第三章
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一番隊で始解を披露し、斬魄刀の能力を育てていこうとなった日のこと。なつみは宿舎への帰り道を歩きながら、あることを考えていた。
「ムッちゃんにも、先生にも、総隊長にも申し訳ないんだけど、そこまで斬魄刀の能力に頼りたくないんだよね〜。市丸隊長は能力を使って欲しくないって言うし。自分の力だけでできること、もっと増やさなきゃ!その方が良いよね。ふーむ…」
ならばどうしよう。
「お!」
何かひらめいた。
「先生に、いろんな基礎を教え直してもらおう!おざなりになってることとか見つかりそうじゃない?自分の欠点とか苦手なこととか克服するきっかけになるかも」
それは名案だ。だが。
「先生ひとりに負担が大きいかな。それに、先生だって、苦手なこととかあるかも。それにそれに、会いに行けない日が多いから、早くたくさん教えてもらうには、効率が悪いよね…」
また「ふーむ」と悩む。
「お!」
今度は何か。
「そうだ!戦いのエキスパートに頼んでみよう!剣の振り方、足の運び方を教えてくれるかも!」
そうそう。雀部が師匠となり指南してくれるのなら、他の諸先輩方だってきっと相手をしてくれるはず。やる気がメラメラと燃えてきた。
「明後日は四番隊で診察行く日だから、有給取っちゃえ!申請するのギリアウト?めっちゃお願いして小暴れすれば、いけるか。よし、隊舎に行こう!」
調子にノッてるとはこの事。なつみは宿舎へ向かうのを辞め、有給申請書を提出するために、隊舎へ寄り道することにした。
その2日後の朝、見事、有給を勝ち取ったなつみは、パパッと朝食を済ませ、休みだというのにまた死覇装を着て、ある場所へ走っていった。
その場所とは、十一番隊の道場。戦いのエキスパートたちが集まるところだ。だがその前に、十一番隊の敷地に入るところから始めなければならない。男たちの猛々しい声、木刀のぶつかり合う音が、この距離からでも響いて聞こえてくる。この隊も三番隊の雰囲気とは全く違う。そして、自分の求めているものが得られるだろうと感じ、どうしても目が輝いてしまう。
いざ敷居を跨ごうと決心し、大きな声で挨拶しようと息を吸ったその時、不意になつみは声を掛けられた。
「あれれれ~?女の子がいるぅ。どうしたのぉ?」
隊舎建物の方から少女の声がする。
「あ!草鹿副隊長、おはようございます!」
「おはよーっ」
やちるは、門のところで立っているなつみのもとへ駆けていき、にっこり笑った。
「剣ちゃんに用があるのぉ?剣ちゃんだったらね、今まだ寝てるからいないよー」
「いえ、更木隊長に用というか。…ぼく、道場で鍛えていただけないかと思いまして、お願いしにきたんです」
「じゃー、つるりんにお願いすると良いよ!道場にいるから、連れてってあげる!こっちだよ😆」
やちるはなつみの手を引いて、道場へと導いた。到着すると、バーンッと扉を開けて叫ぶ。
「あのねー、つるりん!この子がね、つるりんに用があるんだってー!」
「朝っぱらからつるりんつるりんうるせぇぞ‼️💢」
なつみは、上半身裸で道場の中央に立ち青筋立ててキレる一角を見た。その周りにはそれまで一角に挑んで敗れ、飛ばされただろう隊士たちが十数人転がっていた。
「おいっ!お前、用があんならさっさと済ませろ!俺は忙しいんだ!」
「あ、はい!」
なつみは慌てて道場内に入り、一角の前で跪いた。
「あ⁉︎てめぇ、何して」
「ぼくに稽古をつけてください!よろしくお願いします‼︎」
「ハァッ⁉︎」
いきなり現れて、いきなり近づいて、いきなり土下座をして、いきなり頼み込んできた見知らぬ少女に、一角は絶句した。
「強くなりたいんです!本気です!お願いします!」
「お、お前どこの隊士だ」
「三番隊第二十席、木之本なつみです!」
正座したまま顔を上げ、まっすぐに一角を見つめるなつみ。その眼差しは真剣そのもの。しかし。
「二十席だァ⁉︎そんな雑魚がここに来やがったってのか!しかも、てめぇ女じゃねーか」
「つるりん、そんな言い方良くないよ。あたしだって女の子だよ!」
「うるせぇ!てめぇは黙ってろ!」
ぷーっとふくれるやちる。この様子を見ていた周りの隊士たちはざわつき始めた。
「ここぁ、キミみたいなお嬢ーちゃんが来るとこじゃねーんだよ」
「さっさとお家帰んな!」
「そうそう!帰って遊んでな!」
野次がどんなに飛んできても、なつみは表情一つ変えずに一角だけを見つめた。膝の上で、両手を色が変わるほどギュウッと握りしめながら。
「黙れ、お前ぇら!」
一角もなつみから目を逸らさずにいた。
「遊びじゃねぇんだぞ。わかってんのか」
「わかっています」
「痛ぇだの、加減しろだの、泣き言は一切聞かねぇ。それでも良いのか」
「はい。女だからと特別扱いを受ける気は毛頭ありません。ここで斬術を体に叩き込みたいんです!お願いしますッ!」
はっきり言い切ると、なつみは再び頭を下げた。
「チッ……」
ついには嫌そうに目を閉じて、一角は舌打ちをした。肩にかついでいた木刀を下ろし、それを片手で支えにして立ち、逆の手で頭を掻きむしり、悩むように唸り声を出した。
「だー、クソッ。仕方ねぇな」
「つるりん、オッケーしてくれるの??」
前のめりになって瞳を輝かすやちる。
「…ああ。そう言わねぇと、動きそうにねぇからな、コイツ。だが、タダでとは言わねぇ。お前の力を試す。それで見込みが無ぇとオレが判断したら、大人しく帰れ。良いな」
「はい‼️(頼んでみるもんだなぁ、やったぜ😆)」
嬉しそうに笑うなつみ。
「(返事は良いんだよな😓)おい!誰か木刀貸してやれ」
一角は近くにいた隊士から一本木刀を受け取る。それをなつみに差し出した。
「取れ」
「ありがとうございます」
なつみは立ち上がり、木刀を握った。自分の斬魄刀を隅に置いておこうと腰から抜くと、やちるが駆けてきた。
「持っててあげるよ!😆」
「すみませんッ、ありがとうございます😊」
一角に向き直り、木刀を構える。
「わくわくするね!ゆみちー」
「なんか、既に一角は彼女に押されてるようだけど(笑)」
いつの間に来たのか、弓親が見学に参加していた。ほくそえんでいる。
「うるせぇ!押されてねぇッ‼︎おい!木之本っつったか⁉︎」
「はい!」
「全力で来い」
すーっと呼吸を整える。
「…いきます!」
「ッシャーッ‼︎」
瞬きひとつして、戦闘モードに入った。踏み込んで一気に距離を詰めると、なつみは一角の正面へ木刀を振り下ろす。カーンとその一撃を受け止められる。
「力が無ぇ。それがお前ぇの全力かァッ!?」
「うわっ!!」
一角に思い切り押し飛ばされるなつみ。仰向けに倒れて、強く背中を打ってしまう。
「ぐぁッ」
「痛ぇは言わねぇ約束だぞ」
「わかってますッ…!」
起き上がり、構え直す。
「もう一度、お願いします」
「次背中ついたら、こっから出てけ」
「はい‼︎」
気合を入れ、なつみは一角を見た。
(パワーで敵わないなら、他の攻め方だ)
そう考えたなつみだったが、また先ほどと同じように一角の正面へ突っ込んでいった。
「タァッ!」
「また吹っ飛ばされてぇか!?アッ!?」
振り下ろされた木刀は一角のものと打つかる。一角は再び飛ばしてやろうと、斜め上に振り上げた。その動きを瞬時に判断し、なつみは左手で木刀の峰を支えつつ、一角の木刀にその上を走らせた。抜け切ると、彼の背後にくるりと回り込み、低い姿勢から木刀を振り上げた。
「…ッ!やるじゃねーか。ここでは見ねぇ攻め方だ」
「いけると思ったんですけど」
なつみの動きを素早く見切った一角は、木刀をとっさに背後に振り、彼女の攻撃を止めていた。次の攻撃が来ると思ったなつみは、急いで一角から距離を取る。
「言うじゃねーか!もっと来いよォ!!」
一角に認めてもらうために、なつみは必死で木刀を振った。何度も何度も、一角の隙をついているつもりなのに、全ての攻撃が受け止められる。
(やっぱり強い……)
一方で、なつみは一角の攻撃を全て避け切っている。パワーで圧倒的に負けているため、まともに喰らっては絶対に痛いに決まっているためだ。飛ばされれば背中もついてしまう。相手の動きをよく見て、コンマ数秒先に次の攻撃を予測する。与えられたチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
(なかなかやるじゃねぇか。コイツ本当に二十席か?見たところ、実力は十席以上だ)
お互いにそんな感想を抱きつつも、この打ち合いが続くことに喜びを感じ始めていた。
一角となつみを眺めて、弓親がつぶやく。
「木之本さん、楽しそうだね。意外と一角も、彼女にハマッちゃってるみたいだし。でもこれじゃあ、勝負は着きそうにないな。惜しいね、彼女」
その隣で、やちるがニコニコしていた。
「あたし、あの子気に入っちゃったー♪」
そうこうしていると、扉の向こうからニコニコした人がもう一人やってきた。
「ひゃー、汗クサ!なつみちゃんたら、こないなことろで何してんの?」
「あ、市丸隊長!」
市丸の存在に気付いたなつみは、スッと一角の一振りをかわして、彼の横に並んだ。無駄なのに、木刀を背中の後ろに慌てて隠しつつ。その様子を見て、一角がなつみの頭に拳骨を落とした。
「何、勝手に辞めてんだ👊」
「ワッ!💥」
「あ!ウチのなつみちゃんに何てことしてくれんの⁉︎」
生まれて初めて拳骨を喰らったなつみは屈んで震えていた。「痛い」と言ってはいけないため、とにかく耐えるしかない。
「くぉーッ😭」
「何すか?市丸隊長。コイツのこと迎えに来たんすか」
丸くなっているなつみを横に、一角は市丸に問いかけた。
「いや、急に有給くれって小暴れしたから、何事かと思て跡ついてきただけやねんやけど」なつみのもとに駆け寄る。「ちょっと、なつみちゃん、泣いてへん?」
「大丈夫です……(涙)」
絶対に大丈夫じゃない声を絞りだしてなつみは答えた。
「こいつ何者なんですか。アンタんとこの二十席だって言いますけど、実力でいったら、もっと上のクラスだ」
「あー、ちょっと言いにくいねんけどぉ…。それは置いといて。なつみちゃんは何でここで斑目クンと一戦交えてるん?」
「そりゃ、こいつがいきなりウチの道場で鍛えてくれって頼みにきたんで」
「そうそう!強くなりたいんだってー。だからつるりんにお願いして、ここで斬術教えてもらえるように、テストしてもらってるの♪」
やちるが楽しそうに割って入ってきた。
「そうなん?」
「斑目さん…、ぼくは合格でしょうか」
立てないでいるなつみは両手で頭のてっぺんを押さえ、一角を涙目で見上げた。
「ったく、しょーがねぇなー。そこそこ根性あるみてぇだから、これから来ても良いぜ。オレがお前をビシバシ鍛えてやらぁ」
「やったぁ!ありがとうございます!」
手は頭の上のままでお辞儀するなつみ。上げられた顔には、いっぱいの安心しきった笑顔が現れていた。
「💘⁉️」ずきゅん!「うるせぇ!礼はてめぇがもっと強くなってから言え!///」
「つるりん、なに赤くなってるの?タコみたいだよー😆」
なつみのぱっと輝いた笑顔に、一角はハートを鷲掴みされたようだった。
「てめぇは黙ってろ‼︎‼︎」
「木之本さん、好きなときに来ていいからね。いつでも一角が相手してくれるはずだよ。…キミを気に入っちゃったみたいだからさ😙」
プッと吹きながら弓親が言った。
「弓親ァ!別にオレはこいつに惚れたワケじゃねーからなッ!」
「僕そんなこと言ってないでしょ。何自分で墓穴ほってんの」
「💢」
「あの!本当にありがとうございます!ぼく、一所懸命がんばりますので、よろしくお願いします!」
また改めてなつみはお礼を言った。
「ぼく、…とりあえずこれから四番隊行きますんで、失礼します‼️」
ズキズキする頭を押さえつつ、頭を下げた。やちるに斬魄刀を返してもらうと、走って道場を出て行った。
「バイバ~イ♪早くまた来てね~!」
走る背中を見送って、やちるはブンブン手を振り、自分もそこを出ようとする。
「剣ちゃんに報告しなきゃ!行ってくるね~」
すぐ後に市丸も動く。
「ありゃりゃ。なつみちゃん、相当痛むんやね。ほな、ボクも。お邪魔しましたぁ」
そう言って、一歩踏み出したが振り向いて、一角に釘を刺す。
「あんまりなつみちゃん傷物にすると、京楽さんに殺されるで気ぃつけや、斑目クン」
「なつみちゃん待ってぇや~」と軽い足取りで立ち去る。その場に残された弓親と一角は呆然と去り行く嵐を見ていた。
「なっ、何で急に京楽隊長?」
「面倒に巻き込まれた気分だ……」
「でも良いじゃん、一角。恋しちゃってさ」
「違ぇっつってんだろッ‼︎てめぇら!どいつでも良いから、かかってこい!ムシャクシャしてきたぜ」
「照れ隠し😙」
「抜け、弓親ァーッ‼︎」
「やだよ~」と言って、弓親まで道場から出て行ってしまった。この状況下にいた十一番隊隊士たちはこの後とんだとばっちりを喰らって、ちょっとテンションのおかしな一角にボコボコにされたらしい。
「ムッちゃんにも、先生にも、総隊長にも申し訳ないんだけど、そこまで斬魄刀の能力に頼りたくないんだよね〜。市丸隊長は能力を使って欲しくないって言うし。自分の力だけでできること、もっと増やさなきゃ!その方が良いよね。ふーむ…」
ならばどうしよう。
「お!」
何かひらめいた。
「先生に、いろんな基礎を教え直してもらおう!おざなりになってることとか見つかりそうじゃない?自分の欠点とか苦手なこととか克服するきっかけになるかも」
それは名案だ。だが。
「先生ひとりに負担が大きいかな。それに、先生だって、苦手なこととかあるかも。それにそれに、会いに行けない日が多いから、早くたくさん教えてもらうには、効率が悪いよね…」
また「ふーむ」と悩む。
「お!」
今度は何か。
「そうだ!戦いのエキスパートに頼んでみよう!剣の振り方、足の運び方を教えてくれるかも!」
そうそう。雀部が師匠となり指南してくれるのなら、他の諸先輩方だってきっと相手をしてくれるはず。やる気がメラメラと燃えてきた。
「明後日は四番隊で診察行く日だから、有給取っちゃえ!申請するのギリアウト?めっちゃお願いして小暴れすれば、いけるか。よし、隊舎に行こう!」
調子にノッてるとはこの事。なつみは宿舎へ向かうのを辞め、有給申請書を提出するために、隊舎へ寄り道することにした。
その2日後の朝、見事、有給を勝ち取ったなつみは、パパッと朝食を済ませ、休みだというのにまた死覇装を着て、ある場所へ走っていった。
その場所とは、十一番隊の道場。戦いのエキスパートたちが集まるところだ。だがその前に、十一番隊の敷地に入るところから始めなければならない。男たちの猛々しい声、木刀のぶつかり合う音が、この距離からでも響いて聞こえてくる。この隊も三番隊の雰囲気とは全く違う。そして、自分の求めているものが得られるだろうと感じ、どうしても目が輝いてしまう。
いざ敷居を跨ごうと決心し、大きな声で挨拶しようと息を吸ったその時、不意になつみは声を掛けられた。
「あれれれ~?女の子がいるぅ。どうしたのぉ?」
隊舎建物の方から少女の声がする。
「あ!草鹿副隊長、おはようございます!」
「おはよーっ」
やちるは、門のところで立っているなつみのもとへ駆けていき、にっこり笑った。
「剣ちゃんに用があるのぉ?剣ちゃんだったらね、今まだ寝てるからいないよー」
「いえ、更木隊長に用というか。…ぼく、道場で鍛えていただけないかと思いまして、お願いしにきたんです」
「じゃー、つるりんにお願いすると良いよ!道場にいるから、連れてってあげる!こっちだよ😆」
やちるはなつみの手を引いて、道場へと導いた。到着すると、バーンッと扉を開けて叫ぶ。
「あのねー、つるりん!この子がね、つるりんに用があるんだってー!」
「朝っぱらからつるりんつるりんうるせぇぞ‼️💢」
なつみは、上半身裸で道場の中央に立ち青筋立ててキレる一角を見た。その周りにはそれまで一角に挑んで敗れ、飛ばされただろう隊士たちが十数人転がっていた。
「おいっ!お前、用があんならさっさと済ませろ!俺は忙しいんだ!」
「あ、はい!」
なつみは慌てて道場内に入り、一角の前で跪いた。
「あ⁉︎てめぇ、何して」
「ぼくに稽古をつけてください!よろしくお願いします‼︎」
「ハァッ⁉︎」
いきなり現れて、いきなり近づいて、いきなり土下座をして、いきなり頼み込んできた見知らぬ少女に、一角は絶句した。
「強くなりたいんです!本気です!お願いします!」
「お、お前どこの隊士だ」
「三番隊第二十席、木之本なつみです!」
正座したまま顔を上げ、まっすぐに一角を見つめるなつみ。その眼差しは真剣そのもの。しかし。
「二十席だァ⁉︎そんな雑魚がここに来やがったってのか!しかも、てめぇ女じゃねーか」
「つるりん、そんな言い方良くないよ。あたしだって女の子だよ!」
「うるせぇ!てめぇは黙ってろ!」
ぷーっとふくれるやちる。この様子を見ていた周りの隊士たちはざわつき始めた。
「ここぁ、キミみたいなお嬢ーちゃんが来るとこじゃねーんだよ」
「さっさとお家帰んな!」
「そうそう!帰って遊んでな!」
野次がどんなに飛んできても、なつみは表情一つ変えずに一角だけを見つめた。膝の上で、両手を色が変わるほどギュウッと握りしめながら。
「黙れ、お前ぇら!」
一角もなつみから目を逸らさずにいた。
「遊びじゃねぇんだぞ。わかってんのか」
「わかっています」
「痛ぇだの、加減しろだの、泣き言は一切聞かねぇ。それでも良いのか」
「はい。女だからと特別扱いを受ける気は毛頭ありません。ここで斬術を体に叩き込みたいんです!お願いしますッ!」
はっきり言い切ると、なつみは再び頭を下げた。
「チッ……」
ついには嫌そうに目を閉じて、一角は舌打ちをした。肩にかついでいた木刀を下ろし、それを片手で支えにして立ち、逆の手で頭を掻きむしり、悩むように唸り声を出した。
「だー、クソッ。仕方ねぇな」
「つるりん、オッケーしてくれるの??」
前のめりになって瞳を輝かすやちる。
「…ああ。そう言わねぇと、動きそうにねぇからな、コイツ。だが、タダでとは言わねぇ。お前の力を試す。それで見込みが無ぇとオレが判断したら、大人しく帰れ。良いな」
「はい‼️(頼んでみるもんだなぁ、やったぜ😆)」
嬉しそうに笑うなつみ。
「(返事は良いんだよな😓)おい!誰か木刀貸してやれ」
一角は近くにいた隊士から一本木刀を受け取る。それをなつみに差し出した。
「取れ」
「ありがとうございます」
なつみは立ち上がり、木刀を握った。自分の斬魄刀を隅に置いておこうと腰から抜くと、やちるが駆けてきた。
「持っててあげるよ!😆」
「すみませんッ、ありがとうございます😊」
一角に向き直り、木刀を構える。
「わくわくするね!ゆみちー」
「なんか、既に一角は彼女に押されてるようだけど(笑)」
いつの間に来たのか、弓親が見学に参加していた。ほくそえんでいる。
「うるせぇ!押されてねぇッ‼︎おい!木之本っつったか⁉︎」
「はい!」
「全力で来い」
すーっと呼吸を整える。
「…いきます!」
「ッシャーッ‼︎」
瞬きひとつして、戦闘モードに入った。踏み込んで一気に距離を詰めると、なつみは一角の正面へ木刀を振り下ろす。カーンとその一撃を受け止められる。
「力が無ぇ。それがお前ぇの全力かァッ!?」
「うわっ!!」
一角に思い切り押し飛ばされるなつみ。仰向けに倒れて、強く背中を打ってしまう。
「ぐぁッ」
「痛ぇは言わねぇ約束だぞ」
「わかってますッ…!」
起き上がり、構え直す。
「もう一度、お願いします」
「次背中ついたら、こっから出てけ」
「はい‼︎」
気合を入れ、なつみは一角を見た。
(パワーで敵わないなら、他の攻め方だ)
そう考えたなつみだったが、また先ほどと同じように一角の正面へ突っ込んでいった。
「タァッ!」
「また吹っ飛ばされてぇか!?アッ!?」
振り下ろされた木刀は一角のものと打つかる。一角は再び飛ばしてやろうと、斜め上に振り上げた。その動きを瞬時に判断し、なつみは左手で木刀の峰を支えつつ、一角の木刀にその上を走らせた。抜け切ると、彼の背後にくるりと回り込み、低い姿勢から木刀を振り上げた。
「…ッ!やるじゃねーか。ここでは見ねぇ攻め方だ」
「いけると思ったんですけど」
なつみの動きを素早く見切った一角は、木刀をとっさに背後に振り、彼女の攻撃を止めていた。次の攻撃が来ると思ったなつみは、急いで一角から距離を取る。
「言うじゃねーか!もっと来いよォ!!」
一角に認めてもらうために、なつみは必死で木刀を振った。何度も何度も、一角の隙をついているつもりなのに、全ての攻撃が受け止められる。
(やっぱり強い……)
一方で、なつみは一角の攻撃を全て避け切っている。パワーで圧倒的に負けているため、まともに喰らっては絶対に痛いに決まっているためだ。飛ばされれば背中もついてしまう。相手の動きをよく見て、コンマ数秒先に次の攻撃を予測する。与えられたチャンスを逃すわけにはいかないのだ。
(なかなかやるじゃねぇか。コイツ本当に二十席か?見たところ、実力は十席以上だ)
お互いにそんな感想を抱きつつも、この打ち合いが続くことに喜びを感じ始めていた。
一角となつみを眺めて、弓親がつぶやく。
「木之本さん、楽しそうだね。意外と一角も、彼女にハマッちゃってるみたいだし。でもこれじゃあ、勝負は着きそうにないな。惜しいね、彼女」
その隣で、やちるがニコニコしていた。
「あたし、あの子気に入っちゃったー♪」
そうこうしていると、扉の向こうからニコニコした人がもう一人やってきた。
「ひゃー、汗クサ!なつみちゃんたら、こないなことろで何してんの?」
「あ、市丸隊長!」
市丸の存在に気付いたなつみは、スッと一角の一振りをかわして、彼の横に並んだ。無駄なのに、木刀を背中の後ろに慌てて隠しつつ。その様子を見て、一角がなつみの頭に拳骨を落とした。
「何、勝手に辞めてんだ👊」
「ワッ!💥」
「あ!ウチのなつみちゃんに何てことしてくれんの⁉︎」
生まれて初めて拳骨を喰らったなつみは屈んで震えていた。「痛い」と言ってはいけないため、とにかく耐えるしかない。
「くぉーッ😭」
「何すか?市丸隊長。コイツのこと迎えに来たんすか」
丸くなっているなつみを横に、一角は市丸に問いかけた。
「いや、急に有給くれって小暴れしたから、何事かと思て跡ついてきただけやねんやけど」なつみのもとに駆け寄る。「ちょっと、なつみちゃん、泣いてへん?」
「大丈夫です……(涙)」
絶対に大丈夫じゃない声を絞りだしてなつみは答えた。
「こいつ何者なんですか。アンタんとこの二十席だって言いますけど、実力でいったら、もっと上のクラスだ」
「あー、ちょっと言いにくいねんけどぉ…。それは置いといて。なつみちゃんは何でここで斑目クンと一戦交えてるん?」
「そりゃ、こいつがいきなりウチの道場で鍛えてくれって頼みにきたんで」
「そうそう!強くなりたいんだってー。だからつるりんにお願いして、ここで斬術教えてもらえるように、テストしてもらってるの♪」
やちるが楽しそうに割って入ってきた。
「そうなん?」
「斑目さん…、ぼくは合格でしょうか」
立てないでいるなつみは両手で頭のてっぺんを押さえ、一角を涙目で見上げた。
「ったく、しょーがねぇなー。そこそこ根性あるみてぇだから、これから来ても良いぜ。オレがお前をビシバシ鍛えてやらぁ」
「やったぁ!ありがとうございます!」
手は頭の上のままでお辞儀するなつみ。上げられた顔には、いっぱいの安心しきった笑顔が現れていた。
「💘⁉️」ずきゅん!「うるせぇ!礼はてめぇがもっと強くなってから言え!///」
「つるりん、なに赤くなってるの?タコみたいだよー😆」
なつみのぱっと輝いた笑顔に、一角はハートを鷲掴みされたようだった。
「てめぇは黙ってろ‼︎‼︎」
「木之本さん、好きなときに来ていいからね。いつでも一角が相手してくれるはずだよ。…キミを気に入っちゃったみたいだからさ😙」
プッと吹きながら弓親が言った。
「弓親ァ!別にオレはこいつに惚れたワケじゃねーからなッ!」
「僕そんなこと言ってないでしょ。何自分で墓穴ほってんの」
「💢」
「あの!本当にありがとうございます!ぼく、一所懸命がんばりますので、よろしくお願いします!」
また改めてなつみはお礼を言った。
「ぼく、…とりあえずこれから四番隊行きますんで、失礼します‼️」
ズキズキする頭を押さえつつ、頭を下げた。やちるに斬魄刀を返してもらうと、走って道場を出て行った。
「バイバ~イ♪早くまた来てね~!」
走る背中を見送って、やちるはブンブン手を振り、自分もそこを出ようとする。
「剣ちゃんに報告しなきゃ!行ってくるね~」
すぐ後に市丸も動く。
「ありゃりゃ。なつみちゃん、相当痛むんやね。ほな、ボクも。お邪魔しましたぁ」
そう言って、一歩踏み出したが振り向いて、一角に釘を刺す。
「あんまりなつみちゃん傷物にすると、京楽さんに殺されるで気ぃつけや、斑目クン」
「なつみちゃん待ってぇや~」と軽い足取りで立ち去る。その場に残された弓親と一角は呆然と去り行く嵐を見ていた。
「なっ、何で急に京楽隊長?」
「面倒に巻き込まれた気分だ……」
「でも良いじゃん、一角。恋しちゃってさ」
「違ぇっつってんだろッ‼︎てめぇら!どいつでも良いから、かかってこい!ムシャクシャしてきたぜ」
「照れ隠し😙」
「抜け、弓親ァーッ‼︎」
「やだよ~」と言って、弓親まで道場から出て行ってしまった。この状況下にいた十一番隊隊士たちはこの後とんだとばっちりを喰らって、ちょっとテンションのおかしな一角にボコボコにされたらしい。