第三章
夢小説設定
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初めて見る死神らしいなつみの姿。一体どんな戦い方をするのか。霊圧の高まりを感じる。小さな体に霊力が溜まっていく。準備は整った。
「叶え、夢現天道子」
力の解放の合図。なつみが斬魄刀を振りかざし、勢いよく距離を詰めて来た。
「ターッ‼︎‼︎」
カチンッ!一太刀目が重たく届いた。その後すぐ高速で、何太刀もの攻撃が間髪入れずに繰り出される。さすが、市丸の下で鍛えられているだけはある。そう感心する一方で、全ての攻撃を防ぐ度に見える現象に戸惑いを隠せないでいた。
なつみの斬魄刀の刃から、一振りごとにさまざまなものが出てくる。水、氷、電気、火花、炎、煙、突風、竜巻。鬼道系の斬魄刀ということなのか?
2本の斬魄刀が打つかる。次の瞬間、なつみの斬魄刀が曲がりだし、ツタのように厳霊丸に巻き付いた。グンッと下へ下げられる。すると突然辺りが真っ暗闇になった。2、3回瞬きの後、明るさが戻ったのを確認したが、なつみの姿が無い。
「上ですよ」
声につられて上を見ると、天井を歩くなつみがいた。予測が全くついていかない。
8歩先で床に降りたなつみは、一瞬にしてもっと先にある壁の前へ移動。トントンと駆け出し、助走を取る。槍投げよろしく、斬魄刀を勢いをつけてブンッと投げ飛ばした。刀はグングン雀部目指して直進していく。軌道を読んだ雀部は、刺さらないように早めに横へ逃げた。だが、斬魄刀はその変化に気付いたように、軌道修正をして曲がって飛んできた。そのまま到着するかと思いきや、知らない間になつみの手に斬魄刀は握られている。いつ戻ったのか。
なつみはその場に止まり、低い姿勢で構え直す。背中を丸め、霊圧を更に高める。見覚えのある構え。垣間見えた口角が上がっていた。
「射殺せ、神槍」
刀身が猛スピードで伸び、雀部に迫る。とっさに鬼道で盾を作り、攻撃を防ぐのに間に合った、と安心したが、すでに刀身の長さは元に戻っていた。即座に次の攻撃に備えるも、相手の様子が変わったのに気付いた。
「もうムリかも…」
なつみはそうつぶやいて、前に倒れていった。しかし、空中で傾きが止まる。
「ムッちゃん…」
ふわっと体が浮いて、仰向けになり、何かに柔らかく抱えられているようにして、すーっと元柳斎の方へ飛んできた。
「うん…。これで良いんだよ」
ゆっくりと床に降りると同時に、握られていた斬魄刀がひとりでに手を離れ、鞘に帰っていった。寝そべるなつみは、元柳斎を見上げて言う。
「せっかくなので、無茶をしてみました」
弱々しく笑うなつみの隣に腰掛けると、彼女の額に手を当てて、自らの霊力を分け与える元柳斎。
「確かに、うまく説明できんの…」
攻撃をひたすら受け続けた雀部だったが、実際に体験したにも関わらず、何が起きていたのか理解が追いつかないでいた。衝撃、感触、熱、全て本物だった。移動については、速さとは別の次元で行われているように思われた。見たこと、感じたこと、何もかもが信じられない。
「何だったんだ…」
雀部は斬魄刀を収め、2人の近くに行き、座った。
「元柳斎殿、この子の能力とは一体」
「ふむ…」
充分に霊力をもらったなつみは起き上がり、座り直した。
「ありがとうございます、総隊長。もう大丈夫です」
深呼吸をした。
「ぼくは、何でもできるんですよ。だから、何と言われても答えられない。想像して、叶えたいことを実現する。簡単に言うと、そういうことなんです。けど、…常識外れにも程がありますよね」
「そう言うたところで、それが現実なんじゃろ。お前の斬魄刀は、お前の望みを叶えるもの。ようここまで、仕上げたものじゃ」
「ですが、今は稽古だから上手くできたんです。落ち着いた環境だったから。ぼくしか攻めてなかったですし」
懐に入れていた手拭いを取り出し、ひらり広げると、斬魄刀を再度抜き、解号を唱える。
「叶え、夢現天道子。汗を拭いて」
このお願いを聞き、手拭いは自らを折り紙のように畳むと、龍の形になり、身体をくねらせてなつみの首まで飛んでいく。顔のあたりに着くと、猫が飼い主に擦り寄る仕草で嬉しそうに、なつみの顎、頬、額をくるくるすりすりしていった。
「ふふっ、くすぐったいよぉ。ありがとぉ」
術を解くと、手拭いはなつみの肩にかかり、たらんと垂れた。
「何でもない時は自由自在なのに、実戦で焦るとうまくいかなくて。この間だって、それであんなことになっちゃったんですよ。ぼくが弱いから…」
あぐらをかいた膝の上に斬魄刀を置き、優しく触れる。
「この子は悪くない。ぼくが、…ぼくの心が弱いからダメなんです」
「お前は未熟なんじゃ」
元柳斎がやや前のめりに姿勢を変える。
「なつみよ、全てを話してみよ。お前の知るところ全てじゃ。未熟が故に、負の連鎖が起きてしもうた。未熟が故に、ひとりでうまく立ち回れんかった。ならばいかにする。周りに頼るしかなかろう。そしてお前はここへ来た。先の未来へと進むためにの。よう戻ってきた、なつみ。お前の敗因は弱さじゃのうて、未熟さにある。欠点と向き合うて、行動を起こそうとするお前は、充分強い。儂はそう思うておるぞ。お前は言うたな、ここは落ち着ける環境だと。安心して、儂らに話すが良い」
なつみはこの言葉に感謝した。頭を下げ、またひとつ、ゆっくりと呼吸をして、告白へ気持ちを整える。上体を起こし、背筋を伸ばす。そして、斬魄刀をしまうと、これまでを振り返り、言葉を紡ぎ始めた。
斬魄刀の本当の名前、その能力について。市丸がこの力を隠すべきだと言ったこと。能力の暴走により、精神が不安定になり、虚の悲しみに溺れたこと。能力を解放したまま、虚の想いが自分のものと重なってしまったがために、世界を滅ぼしかけたこと。これ以上の暴走を防ぎたいからと、斬魄刀の名前を変えたこと。みんなに助けてもらって、救われた命だから、その期待に応えて、死神としてもっと成長したいと思う気持ち。世界の平和を作るために、虚と仲良くなってみたいこと。自分に必要なのは、戦うスキルと自分を保つ精神力であり、それらを得る方法を見つけられないでいること。元柳斎と雀部に知ってもらいたいことは、全部打ち明けた。話す程に、雲間から差す光が多くなっていく感じがして、嬉しかった。
「ぼくはどうしたら良いんでしょうか」
「そうじゃのぉ…」
元柳斎は考える。考える。…、考えた。
「なつみはそのまま、自分のできることを精一杯やりなさい。変わるべきは儂らの方じゃな」
「どういうことですか」
「なつみの目指すところは、夢現天子の力を存分に発揮することじゃ。その道を突き進むのはなつみであり、その道を導く者が必要となる。それは誰か」
「誰ですか」
「雀部よ、お前で良かろう」
「私ですか⁉︎」
それまでうんうんと頷いて話を聞いていた雀部は、急にご指名をいただき、驚いた。
「元柳斎殿が指導された方が、この子のためになると思うのですが」
「何を言う。こやつを拾うてきたのはお前じゃろうて。お前が面倒を見ずしてどうする」
「しかし」
「文句は聞かん。儂の背中を追うつもりでおるならば、そろそろ弟子を取り、己の成長に繋げよ。お前とて卍解まで極めた身、斬魄刀の能力をどう使うか、どう育てるのか、ようわかっておるじゃろ。それをこの子に教えてやると良い。できぬとは言わせん」
「ですが」なつみの方を見る。「君は私で良いのか?」
なつみは笑顔だった。
「もちろんです!先生は教えるのがとっても上手だって、ぼく知ってますから、安心してついていけます!集まって読書する時間を稽古に変えましょう。そしたら、今まで通りのスケジュールの立て方でいけるじゃないですか!先生さえ良ければ、ぼくからもお願いしたいです。是非、稽古をつけてください!」
ペコッと頭を下げた。
「そう言ってくれるのなら、引き受けざるを得ないな」
嬉しい返事になつみの笑顔は輝き、雀部も微笑み返した。彼女の笑顔の裏に、元柳斎からのゲンコツ回避成功の思惑があるとも知らずに。
(総隊長、厳しそうだもん。絶対先生の方が指導優しいって!ラッキーだ!)
(儂が面倒を見れば、甘やかすばかりではかどりはせんじゃろう)
(読書の時間も少しは残したいものだがな)
三者三様のご意見。
「そうじゃ!なつみよ、一番隊に移籍するのはどうじゃ」
天晴れな提案降臨。
「そうですよ!それは良い考えです。稽古の時間が作りやすくなります。そうしましょう!なつみも、その方が良いだろう?」
「え、あのっ、その…」
「何じゃ。嫌なのか」
「はい…」
恥ずかしそうに、もじもじとするなつみ。
「ぼくは、市丸隊長のそばにいたいんです。なので、誘っていただいて、とっても嬉しいのですが、お断りさせていただきたいです。すみません。他の隊からも一度お誘いがあったのですが、その時も同じ理由でお断りしています…。こちらですぐにお受けするのは、あちらに対して失礼にあたりますよね」
「どこじゃ」
「…、八番隊です。京楽隊長が直々に///」
顔を見合わせる元柳斎と雀部。視線を照れているなつみに戻す。
「それ、断って良いヤツだ。気にするな」
「左様、おなごとあらば誰彼構わず自分の隊へ誘っておる。挨拶みたいなもんじゃ。本気にするでない。しょうもない、キャツの悪い癖じゃ」
「ヘクシュッ💦」
「隊長、風邪ですか?」
「うぅー、違うと思うよ。誰かがボクの噂してるんだよ。犯人はなつみちゃんかな?🥰」
残念でした。
「何故、市丸にこだわる。まさか、キャツに恋をしているわけでもあるまい」
「違います!それはないです!」
「ックシュン💦」
「大丈夫ですか、隊長」
「急にムズムズしてん。噂されてるかも」
「陰口ですかね」
「やめてやぁ、ボク嫌われたくないで」
ご安心ください。
なつみは両手をブンブン振って、違う違うと猛アピール。
「先生なら、共感していただけると思いますが…」
手を止めて、少し顔を赤らめたなつみは、雀部に視線をやった。
「あぁ」彼にも思い当たる節はある。「わかるよ。尊敬しているんだな、あいつのことを」
「はい」
こくんと頷いた。
「その話を出されてしまっては、私は何も言えなくなる。仕方がない。君の好きにすると良い」
「わがままを言ってしまって、すみません。ありがとうございます」
「少し残念じゃが、話は着いたの」
そう言って元柳斎が立ち上がったため、2人も立ち上がった。
「なつみ、これまでより、もっとここへ来るようにしなさい。暴走を阻止したくば、はよ刀の使い方を身につけねばならんからの」
「はい!」
「来るときは、いつものように前もって連絡してくれ。道場の空きを調節しなければならないからな」
「はい!」
「とは言うもののじゃ」
「「?」」
何かを改めて考えだした元柳斎。
「市丸の心配も一理あるのぉ…」
夢現天子、または、夢現天道子の能力を向上せすることはまず第一に大切なことではあるが、それに伴うリスクもまた、無視することはできない。
「我が護廷隊に裏切り者が潜んでおると考えたくも無いが、時折りおかしな奴もおるからのぉ。大それた悪事とはならずとも、小さないざこざに巻き込まれる可能性は大いにある」
「でもぼく、市丸隊長と約束しました。この力は自分のためだけじゃなく、みんなの幸せのために使うと。嫌なことは嫌だと断りますよ!」
「その心がけは大事じゃ。じゃがのぉ、お前はいかんせん優しすぎる。片方の言い分だけを聞いて協力し、誰かを知らず知らずのうちに傷つけてしまうこともあろう」
「う…」
確かに。
「うむ」
何か決心されたよう。
「次の隊首会にて、お前の話をしておこう。お前を見守り、育てることに協力して欲しいとな。隊長たちが目をつけておれば、下手なことをする者も、なつみに近寄ろうとせんじゃろ」
「わぁー、そんな大袈裟な💦」
「そこまでせんといかんということじゃ、お前の能力はの」
なつみは困った表情を浮かべる。
「ええか。お前はこの尸魂界にとって、かけがえのない存在となる。儂より強い死神になれるかもしれんのじゃよ。その素質がある。皆でお前を守り、お前は皆の幸せを守らねばならん。儂の楽しみのためにも、お前にはすくすくと育って欲しいのじゃ」
全死神の頂点に君臨する総隊長にここまで言わせるとは、自分って何者?まだ二十席ですよと思うと同時に、この励ましの言葉が、なつみの悩める心を照らしていった。
(ぼくは、この力を持ってて良いんだ)
「元柳斎殿を超える死神を、私如きが育てられるのでしょうか」
ちょっと自信が無くなった雀部。
「育ててみせよ。そうしてくれなければ困る」
もっと自信が小さくなった。
「案ずるな。現時点で、もはやなつみを負かせる死神はおらんと見ておる。儂ですら無理じゃろう」
「なんとッ」「言い過ぎですよ‼︎💦」
「可愛すぎての、勝てる気がせん…」
「「………😓」」
「負ける気もせんがの‼️」
そりゃそうでしょうとも。
「冗談はさて置き」どこからどこまでが冗談だ。「精進せい、2人とも。より良い世界を築く、糧となるのじゃ。どんな困難も打ち破れるよう、己を鍛え上げよ。期待しておるぞ」
こんなにも心強い言葉を頂いたことがあっただろうか。なつみと雀部は嬉しくて顔がニヤけるのを抑えつつ、はっきりと元柳斎の意思を受け取り、その想いに答えた。
「「はい‼︎‼︎」」
「叶え、夢現天道子」
力の解放の合図。なつみが斬魄刀を振りかざし、勢いよく距離を詰めて来た。
「ターッ‼︎‼︎」
カチンッ!一太刀目が重たく届いた。その後すぐ高速で、何太刀もの攻撃が間髪入れずに繰り出される。さすが、市丸の下で鍛えられているだけはある。そう感心する一方で、全ての攻撃を防ぐ度に見える現象に戸惑いを隠せないでいた。
なつみの斬魄刀の刃から、一振りごとにさまざまなものが出てくる。水、氷、電気、火花、炎、煙、突風、竜巻。鬼道系の斬魄刀ということなのか?
2本の斬魄刀が打つかる。次の瞬間、なつみの斬魄刀が曲がりだし、ツタのように厳霊丸に巻き付いた。グンッと下へ下げられる。すると突然辺りが真っ暗闇になった。2、3回瞬きの後、明るさが戻ったのを確認したが、なつみの姿が無い。
「上ですよ」
声につられて上を見ると、天井を歩くなつみがいた。予測が全くついていかない。
8歩先で床に降りたなつみは、一瞬にしてもっと先にある壁の前へ移動。トントンと駆け出し、助走を取る。槍投げよろしく、斬魄刀を勢いをつけてブンッと投げ飛ばした。刀はグングン雀部目指して直進していく。軌道を読んだ雀部は、刺さらないように早めに横へ逃げた。だが、斬魄刀はその変化に気付いたように、軌道修正をして曲がって飛んできた。そのまま到着するかと思いきや、知らない間になつみの手に斬魄刀は握られている。いつ戻ったのか。
なつみはその場に止まり、低い姿勢で構え直す。背中を丸め、霊圧を更に高める。見覚えのある構え。垣間見えた口角が上がっていた。
「射殺せ、神槍」
刀身が猛スピードで伸び、雀部に迫る。とっさに鬼道で盾を作り、攻撃を防ぐのに間に合った、と安心したが、すでに刀身の長さは元に戻っていた。即座に次の攻撃に備えるも、相手の様子が変わったのに気付いた。
「もうムリかも…」
なつみはそうつぶやいて、前に倒れていった。しかし、空中で傾きが止まる。
「ムッちゃん…」
ふわっと体が浮いて、仰向けになり、何かに柔らかく抱えられているようにして、すーっと元柳斎の方へ飛んできた。
「うん…。これで良いんだよ」
ゆっくりと床に降りると同時に、握られていた斬魄刀がひとりでに手を離れ、鞘に帰っていった。寝そべるなつみは、元柳斎を見上げて言う。
「せっかくなので、無茶をしてみました」
弱々しく笑うなつみの隣に腰掛けると、彼女の額に手を当てて、自らの霊力を分け与える元柳斎。
「確かに、うまく説明できんの…」
攻撃をひたすら受け続けた雀部だったが、実際に体験したにも関わらず、何が起きていたのか理解が追いつかないでいた。衝撃、感触、熱、全て本物だった。移動については、速さとは別の次元で行われているように思われた。見たこと、感じたこと、何もかもが信じられない。
「何だったんだ…」
雀部は斬魄刀を収め、2人の近くに行き、座った。
「元柳斎殿、この子の能力とは一体」
「ふむ…」
充分に霊力をもらったなつみは起き上がり、座り直した。
「ありがとうございます、総隊長。もう大丈夫です」
深呼吸をした。
「ぼくは、何でもできるんですよ。だから、何と言われても答えられない。想像して、叶えたいことを実現する。簡単に言うと、そういうことなんです。けど、…常識外れにも程がありますよね」
「そう言うたところで、それが現実なんじゃろ。お前の斬魄刀は、お前の望みを叶えるもの。ようここまで、仕上げたものじゃ」
「ですが、今は稽古だから上手くできたんです。落ち着いた環境だったから。ぼくしか攻めてなかったですし」
懐に入れていた手拭いを取り出し、ひらり広げると、斬魄刀を再度抜き、解号を唱える。
「叶え、夢現天道子。汗を拭いて」
このお願いを聞き、手拭いは自らを折り紙のように畳むと、龍の形になり、身体をくねらせてなつみの首まで飛んでいく。顔のあたりに着くと、猫が飼い主に擦り寄る仕草で嬉しそうに、なつみの顎、頬、額をくるくるすりすりしていった。
「ふふっ、くすぐったいよぉ。ありがとぉ」
術を解くと、手拭いはなつみの肩にかかり、たらんと垂れた。
「何でもない時は自由自在なのに、実戦で焦るとうまくいかなくて。この間だって、それであんなことになっちゃったんですよ。ぼくが弱いから…」
あぐらをかいた膝の上に斬魄刀を置き、優しく触れる。
「この子は悪くない。ぼくが、…ぼくの心が弱いからダメなんです」
「お前は未熟なんじゃ」
元柳斎がやや前のめりに姿勢を変える。
「なつみよ、全てを話してみよ。お前の知るところ全てじゃ。未熟が故に、負の連鎖が起きてしもうた。未熟が故に、ひとりでうまく立ち回れんかった。ならばいかにする。周りに頼るしかなかろう。そしてお前はここへ来た。先の未来へと進むためにの。よう戻ってきた、なつみ。お前の敗因は弱さじゃのうて、未熟さにある。欠点と向き合うて、行動を起こそうとするお前は、充分強い。儂はそう思うておるぞ。お前は言うたな、ここは落ち着ける環境だと。安心して、儂らに話すが良い」
なつみはこの言葉に感謝した。頭を下げ、またひとつ、ゆっくりと呼吸をして、告白へ気持ちを整える。上体を起こし、背筋を伸ばす。そして、斬魄刀をしまうと、これまでを振り返り、言葉を紡ぎ始めた。
斬魄刀の本当の名前、その能力について。市丸がこの力を隠すべきだと言ったこと。能力の暴走により、精神が不安定になり、虚の悲しみに溺れたこと。能力を解放したまま、虚の想いが自分のものと重なってしまったがために、世界を滅ぼしかけたこと。これ以上の暴走を防ぎたいからと、斬魄刀の名前を変えたこと。みんなに助けてもらって、救われた命だから、その期待に応えて、死神としてもっと成長したいと思う気持ち。世界の平和を作るために、虚と仲良くなってみたいこと。自分に必要なのは、戦うスキルと自分を保つ精神力であり、それらを得る方法を見つけられないでいること。元柳斎と雀部に知ってもらいたいことは、全部打ち明けた。話す程に、雲間から差す光が多くなっていく感じがして、嬉しかった。
「ぼくはどうしたら良いんでしょうか」
「そうじゃのぉ…」
元柳斎は考える。考える。…、考えた。
「なつみはそのまま、自分のできることを精一杯やりなさい。変わるべきは儂らの方じゃな」
「どういうことですか」
「なつみの目指すところは、夢現天子の力を存分に発揮することじゃ。その道を突き進むのはなつみであり、その道を導く者が必要となる。それは誰か」
「誰ですか」
「雀部よ、お前で良かろう」
「私ですか⁉︎」
それまでうんうんと頷いて話を聞いていた雀部は、急にご指名をいただき、驚いた。
「元柳斎殿が指導された方が、この子のためになると思うのですが」
「何を言う。こやつを拾うてきたのはお前じゃろうて。お前が面倒を見ずしてどうする」
「しかし」
「文句は聞かん。儂の背中を追うつもりでおるならば、そろそろ弟子を取り、己の成長に繋げよ。お前とて卍解まで極めた身、斬魄刀の能力をどう使うか、どう育てるのか、ようわかっておるじゃろ。それをこの子に教えてやると良い。できぬとは言わせん」
「ですが」なつみの方を見る。「君は私で良いのか?」
なつみは笑顔だった。
「もちろんです!先生は教えるのがとっても上手だって、ぼく知ってますから、安心してついていけます!集まって読書する時間を稽古に変えましょう。そしたら、今まで通りのスケジュールの立て方でいけるじゃないですか!先生さえ良ければ、ぼくからもお願いしたいです。是非、稽古をつけてください!」
ペコッと頭を下げた。
「そう言ってくれるのなら、引き受けざるを得ないな」
嬉しい返事になつみの笑顔は輝き、雀部も微笑み返した。彼女の笑顔の裏に、元柳斎からのゲンコツ回避成功の思惑があるとも知らずに。
(総隊長、厳しそうだもん。絶対先生の方が指導優しいって!ラッキーだ!)
(儂が面倒を見れば、甘やかすばかりではかどりはせんじゃろう)
(読書の時間も少しは残したいものだがな)
三者三様のご意見。
「そうじゃ!なつみよ、一番隊に移籍するのはどうじゃ」
天晴れな提案降臨。
「そうですよ!それは良い考えです。稽古の時間が作りやすくなります。そうしましょう!なつみも、その方が良いだろう?」
「え、あのっ、その…」
「何じゃ。嫌なのか」
「はい…」
恥ずかしそうに、もじもじとするなつみ。
「ぼくは、市丸隊長のそばにいたいんです。なので、誘っていただいて、とっても嬉しいのですが、お断りさせていただきたいです。すみません。他の隊からも一度お誘いがあったのですが、その時も同じ理由でお断りしています…。こちらですぐにお受けするのは、あちらに対して失礼にあたりますよね」
「どこじゃ」
「…、八番隊です。京楽隊長が直々に///」
顔を見合わせる元柳斎と雀部。視線を照れているなつみに戻す。
「それ、断って良いヤツだ。気にするな」
「左様、おなごとあらば誰彼構わず自分の隊へ誘っておる。挨拶みたいなもんじゃ。本気にするでない。しょうもない、キャツの悪い癖じゃ」
「ヘクシュッ💦」
「隊長、風邪ですか?」
「うぅー、違うと思うよ。誰かがボクの噂してるんだよ。犯人はなつみちゃんかな?🥰」
残念でした。
「何故、市丸にこだわる。まさか、キャツに恋をしているわけでもあるまい」
「違います!それはないです!」
「ックシュン💦」
「大丈夫ですか、隊長」
「急にムズムズしてん。噂されてるかも」
「陰口ですかね」
「やめてやぁ、ボク嫌われたくないで」
ご安心ください。
なつみは両手をブンブン振って、違う違うと猛アピール。
「先生なら、共感していただけると思いますが…」
手を止めて、少し顔を赤らめたなつみは、雀部に視線をやった。
「あぁ」彼にも思い当たる節はある。「わかるよ。尊敬しているんだな、あいつのことを」
「はい」
こくんと頷いた。
「その話を出されてしまっては、私は何も言えなくなる。仕方がない。君の好きにすると良い」
「わがままを言ってしまって、すみません。ありがとうございます」
「少し残念じゃが、話は着いたの」
そう言って元柳斎が立ち上がったため、2人も立ち上がった。
「なつみ、これまでより、もっとここへ来るようにしなさい。暴走を阻止したくば、はよ刀の使い方を身につけねばならんからの」
「はい!」
「来るときは、いつものように前もって連絡してくれ。道場の空きを調節しなければならないからな」
「はい!」
「とは言うもののじゃ」
「「?」」
何かを改めて考えだした元柳斎。
「市丸の心配も一理あるのぉ…」
夢現天子、または、夢現天道子の能力を向上せすることはまず第一に大切なことではあるが、それに伴うリスクもまた、無視することはできない。
「我が護廷隊に裏切り者が潜んでおると考えたくも無いが、時折りおかしな奴もおるからのぉ。大それた悪事とはならずとも、小さないざこざに巻き込まれる可能性は大いにある」
「でもぼく、市丸隊長と約束しました。この力は自分のためだけじゃなく、みんなの幸せのために使うと。嫌なことは嫌だと断りますよ!」
「その心がけは大事じゃ。じゃがのぉ、お前はいかんせん優しすぎる。片方の言い分だけを聞いて協力し、誰かを知らず知らずのうちに傷つけてしまうこともあろう」
「う…」
確かに。
「うむ」
何か決心されたよう。
「次の隊首会にて、お前の話をしておこう。お前を見守り、育てることに協力して欲しいとな。隊長たちが目をつけておれば、下手なことをする者も、なつみに近寄ろうとせんじゃろ」
「わぁー、そんな大袈裟な💦」
「そこまでせんといかんということじゃ、お前の能力はの」
なつみは困った表情を浮かべる。
「ええか。お前はこの尸魂界にとって、かけがえのない存在となる。儂より強い死神になれるかもしれんのじゃよ。その素質がある。皆でお前を守り、お前は皆の幸せを守らねばならん。儂の楽しみのためにも、お前にはすくすくと育って欲しいのじゃ」
全死神の頂点に君臨する総隊長にここまで言わせるとは、自分って何者?まだ二十席ですよと思うと同時に、この励ましの言葉が、なつみの悩める心を照らしていった。
(ぼくは、この力を持ってて良いんだ)
「元柳斎殿を超える死神を、私如きが育てられるのでしょうか」
ちょっと自信が無くなった雀部。
「育ててみせよ。そうしてくれなければ困る」
もっと自信が小さくなった。
「案ずるな。現時点で、もはやなつみを負かせる死神はおらんと見ておる。儂ですら無理じゃろう」
「なんとッ」「言い過ぎですよ‼︎💦」
「可愛すぎての、勝てる気がせん…」
「「………😓」」
「負ける気もせんがの‼️」
そりゃそうでしょうとも。
「冗談はさて置き」どこからどこまでが冗談だ。「精進せい、2人とも。より良い世界を築く、糧となるのじゃ。どんな困難も打ち破れるよう、己を鍛え上げよ。期待しておるぞ」
こんなにも心強い言葉を頂いたことがあっただろうか。なつみと雀部は嬉しくて顔がニヤけるのを抑えつつ、はっきりと元柳斎の意思を受け取り、その想いに答えた。
「「はい‼︎‼︎」」