第二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ゆさゆさと体が揺すられるのを感じる。
「市丸隊長、起きてください」
声に反応して、ガバッと起きた。椅子に座ったまま、ベッドにうつ伏せになって眠ってしまっていたようだ。
「なつみちゃん…、起きたん」
なつみが上半身を起こして、市丸の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫ですか?寝違えてないですか?」
いつもののんきな優しさを携えていた。
「あぅ…、確かに痛いかも(笑)」
部屋にある時計を確認して、驚く。そりゃ、寝違えるわ。
「3時…。だいぶ寝てもーたわぁ。なつみちゃんは?いつ起きたん?」
腰の辺りをさすりつつ、視線をなつみに戻す。
「ついさっきです」
「そっか」
徐々に覚醒が進むと、なつみの呼吸がおかしいのに気付く。
「なつみちゃん、大丈夫?苦しそうや」
フゥフゥと短い間隔で強く息を吐いている。
「ちょっと、息しにくいです…」
「すぐ診てもらおな。待っとり」
若干息の荒いなつみの頭を軽く撫でて、さっと部屋を出て行った。
診療を済ませると、幾分呼吸も楽になり、空腹を感じ始めた。後で卯ノ花と療養などについて話すことになっている。それまでの間に食堂へ行くことにした。
市丸は三番隊隊舎へ戻り、なつみが目覚めたことを関係者に知らせた。急ぎの仕事を片付けたら、また彼女のところに行くつもりでいる。
四番隊の食堂に入ると、久しぶりに見る小さな背中を発見した。
「木之本」
名前を呼んでやると、その子は振り返り、蓮華を口から離して笑顔を見せてくれた。嬉しくて、早くそばに行きたい。でも走っちゃダメ。広めの歩幅で。彼女に手が届くところまで来ると、我先にと伝える。
「お帰り、なつみ!」
「お帰り」
「おかえり!」
「お帰り、木之本」
「お帰り♪」
「お帰りー😭」
椅子を各々確保して、なつみのいる2人がけの机を囲んで座った。
「ただいま」
お粥を食べる手を止めて、なつみは答えてあげた。
声は小さく、いつもの元気がなかったためさみしくはあったが、無事に帰ってきてくれたことに安堵した。
「よぉ、調子どう」
「どっか痛い?」
「大丈夫。今のとこ落ち着いてるよ」
「そっか。よかった」
「食欲があるんなら、一安心だな」
「うん」
「とにかく、『お疲れ様』だよね」
「こっちゃぁ、めちゃめちゃ心配したんだぞ」
「うん。心配かけてごめん。泣くなよ、尾田」
なつみは尾田の頭を撫でてやった。
「木之本がいるー😭」
「そりゃいるさ」
再びお粥を食べ始める。
「尾田の気持ち、わかるよ。お前にまた会えて、嬉しいもん」
「そうそう。さっき市丸隊長に、お前が起きたって教えてもらったとき、正直うるっときた」
「一時はどうなるかと思ったもんなぁ」
「無事にこっち帰ってこれて、よかったよ」
「…無事ではねーよ」
お新香をポリポリつまむ。
「にしても、さすが木之本。やっぱ強えーわ。中級大虚と一対一で戦って、持ち堪えるなんてな。すげぇ」
「副隊長がさ、お前のことすっごい褒めてたんだぜ。こんなに成長してたんだなって、しみじみしてた。格上の敵相手に上手く対処できてたって言ってくれたんだよ」
「俺らん中で一番強えーのはなつみだもん」
「隊のみんなに思いっきり自慢してやれ。胸張って帰って良いんだ」
「そうだって、いつもみたいにバカ元気にさ!『どうだ〜、ぼくは中級大虚とひとりで戦ったんだぞぉー!すげーだろー‼︎😆』って自慢しろって」
市丸に言われるまでもなく、一目で気付けた。自分たちがなつみについていてやらなきゃいけないということに。だから、慰めの言葉をかけてやるのだが、かければかけるほど、なつみは辛そうに縮こまっていく。不本意ながらも自分の番だと李空が口を開きかけると、待ちきれずに彼女の弱音が先に出てきてしまった。
「強くなんかないよ…。ぼくは弱いよ…」
自分の肩を持って、内に内にと縮こまり、泣く手前、肩で息をし始めて、苦しくなる。
「木之本…?誰か呼んでくる」
席を立とうとする尾田の袖をグッと掴んで座り直させた。
「おい、無理すんな!」
「うるせぇ…ッ、ッ、フゥッ、フゥッ、…、いてくれ…ッ」
掴んだ手から苦しみが伝わってくる。
「わかった。わかったから。落ち着け。ゆっくり息しろ」
袖から手を放してやり、背中をさする。他5人はなつみを隠すように、少しずつ体を寄せ合って座り直した。
「ぼくは…、あの人を、助け、られなかったんだ。ッ、もっと早く、あの人のところに、フゥッ、行ってあげなきゃ、いけなかったのに。ぼくが、フゥ、ちゃんとしてれば…」
「お前は悪くない。できることは全部やったろ」
「そんなことないッ…」
「木之本、お前、誰の話をしてる」
李空が問う。
「誰って、あの人のことだろ?」
「あの事故の、運転手さんだった…。フゥッ、ぼく、見たんだ、…、あの、中級大虚の魂…」
そんなことする必要なんて全く無いのに。
「顔、見たら、どんどん、悲しくなってって、どんどん、苦しく、なってって…、フゥ、それから、記憶が無いんだ。…ぼくはあの時、死んでて、おかしくなかった。フゥ…、だから、ぼくは、強くなんか、ない。…フゥ、褒めるな、…慰めるな。…、ぼくは、弱いんだッ、…フゥ、体も、心も。あんな失敗、するなんて」
頼むから、それ以上は言うなと誰もが思う。なのに。
「ぼくは、…、もう、フゥ、死神として、やっていけないよッ‼︎」
言ってしまった。聞きたくなかった言葉だった。
「木之本…」
1ヶ月前には思いもつかなかった姿が、そこにあった。こいつが帰ってきたら、また7人でバカ騒ぎするんだと楽しみにしていたのに。こんなことになるなんて。どうしたら、あの日に戻れるのか。
その時、こちらの席に近づいてくる者がいた。
「なつみちゃん、薬飲み」
「隊長」
市丸に気付くと、6人は立ち上がろうとした。
「構へん。そのまま座っとり」
「はい」
なつみのもとへ。
「目を離したらコレや…。なつみちゃん、言うこと聞き」
それでもなつみは辛そうにするだけで、動こうとしない。見かねた市丸は、なつみの椅子の背にかけられた巾着を取り、隣に座る尾田に渡した。
「その中の薬、1錠飲ませたって」
市丸はなつみのすぐ後ろの席に着いた。
「木之本、飲め」
尾田に差し出されても、取ろうとしない。フゥフゥと呼吸は荒いまま、涙を止めようと両目を押さえている。
「なつみちゃん、自分から死神辞められへんからって、自分で終わらそうとしたらアカン」震える小さな頭を撫でてあげながら語りかける。「アヤさんがこれ知ったら、どう思う?」
その名前を出されて、なつみの震えが一瞬止まる。そして大きく息を吸う音を立ててから、バシッと薬を受け取って、水といっしょに飲み込んだ。市丸のことを狡いと思いながら。
「良え子良え子」
少しずつ、少しずつ、呼吸が整っていく。
「どうして…ッ、ッ、フゥー、…フゥー」
落ち着いてくるが、姿勢は崩れ、お粥を載せたお盆を押しやりながら、前に伏せた。
「キミは気に食わんやろうけど、その体は生きたがってんねんから。優しくしたり」
ぽん…、ぽん…、と呼吸のテンポを教えるように、市丸はなつみの背中を静かに叩いてあげた。
すると、なつみの向かいに座る李空が、ようやく慰めてやる番が来たと思い、話し始める。
「確かに、お前は負けて帰ってきたんだから、強かねぇよ。だからって何だ。負けたから、弱いから、って死神辞めたいだ?ざけんなよ。弱えーなら、鍛えて強くなりゃ良いだけの話だろ」
伏した顔を上げさせて、李空はなつみの両ほっぺたをギュイー!っと引っ張った。
「いだだだだだだだだだーいッ‼︎‼︎」
「ちょ、李空!やりすぎだ!」
さすがの市丸もギョッとする中、周りの制止も無視して、摘んだ手を勢いつけてビンッと放してやった。
「いだーーーーーーいッ‼︎‼︎ぅわーーーーーーん‼︎‼︎(泣)」
ほっぺがちぎれたんじゃないかと思うくらい痛みでジンジンしているところを押さえながら、辛いのと痛いのとで思い切り泣き出してしまった。それでも構わず、李空のお説教は続く。
「ウジウジウジウジウジウジウジウジしやがって。見っともねぇ。いつものお前なら、何があっても次は絶対勝ってやるって言うだろ!お前は、どんなに辛くても諦めねぇヤツじゃねぇか!なのに何だよ、今のお前クソうぜぇぞ!」
さっきは引っ張った分、今度はむぎゅぅぅっ!とほっぺたを潰してやった。
「ふにゅにゅぅぅッ」
「前に俺言ったよな、『消えてなくなりてぇ』とか『俺たちから離れよう』とか思ったら、絶対許さねぇって。お前はそれで現実見てるつもりかよ。お前が勝手に無理だと思うから、生きたくないってか。冗談じゃねぇぞ」
なつみの顔を斜め上に乱暴に突き放す。
「ブフッ‼︎」
「お前を助けるために、どんだけの人数が必死で動いたと思ってんだ‼︎お前が襲われてるって教えてくれたあの人も、俺たちも、隊長も、副隊長も、みんなお前が死なねぇようにって、必死だったんだぞ‼︎周りの人たちとツキも味方にして、お前は生かされてんだよ‼︎それが現実だ‼︎そんな簡単に目ぇ逸らすんじゃねぇ。ダセェこと言うな‼︎生きて帰って来られたんだ。鍛え直して、ピーピー泣かねぇように、誰よりも強くなれ!…俺たちの想いに応えろよ、なァ‼︎木之本‼︎‼︎」
バンッと机を叩いて、今やなつみの方へ身を乗り出して立ち上がってる李空。
なつみはというと、涙も鼻水も垂らしてぐしょぐしょの顔で李空を見上げていた。ヒックヒックとすすりながらも、彼の言葉を全部受け止めて、脳内に反響させる。すると、何故だか段々メラメラフツフツと湧き上がる感情が込め上げてきた。
「…ムカ…ッ」
そうつぶやいた直後、寝巻きの袖、両方を使ってゴシゴシゴシゴシーッと顔を擦りあげると、全部を拭き取り、自分もバンッと立ち上がって、李空と顔を突き合わせた。
「うるっせぇーんだよ‼︎てめぇ、オレに説教垂れてくれてんじゃねーぞ、この野郎‼︎」
「あんだと、コラァ」
「お前にゴチャゴチャ言われるまでも無ェ‼︎強くなってやらァ‼︎‼︎もう二度と、誰にも、あんな思いさせねェ‼︎‼︎オレにできること全部やって、今度こそオレが、全部全部守ってやらァ‼︎‼︎文句あっか、バカヤローッ‼︎‼︎」
腹の底から叫んでいた。どん底から無理矢理引っ張り上げられたみたいに。でも、どこか嬉しくて。
「バカはてめぇだ、クソチビーッ‼︎‼︎」
「チビって呼ぶなー‼︎‼︎それに、オレをダサェと言うなーッ‼︎‼︎ちょームカつくーッ💢💢💢」
髪やら耳やらほっぺたやら引っ張り合う、至って真剣でかわいいケンカが始まった。
「イッテーなァ💢このヤロッ💢」
「ムキーッ💢」
「おい!その辺でやめとけって‼︎」
周りがあわあわと2人を止めようとしていると、食堂の入り口の方から黒く冷たい気配がじんわり漂ってきた。
「あら、賑やかですね…」
皆の動きが一斉に止まり、ギギギギギとぎこちなく首を回して、声の主のお顔を拝見。
「もう少し、静かにして頂けますか」
声色と口角は微笑んでいるのに、目が一個も笑っていない卯ノ花が、静かにこちらに歩みを進めてくる。
「あのッ、卯ノ花さん、ボクがちゃーんとこの子らのこと叱っとくんで、見逃してあげてくれませんか…?」
市丸が慌てて間に入るが、卯ノ花にポンと跳ね除けられた。
「他の方たちに迷惑ですから、騒音は控えていただきたいのですが…。幸い、今の時間は人が少ないようなので、今回は目を瞑りましょうか」なつみと李空をしっかり見つめて。「次は、ありませんよ」
こ、怖い…。
「「はい…。肝に銘じます。」」
「お願いしますね」
そーっと取っ組み合いの体勢から、なつみと李空は離れていき、2人はちょこんと着席。卯ノ花は満足そうにそれを見た。
「木之本さん」
「はいッ」
「検査結果が出ました。今後についてのお話をしましょうか」そう言うと、卯ノ花は6人に目を向ける。「すみませんが、席を移動していただけますか?」
「はい」
そそくさと仲間たちはその場を離れ、近くの席に移動した。
「市丸隊長は、木之本さんの隣にお座りください」
卯ノ花がなつみの正面に座ったので、なつみはお粥のお盆を隣の机によけた。
「脳と心臓と肺の機能を確認しました。どれも回復傾向にあり、大きな問題は無さそうです」
「良かった…」
「傷の具合も良好ですし、明日からでも業務に復帰していただいて大丈夫ですよ。ただ、先程のように肺に負担がかかると、すぐに苦しくなってしまうでしょうから、薬の携帯と、なるべく安静にすることを、この先1週間ほどお忘れなく」
「はい」
「経過観察のため、しばらくは過度の運動は控えてくださいね」
そう聞いて、なつみは市丸の顔を見上げた。
「帰ったら、イヅルと相談して、仕事の予定考えような」
「はい!」
卯ノ花の話が続く。
「それから、どうされますか。今夜もここに泊まられて、明日帰られますか?」
「えっ…、えっと」
「体調が安定していますし、すぐに帰られても結構ですよ」
「えっ、あ、あのっ、あのっ!」前のめりになって、疼いて、嬉々として体がぴょこぴょこする。「すぐッ‼︎すぐに帰りたいです!みんなと一緒に帰りたいですッ‼︎」
はやる気持ちが抑えられない。ようやく、いつもの彼女が戻ってきた。きらめく笑顔が帰ってきた。
「わかりました。そのように手配しましょう。支度が済み次第、お帰りください」
「はい!ありがとうございます。お世話になりました」
「ほんま、ありがとうございました」
なつみと市丸は卯ノ花に頭を深く下げて、感謝を伝えた。今や穏やかな笑顔を湛える卯ノ花が答える。
「礼には及びませんよ。これが私の仕事ですから」
顔を上げた2人に、もう一言だけ残して席を立った。人差し指を口元に当てて。
「お帰りの際は、くれぐれもお静かに」
三番隊の皆さんお揃いでお返事。
「はい…💦」
お粥を平げ、着替えも済ませ、薬ももらって、すっかり夕暮れ時になった屋外へ、なつみは駆け出していった。市丸と仲間たちが待っているところへ。
「お待たせしました!」
「なつみちゃん、走ったらあかんやろ」
「だって…」
「だってじゃねぇ。まだ本調子じゃねーんだから、無理すんな」
「むぅー」
膨れっ面で唸ると同時に、なんとお腹の虫も鳴き出した。
「うぅっ///」
「お前、さっきお粥食べたろ?」
「たっ、足りなかったんだよ、あれじゃ!何食抜いたかも覚えてないんだぞ!」
「元気になった証拠やな〜(笑)」
「笑わないでくださいよぉ!くすぐったいですぅ!」
市丸が鳴いたお腹をこちょこちょしたのだ。
「あ!みんなでたい焼きでも食べへん?ボクもお腹空いてもうた。あそこにお店出てるで」
道の向こう、移動販売でやって来ていたたい焼き屋が、ちょうど営業していた。
「食べたーい!✨」
ぴょんぴょん跳びはねるなつみ。
「うん!俺も食べたい!」
「ほな行こか〜。ボクがご馳走したげるわ」
「マジッすか⁉︎」
「ええよー。なつみちゃんが帰って来られて、ボク、気分めっちゃええから。みんなで仲良ぉ食べよな」
「「「「「「「ありがとうございます‼︎」」」」」」」
赤く染まった空に、8匹のたい焼きをかざす。乾杯の音頭は、無茶振り受け担当の尾田先生にお願い。
「えー、木之本の帰還を祝しまして、皆さんご唱和ください。…『めでたい‼︎』(照)」
「めでたい!(笑)」
全員が全員、「くそダセェ」と思いつつも、やっぱたい焼き持ってるからコレでしょということで、「くっだらねー」と大笑いしながらみんなでノッた。
「アホや(笑)」
「あははははッ🤣」
「ちょーウケる」
「うーまい!」
ぱくぱく食べながら、三番隊隊舎へと歩いていく。
「なぁ、なつみちゃん、一口ちょうだい」
「どうじょ」
もぐもぐしながら市丸に差し出した。
「んー、イケるなぁ」
「でしょ!」
2人の謎のやり取り。
「何で木之本の食べたんですか?」
「ん?この子のだけカスタードやねん」
「ふふ〜ん😋」
「はぁ⁉︎たい焼きっつったら、あんこだろうが。邪道か、てめぇ」
「何だと⁉︎いいもん、李空にはあげないんだから😤」
「えー、良いなぁ。俺にも一口ちょうだい♪」
「良いよ。クーちゃんにはあげる」
「ありがとう。俺のも食べて良いよ」
「ありがとう!ん〜、確かにあんこもおいしいな」
「カスタードうまっ‼︎」
「マジ?ちょい、気になる。俺にもちょうだい」
「じゃあ俺も!」
「ちょっと待ってよ!そんなに食べたら、無くなっちゃうじゃん!」
「俺らの一口ずつ食べれば良いだろ」
「はい、お食べ」
「違うじゃん‼︎ぼくはカスタードが食べたくて頼んだの‼︎あんこじゃないの‼︎だっ…、食べんなっつの‼︎」
返せ返せと手を伸ばしても届かない。
「木之本ー、激しい運動はお控えくださーい」
「るっせーな、李空💢」
「過度なストレスにもご注意くださーい」
「ムキーッ💢💢💢」
「こぉら、みんな仲良ぅしてやー。意地悪しないの」
(((((((あんたに言われたくない……)))))))
食べ終わると、もっと早く帰りたくなって、こんな提案が持ち出される。
「走って帰ろうぜ。歩いてたら暗くなっちまう」
「よーし!ダッシュだぁ‼︎」
やる気満々のなつみだったが、市丸に止められる。
「みんなはええけど、キミはあかん」
「えー、早く帰りたいですぅ」
「うん。せやからな」
「あ!わかった」
斬魄刀に手をかける。
「ちゃう。それもアカン」
「じゃあ、どうするんですかぁ」
「こうするんやッ」
「あわっ」
また、なつみはいつぞやと同じように、市丸にお姫様抱っこされた。
「大丈夫ですか?隊長。重くないんですか?」
「重ないよ。何回もこうしてるから、慣れてしもたわ。変わってあげられんくて、ごめんな、李空」
「…⁉︎そ、そんなつもりじゃ///」
「(クスッ)なぁ、隊舎までみんなで競走しようや」
その言葉に燃える野郎共。
「おっしゃー!負けねぇぞ!」
「隊長にはハンデがあるから、まぁ、俺が1番速いかな〜」
各自、あちこちをストレッチする。
「なつみちゃん、しっかり掴まっとき」
なつみは慌てて市丸の首に腕を回した。男たちはワクワクした面持ちで、スタートダッシュに身構える。
「位置について〜」
ジャリッ。
「よーい」
グググッ。
「ドンッ‼︎」
ザンッと音を立てて、7人は一斉に走り出した。瞬歩の速度で景色が流れていく。その中で笑い合い、楽しい時に包まれる幸せを噛み締めていた。
「戻ってきてくれて、ありがとう」
「助けてくれて、ありがとう」
その時の空は、本当に美しい色に染まっていた。惜しいことに、彼らにはよく見えていなかったのだが。彼女の好きな世界が、目一杯に広がっていた。
「市丸隊長、起きてください」
声に反応して、ガバッと起きた。椅子に座ったまま、ベッドにうつ伏せになって眠ってしまっていたようだ。
「なつみちゃん…、起きたん」
なつみが上半身を起こして、市丸の顔を覗き込んでいた。
「大丈夫ですか?寝違えてないですか?」
いつもののんきな優しさを携えていた。
「あぅ…、確かに痛いかも(笑)」
部屋にある時計を確認して、驚く。そりゃ、寝違えるわ。
「3時…。だいぶ寝てもーたわぁ。なつみちゃんは?いつ起きたん?」
腰の辺りをさすりつつ、視線をなつみに戻す。
「ついさっきです」
「そっか」
徐々に覚醒が進むと、なつみの呼吸がおかしいのに気付く。
「なつみちゃん、大丈夫?苦しそうや」
フゥフゥと短い間隔で強く息を吐いている。
「ちょっと、息しにくいです…」
「すぐ診てもらおな。待っとり」
若干息の荒いなつみの頭を軽く撫でて、さっと部屋を出て行った。
診療を済ませると、幾分呼吸も楽になり、空腹を感じ始めた。後で卯ノ花と療養などについて話すことになっている。それまでの間に食堂へ行くことにした。
市丸は三番隊隊舎へ戻り、なつみが目覚めたことを関係者に知らせた。急ぎの仕事を片付けたら、また彼女のところに行くつもりでいる。
四番隊の食堂に入ると、久しぶりに見る小さな背中を発見した。
「木之本」
名前を呼んでやると、その子は振り返り、蓮華を口から離して笑顔を見せてくれた。嬉しくて、早くそばに行きたい。でも走っちゃダメ。広めの歩幅で。彼女に手が届くところまで来ると、我先にと伝える。
「お帰り、なつみ!」
「お帰り」
「おかえり!」
「お帰り、木之本」
「お帰り♪」
「お帰りー😭」
椅子を各々確保して、なつみのいる2人がけの机を囲んで座った。
「ただいま」
お粥を食べる手を止めて、なつみは答えてあげた。
声は小さく、いつもの元気がなかったためさみしくはあったが、無事に帰ってきてくれたことに安堵した。
「よぉ、調子どう」
「どっか痛い?」
「大丈夫。今のとこ落ち着いてるよ」
「そっか。よかった」
「食欲があるんなら、一安心だな」
「うん」
「とにかく、『お疲れ様』だよね」
「こっちゃぁ、めちゃめちゃ心配したんだぞ」
「うん。心配かけてごめん。泣くなよ、尾田」
なつみは尾田の頭を撫でてやった。
「木之本がいるー😭」
「そりゃいるさ」
再びお粥を食べ始める。
「尾田の気持ち、わかるよ。お前にまた会えて、嬉しいもん」
「そうそう。さっき市丸隊長に、お前が起きたって教えてもらったとき、正直うるっときた」
「一時はどうなるかと思ったもんなぁ」
「無事にこっち帰ってこれて、よかったよ」
「…無事ではねーよ」
お新香をポリポリつまむ。
「にしても、さすが木之本。やっぱ強えーわ。中級大虚と一対一で戦って、持ち堪えるなんてな。すげぇ」
「副隊長がさ、お前のことすっごい褒めてたんだぜ。こんなに成長してたんだなって、しみじみしてた。格上の敵相手に上手く対処できてたって言ってくれたんだよ」
「俺らん中で一番強えーのはなつみだもん」
「隊のみんなに思いっきり自慢してやれ。胸張って帰って良いんだ」
「そうだって、いつもみたいにバカ元気にさ!『どうだ〜、ぼくは中級大虚とひとりで戦ったんだぞぉー!すげーだろー‼︎😆』って自慢しろって」
市丸に言われるまでもなく、一目で気付けた。自分たちがなつみについていてやらなきゃいけないということに。だから、慰めの言葉をかけてやるのだが、かければかけるほど、なつみは辛そうに縮こまっていく。不本意ながらも自分の番だと李空が口を開きかけると、待ちきれずに彼女の弱音が先に出てきてしまった。
「強くなんかないよ…。ぼくは弱いよ…」
自分の肩を持って、内に内にと縮こまり、泣く手前、肩で息をし始めて、苦しくなる。
「木之本…?誰か呼んでくる」
席を立とうとする尾田の袖をグッと掴んで座り直させた。
「おい、無理すんな!」
「うるせぇ…ッ、ッ、フゥッ、フゥッ、…、いてくれ…ッ」
掴んだ手から苦しみが伝わってくる。
「わかった。わかったから。落ち着け。ゆっくり息しろ」
袖から手を放してやり、背中をさする。他5人はなつみを隠すように、少しずつ体を寄せ合って座り直した。
「ぼくは…、あの人を、助け、られなかったんだ。ッ、もっと早く、あの人のところに、フゥッ、行ってあげなきゃ、いけなかったのに。ぼくが、フゥ、ちゃんとしてれば…」
「お前は悪くない。できることは全部やったろ」
「そんなことないッ…」
「木之本、お前、誰の話をしてる」
李空が問う。
「誰って、あの人のことだろ?」
「あの事故の、運転手さんだった…。フゥッ、ぼく、見たんだ、…、あの、中級大虚の魂…」
そんなことする必要なんて全く無いのに。
「顔、見たら、どんどん、悲しくなってって、どんどん、苦しく、なってって…、フゥ、それから、記憶が無いんだ。…ぼくはあの時、死んでて、おかしくなかった。フゥ…、だから、ぼくは、強くなんか、ない。…フゥ、褒めるな、…慰めるな。…、ぼくは、弱いんだッ、…フゥ、体も、心も。あんな失敗、するなんて」
頼むから、それ以上は言うなと誰もが思う。なのに。
「ぼくは、…、もう、フゥ、死神として、やっていけないよッ‼︎」
言ってしまった。聞きたくなかった言葉だった。
「木之本…」
1ヶ月前には思いもつかなかった姿が、そこにあった。こいつが帰ってきたら、また7人でバカ騒ぎするんだと楽しみにしていたのに。こんなことになるなんて。どうしたら、あの日に戻れるのか。
その時、こちらの席に近づいてくる者がいた。
「なつみちゃん、薬飲み」
「隊長」
市丸に気付くと、6人は立ち上がろうとした。
「構へん。そのまま座っとり」
「はい」
なつみのもとへ。
「目を離したらコレや…。なつみちゃん、言うこと聞き」
それでもなつみは辛そうにするだけで、動こうとしない。見かねた市丸は、なつみの椅子の背にかけられた巾着を取り、隣に座る尾田に渡した。
「その中の薬、1錠飲ませたって」
市丸はなつみのすぐ後ろの席に着いた。
「木之本、飲め」
尾田に差し出されても、取ろうとしない。フゥフゥと呼吸は荒いまま、涙を止めようと両目を押さえている。
「なつみちゃん、自分から死神辞められへんからって、自分で終わらそうとしたらアカン」震える小さな頭を撫でてあげながら語りかける。「アヤさんがこれ知ったら、どう思う?」
その名前を出されて、なつみの震えが一瞬止まる。そして大きく息を吸う音を立ててから、バシッと薬を受け取って、水といっしょに飲み込んだ。市丸のことを狡いと思いながら。
「良え子良え子」
少しずつ、少しずつ、呼吸が整っていく。
「どうして…ッ、ッ、フゥー、…フゥー」
落ち着いてくるが、姿勢は崩れ、お粥を載せたお盆を押しやりながら、前に伏せた。
「キミは気に食わんやろうけど、その体は生きたがってんねんから。優しくしたり」
ぽん…、ぽん…、と呼吸のテンポを教えるように、市丸はなつみの背中を静かに叩いてあげた。
すると、なつみの向かいに座る李空が、ようやく慰めてやる番が来たと思い、話し始める。
「確かに、お前は負けて帰ってきたんだから、強かねぇよ。だからって何だ。負けたから、弱いから、って死神辞めたいだ?ざけんなよ。弱えーなら、鍛えて強くなりゃ良いだけの話だろ」
伏した顔を上げさせて、李空はなつみの両ほっぺたをギュイー!っと引っ張った。
「いだだだだだだだだだーいッ‼︎‼︎」
「ちょ、李空!やりすぎだ!」
さすがの市丸もギョッとする中、周りの制止も無視して、摘んだ手を勢いつけてビンッと放してやった。
「いだーーーーーーいッ‼︎‼︎ぅわーーーーーーん‼︎‼︎(泣)」
ほっぺがちぎれたんじゃないかと思うくらい痛みでジンジンしているところを押さえながら、辛いのと痛いのとで思い切り泣き出してしまった。それでも構わず、李空のお説教は続く。
「ウジウジウジウジウジウジウジウジしやがって。見っともねぇ。いつものお前なら、何があっても次は絶対勝ってやるって言うだろ!お前は、どんなに辛くても諦めねぇヤツじゃねぇか!なのに何だよ、今のお前クソうぜぇぞ!」
さっきは引っ張った分、今度はむぎゅぅぅっ!とほっぺたを潰してやった。
「ふにゅにゅぅぅッ」
「前に俺言ったよな、『消えてなくなりてぇ』とか『俺たちから離れよう』とか思ったら、絶対許さねぇって。お前はそれで現実見てるつもりかよ。お前が勝手に無理だと思うから、生きたくないってか。冗談じゃねぇぞ」
なつみの顔を斜め上に乱暴に突き放す。
「ブフッ‼︎」
「お前を助けるために、どんだけの人数が必死で動いたと思ってんだ‼︎お前が襲われてるって教えてくれたあの人も、俺たちも、隊長も、副隊長も、みんなお前が死なねぇようにって、必死だったんだぞ‼︎周りの人たちとツキも味方にして、お前は生かされてんだよ‼︎それが現実だ‼︎そんな簡単に目ぇ逸らすんじゃねぇ。ダセェこと言うな‼︎生きて帰って来られたんだ。鍛え直して、ピーピー泣かねぇように、誰よりも強くなれ!…俺たちの想いに応えろよ、なァ‼︎木之本‼︎‼︎」
バンッと机を叩いて、今やなつみの方へ身を乗り出して立ち上がってる李空。
なつみはというと、涙も鼻水も垂らしてぐしょぐしょの顔で李空を見上げていた。ヒックヒックとすすりながらも、彼の言葉を全部受け止めて、脳内に反響させる。すると、何故だか段々メラメラフツフツと湧き上がる感情が込め上げてきた。
「…ムカ…ッ」
そうつぶやいた直後、寝巻きの袖、両方を使ってゴシゴシゴシゴシーッと顔を擦りあげると、全部を拭き取り、自分もバンッと立ち上がって、李空と顔を突き合わせた。
「うるっせぇーんだよ‼︎てめぇ、オレに説教垂れてくれてんじゃねーぞ、この野郎‼︎」
「あんだと、コラァ」
「お前にゴチャゴチャ言われるまでも無ェ‼︎強くなってやらァ‼︎‼︎もう二度と、誰にも、あんな思いさせねェ‼︎‼︎オレにできること全部やって、今度こそオレが、全部全部守ってやらァ‼︎‼︎文句あっか、バカヤローッ‼︎‼︎」
腹の底から叫んでいた。どん底から無理矢理引っ張り上げられたみたいに。でも、どこか嬉しくて。
「バカはてめぇだ、クソチビーッ‼︎‼︎」
「チビって呼ぶなー‼︎‼︎それに、オレをダサェと言うなーッ‼︎‼︎ちょームカつくーッ💢💢💢」
髪やら耳やらほっぺたやら引っ張り合う、至って真剣でかわいいケンカが始まった。
「イッテーなァ💢このヤロッ💢」
「ムキーッ💢」
「おい!その辺でやめとけって‼︎」
周りがあわあわと2人を止めようとしていると、食堂の入り口の方から黒く冷たい気配がじんわり漂ってきた。
「あら、賑やかですね…」
皆の動きが一斉に止まり、ギギギギギとぎこちなく首を回して、声の主のお顔を拝見。
「もう少し、静かにして頂けますか」
声色と口角は微笑んでいるのに、目が一個も笑っていない卯ノ花が、静かにこちらに歩みを進めてくる。
「あのッ、卯ノ花さん、ボクがちゃーんとこの子らのこと叱っとくんで、見逃してあげてくれませんか…?」
市丸が慌てて間に入るが、卯ノ花にポンと跳ね除けられた。
「他の方たちに迷惑ですから、騒音は控えていただきたいのですが…。幸い、今の時間は人が少ないようなので、今回は目を瞑りましょうか」なつみと李空をしっかり見つめて。「次は、ありませんよ」
こ、怖い…。
「「はい…。肝に銘じます。」」
「お願いしますね」
そーっと取っ組み合いの体勢から、なつみと李空は離れていき、2人はちょこんと着席。卯ノ花は満足そうにそれを見た。
「木之本さん」
「はいッ」
「検査結果が出ました。今後についてのお話をしましょうか」そう言うと、卯ノ花は6人に目を向ける。「すみませんが、席を移動していただけますか?」
「はい」
そそくさと仲間たちはその場を離れ、近くの席に移動した。
「市丸隊長は、木之本さんの隣にお座りください」
卯ノ花がなつみの正面に座ったので、なつみはお粥のお盆を隣の机によけた。
「脳と心臓と肺の機能を確認しました。どれも回復傾向にあり、大きな問題は無さそうです」
「良かった…」
「傷の具合も良好ですし、明日からでも業務に復帰していただいて大丈夫ですよ。ただ、先程のように肺に負担がかかると、すぐに苦しくなってしまうでしょうから、薬の携帯と、なるべく安静にすることを、この先1週間ほどお忘れなく」
「はい」
「経過観察のため、しばらくは過度の運動は控えてくださいね」
そう聞いて、なつみは市丸の顔を見上げた。
「帰ったら、イヅルと相談して、仕事の予定考えような」
「はい!」
卯ノ花の話が続く。
「それから、どうされますか。今夜もここに泊まられて、明日帰られますか?」
「えっ…、えっと」
「体調が安定していますし、すぐに帰られても結構ですよ」
「えっ、あ、あのっ、あのっ!」前のめりになって、疼いて、嬉々として体がぴょこぴょこする。「すぐッ‼︎すぐに帰りたいです!みんなと一緒に帰りたいですッ‼︎」
はやる気持ちが抑えられない。ようやく、いつもの彼女が戻ってきた。きらめく笑顔が帰ってきた。
「わかりました。そのように手配しましょう。支度が済み次第、お帰りください」
「はい!ありがとうございます。お世話になりました」
「ほんま、ありがとうございました」
なつみと市丸は卯ノ花に頭を深く下げて、感謝を伝えた。今や穏やかな笑顔を湛える卯ノ花が答える。
「礼には及びませんよ。これが私の仕事ですから」
顔を上げた2人に、もう一言だけ残して席を立った。人差し指を口元に当てて。
「お帰りの際は、くれぐれもお静かに」
三番隊の皆さんお揃いでお返事。
「はい…💦」
お粥を平げ、着替えも済ませ、薬ももらって、すっかり夕暮れ時になった屋外へ、なつみは駆け出していった。市丸と仲間たちが待っているところへ。
「お待たせしました!」
「なつみちゃん、走ったらあかんやろ」
「だって…」
「だってじゃねぇ。まだ本調子じゃねーんだから、無理すんな」
「むぅー」
膨れっ面で唸ると同時に、なんとお腹の虫も鳴き出した。
「うぅっ///」
「お前、さっきお粥食べたろ?」
「たっ、足りなかったんだよ、あれじゃ!何食抜いたかも覚えてないんだぞ!」
「元気になった証拠やな〜(笑)」
「笑わないでくださいよぉ!くすぐったいですぅ!」
市丸が鳴いたお腹をこちょこちょしたのだ。
「あ!みんなでたい焼きでも食べへん?ボクもお腹空いてもうた。あそこにお店出てるで」
道の向こう、移動販売でやって来ていたたい焼き屋が、ちょうど営業していた。
「食べたーい!✨」
ぴょんぴょん跳びはねるなつみ。
「うん!俺も食べたい!」
「ほな行こか〜。ボクがご馳走したげるわ」
「マジッすか⁉︎」
「ええよー。なつみちゃんが帰って来られて、ボク、気分めっちゃええから。みんなで仲良ぉ食べよな」
「「「「「「「ありがとうございます‼︎」」」」」」」
赤く染まった空に、8匹のたい焼きをかざす。乾杯の音頭は、無茶振り受け担当の尾田先生にお願い。
「えー、木之本の帰還を祝しまして、皆さんご唱和ください。…『めでたい‼︎』(照)」
「めでたい!(笑)」
全員が全員、「くそダセェ」と思いつつも、やっぱたい焼き持ってるからコレでしょということで、「くっだらねー」と大笑いしながらみんなでノッた。
「アホや(笑)」
「あははははッ🤣」
「ちょーウケる」
「うーまい!」
ぱくぱく食べながら、三番隊隊舎へと歩いていく。
「なぁ、なつみちゃん、一口ちょうだい」
「どうじょ」
もぐもぐしながら市丸に差し出した。
「んー、イケるなぁ」
「でしょ!」
2人の謎のやり取り。
「何で木之本の食べたんですか?」
「ん?この子のだけカスタードやねん」
「ふふ〜ん😋」
「はぁ⁉︎たい焼きっつったら、あんこだろうが。邪道か、てめぇ」
「何だと⁉︎いいもん、李空にはあげないんだから😤」
「えー、良いなぁ。俺にも一口ちょうだい♪」
「良いよ。クーちゃんにはあげる」
「ありがとう。俺のも食べて良いよ」
「ありがとう!ん〜、確かにあんこもおいしいな」
「カスタードうまっ‼︎」
「マジ?ちょい、気になる。俺にもちょうだい」
「じゃあ俺も!」
「ちょっと待ってよ!そんなに食べたら、無くなっちゃうじゃん!」
「俺らの一口ずつ食べれば良いだろ」
「はい、お食べ」
「違うじゃん‼︎ぼくはカスタードが食べたくて頼んだの‼︎あんこじゃないの‼︎だっ…、食べんなっつの‼︎」
返せ返せと手を伸ばしても届かない。
「木之本ー、激しい運動はお控えくださーい」
「るっせーな、李空💢」
「過度なストレスにもご注意くださーい」
「ムキーッ💢💢💢」
「こぉら、みんな仲良ぅしてやー。意地悪しないの」
(((((((あんたに言われたくない……)))))))
食べ終わると、もっと早く帰りたくなって、こんな提案が持ち出される。
「走って帰ろうぜ。歩いてたら暗くなっちまう」
「よーし!ダッシュだぁ‼︎」
やる気満々のなつみだったが、市丸に止められる。
「みんなはええけど、キミはあかん」
「えー、早く帰りたいですぅ」
「うん。せやからな」
「あ!わかった」
斬魄刀に手をかける。
「ちゃう。それもアカン」
「じゃあ、どうするんですかぁ」
「こうするんやッ」
「あわっ」
また、なつみはいつぞやと同じように、市丸にお姫様抱っこされた。
「大丈夫ですか?隊長。重くないんですか?」
「重ないよ。何回もこうしてるから、慣れてしもたわ。変わってあげられんくて、ごめんな、李空」
「…⁉︎そ、そんなつもりじゃ///」
「(クスッ)なぁ、隊舎までみんなで競走しようや」
その言葉に燃える野郎共。
「おっしゃー!負けねぇぞ!」
「隊長にはハンデがあるから、まぁ、俺が1番速いかな〜」
各自、あちこちをストレッチする。
「なつみちゃん、しっかり掴まっとき」
なつみは慌てて市丸の首に腕を回した。男たちはワクワクした面持ちで、スタートダッシュに身構える。
「位置について〜」
ジャリッ。
「よーい」
グググッ。
「ドンッ‼︎」
ザンッと音を立てて、7人は一斉に走り出した。瞬歩の速度で景色が流れていく。その中で笑い合い、楽しい時に包まれる幸せを噛み締めていた。
「戻ってきてくれて、ありがとう」
「助けてくれて、ありがとう」
その時の空は、本当に美しい色に染まっていた。惜しいことに、彼らにはよく見えていなかったのだが。彼女の好きな世界が、目一杯に広がっていた。