第二章
夢小説設定
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霞む視界の中に見えた物体は、巨大なバケモノ。
「嘘だろ…、アジューカスかよ」
よろよろとなんとか立ち上がり、斬魄刀を握りなおす。
「クソッ、痛ぇ」
強く体を打ちつけたため、あちこちが痛む。中級大虚は、なつみが先ほどまで立っていた場所に止まっている。ありがたいことに距離はそこそこあったため、急いで物陰に移動し、応急処置を施すことができた。
「ふぅ…」
戦うモードに気持ちを切り替え、敵に向かおうと道に戻った。しかし。
「あれ」
中級大虚の姿が消えていた。おかしい、さっきもそうだが、霊圧も何も感じなかった。辺りを探していると、なつみの周りを照らしていた月明かりに影が。
「ヤバッ‼︎」
真上に巨体があり、急降下してくる。ドシーン‼︎‼︎間一髪で避けられたが、塀や路面はバキバキ。
「こんなとこじゃ、危ねぇな」
確かに恐怖心はあったが、助けがすぐには来ないとわかっているため、腹を括ってひとりで応戦する方法を考える。敵はなつみを探している様子。
「従え、夢現天子。移動するぞ」
中級大虚がなつみの霊圧に反応するも、その体は彼女に支配されていた。
「よし、捕らえた。そのまま言うこと聞けよ。河川敷なら安全だろうか。いや、そこしか思い付かねぇな」
ゆっくり着実に、なつみは能力を使って中級大虚を浮かせ、自分も飛び立ち、虚に先行させて、人がいないであろう夜の河川敷へ向かっていった。
中級大虚は夢現天子の力に抗っており、暴れはしたが、なんとか広い河川敷までたどり着いた。
「ウォラッ‼︎‼︎」
一撃喰らわそうと、斬魄刀を力いっぱい振り、意識で繋がっている中級大虚を地面に叩きつけてやった。
「グァッ」
なつみが来たのは、河川敷にあるサッカーグラウンド。思った通り、人は全くいなかった。これで被害は、いくらか抑えられるだろう。
相手はまだ動けない。まだ能力を切らさない。
「叩っ斬ってやらァ!トリャーッ!」
斬ることに集中すると、敵の動きを封じる意識が止まるわけで。
「うわッ」
敵の攻撃が始まる。それでも焦らず、なつみは振り落とされる拳の数々をかわしながら、次の手をひらめく。
「雷鳴の馬車、糸車の間隙、光もて此を六に別つ。縛道の六十一、六杖光牢!」
うまく決まり、敵の動きを封じる。その間に、霊圧を上げて跳びかかり、全力で頭上から斬魄刀を振り下ろす。
「いくぜー‼︎ゥラアッ‼︎」
刃先が皮膚に刺さるのを感じた。だが、その数センチ先から全く進んでいかない。ただ当たった衝撃が自分に跳ね返ってきただけで、ダメージを与えられなかった。
「硬すぎる」
急いでその場から離れる。
「ダメだ。体力を使いすぎた。どうする…、できることが見つからねぇ」
中級大虚は鬼道を破り、なつみの位置を確認。
「俺が一体何をした」
それは虚から聞こえてくる声だった。
「こんな仕打ちを受ける覚えは無い」
虚に心は無いと聞く。彼らの言葉に、まともに耳を傾けてはいけない。そう教えられてきた。同情をして、刃に迷いが生じれば、こちらが殺されてしまう。斬魄刀で斬れれば、彼らの魂は浄化されるのだから、死神は正しいことをしている。自分は間違っていない。心の無い言葉を聞いてはいけない。聞いてはいけない。聞いてはいけない。いけない。だが…、あまりにも溢れてくる苦しみが強すぎた。
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!全てが憎い‼︎何故俺がーッ‼︎‼︎」
嫌な予感がした。なつみ自身も何故こうなったのか、気になっていた。知りたくなってしまった。そして望んでしまった、この虚の正体が何なのか見てみたいと、……夢現天子を解放したままで。
「ア゛ーーーーーーーーーーーーーッ‼︎‼︎」
脳裏に肖像の数々が次々に飛び込んできて、耐えきれずに絶叫してしまった。そんな訳はないと思っていたが、やはり中心にいたのは、あの事故の加害者。それを取り巻くのは彼の家族全員。そのさらに周りを、虚として取り込まれた幾多の顔が埋め尽くしていた。圧倒され、なつみはガクンと膝から崩れると、その場に座り込んでしまった。
「ぼくのせいだ……」
涙がすっと、一滴頬を伝って落ちた。
「あの時…、あの時…、あの時…」
あの時早く駆けつけていればをどんどん遡って後悔していく。どうしたって追いつかないというのに。
先程までの殺意をなつみから感じ取れなくなり、様子を伺うようにゆっくりと距離を詰めてくる中級大虚。初めの一滴が地面に着くと、それを皮切りになつみの心で大雨が降り出していた。揺らぐ声で、小さななつみは大きな虚に話しかけた。
「ごめんなさい…。ぼくが全部悪いんです…。あなたは悪くない。ぼくが、…ッ、ぼくが悪いんですッ」
押し寄せる虚の悲しみに当てられ、理性など流されてしまい、なつみは頭を下げて謝っていた。涙はどんどん溢れてくる。その逆に、力はどんどん抜けていき、かろうじて斬魄刀を握っているだけだった。
中級大虚はなつみを両手で握り、持ち上げた。月の明かりによく照らされるように、高く高く上げていく。
「ごめんなさい」
取り返しのつかない過去たち、悲しみ、痛み、思いやりをいくつも共有して、ふたつがひとつに溶けていく。
「「こんな世界、消えてしまえばいいのに」」
風が巻き上がるのを感じた直後だった。
「射殺せ、神鎗」
ふたりの想いは途切れた。
砂塵のように消えていく中級大虚の向こう側、満月の光の中に影を見た。
「隊長…」
市丸が、落ちていくなつみを瞬時に抱き止めてやる。
「間に合うた。なつみちゃん、もう大丈夫や」
着地すると、握られている斬魄刀をしまってやり、涙を拭った。
「よう頑張ったな。泣かんでええよ。さ、一緒に帰ろう」
安心と悔しさが同時に込み上げてきて、なつみは市丸の腕の中で、大声で号泣し始めた。目の前で心が壊れていくのを止めようと、市丸は強く抱きしめる。
「何でやッ……」
穿界門を開き、なつみを抱えて尸魂界へ急ぎ帰る市丸。
「絶対に許さん」
えぐられた地面を右手でなぞる男がひとり。
「手にした宝は、しっかり隠さなければいけないよ、ギン…」
「嘘だろ…、アジューカスかよ」
よろよろとなんとか立ち上がり、斬魄刀を握りなおす。
「クソッ、痛ぇ」
強く体を打ちつけたため、あちこちが痛む。中級大虚は、なつみが先ほどまで立っていた場所に止まっている。ありがたいことに距離はそこそこあったため、急いで物陰に移動し、応急処置を施すことができた。
「ふぅ…」
戦うモードに気持ちを切り替え、敵に向かおうと道に戻った。しかし。
「あれ」
中級大虚の姿が消えていた。おかしい、さっきもそうだが、霊圧も何も感じなかった。辺りを探していると、なつみの周りを照らしていた月明かりに影が。
「ヤバッ‼︎」
真上に巨体があり、急降下してくる。ドシーン‼︎‼︎間一髪で避けられたが、塀や路面はバキバキ。
「こんなとこじゃ、危ねぇな」
確かに恐怖心はあったが、助けがすぐには来ないとわかっているため、腹を括ってひとりで応戦する方法を考える。敵はなつみを探している様子。
「従え、夢現天子。移動するぞ」
中級大虚がなつみの霊圧に反応するも、その体は彼女に支配されていた。
「よし、捕らえた。そのまま言うこと聞けよ。河川敷なら安全だろうか。いや、そこしか思い付かねぇな」
ゆっくり着実に、なつみは能力を使って中級大虚を浮かせ、自分も飛び立ち、虚に先行させて、人がいないであろう夜の河川敷へ向かっていった。
中級大虚は夢現天子の力に抗っており、暴れはしたが、なんとか広い河川敷までたどり着いた。
「ウォラッ‼︎‼︎」
一撃喰らわそうと、斬魄刀を力いっぱい振り、意識で繋がっている中級大虚を地面に叩きつけてやった。
「グァッ」
なつみが来たのは、河川敷にあるサッカーグラウンド。思った通り、人は全くいなかった。これで被害は、いくらか抑えられるだろう。
相手はまだ動けない。まだ能力を切らさない。
「叩っ斬ってやらァ!トリャーッ!」
斬ることに集中すると、敵の動きを封じる意識が止まるわけで。
「うわッ」
敵の攻撃が始まる。それでも焦らず、なつみは振り落とされる拳の数々をかわしながら、次の手をひらめく。
「雷鳴の馬車、糸車の間隙、光もて此を六に別つ。縛道の六十一、六杖光牢!」
うまく決まり、敵の動きを封じる。その間に、霊圧を上げて跳びかかり、全力で頭上から斬魄刀を振り下ろす。
「いくぜー‼︎ゥラアッ‼︎」
刃先が皮膚に刺さるのを感じた。だが、その数センチ先から全く進んでいかない。ただ当たった衝撃が自分に跳ね返ってきただけで、ダメージを与えられなかった。
「硬すぎる」
急いでその場から離れる。
「ダメだ。体力を使いすぎた。どうする…、できることが見つからねぇ」
中級大虚は鬼道を破り、なつみの位置を確認。
「俺が一体何をした」
それは虚から聞こえてくる声だった。
「こんな仕打ちを受ける覚えは無い」
虚に心は無いと聞く。彼らの言葉に、まともに耳を傾けてはいけない。そう教えられてきた。同情をして、刃に迷いが生じれば、こちらが殺されてしまう。斬魄刀で斬れれば、彼らの魂は浄化されるのだから、死神は正しいことをしている。自分は間違っていない。心の無い言葉を聞いてはいけない。聞いてはいけない。聞いてはいけない。いけない。だが…、あまりにも溢れてくる苦しみが強すぎた。
「憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い!全てが憎い‼︎何故俺がーッ‼︎‼︎」
嫌な予感がした。なつみ自身も何故こうなったのか、気になっていた。知りたくなってしまった。そして望んでしまった、この虚の正体が何なのか見てみたいと、……夢現天子を解放したままで。
「ア゛ーーーーーーーーーーーーーッ‼︎‼︎」
脳裏に肖像の数々が次々に飛び込んできて、耐えきれずに絶叫してしまった。そんな訳はないと思っていたが、やはり中心にいたのは、あの事故の加害者。それを取り巻くのは彼の家族全員。そのさらに周りを、虚として取り込まれた幾多の顔が埋め尽くしていた。圧倒され、なつみはガクンと膝から崩れると、その場に座り込んでしまった。
「ぼくのせいだ……」
涙がすっと、一滴頬を伝って落ちた。
「あの時…、あの時…、あの時…」
あの時早く駆けつけていればをどんどん遡って後悔していく。どうしたって追いつかないというのに。
先程までの殺意をなつみから感じ取れなくなり、様子を伺うようにゆっくりと距離を詰めてくる中級大虚。初めの一滴が地面に着くと、それを皮切りになつみの心で大雨が降り出していた。揺らぐ声で、小さななつみは大きな虚に話しかけた。
「ごめんなさい…。ぼくが全部悪いんです…。あなたは悪くない。ぼくが、…ッ、ぼくが悪いんですッ」
押し寄せる虚の悲しみに当てられ、理性など流されてしまい、なつみは頭を下げて謝っていた。涙はどんどん溢れてくる。その逆に、力はどんどん抜けていき、かろうじて斬魄刀を握っているだけだった。
中級大虚はなつみを両手で握り、持ち上げた。月の明かりによく照らされるように、高く高く上げていく。
「ごめんなさい」
取り返しのつかない過去たち、悲しみ、痛み、思いやりをいくつも共有して、ふたつがひとつに溶けていく。
「「こんな世界、消えてしまえばいいのに」」
風が巻き上がるのを感じた直後だった。
「射殺せ、神鎗」
ふたりの想いは途切れた。
砂塵のように消えていく中級大虚の向こう側、満月の光の中に影を見た。
「隊長…」
市丸が、落ちていくなつみを瞬時に抱き止めてやる。
「間に合うた。なつみちゃん、もう大丈夫や」
着地すると、握られている斬魄刀をしまってやり、涙を拭った。
「よう頑張ったな。泣かんでええよ。さ、一緒に帰ろう」
安心と悔しさが同時に込み上げてきて、なつみは市丸の腕の中で、大声で号泣し始めた。目の前で心が壊れていくのを止めようと、市丸は強く抱きしめる。
「何でやッ……」
穿界門を開き、なつみを抱えて尸魂界へ急ぎ帰る市丸。
「絶対に許さん」
えぐられた地面を右手でなぞる男がひとり。
「手にした宝は、しっかり隠さなければいけないよ、ギン…」