第二章
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家路を歩くなつみは歌っていた。誰にも会わないこの時間、小さな声なら大丈夫と、歌っていた。その歌は、中島美嘉の『WILL』。
「あれから 僕はいくつの
夢を見て来たのだろう
瞳を閉じて見る夢よりも
瞳を開きながら WOW WOW
あれから 僕はいくつの
自由を生きてきただろう
運命の支配じゃなくて
決めてたのは
僕の“WILL”」
アヤと自分のことを思ったら、この歌を歌いたくなってしまったらしい。自分の選択こそ、自分をここまで導いてきたということ。自分がこうしていられるのは、必要とされる未来が来るからだ。周りが生かしてくれたなら、自らは生きるための選択をしたい。生きるためならば、退化を選ぶこともまた進化につながるはず。
(ぼくの希望だ)
すると、背後から声がした。
「歌なんか歌っちゃって、ご機嫌だね、なつみちゃん」
なつみは足を止めて、俯きながらくるっとその場で回ると、恥ずかしそうに照れた微笑みを彼に向けてあげた。
「こんばんは、京楽隊長///」
「こんばんは、なつみちゃん」
京楽は歩を進めて、その距離を縮める。
「お帰り。すっかり元気になったのかな?」
「はい、いちお、もう大丈夫です。…あっ!京楽隊長はぼくが現世に行っていたの、ご存知だったんですね!」
「うん。しばらく見ないなと思って、市丸隊長にきいたんだ。それに、今朝キミのお見舞いにも行ったしね」頭を撫でてあげると、少し湿っているのに気付いた。そしてくんくんする。「お風呂入ってきたの?ちゃんと頭乾かさないと、風邪ひいちゃうよ」
と心配してあげたが、当の本人は髪の毛をくんくんされてフリーズしていた。久しぶりに大好きな京楽に会えて、それだけで嬉しいのに、こんな至近距離でくんくんされちゃあ、もう。その表情を見て味を占めた京楽は、ついでにもう一言添える。
「実は、お見舞いの帰りがけ、キミにチューしちゃった。あんまりにもかわいい寝顔だったからね😙」
「はぎゃッ⁉︎///」
口元を両手で覆う。
「…、おでこだよ。何?そっちが良かった?(笑)」
指摘されて、両手をおでこに移動し、首を横にふんふん振った。
(口にチューなんて、耐えられないって‼︎ってか、くぁーッ、おでこ洗っちゃった‼︎‼︎なんてこった!💦)
王子様ならぬ、おじさまのキスで目覚めていたなつみは、このことを教えてくれなかった市丸にぷんと来ていた。
(何で隊長教えてくれなかったんだ!んん、まぁ、知らなかったのかっ😖)
照れて困ってキュゥキュゥ鳴いているなつみの顔を、少し屈んで覗き込みながら言った。
「さぁ、帰ろうか。のんびりしてると体冷やしちゃうからね。送ってってあげるよ」
その言葉に、両手をきゅっと握って体の横につけ、気を付けの姿勢をとり、勢いをつけて答えた。
「お願いしますッ‼︎」
一礼。
「はーい😊」
一歩、二歩と2人は並んで歩き始めた。
「ねぇ、なつみちゃん。もしかしてだけど、ボクのこと呼んだかい?」
急にそうきかれて、いつのことだろうと京楽の顔を見上げて考える。
「そんなかわいい顔して見つめないでくれる」
「なッ⁉︎」
パッと前に向き直った。
「気のせいだったかな。この辺に来たら、キミに会えそうな気がしていたんだ」
京楽がそう言うものだから、また目をパチクリさせて彼を見てしまう。
「だから…、その顔やめろって」
小声だった。しかしその後、茶化すように。
「このこのぉ〜」
なつみのほっぺを、両手のグーでむにゅっとしてぐるぐるしてやった。
「ふにゅぅぅぅぅ💦」
解放。
「良かった。いつものなつみちゃんだね」
腕を袖に通して組むいつもの姿勢で、京楽はしみじみとし、その横でなつみは、弄ばれたほっぺをさすっていた。
「でも…、雰囲気がちょっと、変わったかな」
ほっぺを触るのをやめて、右手の人差し指で鼻をちょんちょん、ニヤけそうなのを抑えながらなつみは喜んでいた。
「やっぱり京楽隊長は、よく気が付く方ですね。ぼく、決めたことがあるんです!」グッと手を胸のところに付けて、嬉しそうに宣言する。「ぼく、虚とお友だちになります‼︎‼︎」
「………?😊💧」
小指で耳を掃除してから、もう一度確認してみる。
「んー、ちょっとよく聞こえなかったな。ボク、聞き間違いしたかもしれないから、もう一度言ってくれるかい?」
「ですから」先程と同じ、熱のこもった視線で訴える。「虚とお友だちになります‼︎」
「なんで…??💧」
今度は京楽が目をパチクリさせていた。
「普通はさ、キミはその、虚にコテンパンにされちゃったから、リベンジしたい!とか、次こそ勝ちたい!とか、そういう風に思うものじゃないの?どうして仲良くなろうとするのさ。理由によっちゃぁ、…、罪人扱いされちゃう考えだよ?」
「わかってますよ」
口を尖らせて反論するなつみ。
「それは、悪いことするために仲良くなろうとする人の話ですよね。ぼくは違いますから!」
「ほぉ、じゃあどうしてお友だちになりたいんだい?」
「それはですね」
と話し出したところで。
「クシュンッ💦」
くしゃみが出てしまった。
「寒いのかい?ちょっと待って」
そう言って、京楽は羽織っている着物を脱ぐと、なつみの肩にかけてやった。
「ありがとうございます///(うわー、京楽隊長の匂いがするっ。あわわっ、滅多に見られない隊長羽織姿!しゅてきっ💕しわわせっ💓むきゅ〜💖)」
「荷物、持ってあげるよ」
手を差し伸べる京楽。
「でも…」
「でもじゃない。裾が地面に着いちゃってるから、上げて歩いて欲しいの」
慌てて足下確認。
「あっ、すいません💦」
「良いよ。ほら、脱げちゃうから、袖通して。ほんとにちっちゃいんだからぁ😚」
タオルや着替えの入った手さげを受け取り、京楽は着物の襟元を持って、袖に腕を通すのを手伝ってあげた。
「むぅ…、ちっちゃい子扱いしないでください」
「ごめん。なつみちゃんは、大人の女性だったね」
照れた顔が良く見えるように、なつみの耳に髪をかけるが。
「それも違います!大人は大人ですけど、女扱いも嫌です。ぼくはジェントルマンになりたいんですよ。レディに優しく寄り添ってあげるような」
裾を地面で擦らないように、胸元で少し引っ張り、そのまま落ちないように手で押さえながら歩き始めた。
「フフッ、じゃあ、ボクを見て勉強すると良いよ」
「はい!もちろんです!」
にっこり笑って見せた。
「どう?寒くなくなった?」
「はい、大丈夫です。京楽隊長は寒くありませんか?」
「うん、大丈夫」
京楽の服に身を包んでいると、なんだか、京楽に抱きしめられているような感じがして、快適を通り越して湯気が出そうなくらいポッポッと熱が上がってきた。
(ヤバい。興奮してきた///)
その様子を見ている京楽。
(なつみちゃんがボクのを着てる。かーわーいーいー。食べちゃいたいね。ボクのお部屋に攫っちゃおうかな🥰)
これは神様がくださったご褒美だ、となつみは思いつつ、話題を戻していった。
「えっと、その、先程の続きですが、なぜ虚と仲良くなりたいかというとですね」
「うん」
「魂魄を襲わないようになって欲しいからです。仲良くなって、楽しい時間を過ごしたら、魂魄食べたいって思わなくなりません?」
「んーーー???(笑)」
こんなことを考える子に会うのが初めてな京楽は、良さそうなコメントが思いつかないでいた。
「虚が魂魄を襲うことで、悲しみを生み出しています。その悲しみが別の悲しい出来事を作るかもしれないです。良くないです!」
「ですねぇ」
「それから、昇華への心の準備もして欲しいんですよね。ぼくたちだって、急に斬られたら、怒りたくなるじゃないですか」
「そりゃあ、ねぇ」
「死神は虚を斬ることじゃなくて、昇華するのが仕事だと思うんですよ。もっといろんな魂と寄り添わないと、世界を平和にできませんて。虚とお友だちになってから、気持ちよく昇華してあげれたら、悲しみが少ないですよね。戦って昇華するのと、結果は同じだから、ぼくはこのやり方で文句言われる筋合いありませんよ!😤」
「うんうん」
「虚って、心を無くしてるって言うじゃないですか。ぼくはそんなことないんじゃないかって思うんです。悲しくて辛い思いに押しつぶされて、体のどこかに追いやられてるだけで、消えずに残ってるはずなんですよ。忘れてるだけっていうか。ちゃんとおしゃべりできるなら、仲良くなれると思いませんか?」
「そうだね。理性はあるかもしれないからね。でもさ、ボクは彼らに心があると思えないよ。体に空いた穴がそれを証明してるもの」
「だったら、ぼくが幸せな思い出で穴を塞いであげます!ぼくが心を分けてあげます!」羽織っている京楽の着物に大切そうに手を添えて。「こんな風に優しくしてもらえたら、気分が満たされていくんですもん。虚にだって、同じ気持ちを持ってもらえるはずです。ぼくたちはみんな同じ、魂で繋がった存在ですから、死神も人間も虚も、優しさで繋がれたら嫌なことは起きないと思います。悪いことって、起きてから対処するより、未然に防ぐ方が良いに決まってますもん」
「中級大虚と会って、そう思ったのかな」
「はい…」思い出す、あの時のこと。「過去は変えられませんし、忘れられません。市丸隊長が斬ってくださったので、あの人たちの魂は綺麗になったと思います。それで安心するのは簡単です。でも、邪悪な方へ堕ちてしまったのは確かで、他にも同じく苦しんでいる魂がいたり、これからもどんどん生まれてくるかもしれない。そんな人たちを助けてあげたいんです。あんな気持ち、持っちゃいけない…。こうして生きて帰って来られたので、ぼくはぼくなりのやり方で、この世界に貢献したいです。みんなの笑顔のために‼︎‼︎😆」
自信たっぷりに力説するなつみの意見は確かに正論だが、別の角度から見れば無謀なのがあまりにも一目瞭然で。
「なつみちゃん、キミの考えはとっても素敵だよ。優しい世界観で、居心地の良さそうな理想だ。だけどね、すごーく難しくて大変なことだって気付いてるかい?」
せっかくのやる気を挫いてしまうのは心苦しいが、それが真実に変わりない。受け入れるべき事実だ。
「キミの実力では無理だよ」
口をきゅっと結び、何かを堪えているらしい。なつみはその何かをゴクッと飲み込んで、言葉を返した。
「おっしゃる通りです。なので、鍛えます!もっともっと強くなって、虚さんたちにバカにされないようにするんです!ぼくにはムッちゃんがいますから、いつかは無理じゃなくなりますよ!元気な体に完全復活したら、今まで以上に気合入れて鍛錬します!やってやりますよ!夢は叶えるものなんですから!無理じゃありません!」
一生懸命に話すものだから、ぴょんぴょん跳びはねているなつみの言い分を聞き、確かに気付くことがあった。
「そうだったね。キミの斬魄刀なら、キミの想いの力になってくれるか。可能性を否定するのは良くないね。うん。なつみちゃんなら、できそうな気がしてきた」
ぽんぽんと頭を撫でて、なつみを落ち着けさせた。
「『思い切り自由に生きてごらん』って言ってあげたのボクだしね。その言葉に責任取らなきゃいけないよね。キミが良いと思うなら、ボクはそれをサポートしなくっちゃ」
落ち着きたいけど、なつみは嬉しくって堪らない。何も言えなくて、ただキラキラとした笑顔を向けることしかできない。
「やれるだけやってみなさい。ボクが応援してあげる。キミの幸せが何よりも大事だからね」
京楽に会いたいと願って良かったと思った。いちばん最初の相談相手が彼で良かったから。市丸に言えば、十中八九ダメって言われるだろう。今のところ、世界はなつみの思い通りだった。
あともう一つ角を曲がると、五番隊宿舎に到着するところまで来た。
「あー、着いちゃうね。楽しい時間はあっという間だよ。ねぇ、なつみちゃん、このままボクのおウチに来ないかい?」
「えぇッ⁉︎だっ、ダメですよ!なんかよくわかんないけど、ダメなヤツですよ!ダメ!///」
逃げるように小走りで角を曲がって行ってしまった。
「そんなぁ〜(笑)」
京楽がその後に続いて曲がると、なつみがすぐそこで立ち止まっていた。
「おっと」
どうしたのかと、なつみの見つめる先を確認すると、その訳がわかった。
「おや。こんばんは、藍染隊長」
「こんばんは、京楽隊長」
宿舎の建物の前から、藍染がこちらに向かって歩いてきていた。
「木之本くん、お帰りなさい」
いつもの穏やかな笑顔で迎えてくれた。なつみもそれに応える。
「ただいま戻りました😊」
充分にその距離を縮めると、藍染が言った。
「もうみんなが寝ている時間だからね、あまり大きな声を出してはいけないよ、木之本くん」
そう指摘されて、あっとしたなつみ。思わず京楽をじとっと睨んでしまった。
「ボクのせいかい?…そうか、ボクのせいか。ごめんよぉ」
しー🤫と2人でやりあう。仲が良いことで。するとまたあっとする。
「藍染隊長、もしかしてぼくのこと」
「うん。待っていたよ。そろそろ帰ってくるかなと思ってね」
「わーっ、すみません。遅くなってしまいました💦」
慌てて藍染の方へ駆け寄ろうとしたが、すぐに足が止まった。
「すみませんっ、お返ししなきゃ💦」急いで羽織っている着物を脱いで、裾のところをぱっぱと払い、軽く畳んで差し出した。「ありがとうございました、京楽隊長」
「いいえ〜。あ、なつみちゃん、それ着せてくれるかい?」
そう言って、京楽は少し屈んだ。お願いされたので、なつみはさっと着物を広げて、彼の背中に回ろうとしたら。
「前からの方が良いと思うよ」
京楽が追加でお願いしてきた。むぅっとしたが、照れながらも言われた通りに、京楽の左肩から右肩へ、抱きつくような格好で首に腕を回して着物をかけてやった。そうすると。
「ありがとう😘」
離れかけたなつみの頭をとっ捕まえて、ほっぺにキスを喰らわした。
「あわッ⁉️」
実は京楽、なつみに再会できたのが相当嬉しかったのだ。その喜びを、このようなカタチで表現してしまった。
京楽の愛情と預けていた手さげを受け取り、ギッコンバッタンした足取りで藍染の横に着いた。どうしようもなく、ほけぇ〜としてしまう。そんななつみを支えるように、藍染は彼女の肩を持ってあげた。
「京楽隊長、うちの木之本くんを送っていただいて、ありがとうございました」
「(“うちの”?)いや、かわいい子が夜中にひとりで歩いてたからね、当然のことをしたまでだよ」
藍染の言葉と仕草が癇に障る京楽。
(なんだい“うちの”って。そんなになつみちゃんを大事にしてたっけな、惣右介くん。っていうか、その手は何だ‼︎ほら、なつみちゃんだって、「何この手⁉︎」って顔でその手を睨んでるじゃないか!)
「さぁ、中に入ろうか。京楽隊長に挨拶しなさい」
なつみをシャキッとさせるように、藍染は肩をさすってあげた。それでちゃんとシャキッとしたなつみ。
「京楽隊長、送っていただいて、ありがとうございました。それから、上着貸していただいたり、荷物持っていただいたり、たくさんお話聞いていただいたり、あと、あと、お見舞いも来てくださって、ありがとうございました!こんなに良くしてもらって、もったいないです。こんな、ぼくなんかに…」
京楽が自分にしてくれた数々の親切を思い出すと、そんな風に段々下り坂に気分が落ち込んでしまう。素直に喜んでいたいのに。
だけど、京楽はいつだって下を向き始めるなつみの手をすくい上げてくれる。
「そんなに謙遜しなさんな。ボクがキミにいろいろしてあげたいのは、なつみちゃんのことが大好きだからだよ。キミが幸せそうに笑ってるのが大好きなんだ。そうして照れてるところも」
なつみは視線を上げてくれた。
「ちゃんと言ってなかったね。なつみちゃん、ボクたちのところにこうして帰ってきてくれて、ありがとう。ボクもキミに感謝の気持ちでいっぱいだよ」
今日一日で何リットル涙を流しただろう。昨日だって泣いていた。もう一滴も出せないと体が白旗を上げているものだから、笑うしかなかった。
そんな良い雰囲気の中、居た堪れない人が口を挟んできた。
「ゴホンッ、僕のこと忘れてないかな?」
「んー??」と2人はお邪魔虫を発見する。刹那、その虫さんの眉間がピキッと寄ったのを見た気がした。
「「‼️⁉️」」
慌てて挨拶の続きをする。
「なつみちゃん、おやすみ。あったかくして寝るんだよ」
京楽はなつみの頭をなでなで。
「はい。おやすみなさい、京楽隊長😊」
なつみの頭の次は、藍染の肩に触れた。強めに。
「おやすみ、藍染隊長(彼女はボクのものだからねッ)」
「おやすみなさい(お帰りはあちらですよ)」
「(知ってるよ💢) なつみちゃん、またお話ししようね〜👋」
「ぜひ🤗」
大人しく、京楽は帰っていった。その背中をなつみはじっと見送る。その視線を遮るように、藍染は敷地内へ歩み出した。
「キミもあの人に憧れるかい?僕も尊敬しているよ。あんな風に、どんな女性にも分け隔てなく優しくできるなんて、素敵なことだからね。僕も見習わなきゃ」
京楽に着物を返してしまったから、肌寒くなっていた。
「そう、ですね…。憧れます」
藍染のもとへ駆けて行った。
「おやすみなさい、藍染隊長」
「うん。おやすみ」
藍染もなつみの頭を撫でた。なつみの知る愛情とは違う衝動で。
一礼して、なつみは宿舎に入っていった。
(どんな女性にも…)
わかっている。初めから、わかっていることだった。それでも、たまには夢を見たいときだってある。特別と特殊の違いをわざわざ突きつけないでほしい。
そんな思いを、玄関で下駄と一緒に脱ぐように、忘れていこうとしていた。
「あれから 僕はいくつの
夢を見て来たのだろう
瞳を閉じて見る夢よりも
瞳を開きながら WOW WOW
あれから 僕はいくつの
自由を生きてきただろう
運命の支配じゃなくて
決めてたのは
僕の“WILL”」
アヤと自分のことを思ったら、この歌を歌いたくなってしまったらしい。自分の選択こそ、自分をここまで導いてきたということ。自分がこうしていられるのは、必要とされる未来が来るからだ。周りが生かしてくれたなら、自らは生きるための選択をしたい。生きるためならば、退化を選ぶこともまた進化につながるはず。
(ぼくの希望だ)
すると、背後から声がした。
「歌なんか歌っちゃって、ご機嫌だね、なつみちゃん」
なつみは足を止めて、俯きながらくるっとその場で回ると、恥ずかしそうに照れた微笑みを彼に向けてあげた。
「こんばんは、京楽隊長///」
「こんばんは、なつみちゃん」
京楽は歩を進めて、その距離を縮める。
「お帰り。すっかり元気になったのかな?」
「はい、いちお、もう大丈夫です。…あっ!京楽隊長はぼくが現世に行っていたの、ご存知だったんですね!」
「うん。しばらく見ないなと思って、市丸隊長にきいたんだ。それに、今朝キミのお見舞いにも行ったしね」頭を撫でてあげると、少し湿っているのに気付いた。そしてくんくんする。「お風呂入ってきたの?ちゃんと頭乾かさないと、風邪ひいちゃうよ」
と心配してあげたが、当の本人は髪の毛をくんくんされてフリーズしていた。久しぶりに大好きな京楽に会えて、それだけで嬉しいのに、こんな至近距離でくんくんされちゃあ、もう。その表情を見て味を占めた京楽は、ついでにもう一言添える。
「実は、お見舞いの帰りがけ、キミにチューしちゃった。あんまりにもかわいい寝顔だったからね😙」
「はぎゃッ⁉︎///」
口元を両手で覆う。
「…、おでこだよ。何?そっちが良かった?(笑)」
指摘されて、両手をおでこに移動し、首を横にふんふん振った。
(口にチューなんて、耐えられないって‼︎ってか、くぁーッ、おでこ洗っちゃった‼︎‼︎なんてこった!💦)
王子様ならぬ、おじさまのキスで目覚めていたなつみは、このことを教えてくれなかった市丸にぷんと来ていた。
(何で隊長教えてくれなかったんだ!んん、まぁ、知らなかったのかっ😖)
照れて困ってキュゥキュゥ鳴いているなつみの顔を、少し屈んで覗き込みながら言った。
「さぁ、帰ろうか。のんびりしてると体冷やしちゃうからね。送ってってあげるよ」
その言葉に、両手をきゅっと握って体の横につけ、気を付けの姿勢をとり、勢いをつけて答えた。
「お願いしますッ‼︎」
一礼。
「はーい😊」
一歩、二歩と2人は並んで歩き始めた。
「ねぇ、なつみちゃん。もしかしてだけど、ボクのこと呼んだかい?」
急にそうきかれて、いつのことだろうと京楽の顔を見上げて考える。
「そんなかわいい顔して見つめないでくれる」
「なッ⁉︎」
パッと前に向き直った。
「気のせいだったかな。この辺に来たら、キミに会えそうな気がしていたんだ」
京楽がそう言うものだから、また目をパチクリさせて彼を見てしまう。
「だから…、その顔やめろって」
小声だった。しかしその後、茶化すように。
「このこのぉ〜」
なつみのほっぺを、両手のグーでむにゅっとしてぐるぐるしてやった。
「ふにゅぅぅぅぅ💦」
解放。
「良かった。いつものなつみちゃんだね」
腕を袖に通して組むいつもの姿勢で、京楽はしみじみとし、その横でなつみは、弄ばれたほっぺをさすっていた。
「でも…、雰囲気がちょっと、変わったかな」
ほっぺを触るのをやめて、右手の人差し指で鼻をちょんちょん、ニヤけそうなのを抑えながらなつみは喜んでいた。
「やっぱり京楽隊長は、よく気が付く方ですね。ぼく、決めたことがあるんです!」グッと手を胸のところに付けて、嬉しそうに宣言する。「ぼく、虚とお友だちになります‼︎‼︎」
「………?😊💧」
小指で耳を掃除してから、もう一度確認してみる。
「んー、ちょっとよく聞こえなかったな。ボク、聞き間違いしたかもしれないから、もう一度言ってくれるかい?」
「ですから」先程と同じ、熱のこもった視線で訴える。「虚とお友だちになります‼︎」
「なんで…??💧」
今度は京楽が目をパチクリさせていた。
「普通はさ、キミはその、虚にコテンパンにされちゃったから、リベンジしたい!とか、次こそ勝ちたい!とか、そういう風に思うものじゃないの?どうして仲良くなろうとするのさ。理由によっちゃぁ、…、罪人扱いされちゃう考えだよ?」
「わかってますよ」
口を尖らせて反論するなつみ。
「それは、悪いことするために仲良くなろうとする人の話ですよね。ぼくは違いますから!」
「ほぉ、じゃあどうしてお友だちになりたいんだい?」
「それはですね」
と話し出したところで。
「クシュンッ💦」
くしゃみが出てしまった。
「寒いのかい?ちょっと待って」
そう言って、京楽は羽織っている着物を脱ぐと、なつみの肩にかけてやった。
「ありがとうございます///(うわー、京楽隊長の匂いがするっ。あわわっ、滅多に見られない隊長羽織姿!しゅてきっ💕しわわせっ💓むきゅ〜💖)」
「荷物、持ってあげるよ」
手を差し伸べる京楽。
「でも…」
「でもじゃない。裾が地面に着いちゃってるから、上げて歩いて欲しいの」
慌てて足下確認。
「あっ、すいません💦」
「良いよ。ほら、脱げちゃうから、袖通して。ほんとにちっちゃいんだからぁ😚」
タオルや着替えの入った手さげを受け取り、京楽は着物の襟元を持って、袖に腕を通すのを手伝ってあげた。
「むぅ…、ちっちゃい子扱いしないでください」
「ごめん。なつみちゃんは、大人の女性だったね」
照れた顔が良く見えるように、なつみの耳に髪をかけるが。
「それも違います!大人は大人ですけど、女扱いも嫌です。ぼくはジェントルマンになりたいんですよ。レディに優しく寄り添ってあげるような」
裾を地面で擦らないように、胸元で少し引っ張り、そのまま落ちないように手で押さえながら歩き始めた。
「フフッ、じゃあ、ボクを見て勉強すると良いよ」
「はい!もちろんです!」
にっこり笑って見せた。
「どう?寒くなくなった?」
「はい、大丈夫です。京楽隊長は寒くありませんか?」
「うん、大丈夫」
京楽の服に身を包んでいると、なんだか、京楽に抱きしめられているような感じがして、快適を通り越して湯気が出そうなくらいポッポッと熱が上がってきた。
(ヤバい。興奮してきた///)
その様子を見ている京楽。
(なつみちゃんがボクのを着てる。かーわーいーいー。食べちゃいたいね。ボクのお部屋に攫っちゃおうかな🥰)
これは神様がくださったご褒美だ、となつみは思いつつ、話題を戻していった。
「えっと、その、先程の続きですが、なぜ虚と仲良くなりたいかというとですね」
「うん」
「魂魄を襲わないようになって欲しいからです。仲良くなって、楽しい時間を過ごしたら、魂魄食べたいって思わなくなりません?」
「んーーー???(笑)」
こんなことを考える子に会うのが初めてな京楽は、良さそうなコメントが思いつかないでいた。
「虚が魂魄を襲うことで、悲しみを生み出しています。その悲しみが別の悲しい出来事を作るかもしれないです。良くないです!」
「ですねぇ」
「それから、昇華への心の準備もして欲しいんですよね。ぼくたちだって、急に斬られたら、怒りたくなるじゃないですか」
「そりゃあ、ねぇ」
「死神は虚を斬ることじゃなくて、昇華するのが仕事だと思うんですよ。もっといろんな魂と寄り添わないと、世界を平和にできませんて。虚とお友だちになってから、気持ちよく昇華してあげれたら、悲しみが少ないですよね。戦って昇華するのと、結果は同じだから、ぼくはこのやり方で文句言われる筋合いありませんよ!😤」
「うんうん」
「虚って、心を無くしてるって言うじゃないですか。ぼくはそんなことないんじゃないかって思うんです。悲しくて辛い思いに押しつぶされて、体のどこかに追いやられてるだけで、消えずに残ってるはずなんですよ。忘れてるだけっていうか。ちゃんとおしゃべりできるなら、仲良くなれると思いませんか?」
「そうだね。理性はあるかもしれないからね。でもさ、ボクは彼らに心があると思えないよ。体に空いた穴がそれを証明してるもの」
「だったら、ぼくが幸せな思い出で穴を塞いであげます!ぼくが心を分けてあげます!」羽織っている京楽の着物に大切そうに手を添えて。「こんな風に優しくしてもらえたら、気分が満たされていくんですもん。虚にだって、同じ気持ちを持ってもらえるはずです。ぼくたちはみんな同じ、魂で繋がった存在ですから、死神も人間も虚も、優しさで繋がれたら嫌なことは起きないと思います。悪いことって、起きてから対処するより、未然に防ぐ方が良いに決まってますもん」
「中級大虚と会って、そう思ったのかな」
「はい…」思い出す、あの時のこと。「過去は変えられませんし、忘れられません。市丸隊長が斬ってくださったので、あの人たちの魂は綺麗になったと思います。それで安心するのは簡単です。でも、邪悪な方へ堕ちてしまったのは確かで、他にも同じく苦しんでいる魂がいたり、これからもどんどん生まれてくるかもしれない。そんな人たちを助けてあげたいんです。あんな気持ち、持っちゃいけない…。こうして生きて帰って来られたので、ぼくはぼくなりのやり方で、この世界に貢献したいです。みんなの笑顔のために‼︎‼︎😆」
自信たっぷりに力説するなつみの意見は確かに正論だが、別の角度から見れば無謀なのがあまりにも一目瞭然で。
「なつみちゃん、キミの考えはとっても素敵だよ。優しい世界観で、居心地の良さそうな理想だ。だけどね、すごーく難しくて大変なことだって気付いてるかい?」
せっかくのやる気を挫いてしまうのは心苦しいが、それが真実に変わりない。受け入れるべき事実だ。
「キミの実力では無理だよ」
口をきゅっと結び、何かを堪えているらしい。なつみはその何かをゴクッと飲み込んで、言葉を返した。
「おっしゃる通りです。なので、鍛えます!もっともっと強くなって、虚さんたちにバカにされないようにするんです!ぼくにはムッちゃんがいますから、いつかは無理じゃなくなりますよ!元気な体に完全復活したら、今まで以上に気合入れて鍛錬します!やってやりますよ!夢は叶えるものなんですから!無理じゃありません!」
一生懸命に話すものだから、ぴょんぴょん跳びはねているなつみの言い分を聞き、確かに気付くことがあった。
「そうだったね。キミの斬魄刀なら、キミの想いの力になってくれるか。可能性を否定するのは良くないね。うん。なつみちゃんなら、できそうな気がしてきた」
ぽんぽんと頭を撫でて、なつみを落ち着けさせた。
「『思い切り自由に生きてごらん』って言ってあげたのボクだしね。その言葉に責任取らなきゃいけないよね。キミが良いと思うなら、ボクはそれをサポートしなくっちゃ」
落ち着きたいけど、なつみは嬉しくって堪らない。何も言えなくて、ただキラキラとした笑顔を向けることしかできない。
「やれるだけやってみなさい。ボクが応援してあげる。キミの幸せが何よりも大事だからね」
京楽に会いたいと願って良かったと思った。いちばん最初の相談相手が彼で良かったから。市丸に言えば、十中八九ダメって言われるだろう。今のところ、世界はなつみの思い通りだった。
あともう一つ角を曲がると、五番隊宿舎に到着するところまで来た。
「あー、着いちゃうね。楽しい時間はあっという間だよ。ねぇ、なつみちゃん、このままボクのおウチに来ないかい?」
「えぇッ⁉︎だっ、ダメですよ!なんかよくわかんないけど、ダメなヤツですよ!ダメ!///」
逃げるように小走りで角を曲がって行ってしまった。
「そんなぁ〜(笑)」
京楽がその後に続いて曲がると、なつみがすぐそこで立ち止まっていた。
「おっと」
どうしたのかと、なつみの見つめる先を確認すると、その訳がわかった。
「おや。こんばんは、藍染隊長」
「こんばんは、京楽隊長」
宿舎の建物の前から、藍染がこちらに向かって歩いてきていた。
「木之本くん、お帰りなさい」
いつもの穏やかな笑顔で迎えてくれた。なつみもそれに応える。
「ただいま戻りました😊」
充分にその距離を縮めると、藍染が言った。
「もうみんなが寝ている時間だからね、あまり大きな声を出してはいけないよ、木之本くん」
そう指摘されて、あっとしたなつみ。思わず京楽をじとっと睨んでしまった。
「ボクのせいかい?…そうか、ボクのせいか。ごめんよぉ」
しー🤫と2人でやりあう。仲が良いことで。するとまたあっとする。
「藍染隊長、もしかしてぼくのこと」
「うん。待っていたよ。そろそろ帰ってくるかなと思ってね」
「わーっ、すみません。遅くなってしまいました💦」
慌てて藍染の方へ駆け寄ろうとしたが、すぐに足が止まった。
「すみませんっ、お返ししなきゃ💦」急いで羽織っている着物を脱いで、裾のところをぱっぱと払い、軽く畳んで差し出した。「ありがとうございました、京楽隊長」
「いいえ〜。あ、なつみちゃん、それ着せてくれるかい?」
そう言って、京楽は少し屈んだ。お願いされたので、なつみはさっと着物を広げて、彼の背中に回ろうとしたら。
「前からの方が良いと思うよ」
京楽が追加でお願いしてきた。むぅっとしたが、照れながらも言われた通りに、京楽の左肩から右肩へ、抱きつくような格好で首に腕を回して着物をかけてやった。そうすると。
「ありがとう😘」
離れかけたなつみの頭をとっ捕まえて、ほっぺにキスを喰らわした。
「あわッ⁉️」
実は京楽、なつみに再会できたのが相当嬉しかったのだ。その喜びを、このようなカタチで表現してしまった。
京楽の愛情と預けていた手さげを受け取り、ギッコンバッタンした足取りで藍染の横に着いた。どうしようもなく、ほけぇ〜としてしまう。そんななつみを支えるように、藍染は彼女の肩を持ってあげた。
「京楽隊長、うちの木之本くんを送っていただいて、ありがとうございました」
「(“うちの”?)いや、かわいい子が夜中にひとりで歩いてたからね、当然のことをしたまでだよ」
藍染の言葉と仕草が癇に障る京楽。
(なんだい“うちの”って。そんなになつみちゃんを大事にしてたっけな、惣右介くん。っていうか、その手は何だ‼︎ほら、なつみちゃんだって、「何この手⁉︎」って顔でその手を睨んでるじゃないか!)
「さぁ、中に入ろうか。京楽隊長に挨拶しなさい」
なつみをシャキッとさせるように、藍染は肩をさすってあげた。それでちゃんとシャキッとしたなつみ。
「京楽隊長、送っていただいて、ありがとうございました。それから、上着貸していただいたり、荷物持っていただいたり、たくさんお話聞いていただいたり、あと、あと、お見舞いも来てくださって、ありがとうございました!こんなに良くしてもらって、もったいないです。こんな、ぼくなんかに…」
京楽が自分にしてくれた数々の親切を思い出すと、そんな風に段々下り坂に気分が落ち込んでしまう。素直に喜んでいたいのに。
だけど、京楽はいつだって下を向き始めるなつみの手をすくい上げてくれる。
「そんなに謙遜しなさんな。ボクがキミにいろいろしてあげたいのは、なつみちゃんのことが大好きだからだよ。キミが幸せそうに笑ってるのが大好きなんだ。そうして照れてるところも」
なつみは視線を上げてくれた。
「ちゃんと言ってなかったね。なつみちゃん、ボクたちのところにこうして帰ってきてくれて、ありがとう。ボクもキミに感謝の気持ちでいっぱいだよ」
今日一日で何リットル涙を流しただろう。昨日だって泣いていた。もう一滴も出せないと体が白旗を上げているものだから、笑うしかなかった。
そんな良い雰囲気の中、居た堪れない人が口を挟んできた。
「ゴホンッ、僕のこと忘れてないかな?」
「んー??」と2人はお邪魔虫を発見する。刹那、その虫さんの眉間がピキッと寄ったのを見た気がした。
「「‼️⁉️」」
慌てて挨拶の続きをする。
「なつみちゃん、おやすみ。あったかくして寝るんだよ」
京楽はなつみの頭をなでなで。
「はい。おやすみなさい、京楽隊長😊」
なつみの頭の次は、藍染の肩に触れた。強めに。
「おやすみ、藍染隊長(彼女はボクのものだからねッ)」
「おやすみなさい(お帰りはあちらですよ)」
「(知ってるよ💢) なつみちゃん、またお話ししようね〜👋」
「ぜひ🤗」
大人しく、京楽は帰っていった。その背中をなつみはじっと見送る。その視線を遮るように、藍染は敷地内へ歩み出した。
「キミもあの人に憧れるかい?僕も尊敬しているよ。あんな風に、どんな女性にも分け隔てなく優しくできるなんて、素敵なことだからね。僕も見習わなきゃ」
京楽に着物を返してしまったから、肌寒くなっていた。
「そう、ですね…。憧れます」
藍染のもとへ駆けて行った。
「おやすみなさい、藍染隊長」
「うん。おやすみ」
藍染もなつみの頭を撫でた。なつみの知る愛情とは違う衝動で。
一礼して、なつみは宿舎に入っていった。
(どんな女性にも…)
わかっている。初めから、わかっていることだった。それでも、たまには夢を見たいときだってある。特別と特殊の違いをわざわざ突きつけないでほしい。
そんな思いを、玄関で下駄と一緒に脱ぐように、忘れていこうとしていた。