第六章
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「ムッちゃんは、その森のもう少し奥で、志波副隊長がメタスタシアと交戦しているって言うんですよ。助けに行くなら行くぞって。そりゃ行きますよね。夢なわけだし。怖くなったら、起きれば良いし、第一、死にはしないですから。とことんイメトレしてやるぞー!ってやる気満々になりました。
それで、せっかく夢だし。何でもありですから、正義のスーパーヒーローごっこしようと思って、お面着けようって思ったんです。顔見られない方が、集中できますから。こう、念じたら簡単に出ましたよ。さすが夢ですよね。でも夢じゃなかったんですよ。びっくりです。
ぴゅーっと飛んでいったら、人の声とただならぬ雰囲気に気付いて、あぁムッちゃんの言う通りだなと思ったんです。首からマントを外して、構えながら音の方へ向かって行きました。
現場が見えてくると、斬魄刀を構えた女性の隊士がいて、その方に飛びかかる虚の匂いのする男性の隊士が見えました。遠くから浮竹隊長の『殺せー‼︎』っていう声が聞こえましたから、まぁそのタイミングかと思って、瞬間移動して志波副隊長っぽい人をマントでくるくるっと巻きました。『スーパーヒーロー参上‼︎』って叫んでみましたけど、お面でこもってたかもしれませんね。裸足でしたので、土で汚れないように、ぼくも志波副隊長のこともちょっとだけ浮かせたままにしていました。
案の定ですが、浮竹隊長もルキアさんぽい人もぼくの登場に驚いてて、『誰だ!』とか『何をしている!』とか言っていました。そういう時はですね、ぼくの常套手段ですが、すぅーっとATフィールドを全開にして、作業の邪魔をされないようにするんです。いちお、『この方をお救いします‼︎‼︎』って声張ってみたんですけど、お面と見えない壁で聞こえやしなかったですよね。なんか、良いことしてるつもりなのに、ぼくずっとお2人から怒られてましたよ。
メタスタシアがちょっと暴れられてたんで、ガッと押さえ込んで動きを止めないといけませんでした。馬乗りってやつですね。落ち着いてもらってから、志波副隊長とメタスタシアを分けるイメージで頭をいっぱいにして、エネルギーをフォ〜っとマントの中に注ぎました。目を閉じると、マントの中の様子が薄っすら見えるんですよね。
分け方ですけど、イメトレをしたと言いましたが、結局ピンとくるのが思いつかなくて、でもほぼ実践タイムが目の前で起きてるじゃないですか、何かをしなきゃってめっちゃ焦って、何かひらめかないかと、ふとくるくる巻きのマントの塊を見たんです。するとそれがでっかいサナギに見えちゃって。ピンとひらめきましたね。
サナギの中身みたいに、一回溶かしちゃえって考えました。まず、痛くないように、みんなを眠らせて、それから液状にします。あくまでイメージですよ。んーと、人類補完計画的な?LCLの海の中的な。それになったら、次にくるくると渦を巻きます。ドンジャラよりも一定にゆっくりと混ぜるんです。そしたら待ちます。志波副隊長の身体は質量がいっぱい残っているので、確実に一番下に沈むはずなんです。で、虚の方が昇華が早いなら、上の方で溜まるんじゃないかなって考えて、とっさにこの方法を実行しました。
そしたらですね、なんとうまくいきまして、マントの中で霊子の層が出来上がったんです。志波副隊長のっぽい強い霊圧の塊が下にこずんで、メタスタシアっぽい匂いの層が上にあって、きれいに分かれたんですよ。先にメタスタシアの霊子をすくい上げて、マントの外に出します。それが済んだら、志波副隊長の回復をしなきゃなんですけど、実は霊子の層は2段じゃなくて、もっといっぱいだったんです。だから、1種類ずつすくい上げて外に出していったんです。そうしないと志波副隊長の中に誰かを閉じ込めちゃうことになりそうだったので。
なかなかにその作業が大変で、取り出しにくいから、取りやすい形に変わってもらえませんかってお願いしたんです。そしたら、一つ一つの層が1個ずつの球体になって、持ちやすくなりました。ぽんぽん拾って投げて、志波副隊長だけを残すようにしていきました。その霊子の塊は、メタスタシアに食べられてしまった方たちの魂魄だったんですよね。その方たちも解放できるなんて、嬉しい誤算ですよ。
そうして取り除いていくと、段々疲れてきたんです。夢なのに。だから、もう諦めちゃおうかなって思ったんです。やり方としてはあっていても、体力が保たないということがわかったから、イメトレとしては良い経験ができたってことで、もう充分じゃないですか。だけど、そこで女性の声が聞こえてきたんです。『もう少し頑張って』って。美人さんには弱いので、その声援に応えることにしましたよ。
あと1人というところで、本当に限界が近そうな気がしたので、志波副隊長の回復を優先することにしました。メタスタシアの昇華が完了してからすぐ、志波副隊長の身体はひとりでに元の姿に戻り始めていました。戻し方考えずに溶かしちゃってたんで、ラッキーでしたよ。残った方は女性の方で、恐らくですが、志波副隊長の奥様だったんじゃないでしょうか。その方も手伝ってくださって、志波副隊長の形状回復と傷の手当もそこそこできました」
「ああ。緑の光の中で、あいつに『生きろ』と言われたよ。先に食われちまった奴らには、帰る身体が無かったからな。たくさんの言葉を俺に遺して、お前に引っ張られて逝っちまった。『自分たちの分まで、これからも大勢の命を救ってほしい』と。実質俺は、あの虚に負けた。すげぇダセェことなんだが、生き残れたことが嬉しくて堪んねぇんだよ。あいつらの想いを背負って、仕事が続けられてることに誇りを感じている。もしも俺があの虚に勝っていたら、あそこまでやられる前に助けが来ていたら、もしくは、俺が死んでいたら、俺は先に逝っちまった奴らの想いを知ることはなかったぜ。仲間の心を受け取れたんだ。ありがとよ、木之本。助けに来てくれたこと、感謝してもしきれねぇよ。まさか、命の恩人とこうして会える日が来るなんて思ってもなかったもんな。瀞霊廷にいて、しかも死神だったとは、驚きだ」
「本当にな。俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう、木之本。お前のおかげで、俺も部下たちの最期の言葉を聞けた。命は救えなかったが、あいつらの魂は救えたんだ。総隊長がおっしゃった通り、お前は正しいことをしたと、俺も思うぞ。木之本の気まぐれかもしれないが、お前が駆けつけてくれたから、海燕はこうして元気に暮らしている。当時は混乱していたが、時間が経ち、落ち着いて思い返すと、俺も朽木も海燕を失わずに済んで本当に良かったと思っているんだ。ありがとうな」
なつみは照れてしまって、恥ずかしそうに唇を尖らせて笑っていた。
「ほんで?なつみちゃん。その後はどないしたん?」
市丸がふわふわと揉むように、なつみの頭を撫でてみた。相変わらずの上目遣いで返事が返ってくる。
「その後はもう覚えていませんね。くたくたになっちゃって。マントを志波副隊長から取ったのは覚えてますけど、そこからはわかりません。知らないうちにさっきいた病室にいて、目を覚ましたんです」
「俺も木之本が立ち去るのを見ていなかった。海燕が解放されてすぐ、容体を確認するために駆け寄って、そうして目を離した隙に、いつの間にか姿を消していたからな」
「私も見ておりません。海燕殿が無事であるか確かめるのに必死で、仮面の子供に気を配る余裕がありませんでした」
「…仮面の子供?」
「あ、なつみちゃん、そこツッコんだらアカン。切り無いで」
「ぼくは大人です‼️‼️どっからどう見ても、大の大人ですぅッ‼️‼️」
「すまん、木之本😅」
「『以下、その者を仮面の子供と称す』😏」
日番谷より。
「浮竹隊長ぉーッ💢」
「仕方ないだろ。報告書作成に必要だったんだ💦」
「何回も書いたるで(笑)」
「むぅぅー‼️」
147cmの仁王立ち。
「まぁまぁ、なつみちゃん、落ち着いて。話が進まないから。つまりなつみちゃんは、時空を2回も超えて、虚の昇華と虚に取り込まれた魂魄の再構築をしたから、霊力を使い切ってしまって、冬眠状態になっちゃったんだね。それをしたせいで、海燕くんが生きている時間軸が発生してしまい、そっちの今日に来ちゃって、元いた時間軸に帰れなかったんでしょ。全部無意識にやったこととはいえ、非常識にも程があるよ、なつみちゃん」
「無意識だからこそ、できてしまったのかもしれませんよ」
「そうですよ。夢だから不思議に思えなかったんです。でも目覚めるとよくわからないことばっかり起きてて。現実の方が夢みたいですよ。もう、何を信じたら良いのか…」
肩を落とすなつみを、市丸は自然と抱き寄せていた。
「辛いなぁ」
「昨日までみなさんが見ていたぼくと、今ここにいるぼくは、全くの別人です。お話をしてみると、そんなに経験に差異は無いみたいですけど、ぼくがこの目で見てきた世界とまるで違うんです。みなさんだって、ぼくが知ってる方たちと顔が同じであっても、大事な思い出は共有できてないかもしれません。ぼくは余所者で、ひとりぼっち…。あっちに帰りたいです…」
なつみは寂しくて堪らないようだった。
「ふむ。そこでじゃな、儂から皆に頼みたい事が」
元柳斎がそう話し出したところで、突如、うめき声が室内に響き渡った。
「ぐ、ぐあぁぁーーーッ」
「海燕⁉︎」
「海燕殿⁉︎」
「どうした⁉︎」
苦しそうに胸のところを掴みながら、海燕は前のめりに体を丸めていった。
「お皿を退けてください。それから、そこの布団を畳んだまま置いてください」
卯ノ花の指示だ。
スペースを確保して、布団と枕を背もたれに海燕を座らせると、一同は驚いて、一瞬目を疑った。
「海燕殿、足がッ…⁉︎」
つま先から消え始めていた。
「ぐうぅぅッ」
心臓の痛みの方がきつく、海燕自身は足に気を回せていなかった。
「どういうことだ」
卯ノ花が痛みの原因を探している間、浮竹とルキアの他は海燕から離れて、邪魔をしないように立って様子を見ていた。なつみも心配と困惑の表情を浮かべ、市丸の隣に立っていた。すると、市丸が何かに気付く。
「なつみちゃん!キミの足も消え始めてるで⁉︎」
「えッ⁉︎はッ、ほんとだ‼︎‼︎」
指摘されて、皆がなつみの足元に注目した。その足は落ち着きなくその場でとことこ動いているはずなのに、見えない。
「なつみちゃんはどこも痛くないの?」
「痛くないです。ちゃんと床を踏んでる感覚がありますし。でも見えません‼︎」
つま先があるはずの場所に触れようとしたら。
「無い」
なつみと海燕は同じ速さで身体が消え出しているのだが、この痛みの有無は何を示しているのか。
「涅、どう見る」
マユリは興味津々にニヤリと笑っている。
「なつみのいた時間軸を仮に運命と名付けるならば、現在の時間軸が『運命』に戻ろうとし始めているのかもしれませんネ」
「…やはりか」
「ってことは、海燕くんは死に始めてて、なつみちゃんはなつみちゃんのいた世界に帰り始めてるってこと…?」
「恐らく」
「そんな‼︎何とか止められないのですか‼︎」
「ぼくのせい……」
騒ついた雰囲気が、なつみの一言で止まった。
「ぼくが帰りたいって言ったから」
そうして、唸りながら蹲ってしまった。
「うぅぅぅぅ」
「なつみちゃん…」
頭を抱えて自責の念にかられるなつみを見て、1人の男が動いた。
「木之本くん、落ち着いて」
「藍染隊長」
「君がそうして悩むということは、少しでも志波くんを助けたい気持ちがあるんだよね。だったらとりあえずだけど、今はただひたすら『ここに残りたい』って思ってみて。それ以外のことは考えないで」
そんなことでどうにかできるとは思えないという目を向けるなつみ。
「君の気持ちが引き起こしたのなら、変えることだってできるはずだよ。志波くんの症状の進行を止められるかもしれない。君が今後どうすべきかは、僕たちみんなで一緒に考えてあげる」
安心させるように、なつみを抱きしめた。
「信じて。君ならできるから。『ここに残りたい』って、思ってごらん」
藍染の温もりをいっぱいに受けたなつみは、目を閉じ、両手の人差し指をこめかみに当てて、念じ始めた。
高まる霊圧。広がるなつみの霊力の波紋が海燕の身体を突き抜け、世界に祈りを届けていく。
「ここに残りたい。ここに残りたい。ここに残りたい」
「うまくいくのか」
「疑うな。コイツならできる」
「信じるだけじゃ足りないよ。ボクたちの想いも載せてあげなくちゃ。この子をひとりになんてさせない。ひとりぼっちだなんて思わせたりしないよ」
「フー、フー」
「発作が治ってきています」
「良かった。思った通りだ」
「消失の速度も落ちたネ」
「戻るのか?」
「どうだろうな」
今はなつみの想いに寄り添い、成り行きを観察するのみだった。
それで、せっかく夢だし。何でもありですから、正義のスーパーヒーローごっこしようと思って、お面着けようって思ったんです。顔見られない方が、集中できますから。こう、念じたら簡単に出ましたよ。さすが夢ですよね。でも夢じゃなかったんですよ。びっくりです。
ぴゅーっと飛んでいったら、人の声とただならぬ雰囲気に気付いて、あぁムッちゃんの言う通りだなと思ったんです。首からマントを外して、構えながら音の方へ向かって行きました。
現場が見えてくると、斬魄刀を構えた女性の隊士がいて、その方に飛びかかる虚の匂いのする男性の隊士が見えました。遠くから浮竹隊長の『殺せー‼︎』っていう声が聞こえましたから、まぁそのタイミングかと思って、瞬間移動して志波副隊長っぽい人をマントでくるくるっと巻きました。『スーパーヒーロー参上‼︎』って叫んでみましたけど、お面でこもってたかもしれませんね。裸足でしたので、土で汚れないように、ぼくも志波副隊長のこともちょっとだけ浮かせたままにしていました。
案の定ですが、浮竹隊長もルキアさんぽい人もぼくの登場に驚いてて、『誰だ!』とか『何をしている!』とか言っていました。そういう時はですね、ぼくの常套手段ですが、すぅーっとATフィールドを全開にして、作業の邪魔をされないようにするんです。いちお、『この方をお救いします‼︎‼︎』って声張ってみたんですけど、お面と見えない壁で聞こえやしなかったですよね。なんか、良いことしてるつもりなのに、ぼくずっとお2人から怒られてましたよ。
メタスタシアがちょっと暴れられてたんで、ガッと押さえ込んで動きを止めないといけませんでした。馬乗りってやつですね。落ち着いてもらってから、志波副隊長とメタスタシアを分けるイメージで頭をいっぱいにして、エネルギーをフォ〜っとマントの中に注ぎました。目を閉じると、マントの中の様子が薄っすら見えるんですよね。
分け方ですけど、イメトレをしたと言いましたが、結局ピンとくるのが思いつかなくて、でもほぼ実践タイムが目の前で起きてるじゃないですか、何かをしなきゃってめっちゃ焦って、何かひらめかないかと、ふとくるくる巻きのマントの塊を見たんです。するとそれがでっかいサナギに見えちゃって。ピンとひらめきましたね。
サナギの中身みたいに、一回溶かしちゃえって考えました。まず、痛くないように、みんなを眠らせて、それから液状にします。あくまでイメージですよ。んーと、人類補完計画的な?LCLの海の中的な。それになったら、次にくるくると渦を巻きます。ドンジャラよりも一定にゆっくりと混ぜるんです。そしたら待ちます。志波副隊長の身体は質量がいっぱい残っているので、確実に一番下に沈むはずなんです。で、虚の方が昇華が早いなら、上の方で溜まるんじゃないかなって考えて、とっさにこの方法を実行しました。
そしたらですね、なんとうまくいきまして、マントの中で霊子の層が出来上がったんです。志波副隊長のっぽい強い霊圧の塊が下にこずんで、メタスタシアっぽい匂いの層が上にあって、きれいに分かれたんですよ。先にメタスタシアの霊子をすくい上げて、マントの外に出します。それが済んだら、志波副隊長の回復をしなきゃなんですけど、実は霊子の層は2段じゃなくて、もっといっぱいだったんです。だから、1種類ずつすくい上げて外に出していったんです。そうしないと志波副隊長の中に誰かを閉じ込めちゃうことになりそうだったので。
なかなかにその作業が大変で、取り出しにくいから、取りやすい形に変わってもらえませんかってお願いしたんです。そしたら、一つ一つの層が1個ずつの球体になって、持ちやすくなりました。ぽんぽん拾って投げて、志波副隊長だけを残すようにしていきました。その霊子の塊は、メタスタシアに食べられてしまった方たちの魂魄だったんですよね。その方たちも解放できるなんて、嬉しい誤算ですよ。
そうして取り除いていくと、段々疲れてきたんです。夢なのに。だから、もう諦めちゃおうかなって思ったんです。やり方としてはあっていても、体力が保たないということがわかったから、イメトレとしては良い経験ができたってことで、もう充分じゃないですか。だけど、そこで女性の声が聞こえてきたんです。『もう少し頑張って』って。美人さんには弱いので、その声援に応えることにしましたよ。
あと1人というところで、本当に限界が近そうな気がしたので、志波副隊長の回復を優先することにしました。メタスタシアの昇華が完了してからすぐ、志波副隊長の身体はひとりでに元の姿に戻り始めていました。戻し方考えずに溶かしちゃってたんで、ラッキーでしたよ。残った方は女性の方で、恐らくですが、志波副隊長の奥様だったんじゃないでしょうか。その方も手伝ってくださって、志波副隊長の形状回復と傷の手当もそこそこできました」
「ああ。緑の光の中で、あいつに『生きろ』と言われたよ。先に食われちまった奴らには、帰る身体が無かったからな。たくさんの言葉を俺に遺して、お前に引っ張られて逝っちまった。『自分たちの分まで、これからも大勢の命を救ってほしい』と。実質俺は、あの虚に負けた。すげぇダセェことなんだが、生き残れたことが嬉しくて堪んねぇんだよ。あいつらの想いを背負って、仕事が続けられてることに誇りを感じている。もしも俺があの虚に勝っていたら、あそこまでやられる前に助けが来ていたら、もしくは、俺が死んでいたら、俺は先に逝っちまった奴らの想いを知ることはなかったぜ。仲間の心を受け取れたんだ。ありがとよ、木之本。助けに来てくれたこと、感謝してもしきれねぇよ。まさか、命の恩人とこうして会える日が来るなんて思ってもなかったもんな。瀞霊廷にいて、しかも死神だったとは、驚きだ」
「本当にな。俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう、木之本。お前のおかげで、俺も部下たちの最期の言葉を聞けた。命は救えなかったが、あいつらの魂は救えたんだ。総隊長がおっしゃった通り、お前は正しいことをしたと、俺も思うぞ。木之本の気まぐれかもしれないが、お前が駆けつけてくれたから、海燕はこうして元気に暮らしている。当時は混乱していたが、時間が経ち、落ち着いて思い返すと、俺も朽木も海燕を失わずに済んで本当に良かったと思っているんだ。ありがとうな」
なつみは照れてしまって、恥ずかしそうに唇を尖らせて笑っていた。
「ほんで?なつみちゃん。その後はどないしたん?」
市丸がふわふわと揉むように、なつみの頭を撫でてみた。相変わらずの上目遣いで返事が返ってくる。
「その後はもう覚えていませんね。くたくたになっちゃって。マントを志波副隊長から取ったのは覚えてますけど、そこからはわかりません。知らないうちにさっきいた病室にいて、目を覚ましたんです」
「俺も木之本が立ち去るのを見ていなかった。海燕が解放されてすぐ、容体を確認するために駆け寄って、そうして目を離した隙に、いつの間にか姿を消していたからな」
「私も見ておりません。海燕殿が無事であるか確かめるのに必死で、仮面の子供に気を配る余裕がありませんでした」
「…仮面の子供?」
「あ、なつみちゃん、そこツッコんだらアカン。切り無いで」
「ぼくは大人です‼️‼️どっからどう見ても、大の大人ですぅッ‼️‼️」
「すまん、木之本😅」
「『以下、その者を仮面の子供と称す』😏」
日番谷より。
「浮竹隊長ぉーッ💢」
「仕方ないだろ。報告書作成に必要だったんだ💦」
「何回も書いたるで(笑)」
「むぅぅー‼️」
147cmの仁王立ち。
「まぁまぁ、なつみちゃん、落ち着いて。話が進まないから。つまりなつみちゃんは、時空を2回も超えて、虚の昇華と虚に取り込まれた魂魄の再構築をしたから、霊力を使い切ってしまって、冬眠状態になっちゃったんだね。それをしたせいで、海燕くんが生きている時間軸が発生してしまい、そっちの今日に来ちゃって、元いた時間軸に帰れなかったんでしょ。全部無意識にやったこととはいえ、非常識にも程があるよ、なつみちゃん」
「無意識だからこそ、できてしまったのかもしれませんよ」
「そうですよ。夢だから不思議に思えなかったんです。でも目覚めるとよくわからないことばっかり起きてて。現実の方が夢みたいですよ。もう、何を信じたら良いのか…」
肩を落とすなつみを、市丸は自然と抱き寄せていた。
「辛いなぁ」
「昨日までみなさんが見ていたぼくと、今ここにいるぼくは、全くの別人です。お話をしてみると、そんなに経験に差異は無いみたいですけど、ぼくがこの目で見てきた世界とまるで違うんです。みなさんだって、ぼくが知ってる方たちと顔が同じであっても、大事な思い出は共有できてないかもしれません。ぼくは余所者で、ひとりぼっち…。あっちに帰りたいです…」
なつみは寂しくて堪らないようだった。
「ふむ。そこでじゃな、儂から皆に頼みたい事が」
元柳斎がそう話し出したところで、突如、うめき声が室内に響き渡った。
「ぐ、ぐあぁぁーーーッ」
「海燕⁉︎」
「海燕殿⁉︎」
「どうした⁉︎」
苦しそうに胸のところを掴みながら、海燕は前のめりに体を丸めていった。
「お皿を退けてください。それから、そこの布団を畳んだまま置いてください」
卯ノ花の指示だ。
スペースを確保して、布団と枕を背もたれに海燕を座らせると、一同は驚いて、一瞬目を疑った。
「海燕殿、足がッ…⁉︎」
つま先から消え始めていた。
「ぐうぅぅッ」
心臓の痛みの方がきつく、海燕自身は足に気を回せていなかった。
「どういうことだ」
卯ノ花が痛みの原因を探している間、浮竹とルキアの他は海燕から離れて、邪魔をしないように立って様子を見ていた。なつみも心配と困惑の表情を浮かべ、市丸の隣に立っていた。すると、市丸が何かに気付く。
「なつみちゃん!キミの足も消え始めてるで⁉︎」
「えッ⁉︎はッ、ほんとだ‼︎‼︎」
指摘されて、皆がなつみの足元に注目した。その足は落ち着きなくその場でとことこ動いているはずなのに、見えない。
「なつみちゃんはどこも痛くないの?」
「痛くないです。ちゃんと床を踏んでる感覚がありますし。でも見えません‼︎」
つま先があるはずの場所に触れようとしたら。
「無い」
なつみと海燕は同じ速さで身体が消え出しているのだが、この痛みの有無は何を示しているのか。
「涅、どう見る」
マユリは興味津々にニヤリと笑っている。
「なつみのいた時間軸を仮に運命と名付けるならば、現在の時間軸が『運命』に戻ろうとし始めているのかもしれませんネ」
「…やはりか」
「ってことは、海燕くんは死に始めてて、なつみちゃんはなつみちゃんのいた世界に帰り始めてるってこと…?」
「恐らく」
「そんな‼︎何とか止められないのですか‼︎」
「ぼくのせい……」
騒ついた雰囲気が、なつみの一言で止まった。
「ぼくが帰りたいって言ったから」
そうして、唸りながら蹲ってしまった。
「うぅぅぅぅ」
「なつみちゃん…」
頭を抱えて自責の念にかられるなつみを見て、1人の男が動いた。
「木之本くん、落ち着いて」
「藍染隊長」
「君がそうして悩むということは、少しでも志波くんを助けたい気持ちがあるんだよね。だったらとりあえずだけど、今はただひたすら『ここに残りたい』って思ってみて。それ以外のことは考えないで」
そんなことでどうにかできるとは思えないという目を向けるなつみ。
「君の気持ちが引き起こしたのなら、変えることだってできるはずだよ。志波くんの症状の進行を止められるかもしれない。君が今後どうすべきかは、僕たちみんなで一緒に考えてあげる」
安心させるように、なつみを抱きしめた。
「信じて。君ならできるから。『ここに残りたい』って、思ってごらん」
藍染の温もりをいっぱいに受けたなつみは、目を閉じ、両手の人差し指をこめかみに当てて、念じ始めた。
高まる霊圧。広がるなつみの霊力の波紋が海燕の身体を突き抜け、世界に祈りを届けていく。
「ここに残りたい。ここに残りたい。ここに残りたい」
「うまくいくのか」
「疑うな。コイツならできる」
「信じるだけじゃ足りないよ。ボクたちの想いも載せてあげなくちゃ。この子をひとりになんてさせない。ひとりぼっちだなんて思わせたりしないよ」
「フー、フー」
「発作が治ってきています」
「良かった。思った通りだ」
「消失の速度も落ちたネ」
「戻るのか?」
「どうだろうな」
今はなつみの想いに寄り添い、成り行きを観察するのみだった。