第三章
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お昼ご飯を食べに三番隊の食堂へ行くと、なつみは仲間たちに会ってしまい、やれ「仮病」だの、やれ「何、有給使ってたんこぶつくってんだ」だのイジられた。
「ふんっ、ぼくはなァ、改造計画を始める準備をして来たのだ!これぞ立派な理由、『私事都合』なのだ‼︎そのうち、てめぇのおけつに最強のカンチョーをブチかましてやるから、覚えとけよ、李空‼︎‼︎なーはっはっはっ‼️」
ご飯時にカンチョーの話は、マナー違反です、なつみさん。
昼食を終え、みんなと別れると、なつみはすぐに宿舎へ帰ることにした。部屋にあるクマのぬいぐるみを取りに行こうと思ったのだ。そのぬいぐるみに夢現天道子の力で命を宿し、的役にして、鬼道の練習を内緒のコソ練場でしようとしていた。だが、宿舎の建物に入ろうとしたところでなつみは声をかけられる。
「どうしたんだい、木之本くん⁉︎その頭」
「あっ!藍染隊長!!」
振り向くと、藍染が目を丸くしていて、急いでなつみに駆け寄ってきた。
「昨日会ったときにはそんなもの、していなかったはずだけど。どこかで打ったのかい?」
「はは…。まぁ、そんなかんじです😅」
なつみはかくかくしかじか、藍染に午前中にしてきたことを掻い摘んで話してあげた。
「そうなんだ。それはおもしろいね。キミさえ良ければだけど、今時間があるから、僕の部屋でゆっくりその話、詳しく聞かせてくれないかな」
「えぇッ⁉︎あ、藍染隊長のお部屋ですか⁉︎」
「そう。ダメかな」
「いやっ、あのっ」
「木之本くん、今日はお休みなんだよね。せっかくお互い時間があるんだから、話そうよ。始解を見せてくれた時から、どれくらいできることが増えたのか、教えてもらいたいしね。実は、すごく気になっていたんだよ、キミのこと。僕に付き合ってもらえないかな」
そんな風に頼まれてしまっては。
「あぁぁ…、わぁかりました。断る理由は無いので、是非///」
突然の誘いに驚いたが、はにかんで承諾した。それを見た藍染も満足そうに微笑んで、ひとつ頷いた。
「じゃあ、行こうか。ついておいで」
「はい😊」
隊舎に向かって歩き出した藍染の後ろを緊張気味についていくなつみ。小さく振り向いた藍染は、そんななつみの姿を見て、優しそうに目を細めた。
「そんなに強張らないで」
「あわわっ、こんなこと初めてなので、つい///」
なつみは俯いて口をきゅっと結ぶと、頬を真っ赤に染めた。
五番隊舎内に入っていくと、廊下で偶然美沙と会った。なつみの頭を見て、大声を上げて驚く。
「なつみ⁉︎どうしたの、その頭⁉︎というか、何で隊長とここにいるのよ⁉︎」
「美沙ちゃん…、大したことないよ。ただのたんこぶだから」
えへへと笑うなつみだった。だが美沙は、心配そうになつみの頭を観察する。
「寝る前に話すよぉ。仕事戻ったらぁ?」
なつみは美沙に、なるだけのん気な声で言った。心配するなという思いがちゃんと通じたのか、美沙は渋い顔をしながらもなつみのいうことをきくことにした。
「しょうがないわね。ちゃんと説明しなさいよ。全く、有給取ってたんこぶつくるって、どういうこと」
「私事都合!」
「うるさい!昨日からバカの一つ覚えみたいに!」
「私事都合!」
「便利な言葉を覚えたね、木之本くん😅」
「私事都合!」
「わかったから。もー行くね!なつみ、バイバイ!隊長、失礼します」
藍染に一礼すると、美沙はなつみの横を通り過ぎていく。その際に、なつみはダメ押しで「私事都合!」をかまして、ニヤリと笑う美沙に小突かれた。去っていく美沙を、眉を八の字にしながら見つめるなつみ。
「美沙ちゃん、心配しすぎですよね」
「仲良さそうに見えて、僕は安心だけどね。さぁ、行こう」
促されて更に廊下を進んでいった。
隊首室へなつみを招き入れ、藍染は扉を閉めた。座布団を2枚敷き、座卓にあられを盛った器を置く。
「口に合うと良いけど」
そう言う藍染に導かれるまま、ちょこんと座布団に座るなつみ。
「とってもおいしそうですよ」
魔法の言葉「私事都合」に比べると、とっても小声。
「フフッ…。お茶はもうすぐ来ると思う。そんなに硬くならないでくれるかな?」
なつみは正座した膝の上で、両手をぎゅっと結んでいた。口も同じくらいに力が入っていて、への字になっている。
「藍染隊長と2人きりだなんて、初めてなんですもん😣💦」
俯くと、扉の向こうから声がした。
「隊長、お茶をお持ちしました」
「うん。ありがとう」
扉を開け、湯飲み2つ載ったお盆を受け取った後、藍染はなつみの向かいに座り、1つ湯飲みを彼女の前に置き、自分の分を持ち上げ、お盆を下に降ろした。
「どうぞ」
「いただきます」
おずおずと手を伸ばし、一口お茶を飲んだ。そして、ぴくんと小さく飛び上がる。
「熱かった?」
藍染にそう言われて、なつみは顔を赤くして照れた。
「淹れたばかりだからね」
そう言った藍染の眼鏡がお茶の湯気で曇る。それを見たら、なつみはクスっと笑ってしまった。
「あ、今笑ったかい?」
「い、いえ!」
「嘘をつきなさい。全く」
藍染は笑っていて。
「すみません」
とりあえず謝るなつみ。
「でも、木之本くんがそうやって笑ってくれるなら、僕はいくらでも眼鏡を曇らせようかな」
「えぇー(笑)」
まさか藍染から冗談が聞けるとは思わなかったなつみは、困ったように笑った。それをきっかけに、隊首室が暖かく優しい空間になったのを2人はそっと感じた。
話を切り出したのは藍染だった。すっかり落ち着いたなつみは、ポリポリとあられを摘んでいる。
「あちこちの隊舎に通うなんて大変そうだね。キミの体力が保つか、心配だよ。夜遅くなる時は、僕が迎えに行こうか」
その申し出を聞いて、咽せてしまうなつみ。
「ブヘッ、ケホッ!そ、そんなことしていただかなくても、大丈夫ですよ!💦」
「フフフフフッ、冗談だよ(笑)」
「そうですよ!冗談じゃないと困りますよ💦」
お茶を飲んで、なつみは口の中をきれいにした。
「塾終わりの子供を迎えに行くお父さんじゃないんですから(笑)一瞬想像しちゃった!ダハハッ🤣」
机に肘をついて、両手で口元を覆って、大笑いしてしまった。
「ちょっと笑いすぎだよ。そんなこと言われたら、僕だって想像してしまうじゃないか。傘持って迎えに行っちゃった(笑)」
「いそう!似合う‼︎🤣」
もう笑いすぎて、2人とも涙が出ていた。
「はぁー、笑った。キミは本当におもしろい子だな」
「冗談仕掛けてきたの、藍染隊長じゃないですか!😙」
緊張して縮こまってたあの頃が懐かしいよ、なつみさん。
藍染は指で涙を拭うと、こう言った。
「木之本くん、これだけ元気になれたから、もう心配することは無いみたいだね。良かったよ」
彼はどこまで知っているのだろうか。
「藍染隊長は、ぼくの斬魄刀の能力について知りたいっておっしゃってましたよね」
「うん」
「できることは確かに増えましたけど、うまく使いこなせません。制御できなくて、あんな風にダメになって。実戦で使えなければ、何もできないのと同じですよ」ぎゅっと自分の手を握った。「だから、報告できるほどの成長はしていないんです」
「木之本くん…」
なつみが視線を下げながら言うものだから、藍染は慰めの言葉をかけようした。だが、心配はご無用だった。パッと視線を上げて、嬉しそうに彼女が笑ったから。
「だから!ぼくは自分を鍛え直すって、決めたんです!斬魄刀の使い方も、斬魄刀を使わないやり方も、全部基本から見直して、ブラッシュアップして、今度こそ負けない、暴走しない自分になるんです!それが、ぼくが生きて帰って来られた意味と恩返しになると思うから。強くなって、大好きな人たちのことを守ってあげれる立派な死神になりたいです!」
彼女の瞳に、強い意志を見た。
「キミは、なんて優しい子だろう」
そう感想を抱いた藍染は、腕組みをして考え事をした。
「どうしました?」
「うーん…、それだけの強い想いを聞かされたら、僕も何か手伝いたくなってしまったよ」
何かというと、何かしら。
「十一番隊で斬術を、四番隊で回道を、二番隊で白打と歩法を見てもらうんだよね」
「はい。あと一番隊で始解の使い方も指南していただけるそうです」
「それはすごい」
「はい😄」
「これはもう、確実に大きく成長できるね」
「う…、先生方が凄すぎて、プレッシャーもありますけど💦」
「応えてあげなさい。キミなら何だってできるさ」
「う〜、あったかいお言葉、ありがとうございます🥲」
嬉しいついでに、あられを摘む。
「今更その重圧に上乗せされても気にしないと思うから、提案するけど」
「はい?😀」
「鬼道は僕が見てあげるよ」
「はい?😀」
藍染の言葉を脳内でリピートさせる。
『鬼道は僕が見てあげるよ』?
「何ですとォォーッ‼️⁉️」
両手、片脚をギャバッと広げて、漫画のように驚きのけぞるなつみ。
「だって、今の話を聞いていたら、鬼道だけ入ってなかったから」
指折り数える藍染。
「僕もキミの力になりたいんだ。それに、他の誰よりも適任だと思うんだけど。駄目かな?」
一体授業料はおいくら万円ですか。
「う、嬉しいです!でも!💦」
「でも?」
なつみは考える。藍染の人気を考える。藍染がマンツーマンで、鬼道の指南をするなんて。いや、そこらのファンに刺されますって。
その考えまでは見透せていないだろうが、藍染は優しくもうワンプッシュしてくる。
「木之本くん、僕が自分でそうしたいと思っているんだ。キミの頑張りを応援したいって。キミはきっとね、尸魂界にとって大事な存在になるんだよ。そんなキミの成長の手伝いができるなんて、こんな嬉しいことはない」
少し前のめりで机に肘をつき、なつみの左頬をそっと包む。
「お願いだから、もう少し僕に甘えてくれないかな」
頬を包む手を離そうと角度を変えたら、不意に彼の指がなつみの耳に触れてしまった。
「んッ///」
その反応を前にして、藍染はもっとなつみを引き寄せることにした。彼女の首の上辺りに手を添える。頭には包帯が巻かれているから。
「僕のことが、怖いかな」
「そんなことないです///」
先程の大爆笑はどこへやら。再び緊張で体が強張る。
「なら、仲良くしてくれないかな。市丸隊長にするように、僕のことも頼って欲しいんだ」
そしてまた耳を触る。今度は故意に、親指でなぞりながら。
「ひとつ、知っていてもらいたいことがあるんだ」
口を耳元に近づけて。
「僕も、木之本くんの頭を撫でたい男の一人なんだ」
キュンとしたなつみは藍染と視線が絡んで、逸らせない。
「返事を聞かせて欲しい。僕じゃ駄目かな…」
(もう、もう、これは、アレをしちゃう距離じゃないか‼︎‼︎)
わー!😖となったなつみは、誤って湯呑みを肘で倒してしまった。
「わーッ‼️‼️」
慌てて立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
「雑巾取ってきます‼️💦」
座布団と畳を汚してしまうとテンパっていたが、その一方で、藍染から離れられる理由ができてホッとしていた。
ぴゅーっと走って逃げていったなつみに、その場で取り残される藍染。
「困った子だな…」
バケツと雑巾を持って、部屋に帰ってきたなつみ。
「うぅぅ、すみませんでしたぁ。買い替えの際は、ぼくのお給料から引いてください😣」
机を拭いて、床を拭く。座布団は既に藍染が外に出していた。
「気にしないで。僕がちょっと強引に迫りすぎたのが、いけなかったから。すまない」
そんな申し訳なさそうな顔を向けられると、気にしないなんて器用なことはできなくなる。
「あの、藍染隊長」
「ん?何かな」
拭き終わった雑巾をバケツに入れてから、なつみは正座をして藍染にまっすぐ視線を向けた。
「先程の申し出、謹んでお受け致します。是非、ぼくに鬼道を教えてください‼︎」
態度が一変していて、少々戸惑う藍染。
「あ、あぁ、うん。ありがとう、僕のわがままをきいてくれて。でも、どうして急に」
伸ばした背筋を少し丸め、なつみは答えてあげた。
「だって、断ったら、ぼくは大馬鹿者になりそうなんですもん。誰よりも鬼道に秀でてらっしゃる藍染隊長が、わざわざぼくのためにって、言ってくださったのに、ファンに刺されるのが怖いという理由だけで断るのは、あんぽんたんですよね」
「そんな理由だったの?😅」
「なので、是非、お世話になります!ぼくを鍛えてください。このチャンスを逃したくありません。頼りにしています、藍染隊長!」
藍染の欲しい想いとは違ったようだが、今はこれで満足しておくとしよう。
「わかった。一緒に頑張ろう😊」
「はい!よろしくお願いします😆」
結局、なつみのペースで進むこととなった。何故なら、彼女がそう望んだから。自分を成長させることだけにまっすぐ向き合う元気を携えていれば、あのムードに引き戻されることはないと考えたからだ。耳を触られて、ゾクゾクするあの変な感じは、二度とごめんだった。
(ぼくは女なんかじゃない。あんな反応するなんて、ありえん!あんな変な声…。能天気モードでいくぞ。強くなるための近道だ。隙を見せないように、気を付けよう)
これは誰にも内緒の気持ち。
「ふんっ、ぼくはなァ、改造計画を始める準備をして来たのだ!これぞ立派な理由、『私事都合』なのだ‼︎そのうち、てめぇのおけつに最強のカンチョーをブチかましてやるから、覚えとけよ、李空‼︎‼︎なーはっはっはっ‼️」
ご飯時にカンチョーの話は、マナー違反です、なつみさん。
昼食を終え、みんなと別れると、なつみはすぐに宿舎へ帰ることにした。部屋にあるクマのぬいぐるみを取りに行こうと思ったのだ。そのぬいぐるみに夢現天道子の力で命を宿し、的役にして、鬼道の練習を内緒のコソ練場でしようとしていた。だが、宿舎の建物に入ろうとしたところでなつみは声をかけられる。
「どうしたんだい、木之本くん⁉︎その頭」
「あっ!藍染隊長!!」
振り向くと、藍染が目を丸くしていて、急いでなつみに駆け寄ってきた。
「昨日会ったときにはそんなもの、していなかったはずだけど。どこかで打ったのかい?」
「はは…。まぁ、そんなかんじです😅」
なつみはかくかくしかじか、藍染に午前中にしてきたことを掻い摘んで話してあげた。
「そうなんだ。それはおもしろいね。キミさえ良ければだけど、今時間があるから、僕の部屋でゆっくりその話、詳しく聞かせてくれないかな」
「えぇッ⁉︎あ、藍染隊長のお部屋ですか⁉︎」
「そう。ダメかな」
「いやっ、あのっ」
「木之本くん、今日はお休みなんだよね。せっかくお互い時間があるんだから、話そうよ。始解を見せてくれた時から、どれくらいできることが増えたのか、教えてもらいたいしね。実は、すごく気になっていたんだよ、キミのこと。僕に付き合ってもらえないかな」
そんな風に頼まれてしまっては。
「あぁぁ…、わぁかりました。断る理由は無いので、是非///」
突然の誘いに驚いたが、はにかんで承諾した。それを見た藍染も満足そうに微笑んで、ひとつ頷いた。
「じゃあ、行こうか。ついておいで」
「はい😊」
隊舎に向かって歩き出した藍染の後ろを緊張気味についていくなつみ。小さく振り向いた藍染は、そんななつみの姿を見て、優しそうに目を細めた。
「そんなに強張らないで」
「あわわっ、こんなこと初めてなので、つい///」
なつみは俯いて口をきゅっと結ぶと、頬を真っ赤に染めた。
五番隊舎内に入っていくと、廊下で偶然美沙と会った。なつみの頭を見て、大声を上げて驚く。
「なつみ⁉︎どうしたの、その頭⁉︎というか、何で隊長とここにいるのよ⁉︎」
「美沙ちゃん…、大したことないよ。ただのたんこぶだから」
えへへと笑うなつみだった。だが美沙は、心配そうになつみの頭を観察する。
「寝る前に話すよぉ。仕事戻ったらぁ?」
なつみは美沙に、なるだけのん気な声で言った。心配するなという思いがちゃんと通じたのか、美沙は渋い顔をしながらもなつみのいうことをきくことにした。
「しょうがないわね。ちゃんと説明しなさいよ。全く、有給取ってたんこぶつくるって、どういうこと」
「私事都合!」
「うるさい!昨日からバカの一つ覚えみたいに!」
「私事都合!」
「便利な言葉を覚えたね、木之本くん😅」
「私事都合!」
「わかったから。もー行くね!なつみ、バイバイ!隊長、失礼します」
藍染に一礼すると、美沙はなつみの横を通り過ぎていく。その際に、なつみはダメ押しで「私事都合!」をかまして、ニヤリと笑う美沙に小突かれた。去っていく美沙を、眉を八の字にしながら見つめるなつみ。
「美沙ちゃん、心配しすぎですよね」
「仲良さそうに見えて、僕は安心だけどね。さぁ、行こう」
促されて更に廊下を進んでいった。
隊首室へなつみを招き入れ、藍染は扉を閉めた。座布団を2枚敷き、座卓にあられを盛った器を置く。
「口に合うと良いけど」
そう言う藍染に導かれるまま、ちょこんと座布団に座るなつみ。
「とってもおいしそうですよ」
魔法の言葉「私事都合」に比べると、とっても小声。
「フフッ…。お茶はもうすぐ来ると思う。そんなに硬くならないでくれるかな?」
なつみは正座した膝の上で、両手をぎゅっと結んでいた。口も同じくらいに力が入っていて、への字になっている。
「藍染隊長と2人きりだなんて、初めてなんですもん😣💦」
俯くと、扉の向こうから声がした。
「隊長、お茶をお持ちしました」
「うん。ありがとう」
扉を開け、湯飲み2つ載ったお盆を受け取った後、藍染はなつみの向かいに座り、1つ湯飲みを彼女の前に置き、自分の分を持ち上げ、お盆を下に降ろした。
「どうぞ」
「いただきます」
おずおずと手を伸ばし、一口お茶を飲んだ。そして、ぴくんと小さく飛び上がる。
「熱かった?」
藍染にそう言われて、なつみは顔を赤くして照れた。
「淹れたばかりだからね」
そう言った藍染の眼鏡がお茶の湯気で曇る。それを見たら、なつみはクスっと笑ってしまった。
「あ、今笑ったかい?」
「い、いえ!」
「嘘をつきなさい。全く」
藍染は笑っていて。
「すみません」
とりあえず謝るなつみ。
「でも、木之本くんがそうやって笑ってくれるなら、僕はいくらでも眼鏡を曇らせようかな」
「えぇー(笑)」
まさか藍染から冗談が聞けるとは思わなかったなつみは、困ったように笑った。それをきっかけに、隊首室が暖かく優しい空間になったのを2人はそっと感じた。
話を切り出したのは藍染だった。すっかり落ち着いたなつみは、ポリポリとあられを摘んでいる。
「あちこちの隊舎に通うなんて大変そうだね。キミの体力が保つか、心配だよ。夜遅くなる時は、僕が迎えに行こうか」
その申し出を聞いて、咽せてしまうなつみ。
「ブヘッ、ケホッ!そ、そんなことしていただかなくても、大丈夫ですよ!💦」
「フフフフフッ、冗談だよ(笑)」
「そうですよ!冗談じゃないと困りますよ💦」
お茶を飲んで、なつみは口の中をきれいにした。
「塾終わりの子供を迎えに行くお父さんじゃないんですから(笑)一瞬想像しちゃった!ダハハッ🤣」
机に肘をついて、両手で口元を覆って、大笑いしてしまった。
「ちょっと笑いすぎだよ。そんなこと言われたら、僕だって想像してしまうじゃないか。傘持って迎えに行っちゃった(笑)」
「いそう!似合う‼︎🤣」
もう笑いすぎて、2人とも涙が出ていた。
「はぁー、笑った。キミは本当におもしろい子だな」
「冗談仕掛けてきたの、藍染隊長じゃないですか!😙」
緊張して縮こまってたあの頃が懐かしいよ、なつみさん。
藍染は指で涙を拭うと、こう言った。
「木之本くん、これだけ元気になれたから、もう心配することは無いみたいだね。良かったよ」
彼はどこまで知っているのだろうか。
「藍染隊長は、ぼくの斬魄刀の能力について知りたいっておっしゃってましたよね」
「うん」
「できることは確かに増えましたけど、うまく使いこなせません。制御できなくて、あんな風にダメになって。実戦で使えなければ、何もできないのと同じですよ」ぎゅっと自分の手を握った。「だから、報告できるほどの成長はしていないんです」
「木之本くん…」
なつみが視線を下げながら言うものだから、藍染は慰めの言葉をかけようした。だが、心配はご無用だった。パッと視線を上げて、嬉しそうに彼女が笑ったから。
「だから!ぼくは自分を鍛え直すって、決めたんです!斬魄刀の使い方も、斬魄刀を使わないやり方も、全部基本から見直して、ブラッシュアップして、今度こそ負けない、暴走しない自分になるんです!それが、ぼくが生きて帰って来られた意味と恩返しになると思うから。強くなって、大好きな人たちのことを守ってあげれる立派な死神になりたいです!」
彼女の瞳に、強い意志を見た。
「キミは、なんて優しい子だろう」
そう感想を抱いた藍染は、腕組みをして考え事をした。
「どうしました?」
「うーん…、それだけの強い想いを聞かされたら、僕も何か手伝いたくなってしまったよ」
何かというと、何かしら。
「十一番隊で斬術を、四番隊で回道を、二番隊で白打と歩法を見てもらうんだよね」
「はい。あと一番隊で始解の使い方も指南していただけるそうです」
「それはすごい」
「はい😄」
「これはもう、確実に大きく成長できるね」
「う…、先生方が凄すぎて、プレッシャーもありますけど💦」
「応えてあげなさい。キミなら何だってできるさ」
「う〜、あったかいお言葉、ありがとうございます🥲」
嬉しいついでに、あられを摘む。
「今更その重圧に上乗せされても気にしないと思うから、提案するけど」
「はい?😀」
「鬼道は僕が見てあげるよ」
「はい?😀」
藍染の言葉を脳内でリピートさせる。
『鬼道は僕が見てあげるよ』?
「何ですとォォーッ‼️⁉️」
両手、片脚をギャバッと広げて、漫画のように驚きのけぞるなつみ。
「だって、今の話を聞いていたら、鬼道だけ入ってなかったから」
指折り数える藍染。
「僕もキミの力になりたいんだ。それに、他の誰よりも適任だと思うんだけど。駄目かな?」
一体授業料はおいくら万円ですか。
「う、嬉しいです!でも!💦」
「でも?」
なつみは考える。藍染の人気を考える。藍染がマンツーマンで、鬼道の指南をするなんて。いや、そこらのファンに刺されますって。
その考えまでは見透せていないだろうが、藍染は優しくもうワンプッシュしてくる。
「木之本くん、僕が自分でそうしたいと思っているんだ。キミの頑張りを応援したいって。キミはきっとね、尸魂界にとって大事な存在になるんだよ。そんなキミの成長の手伝いができるなんて、こんな嬉しいことはない」
少し前のめりで机に肘をつき、なつみの左頬をそっと包む。
「お願いだから、もう少し僕に甘えてくれないかな」
頬を包む手を離そうと角度を変えたら、不意に彼の指がなつみの耳に触れてしまった。
「んッ///」
その反応を前にして、藍染はもっとなつみを引き寄せることにした。彼女の首の上辺りに手を添える。頭には包帯が巻かれているから。
「僕のことが、怖いかな」
「そんなことないです///」
先程の大爆笑はどこへやら。再び緊張で体が強張る。
「なら、仲良くしてくれないかな。市丸隊長にするように、僕のことも頼って欲しいんだ」
そしてまた耳を触る。今度は故意に、親指でなぞりながら。
「ひとつ、知っていてもらいたいことがあるんだ」
口を耳元に近づけて。
「僕も、木之本くんの頭を撫でたい男の一人なんだ」
キュンとしたなつみは藍染と視線が絡んで、逸らせない。
「返事を聞かせて欲しい。僕じゃ駄目かな…」
(もう、もう、これは、アレをしちゃう距離じゃないか‼︎‼︎)
わー!😖となったなつみは、誤って湯呑みを肘で倒してしまった。
「わーッ‼️‼️」
慌てて立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
「雑巾取ってきます‼️💦」
座布団と畳を汚してしまうとテンパっていたが、その一方で、藍染から離れられる理由ができてホッとしていた。
ぴゅーっと走って逃げていったなつみに、その場で取り残される藍染。
「困った子だな…」
バケツと雑巾を持って、部屋に帰ってきたなつみ。
「うぅぅ、すみませんでしたぁ。買い替えの際は、ぼくのお給料から引いてください😣」
机を拭いて、床を拭く。座布団は既に藍染が外に出していた。
「気にしないで。僕がちょっと強引に迫りすぎたのが、いけなかったから。すまない」
そんな申し訳なさそうな顔を向けられると、気にしないなんて器用なことはできなくなる。
「あの、藍染隊長」
「ん?何かな」
拭き終わった雑巾をバケツに入れてから、なつみは正座をして藍染にまっすぐ視線を向けた。
「先程の申し出、謹んでお受け致します。是非、ぼくに鬼道を教えてください‼︎」
態度が一変していて、少々戸惑う藍染。
「あ、あぁ、うん。ありがとう、僕のわがままをきいてくれて。でも、どうして急に」
伸ばした背筋を少し丸め、なつみは答えてあげた。
「だって、断ったら、ぼくは大馬鹿者になりそうなんですもん。誰よりも鬼道に秀でてらっしゃる藍染隊長が、わざわざぼくのためにって、言ってくださったのに、ファンに刺されるのが怖いという理由だけで断るのは、あんぽんたんですよね」
「そんな理由だったの?😅」
「なので、是非、お世話になります!ぼくを鍛えてください。このチャンスを逃したくありません。頼りにしています、藍染隊長!」
藍染の欲しい想いとは違ったようだが、今はこれで満足しておくとしよう。
「わかった。一緒に頑張ろう😊」
「はい!よろしくお願いします😆」
結局、なつみのペースで進むこととなった。何故なら、彼女がそう望んだから。自分を成長させることだけにまっすぐ向き合う元気を携えていれば、あのムードに引き戻されることはないと考えたからだ。耳を触られて、ゾクゾクするあの変な感じは、二度とごめんだった。
(ぼくは女なんかじゃない。あんな反応するなんて、ありえん!あんな変な声…。能天気モードでいくぞ。強くなるための近道だ。隙を見せないように、気を付けよう)
これは誰にも内緒の気持ち。