第五章
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それから数日後の夜。今度は藍染とお食事会。貴族たちが気楽に訪れるような、はんなりとしたエリアに来ていた。
(やっぱこれ、デートだよね。2人きりだもんね。デートだな。おう、デートだ。やめてくれー‼︎藍染親衛隊に刺されたら、どうしてくれるぅ‼︎)
藍染の一歩斜め後ろを歩くなつみは緊張していた。
「この辺りは普段来ないから、そんなに緊張しているのかな?」
「はい。それもありますけど、なんだか、その…///」
「逢い引き、みたい?」
ズバリと言われて、シュゥゥと顔が赤くなる。
「誰かに見られて、誤解されて嫉妬されて、刺されちゃったら、どうしましょう///」
「フフッ、そうならないように、僕が守ってあげなきゃね」
さらっとそんなことを言ってしまう。裏も表も罪な男よ。
「あそこの店だよ」
目的地が見えたら迷子になりようがないのに、藍染はなつみの手を取った。
「守ってあげる」
にっこり笑ってくれたのだが、なつみの内心では。
「(勘弁してくれよぉぉぉ‼︎‼︎見せつけちゃってるよ。逆効果だよ‼︎逆撫でだよぉぉぉ‼︎‼︎)ありがとうございます😅」
卒業旅行以来、なつみは肉食を控えており、藍染に何が食べたいかきかれ、美味しい野菜と答えたため、結論、天ぷら屋で食事をすることになった。
「ナスの天ぷら大好きなんです😋」
「そうなんだ。美味しいよね。僕は山菜も好きだよ」
「うぅ、苦くてダメです」
ういーっと顔をしかめ、なつみの口内では苦味が思い出されていた。
「まさか、ピーマンが食べられないなんて、お子様みたいなこと言わないよね」
「むぅ!」
「言わないけど、嫌いってことだね(笑)」
店内の雰囲気はとても落ち着いており、歌って踊っても良いところでは無いのは確かだった。
「この後稽古をするから、お酒は飲まないよね」
「はい。というか、そうでなくとも、そもそも市丸隊長から禁酒命令出てますんで」
「ん?何で?(笑)」
「言えないです‼︎」
ぷっ!と両手で口を押さえるなつみ。
「怪しいなぁ。どんな失敗をしたのかな。気になる」
藍染は見透かそうとする視線を送るが。
「言わないですぅ‼︎‼︎」
なつみはその視線から逃れようと、お品書きで顔を隠した。酔うとキス魔になるんですーとは言えないので。
席に運ばれてきたのは、色とりどりの野菜天ぷら盛り。ナス、ニンジン、大葉、さつまいも、カボチャ、ごぼう、レンコン、タケノコ、舞茸などなど。何から食べようかしらと、なつみ側のラインナップから、藍染の方へと首を伸ばして見てみると。
「あ‼︎」
「何?」
「ちっちゃいピーマン😣」
緑色の憎い奴が2本寄り添っていた。
「ピーマンじゃないよ。ししとうだよ(笑)」
「一緒です!」
やはりナスから手を伸ばすなつみ。
「木之本くん、好き嫌いは感心しないな。何でもたくさん食べて、身体を強くしないと、成長できないよ」
「身長のことですか😠」
「それだけじゃないよ(笑)」
「苦いは毒です!」
「そんなに苦くないから、ひとつくらい食べてごらん?せっかく作ってもらったんだし。それに、ピーマンはダメでも、ししとうは食わず嫌いなだけかもしれないよ。はい。自分が大人だと言うなら、食べてみなさい」
ししとうをひとつ、小皿に取って、藍染はなつみの前に差し出した。
むぅぅとししとうを睨むなつみ。思い返される自身の常套句、「ぼくは大人です」。
「むぅぅぅ」
「騙されたと思って。ほら」
「んー!わかりましたよぉ」
ぱくっと大人ななつみは、ししとうを口に放り込んだ。すると。
「んーーーーーッ⁉️⁉️⁉️」
「あれ?」
椅子に座ったまま、ジタバタとなつみは悶え始めた。
「辛ぁーーーいッ🔥🔥🔥」
その反応に。
「まさか」
目を丸く開いて驚いたが、なつみのリアクションと自分が導いてしまった成り行きがおもしろくて。
「あははははははっ😂」
藍染は大笑いをした。
「騙されたぁーーーッ‼️‼️」
「ごめんっ、本当に騙しちゃった。でもわざとじゃないよ。たまたま偶然辛いのに当たってしまっただけだからね。怒らないで(笑)」
これで、なつみの嫌いなものリストにある「ししとう」が太字になったのは、言うまでもない。
「どうされましたか、藍染様💦」
なつみの騒ぎ声に驚いて、お店の大将が駆けつけた。
「すいません。騒がしくしてしまって(笑)」笑い過ぎて涙が出ている藍染。「彼女が辛いししとうを食べて、びっくりしてしまったんです。木之本くん、お茶飲んで落ち着いて(笑)」
「そうでしたか。すみません。お口に合わないものをお出ししてしまって」
「そんな、謝らないでください。食べてみないとわからないものなので、気にしないで。避けようがありませんよ」
「避けようとしてたのに、藍染隊長が食べさせたんじゃないですかぁ‼︎」
ごもっともな反論に、口を押さえて、笑うのを堪えるように藍染は。
「ごめんっ…(笑)」
ぷるぷる震えていた。
カボチャで何とか辛みを忘れられたら、もうなつみは藍染にかまわず、好きな物を食べようと決めた。ちょっと彼が嫌いになっていた。
「藍染隊長は悪者です!」
「プッ💦」
余りにも早い段階で悟られてしまったようで、一瞬ドキッとしたが、核心をついたわけではないのだろうと思い、かわいくぷんすかするなつみに許しを乞う。
「そうだね。僕が悪かった。これからは君に無理強いしたりしないから、許してくれないかな?」
口を尖らせて藍染を見つめた。
「むぅ、じゃあ、そのししとう食べちゃってください。ぼく、もういりませんからっ」
食べたら許してもらえるようなので、責任を持って、残ったししとうを食べた。
(こっちだったか…💧)
辛くなかったらしい。
2人がこのようにお出かけしているのは、前回の稽古を藍染が用事があるからと早めに切り上げてしまったお詫びということであったが、なつみの方も仲間とどんちゃん騒ぎをしていたので、わざわざデートをしなくてもと思っていた。しかし、藍染がどうしてもと言うので、ご厚意に甘えることにしたのだった。食事を終えたら、五番隊舎に戻り、本日の稽古をする予定である。
せっかくの機会ならば、なつみは藍染とお話をしようと、ずっと心に秘めていたことを打ち明け始めた。
「あの、藍染隊長。相談を聞いていただきたいのですが」
「うん。良いよ。何かな」
箸を一旦置いて、改まった姿勢になるなつみ。
「鬼道のことですが、ぼくは、その…、やっぱり、向いてないですよね」
らしくない弱気な発言を前に、藍染も箸を置いた。
「どうして、そう思うのかな」
なつみの視線は下を向いていた。
「詠唱は間違えずにできていますし、霊力も放てているので、どの技も、一応カタチにはなっていますが、どれも、合格点をもらえるほどの出来ではないと感じてます」
「うん…」
「……、どうして、そのことを指摘していただけないのでしょうか。いつも、『ちゃんと出来てるよ』とは言っていただけますが、絶対、違いますよね。あんなのじゃ、実戦では通用しないかもしれないのに」
「僕に叱って欲しいの?」
「違います」
ふるふると横に首を振る。
「ちゃんと出来ているのは本当のことだよ。でも君の言う通り、君の放つ鬼道は弱い。君がそれを認識しているのは良いことだけどね」
「…またそうやって褒める」
ぼそりとつぶやいた。
「木之本くん、君がそのことに気付いているのなら、何故そうなってしまうのかも考えているはずだよね。思い当たることは見つけられたかな」
嫌われたりしないかなと、チラと藍染の表情を確認して話す。
「ぼく…、鬼道の詠唱に使われる言葉が、苦手なんです。強い言葉が並んでいて、あんまり言いたくないというか…」
そう思っていることで、藍染をガッカリさせてしまうのではと案じていたなつみだったが、実際は違っていた。話を聞く藍染は温かい目で微笑んでいた。
「大正解だよ、木之本くん。やはり、君は賢いね」
怒りも、失望もしない。また褒めてきた。
「藍染隊長が見てくださるので、ぼくもお応えしなきゃと思うんですけど、上手くできそうになくて、これ以上はお付き合いしていただくのもご迷惑ではないかと、段々思えてきて……」
そこでようやく藍染の瞳は、寂しさでややかげったような。
「辞めたくなってしまったんだね」
申し訳なくて、なつみは顔を上げられない。下唇をきゅっと噛んで、ごめんなさいと何度も心の中で謝った。
「木之本くん」
呼ばれたので、おずおずと視線を上げてみると、藍染の姿が消えていた。
「今まで黙っていたことを言うよ」
向かいに座っていたはずの彼は、その席を立ち、なつみの隣の椅子に腰を下ろした。無理をして自分の目を見て話さなくても大丈夫だと。なつみに寄り添ってあげたいという想いの距離に近づいたのだ。
「初めて君と出会ったときに、僕はすぐに感じたんだ。君は、戦えない子なんだろうなって」
そんなことはないと、反射的に反論しようと口を開いたが、声が出なかった。その通りだったから。
「優しい眼差しをしているからね。死神であることが不思議なくらいに」
つまりそれは。
「つまり、ぼくは死神すら向いてないってことですね…」
そりゃそうだという実績ではあるが。
どんどんと縮こまるなつみの頭を、藍染は愛情たっぷり込めて撫でてあげる。
「良いかい?木之本くん。向き不向きと、できるできないは別物だよ。
君は確かに死神に向いていない。本来なるべき子ではなかったと思う。どんな相手でも良いところを見つけて、好きになってしまうからね。敵という概念を誰かに当てることができないんじゃないかな。
でもそれは、気分の問題でしかないよ。気持ちの問題だ。君が心底怒れるようなことが起きれば、敵と戦うという意志が湧いてくるはずだ。そうなれば、君は今までいろんな人たちに教えてもらった技を、戦闘の場で、全力で繰り出すことができると思うんだ。君にはその可能性がある。実力はあるんだ。ちゃんと、君が尊敬するお兄さんの背中を追えている。
そう見えるから、僕は君を諦めたりしないんだよ。君に稽古をつけている時、いつでも、『こうしていることは無駄じゃない。いつか必要になる時が来る』そう思っているんだ。
君に鬼道への苦手意識があるのはわかる。でもね、今はそれでも良いんだ。だって、練習だから。言葉に想いが乗せられなくても、仕方がない。フフッ、普通、講師だったら、『練習だとしても、本番のつもりで、本気で相手を倒しにいきなさい』って言うのにね(笑)」
お話を聴くと、なつみには疑問に思うことが見つかった。
「藍染隊長だって優しい目をお持ちですよ。なのに」
頷きひとつ。
「鬼道を使えているね」
優しさが、偽りのものだから?
「木之本くんは、大切なものを護りたくて、強くなりたいんだよね」
「はい」
「護るということは、攻めてくる敵がいるということだよ」
「…、そうなりますね」
「敵は倒してやらないと、いつまでも攻撃し続けてくるから、早く終わらせないと、大変だよ」
うんうん。
「敵を倒すって、何をした結果のことかな」
「…戦い、です」
「うん。戦うとは、攻撃をすること。つまり、相手を傷つけるということ。優しい君には難しいことだ。残酷さ、痛み、苦しみを嫌う君にはね。けれど、わかるね…」
なつみ。
「戦いに勝利するには、それらが必ず伴う」
どうか君は、
「何故僕は鬼道を強く放てるのか。それは、何かを護る時、僕は迷わず敵に勝ちたいと思えるから」
そのままでいて欲しい。
「そうしなければ、護り抜けないから」
だが、
「もしも君にとって、許せないことをされたなら、込み上げる怒りを抑えてはいけない。君を否定する者を許してはいけないよ。
僕は思うんだ。正義か悪かは、自分が決めることでしかないって。ならば、自分に向かってくる者が悪だよ。そして、それを倒せば悪は消える。正義が勝って、平和が護られるんだ」
私が護ってあげられない時は、
「よく覚えておいて、木之本くん。戦わなければならなくなったら、優しさは護るものがいる背中へ回して、怒りと正義と殺意を敵に向けなさい。心配することはないよ。敵が君に倒され、命を落としても、君は悪くない。敵をかわいそうと思う必要もない。君が何かを護ることは、正しいことだから」
「そんな、鬼みたいなこと……」
「優しさと残酷さは同時に持てるものだ。やらないだけで、君にもできる。今すぐでも、いつでもだなんて言わない。敵が現れ、戦い、剣を振り、鬼道を放つ時だけで良い。
鬼が悪だと誰が決めた。強くなれるのなら、躊躇わずに
鬼に、なりなさい。
わかったかい?その時のために、鍛錬を積んでいくんだ。練習で上手くできなくても大丈夫。君なら必要な時に、ちゃんとできるはずだからね」
(やっぱこれ、デートだよね。2人きりだもんね。デートだな。おう、デートだ。やめてくれー‼︎藍染親衛隊に刺されたら、どうしてくれるぅ‼︎)
藍染の一歩斜め後ろを歩くなつみは緊張していた。
「この辺りは普段来ないから、そんなに緊張しているのかな?」
「はい。それもありますけど、なんだか、その…///」
「逢い引き、みたい?」
ズバリと言われて、シュゥゥと顔が赤くなる。
「誰かに見られて、誤解されて嫉妬されて、刺されちゃったら、どうしましょう///」
「フフッ、そうならないように、僕が守ってあげなきゃね」
さらっとそんなことを言ってしまう。裏も表も罪な男よ。
「あそこの店だよ」
目的地が見えたら迷子になりようがないのに、藍染はなつみの手を取った。
「守ってあげる」
にっこり笑ってくれたのだが、なつみの内心では。
「(勘弁してくれよぉぉぉ‼︎‼︎見せつけちゃってるよ。逆効果だよ‼︎逆撫でだよぉぉぉ‼︎‼︎)ありがとうございます😅」
卒業旅行以来、なつみは肉食を控えており、藍染に何が食べたいかきかれ、美味しい野菜と答えたため、結論、天ぷら屋で食事をすることになった。
「ナスの天ぷら大好きなんです😋」
「そうなんだ。美味しいよね。僕は山菜も好きだよ」
「うぅ、苦くてダメです」
ういーっと顔をしかめ、なつみの口内では苦味が思い出されていた。
「まさか、ピーマンが食べられないなんて、お子様みたいなこと言わないよね」
「むぅ!」
「言わないけど、嫌いってことだね(笑)」
店内の雰囲気はとても落ち着いており、歌って踊っても良いところでは無いのは確かだった。
「この後稽古をするから、お酒は飲まないよね」
「はい。というか、そうでなくとも、そもそも市丸隊長から禁酒命令出てますんで」
「ん?何で?(笑)」
「言えないです‼︎」
ぷっ!と両手で口を押さえるなつみ。
「怪しいなぁ。どんな失敗をしたのかな。気になる」
藍染は見透かそうとする視線を送るが。
「言わないですぅ‼︎‼︎」
なつみはその視線から逃れようと、お品書きで顔を隠した。酔うとキス魔になるんですーとは言えないので。
席に運ばれてきたのは、色とりどりの野菜天ぷら盛り。ナス、ニンジン、大葉、さつまいも、カボチャ、ごぼう、レンコン、タケノコ、舞茸などなど。何から食べようかしらと、なつみ側のラインナップから、藍染の方へと首を伸ばして見てみると。
「あ‼︎」
「何?」
「ちっちゃいピーマン😣」
緑色の憎い奴が2本寄り添っていた。
「ピーマンじゃないよ。ししとうだよ(笑)」
「一緒です!」
やはりナスから手を伸ばすなつみ。
「木之本くん、好き嫌いは感心しないな。何でもたくさん食べて、身体を強くしないと、成長できないよ」
「身長のことですか😠」
「それだけじゃないよ(笑)」
「苦いは毒です!」
「そんなに苦くないから、ひとつくらい食べてごらん?せっかく作ってもらったんだし。それに、ピーマンはダメでも、ししとうは食わず嫌いなだけかもしれないよ。はい。自分が大人だと言うなら、食べてみなさい」
ししとうをひとつ、小皿に取って、藍染はなつみの前に差し出した。
むぅぅとししとうを睨むなつみ。思い返される自身の常套句、「ぼくは大人です」。
「むぅぅぅ」
「騙されたと思って。ほら」
「んー!わかりましたよぉ」
ぱくっと大人ななつみは、ししとうを口に放り込んだ。すると。
「んーーーーーッ⁉️⁉️⁉️」
「あれ?」
椅子に座ったまま、ジタバタとなつみは悶え始めた。
「辛ぁーーーいッ🔥🔥🔥」
その反応に。
「まさか」
目を丸く開いて驚いたが、なつみのリアクションと自分が導いてしまった成り行きがおもしろくて。
「あははははははっ😂」
藍染は大笑いをした。
「騙されたぁーーーッ‼️‼️」
「ごめんっ、本当に騙しちゃった。でもわざとじゃないよ。たまたま偶然辛いのに当たってしまっただけだからね。怒らないで(笑)」
これで、なつみの嫌いなものリストにある「ししとう」が太字になったのは、言うまでもない。
「どうされましたか、藍染様💦」
なつみの騒ぎ声に驚いて、お店の大将が駆けつけた。
「すいません。騒がしくしてしまって(笑)」笑い過ぎて涙が出ている藍染。「彼女が辛いししとうを食べて、びっくりしてしまったんです。木之本くん、お茶飲んで落ち着いて(笑)」
「そうでしたか。すみません。お口に合わないものをお出ししてしまって」
「そんな、謝らないでください。食べてみないとわからないものなので、気にしないで。避けようがありませんよ」
「避けようとしてたのに、藍染隊長が食べさせたんじゃないですかぁ‼︎」
ごもっともな反論に、口を押さえて、笑うのを堪えるように藍染は。
「ごめんっ…(笑)」
ぷるぷる震えていた。
カボチャで何とか辛みを忘れられたら、もうなつみは藍染にかまわず、好きな物を食べようと決めた。ちょっと彼が嫌いになっていた。
「藍染隊長は悪者です!」
「プッ💦」
余りにも早い段階で悟られてしまったようで、一瞬ドキッとしたが、核心をついたわけではないのだろうと思い、かわいくぷんすかするなつみに許しを乞う。
「そうだね。僕が悪かった。これからは君に無理強いしたりしないから、許してくれないかな?」
口を尖らせて藍染を見つめた。
「むぅ、じゃあ、そのししとう食べちゃってください。ぼく、もういりませんからっ」
食べたら許してもらえるようなので、責任を持って、残ったししとうを食べた。
(こっちだったか…💧)
辛くなかったらしい。
2人がこのようにお出かけしているのは、前回の稽古を藍染が用事があるからと早めに切り上げてしまったお詫びということであったが、なつみの方も仲間とどんちゃん騒ぎをしていたので、わざわざデートをしなくてもと思っていた。しかし、藍染がどうしてもと言うので、ご厚意に甘えることにしたのだった。食事を終えたら、五番隊舎に戻り、本日の稽古をする予定である。
せっかくの機会ならば、なつみは藍染とお話をしようと、ずっと心に秘めていたことを打ち明け始めた。
「あの、藍染隊長。相談を聞いていただきたいのですが」
「うん。良いよ。何かな」
箸を一旦置いて、改まった姿勢になるなつみ。
「鬼道のことですが、ぼくは、その…、やっぱり、向いてないですよね」
らしくない弱気な発言を前に、藍染も箸を置いた。
「どうして、そう思うのかな」
なつみの視線は下を向いていた。
「詠唱は間違えずにできていますし、霊力も放てているので、どの技も、一応カタチにはなっていますが、どれも、合格点をもらえるほどの出来ではないと感じてます」
「うん…」
「……、どうして、そのことを指摘していただけないのでしょうか。いつも、『ちゃんと出来てるよ』とは言っていただけますが、絶対、違いますよね。あんなのじゃ、実戦では通用しないかもしれないのに」
「僕に叱って欲しいの?」
「違います」
ふるふると横に首を振る。
「ちゃんと出来ているのは本当のことだよ。でも君の言う通り、君の放つ鬼道は弱い。君がそれを認識しているのは良いことだけどね」
「…またそうやって褒める」
ぼそりとつぶやいた。
「木之本くん、君がそのことに気付いているのなら、何故そうなってしまうのかも考えているはずだよね。思い当たることは見つけられたかな」
嫌われたりしないかなと、チラと藍染の表情を確認して話す。
「ぼく…、鬼道の詠唱に使われる言葉が、苦手なんです。強い言葉が並んでいて、あんまり言いたくないというか…」
そう思っていることで、藍染をガッカリさせてしまうのではと案じていたなつみだったが、実際は違っていた。話を聞く藍染は温かい目で微笑んでいた。
「大正解だよ、木之本くん。やはり、君は賢いね」
怒りも、失望もしない。また褒めてきた。
「藍染隊長が見てくださるので、ぼくもお応えしなきゃと思うんですけど、上手くできそうになくて、これ以上はお付き合いしていただくのもご迷惑ではないかと、段々思えてきて……」
そこでようやく藍染の瞳は、寂しさでややかげったような。
「辞めたくなってしまったんだね」
申し訳なくて、なつみは顔を上げられない。下唇をきゅっと噛んで、ごめんなさいと何度も心の中で謝った。
「木之本くん」
呼ばれたので、おずおずと視線を上げてみると、藍染の姿が消えていた。
「今まで黙っていたことを言うよ」
向かいに座っていたはずの彼は、その席を立ち、なつみの隣の椅子に腰を下ろした。無理をして自分の目を見て話さなくても大丈夫だと。なつみに寄り添ってあげたいという想いの距離に近づいたのだ。
「初めて君と出会ったときに、僕はすぐに感じたんだ。君は、戦えない子なんだろうなって」
そんなことはないと、反射的に反論しようと口を開いたが、声が出なかった。その通りだったから。
「優しい眼差しをしているからね。死神であることが不思議なくらいに」
つまりそれは。
「つまり、ぼくは死神すら向いてないってことですね…」
そりゃそうだという実績ではあるが。
どんどんと縮こまるなつみの頭を、藍染は愛情たっぷり込めて撫でてあげる。
「良いかい?木之本くん。向き不向きと、できるできないは別物だよ。
君は確かに死神に向いていない。本来なるべき子ではなかったと思う。どんな相手でも良いところを見つけて、好きになってしまうからね。敵という概念を誰かに当てることができないんじゃないかな。
でもそれは、気分の問題でしかないよ。気持ちの問題だ。君が心底怒れるようなことが起きれば、敵と戦うという意志が湧いてくるはずだ。そうなれば、君は今までいろんな人たちに教えてもらった技を、戦闘の場で、全力で繰り出すことができると思うんだ。君にはその可能性がある。実力はあるんだ。ちゃんと、君が尊敬するお兄さんの背中を追えている。
そう見えるから、僕は君を諦めたりしないんだよ。君に稽古をつけている時、いつでも、『こうしていることは無駄じゃない。いつか必要になる時が来る』そう思っているんだ。
君に鬼道への苦手意識があるのはわかる。でもね、今はそれでも良いんだ。だって、練習だから。言葉に想いが乗せられなくても、仕方がない。フフッ、普通、講師だったら、『練習だとしても、本番のつもりで、本気で相手を倒しにいきなさい』って言うのにね(笑)」
お話を聴くと、なつみには疑問に思うことが見つかった。
「藍染隊長だって優しい目をお持ちですよ。なのに」
頷きひとつ。
「鬼道を使えているね」
優しさが、偽りのものだから?
「木之本くんは、大切なものを護りたくて、強くなりたいんだよね」
「はい」
「護るということは、攻めてくる敵がいるということだよ」
「…、そうなりますね」
「敵は倒してやらないと、いつまでも攻撃し続けてくるから、早く終わらせないと、大変だよ」
うんうん。
「敵を倒すって、何をした結果のことかな」
「…戦い、です」
「うん。戦うとは、攻撃をすること。つまり、相手を傷つけるということ。優しい君には難しいことだ。残酷さ、痛み、苦しみを嫌う君にはね。けれど、わかるね…」
なつみ。
「戦いに勝利するには、それらが必ず伴う」
どうか君は、
「何故僕は鬼道を強く放てるのか。それは、何かを護る時、僕は迷わず敵に勝ちたいと思えるから」
そのままでいて欲しい。
「そうしなければ、護り抜けないから」
だが、
「もしも君にとって、許せないことをされたなら、込み上げる怒りを抑えてはいけない。君を否定する者を許してはいけないよ。
僕は思うんだ。正義か悪かは、自分が決めることでしかないって。ならば、自分に向かってくる者が悪だよ。そして、それを倒せば悪は消える。正義が勝って、平和が護られるんだ」
私が護ってあげられない時は、
「よく覚えておいて、木之本くん。戦わなければならなくなったら、優しさは護るものがいる背中へ回して、怒りと正義と殺意を敵に向けなさい。心配することはないよ。敵が君に倒され、命を落としても、君は悪くない。敵をかわいそうと思う必要もない。君が何かを護ることは、正しいことだから」
「そんな、鬼みたいなこと……」
「優しさと残酷さは同時に持てるものだ。やらないだけで、君にもできる。今すぐでも、いつでもだなんて言わない。敵が現れ、戦い、剣を振り、鬼道を放つ時だけで良い。
鬼が悪だと誰が決めた。強くなれるのなら、躊躇わずに
鬼に、なりなさい。
わかったかい?その時のために、鍛錬を積んでいくんだ。練習で上手くできなくても大丈夫。君なら必要な時に、ちゃんとできるはずだからね」