第四章
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羊がおうちに帰る時間は、ケイティがお仕事をする時間でもある。放牧場からおうちへと、羊たちを導いていくのだ。そのテキパキとした働きぶりに感銘を受けた2人が、牧羊死神として、ケイティのお手伝いをしてみることにする。
「いくぞ、木之本」
「おうよ!レンは左から追え!ぼくは右から行くぞ!」
羊の最後尾に着き、ケイティのマネをして吠える。
「「せーのッ‼️ワンワンワンワンワンッ🙌」」
牧羊死神も、なかなかの働きを見せた。
「何でアイツら、羊飼いじゃなくて、牧羊犬の方をリスペクトしてんの」
「事件は会議室で起きてるんじゃなくて、現場で起きてるからじゃない?」
「どゆこと?」
非日常を余すことなく楽しむなつみたちであった。
「ワォーン‼️」
すっかり日も暮れて、晩御飯の時間となった。今夜はバーベキューパーリーである。
「ナスとカボチャ焼けたー?」
「肉食わないのか?」
「なつみはあんまり肉食べないよね。きのこは焼けてるよ」
「このとうもろこし、うまいな」
「ね!白いの初めて食ったわ」
「焼きそばできたぞー」
「できたぞー😆」
「お!待ってましたー」
お酒とジュースで乾杯し、旅行1日目を振り返る。
「こんなに楽しくて良いんでしょうか」
「良いんじゃねーの?」
「動物たちがかわいくて、良いんじゃねーの?」
「癒されたよね〜。1歩も踏み出してくれない馬に跨った尾田に(笑)」
「ダーハハッ‼️あれ傑作だった‼️🤣」
「うるせぇ!あの子とは、相性が悪かっただけだ。きっと別の馬だったら、ちゃんと歩いてくれたよ」
「『ハイヤー!』『ハイドー!』完無視されてやんの😙」
「座るまではできてたから、一応、乗馬したとは言えるぜ😏」
「アーもう!そんなにイジるなよ😣」
「尾田ー、そんなに落ち込むなよ。明日でも、それがダメなら明後日でも、また挑戦すりゃ良いじゃん!あの子と仲良くなりゃーよ!尾田が良い奴だってわかってもらえれば、ちゃんと乗せてくれるからさぁ」
おいしく焼けたナスをかじりつつ、なつみが言った。
「そう思う?」
「おお!ぼくも初め、尾田のことめんどくせぇ奴だと思って引いてたもん(笑)」
「おい」
「でーも、こうして仲良くなってるだろ?あの時みたいに、諦めずに会いに行けって。そしたらうまくいく!そこがお前の良さだから😁」
「…///」言葉にならないこの想いとはこのこと。「おう…、おーぅ///」急に褒められちゃって、おーぅしか言えない尾田先生。なつみに初めて声をかけたときのことも思い出す。「おーぅ///」
そんな風に照れる尾田の頭をくしゃくしゃ撫でる優しい手が。
「泉水ちゃんは、やればできる子」
「やめろ、李空💢」
「ぃやだぁ〜、BL😚⁇ルームメイト以上のカンケイが、ここにはあるのね💕」
こういう時は、何故かオネエになるなつみ。性別をいくつも飛び越える。
「あー!」
クーちゃんが何かに気付いて、声を上げた。
「どうした」
「あれ見て」
指差したのは、キャンプ場使用上の注意が書かれた看板。
「『手持ち花火のみ、持ち込み可』だってさ。持ってこれば良かったね」
「わー、ほんとじゃん。なんか、言われるとやりたくなってきちゃうね」
「手持ちより、打ち上げ花火の方が良くねーか」
「あ、そっち派の人?」
「でっかいの見たい系?」
「見たい系✋」
「どっちも好き系🙌」
「久しぶりに線香花火やりたいな」
「でっかいずーたいで、こぢんまりなの好きな、お前」
「手持ちといえば、線香花火だろ?」
「打ち上げといえば?」
「にしきかむろぉー‼️ドカーン‼️」
尾田が小さな線香花火を推せば、なつみは大きな錦冠を推す。つまりそれは。
「無いモノねだり😄?」
クーちゃんの言う通り。
用意した食材も食べ終わり、片付けを始めた時だった。
モ〜、モ〜♪
尾田のポケットが牛の鳴き声を響かせながら震えた。
「誰だよ、勝手に着信音変えたの」
「はいはーい✋牧場に来たから、牛さんにしてみた。郷に入っては郷に従えだ😤」
「意味わかんねーわ‼️つか、紛らわしい‼️バイブ無かったら、気付かねぇぞ」文句を言いつつ、通話ボタンを押す。「はい、尾田です」
「あ、尾田くん!みんなと一緒にいるかしら?牛の陣痛が始まったの!すぐ牛舎に来れるかな?」
「おー!マジっすか!えっと、今、飯食い終わって、片付けしてるんですけど。急がないと間に合わなさそうですか?」
「早く来た方が良いかも」
「了解です。じゃあ、すぐ行きます。連絡ありがとうございます!」
通話を終えた尾田に内容を確認するまでもなく、6人は素晴らしい連携で洗い物やらゴミの分別をしていた。だが、炭と焦げ付いた網が残っており、もう少し時間がかかりそうだった。
「とりあえず、木之本は先に行けよ。お前が一番楽しみにしてたんだから」
「そうだって。俺らに構わず、先に行けぇ‼️」
「良いの?うーっ😣」
気遣ってそう言ってもらったが、片付けを途中でほっぽるのも悪い気がするなつみ。こうしている間にも、出産は進行しているのだが、どうすべきか判断ができなかった。そこで。
「よし!じゃ、あとはお前らに任せた!👍」
「とっとと行くぞ、木之本!」
「あわっ💦」
優柔不断ななつみの手を引っ張ってくれたのは、クーちゃんとレンだった。
「悪ぃー!先に行くー!」
2人のおかげで脚が進んだ。
「お前らも早く来いよー‼️」
夜の闇に紛れて、こっそり瞬歩でバーベキュー場をあとにした。
暖色の光が洩れる牛舎からは、昼間に聞いた優しい声とは違う、強めの鳴き声が聞こえてきた。
「モーッ」
「女将さーん!来たよー!」
「あ!来た来た!3人だけ?」
「はい。バーベキューしてたんで、まだ片付けが途中なんですよ」
「そっか。ちゃんと4人にお願いしてきた?」
「もちろんです!」
「ならOKね。あとでお礼言うのよ」
「はーい✋」
30歳と聞いたが、やはりなつみを子供扱いしてしまう女将さんである。
「ついてきて。こっちの部屋にいるの。柵の近くまで来て良いけど、中には入らないようにね」
牛舎の通路を先導する女将さんのあとを、なつみたちはついていった。
「陣痛が始まって、どれくらいですか?」
「40分てとこかな。まだ脚は出てきてないけど、どうなるかわからないから、早めに来てもらったって感じ」
「そうなんですね。あ、あのコですか」
「そう!」
牧場スタッフに付き添われている牛が、落ち着かない様子で立っていた。
「ここで見ててね」
女将さんに指示された場所から、妊婦の様子を伺う。
「痛いのかな」
「そのはずよ。赤ちゃんって言っても、40〜50㎏あるんだから」
「ウソー!」
牛を刺激しないように小声で喋るも、語気が強くなってしまう。
「母親ってすげぇ」
「出産は大変なことなの!感謝しなさいよ、あなたたちを産んでくれたお母さんに。それに、なつみちゃんはこの経験をこれからするんだから、しっかり見届けて、予習しなさい😤」
「うぅぅ💦できるかなぁ💦」
「なるようになるわよ!祈って、踏ん張る!」
「ほぇー😣元気に産まれておいで、赤ちゃーん‼️」
それから数十分経ち、ようやく前脚が突き出てきた。
「あー!ほら、出てきたよ」
そのタイミングで、尾田たち4人がなつみたちの居るところに合流した。
「よぉ、どんな感じ?って、何で紐で括ってるんですか⁉︎」
「お疲れ様、みんな。最高のタイミングね!見やすいところにおいで」女将さんが解説してくれる。「これでも、今のところ順調なのよ。脚が出てきたら、紐で縛って、それをこのスタッフたちが引っ張るの。そうすることで、このコの出産の負担を減らしてあげるんだよ」
「へぇー」
負担が減るとはいえ、妊婦の声は強く響く。
「モォーッ」
「うぅっ。がんばれがんばれ!」
いつかの自分を想像すると、なつみの祈りも強くなった。
頭まで出てくると、そこからは早かった。羊膜を破り、つるーーーーーんと赤ちゃん牛が産み落ちてきた。
「うわ〜、産まれたよぉ💖」
スタッフたちが手際よく、赤ちゃんを藁で拭いてあげて血流を促し、鼻と口を綺麗にして呼吸しやすくしてあげた。
「かわいいね〜。元気そうじゃん😊」
「ね!ほら、鳴いたよ」
「お母さんと比べたら小さいけど、やっぱ、赤ちゃんと呼ぶにはでけぇって(笑)」
「無事に産まれて、よかったよー😭」
「泣かなくて良いですよ〜、お父さーん」
「見ろよ、お母さんが赤ちゃんを舐めてやってる。母性ってやつだな」
「むううううー!ぎゅーしたーい!」
見学者たちが感想を言い合っている間、赤ちゃんへのお世話はどんどん進んでいく。スタッフの1人が、ミルクの入った容器を赤ちゃんの口に向けてやった。
「飲むかなー」
「まだいらないかな?」
まだその気にはなってない様子。
「お母さんのお乳を飲むとね、免疫力がついて、もっと元気になるのよ」
「ほぉー、なら飲まなきゃ」
「ここのソフトクリームおいしかったもん。お母さんのお乳も絶対おいしいよ!飲みに行きな?」
なつみのその言葉を聞いたからか、赤ちゃんは大きな哺乳瓶の先を咥えに、頭を動かした。ちゅぱちゅぱ。
「ふふっ、飲んだね」
「うまそ〜に飲んでる」
「がっついてるね」
「女将さん、この子に何て名前付けるんですか?」
「名前…?」
クーちゃんは気軽にそんな質問をしてしまったが、女将さんは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「このコたちにはね、名前は付けないの。個体を識別するために番号は振られるけど」体をみんなの方へ向ける。「ペットじゃないからね」
スタッフの方がこちらに来た。
「赤ちゃんは男の子でした。とっても元気なので、そろそろ立ち上がるかもしれませんよ」
見てみると、心配になるほどクラクラと脚が震えているが、しっかりと踏み込もうとする赤ちゃんの姿があった。
「良いぞ!その調子だ!」
「男の子だろ。根性見せろ!がんばれ!」
みんなの声援に応えるように、赤ちゃんはフゥゥンと4本の脚に力を入れた。お母さんも優しく見守っている。
「モフッ🐮」
「立った‼️」
次々と繰り広げられる奇跡のような光景に、なつみは嬉しくて、小さく拍手をしていた。
「すごい…、すごいよ」
立てたならばその次は、歩きたくなるもので、目指すは母親のおっぱいだ。
「どうしてこんなに嬉しいんだろう。自分のことじゃないのに、ただ見てるだけで、すごく嬉しいよ」
感動しっぱなしのなつみに女将さんが言う。
「これだから、動物たちのお世話ってやめられないのよね。特に、産まれたばかりの赤ちゃんは何も知らないはずなのに、とにかく生きることに一生懸命で、輝いて見えるもの。親子の絆が見られると、余計に微笑ましいし、尊く思えるよね」
「良いな〜、男の子だって。羨ましい。マッチョになれる」
「あら、なつみちゃんは男の子になりたかったの?」
「はい!男の方ができることいっぱいじゃないですか!おっきくなって、高いとこに手が届くとか、強くなって、大切な人を守れるとか」
「ふふっ、それは人間の世界でのことでしょう?」
「牛の世界は違うんですか?」
「…、牛というか、このコたちは家畜だからね、人間がお世話して管理がしっかりできないとダメなの。オスの大人の牛はとても大きくて、暴れられると、人では手がつけられなくなるのよ。それは都合が悪いことだから、オスの牛は食肉用として育てられるの」
「え……」
衝撃を受けた。だが、それは至極当然のことであった。
「私たちがやっているのは趣味じゃなくて、お仕事。お乳の出せないコたちを、いつまでも手元に置くことはできないの。牛の世話には、スペースが必要だし、エサも必要。排泄物はどんどん出るしね。だから、オスの個体や、お乳の出なくなったメスの個体も、食肉用として出荷されるわ」
「メスでもそうなんですか」
「ちょっと考えてもらえば納得するだろうけど、お乳っていうのは赤ちゃんに飲ませるためにしか出せないの。その期間にあたるメスの牛しか乳牛として飼育できないってことよ。それで、持続的に牛乳がとれるように、頃合いを見て人工授精させる。この牧場にオスはいないわ。あるのは精子だけなの。残酷に聞こえるかしら」
普段は意識もしないことだった。このような貴重な場面にいられたから、彼らは大切な営みの流れを知ることができた。これが、人間たちが日々の生活に組み込んでいること。豊かな暮らしのためにしていることである。
「牛の立場だったらそうですね。でも、そのやり方じゃないと、みなさんが大変になる。みんなの『牛乳が飲みたい』とか『牛肉食べたい』っていう需要に応えるのが、牧場の役目だから。動物園とは違う」
牛の親子は寄り添う。会えて嬉しいのだろう。
「ありがとう。こういうことって、大抵の人は考えずに過ごしているから、知ってもらって、そして、そう感じてもらって、嬉しい。なつみちゃん、…大丈夫?ちょっとショックが大きかったかな」
なつみは柵にくっつくように手をかけて、少し俯いて赤ちゃんを見つめていた。口をきゅっとつむって。そんななつみを心配してか、赤ちゃんが鼻先で彼女の手に触れた。
「この子、大人になりますか」
触れてくれたから、撫で返してあげる。
「なるわよ。2年くらいかけて大きく育てるの」
それだけ…?
「恋は、しますか」
好きな人がいると、生きることは楽しくなるから。
「たぶん…、しないかな。男の子は切っちゃうから」
切っちゃう…?せっかくかっこいい雄という性別で産まれてこられたのに。
比べること自体、正解など導き出せないため、すべきことではないかもしれない。だがどうしても、あまりにも違いすぎて、どうしようもなく悲しくなって涙が出る。
「うぅぅぅぅっ」
知れば知るほど、彼らの不自由が不憫に思えてくる。
「うぅぅぅぅっ」
しゃがんで、痛みを伴う想像に呑み込まれながら泣いていた。
「すいません。こいつ、必要以上に苦しみを感じとっちゃうヤツなんですよ。俺らでなだめておくんで、気にしないでください」
「うん…。大丈夫よ。こうなっちゃう人は少なくないから。動物好きで、優しい人なんだよね。これも、とても大事な意見だもの。ちゃんと寄り添ってあげなくちゃ。でもね、これだけは覚えていてほしいな」女将さんはなつみの隣にしゃがんで、彼女の背中を摩る。「私たちは、このコたちが大好き。だから、怪我も病気もしてほしくない。大事に大事に育ててあげるの。そうね、自分らの勝手な都合で生み出した命だからっていうのもあるけど、最期までしっかり責任持って見届けてあげようっていう思いが、私たちみんなにあるのよ」
それはまるで、神様の真似事のようで。同じ生と死のつながりの中にいる存在にも関わらず、人間が逸脱しているらしい不自然さ。自分が死神だから理解できない感覚なのか、それとも別な理由があるのか。仕事だから仕方がないとも、彼らは言うのだろうか。正当化という洗脳じゃないのか。
「木之本、もう行こうか。コテージ戻って、あったかいお茶飲んで、ゆっくりしよう。気持ちが落ち着くぜ」
レンに促されてなつみは立ち上がったが、何かに悩んでいる様子。
「なつみ、帰ろう?」
クーちゃんが手を取ってくれても、動かない。赤ちゃんを目で追いながら、考え出したのは。
「女将さん、今夜ぼくここで寝たい。この子たちと一緒にいたいです。お願いします。ここで寝させてくださいっ」
「はい⁉︎😅」
「出たよ、木之本の気紛れ😒」
このまま帰ってはいけないと、なつみの正義がざわめいた。次の朝、何も知らなかった頃と同じように牛乳を飲むべきか、飲まざるべきか。どうしたらいいか決めないと、帰れないと駄々をこねたのだった。
「いくぞ、木之本」
「おうよ!レンは左から追え!ぼくは右から行くぞ!」
羊の最後尾に着き、ケイティのマネをして吠える。
「「せーのッ‼️ワンワンワンワンワンッ🙌」」
牧羊死神も、なかなかの働きを見せた。
「何でアイツら、羊飼いじゃなくて、牧羊犬の方をリスペクトしてんの」
「事件は会議室で起きてるんじゃなくて、現場で起きてるからじゃない?」
「どゆこと?」
非日常を余すことなく楽しむなつみたちであった。
「ワォーン‼️」
すっかり日も暮れて、晩御飯の時間となった。今夜はバーベキューパーリーである。
「ナスとカボチャ焼けたー?」
「肉食わないのか?」
「なつみはあんまり肉食べないよね。きのこは焼けてるよ」
「このとうもろこし、うまいな」
「ね!白いの初めて食ったわ」
「焼きそばできたぞー」
「できたぞー😆」
「お!待ってましたー」
お酒とジュースで乾杯し、旅行1日目を振り返る。
「こんなに楽しくて良いんでしょうか」
「良いんじゃねーの?」
「動物たちがかわいくて、良いんじゃねーの?」
「癒されたよね〜。1歩も踏み出してくれない馬に跨った尾田に(笑)」
「ダーハハッ‼️あれ傑作だった‼️🤣」
「うるせぇ!あの子とは、相性が悪かっただけだ。きっと別の馬だったら、ちゃんと歩いてくれたよ」
「『ハイヤー!』『ハイドー!』完無視されてやんの😙」
「座るまではできてたから、一応、乗馬したとは言えるぜ😏」
「アーもう!そんなにイジるなよ😣」
「尾田ー、そんなに落ち込むなよ。明日でも、それがダメなら明後日でも、また挑戦すりゃ良いじゃん!あの子と仲良くなりゃーよ!尾田が良い奴だってわかってもらえれば、ちゃんと乗せてくれるからさぁ」
おいしく焼けたナスをかじりつつ、なつみが言った。
「そう思う?」
「おお!ぼくも初め、尾田のことめんどくせぇ奴だと思って引いてたもん(笑)」
「おい」
「でーも、こうして仲良くなってるだろ?あの時みたいに、諦めずに会いに行けって。そしたらうまくいく!そこがお前の良さだから😁」
「…///」言葉にならないこの想いとはこのこと。「おう…、おーぅ///」急に褒められちゃって、おーぅしか言えない尾田先生。なつみに初めて声をかけたときのことも思い出す。「おーぅ///」
そんな風に照れる尾田の頭をくしゃくしゃ撫でる優しい手が。
「泉水ちゃんは、やればできる子」
「やめろ、李空💢」
「ぃやだぁ〜、BL😚⁇ルームメイト以上のカンケイが、ここにはあるのね💕」
こういう時は、何故かオネエになるなつみ。性別をいくつも飛び越える。
「あー!」
クーちゃんが何かに気付いて、声を上げた。
「どうした」
「あれ見て」
指差したのは、キャンプ場使用上の注意が書かれた看板。
「『手持ち花火のみ、持ち込み可』だってさ。持ってこれば良かったね」
「わー、ほんとじゃん。なんか、言われるとやりたくなってきちゃうね」
「手持ちより、打ち上げ花火の方が良くねーか」
「あ、そっち派の人?」
「でっかいの見たい系?」
「見たい系✋」
「どっちも好き系🙌」
「久しぶりに線香花火やりたいな」
「でっかいずーたいで、こぢんまりなの好きな、お前」
「手持ちといえば、線香花火だろ?」
「打ち上げといえば?」
「にしきかむろぉー‼️ドカーン‼️」
尾田が小さな線香花火を推せば、なつみは大きな錦冠を推す。つまりそれは。
「無いモノねだり😄?」
クーちゃんの言う通り。
用意した食材も食べ終わり、片付けを始めた時だった。
モ〜、モ〜♪
尾田のポケットが牛の鳴き声を響かせながら震えた。
「誰だよ、勝手に着信音変えたの」
「はいはーい✋牧場に来たから、牛さんにしてみた。郷に入っては郷に従えだ😤」
「意味わかんねーわ‼️つか、紛らわしい‼️バイブ無かったら、気付かねぇぞ」文句を言いつつ、通話ボタンを押す。「はい、尾田です」
「あ、尾田くん!みんなと一緒にいるかしら?牛の陣痛が始まったの!すぐ牛舎に来れるかな?」
「おー!マジっすか!えっと、今、飯食い終わって、片付けしてるんですけど。急がないと間に合わなさそうですか?」
「早く来た方が良いかも」
「了解です。じゃあ、すぐ行きます。連絡ありがとうございます!」
通話を終えた尾田に内容を確認するまでもなく、6人は素晴らしい連携で洗い物やらゴミの分別をしていた。だが、炭と焦げ付いた網が残っており、もう少し時間がかかりそうだった。
「とりあえず、木之本は先に行けよ。お前が一番楽しみにしてたんだから」
「そうだって。俺らに構わず、先に行けぇ‼️」
「良いの?うーっ😣」
気遣ってそう言ってもらったが、片付けを途中でほっぽるのも悪い気がするなつみ。こうしている間にも、出産は進行しているのだが、どうすべきか判断ができなかった。そこで。
「よし!じゃ、あとはお前らに任せた!👍」
「とっとと行くぞ、木之本!」
「あわっ💦」
優柔不断ななつみの手を引っ張ってくれたのは、クーちゃんとレンだった。
「悪ぃー!先に行くー!」
2人のおかげで脚が進んだ。
「お前らも早く来いよー‼️」
夜の闇に紛れて、こっそり瞬歩でバーベキュー場をあとにした。
暖色の光が洩れる牛舎からは、昼間に聞いた優しい声とは違う、強めの鳴き声が聞こえてきた。
「モーッ」
「女将さーん!来たよー!」
「あ!来た来た!3人だけ?」
「はい。バーベキューしてたんで、まだ片付けが途中なんですよ」
「そっか。ちゃんと4人にお願いしてきた?」
「もちろんです!」
「ならOKね。あとでお礼言うのよ」
「はーい✋」
30歳と聞いたが、やはりなつみを子供扱いしてしまう女将さんである。
「ついてきて。こっちの部屋にいるの。柵の近くまで来て良いけど、中には入らないようにね」
牛舎の通路を先導する女将さんのあとを、なつみたちはついていった。
「陣痛が始まって、どれくらいですか?」
「40分てとこかな。まだ脚は出てきてないけど、どうなるかわからないから、早めに来てもらったって感じ」
「そうなんですね。あ、あのコですか」
「そう!」
牧場スタッフに付き添われている牛が、落ち着かない様子で立っていた。
「ここで見ててね」
女将さんに指示された場所から、妊婦の様子を伺う。
「痛いのかな」
「そのはずよ。赤ちゃんって言っても、40〜50㎏あるんだから」
「ウソー!」
牛を刺激しないように小声で喋るも、語気が強くなってしまう。
「母親ってすげぇ」
「出産は大変なことなの!感謝しなさいよ、あなたたちを産んでくれたお母さんに。それに、なつみちゃんはこの経験をこれからするんだから、しっかり見届けて、予習しなさい😤」
「うぅぅ💦できるかなぁ💦」
「なるようになるわよ!祈って、踏ん張る!」
「ほぇー😣元気に産まれておいで、赤ちゃーん‼️」
それから数十分経ち、ようやく前脚が突き出てきた。
「あー!ほら、出てきたよ」
そのタイミングで、尾田たち4人がなつみたちの居るところに合流した。
「よぉ、どんな感じ?って、何で紐で括ってるんですか⁉︎」
「お疲れ様、みんな。最高のタイミングね!見やすいところにおいで」女将さんが解説してくれる。「これでも、今のところ順調なのよ。脚が出てきたら、紐で縛って、それをこのスタッフたちが引っ張るの。そうすることで、このコの出産の負担を減らしてあげるんだよ」
「へぇー」
負担が減るとはいえ、妊婦の声は強く響く。
「モォーッ」
「うぅっ。がんばれがんばれ!」
いつかの自分を想像すると、なつみの祈りも強くなった。
頭まで出てくると、そこからは早かった。羊膜を破り、つるーーーーーんと赤ちゃん牛が産み落ちてきた。
「うわ〜、産まれたよぉ💖」
スタッフたちが手際よく、赤ちゃんを藁で拭いてあげて血流を促し、鼻と口を綺麗にして呼吸しやすくしてあげた。
「かわいいね〜。元気そうじゃん😊」
「ね!ほら、鳴いたよ」
「お母さんと比べたら小さいけど、やっぱ、赤ちゃんと呼ぶにはでけぇって(笑)」
「無事に産まれて、よかったよー😭」
「泣かなくて良いですよ〜、お父さーん」
「見ろよ、お母さんが赤ちゃんを舐めてやってる。母性ってやつだな」
「むううううー!ぎゅーしたーい!」
見学者たちが感想を言い合っている間、赤ちゃんへのお世話はどんどん進んでいく。スタッフの1人が、ミルクの入った容器を赤ちゃんの口に向けてやった。
「飲むかなー」
「まだいらないかな?」
まだその気にはなってない様子。
「お母さんのお乳を飲むとね、免疫力がついて、もっと元気になるのよ」
「ほぉー、なら飲まなきゃ」
「ここのソフトクリームおいしかったもん。お母さんのお乳も絶対おいしいよ!飲みに行きな?」
なつみのその言葉を聞いたからか、赤ちゃんは大きな哺乳瓶の先を咥えに、頭を動かした。ちゅぱちゅぱ。
「ふふっ、飲んだね」
「うまそ〜に飲んでる」
「がっついてるね」
「女将さん、この子に何て名前付けるんですか?」
「名前…?」
クーちゃんは気軽にそんな質問をしてしまったが、女将さんは申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「このコたちにはね、名前は付けないの。個体を識別するために番号は振られるけど」体をみんなの方へ向ける。「ペットじゃないからね」
スタッフの方がこちらに来た。
「赤ちゃんは男の子でした。とっても元気なので、そろそろ立ち上がるかもしれませんよ」
見てみると、心配になるほどクラクラと脚が震えているが、しっかりと踏み込もうとする赤ちゃんの姿があった。
「良いぞ!その調子だ!」
「男の子だろ。根性見せろ!がんばれ!」
みんなの声援に応えるように、赤ちゃんはフゥゥンと4本の脚に力を入れた。お母さんも優しく見守っている。
「モフッ🐮」
「立った‼️」
次々と繰り広げられる奇跡のような光景に、なつみは嬉しくて、小さく拍手をしていた。
「すごい…、すごいよ」
立てたならばその次は、歩きたくなるもので、目指すは母親のおっぱいだ。
「どうしてこんなに嬉しいんだろう。自分のことじゃないのに、ただ見てるだけで、すごく嬉しいよ」
感動しっぱなしのなつみに女将さんが言う。
「これだから、動物たちのお世話ってやめられないのよね。特に、産まれたばかりの赤ちゃんは何も知らないはずなのに、とにかく生きることに一生懸命で、輝いて見えるもの。親子の絆が見られると、余計に微笑ましいし、尊く思えるよね」
「良いな〜、男の子だって。羨ましい。マッチョになれる」
「あら、なつみちゃんは男の子になりたかったの?」
「はい!男の方ができることいっぱいじゃないですか!おっきくなって、高いとこに手が届くとか、強くなって、大切な人を守れるとか」
「ふふっ、それは人間の世界でのことでしょう?」
「牛の世界は違うんですか?」
「…、牛というか、このコたちは家畜だからね、人間がお世話して管理がしっかりできないとダメなの。オスの大人の牛はとても大きくて、暴れられると、人では手がつけられなくなるのよ。それは都合が悪いことだから、オスの牛は食肉用として育てられるの」
「え……」
衝撃を受けた。だが、それは至極当然のことであった。
「私たちがやっているのは趣味じゃなくて、お仕事。お乳の出せないコたちを、いつまでも手元に置くことはできないの。牛の世話には、スペースが必要だし、エサも必要。排泄物はどんどん出るしね。だから、オスの個体や、お乳の出なくなったメスの個体も、食肉用として出荷されるわ」
「メスでもそうなんですか」
「ちょっと考えてもらえば納得するだろうけど、お乳っていうのは赤ちゃんに飲ませるためにしか出せないの。その期間にあたるメスの牛しか乳牛として飼育できないってことよ。それで、持続的に牛乳がとれるように、頃合いを見て人工授精させる。この牧場にオスはいないわ。あるのは精子だけなの。残酷に聞こえるかしら」
普段は意識もしないことだった。このような貴重な場面にいられたから、彼らは大切な営みの流れを知ることができた。これが、人間たちが日々の生活に組み込んでいること。豊かな暮らしのためにしていることである。
「牛の立場だったらそうですね。でも、そのやり方じゃないと、みなさんが大変になる。みんなの『牛乳が飲みたい』とか『牛肉食べたい』っていう需要に応えるのが、牧場の役目だから。動物園とは違う」
牛の親子は寄り添う。会えて嬉しいのだろう。
「ありがとう。こういうことって、大抵の人は考えずに過ごしているから、知ってもらって、そして、そう感じてもらって、嬉しい。なつみちゃん、…大丈夫?ちょっとショックが大きかったかな」
なつみは柵にくっつくように手をかけて、少し俯いて赤ちゃんを見つめていた。口をきゅっとつむって。そんななつみを心配してか、赤ちゃんが鼻先で彼女の手に触れた。
「この子、大人になりますか」
触れてくれたから、撫で返してあげる。
「なるわよ。2年くらいかけて大きく育てるの」
それだけ…?
「恋は、しますか」
好きな人がいると、生きることは楽しくなるから。
「たぶん…、しないかな。男の子は切っちゃうから」
切っちゃう…?せっかくかっこいい雄という性別で産まれてこられたのに。
比べること自体、正解など導き出せないため、すべきことではないかもしれない。だがどうしても、あまりにも違いすぎて、どうしようもなく悲しくなって涙が出る。
「うぅぅぅぅっ」
知れば知るほど、彼らの不自由が不憫に思えてくる。
「うぅぅぅぅっ」
しゃがんで、痛みを伴う想像に呑み込まれながら泣いていた。
「すいません。こいつ、必要以上に苦しみを感じとっちゃうヤツなんですよ。俺らでなだめておくんで、気にしないでください」
「うん…。大丈夫よ。こうなっちゃう人は少なくないから。動物好きで、優しい人なんだよね。これも、とても大事な意見だもの。ちゃんと寄り添ってあげなくちゃ。でもね、これだけは覚えていてほしいな」女将さんはなつみの隣にしゃがんで、彼女の背中を摩る。「私たちは、このコたちが大好き。だから、怪我も病気もしてほしくない。大事に大事に育ててあげるの。そうね、自分らの勝手な都合で生み出した命だからっていうのもあるけど、最期までしっかり責任持って見届けてあげようっていう思いが、私たちみんなにあるのよ」
それはまるで、神様の真似事のようで。同じ生と死のつながりの中にいる存在にも関わらず、人間が逸脱しているらしい不自然さ。自分が死神だから理解できない感覚なのか、それとも別な理由があるのか。仕事だから仕方がないとも、彼らは言うのだろうか。正当化という洗脳じゃないのか。
「木之本、もう行こうか。コテージ戻って、あったかいお茶飲んで、ゆっくりしよう。気持ちが落ち着くぜ」
レンに促されてなつみは立ち上がったが、何かに悩んでいる様子。
「なつみ、帰ろう?」
クーちゃんが手を取ってくれても、動かない。赤ちゃんを目で追いながら、考え出したのは。
「女将さん、今夜ぼくここで寝たい。この子たちと一緒にいたいです。お願いします。ここで寝させてくださいっ」
「はい⁉︎😅」
「出たよ、木之本の気紛れ😒」
このまま帰ってはいけないと、なつみの正義がざわめいた。次の朝、何も知らなかった頃と同じように牛乳を飲むべきか、飲まざるべきか。どうしたらいいか決めないと、帰れないと駄々をこねたのだった。