第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
技術開発局に到着。マユリはなつみを降ろして、建物の扉を開けた。
「お帰りなさいませ、マユリ様」
「ネム、客を連れてきたヨ。お茶を淹れて、私の部屋に持ってきてくれ」
「畏まりました」
さっとお辞儀をしてから、ネムは去っていった。
「さて、ついてき給え。私の部屋はこっちだヨ」
なつみは案内されていったが、道中見られる怪しい装置や物体に目を引かれて、キョロキョロしていた。
(あれで何をしてるんだろう。きっとちゃんと説明を聞いたって、さっぱりわかんないんだろうな。ウニョウニョしてる…、気持ち悪っ)
マユリの背にある十二を見失わない程度によそ見をしながら、怖いもの見たさでよく目を凝らした。
「何か気になるかネ?」
「いや、もう、何かというか、全部ですね!」
「科学は好きかな?」
「詳しくはありませんが、興味はあります」
「それは良い傾向だネ」
局長室の扉にたどり着いた。扉が開く。部屋の中には、机、資料や謎の検体が並べられたキャビネット、診察台のような物が置いてあった。マユリは机の前に椅子を用意してやり、なつみをそこに座らせた。マユリはもちろん自分の椅子に。そこでノックが聞こえた。
「お茶をお持ちしました」
「入り給え」
「失礼致します」
ネムが入室してきて、なつみとマユリが向かい合う間を遮るように、机に湯呑みを2つ置いていった。
「ありがとうございます。いただきます」
と言ってみたものの、一応、お茶かどうか確認するために、覗き込んだり、匂いを嗅いだりしてみた。ちゃんとお茶っぽい。だが、一応、マユリが先に飲むまで待ってみようと思った。一応。
「報告書を読ませてもらったヨ。中級大虚と戦った日の記憶が途中から無いらしいネ。覚えているところまでで良い。何があったか話してみてもらえるかネ?書面上では抜け落ちている情報があるかもしれないからネ🍵」
(飲んだ‼︎)
「えっと、あの日の前日に、大きな交通事故が起きていたんです。亡くなってしまった人たちがいて、魂葬で忙しくしていたんです。重傷者の方も事故発生何時間後かに亡くなるかもしれないと思って、眠れずに過ごしていました。状況が落ち着いて、その後少しだけ仮眠をとりましたけど。次の日の夜、いちばん最後の被害者の方の魂葬が完了しまして、その直後に中級大虚に襲われました。攻撃を受けるまで、全く存在に気付けませんでした🍵(お、おいしぃ😋)」
「こちらでも霊圧の反応を捉えられなかった。君が恥じることは無いヨ」
まともに受け取ることはできないが、その言葉は嬉しいものだった。
「遠くまで飛ばされてしまったんですけど、それを利用して、すぐ物陰に隠れてケガの治療をしました。それから道に戻って、虚に襲われた元いた場所を見たんです。けど、見当たらなくて。パッと上を見たら、いつの間にか真上にいたんですよ。その時の攻撃は避けることができました」
「フム、そこから河川敷に移動したんだネ。斬魄刀の能力を使って移動とあるが、君の能力とはどういうものかネ?」
「うーん…、うまく説明できないんですけど、あの時使ったのは、虚の動きを封じて、押していく感じの能力ですね」
「何故…、そんなに曖昧な言い方をするんだネ」
市丸と京楽と3人で話したことを思い出す。夢現天子の能力について、誰かに説明はしない。その代わりに力を自由に使う。そんな約束をしていた。だから言えない。自分の願いを叶える斬魄刀だとは言えないのだ。
(お!これなら嘘にならないかも)
何やら閃いた。
「ぼくは、斬魄刀を使って、物を引っ張ることができるんです。その力を応用して、ぴゅーって押せないかなぁと思って、やってみたら、できたんです。…まだ、始解については研究中でして、できることがどれだけあるのか、わからないんですよ。はっきりお答えできなくて、申し訳ありません💦」
「フーン、なるほどネェ…」
マユリはそうつぶやきながら、机の上にある資料をチラリと見た。
「戦闘中は、その能力を使ったかネ?」
「はい。動きを止めるために。でもうまくいかなくて、鬼道を使いました」
「それから?」
「それから」
『それから』、そう、それからが問題だった。虚の魂の正体を見て、悲しみに飲み込まれ、攻撃の意志が喪失し、市丸に助けられ、…そこから本当に覚えていない。
「何故、記憶が無いのか、その原因はわからないのかネ?きっかけが必ずあるはずなんだが」
「うぅぅ…(言えないよぉぉぉ)」
「(明らかに困っているネ)まさか、報告書に嘘を書いたということは無いだろうネ」
何も言えなくてギュゥゥーと縮こまっているなつみは、嘘つき呼ばわりに黄色信号が灯ったため、ギャバッと指摘した。
「嘘はついてませんよッ‼︎」
急に自信たっぷりに否定されたので、マユリはビックリ。
「そうかネ。なら、良いんだが」
なつみを困らせるのが心苦しくなったマユリは、ヒントを与えながら話を聞くことにした。
「市丸が言うには、彼が君を見つけた時、君は虚に持ち上げられていたそうだ。どうかネ?覚えていないかネ?」
「えっと…、そうですね、そうだったような気がします。そうですそうです」
「うろ覚えだネ」
「そうですそうです…💦」縮こまる。「すみません💦」
困ったなつみを見て困るマユリ。
「その時にはもう、記憶が曖昧ということか」
お手上げだった。マユリは聞き出したかった情報を諦める他無さそうだ。
「君は覚えていないようだが、虚が君を掲げていた、その足元に穴が作られていたんだヨ。それが気になって、君の話を聞こうと呼び出したワケだが、これ以上は難しいようだネ」
「うーんと…、穴ですか。思い当たることは無いです。どうして、気になったんですか?🍵」
なつみがお茶を飲んだので、つられてマユリも一口。
「形状についてだが、綺麗な半球状だったんだヨ。君は、地面の穴がどうやって作られるか想像できるかネ?」
「んー、掘ったり、踏んだりですか」
「その通りだヨ。そうすることによって、土、砂や石は、移動したり圧縮され、地面に凹みができる。つまり、どういう方法で開けられたかの形跡は残るワケだヨ」
「無かったってことですか?」
「あぁ、何もね。霊圧によって押されたならば、土の盛り上がりやヒビが見つかるはずだ。だが、無かった。化学反応によって、燃えたり蒸発したり、何らかの消失が起きたとしても、それなりの証拠があるはず。だが、それも無い。綺麗な半球状の穴が、何故か突然現れたんだヨ。まるで」そこで一呼吸。「そこにあったはずの存在が否定されたかのように、消されてしまった。実際に見た時、私はそう思ったヨ」
なーんか覚えているような、覚えていないような感覚があったが、どうコメントして良いやらわからなくて、とりあえず黙っとくことにしたなつみ。
「君の仕業か虚の仕業か、君に聞けばわかるかと思ったんだがネ。覚えていないとなれば、今回はここで諦めるしかなくなってしまう。虚は市丸が斬ってしまったからネ。確認のしようが無いんだヨ。今後、類似した虚が現れるのを待つしかないネ」
「すいません、お役に立てなくて」
「構わんよ。君は何も悪くない」
(やっぱり優しい🥺)
シュンとなってしまうなつみに、疑問が湧いてきた。
「あの、質問して良いですか?」
「あぁ、何だネ?」
「穴が開いた理由って、そんなに大事なんですか?」
「フン、良い質問だネ」
いつものマユリなら、「そんなこともわからんのかネ⁉︎このグズ。これだから馬鹿は困るヨ。私に説明させるんじゃあない‼︎」と言いそうなのに、珍しくずっと親切な対応をしてくれる。
「穴ができた原因を突き止められれば、君と虚のどちらがやったのかがわかる。そうすれば、世界を滅す力があり、なおかつその力を発動させていたのが、どちらなのかもわかるということだ」
『世界を滅す力』、その言葉に覚えがあった。かつてイヅルが忠告していたのだ。夢現天子は、使い方を誤れば、世界を崩壊させてしまうかもしれないと。それは最悪を想定した可能性の話で、そんな簡単にできるものではないと、軽く考えていた。だがまさか、無意識とはいえ、実際にやってしまっていたのだろうか。そこまでの暴走をしていたのだろうか。
「君の話を聞く限り、君の斬魄刀は物を引き寄せたり遠ざけたりできる能力ということだネ。それならば、物理的な移動であり、物体を消滅させることは不可能だヨ。恐らく、窮地に陥った虚が、やけを起こして、世界を消そうとしたんだろうネ。何やら特殊な虚のようだったから、その可能性が高いヨ」
『こんな世界、消えてしまえばいいのに』
思い出してきた。あの時、虚の悲しみに襲われて、自分の心と虚の苦しみが重なっていた。虚の想いが、自分を通して、外に流れてしまったんだとしたら、全部が通じる。
しかし、それをマユリに話せば、護廷十三隊全体にこの事実を知られることになる。そうなれば、どうなるのかわかったものではない。大好きな人たちと笑って過ごせる毎日が奪われてしまうかもしれないのだ。
「あの…、万が一、世界を消す力を持ってるのがぼくの方だとしたら、ぼくは、どうなっちゃうんですか?」
マユリは目を細めて、なつみをじっと見つめた。
「それも、とても良い質問だヨ。…、何か心当たりでもあるようだネ?」
「いえ!か、可能性の話です!もしも、ぼくだったらっていう」
「まぁ、心配になるのも仕方ないネ。もしもあれをやったのが君だとしたらか」
「ぼくだとしたら…?」
「危険因子として扱われる、だろうネ」
「危険因子…」
「あぁ。尸魂界にとって、好ましくない力を有していると判断され、どこかに閉じ込められてしまうかもしれないヨ」
なつみは、事態がこれ以上悪くならないように、口も目も閉じて、この場は何もしないと決めた。ただひとつ願う。
(閉じ込められるなんてヤダ!そんなのヤダ!みんなに会えなくなっちゃう!)
その想いを感じてか、はたまた自らの記憶を遡った結果か、マユリは膝の上で強く握られたなつみの手に、そっと自分の手を置いてやった。
「そうなった時は、私が君を助け出してやろうじゃないか。君は非常に興味深いからネ、なつみ。閉じ込めておくなど、バカバカしい。何とでも理由を付けて、私のそばに置いてやる。君を悲しませることなど起きるものか。だから、そんなに心配することは無いんだヨ」
優しくされちゃうと泣いちゃうなつみは、優しくされて泣き出した。市丸の予想は当たったと言えば、当たったことになる。
「ありがとうございますぅぅ。安心しましたぁぁ😭」
悲痛な涙には慣れっ子のマユリも、嬉し涙の前ではたじたじで。
「ネ、ネム!ちり紙を持ってこい!なつみ、そんなに泣くんじゃないヨ。私を困らせないでくれ💦」
なつみはネムからティッシュを数枚受け取り、涙を拭いて、鼻もかんだ。
「うぅぅぅ🤧」
「お茶も飲んで、落ち着きなさい」
「いただきますぅぅ😣」
くぴくぴ飲んで、ふぅっとひと息。
「落ち着きましたぁ」
「それは良かったヨ」
自分よりも感情の浮き沈みの激しい人物となかなか会わないマユリは、なつみに圧倒されてしまった。
「君は不思議な子だネ…」
なつみはというと、ひとつ引っかかることを見つけていた。
「涅隊長、さっきぼくのこと下の名前で」
また例の上目遣いだ。
「(その目は反則だヨッ)私は、気に入った者にはそうすると決めている。下の名前で呼び捨てにされるのは嫌かネ?」
「いえ、お好きにお呼びください!」
「なら、なつみと呼ばせてもらうヨ、なつみ」
「はい!😆」
得たい情報が望めないと測ったマユリにとっては、この面談を終らせるタイミングが来てしまったように思われた。
「さて、時間を取らせないと約束してしまったからネ。そろそろ君を帰そうじゃないか」
椅子から立ち上がり、出口へなつみを導こうとした。その時。
「あの、涅隊長!」呼び止めた。「先程、瀞霊廷通信を運ぶの手伝っていただいたので、お礼をしたいのですが」
そう言ってなつみは、体のあちこちを触って、何か持っていなかったかと探ってみた。
「そんなこと気にしなくて良いんだヨ。気持ちだけ受け取っておくヨ」
「あぁっ、待ってください!ありました!」
なつみはマユリの元に駆け寄って、マユリの手を取り、何かをその手に握らせた。
「今、手持ちがこれしかなくて、申し訳ないんですけど。よかったら、どうぞ」
プレゼントを確認。
「何だネ、これは」
「飴です。いちご味🍓」
普段のマユリなら、「くだらん!こんなものが礼の品だと⁉︎笑わせるな!もっと気の利いた物は用意できんのかネ⁉︎」となるだろう。がしかし。
「後でいただくとするヨ。ありがとう///」
照れ臭そうに受け取っていた。
部屋の扉を開けて廊下に出る。なつみとマユリは並んで歩き、その少し後ろをネムがついて歩いてきた。
「なつみ、好きな時にまたここへ来るといい。科学を教えてやろう。他の話でも構わんがネ」
「ほんとですか!嬉しいです。また伺います!」
「楽しみにしているヨ」
「ぼくもです!」
なつみはニコニコと笑っていた。
「ぼく、思い違いをしていました」
「…何をだネ?」
変わらずニコニコした笑顔を見せながら答える。
「涅隊長のこと、瀞霊廷通信とかでしか存じ上げなかったので、よくわからなくて、怖い方なのかなって思ってたんです。でも今日、こうして実際にお会いして、お話ししてみたら、全然そんなことなくって、とっても優しい方なんだなって知りました」
そこまで言うと、ぴょんっとマユリの一歩前に跳び出して、彼の顔を嬉しそうに覗き込みながら続けた。
「ぼく、涅隊長のこと、好きになっちゃいました!😁」
「💘⁉️」
ニヒヒッと笑いながら、なつみは言い逃げをして、軽い足取りで出口を目指した。
(これがプロポーズか‼︎‼︎)
そこまではいっていないぞという勘違いが胸に突き刺さったマユリは、たじろいだ。
「ネム、彼女を三番隊へ送ってやれ。私はここに残るからネ」
「わかりました、マユリ様」
トキメキのせいで、これ以上なつみに近づくのが怖くなってしまったマユリ。だが、隊長の威厳を示すために、気合でお別れの挨拶をする。
「なつみ、ネムが君を送っていくヨ。私とはここでお別れだ」
「はい!了解です。涅副隊長、よろしくお願いします」
「はい。なつみ様、失礼致します」
ネムは躊躇なくなつみをお姫様抱っこした。
「あわっ、おんぶじゃないんですね💦」
「変えますか?」
「いや、もう、これで大丈夫です。はい」
「では、しっかりお掴まりください」
ネムの首に腕を回すなつみ。近くにあるネムの顔を見て思う。
(やっばぁ〜、びっじーん。惚れてまうやろ〜💖✨)
「今回の件について、こちらでも報告書をまとめて、提出させてもらうが、君が心配するようなことにはならないと思うヨ。君のようなかわいい子に、そんな無茶苦茶な力があるとは思えないからネ」
近づくのは怖いが、触れたくて仕方がない。なつみの頭を撫でてやりたい衝動に駆られ、マユリの手は伸ばされていた。なつみの柔らかい髪を、マユリはその白い指で感じた。
(この子をもっと知りたい)
その言葉は言わずに飲み込んだ。何故かはわからないが、言わないことがなつみのためだと思われたからだ。
マユリの目に映るなつみは、照れの中にも憂いを宿しているようだった。
と、こんな感じのことがあったと、しみじみと振り返っていた。
「つまりだヨ」
マユリはキッと左に視線を向け、言い放った。
「なつみと恋仲にあるのは、私ということだ‼️」
「んなっ⁉️」びっくりする京楽。「何でそうなるんだい!なつみちゃんがキミに恋してるなんて、聞いたことも無いよ!」
「フンッ、私ははっきりと言われたよ。『好きになっちゃいました』と。これはもう愛の告白じゃあないか‼︎自分が恋仲だと?笑わせるんじゃあないヨ‼︎」
「知ったふうに言っちゃって、あの子のことわかってないのはキミだろ!なつみちゃんにとっては、『知り合いになった』イコール『気に入った、好きになっちゃった』なの!つまり、そこに恋心は無いの!変な勘違い起こさないでくれる?なつみちゃんが恋してるのはボク。素直には言ってくれないけど。でもボクらはちゃんと両想いだよ!」
睨み合う京楽とマユリ。すると下から声がした。
「お前ら…、論点はそこじゃねーだろ」
「ん?」
「俺を挟んで、どうでもいい話してんじゃねー💢💢💢」
2人の間に挟まれた日番谷がキレた。
「ご、ごめーん。そうだよね」
「すまんネ。子供にはまだ早い話だったヨ」
………ブチッ。
「そうじゃねぇつってんだろ‼︎‼︎ 木之本が世界を消す程の能力を持っていることについてだろうが‼︎‼︎てめぇらのことなんか知るか‼︎‼︎俺をガキ扱いしてんじゃねー💢」
「お帰りなさいませ、マユリ様」
「ネム、客を連れてきたヨ。お茶を淹れて、私の部屋に持ってきてくれ」
「畏まりました」
さっとお辞儀をしてから、ネムは去っていった。
「さて、ついてき給え。私の部屋はこっちだヨ」
なつみは案内されていったが、道中見られる怪しい装置や物体に目を引かれて、キョロキョロしていた。
(あれで何をしてるんだろう。きっとちゃんと説明を聞いたって、さっぱりわかんないんだろうな。ウニョウニョしてる…、気持ち悪っ)
マユリの背にある十二を見失わない程度によそ見をしながら、怖いもの見たさでよく目を凝らした。
「何か気になるかネ?」
「いや、もう、何かというか、全部ですね!」
「科学は好きかな?」
「詳しくはありませんが、興味はあります」
「それは良い傾向だネ」
局長室の扉にたどり着いた。扉が開く。部屋の中には、机、資料や謎の検体が並べられたキャビネット、診察台のような物が置いてあった。マユリは机の前に椅子を用意してやり、なつみをそこに座らせた。マユリはもちろん自分の椅子に。そこでノックが聞こえた。
「お茶をお持ちしました」
「入り給え」
「失礼致します」
ネムが入室してきて、なつみとマユリが向かい合う間を遮るように、机に湯呑みを2つ置いていった。
「ありがとうございます。いただきます」
と言ってみたものの、一応、お茶かどうか確認するために、覗き込んだり、匂いを嗅いだりしてみた。ちゃんとお茶っぽい。だが、一応、マユリが先に飲むまで待ってみようと思った。一応。
「報告書を読ませてもらったヨ。中級大虚と戦った日の記憶が途中から無いらしいネ。覚えているところまでで良い。何があったか話してみてもらえるかネ?書面上では抜け落ちている情報があるかもしれないからネ🍵」
(飲んだ‼︎)
「えっと、あの日の前日に、大きな交通事故が起きていたんです。亡くなってしまった人たちがいて、魂葬で忙しくしていたんです。重傷者の方も事故発生何時間後かに亡くなるかもしれないと思って、眠れずに過ごしていました。状況が落ち着いて、その後少しだけ仮眠をとりましたけど。次の日の夜、いちばん最後の被害者の方の魂葬が完了しまして、その直後に中級大虚に襲われました。攻撃を受けるまで、全く存在に気付けませんでした🍵(お、おいしぃ😋)」
「こちらでも霊圧の反応を捉えられなかった。君が恥じることは無いヨ」
まともに受け取ることはできないが、その言葉は嬉しいものだった。
「遠くまで飛ばされてしまったんですけど、それを利用して、すぐ物陰に隠れてケガの治療をしました。それから道に戻って、虚に襲われた元いた場所を見たんです。けど、見当たらなくて。パッと上を見たら、いつの間にか真上にいたんですよ。その時の攻撃は避けることができました」
「フム、そこから河川敷に移動したんだネ。斬魄刀の能力を使って移動とあるが、君の能力とはどういうものかネ?」
「うーん…、うまく説明できないんですけど、あの時使ったのは、虚の動きを封じて、押していく感じの能力ですね」
「何故…、そんなに曖昧な言い方をするんだネ」
市丸と京楽と3人で話したことを思い出す。夢現天子の能力について、誰かに説明はしない。その代わりに力を自由に使う。そんな約束をしていた。だから言えない。自分の願いを叶える斬魄刀だとは言えないのだ。
(お!これなら嘘にならないかも)
何やら閃いた。
「ぼくは、斬魄刀を使って、物を引っ張ることができるんです。その力を応用して、ぴゅーって押せないかなぁと思って、やってみたら、できたんです。…まだ、始解については研究中でして、できることがどれだけあるのか、わからないんですよ。はっきりお答えできなくて、申し訳ありません💦」
「フーン、なるほどネェ…」
マユリはそうつぶやきながら、机の上にある資料をチラリと見た。
「戦闘中は、その能力を使ったかネ?」
「はい。動きを止めるために。でもうまくいかなくて、鬼道を使いました」
「それから?」
「それから」
『それから』、そう、それからが問題だった。虚の魂の正体を見て、悲しみに飲み込まれ、攻撃の意志が喪失し、市丸に助けられ、…そこから本当に覚えていない。
「何故、記憶が無いのか、その原因はわからないのかネ?きっかけが必ずあるはずなんだが」
「うぅぅ…(言えないよぉぉぉ)」
「(明らかに困っているネ)まさか、報告書に嘘を書いたということは無いだろうネ」
何も言えなくてギュゥゥーと縮こまっているなつみは、嘘つき呼ばわりに黄色信号が灯ったため、ギャバッと指摘した。
「嘘はついてませんよッ‼︎」
急に自信たっぷりに否定されたので、マユリはビックリ。
「そうかネ。なら、良いんだが」
なつみを困らせるのが心苦しくなったマユリは、ヒントを与えながら話を聞くことにした。
「市丸が言うには、彼が君を見つけた時、君は虚に持ち上げられていたそうだ。どうかネ?覚えていないかネ?」
「えっと…、そうですね、そうだったような気がします。そうですそうです」
「うろ覚えだネ」
「そうですそうです…💦」縮こまる。「すみません💦」
困ったなつみを見て困るマユリ。
「その時にはもう、記憶が曖昧ということか」
お手上げだった。マユリは聞き出したかった情報を諦める他無さそうだ。
「君は覚えていないようだが、虚が君を掲げていた、その足元に穴が作られていたんだヨ。それが気になって、君の話を聞こうと呼び出したワケだが、これ以上は難しいようだネ」
「うーんと…、穴ですか。思い当たることは無いです。どうして、気になったんですか?🍵」
なつみがお茶を飲んだので、つられてマユリも一口。
「形状についてだが、綺麗な半球状だったんだヨ。君は、地面の穴がどうやって作られるか想像できるかネ?」
「んー、掘ったり、踏んだりですか」
「その通りだヨ。そうすることによって、土、砂や石は、移動したり圧縮され、地面に凹みができる。つまり、どういう方法で開けられたかの形跡は残るワケだヨ」
「無かったってことですか?」
「あぁ、何もね。霊圧によって押されたならば、土の盛り上がりやヒビが見つかるはずだ。だが、無かった。化学反応によって、燃えたり蒸発したり、何らかの消失が起きたとしても、それなりの証拠があるはず。だが、それも無い。綺麗な半球状の穴が、何故か突然現れたんだヨ。まるで」そこで一呼吸。「そこにあったはずの存在が否定されたかのように、消されてしまった。実際に見た時、私はそう思ったヨ」
なーんか覚えているような、覚えていないような感覚があったが、どうコメントして良いやらわからなくて、とりあえず黙っとくことにしたなつみ。
「君の仕業か虚の仕業か、君に聞けばわかるかと思ったんだがネ。覚えていないとなれば、今回はここで諦めるしかなくなってしまう。虚は市丸が斬ってしまったからネ。確認のしようが無いんだヨ。今後、類似した虚が現れるのを待つしかないネ」
「すいません、お役に立てなくて」
「構わんよ。君は何も悪くない」
(やっぱり優しい🥺)
シュンとなってしまうなつみに、疑問が湧いてきた。
「あの、質問して良いですか?」
「あぁ、何だネ?」
「穴が開いた理由って、そんなに大事なんですか?」
「フン、良い質問だネ」
いつものマユリなら、「そんなこともわからんのかネ⁉︎このグズ。これだから馬鹿は困るヨ。私に説明させるんじゃあない‼︎」と言いそうなのに、珍しくずっと親切な対応をしてくれる。
「穴ができた原因を突き止められれば、君と虚のどちらがやったのかがわかる。そうすれば、世界を滅す力があり、なおかつその力を発動させていたのが、どちらなのかもわかるということだ」
『世界を滅す力』、その言葉に覚えがあった。かつてイヅルが忠告していたのだ。夢現天子は、使い方を誤れば、世界を崩壊させてしまうかもしれないと。それは最悪を想定した可能性の話で、そんな簡単にできるものではないと、軽く考えていた。だがまさか、無意識とはいえ、実際にやってしまっていたのだろうか。そこまでの暴走をしていたのだろうか。
「君の話を聞く限り、君の斬魄刀は物を引き寄せたり遠ざけたりできる能力ということだネ。それならば、物理的な移動であり、物体を消滅させることは不可能だヨ。恐らく、窮地に陥った虚が、やけを起こして、世界を消そうとしたんだろうネ。何やら特殊な虚のようだったから、その可能性が高いヨ」
『こんな世界、消えてしまえばいいのに』
思い出してきた。あの時、虚の悲しみに襲われて、自分の心と虚の苦しみが重なっていた。虚の想いが、自分を通して、外に流れてしまったんだとしたら、全部が通じる。
しかし、それをマユリに話せば、護廷十三隊全体にこの事実を知られることになる。そうなれば、どうなるのかわかったものではない。大好きな人たちと笑って過ごせる毎日が奪われてしまうかもしれないのだ。
「あの…、万が一、世界を消す力を持ってるのがぼくの方だとしたら、ぼくは、どうなっちゃうんですか?」
マユリは目を細めて、なつみをじっと見つめた。
「それも、とても良い質問だヨ。…、何か心当たりでもあるようだネ?」
「いえ!か、可能性の話です!もしも、ぼくだったらっていう」
「まぁ、心配になるのも仕方ないネ。もしもあれをやったのが君だとしたらか」
「ぼくだとしたら…?」
「危険因子として扱われる、だろうネ」
「危険因子…」
「あぁ。尸魂界にとって、好ましくない力を有していると判断され、どこかに閉じ込められてしまうかもしれないヨ」
なつみは、事態がこれ以上悪くならないように、口も目も閉じて、この場は何もしないと決めた。ただひとつ願う。
(閉じ込められるなんてヤダ!そんなのヤダ!みんなに会えなくなっちゃう!)
その想いを感じてか、はたまた自らの記憶を遡った結果か、マユリは膝の上で強く握られたなつみの手に、そっと自分の手を置いてやった。
「そうなった時は、私が君を助け出してやろうじゃないか。君は非常に興味深いからネ、なつみ。閉じ込めておくなど、バカバカしい。何とでも理由を付けて、私のそばに置いてやる。君を悲しませることなど起きるものか。だから、そんなに心配することは無いんだヨ」
優しくされちゃうと泣いちゃうなつみは、優しくされて泣き出した。市丸の予想は当たったと言えば、当たったことになる。
「ありがとうございますぅぅ。安心しましたぁぁ😭」
悲痛な涙には慣れっ子のマユリも、嬉し涙の前ではたじたじで。
「ネ、ネム!ちり紙を持ってこい!なつみ、そんなに泣くんじゃないヨ。私を困らせないでくれ💦」
なつみはネムからティッシュを数枚受け取り、涙を拭いて、鼻もかんだ。
「うぅぅぅ🤧」
「お茶も飲んで、落ち着きなさい」
「いただきますぅぅ😣」
くぴくぴ飲んで、ふぅっとひと息。
「落ち着きましたぁ」
「それは良かったヨ」
自分よりも感情の浮き沈みの激しい人物となかなか会わないマユリは、なつみに圧倒されてしまった。
「君は不思議な子だネ…」
なつみはというと、ひとつ引っかかることを見つけていた。
「涅隊長、さっきぼくのこと下の名前で」
また例の上目遣いだ。
「(その目は反則だヨッ)私は、気に入った者にはそうすると決めている。下の名前で呼び捨てにされるのは嫌かネ?」
「いえ、お好きにお呼びください!」
「なら、なつみと呼ばせてもらうヨ、なつみ」
「はい!😆」
得たい情報が望めないと測ったマユリにとっては、この面談を終らせるタイミングが来てしまったように思われた。
「さて、時間を取らせないと約束してしまったからネ。そろそろ君を帰そうじゃないか」
椅子から立ち上がり、出口へなつみを導こうとした。その時。
「あの、涅隊長!」呼び止めた。「先程、瀞霊廷通信を運ぶの手伝っていただいたので、お礼をしたいのですが」
そう言ってなつみは、体のあちこちを触って、何か持っていなかったかと探ってみた。
「そんなこと気にしなくて良いんだヨ。気持ちだけ受け取っておくヨ」
「あぁっ、待ってください!ありました!」
なつみはマユリの元に駆け寄って、マユリの手を取り、何かをその手に握らせた。
「今、手持ちがこれしかなくて、申し訳ないんですけど。よかったら、どうぞ」
プレゼントを確認。
「何だネ、これは」
「飴です。いちご味🍓」
普段のマユリなら、「くだらん!こんなものが礼の品だと⁉︎笑わせるな!もっと気の利いた物は用意できんのかネ⁉︎」となるだろう。がしかし。
「後でいただくとするヨ。ありがとう///」
照れ臭そうに受け取っていた。
部屋の扉を開けて廊下に出る。なつみとマユリは並んで歩き、その少し後ろをネムがついて歩いてきた。
「なつみ、好きな時にまたここへ来るといい。科学を教えてやろう。他の話でも構わんがネ」
「ほんとですか!嬉しいです。また伺います!」
「楽しみにしているヨ」
「ぼくもです!」
なつみはニコニコと笑っていた。
「ぼく、思い違いをしていました」
「…何をだネ?」
変わらずニコニコした笑顔を見せながら答える。
「涅隊長のこと、瀞霊廷通信とかでしか存じ上げなかったので、よくわからなくて、怖い方なのかなって思ってたんです。でも今日、こうして実際にお会いして、お話ししてみたら、全然そんなことなくって、とっても優しい方なんだなって知りました」
そこまで言うと、ぴょんっとマユリの一歩前に跳び出して、彼の顔を嬉しそうに覗き込みながら続けた。
「ぼく、涅隊長のこと、好きになっちゃいました!😁」
「💘⁉️」
ニヒヒッと笑いながら、なつみは言い逃げをして、軽い足取りで出口を目指した。
(これがプロポーズか‼︎‼︎)
そこまではいっていないぞという勘違いが胸に突き刺さったマユリは、たじろいだ。
「ネム、彼女を三番隊へ送ってやれ。私はここに残るからネ」
「わかりました、マユリ様」
トキメキのせいで、これ以上なつみに近づくのが怖くなってしまったマユリ。だが、隊長の威厳を示すために、気合でお別れの挨拶をする。
「なつみ、ネムが君を送っていくヨ。私とはここでお別れだ」
「はい!了解です。涅副隊長、よろしくお願いします」
「はい。なつみ様、失礼致します」
ネムは躊躇なくなつみをお姫様抱っこした。
「あわっ、おんぶじゃないんですね💦」
「変えますか?」
「いや、もう、これで大丈夫です。はい」
「では、しっかりお掴まりください」
ネムの首に腕を回すなつみ。近くにあるネムの顔を見て思う。
(やっばぁ〜、びっじーん。惚れてまうやろ〜💖✨)
「今回の件について、こちらでも報告書をまとめて、提出させてもらうが、君が心配するようなことにはならないと思うヨ。君のようなかわいい子に、そんな無茶苦茶な力があるとは思えないからネ」
近づくのは怖いが、触れたくて仕方がない。なつみの頭を撫でてやりたい衝動に駆られ、マユリの手は伸ばされていた。なつみの柔らかい髪を、マユリはその白い指で感じた。
(この子をもっと知りたい)
その言葉は言わずに飲み込んだ。何故かはわからないが、言わないことがなつみのためだと思われたからだ。
マユリの目に映るなつみは、照れの中にも憂いを宿しているようだった。
と、こんな感じのことがあったと、しみじみと振り返っていた。
「つまりだヨ」
マユリはキッと左に視線を向け、言い放った。
「なつみと恋仲にあるのは、私ということだ‼️」
「んなっ⁉️」びっくりする京楽。「何でそうなるんだい!なつみちゃんがキミに恋してるなんて、聞いたことも無いよ!」
「フンッ、私ははっきりと言われたよ。『好きになっちゃいました』と。これはもう愛の告白じゃあないか‼︎自分が恋仲だと?笑わせるんじゃあないヨ‼︎」
「知ったふうに言っちゃって、あの子のことわかってないのはキミだろ!なつみちゃんにとっては、『知り合いになった』イコール『気に入った、好きになっちゃった』なの!つまり、そこに恋心は無いの!変な勘違い起こさないでくれる?なつみちゃんが恋してるのはボク。素直には言ってくれないけど。でもボクらはちゃんと両想いだよ!」
睨み合う京楽とマユリ。すると下から声がした。
「お前ら…、論点はそこじゃねーだろ」
「ん?」
「俺を挟んで、どうでもいい話してんじゃねー💢💢💢」
2人の間に挟まれた日番谷がキレた。
「ご、ごめーん。そうだよね」
「すまんネ。子供にはまだ早い話だったヨ」
………ブチッ。
「そうじゃねぇつってんだろ‼︎‼︎ 木之本が世界を消す程の能力を持っていることについてだろうが‼︎‼︎てめぇらのことなんか知るか‼︎‼︎俺をガキ扱いしてんじゃねー💢」