第四章
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なつみが、一、二、四、五、十一番隊に通い始めて、早いくつの季節が過ぎたことやら、めきめきと力をつけていき、戦闘能力で比較するならば、二十席の座に止まっているのがおかしいくらいに成長していた。止まっている理由は、成績の悪さだ。魂葬と虚の昇華にやたらと時間をかけるため、良い評価を得られていない。そんな彼女の言い訳は、「みんなとおしゃべりして仲良くなってから作業に取り掛かるからです」だった。ここまで強くなると、虚と友だちになるという目標も、意外と達成できるらしく、なつみ本人は至って毎日に満足していた。
「お前、出世をマジで諦めたんだな」
「良いだろ、別に。ぼくの人生だ!偉くなることが良いことだとは限んねーんだよ」
そう悟ってきてもいる。
こんな思想でなつみは、相も変わらず平穏無事な生活を送っていたのだが、周りにとっては変化の時を迎える大事な時期に差し掛かっているようだった。
三番隊の食堂で、いつものように同期7人でお昼ご飯を食べたある日のこと、珍しくなつみのお昼寝タイムを彼らも一緒にごろごろ過ごしたいと言ってきた。
「えー?7人もいたら狭いじゃん。尾田がデカくて邪魔んなるって」
普段なら、ご飯の後、休憩時間が終わるまではひとりであの和室に行って、読書したり、ごろごろお昼寝したりして、ゆっくり過ごしているのに、その日は野郎が6人もついてくるだって?縁側の外に脚が飛び出るぞと警告してやるが、それでも構わないと言われてしまった。
「むー。何企んでんだよ」
眉間に皺を寄せて警戒するも、何言ってもついてきそうだったため、仕方なく許してあげることにする。
「変なことすんなよ!」
「わかってるよ。行こうぜ」
部屋に着いて、いざみんなでほぼ円になって寝転んでみると、結構収まりが良かった。
「ハハッ、案外余裕あるじゃん」
「でも尾田ちょっと膝曲げてるでしょ」
「もぉー、やっぱ狭いじゃん!頭近いー!密です!」
「木之本、暴れんなよ」
「やばぁ、寝ちゃいそう」
「俺も、眠くなってきた」
「スースー…😴」
「うっそ⁉️李空もう寝たの⁉️」
「嘘」
「何だよ、その意味不明タヌキ寝入り」
なつみが向かい側から李空の鼻をぎゅう。
「イタッ」
「エヘヘヘヘッ😄」
7人で見上げる天井。時計がカチカチ鳴る音。どうして、…こうなった。
「ねぇ、何かあったの」
なつみが問いかけたが、誰も答えてくれなかった。答えが無い訳じゃない。ただ誰が切り出すか迷っていただけ。ちゃんと自分たちから伝えてやろうと決めて来たのだが、本人を目の前にすると言えなくなってしまう。やはり、まだ早かったのだろうか。でももう変えられない。時間は進んでいくだけだった。
痺れを切らしたなつみは起き上がり、本当はあぐらをかきたかったが、膝を抱えて座った。
「悪いことか?」
「…良いことだ」
「なら、言えば良いだろ(誰だ。誰が言うんだ。もじもじうじうじしやがって、指名してやらなきゃ言えねぇのか、この野郎供め。意気地なし💢)」
ざっと顔色を伺ったが、誰も彼も難しい問題を前にして、先生にあてられないように顔を逸らす小学生のようになっていた。こういう時は。
「ケイジ‼︎言え‼︎」
やっぱり俺かという表情をなつみに向けた。オカン気質のケイジは、みんなが一歩踏み出せない時に先陣切ってくれる男。だから期待していたのだが、この時はいつもと違い、勇気を掻き集めるのに時間がかかっていた。それでも頼れるオカン、ちゃんと言ってくれる。ボソッと。
「…異動が決まったんだよ」
はっとした。
「誰のだ…」
「俺ら6人、全員だ」
もっとはっとなった。
「いつ…?いつからいなくなっちゃうの」
ハルが教えてくれた。
「3ヶ月後だって。俺らの後任を決めるのに、それくらい時間かかるんだってさ」
なつみの口元は、むぐむぐしている。泣きそうなんだろうか。
「6人も一気に抜けちゃうから、三番隊は新体制になるね。もしかすると、なつみ、今の尾田の部屋にお引越しできるかもしれないよ。市丸隊長にアピールしてみたら?十四席にしてくださいって!」クーちゃんは優しくそう言ってくれた。「大出世じゃん😁」
だけど、なつみはぎゅぅっと膝を抱えて縮こまる。
「木之本、ごめんな。お前の意見聞かずに決めちゃってさ」
「良いよ。気にすんなよ。お前らのことじゃん。ぼくは関係無いよ、レン」
膝から目だけを覗かせた。明らかに不機嫌そう。でも泣かない。
「関係無くなんかないぞ」
膝を伸ばせない尾田のお言葉。
「実はな、異動の話は前からあってさ。時期はバラバラだけど、みんな1、2回は断ってるんだよ」
「なんで」
尾田は言いたくなかったが、正直に話してやる。
「お前と離れたくなかったからだよ」
そう聞いて、なつみは更に縮こまってしまった。
「オレが止めてたのかよ…。フザけんなよ」
顔を見合わせる男たち。
「あんな事があったんだ。お前にまた何かあれば、すぐに駆けつけられるように、お前のそばにいたかったんだよ。お前を助けられるように、俺たちも気合入れてもっと鍛えるようにしてきたしさ。それで、まだ三番隊から出て行くのは早いんじゃないかって、断ってたんだ」
尾田の話は、なつみの耳に届きはするが、できることなら、拒否したいものだった。出て行かれるのも嫌だし、自分のせいで足止めされてたと知らされるのも嫌だった。だけど、続きを聞かなきゃいけないとも思っていた。
「でも、出てくこと決めたんだ」
「うん」
「お前ときたら、ずっと俺らより強いまんまだもん。サシなら、結局お前に勝てずじまい。守ってやんなきゃって考え、必要無ぇわってなったの」
「いろんな隊に通って、知り合いもたっくさん増えたんだろうし」
「環境が変わったって、寂しくなんかないよな。そんなの気にならないくらい、毎日忙しそうだからよ」
「なつみはすごい成長したよね。見ててわかるもん。目標に向かって突き進んでるの、かっこいいよ!」
最後に李空が言ってくれた。
「俺らがいなくても、お前はもう大丈夫だ。強くなった。泣くかと思ったのに、泣かねぇし。やっと俺らも上を目指して、こっから離れられるってもんだ。お前と違って、出世したい組だからな。ここに残る理由は、もう無ぇんだ」
ガバッと上げた顔に伝わる涙は無く、なつみの瞼の中で溢れないようにがんばっていた。口は綺麗なへの字になって、鼻で大きく息を吸うと、ぶっきらぼうな勢いで寝転び直した。天井に、何か良い言葉は書かれていないかと探しているような目の動き。だけどもちろん、みんなへの想いは心の中にしかなくて。
「よかった。よかったじゃんね!めっちゃ嬉しいことじゃんね。ぼくに構わず、どんどん偉くなってけ!どうせお前ら、役職と身長でしかぼくに敵わねーんだから。それに、みんなで隊長になるなら、一緒の隊には居られないもんな。三番隊はぼくに任せて!胸張って出て行きやがれ!とっとと出てけー!」
目をきゅっとつむり、腕も胸の上でぎゅっと組み、脚なんて爪先までピーンと伸ばして、力強くそう言い放ってやった。正真正銘、彼女の本音だった。
その反応がちょっぴり寂しくもあったが、仲間たちは充分安心させられた。
「やっぱり、最高のタイミングだったんだな」
「うん。もう少し前の木之本なら、『行かないでー🖐😭』って泣きついてたもん、絶対」
「誰かが変に残るんじゃなくて、6人一緒に出てくのも、後腐れなくて良いよな。こんなチャンス、二度と来ないだろうし。ここっきゃねーわ」
「ほんと。6人同じ時期に依頼が来たもんね。奇跡だよ」
「奇跡だろうと、ただの偶然だろうと、どうでも良い。遅かれ早かれ、そろそろ出て行くつもりだったんだ。そんなことより、クソチビが大見得切ってくれて、一安心なのが一番デカい。この世で最悪に面倒な作業が、木之本を泣き止ませることだからな」
「💢」
李空のその言葉に飛び起きるなつみ。振り向く。
「今日という今日は、許さーん‼️‼️クソチビと呼ぶなー💢」
ビョーンッと飛びかかっていった。李空は縁側のすぐ下にあるつっかけ目掛けて、シュッと移動する。なつみは李空が消えた床にドンッと着地。尾田を踏み越え、李空のいる庭へ出ようとしたが、つっかけはもう無い。縁側に大股開いて突っ立って睨むことしかできなかった。そう、それはまるで、ポケットからモンスターを出して、バトルするかのように。
「尾田チュウ、キミにきめた‼︎10まんボルト⚡️」
「出せるかァ💢踏んだこと謝れ‼️💢」
使えない相棒ボケ者を無視しなければならなくなったなつみ、トレーナー自ら、李空にもう一度飛びかかることにした。
「うりゃぁーッ💨」
腕を伸ばし、弧を描いて空を切る。すると李空もまた腕を伸ばした。さて、その真意とは。
落ちてきたなつみの腕をそれぞれの手で掴み、その勢いを利用して時計回りにクルクル回った。遠心力でなつみの体は浮き上がり、なんだか楽しくなってきた。
「あはははは😄」
そんな風に笑っているところを、ハンマー投げよろしく、李空はなつみを投げ飛ばし、彼女は部屋に飛んで戻っていく。
「お〜っ😮」
「ドワーッ💥」
その様子を座って眺めていた5人のオーディエンスに突っ込んだ。
「いたたたた😣」
積み重なった6人を前にして、外にいる李空、プロボウラーのようにポーズを決めた。
「ストラーイク💪」
「痛ぇーわ‼️‼️笑ってないで、早くどけよ、木之本‼️」
「だははははッ🤣」
何が起きたか理解できなくて、おもしろくなっちゃったなつみは、一番上で大笑い。この笑い声が大好きな男たちは、怒らなきゃいけないのに、やっぱりつられて楽しくなる。
「もぉー!重いってぇ!(笑)」
「なつみ、おかえりーっ🤣」
「あはははは(笑)」
「くくくくくッ(笑)」
「返し方が乱暴すぎるだろ(笑)」
「タビでも地面着いたら痛いだろ?俺の優しさだ」
李空が縁側に上がってくると、倒れて笑っていた6人は座り直した。
「おいしょー!」
なつみはグーンと伸びをする。その周りでは、腰やら肩やら首やら腹やら、各々痛む部位を摩る仕草が見られた。だから、なつみは辺りをくるんくるん見渡して、ぴょこんと立ち上がる。
「にひひっ😁」
5人の間を歩きながら、それぞれが痛がっているところに軽く手を置いていく。
「ほいっ、ほいっ、ほいっ、ほいっ、むぎゅぅぅぅッ」
最後の尾田には後ろから抱きついた。
「うわァッ‼️///」
何をしたかというと、修得した回道でみんなの痛みを無くしてやり、尾田には踏んだところの治療を施してやったのだ。
「痛いの痛いの飛んでったでしょ!」
ドヤァと上から偉そうに言った。
「すげぇや、痛みが治ったどころか、もっとイイ感じになった気がする」
「そーでしょー😊」
「上手になったね、回道」
「うん!」
そのやり取りが羨ましかったのか、李空もせがんできた。
「おい、俺も」
「何でぇ、李空は怪我してないでしょ?」
「いいだろ、減るもんじゃねぇし」
「…ったく、しょーがねーなぁ」
むーっとしながら、李空と向き合って座る。彼の両手を取って、くーっと集中。爽やかな風が下から吹いて、身体の悪いところを探して駆け巡った。
「お客さん、怪我や病気は見つかりませんや。悪いところは性格ですな」
「😒」
「ふふっ、優しさ注入😊」
これは回道なのだろうか。霊圧を上げて、なつみの霊力が李空の魂をマッサージしていく。くすぐったくて、変な感じ。だが、施術の後はぽかぽかしてきて、李空の目は自然と柔らかく細くなり、大切なものを愛でるように微笑んだ。
「気分は?」
「悪くない」
7人が集まると、ツラい事はいつの間にか楽しい事に変わっている。そんな当たり前が、あと3ヶ月しか続かないなんて。機は熟して、大丈夫になったから決まったことなのだけれど。
「そっか…、もうすぐこうしていられなくなっちゃうんだね」
成長を望むのが自分だけではないと、思い知らされた。それはとても良いことで、応援したいけど、変わっていくことが寂しかった。口では言えたが、心の片隅ではやはりこの決定を拒んでいる。でも、仲間たちのためだから、がまんがまん‼️笑って見送れるようにしようと、なつみは気持ちを切り替えることにした。
「お前、出世をマジで諦めたんだな」
「良いだろ、別に。ぼくの人生だ!偉くなることが良いことだとは限んねーんだよ」
そう悟ってきてもいる。
こんな思想でなつみは、相も変わらず平穏無事な生活を送っていたのだが、周りにとっては変化の時を迎える大事な時期に差し掛かっているようだった。
三番隊の食堂で、いつものように同期7人でお昼ご飯を食べたある日のこと、珍しくなつみのお昼寝タイムを彼らも一緒にごろごろ過ごしたいと言ってきた。
「えー?7人もいたら狭いじゃん。尾田がデカくて邪魔んなるって」
普段なら、ご飯の後、休憩時間が終わるまではひとりであの和室に行って、読書したり、ごろごろお昼寝したりして、ゆっくり過ごしているのに、その日は野郎が6人もついてくるだって?縁側の外に脚が飛び出るぞと警告してやるが、それでも構わないと言われてしまった。
「むー。何企んでんだよ」
眉間に皺を寄せて警戒するも、何言ってもついてきそうだったため、仕方なく許してあげることにする。
「変なことすんなよ!」
「わかってるよ。行こうぜ」
部屋に着いて、いざみんなでほぼ円になって寝転んでみると、結構収まりが良かった。
「ハハッ、案外余裕あるじゃん」
「でも尾田ちょっと膝曲げてるでしょ」
「もぉー、やっぱ狭いじゃん!頭近いー!密です!」
「木之本、暴れんなよ」
「やばぁ、寝ちゃいそう」
「俺も、眠くなってきた」
「スースー…😴」
「うっそ⁉️李空もう寝たの⁉️」
「嘘」
「何だよ、その意味不明タヌキ寝入り」
なつみが向かい側から李空の鼻をぎゅう。
「イタッ」
「エヘヘヘヘッ😄」
7人で見上げる天井。時計がカチカチ鳴る音。どうして、…こうなった。
「ねぇ、何かあったの」
なつみが問いかけたが、誰も答えてくれなかった。答えが無い訳じゃない。ただ誰が切り出すか迷っていただけ。ちゃんと自分たちから伝えてやろうと決めて来たのだが、本人を目の前にすると言えなくなってしまう。やはり、まだ早かったのだろうか。でももう変えられない。時間は進んでいくだけだった。
痺れを切らしたなつみは起き上がり、本当はあぐらをかきたかったが、膝を抱えて座った。
「悪いことか?」
「…良いことだ」
「なら、言えば良いだろ(誰だ。誰が言うんだ。もじもじうじうじしやがって、指名してやらなきゃ言えねぇのか、この野郎供め。意気地なし💢)」
ざっと顔色を伺ったが、誰も彼も難しい問題を前にして、先生にあてられないように顔を逸らす小学生のようになっていた。こういう時は。
「ケイジ‼︎言え‼︎」
やっぱり俺かという表情をなつみに向けた。オカン気質のケイジは、みんなが一歩踏み出せない時に先陣切ってくれる男。だから期待していたのだが、この時はいつもと違い、勇気を掻き集めるのに時間がかかっていた。それでも頼れるオカン、ちゃんと言ってくれる。ボソッと。
「…異動が決まったんだよ」
はっとした。
「誰のだ…」
「俺ら6人、全員だ」
もっとはっとなった。
「いつ…?いつからいなくなっちゃうの」
ハルが教えてくれた。
「3ヶ月後だって。俺らの後任を決めるのに、それくらい時間かかるんだってさ」
なつみの口元は、むぐむぐしている。泣きそうなんだろうか。
「6人も一気に抜けちゃうから、三番隊は新体制になるね。もしかすると、なつみ、今の尾田の部屋にお引越しできるかもしれないよ。市丸隊長にアピールしてみたら?十四席にしてくださいって!」クーちゃんは優しくそう言ってくれた。「大出世じゃん😁」
だけど、なつみはぎゅぅっと膝を抱えて縮こまる。
「木之本、ごめんな。お前の意見聞かずに決めちゃってさ」
「良いよ。気にすんなよ。お前らのことじゃん。ぼくは関係無いよ、レン」
膝から目だけを覗かせた。明らかに不機嫌そう。でも泣かない。
「関係無くなんかないぞ」
膝を伸ばせない尾田のお言葉。
「実はな、異動の話は前からあってさ。時期はバラバラだけど、みんな1、2回は断ってるんだよ」
「なんで」
尾田は言いたくなかったが、正直に話してやる。
「お前と離れたくなかったからだよ」
そう聞いて、なつみは更に縮こまってしまった。
「オレが止めてたのかよ…。フザけんなよ」
顔を見合わせる男たち。
「あんな事があったんだ。お前にまた何かあれば、すぐに駆けつけられるように、お前のそばにいたかったんだよ。お前を助けられるように、俺たちも気合入れてもっと鍛えるようにしてきたしさ。それで、まだ三番隊から出て行くのは早いんじゃないかって、断ってたんだ」
尾田の話は、なつみの耳に届きはするが、できることなら、拒否したいものだった。出て行かれるのも嫌だし、自分のせいで足止めされてたと知らされるのも嫌だった。だけど、続きを聞かなきゃいけないとも思っていた。
「でも、出てくこと決めたんだ」
「うん」
「お前ときたら、ずっと俺らより強いまんまだもん。サシなら、結局お前に勝てずじまい。守ってやんなきゃって考え、必要無ぇわってなったの」
「いろんな隊に通って、知り合いもたっくさん増えたんだろうし」
「環境が変わったって、寂しくなんかないよな。そんなの気にならないくらい、毎日忙しそうだからよ」
「なつみはすごい成長したよね。見ててわかるもん。目標に向かって突き進んでるの、かっこいいよ!」
最後に李空が言ってくれた。
「俺らがいなくても、お前はもう大丈夫だ。強くなった。泣くかと思ったのに、泣かねぇし。やっと俺らも上を目指して、こっから離れられるってもんだ。お前と違って、出世したい組だからな。ここに残る理由は、もう無ぇんだ」
ガバッと上げた顔に伝わる涙は無く、なつみの瞼の中で溢れないようにがんばっていた。口は綺麗なへの字になって、鼻で大きく息を吸うと、ぶっきらぼうな勢いで寝転び直した。天井に、何か良い言葉は書かれていないかと探しているような目の動き。だけどもちろん、みんなへの想いは心の中にしかなくて。
「よかった。よかったじゃんね!めっちゃ嬉しいことじゃんね。ぼくに構わず、どんどん偉くなってけ!どうせお前ら、役職と身長でしかぼくに敵わねーんだから。それに、みんなで隊長になるなら、一緒の隊には居られないもんな。三番隊はぼくに任せて!胸張って出て行きやがれ!とっとと出てけー!」
目をきゅっとつむり、腕も胸の上でぎゅっと組み、脚なんて爪先までピーンと伸ばして、力強くそう言い放ってやった。正真正銘、彼女の本音だった。
その反応がちょっぴり寂しくもあったが、仲間たちは充分安心させられた。
「やっぱり、最高のタイミングだったんだな」
「うん。もう少し前の木之本なら、『行かないでー🖐😭』って泣きついてたもん、絶対」
「誰かが変に残るんじゃなくて、6人一緒に出てくのも、後腐れなくて良いよな。こんなチャンス、二度と来ないだろうし。ここっきゃねーわ」
「ほんと。6人同じ時期に依頼が来たもんね。奇跡だよ」
「奇跡だろうと、ただの偶然だろうと、どうでも良い。遅かれ早かれ、そろそろ出て行くつもりだったんだ。そんなことより、クソチビが大見得切ってくれて、一安心なのが一番デカい。この世で最悪に面倒な作業が、木之本を泣き止ませることだからな」
「💢」
李空のその言葉に飛び起きるなつみ。振り向く。
「今日という今日は、許さーん‼️‼️クソチビと呼ぶなー💢」
ビョーンッと飛びかかっていった。李空は縁側のすぐ下にあるつっかけ目掛けて、シュッと移動する。なつみは李空が消えた床にドンッと着地。尾田を踏み越え、李空のいる庭へ出ようとしたが、つっかけはもう無い。縁側に大股開いて突っ立って睨むことしかできなかった。そう、それはまるで、ポケットからモンスターを出して、バトルするかのように。
「尾田チュウ、キミにきめた‼︎10まんボルト⚡️」
「出せるかァ💢踏んだこと謝れ‼️💢」
使えない相棒ボケ者を無視しなければならなくなったなつみ、トレーナー自ら、李空にもう一度飛びかかることにした。
「うりゃぁーッ💨」
腕を伸ばし、弧を描いて空を切る。すると李空もまた腕を伸ばした。さて、その真意とは。
落ちてきたなつみの腕をそれぞれの手で掴み、その勢いを利用して時計回りにクルクル回った。遠心力でなつみの体は浮き上がり、なんだか楽しくなってきた。
「あはははは😄」
そんな風に笑っているところを、ハンマー投げよろしく、李空はなつみを投げ飛ばし、彼女は部屋に飛んで戻っていく。
「お〜っ😮」
「ドワーッ💥」
その様子を座って眺めていた5人のオーディエンスに突っ込んだ。
「いたたたた😣」
積み重なった6人を前にして、外にいる李空、プロボウラーのようにポーズを決めた。
「ストラーイク💪」
「痛ぇーわ‼️‼️笑ってないで、早くどけよ、木之本‼️」
「だははははッ🤣」
何が起きたか理解できなくて、おもしろくなっちゃったなつみは、一番上で大笑い。この笑い声が大好きな男たちは、怒らなきゃいけないのに、やっぱりつられて楽しくなる。
「もぉー!重いってぇ!(笑)」
「なつみ、おかえりーっ🤣」
「あはははは(笑)」
「くくくくくッ(笑)」
「返し方が乱暴すぎるだろ(笑)」
「タビでも地面着いたら痛いだろ?俺の優しさだ」
李空が縁側に上がってくると、倒れて笑っていた6人は座り直した。
「おいしょー!」
なつみはグーンと伸びをする。その周りでは、腰やら肩やら首やら腹やら、各々痛む部位を摩る仕草が見られた。だから、なつみは辺りをくるんくるん見渡して、ぴょこんと立ち上がる。
「にひひっ😁」
5人の間を歩きながら、それぞれが痛がっているところに軽く手を置いていく。
「ほいっ、ほいっ、ほいっ、ほいっ、むぎゅぅぅぅッ」
最後の尾田には後ろから抱きついた。
「うわァッ‼️///」
何をしたかというと、修得した回道でみんなの痛みを無くしてやり、尾田には踏んだところの治療を施してやったのだ。
「痛いの痛いの飛んでったでしょ!」
ドヤァと上から偉そうに言った。
「すげぇや、痛みが治ったどころか、もっとイイ感じになった気がする」
「そーでしょー😊」
「上手になったね、回道」
「うん!」
そのやり取りが羨ましかったのか、李空もせがんできた。
「おい、俺も」
「何でぇ、李空は怪我してないでしょ?」
「いいだろ、減るもんじゃねぇし」
「…ったく、しょーがねーなぁ」
むーっとしながら、李空と向き合って座る。彼の両手を取って、くーっと集中。爽やかな風が下から吹いて、身体の悪いところを探して駆け巡った。
「お客さん、怪我や病気は見つかりませんや。悪いところは性格ですな」
「😒」
「ふふっ、優しさ注入😊」
これは回道なのだろうか。霊圧を上げて、なつみの霊力が李空の魂をマッサージしていく。くすぐったくて、変な感じ。だが、施術の後はぽかぽかしてきて、李空の目は自然と柔らかく細くなり、大切なものを愛でるように微笑んだ。
「気分は?」
「悪くない」
7人が集まると、ツラい事はいつの間にか楽しい事に変わっている。そんな当たり前が、あと3ヶ月しか続かないなんて。機は熟して、大丈夫になったから決まったことなのだけれど。
「そっか…、もうすぐこうしていられなくなっちゃうんだね」
成長を望むのが自分だけではないと、思い知らされた。それはとても良いことで、応援したいけど、変わっていくことが寂しかった。口では言えたが、心の片隅ではやはりこの決定を拒んでいる。でも、仲間たちのためだから、がまんがまん‼️笑って見送れるようにしようと、なつみは気持ちを切り替えることにした。