第六章
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「これより、隊首会を執り行う。まずはなつみ、昨夜着ていた寝巻きを十三番隊の3人に見せてやれ」
「はい」
元柳斎の指示に従い、なつみはベッドの上に畳んで置いていたパジャマの上を取り、広げ、浮竹、海燕、ルキアに見せてあげた。
「あー、確かにさっき着てたな、それ」
「あぁ、そうだったな」
海燕と浮竹はそんな反応だった。それがどうかしたのかと言ったところだ。他の隊長たちも同じである。
しかし、ルキアの反応は違っていた。
「何故…、お前がそれを持っているのだ」
その顔は、息を呑むほど恐ろしいモノでも見たような表情だった。
「どうした、朽木。そんなに驚いて」
「…海燕殿はご存知無いのかもしれませんが。浮竹隊長、隊長はよく覚えておられるはずです。その服を着て、虚のような仮面を着けた正体不明の人物が、突如現れ、海燕殿の命を救ったではありませんか‼︎‼︎」
「⁉︎」
浮竹は、ルキアの説明を聞いて、記憶が蘇ってきたようだが、簡単に受け入れられるような事態ではない。
「まさか、あれは木之本が入隊するより、はるか昔のことだ。知るはずがないだろう。それに、木之本の身に何かがあったのは昨日のこと。確かに、あの時現れたアイツはそれを着ていた。だがそれは単なる偶然でしかない。そうだろう」
その視野に、元柳斎はまたひとつ提示させる。
「お前の外套を志波に触らせてみよ」
「はい」
なつみは肩にかけている緑色のマントを外し、海燕へ差し出した。
「どうぞ」
「…?あぁ」
訝しがりながらも海燕はマントを受け取った。
「これは…⁉︎」
下から救うようにマントを持ったため、彼の両手はそれに被された。そのマントの内側に漂う不思議な感覚を、彼はよく覚えていた。
「あの時と同じ」
あまり長い時間、それを他人に触らせるのを良く思っていないのか、海燕が思い出したのを確認すると、なつみはすぐにマントを回収し、首のところで巻き直した。
十三番隊の面々は、見せられたことと自分たちの記憶が結びつきそうなことにブレーキを自然とかけているようだった。なつみは円の中央に立ち止まり、パジャマを体に当て、顔の前に片手を添えた。そして、その3人の前で振り返る。
「昨日見た夢の中で、ぼくはこんな格好でいました」
「「「‼︎⁉︎」」」
いつの間に取り出したのか、なつみの顔には全体を覆うほどの大きなマスクが着けられていた。
「証拠はいくつも揃ってしもうた。否定するのは難しいぞ」
元柳斎のその一言は、件の3人だけでなく、集められた隊長たち全員にも重く響いた。
マスクを消し、パジャマを畳んで自分の席へ戻っていくなつみ。その顔はどこか後悔の念を見せていた。
「なつみはな、過去を改変してしまったんじゃよ」
それはあまりにも非現実的で、なつみがしでかしそうな事だった。
「最高にヘビーですよね」
病室はしんと静まり、ではこの事象にどう対応するというのか、とそれぞれの脳内で思考を駆け巡らせた。
「総隊長」
約2秒の静寂を破ったのは、白哉だった。
「何じゃ」
「もし、木之本が本当に過去の改変をしたならば、掟に反したことになります」
「時空を操作することが禁術であることは、儂も認識しておる」
「では、咎めるつもりは無いと」
「そうじゃ」
なつみは心配そうに白哉と元柳斎の発言を目で追っていた。
「この子が一体何をした。過去に戻ってしまったが、無意識にやってしまったこと。そして戻った先でやったのは、悪事ではなく、儂らの大事な仲間の命を救うこと。咎めるなど…、むしろ、褒めるべき行いじゃった。儂はどこにも報告せんと決めたわい」
白哉にとっては意に反する選択だろう。
「時空に関して、尸魂界では法が定められておる。それは知っておる。じゃがな、儂の記憶によれば、時間の操作で禁じられておるのは、進める速さのみのはずなんじゃ。時間を早く進める、遅くする、または止める行為についてのみ。過去改変はどうなのか、わからんのじゃよ。朽木よ、後でかまわんが、詳しいところを調べておいてもらえんかの。はっきりさせておけば、お前の気が楽になるじゃろう」
それならば仕方がないと白哉は、「御意」と答えた。
「じゃあさ、ボクたちがここに集められたのって、なつみちゃんが過去に戻っちゃったのを黙ってるようにって伝えるため?」
「そうじゃ。とにかく黙っておれば、この一件は単なる過去の事件として扱われるんじゃよ。志波は無事に生還した。あれは処理済みの案件じゃ。終わったものをわざわざ調べ直そうとはせんじゃろう。それに、何も確固たる情報が得られぬ段階で、今朝のなつみの体調不良と志波の一件を結びつけられる者がおるとは思えん。だが、この子が時間を遡れると知られれば、良からぬ企てがなされるやもしれん。お前たちのことは信じておる故、こうして共有しておくが、他の者たち、他の組織には言うてはならんぞ。良いな」
元柳斎の指摘する通り、なつみがしたことが違反であっても、自分たちやなつみが事件のことを隠していれば、どうもなりはしないだろう。事が事であるため、なつみのお見舞いに来ているという体で、この場所に集められた意図は判明した。しかし、気にすべき事は他にもあるらしい。
「この改変によって志波は助かり、好転したと見ることもできるが、問題もまた生じてしもうた。なつみ、自分で説明できるか?」
「はい。とても込み入った話になるので、ちょっと難しいですけど」
何から話そうかと、考えをまとめつつ、息をすっと吸った。
そこで雀部が声をかける。
「なつみ、これを使いなさい。わかりやすくなるだろう」
背後に置いていたのか、スケッチブックとサインペンが出てきた。
「んー!ありがとうございます!」
なつみは雀部からそれらを受け取り、皆が注目する中、中央の床にスケッチブックを広げ、サインペンのキャップを取った。
「見ててくださいね」
周りにいる隊長たちに呼びかけて、近くに来るように手招きした。
「木之本くん、ちょっと待って」
何かを書き始めようとしたなつみの手を取って、藍染が突然止めた。
「東仙隊長にも見えるようにしようね」
床に座るなつみのすぐ近くに寄り添い、藍染はペンへ霊圧を傾けた。霊子の塊が、ペンのなぞる跡に残るようにしたのだ。
「お気遣い、感謝します」
「うん。仲間外れは良くないからね」
「さっすが藍染隊長!」
藍染となつみは顔を近づけて微笑み合った。それを見て、良く思わない人たちが何人かいる。特にあの人。
「ちょっと。近すぎだよ。離れて離れて」
その人はなつみの肩を持って、藍染から引き離す。
「京楽さんかて、いつもそんな距離でおるやん」
「ボクは良いの!」
「恋仲やから?(笑)」
「えっ‼️⁉️」
市丸の一言に驚いて、なつみはクルッと回って京楽のことをしっかり見上げた。
「ぼくたち、お付き合いしてるんですか‼️⁉️」
その瞳はいつもの「ボケてます‼️😆」と訴えるものと違い、真剣に尋ねているようだった。その様子に、京楽の頭の中でカチカチと計算がなされる。
「………。そうだよ痛ァッ‼️‼️」
頭脳明晰な京楽の額を、杖による突きが襲った。当たったところに手を当てて、蹲る。
「説明するまでもなくわかったか。これだから悪知恵が働く者は困る」
「説教より体罰優先な人にも困るけどね!」
このやり取りを観察して、なつみは胸を撫で下ろした。
「はぁ、よかった。嘘なんですね」
その反応には多少なりともショックで。
「ボクとお付き合いするの嫌なのかい?」
不満そうに、痛そうに、京楽はブツブツ言った。だからなつみは、おでこを摩る彼の手を取って、彼の代わりに、そのおでこに反対の手を当ててあげた。回道を使って、痛みを和らいでやっているのだ。恥ずかしいから、目線はおでこに集中。
処置を終えると、きゅっとスケッチブックに向き直り、ペンですーっと線を引き始めた。
「ほんま、なつみちゃんはかわええな」
「そっか…。そうだよね。大切な思い出に、なるはずだもんね。騙そうとしてごめんね、なつみちゃん」
知らないうちだなんて、あんまりだよね、となつみの想いを測って、京楽は優しく彼女の頭を撫でてあげた。
「書きましたよ!」
そう言って、顔を赤らめたなつみは皆の注目を集めた。
スケッチブックに書いたものは、1本の横棒。その線上の右側には、ぽっちが1つ。ペンのキャップを閉めて、それで図を差しながら説明を進める。
「この線は時間軸を表してます。左が過去で、右が未来です。こうやって時間が流れてて、昨日がここにあるとします」
ぽっちを示す。
「志波副隊長が、メタスタシアと呼ばれる虚と戦った日は、この辺にしますね」
時間軸の左側に星印を描く。
「驚かないで聞くのは難しいかもしれませんが、驚かないでくださいね」
チラッと海燕を見上げてから、思い切って言ってみる。
「この日に志波副隊長は、殉職されたんです」
………。
(驚いてる、驚いてる)
…。
「で?」
「はぇ❓😦」
驚いている間かと思われた間は、続きを待ってるだけの間だったらしい。
「なーんで驚かないんですか‼︎殉職ですよ⁉︎亡くなってるんですよ⁉︎つまりつまりっ、お化けなんですよ‼︎」
失礼気にせず、ぶんぶんと海燕を指差して狼狽える。
「生きとるわぁッ‼︎お前ぇが助けたんだろーが‼︎‼︎💢」
「ふぇぇッ!💦」
お化けに怒られて、なつみはベッドに逃げ込んだ。布団を被って蹲る。
「まぁ、話の流れ上、そうなんだろうなって予想できたからね。じゃなきゃ、わざわざ助けたいだなんて、思わないだろうし。今のじゃ驚かないよ」
背中を摩ってあげようと思ったんだよ〜と言い訳しながら、彼女のお尻を触りたいと思う京楽のご意見。
「生きてる人が、実は死んでるって聞かされたら驚きません⁉︎ぼくはすっごい驚いたんですよ⁉︎目が覚めたら、死んだって聞かされてきた人が、ぼくの手を握ってたんですもん!お化けがいると思うじゃないですかぁ!ぼく、ビートルジュースとキャスパー以外のお化け苦手なんですよぉ!怖かったんですよぉ!おばけーッ😭」
ぷるぷると布団の塊が震えていた。布団の中は絶対に安全。お化けから逃れるための基礎である。これにハンディークリーナーがあれば、尚良し。
周囲からしてみれば。
「よく、死神が勤まっているな」
「そちらの方が驚きだ」
だ。
「お話進まんから、出ておいで〜」
市丸に促されたため、起き上がりはした。
「つまりですね、昨日の夜寝てたら、例のその日に戻っちゃって、ぼくは現実に志波副隊長を助けて、志波副隊長が生き延びた時間軸を新しく作っちゃったんですよ。この世界はぼくにとって異世界なんです‼︎‼︎☝️」
布団を被ったまま、指をビシッと指して断言した。
「今、なつみちゃんがちっちゃいお化けみたいだよ?😚」
「👻💢」
ハロウィンで、小さい子がシーツで仮装するあれである。
「トリックorトリートぉー‼️」
雄叫びと共に跳び上がり、スケッチブックに戻って、星印から線を一段下に向かって引っ張った。
「ぼくが元いた時間軸の世界では、この星マーク以降現在まで、十三番隊は副隊長不在でいたんです。志波副隊長の後任がいらっしゃらなかったんです。その代わりに、小椿仙太郎さんと虎徹清音さんのお2人が第三席として、隊長の補佐をされています」
なつみにとっての常識を語ったつもりだった。
「何っ⁉️アイツらが副隊長代理だと⁉️大丈夫か、そっちの世界‼️」
「もう1人の俺も同じように休みがちなら、実質、あの2人が隊を仕切っていることになるんだよな。他にやりようがあるだろうに、何故だ……」
海燕と浮竹、言い過ぎである。
「お二人共、失礼ですよ!あの方達は立派に三席を勤められているではありませんか!」
「そうですよ!ルキアさんの言う通りです。変なとこで驚かないでくださいよ☹️」
ルキアと、なつみは変な角度から、海燕と浮竹に注意した。そして、もう1人からもご指摘が。
「木之本の言う通り、驚くところはそこじゃねぇだろ💢」
日番谷だ。
「まず、過去に戻ったことに引っかかるだろうが。木之本がやったことだからと、すんなり受け入れすぎだ!
そいつの斬魄刀の全能の能力がそうさせたってんなら、100歩譲って納得してやる。だがな、当時の記録によれば、例の人物は斬魄刀を所持していなかった。使ったのは、1枚の布のみ。
志波の生還と時間経過のせいで、あの一件を調査しようと思う者は確かにいねぇだろうが、報告書を読めば、誰だってそいつに引っかかるはずだ。現に俺は未だに内容を記憶している。どう考えたって不可能だからだ。
志波が虚と融合しちまった時点で、浮竹はそいつを斬り捨てる選択をした。俺でもそうするだろう。それ以外にその場を収める方法が無ぇからな。だが、突然乱入してきた仮面野郎は、謎の布で志波を包み、志波の身体に入り込んだ虚だけを昇華させた。その虚に襲われ、殺された隊士たちの魂魄まで取り出していたらしい。そんなもんが信じられるか!
さも当然みてぇに話を進めるな。木之本、お前ぇの外套は何故そんなことができた。説明しろ。それをどこで手に入れたんだ。どうして誰も不思議に思わねぇんだ」
そう話終えるた日番谷の疑問に答えたのは、元柳斎であった。
「そうじゃの。普段なつみの面倒を見ておらん者にとって、気になる点じゃな。儂のもう一つの頼み事は、この会の最後に言うとしよう。なつみ、日番谷のために説明してあげなさい。皆とも記憶違いがあるやもしれん。外套についてと、昨日何をしたかを話して聞かせなさい」
「わかりました」
長くなる話の前に、すぅと呼吸を整えるなつみ。どんなことを聞かされるのかと、心の準備をする周囲。そして彼女の口が開く。
「その前に、喉乾きません?」
コケッ‼️‼️⁉️💦
「なつみちゃーん‼︎💦」
「せっかく集中してたんに、隊長全員コケさせんといて‼︎😅」
「だって!あんまりみなさんがぼくに注目するから、緊張しちゃって💦」
「木之本くんらしいな😅」
「ああ。深刻な雰囲気が持続できん」
「お茶を淹れてきましょう。皆さんの分もご用意しますね」
「わ、私も手伝います、卯ノ花隊長!」
「おう、行ってこい、朽木」
「お前もついていけよ、海燕」
「あ!お見舞いの品がいっぱいあったんですよ!あんなにフルーツたくさん食べきれないから、困ってたんです。お茶と一緒に食べながらお話ししましょ😆」
「多すぎたか」
「あれ、朽木隊長がくださったんですか。気になさらないでください。とってもうれしかったですから!パイナップルにテンションぶち上げっす!」
「そうか」
「そんじゃ、切って来よーっと。卯ノ花隊長、待ってくださーい!」
「最早ティーパーティーだな」
「すっかり元気になって。走って行ってしまったよ」
「朝はどうなることかと思っていたのにな」
「しばし休憩じゃの…」
「じゃ、今のうちに便所行っとくか」
「自由だな」
「行きたい者は、済ませておけよ」
「えー、十一番隊長さんと連れションとか、嫌やわ〜。別の階にしよっ」
「ボクは何しよっかな〜」
「その布団でも畳んでやれ」
「そうだね。ん〜!なつみちゃんのかわいい匂いがする🥰」
「抱くな!嗅ぐな!畳め!」
(変態だな)
「はぁ…(とんでもねぇことが起きたってのに、呑気すぎる💢)」
これがなつみのいる世界である。
「はい」
元柳斎の指示に従い、なつみはベッドの上に畳んで置いていたパジャマの上を取り、広げ、浮竹、海燕、ルキアに見せてあげた。
「あー、確かにさっき着てたな、それ」
「あぁ、そうだったな」
海燕と浮竹はそんな反応だった。それがどうかしたのかと言ったところだ。他の隊長たちも同じである。
しかし、ルキアの反応は違っていた。
「何故…、お前がそれを持っているのだ」
その顔は、息を呑むほど恐ろしいモノでも見たような表情だった。
「どうした、朽木。そんなに驚いて」
「…海燕殿はご存知無いのかもしれませんが。浮竹隊長、隊長はよく覚えておられるはずです。その服を着て、虚のような仮面を着けた正体不明の人物が、突如現れ、海燕殿の命を救ったではありませんか‼︎‼︎」
「⁉︎」
浮竹は、ルキアの説明を聞いて、記憶が蘇ってきたようだが、簡単に受け入れられるような事態ではない。
「まさか、あれは木之本が入隊するより、はるか昔のことだ。知るはずがないだろう。それに、木之本の身に何かがあったのは昨日のこと。確かに、あの時現れたアイツはそれを着ていた。だがそれは単なる偶然でしかない。そうだろう」
その視野に、元柳斎はまたひとつ提示させる。
「お前の外套を志波に触らせてみよ」
「はい」
なつみは肩にかけている緑色のマントを外し、海燕へ差し出した。
「どうぞ」
「…?あぁ」
訝しがりながらも海燕はマントを受け取った。
「これは…⁉︎」
下から救うようにマントを持ったため、彼の両手はそれに被された。そのマントの内側に漂う不思議な感覚を、彼はよく覚えていた。
「あの時と同じ」
あまり長い時間、それを他人に触らせるのを良く思っていないのか、海燕が思い出したのを確認すると、なつみはすぐにマントを回収し、首のところで巻き直した。
十三番隊の面々は、見せられたことと自分たちの記憶が結びつきそうなことにブレーキを自然とかけているようだった。なつみは円の中央に立ち止まり、パジャマを体に当て、顔の前に片手を添えた。そして、その3人の前で振り返る。
「昨日見た夢の中で、ぼくはこんな格好でいました」
「「「‼︎⁉︎」」」
いつの間に取り出したのか、なつみの顔には全体を覆うほどの大きなマスクが着けられていた。
「証拠はいくつも揃ってしもうた。否定するのは難しいぞ」
元柳斎のその一言は、件の3人だけでなく、集められた隊長たち全員にも重く響いた。
マスクを消し、パジャマを畳んで自分の席へ戻っていくなつみ。その顔はどこか後悔の念を見せていた。
「なつみはな、過去を改変してしまったんじゃよ」
それはあまりにも非現実的で、なつみがしでかしそうな事だった。
「最高にヘビーですよね」
病室はしんと静まり、ではこの事象にどう対応するというのか、とそれぞれの脳内で思考を駆け巡らせた。
「総隊長」
約2秒の静寂を破ったのは、白哉だった。
「何じゃ」
「もし、木之本が本当に過去の改変をしたならば、掟に反したことになります」
「時空を操作することが禁術であることは、儂も認識しておる」
「では、咎めるつもりは無いと」
「そうじゃ」
なつみは心配そうに白哉と元柳斎の発言を目で追っていた。
「この子が一体何をした。過去に戻ってしまったが、無意識にやってしまったこと。そして戻った先でやったのは、悪事ではなく、儂らの大事な仲間の命を救うこと。咎めるなど…、むしろ、褒めるべき行いじゃった。儂はどこにも報告せんと決めたわい」
白哉にとっては意に反する選択だろう。
「時空に関して、尸魂界では法が定められておる。それは知っておる。じゃがな、儂の記憶によれば、時間の操作で禁じられておるのは、進める速さのみのはずなんじゃ。時間を早く進める、遅くする、または止める行為についてのみ。過去改変はどうなのか、わからんのじゃよ。朽木よ、後でかまわんが、詳しいところを調べておいてもらえんかの。はっきりさせておけば、お前の気が楽になるじゃろう」
それならば仕方がないと白哉は、「御意」と答えた。
「じゃあさ、ボクたちがここに集められたのって、なつみちゃんが過去に戻っちゃったのを黙ってるようにって伝えるため?」
「そうじゃ。とにかく黙っておれば、この一件は単なる過去の事件として扱われるんじゃよ。志波は無事に生還した。あれは処理済みの案件じゃ。終わったものをわざわざ調べ直そうとはせんじゃろう。それに、何も確固たる情報が得られぬ段階で、今朝のなつみの体調不良と志波の一件を結びつけられる者がおるとは思えん。だが、この子が時間を遡れると知られれば、良からぬ企てがなされるやもしれん。お前たちのことは信じておる故、こうして共有しておくが、他の者たち、他の組織には言うてはならんぞ。良いな」
元柳斎の指摘する通り、なつみがしたことが違反であっても、自分たちやなつみが事件のことを隠していれば、どうもなりはしないだろう。事が事であるため、なつみのお見舞いに来ているという体で、この場所に集められた意図は判明した。しかし、気にすべき事は他にもあるらしい。
「この改変によって志波は助かり、好転したと見ることもできるが、問題もまた生じてしもうた。なつみ、自分で説明できるか?」
「はい。とても込み入った話になるので、ちょっと難しいですけど」
何から話そうかと、考えをまとめつつ、息をすっと吸った。
そこで雀部が声をかける。
「なつみ、これを使いなさい。わかりやすくなるだろう」
背後に置いていたのか、スケッチブックとサインペンが出てきた。
「んー!ありがとうございます!」
なつみは雀部からそれらを受け取り、皆が注目する中、中央の床にスケッチブックを広げ、サインペンのキャップを取った。
「見ててくださいね」
周りにいる隊長たちに呼びかけて、近くに来るように手招きした。
「木之本くん、ちょっと待って」
何かを書き始めようとしたなつみの手を取って、藍染が突然止めた。
「東仙隊長にも見えるようにしようね」
床に座るなつみのすぐ近くに寄り添い、藍染はペンへ霊圧を傾けた。霊子の塊が、ペンのなぞる跡に残るようにしたのだ。
「お気遣い、感謝します」
「うん。仲間外れは良くないからね」
「さっすが藍染隊長!」
藍染となつみは顔を近づけて微笑み合った。それを見て、良く思わない人たちが何人かいる。特にあの人。
「ちょっと。近すぎだよ。離れて離れて」
その人はなつみの肩を持って、藍染から引き離す。
「京楽さんかて、いつもそんな距離でおるやん」
「ボクは良いの!」
「恋仲やから?(笑)」
「えっ‼️⁉️」
市丸の一言に驚いて、なつみはクルッと回って京楽のことをしっかり見上げた。
「ぼくたち、お付き合いしてるんですか‼️⁉️」
その瞳はいつもの「ボケてます‼️😆」と訴えるものと違い、真剣に尋ねているようだった。その様子に、京楽の頭の中でカチカチと計算がなされる。
「………。そうだよ痛ァッ‼️‼️」
頭脳明晰な京楽の額を、杖による突きが襲った。当たったところに手を当てて、蹲る。
「説明するまでもなくわかったか。これだから悪知恵が働く者は困る」
「説教より体罰優先な人にも困るけどね!」
このやり取りを観察して、なつみは胸を撫で下ろした。
「はぁ、よかった。嘘なんですね」
その反応には多少なりともショックで。
「ボクとお付き合いするの嫌なのかい?」
不満そうに、痛そうに、京楽はブツブツ言った。だからなつみは、おでこを摩る彼の手を取って、彼の代わりに、そのおでこに反対の手を当ててあげた。回道を使って、痛みを和らいでやっているのだ。恥ずかしいから、目線はおでこに集中。
処置を終えると、きゅっとスケッチブックに向き直り、ペンですーっと線を引き始めた。
「ほんま、なつみちゃんはかわええな」
「そっか…。そうだよね。大切な思い出に、なるはずだもんね。騙そうとしてごめんね、なつみちゃん」
知らないうちだなんて、あんまりだよね、となつみの想いを測って、京楽は優しく彼女の頭を撫でてあげた。
「書きましたよ!」
そう言って、顔を赤らめたなつみは皆の注目を集めた。
スケッチブックに書いたものは、1本の横棒。その線上の右側には、ぽっちが1つ。ペンのキャップを閉めて、それで図を差しながら説明を進める。
「この線は時間軸を表してます。左が過去で、右が未来です。こうやって時間が流れてて、昨日がここにあるとします」
ぽっちを示す。
「志波副隊長が、メタスタシアと呼ばれる虚と戦った日は、この辺にしますね」
時間軸の左側に星印を描く。
「驚かないで聞くのは難しいかもしれませんが、驚かないでくださいね」
チラッと海燕を見上げてから、思い切って言ってみる。
「この日に志波副隊長は、殉職されたんです」
………。
(驚いてる、驚いてる)
…。
「で?」
「はぇ❓😦」
驚いている間かと思われた間は、続きを待ってるだけの間だったらしい。
「なーんで驚かないんですか‼︎殉職ですよ⁉︎亡くなってるんですよ⁉︎つまりつまりっ、お化けなんですよ‼︎」
失礼気にせず、ぶんぶんと海燕を指差して狼狽える。
「生きとるわぁッ‼︎お前ぇが助けたんだろーが‼︎‼︎💢」
「ふぇぇッ!💦」
お化けに怒られて、なつみはベッドに逃げ込んだ。布団を被って蹲る。
「まぁ、話の流れ上、そうなんだろうなって予想できたからね。じゃなきゃ、わざわざ助けたいだなんて、思わないだろうし。今のじゃ驚かないよ」
背中を摩ってあげようと思ったんだよ〜と言い訳しながら、彼女のお尻を触りたいと思う京楽のご意見。
「生きてる人が、実は死んでるって聞かされたら驚きません⁉︎ぼくはすっごい驚いたんですよ⁉︎目が覚めたら、死んだって聞かされてきた人が、ぼくの手を握ってたんですもん!お化けがいると思うじゃないですかぁ!ぼく、ビートルジュースとキャスパー以外のお化け苦手なんですよぉ!怖かったんですよぉ!おばけーッ😭」
ぷるぷると布団の塊が震えていた。布団の中は絶対に安全。お化けから逃れるための基礎である。これにハンディークリーナーがあれば、尚良し。
周囲からしてみれば。
「よく、死神が勤まっているな」
「そちらの方が驚きだ」
だ。
「お話進まんから、出ておいで〜」
市丸に促されたため、起き上がりはした。
「つまりですね、昨日の夜寝てたら、例のその日に戻っちゃって、ぼくは現実に志波副隊長を助けて、志波副隊長が生き延びた時間軸を新しく作っちゃったんですよ。この世界はぼくにとって異世界なんです‼︎‼︎☝️」
布団を被ったまま、指をビシッと指して断言した。
「今、なつみちゃんがちっちゃいお化けみたいだよ?😚」
「👻💢」
ハロウィンで、小さい子がシーツで仮装するあれである。
「トリックorトリートぉー‼️」
雄叫びと共に跳び上がり、スケッチブックに戻って、星印から線を一段下に向かって引っ張った。
「ぼくが元いた時間軸の世界では、この星マーク以降現在まで、十三番隊は副隊長不在でいたんです。志波副隊長の後任がいらっしゃらなかったんです。その代わりに、小椿仙太郎さんと虎徹清音さんのお2人が第三席として、隊長の補佐をされています」
なつみにとっての常識を語ったつもりだった。
「何っ⁉️アイツらが副隊長代理だと⁉️大丈夫か、そっちの世界‼️」
「もう1人の俺も同じように休みがちなら、実質、あの2人が隊を仕切っていることになるんだよな。他にやりようがあるだろうに、何故だ……」
海燕と浮竹、言い過ぎである。
「お二人共、失礼ですよ!あの方達は立派に三席を勤められているではありませんか!」
「そうですよ!ルキアさんの言う通りです。変なとこで驚かないでくださいよ☹️」
ルキアと、なつみは変な角度から、海燕と浮竹に注意した。そして、もう1人からもご指摘が。
「木之本の言う通り、驚くところはそこじゃねぇだろ💢」
日番谷だ。
「まず、過去に戻ったことに引っかかるだろうが。木之本がやったことだからと、すんなり受け入れすぎだ!
そいつの斬魄刀の全能の能力がそうさせたってんなら、100歩譲って納得してやる。だがな、当時の記録によれば、例の人物は斬魄刀を所持していなかった。使ったのは、1枚の布のみ。
志波の生還と時間経過のせいで、あの一件を調査しようと思う者は確かにいねぇだろうが、報告書を読めば、誰だってそいつに引っかかるはずだ。現に俺は未だに内容を記憶している。どう考えたって不可能だからだ。
志波が虚と融合しちまった時点で、浮竹はそいつを斬り捨てる選択をした。俺でもそうするだろう。それ以外にその場を収める方法が無ぇからな。だが、突然乱入してきた仮面野郎は、謎の布で志波を包み、志波の身体に入り込んだ虚だけを昇華させた。その虚に襲われ、殺された隊士たちの魂魄まで取り出していたらしい。そんなもんが信じられるか!
さも当然みてぇに話を進めるな。木之本、お前ぇの外套は何故そんなことができた。説明しろ。それをどこで手に入れたんだ。どうして誰も不思議に思わねぇんだ」
そう話終えるた日番谷の疑問に答えたのは、元柳斎であった。
「そうじゃの。普段なつみの面倒を見ておらん者にとって、気になる点じゃな。儂のもう一つの頼み事は、この会の最後に言うとしよう。なつみ、日番谷のために説明してあげなさい。皆とも記憶違いがあるやもしれん。外套についてと、昨日何をしたかを話して聞かせなさい」
「わかりました」
長くなる話の前に、すぅと呼吸を整えるなつみ。どんなことを聞かされるのかと、心の準備をする周囲。そして彼女の口が開く。
「その前に、喉乾きません?」
コケッ‼️‼️⁉️💦
「なつみちゃーん‼︎💦」
「せっかく集中してたんに、隊長全員コケさせんといて‼︎😅」
「だって!あんまりみなさんがぼくに注目するから、緊張しちゃって💦」
「木之本くんらしいな😅」
「ああ。深刻な雰囲気が持続できん」
「お茶を淹れてきましょう。皆さんの分もご用意しますね」
「わ、私も手伝います、卯ノ花隊長!」
「おう、行ってこい、朽木」
「お前もついていけよ、海燕」
「あ!お見舞いの品がいっぱいあったんですよ!あんなにフルーツたくさん食べきれないから、困ってたんです。お茶と一緒に食べながらお話ししましょ😆」
「多すぎたか」
「あれ、朽木隊長がくださったんですか。気になさらないでください。とってもうれしかったですから!パイナップルにテンションぶち上げっす!」
「そうか」
「そんじゃ、切って来よーっと。卯ノ花隊長、待ってくださーい!」
「最早ティーパーティーだな」
「すっかり元気になって。走って行ってしまったよ」
「朝はどうなることかと思っていたのにな」
「しばし休憩じゃの…」
「じゃ、今のうちに便所行っとくか」
「自由だな」
「行きたい者は、済ませておけよ」
「えー、十一番隊長さんと連れションとか、嫌やわ〜。別の階にしよっ」
「ボクは何しよっかな〜」
「その布団でも畳んでやれ」
「そうだね。ん〜!なつみちゃんのかわいい匂いがする🥰」
「抱くな!嗅ぐな!畳め!」
(変態だな)
「はぁ…(とんでもねぇことが起きたってのに、呑気すぎる💢)」
これがなつみのいる世界である。