第二章
夢小説設定
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朝になった。とはいえ、始業時間から1時間経過している。
「おはよー、七緒ちゃん😚」
「おはようございます、京楽隊長。今日も遅刻ですね」
「ごめーん。寝坊しちゃってさ」
頭をぽりぽり掻きながら、ニンマリ笑って隊首室に入り、席に着く。そして本日の業務の確認をするフリをする。
「そんなに怒らないでよ〜。明日はね、ちゃんと早起きするから。何たって、ボクのかわいいなつみちゃんが帰ってくる日だもんね❤️」
呆れた顔でため息をひとつついて、机の前に立つ七緒。
「その木之本さんのことで、市丸隊長から連絡がありましたよ」
「え、何て?」
すっと息を吸い、それから伝言を話し始める。
「昨夜、木之本さんが綜合救護詰所に搬送されたそうです」
一瞬、自分の耳を疑った。
「…嘘。何で。そんな酷い怪我をしたのかい」
動揺を隠せない京楽。
「いいえ。中級大虚に襲撃されたそうですが、市丸隊長が彼女の応援に駆けつけられたので、大した怪我はせずに済んだそうです」
「なんだ、良かった…」
胸を撫で下ろす。
「ただ…」
安心はできなかった。
「『ただ』?」
「精神的に大きなショックを受けてしまったらしく、脳、心臓、肺の機能が低下。意識が無いそうです」
あまりのことに思考が停止し、言葉が出てこなかった。
市丸は行き先こそ教えてくれなかったが、安全な地区であるから、安心して欲しいと話していた。そのため、いつもの元気な笑顔で、自信満々になつみが帰ってくるのを当たり前のことだと思い込んでいた。間違っていた。不覚にも、この世界では万が一が起こり得るということを、すっかり忘れていたようだ。
「お見舞いに行かれますよね」
そう言ってくれた七緒の顔を見上げる。
「良いのかい」
「はい。気になって、仕事が手につかないでしょうから」
京楽は立ち上がって、七緒の隣りに行き、彼女の肩に手を置いた。
「ごめん、ありがとう」
「大丈夫です。想定内ですから」
眼鏡をくっと上げて答えた七緒に、感謝の気持ちを込めて笑顔を見せた。
「行ってくるよ」
急ぎ、四番隊へと向かった。
なつみの病室を教えてもらい、扉の前に着くとノックをした。
「どうぞ」
市丸の声だった。
「入るよ」
扉を開けると、疲れた様子の市丸の微笑みがまず目に入り、次にベッドで寝ているなつみを確認した。
「市丸隊長、連絡ありがとう。大変だったね」
部屋の隅に置いてあった椅子を持ってきて、市丸の椅子の隣、なつみの頭側にそれを置いた。
「お寝坊さん、したでしょ」
「あぁ、馬鹿なことをしたよ。キミは逆に、寝てないんだろうね」
「はい…。仕事の振り分けやら、手配やらでてんやわんやでした。なつみちゃんがいつ起きるかもわからんから、なるべくここにおってあげてますけど、全く起きる気配無くて」
浅く寝息をたてるなつみの頬に優しく触れてみる。
「なつみちゃん、朝だよ。早く起きないと、チューしちゃうよぉ」
大好きな京楽の言葉にも反応せず、なつみは深く眠り続ける。
「ホンマにしてやってくださいよ」
弱々しくそう言った市丸の方に少し体を向けて、事情を聞く。
「容態、そんなに悪いの。何があったの」
一呼吸して、質問に答える。
「卯ノ花さんが言うには、外傷はそんな酷くなくて、すぐに治せたんですけど、精神が参ってしもてる状態らしくて。あの時アイツに何されたか知らんけど、ボクが駆けつけて抱えてあげたら、自我がどっか行ってまったようにわんわん泣き出したんです。ここに着いて、診察台に乗ってもその調子で。精神安定剤使たり、睡眠薬使たりしてなんとか落ち着いたんやけど、そっからずっと眠りっぱなし。泣きすぎで、うまく呼吸ができんくて、心臓と肺をちょっと悪くしてもうてて。安静にしてれば、それも回復するらしいけど、脳波が弱ってるんが一番の問題や言うてた。目を覚ますかどうかは本人の意志次第や、って。そんな曖昧なこと言われても、ボク困るわ……」
少しうな垂れる市丸。
「そうだったんだ」
京楽は彼の背中をさすってやった。
「頭撫でたっても、ほっぺぷにぷにしたっても、全然反応してくれへん。せっかく京楽さん来てくれたのにアカンし。起きるつもりないんかなぁって、思えてきますよ」
腕組みをして、市丸に向けていた視線を移し、なつみの寝顔を眺める。
「ふーん…、でもちょっと、悪く考えすぎてないかい?なつみちゃん、ただ疲れてよく寝てるだけってことは無いの?これで二日三日起きなかったら、それは問題だけど。まだ半日くらいじゃない。心配しすぎだって。もう少ししたら、『お腹空いたー!』って言って起きるんじゃないの?」
「ね〜、なつみちゃーん」と言いながら、布団の下にあるなつみの左手を取り出して、両手で握ってあげた。確かに、反応は無く、普段陽だまりのように暖かい彼女の手が、今は冷たい。自分の体温と想いを伝えるように、京楽はなつみの手を包んでいた。
「まぁ、いつものかわいい照れ屋さんな顔が見れないのは、さみしいか」
「起きたかて、元通りとは限らんから…」
「心の問題ね…。そこはボクたちで支えてあげようよ。若い頃に受ける傷は、成長に不可欠だ。キミだって経験あるだろ?この子には試練だったかもしれないけど、これからのために必要な」
そこで言葉は遮られた。市丸の癇に障ったらしい。
「どうして、そないに楽観できんの‼︎‼︎ なつみちゃんがどんだけ苦しんでたか、どんな傷を受けたか知らんのに、どうして簡単に大丈夫なんて言えんねん‼︎」その細く長い指で顔を覆った。「もっと早よ駆けつけれたら、こんなことにならんかったのに…」
京楽はもちろん、市丸自身も驚いていた。こんなにもなつみのこととなると、取り乱してしまうなんて。ただ、京楽にはわからず、市丸にだけわかっていることがあり、その差がこの温度差を生んでいるのも承知していた。
「すいません、大きな声出してもうて」
「いや、良いよ。ボクこそごめん。無責任に適当なこと言ったね」
わかっている。あれ以上早くあの場に行けることは無かった。なつみが生きて尸魂界に帰ってこられたのだから、それで良かったと思わなければいけない。過ぎたことを後悔したって、どうにもならないから。
その時、窓の外から地獄蝶がひらひらと飛んできた。
「もうかい?」
「来させてくれただけでも、感謝せな」
京楽の元へ来ると、音声が聞こえてきた。
「京楽隊長、一目顔を見られたでしょうから、充分でしょう。そろそろお戻りください」
「もー、優しいんだか、厳しいんだか。わかったよ。ボクにできることは無さそうだからね。帰るとするよ」
京楽は椅子から立ち上がり、眠るなつみの頭を撫でてから、額にキスをしてあげた。
「なつみちゃん、みんな心配してるから、早く目を覚ましてあげてね」
それから市丸の横を通り過ぎ。
「キミも少し寝た方が良いよ。もしかしたら、なつみちゃんが逆に起こしてくれるかも。…なんてね」
扉を開ける。
「そんなわけないでしょ」
「でも、無理は禁物。隊長なんだから、キミまでダウンするわけにいかないよ?」
「ご心配いただきありがとうございます」
全く、なつみちゃんのことになると一生懸命になりすぎだよ、と思った。
「彼女が起きたら、また連絡くれるかい?」
「もちろんです」
「待ってるよ。じゃあね」
「はい」
京楽が退室後、また静寂が病室を支配していった。
「なつみちゃん、元気ななつみちゃんに戻ってくれるん?辛いのが嫌やったら、このままでもええよ。この方が、ボク、守ってあげられそうやもん。……、おもんないけど、ね」
予想にすぎないが、市丸には真相がほぼ見えていた。恐らく、中級大虚は意図的になつみのところへ送られた。彼女を襲わせるために。これまでメノスが出現したとの情報が無かったエリアで、突然現れたのだから、何らかの理由があるはず。どうせ問い詰めたところで、全てを「偶然」の一言で片付けてしまう気だろうあの男によって仕組まれた出来事に違いないのだ。
「藍染」
ことごとく、市丸の大切な人を傷つけるあの男こそ、今回の首謀者に決まっている。
「なつみちゃんは絶対に最後まで守り切ったるって決めてたんにな。ボクはまた失敗してもうた。ダメな隊長や。泣かせてしもた」
市丸の予想はこうだった。なつみの斬魄刀、夢現天子の能力を垣間見た藍染は、少しばかり彼女に興味を持ち始めていた。市丸にきいても、「まだ修得したばかりで、使いこなせてないので、説明できないんですよね」と言われるだけだったため、自ら確かめることにしたのだろう。なるべく自然に見えるように、試練を用意してあげた。なんなら、あの交通事故すら藍染が引き起こしたものかもしれない。うまく事を運んだ彼は、夢現天子の真の能力を観察したことだろう。そしてどう思ったか、そこまでは見当もつかないが、そのうち何か動きを見せるはずだ。
何が許せないかというと、あの一件でなつみが死のうと、どうでもいいと考えていたということだ。藍染とはそういう男だ。他者を自分の駒としか思っていない。市丸の大事ななつみも、そのひとつとしか見られていない。使えるか使えないか、それだけだ。使えないのなら、心が壊れようと、死んでしまおうと、知ったことではない。彼にとって存在価値が無いのだから。
「あの人に何見せてしもたん?」
市丸はなつみの髪をとかすように撫でた。
「ねぇ、なつみちゃん……」
ここ2日の騒めきが嘘のように、穏やかな時間が流れていた。鳥のさえずり、風に揺れるカーテン、窓から差すお日様の光、なつみがいてくれること。当たり前が特別で、特別が当たり前。この子が殺されそうなのを見た時、正直、生きた心地がしなかった。
「ごめんな…」
「たいちょう…?いちまるたいちょう…」
「おはよー、七緒ちゃん😚」
「おはようございます、京楽隊長。今日も遅刻ですね」
「ごめーん。寝坊しちゃってさ」
頭をぽりぽり掻きながら、ニンマリ笑って隊首室に入り、席に着く。そして本日の業務の確認をするフリをする。
「そんなに怒らないでよ〜。明日はね、ちゃんと早起きするから。何たって、ボクのかわいいなつみちゃんが帰ってくる日だもんね❤️」
呆れた顔でため息をひとつついて、机の前に立つ七緒。
「その木之本さんのことで、市丸隊長から連絡がありましたよ」
「え、何て?」
すっと息を吸い、それから伝言を話し始める。
「昨夜、木之本さんが綜合救護詰所に搬送されたそうです」
一瞬、自分の耳を疑った。
「…嘘。何で。そんな酷い怪我をしたのかい」
動揺を隠せない京楽。
「いいえ。中級大虚に襲撃されたそうですが、市丸隊長が彼女の応援に駆けつけられたので、大した怪我はせずに済んだそうです」
「なんだ、良かった…」
胸を撫で下ろす。
「ただ…」
安心はできなかった。
「『ただ』?」
「精神的に大きなショックを受けてしまったらしく、脳、心臓、肺の機能が低下。意識が無いそうです」
あまりのことに思考が停止し、言葉が出てこなかった。
市丸は行き先こそ教えてくれなかったが、安全な地区であるから、安心して欲しいと話していた。そのため、いつもの元気な笑顔で、自信満々になつみが帰ってくるのを当たり前のことだと思い込んでいた。間違っていた。不覚にも、この世界では万が一が起こり得るということを、すっかり忘れていたようだ。
「お見舞いに行かれますよね」
そう言ってくれた七緒の顔を見上げる。
「良いのかい」
「はい。気になって、仕事が手につかないでしょうから」
京楽は立ち上がって、七緒の隣りに行き、彼女の肩に手を置いた。
「ごめん、ありがとう」
「大丈夫です。想定内ですから」
眼鏡をくっと上げて答えた七緒に、感謝の気持ちを込めて笑顔を見せた。
「行ってくるよ」
急ぎ、四番隊へと向かった。
なつみの病室を教えてもらい、扉の前に着くとノックをした。
「どうぞ」
市丸の声だった。
「入るよ」
扉を開けると、疲れた様子の市丸の微笑みがまず目に入り、次にベッドで寝ているなつみを確認した。
「市丸隊長、連絡ありがとう。大変だったね」
部屋の隅に置いてあった椅子を持ってきて、市丸の椅子の隣、なつみの頭側にそれを置いた。
「お寝坊さん、したでしょ」
「あぁ、馬鹿なことをしたよ。キミは逆に、寝てないんだろうね」
「はい…。仕事の振り分けやら、手配やらでてんやわんやでした。なつみちゃんがいつ起きるかもわからんから、なるべくここにおってあげてますけど、全く起きる気配無くて」
浅く寝息をたてるなつみの頬に優しく触れてみる。
「なつみちゃん、朝だよ。早く起きないと、チューしちゃうよぉ」
大好きな京楽の言葉にも反応せず、なつみは深く眠り続ける。
「ホンマにしてやってくださいよ」
弱々しくそう言った市丸の方に少し体を向けて、事情を聞く。
「容態、そんなに悪いの。何があったの」
一呼吸して、質問に答える。
「卯ノ花さんが言うには、外傷はそんな酷くなくて、すぐに治せたんですけど、精神が参ってしもてる状態らしくて。あの時アイツに何されたか知らんけど、ボクが駆けつけて抱えてあげたら、自我がどっか行ってまったようにわんわん泣き出したんです。ここに着いて、診察台に乗ってもその調子で。精神安定剤使たり、睡眠薬使たりしてなんとか落ち着いたんやけど、そっからずっと眠りっぱなし。泣きすぎで、うまく呼吸ができんくて、心臓と肺をちょっと悪くしてもうてて。安静にしてれば、それも回復するらしいけど、脳波が弱ってるんが一番の問題や言うてた。目を覚ますかどうかは本人の意志次第や、って。そんな曖昧なこと言われても、ボク困るわ……」
少しうな垂れる市丸。
「そうだったんだ」
京楽は彼の背中をさすってやった。
「頭撫でたっても、ほっぺぷにぷにしたっても、全然反応してくれへん。せっかく京楽さん来てくれたのにアカンし。起きるつもりないんかなぁって、思えてきますよ」
腕組みをして、市丸に向けていた視線を移し、なつみの寝顔を眺める。
「ふーん…、でもちょっと、悪く考えすぎてないかい?なつみちゃん、ただ疲れてよく寝てるだけってことは無いの?これで二日三日起きなかったら、それは問題だけど。まだ半日くらいじゃない。心配しすぎだって。もう少ししたら、『お腹空いたー!』って言って起きるんじゃないの?」
「ね〜、なつみちゃーん」と言いながら、布団の下にあるなつみの左手を取り出して、両手で握ってあげた。確かに、反応は無く、普段陽だまりのように暖かい彼女の手が、今は冷たい。自分の体温と想いを伝えるように、京楽はなつみの手を包んでいた。
「まぁ、いつものかわいい照れ屋さんな顔が見れないのは、さみしいか」
「起きたかて、元通りとは限らんから…」
「心の問題ね…。そこはボクたちで支えてあげようよ。若い頃に受ける傷は、成長に不可欠だ。キミだって経験あるだろ?この子には試練だったかもしれないけど、これからのために必要な」
そこで言葉は遮られた。市丸の癇に障ったらしい。
「どうして、そないに楽観できんの‼︎‼︎ なつみちゃんがどんだけ苦しんでたか、どんな傷を受けたか知らんのに、どうして簡単に大丈夫なんて言えんねん‼︎」その細く長い指で顔を覆った。「もっと早よ駆けつけれたら、こんなことにならんかったのに…」
京楽はもちろん、市丸自身も驚いていた。こんなにもなつみのこととなると、取り乱してしまうなんて。ただ、京楽にはわからず、市丸にだけわかっていることがあり、その差がこの温度差を生んでいるのも承知していた。
「すいません、大きな声出してもうて」
「いや、良いよ。ボクこそごめん。無責任に適当なこと言ったね」
わかっている。あれ以上早くあの場に行けることは無かった。なつみが生きて尸魂界に帰ってこられたのだから、それで良かったと思わなければいけない。過ぎたことを後悔したって、どうにもならないから。
その時、窓の外から地獄蝶がひらひらと飛んできた。
「もうかい?」
「来させてくれただけでも、感謝せな」
京楽の元へ来ると、音声が聞こえてきた。
「京楽隊長、一目顔を見られたでしょうから、充分でしょう。そろそろお戻りください」
「もー、優しいんだか、厳しいんだか。わかったよ。ボクにできることは無さそうだからね。帰るとするよ」
京楽は椅子から立ち上がり、眠るなつみの頭を撫でてから、額にキスをしてあげた。
「なつみちゃん、みんな心配してるから、早く目を覚ましてあげてね」
それから市丸の横を通り過ぎ。
「キミも少し寝た方が良いよ。もしかしたら、なつみちゃんが逆に起こしてくれるかも。…なんてね」
扉を開ける。
「そんなわけないでしょ」
「でも、無理は禁物。隊長なんだから、キミまでダウンするわけにいかないよ?」
「ご心配いただきありがとうございます」
全く、なつみちゃんのことになると一生懸命になりすぎだよ、と思った。
「彼女が起きたら、また連絡くれるかい?」
「もちろんです」
「待ってるよ。じゃあね」
「はい」
京楽が退室後、また静寂が病室を支配していった。
「なつみちゃん、元気ななつみちゃんに戻ってくれるん?辛いのが嫌やったら、このままでもええよ。この方が、ボク、守ってあげられそうやもん。……、おもんないけど、ね」
予想にすぎないが、市丸には真相がほぼ見えていた。恐らく、中級大虚は意図的になつみのところへ送られた。彼女を襲わせるために。これまでメノスが出現したとの情報が無かったエリアで、突然現れたのだから、何らかの理由があるはず。どうせ問い詰めたところで、全てを「偶然」の一言で片付けてしまう気だろうあの男によって仕組まれた出来事に違いないのだ。
「藍染」
ことごとく、市丸の大切な人を傷つけるあの男こそ、今回の首謀者に決まっている。
「なつみちゃんは絶対に最後まで守り切ったるって決めてたんにな。ボクはまた失敗してもうた。ダメな隊長や。泣かせてしもた」
市丸の予想はこうだった。なつみの斬魄刀、夢現天子の能力を垣間見た藍染は、少しばかり彼女に興味を持ち始めていた。市丸にきいても、「まだ修得したばかりで、使いこなせてないので、説明できないんですよね」と言われるだけだったため、自ら確かめることにしたのだろう。なるべく自然に見えるように、試練を用意してあげた。なんなら、あの交通事故すら藍染が引き起こしたものかもしれない。うまく事を運んだ彼は、夢現天子の真の能力を観察したことだろう。そしてどう思ったか、そこまでは見当もつかないが、そのうち何か動きを見せるはずだ。
何が許せないかというと、あの一件でなつみが死のうと、どうでもいいと考えていたということだ。藍染とはそういう男だ。他者を自分の駒としか思っていない。市丸の大事ななつみも、そのひとつとしか見られていない。使えるか使えないか、それだけだ。使えないのなら、心が壊れようと、死んでしまおうと、知ったことではない。彼にとって存在価値が無いのだから。
「あの人に何見せてしもたん?」
市丸はなつみの髪をとかすように撫でた。
「ねぇ、なつみちゃん……」
ここ2日の騒めきが嘘のように、穏やかな時間が流れていた。鳥のさえずり、風に揺れるカーテン、窓から差すお日様の光、なつみがいてくれること。当たり前が特別で、特別が当たり前。この子が殺されそうなのを見た時、正直、生きた心地がしなかった。
「ごめんな…」
「たいちょう…?いちまるたいちょう…」