれる京楽は見なかったことにして、手を後ろで組み、その場で3歩ほどのステップをして、隊長たちの表情を伺うために1周回ってみながら、こう続けた。
「それに、絶対1日で回復しますから、3日もいりませんよ!だって、ぼくが倒れたら、みなさんがまた力を貸してくださるんですよね?😊」
よく見覚えのある無敵スマイルがそこにあった。
「もちろんだよ!」
「当然だよ」
「ッたりめーだろ」
「任せとけ」
「なつみちゃんのこと守ったげたい人は、よーさんおるからな。なつみちゃんが大丈夫言うなら、大丈夫やな。信じるわ」
にひぃ〜っと笑うと、なつみは海燕の前に「よいしょ」と陣取り、軽く屈んで右手を差し出した。
「良いのか?木之本」
「はい。ぼく決めました。志波副隊長助けに行きます!」
「このまま進むことになるぞ」
「望むところですよ。助けられたいくせに」
(良いのか、本当に)
自信の無いまま浮いてくる手。
(来い)
パシッとその手を掴みに行き、左手も添え、両手で思い切り引き上げる。
「おわッ⁉︎」
「みんなで未来を創りますよぉー‼️‼️」
引き上げられた勢いで、こちらに倒れかける海燕をしっかり受け止めるなつみ。
「みんなで世界を創りますよ」
ぎゅっと抱き寄せた身体は、もう離れても大丈夫。
「ご覧よ」
しっかりと床を踏みしめる4つの足と、輝く4つの瞳が、進みたい行手へ向いていた。
「せや、なつみちゃん。いちお聞いとかなかんことあったわ」
「🙂❓」
「有給取る理由。あの魔法の言葉でええ?」
「きししッ😁」
ぴょんっと市丸の前にひとっ跳び。せーの。
「「私事都合♪」」
「フフッ」
「あ、何やの?藍染隊長」
「いや、思い出しちゃって。木之本くんがわざわざ有給使って、たんこぶを作ってしまった日のことを」
「私も覚えていますよ。丁度頭のてっぺんに、小さなお山ができていましたね」
「お前の世界が大きく広がり、変化をもたらした日だな」
「なつみちゃんが勇気と幸運で、この現在へ続く道を切り拓いた大事な日だね」
なつみが『私事都合』を唱えるとき、彼女の世界は進路を変える。彼女の夢見る瞳に従って。
「私事で、いっちょ過去に飛んで、人助けしてきますよ🥴」
「また、忙しないな」
「それは何ですか」
「この子はね、なつみちゃんの斬魄刀だよ」
ルキアは、なつみの頭上を浮遊する鳥頭の生命体に目を奪われていた。
「卍解をする気は無いと、言うとったはずじゃが」
「具象化、名を呼ばずに能力を解放。条件が揃っていますね」
「……」
「何を…、木之本は二十席と聞いています。最下位の席官が卍解など、できるはずがないじゃないですか!」
「ルキアちゃん、卍解修得に肩書きは関係無いよ」
なつみの前では、常識がことごとく弾かれる。
「不都合になる発言は控えさせてもらう」
「儂らは信用できんとな」
「こちらとしては、色々と隠しておきたいことがあるんですよ。私はこの子を護りながら、この子の理想とする世界を見届ける役目を担っている。障害となり得るものは、避けておきたいんだ」
ムッちゃんはなつみの頬に手を添えた。
「もう大丈夫だ。世界はまた、悩む時間に入ったぞ。顔をお上げ」
「ムッちゃん…」
相棒の存在を確認してから、その視線は自分の足、そして海燕へと移った。
「足が戻ってこないよ」
「そうだな」
隊長たちは考えることが多いらしい。
「卍解をしてこうなったならば大事だが、せずにやったならば更に大事」
「ぼく卍解したの?」
「さぁ、どうだかな」
「え…、これ卍解なの」
「考えておけ」
「何で教えてくれないの」
「……」
「ケチ」
「🐤💢」
優しく添えられていた手が、ビッと頬をつねった。
「いだーい😣」
「ケンカしないの😅」
「卍解の件も気になるが、志波となつみ、2人の存在を維持させる方法を考えねば」
「方法は原因を突き止めるのが先だろう」
ここで冴えるのが、名探偵京楽春水。
「わかった。2人の足が消えたままの理由」
「何じゃ」
「きっかけが無いんだよ。なつみちゃんがメタスタシアを昇華してみたいって思うきっかけがさ。
こっちの世界では海燕くんは生きている。あの事件の話をする人はいないんだよ。久原くんもしていなかった。だから昨日の夜、なつみちゃんが過去に戻らなかった時間軸が、生まれようとしてるんじゃない?」
「あ……」
大いにあり得る推理。
「せやったら、これを解決するために、なつみちゃんはまた過去に行かなあかんいうことやん」
「そんな⁉︎そんなことしたらまた知らないうちに世界がめちゃくちゃにッ…」
そこまで言ったなつみは、パッと口に手を当てて、吐き出しそうなものを体内に引き戻そうとした。
「どないしたん?気持ち悪いん?」
ぷるぷると横に首を振った。
「可哀想に…」
「何がだよ」
「馬鹿はこれだから困るヨ」
「アッ⁉️💢」
「自分の発言が再び志波副隊長を苦しめるのではないかと感じ、何も言えなくなってしまったのですよ」
「そういうことか」
「私が代わりに状況を説明してやろうかネ。
今この世界は、なつみの意思に左右されるようだヨ。なつみが残りたいと思えば、志波が生き続けるこの時間軸で進んでいく。しかし彼女が、これまで過ごしてきたもう1人の私たちが住む世界に帰りたいと願えば、志波はメタスタシアに喰われ、朽木ルキアに殺される運命に切り替わる。
誰の苦しみを犠牲にし、どちらの時間軸を選ぶのか。我々は今、未来への分岐に立っているんだヨ。
志波を助ける時間軸を選ぶなら、なつみが過去に戻るきっかけをつくる、または、もう一度メタスタシアを昇華しに戻らなければならないネ。後者の場合、過度の霊力消耗をもう一度繰り返すハメになるから、やめる方が賢いヨ。前者をお勧めするネ。これから昨日に戻り、なつみに志波なりメタスタシアなりの興味を持たせれば、この時間軸上の昨日のなつみが件の夜に戻るんじゃないかネ?その方が、流れとしては自然かもしれないヨ。
なつみが運命に帰る決断をするなら、何もすることは無い。ただじっと待っていれば、勝手に修復が始まるだろうネ。改変された時間軸は、運命に戻りたがる習性を持っていそうだからネ。
さぁ、どうしようかネ。なつみが悩むのも無理は無いヨ。どちらにしろ、利点があり、正しい展開と呼べるからネ」
そこで、我先にと発言したのはルキアであった。
「頼む木之本。過去に戻ってくれ。海燕殿を殺さないでくれ!私に、海燕殿を殺させないでくれ‼︎」
「ルキアさん…。わかってます。わかってますよ。ぼくもそうしたいです」
「ならばッ」
「でも!ぼく、どうやってタイムスリップするのかわかりません。まぐれでできただけなのかもしれないんです」
「そんなこと言わないでくれ、木之本」次は浮竹だった。「俺からも頼む。海燕のことを助けに行けるのは、お前しかいないんだ!頼む、過去に飛んでくれ‼︎」
運命に逆らうために声を上げる2人を前に、なつみはまた動けないでいた。
(だって、犯罪者になるかもしれないって)
その心の声を受け取った男が行動に移った。
「総隊長、隊首会の最中ですが、一旦席を外させて頂きたい」
「構わん。行け」
一礼して、扉へと歩を進める。
「待て、白哉!木之本が掟に背くのか確かめに行くんだろう。だったら俺も行く」
「浮竹隊長!」
「…好きにしろ」
「朽木…」
容態が落ち着いた海燕が口を開いた。
「お前もついてけ」
「海燕殿、しかし!」
「俺なら大丈夫だ。行け。行って、木之本を安心させてやれ。無ぇってことを見つけ出すなら、人手がいる。ここにいるよりか役に立つだろ」
それでもルキアは海燕のことが心配で立てない。
「私がついていますから、お行きなさい」
卯ノ花が彼女の背を押した。海燕の瞳も強い意志で訴えていた。
「わかりました。すぐに連絡をよこします。木之本!それまでに決めてくれ」
立ち上がり、一礼すると扉の外へ駆けて行った。
「兄様!浮竹隊長!私も行きます!」
足音が遠のいていく。
「キミは悪い男だね」
ぼそりと京楽がつぶやいた。
「これで、邪魔されないで済む。木之本、お前の好きにしろ」
「え……」
「帰りたいなら、帰れ。俺のことは気にすんな。覚悟ならできてっからよ」
なつみは目を逸らした。
「俺だってわかってんだよ。あの時死んでるはずだったって。これまで過ごした時間が夢みてぇに消えちまうのは寂しいが、仕方ねぇよ」
海燕は笑ってみせた。しかし彼女の死角にある手は、震えていた。
「悲しいこと言うなよ。夢なんかじゃない。これだってちゃんと現実なんだから」
海燕にそう言ってから、京楽はなつみの方を向き、語りかけた。
「あのね、なつみちゃん。ボクはいつも、キミが嫌がるようなことは絶対に頼まないようにしようって決めてるんだ。覚えはあるかな?」
「…はい」
「うん、よかった。けどね、今回はわがままを言いたいんだよね」
きゅぅとなつみの手を握る。
「ボクからもお願い。過去に行って、海燕くんを助けてあげて。これは彼のためでもあるし、みんなの、この尸魂界のためでもあるからさ」
大好きな人からこのように頼まれたら、とても断れやしないのだが、今回ばかりは素直に承知できない。運命に背き、新しく道を作るということは、神の意思に背くということ。
(バタフライエフェクト……)
蝶の羽ばたきで竜巻が起こるなら、死ぬはずの命を救うという大きな変化は、どんな結末を呼ぶのか。自分の選択ひとつで、世界崩壊へ導いてしまうかもしれない。そこまでいかずとも、もしかしたら、別の誰かが犠牲になるかもしれない。自分である可能性もある。今ならまだ引き返せる。何もしなければ…。
彼女は気付いていなかったが、他の者たちは知っていた。彼女と海燕の足が再び消失を始めていることを。
「あー、ッたりーぜ」
その重苦しい空気に耐えかねた更木。ズカズカとなつみへ歩み寄り、京楽を引き離し、なつみの頭にガバッと右手を置いて、ぐりぐりと撫でまわしながら見事に彼女を見下した。
「ウジウジしてんじゃねーよ。こんな無駄な時間を俺に過ごさせんじゃねぇ。さっきのややこしい話は一個も頭に入っちゃいねぇが、俺にもわかることがある。それはな。確かに、お前ぇが俺らの知ってるお前ぇじゃねぇってことだ」
止まるぐりぐり。
「俺らのなつみは、『みんなを護る』っつって大口叩く無茶な野郎だ。そんでそれを実行する滅茶苦茶な野郎だ。助けてぇ誰かが目の前にいりゃ、迷わず駆けつけるのがなつみなんだよ。
今は志波がそいつだろ。今お前が動かなけりゃ、取り返しがつかなくなんだろ。お前が気にするお前だけの問題は後からいくらでもどうにかできんじゃねーのか?そんなことも見えなくなっちまったのか。あ?
それによ、お前が気に食わねぇのが孤独なら、そんなくだらねぇもん心配すんな。俺らがついてんだからよ」
そっと手をどけ、なつみが周りを見渡せるようにしてやった。
「行け、なつみ。戦って負けんのにビビるタマじゃねぇはずだろ。それとも、こっちのお前ぇは腰抜けか?」
(「そんなことないもーん‼︎」って言いそう(笑))
しかし言わない。ただ。
(…誰にも、腰抜けなんて、言わせないッ)
気持ちが上を向き始めたのは明らかだった。
「馬鹿にしては、気の利くことを言うじゃないか」
続いてなつみの視界に入り込んできたのはこの人。
「なつみちゃん。有給は3日でええ?申請書、代わりに書いといたるで😊」
「市丸隊長」
「意外だねぇ。てっきりキミは、『なつみちゃんが辛いんやったら、帰らせたるべきや!』って言うと思ってたのに。珍しくボクらの味方をするんだね」
「なつみちゃんの心を最優先にするんは絶対や。ちょっと考えればわかるんやもん。このまま何もせんと帰ったら、できたはずやのに彼を助けんかったって、後悔して泣いてまう。ボクにはどうにもできへんのに、慰めたらなあかんねん。そっちの方が辛いわ。せやから、今できること、精一杯やってほしいねん。失敗したら、そん時はそん時や。な?」
市丸はなつみのほっぺをなでなでして言った。くすぐったそうになつみは笑っていた。
「へへーん✌️」
何を思ったか、なつみはピシッとVサインを市丸の顔の前に突き出した。
「なぁに?りょーかいってこと?」
「2日で良いですよ!」
「ほんま?せやかて…」
突き出されたピースの中指を下ろす。
「1日は大冒険に使うやろ」
人差し指も下ろす。
「2日目は寝なあかんやん。余裕を持ってもう1日休んだ方が良え思うよ?」
「だーいじょぅぶですよ!」
えっへんと腰に手を当て、胸を張る。
「そんなに休んだら、仕事いっぱい溜まっちゃいそうですし」
「偉い!偉いよ、なつみちゃん!」
「見習え、戯け」
元柳斎に小突かれる京楽は見なかったことにして、手を後ろで組み、その場で3歩ほどのステップをして、隊長たちの表情を伺うために1周回ってみながら、こう続けた。
「それに、絶対1日で回復しますから、3日もいりませんよ!だって、ぼくが倒れたら、みなさんがまた力を貸してくださるんですよね?😊」
よく見覚えのある無敵スマイルがそこにあった。
「もちろんだよ!」
「当然だよ」
「ッたりめーだろ」
「任せとけ」
「なつみちゃんのこと守ったげたい人は、よーさんおるからな。なつみちゃんが大丈夫言うなら、大丈夫やな。信じるわ」
にひぃ〜っと笑うと、なつみは海燕の前に「よいしょ」と陣取り、軽く屈んで右手を差し出した。
「良いのか?木之本」
「はい。ぼく決めました。志波副隊長助けに行きます!」
「このまま進むことになるぞ」
「望むところですよ。助けられたいくせに」
(良いのか、本当に)
自信の無いまま浮いてくる手。
(来い)
パシッとその手を掴みに行き、左手も添え、両手で思い切り引き上げる。
「おわッ⁉︎」
「みんなで未来を創りますよぉー‼️‼️」
引き上げられた勢いで、こちらに倒れかける海燕をしっかり受け止めるなつみ。
「みんなで世界を創りますよ」
ぎゅっと抱き寄せた身体は、もう離れても大丈夫。
「ご覧よ」
しっかりと床を踏みしめる4つの足と、輝く4つの瞳が、進みたい行手へ向いていた。
「せや、なつみちゃん。いちお聞いとかなかんことあったわ」
「🙂❓」
「有給取る理由。あの魔法の言葉でええ?」
「きししッ😁」
ぴょんっと市丸の前にひとっ跳び。せーの。
「「私事都合♪」」
「フフッ」
「あ、何やの?藍染隊長」
「いや、思い出しちゃって。木之本くんがわざわざ有給使って、たんこぶを作ってしまった日のことを」
「私も覚えていますよ。丁度頭のてっぺんに、小さなお山ができていましたね」
「お前の世界が大きく広がり、変化をもたらした日だな」
「なつみちゃんが勇気と幸運で、この現在へ続く道を切り拓いた大事な日だね」
なつみが『私事都合』を唱えるとき、彼女の世界は進路を変える。彼女の夢見る瞳に従って。
「私事で、いっちょ過去に飛んで、人助けしてきますよ🥴」