第一章
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尾田から事情を聞いた市丸は、さっそくなつみのもとへ行った。休み時間を過ごしていたなつみは、隊舎の縁側で木漏れ日を浴び、本を読んでいた。この部屋は彼女専用の空間と言っても過言ではない。畳貼りのこの部屋の静けさと欄間のかわいさと庭の景色を気に入り、時間に余裕がある時には、よくここに来るようにしている。
「……」
誰もいないし、誰も来ないと思っていたため、なつみはごろごろ寝転んでいた。持っている本にはカバーがかけられており、彼女がいつも何を読んでいるのか、仲間たちは知らない。
「…………」
「…………」
「…ん?」
なつみはふと人の気配を感じ、そっと顔の前に持ち上げていた本を胸の上へ降ろす。と、そこに覗かせた顔に驚いて飛び起きる。
「あわッ!市丸隊長!こんにちはッ!」
慌てて本を脇に置き、正座をし、頭を下げて挨拶をした。縁側から足を下ろした状態で座っている市丸は、そんななつみの頭を優しく撫でてやった。
「こんにちはー」
「おっ、お見苦しい姿を見せてしまって、申し訳ありません///」
恥ずかしさのあまり顔を上げられないなつみ。
「そんなん、気にしてへんよ。なつみちゃん、今休み時間なんやろ?キミが何してようと構へん。それより、何読んでんの?」
市丸がすっとなつみの本を手に取る。
「あっ!ダメっ」
なつみは急いで本を守ろうとしたが、あっさり取られてしまう。
「何がダメなん?」
そう言って市丸は本の中身を見る。
「これ、『バラ色の小径』やないの。京楽さんが書いてる小説。おっ、しかも栞に使てんの、京楽さんのブロマイドやん。ちょっとちょっとなつみちゃん、こないな秘密持ってたん??」
「もう!かっ、返してくださいよ!」
取り返そうとなつみが手を伸ばすも、市丸はすねた顔をしてなつみから本を遠ざける。
「あかん!ボクだけのなつみちゃんやのに、こんなん許せへん」
「そんなぁ……」
「それにやな、そないに京楽さんのこと好きやったら、ちゃーんと本人に気持ち伝えてみたらどうや?なつみちゃん」
「えっ……!?べべ別に、そういうつもりは!」
「恥ずかしいんやな!そりゃそうやんな。わかってる。大丈夫や」
本を持っていない逆の手をなつみの肩に置き、市丸はニヤっとして顔を近づけた。
「告白できひんなつみちゃんの代わりに、ボクが京楽さんになつみちゃんの気持ち言ってきたるわ」
「えッ!?」
「ほな、行ってくるわ~♪」
シュッと姿を消した市丸の跡を呆然と見ていたが、パッと我に返ってなつみは八番隊舎へ向かっただろう彼を追う。
「待ってください、隊長!」
大事な本を取られた上に、勝手に自分の気持ちがバレてしまいそうになっているこの状況下で、なつみは酷く焦っていた。
「待ってくださいよ!市丸隊長!」
「待たへんよ~。こういうんは、はよ言った方がええんやでぇ!」
瞬歩で行ってしまえば一瞬で目的地に着いてしまうのに、市丸はなつみが追いつけるように、わざと軽い足取りで駆けていった。しかしなつみはそんなことに気づきもせず懸命に走った。
「わかりましたよ!言いますよ!自分で言いますから!」
その言葉を聞いて、市丸は足を止めた。息も絶え絶えに、なつみはやっと市丸に追いつく。
「ほんまに?」
「はい…。ですから、本を、返していただけませんか…はぁ」
「それは嫌や♪」
で、また走り出す市丸。
「うわーッ!!!!勘弁してくださいよ!隊長ーッ!」
こんなところを行きかう人たち全員に見られていると思うと、恥ずかしくて気が動転する。それに大事な大事な本は、全く返ってくる気配が無い。なつみはもう、泣き出さんばかりだった。そんななつみをチラリと見た男がいた。尾田だ。
「市丸隊長…、本当にあなたは何をしているんですかッ(困)」
尾田は、なつみがあれで元気を取り戻せるのか不安になってしまった。相談相手を間違えたかと、後悔をして仕事に戻る。
「返してくださいよ!ぼくの本!」
「嫌や言うてるやろー。そんなに返して欲しかったら、ボクを捕まえてみぃ」
「わーッ!」
瀞霊廷内を走り回るこの追いかけっこは数十分と続き、なつみの休み時間はとうに終わっていた。しかし市丸はなつみに捕まろうとはしない。
「なつみちゃん、ボク疲れたわ。そんな追いかけんといてや」
「じゃあ、本をさっさと返しなさい!」
「ダ~メ」
「クッソ!」
なつみは疲れのピークが来ていた。だが、どうしても本を返してもらいたくて走り続ける。
(ぼくが京楽隊長をこんなにも好きだなんてバレたら、あいつらに冷やかされるに決まってる!そんな面倒ごめんだ!)
「ウォーッ!!!!」
とても理由がしょうもないが、なつみは今までに出したことのない本気を出した。そして、チリンと鈴の鳴るような音を耳にした。
「呼びなさい。私の名を」
本を返してもらいたい一心のなつみは、市丸を捕らえるために力を集中させ、霊圧を爆発させた。それに気づいた市丸は肩越しになつみの様子を見る。なつみは斬魄刀に手をかけ、叫んだ。
「従え、夢現天子!」
斬魄刀を抜くと、振り返った市丸に向け、切先をまっすぐに構えた。何が起こるのか見届けようと、思わず目を開いて待つ市丸。
「……、ん?何か変わった?」
やや俯いた姿勢で身動きひとつせず、なつみは意識を斬魄刀に集中させているようだが、刀身の見た目に変化はない。するとバッと顔を上げ、市丸を凝視し、口を開く。
「こちらに来なさい」
いつもと違う声色に市丸は驚いたが、ただの脅しかと思い、断る。
「いーやーや。返して欲しかったら、なつみちゃんが取りに来て!」
「来なさい!」
即座になつみの命令が響き渡り、ピキッと市丸の体が固まった。そして脚が動き出す。
「え?あれ?何や⁉︎勝手に歩いてまう!嫌や!行かへんよー!」
睨み続けるなつみと自らの意志に反して歩き続ける市丸との距離は、徐々に縮まっていく。口から出る言葉は抗っているのに、脚だけが素直に従っているらしい。刃が届くほどに近づいた市丸の脚がピタリと止まると、なつみは斬魄刀を左手だけに持ち変え、次の命令を下した。
「本を返しなさい」
右手を差し出すなつみ。イヤイヤと首を振るも、両手は本を渡そうとジリジリと動いていく市丸。一体どんな力が働いているというのか。
抵抗も虚しく、なつみの大切な本は持ち主の手に戻ってきた。
「はぁー…、良かったぁ」
ほっとしたのか、力が抜けてペタンとその場に座り込むなつみ。しっかり本を抱きしめたままで。
「ひゃー。びっくりしたわー」
なつみが座り込むと同時に、市丸に取り憑いていた奇妙な力は消えていた。
「良かったなぁ、なつみちゃん」
「はい」
なつみの前にしゃがんで市丸は、なつみの頭を撫でてあげた。
「って、隊長が本を早く返してくださらないから!悪いのは隊長じゃないですか!良かったじゃないですよ!」
「怒らんといてーな。ボクはなつみちゃんのために試練を与えたんやろ?そのおかげで始解できるようになったやんか」
「あっ」
足元に置いていた斬魄刀を見るなつみ。無我夢中でやったことを静かに思い出す。
「ぼく…、始解したんですね」
「せやで。何が起きたんか、正直ボクもよくわかってないんやけど、何だかなつみちゃんの命令に体が勝手に反応したみたいやった。ちょっと怖かったかも」
なつみは本を懐に入れると、夢現天子を拾い上げ、まじまじと見た。そして、鞘に収める。
「ありがとうございました。ぼくの力を引き出してくださって」
立ち上がって、なつみは市丸に頭を下げた。その顔に市丸は嬉しそうな笑顔を見た。
「ええんよ。大事ななつみちゃんが幸せになれるんやったら、ボク何だってするもん。夢現天子がどんな能力を秘めてるのか、いっしょに見つけていこうね」
「隊長……」
市丸も立ち上がると、またにんまりと笑った。
「そいで、なつみちゃん。ほんまにちゃんと言うんやろな」
「へ?」
「とぼけたらかんわ」
そう言うと、すっとなつみの耳に口を近づけ、囁く。
「京楽さんに好きですって、言うんやろ(笑)?」
「なっ!?言いませんよ!」
怒ってなつみは市丸から離れる。
「約束違うやんかぁ。ここまで来てんのに」
市丸はそばにあった建物の大きく書かれた番号を指さす。そこには八と書かれている。
「うわ!」
「気づいてへんかったん?もー、天然さんやな~」
「かっかっかっ、帰りますよ!市丸隊長!」
「え~」
市丸の袖をぐっと掴んで、なつみは三番隊隊舎に足を進めようとしたとき。
「おんや~、かわいい声がすると思ったら、なつみちゃんじゃない」
八番隊隊舎からルンルンと出てきた男を見て、なつみの動きが止まる。顔はもちろん真っ赤っ赤になってしまった。
「京楽さーん。なつみちゃんが京楽さんにお話あるみたいですよ~」
「んな!隊長!変なこと言わないでください!」
「えー、なになに?なつみちゃん、どうしたんだい?」
「あわわわっ///」
例の如く顔をぐっと近づけ、なつみの困った顔を見てニコニコする京楽。
「やっぱり言われへんやんか、なつみちゃん。ボクが言ったげようか?あんな、京楽さん…」
「し、仕事に戻ります!」
市丸が言いかけたため、逃げるようにしてなつみは走り出した。その後ろ姿を、これまた2人で暖かく見つめる市丸と京楽。
「照れちゃってぇ。なつみちゃんはほんとにかわいいね。ボクに言いたいことって何だったの?あ、まさか愛の告白💕??」
「さて、どうでしょう」
「えぇ?教えてくれないのかい?」
「なつみちゃんが言わんと、意味無いことですから」
「ふ~ん。そうなんだ」
市丸は笑って誤魔化し、なつみに元気が戻ってきたことを嬉しそうに話した。
「なつみちゃん、もっともっと強おなってくんでしょうね」
「周りの友達に置いてかれている分、がんばるだろうし。これからも支えていかなきゃね」
「隊長になって、ほんま良かったと思いますわ、ボク」
「なつみちゃんが特別だからだよ」
「そうですね。ほな、ボクも帰りますわ。さいなら」
「うん。またなつみちゃんとおいで」
「なつみちゃんとですね(笑)」
隊舎に戻ったなつみは遅刻したことを謝罪し、尾田たちと合流をした。
「まぁ、隊長にいじめられてたんなら、しょうがないよな」
「そうなの。酷いんだよ、隊長」
「木之本が泣きそうになってるの見て、俺は自分の行為を悔いたよ」
「え?尾田、何かしたのか?」
「いや、お前が元気ねぇから、なんとかしてくれませんかって、隊長にきいたんだよ」
「お前のせいか!尾田!!!ぼくがどれだけ大変な思いしたか、わかってんのかーッ!」
なつみは尾田の首根っこに飛びついて、両手で絞めた。
「グアーッ!放せ、バカチビ!」
「うっせー!」
なつみに元気が戻ってきたことをしっかり確認できた6人だった。
「放してやれよ、木之本。よかったじゃんね、始解できるようになったんだろ?」
「さすが市丸隊長だよな。頼れる!」
「適当なこと言うなよ、お前ら。ぼくの、ぼくの、この、気持ちをだな!…詳しくは言えねぇけどだなぁ!あの人は酷いんだ!」
「なつみちゃん、ボクの悪口言わんといてーな」
「ブワーッorz!!!!」
いきなり登場した市丸に、体が崩れ落ちるなつみであった。
「……」
誰もいないし、誰も来ないと思っていたため、なつみはごろごろ寝転んでいた。持っている本にはカバーがかけられており、彼女がいつも何を読んでいるのか、仲間たちは知らない。
「…………」
「…………」
「…ん?」
なつみはふと人の気配を感じ、そっと顔の前に持ち上げていた本を胸の上へ降ろす。と、そこに覗かせた顔に驚いて飛び起きる。
「あわッ!市丸隊長!こんにちはッ!」
慌てて本を脇に置き、正座をし、頭を下げて挨拶をした。縁側から足を下ろした状態で座っている市丸は、そんななつみの頭を優しく撫でてやった。
「こんにちはー」
「おっ、お見苦しい姿を見せてしまって、申し訳ありません///」
恥ずかしさのあまり顔を上げられないなつみ。
「そんなん、気にしてへんよ。なつみちゃん、今休み時間なんやろ?キミが何してようと構へん。それより、何読んでんの?」
市丸がすっとなつみの本を手に取る。
「あっ!ダメっ」
なつみは急いで本を守ろうとしたが、あっさり取られてしまう。
「何がダメなん?」
そう言って市丸は本の中身を見る。
「これ、『バラ色の小径』やないの。京楽さんが書いてる小説。おっ、しかも栞に使てんの、京楽さんのブロマイドやん。ちょっとちょっとなつみちゃん、こないな秘密持ってたん??」
「もう!かっ、返してくださいよ!」
取り返そうとなつみが手を伸ばすも、市丸はすねた顔をしてなつみから本を遠ざける。
「あかん!ボクだけのなつみちゃんやのに、こんなん許せへん」
「そんなぁ……」
「それにやな、そないに京楽さんのこと好きやったら、ちゃーんと本人に気持ち伝えてみたらどうや?なつみちゃん」
「えっ……!?べべ別に、そういうつもりは!」
「恥ずかしいんやな!そりゃそうやんな。わかってる。大丈夫や」
本を持っていない逆の手をなつみの肩に置き、市丸はニヤっとして顔を近づけた。
「告白できひんなつみちゃんの代わりに、ボクが京楽さんになつみちゃんの気持ち言ってきたるわ」
「えッ!?」
「ほな、行ってくるわ~♪」
シュッと姿を消した市丸の跡を呆然と見ていたが、パッと我に返ってなつみは八番隊舎へ向かっただろう彼を追う。
「待ってください、隊長!」
大事な本を取られた上に、勝手に自分の気持ちがバレてしまいそうになっているこの状況下で、なつみは酷く焦っていた。
「待ってくださいよ!市丸隊長!」
「待たへんよ~。こういうんは、はよ言った方がええんやでぇ!」
瞬歩で行ってしまえば一瞬で目的地に着いてしまうのに、市丸はなつみが追いつけるように、わざと軽い足取りで駆けていった。しかしなつみはそんなことに気づきもせず懸命に走った。
「わかりましたよ!言いますよ!自分で言いますから!」
その言葉を聞いて、市丸は足を止めた。息も絶え絶えに、なつみはやっと市丸に追いつく。
「ほんまに?」
「はい…。ですから、本を、返していただけませんか…はぁ」
「それは嫌や♪」
で、また走り出す市丸。
「うわーッ!!!!勘弁してくださいよ!隊長ーッ!」
こんなところを行きかう人たち全員に見られていると思うと、恥ずかしくて気が動転する。それに大事な大事な本は、全く返ってくる気配が無い。なつみはもう、泣き出さんばかりだった。そんななつみをチラリと見た男がいた。尾田だ。
「市丸隊長…、本当にあなたは何をしているんですかッ(困)」
尾田は、なつみがあれで元気を取り戻せるのか不安になってしまった。相談相手を間違えたかと、後悔をして仕事に戻る。
「返してくださいよ!ぼくの本!」
「嫌や言うてるやろー。そんなに返して欲しかったら、ボクを捕まえてみぃ」
「わーッ!」
瀞霊廷内を走り回るこの追いかけっこは数十分と続き、なつみの休み時間はとうに終わっていた。しかし市丸はなつみに捕まろうとはしない。
「なつみちゃん、ボク疲れたわ。そんな追いかけんといてや」
「じゃあ、本をさっさと返しなさい!」
「ダ~メ」
「クッソ!」
なつみは疲れのピークが来ていた。だが、どうしても本を返してもらいたくて走り続ける。
(ぼくが京楽隊長をこんなにも好きだなんてバレたら、あいつらに冷やかされるに決まってる!そんな面倒ごめんだ!)
「ウォーッ!!!!」
とても理由がしょうもないが、なつみは今までに出したことのない本気を出した。そして、チリンと鈴の鳴るような音を耳にした。
「呼びなさい。私の名を」
本を返してもらいたい一心のなつみは、市丸を捕らえるために力を集中させ、霊圧を爆発させた。それに気づいた市丸は肩越しになつみの様子を見る。なつみは斬魄刀に手をかけ、叫んだ。
「従え、夢現天子!」
斬魄刀を抜くと、振り返った市丸に向け、切先をまっすぐに構えた。何が起こるのか見届けようと、思わず目を開いて待つ市丸。
「……、ん?何か変わった?」
やや俯いた姿勢で身動きひとつせず、なつみは意識を斬魄刀に集中させているようだが、刀身の見た目に変化はない。するとバッと顔を上げ、市丸を凝視し、口を開く。
「こちらに来なさい」
いつもと違う声色に市丸は驚いたが、ただの脅しかと思い、断る。
「いーやーや。返して欲しかったら、なつみちゃんが取りに来て!」
「来なさい!」
即座になつみの命令が響き渡り、ピキッと市丸の体が固まった。そして脚が動き出す。
「え?あれ?何や⁉︎勝手に歩いてまう!嫌や!行かへんよー!」
睨み続けるなつみと自らの意志に反して歩き続ける市丸との距離は、徐々に縮まっていく。口から出る言葉は抗っているのに、脚だけが素直に従っているらしい。刃が届くほどに近づいた市丸の脚がピタリと止まると、なつみは斬魄刀を左手だけに持ち変え、次の命令を下した。
「本を返しなさい」
右手を差し出すなつみ。イヤイヤと首を振るも、両手は本を渡そうとジリジリと動いていく市丸。一体どんな力が働いているというのか。
抵抗も虚しく、なつみの大切な本は持ち主の手に戻ってきた。
「はぁー…、良かったぁ」
ほっとしたのか、力が抜けてペタンとその場に座り込むなつみ。しっかり本を抱きしめたままで。
「ひゃー。びっくりしたわー」
なつみが座り込むと同時に、市丸に取り憑いていた奇妙な力は消えていた。
「良かったなぁ、なつみちゃん」
「はい」
なつみの前にしゃがんで市丸は、なつみの頭を撫でてあげた。
「って、隊長が本を早く返してくださらないから!悪いのは隊長じゃないですか!良かったじゃないですよ!」
「怒らんといてーな。ボクはなつみちゃんのために試練を与えたんやろ?そのおかげで始解できるようになったやんか」
「あっ」
足元に置いていた斬魄刀を見るなつみ。無我夢中でやったことを静かに思い出す。
「ぼく…、始解したんですね」
「せやで。何が起きたんか、正直ボクもよくわかってないんやけど、何だかなつみちゃんの命令に体が勝手に反応したみたいやった。ちょっと怖かったかも」
なつみは本を懐に入れると、夢現天子を拾い上げ、まじまじと見た。そして、鞘に収める。
「ありがとうございました。ぼくの力を引き出してくださって」
立ち上がって、なつみは市丸に頭を下げた。その顔に市丸は嬉しそうな笑顔を見た。
「ええんよ。大事ななつみちゃんが幸せになれるんやったら、ボク何だってするもん。夢現天子がどんな能力を秘めてるのか、いっしょに見つけていこうね」
「隊長……」
市丸も立ち上がると、またにんまりと笑った。
「そいで、なつみちゃん。ほんまにちゃんと言うんやろな」
「へ?」
「とぼけたらかんわ」
そう言うと、すっとなつみの耳に口を近づけ、囁く。
「京楽さんに好きですって、言うんやろ(笑)?」
「なっ!?言いませんよ!」
怒ってなつみは市丸から離れる。
「約束違うやんかぁ。ここまで来てんのに」
市丸はそばにあった建物の大きく書かれた番号を指さす。そこには八と書かれている。
「うわ!」
「気づいてへんかったん?もー、天然さんやな~」
「かっかっかっ、帰りますよ!市丸隊長!」
「え~」
市丸の袖をぐっと掴んで、なつみは三番隊隊舎に足を進めようとしたとき。
「おんや~、かわいい声がすると思ったら、なつみちゃんじゃない」
八番隊隊舎からルンルンと出てきた男を見て、なつみの動きが止まる。顔はもちろん真っ赤っ赤になってしまった。
「京楽さーん。なつみちゃんが京楽さんにお話あるみたいですよ~」
「んな!隊長!変なこと言わないでください!」
「えー、なになに?なつみちゃん、どうしたんだい?」
「あわわわっ///」
例の如く顔をぐっと近づけ、なつみの困った顔を見てニコニコする京楽。
「やっぱり言われへんやんか、なつみちゃん。ボクが言ったげようか?あんな、京楽さん…」
「し、仕事に戻ります!」
市丸が言いかけたため、逃げるようにしてなつみは走り出した。その後ろ姿を、これまた2人で暖かく見つめる市丸と京楽。
「照れちゃってぇ。なつみちゃんはほんとにかわいいね。ボクに言いたいことって何だったの?あ、まさか愛の告白💕??」
「さて、どうでしょう」
「えぇ?教えてくれないのかい?」
「なつみちゃんが言わんと、意味無いことですから」
「ふ~ん。そうなんだ」
市丸は笑って誤魔化し、なつみに元気が戻ってきたことを嬉しそうに話した。
「なつみちゃん、もっともっと強おなってくんでしょうね」
「周りの友達に置いてかれている分、がんばるだろうし。これからも支えていかなきゃね」
「隊長になって、ほんま良かったと思いますわ、ボク」
「なつみちゃんが特別だからだよ」
「そうですね。ほな、ボクも帰りますわ。さいなら」
「うん。またなつみちゃんとおいで」
「なつみちゃんとですね(笑)」
隊舎に戻ったなつみは遅刻したことを謝罪し、尾田たちと合流をした。
「まぁ、隊長にいじめられてたんなら、しょうがないよな」
「そうなの。酷いんだよ、隊長」
「木之本が泣きそうになってるの見て、俺は自分の行為を悔いたよ」
「え?尾田、何かしたのか?」
「いや、お前が元気ねぇから、なんとかしてくれませんかって、隊長にきいたんだよ」
「お前のせいか!尾田!!!ぼくがどれだけ大変な思いしたか、わかってんのかーッ!」
なつみは尾田の首根っこに飛びついて、両手で絞めた。
「グアーッ!放せ、バカチビ!」
「うっせー!」
なつみに元気が戻ってきたことをしっかり確認できた6人だった。
「放してやれよ、木之本。よかったじゃんね、始解できるようになったんだろ?」
「さすが市丸隊長だよな。頼れる!」
「適当なこと言うなよ、お前ら。ぼくの、ぼくの、この、気持ちをだな!…詳しくは言えねぇけどだなぁ!あの人は酷いんだ!」
「なつみちゃん、ボクの悪口言わんといてーな」
「ブワーッorz!!!!」
いきなり登場した市丸に、体が崩れ落ちるなつみであった。