第二章
夢小説設定
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掲げた夢現天子を眺めながら思った。
「そうだ!能力使って見つけ出せば良いじゃん」
さっそく構えてみる。
「うーん‼︎」
霊圧を上げていく。
「ぐーん!」
上げてはみたものの。
「名前しかわからない相手にどうやって命令するんだ」
「そうだよねぇ〜😩⤵︎⤵︎⤵︎」
夢現天子に指摘されて、断念せざるを得なかった。
「勘に頼るしかないのか…」
肩を落とすと、さすがムッちゃん、頼れる斬魄刀様がアドバイスしてくれた。
「諦めるなよ。叶えたいことがあるなら願い続けることが大事だ。想いは必ず目標に届く。お前が歩みを止めなければ、目標もこちらに来ようとしてくれるさ」
「…、うん。ありがとう。そうだよね。よし!考えよう、あの人たちが行きそうなところ」
そしてなつみは、彼らの気持ちを想像して、予測を立て始めた。
「世界とお別れすることになって、時間が少しだけ与えられたら、何をしたいと思うかな…」
眩しいほどの月明かりに照らされて、その魂魄は輝いていた。美しい女性。ビルの屋上から街を見ていた。
「やっと見つけた、アヤさん」
「え…?」
呼ばれて振り向くと、安堵の表情を浮かべた少女が立っていたので驚いた。黒い着物?袴?刀を差している。
「誰、私が見えているの?」
「もちろんです。あなたをお迎えに来たんです。亡くなってからずいぶん経ってしまいましたが。いや、探しましたよ😄」
「あ…、天使さん?」
「ぷっ😙そんな感じですかね。ぼくは死神です」
「死神?こんなにかわいらしいのに、死神なの?」
まじまじと見つめ、大きな鎌を持った恐ろしい骸骨姿の死神イメージと比較する。
「か、かわいらしいなんて言わないでください。『かっこいい』と言って欲しいですね!自称イケメンなんで!😆👍」
突然目の前に現れたちょっと変わった女の子は、何を言ってもかわいいため、思わずアヤから笑みが溢れた。
「あ!笑われた。真面目に言ってるのにな」
「ごめんなさい。それで、死神さん、私を迎えに来たんですよね。どこに行くんですか?地獄…ですか?」
「そんなまさか!アヤさんはとっても良い人です!お兄さんのおやつを横取りした程度で、地獄になんか行きませんよ!」
「うっ、よくご存知ですね😅」
「あなたがいそうな場所を推測するために、いろいろ調べさせていただきましたから。これから行くのは尸魂界です。とっても良いところで、魂のふるさとって感じですよ。普段、ぼくもそっちで生活しています。現世には仕事で来てるんですよ。魂葬と言って、アヤさんのように亡くなった魂を尸魂界に送ってあげることと、虚退治が、ぼくたち死神のお仕事です」
「ホロウ?」
「胸の鎖、昨日はもっと長くありませんでしたか?」
「はい。ちょっと短くなりました」
チャラリと因果の鎖を手のひらに乗せて確認。
「その鎖が消えて、胸に穴が開くと、虚という凶暴で恐いお化けになってしまうんです。アヤさんの場合、間に合って良かったですよ。まだまだ時間に余裕がありそうですから」
なつみはアヤの右隣に寄り添って、一緒に景色を眺めた。
「魂葬をして、尸魂界に行ってしまうと、こちらに戻っては来られません。次に帰って来られるときは恐らく、生まれ変わったときですからね。あなたがここで、今の記憶と身体で過ごせる最後の時間になります。やり残したことがあれば伺いますよ。と言っても、もうだいぶ済ませちゃってるかもしれませんけどね。求めていたもの、見つかりましたか?」
そうきかれると、アヤは眼下を走る車の光をぼんやり見た。
「そうですね…。いろいろ思い出しながら、よく行っていた場所を見てきましたが、やっぱりありませんでした」
「そうでしたか」
「だから、もう充分です。この世界に未練はありません。魂葬ですか、してください。お願いします」
向けられたアヤの笑顔は、見覚えのある悲しみを湛えている。
「ふーん…、良くない」
「え?」
「嘘つきです」
なつみは斬魄刀を抜き、解号を唱える。
「従え、夢現天子」
「何するんですか」
物騒な物を取り出され、困惑するアヤをよそに、なつみは右手に斬魄刀を握り、左手でアヤの手を取った。
「世界を違うところから見てみましょう」
そう言うと宙に飛び立ち、星空に向かってぐんぐん上昇していった。
「キャー!」
「あんまりビックリしないでください!大丈夫ですよ、もう死んでますから!」
本当は落ちたら大変なことだが、そこは内緒で。遠くまで見渡せる高さまで上がると、アヤの手をそっと放した。そしてぐるっと視線を走らせて、街の様子を伺う。
「やっぱり見当たらない…」
「何ですか?」
「今回の事故で亡くなった方の魂葬は、大方済ませているんです。あとは、アヤさんともう一人だけなんですよ」
「誰ですか」
「加害者の方です」
「そう、なんですね…」
落ちないとはわかっていても、あまりの高さに怖がってしまう。しかしアヤも目を凝らして、何かおかしなことが起きていないかと探そうとしてくれた。
「とてもつらいはずなのに、ぼく、見つけてあげられなくて。事故直前で亡くなったそうなので、急がないとヤバいんすよ…」
「ちょっと待って、事故直前って言いました?」
驚きを隠せなかった。
「はい。運転中に心筋梗塞になり、そのまま心肺停止。アクセルを踏んだ状態だったので、そこから動くことなく加速し続け暴走。制御不能のまま歩道に乗り上げ、建物に衝突。こちらではこの報道がされていませんが、尸魂界からはそう伝えられました」
真実を知り、悲しい表情になるアヤ。
「かわいそう…。その人、誰かを殺そうだなんて思ってなかったってことですよね。なのに、あんな人殺しって言われて…。ご家族も酷く責められて。防ぎようがなかった事故なのに、本当にかわいそう」
「人間の方たちが真相を明らかにしてくれることを祈りましょう。起きてしまったことは変えられませんが、これ以上悲しみを募らせないようにしてもらいたいですよね。…にしても、やっぱりアヤさんは優しい人ですね。運転手さんのご家族まで気遣えるなんて😊」
「そんなことないですよ…」
とりあえず、加害者の魂魄をすぐに見つけることは難しいと考え、なつみはアヤと向き合うことにする。
「今夜の星空、とってもキレイだと思いません?月もキレイ。尸魂界を出る前に見た月と同じくらいおっきいです」両腕をめいっぱい広げる。それから視線を街に戻す。「建物から漏れる光はあったかそうで、幸せそうですし。この世界は本当に美しいですよね」
少しだけ浮いていることに慣れてきたアヤに近づき、背中をさすってあげた。
「でも、見せかけだけかもしれませんよね」
なつみの言葉にハッとした。
「あの光の中で、誰かと誰かがケンカしてるかもしれない。別のところでは、耐え難い苦しみや悲しみに押しつぶされそうになってるのに、1人でいなければいけない誰かがいるかもしれない。人の心は、この街の明かりみたいに、本当がなかなか見えないものです。わかりあえるのは難しいですよ。だから、助けを呼んだり、助けてもらうのが、うまくいかないことがほとんど。何もかもが嫌になって、目を閉じたくなる。例えどんなにこの世界が美しかろうと、それは自分の周りで起きていることで、自分がその内側にいるわけじゃない。どこにいても、ここじゃないと思う。人の言葉だって、音と意味はきっと逆。そうじゃないですか?」
胸の上できゅっと両手を握りしめるアヤ。
「わかってもらえないことが、悲しいですか。わかってもらえないのが当たり前だから、諦めていますか」
なつみはアヤの正面に回った。
「それが心ですよね。他人というものです。でもだからって、そんなに自分をダメだなんて思っちゃいけませんよ」
左腕だけで抱きしめてあげる。
「もっと自分を許してあげて、誇りに思うべきです」
どこかで見たことのある素振りと聞いたことのある言葉の後、頭の後ろを撫でてあげながら続ける。
「あなたが何をしようとしていたか知ったとしても、遺された人たちは絶対にアヤさんに対して、感謝の気持ちでいっぱいですよ。あなたが優しくしてくれたときの思い出のおかげです。最期にかばってあげた女の子、生きています」
「えっ…」
「ご自身が亡くなってしまったから、助かっていないと思っていたでしょう?そんなことありませんよ。ちゃんと生きています。時間はかかりそうですが、怪我は完治できて、元の生活に戻れるそうです。よかったですね」
「はいッ…。あの時、とっさに身体が動いて、あの子を守ってあげようとしたんですけど、助けてあげられたのかわからなくて、心配だったんです。私が駆け付けない方が良かったかもしれないとまで思ってました」
「そんなことありませんよ‼︎」なつみはアヤから体を離した。「アヤさんがいなければ死んでしまっていました!アヤさんが救ったんです。アヤさんのおかげで、あの子の未来は守られたんですよ!アヤさんは自分の命をかけて、大事な命を守ったんです!あなたが選択した全ての行為は、全部ぜーんぶ正しかったんです!これから先の未来でだって、そのことが証明されるでしょう。遺されたみなさんの心の中、あなたとの大切な思い出の中で、あなたを想い、あなたがいてくれたことに本当に感謝するんです。あなたの居場所はちゃんとご自身で作られていたんですよ。あなたには見えないところにあっただけ。ね?アヤさんの人生は、とても美しいです。命に終わりはありませんから、自信を持って、これからも生き続けてください。大丈夫、優しいアヤさんなら、ぜーったい大丈夫です。だからもう、自分を騙して『もういいや』なんて言わないで」
本当は勘違いなのかもしれないが、アヤは久しぶりに大切に抱きしめられ、誰かの優しさに触れて、なつみの温もりを感じながら涙を流した。
一度の死を経ても、命はこうして続いていく。だったら、ちゃんと次に進める勇気を持てるように、心の準備をしてもらってから魂葬してあげたい。これがなつみのやり方だった。
「降りましょうか」
なつみがそう言うと、アヤの身体は正面から何か見えないものに支えられて、降下していった。地面に近づくと、その存在は消えて、なつみとバトンタッチしたような。
「ありがとう、ムッちゃん」アヤから離れて、斬魄刀をしまった。「死神がみんなこんなことできると思わないでください。飛んだりできるのは、ぼくだけですから!😁」
涙を拭うと、腕組みをして偉そうにしているなつみの方を見た。
「もう本当に大丈夫です。私を尸魂界に送ってください」
その顔には明るい心が現れていた。
「ふむ、今しまっちゃったのに。もう良いんですね。また抜かなきゃ」
シャキンと斬魄刀を抜き、柄尻をアヤに向けて構えた。
「おでこ出してください。ここをポンッと当てると、あっちゅーまに尸魂界に着きますから」
「あ、はい」
前髪を上げて待った。
「屈んでください。届きません☹️」
「はい(笑)」
膝を曲げてなつみの手が届くようにしてあげると、なつみは両腕を頭上に振り上げて一旦停止。
「いきます‼︎」
「お願いします‼︎」
「そーれぃ!」
それは一瞬のできごとだった。斬魄刀の柄尻が下される動きの向こうに、アヤは何かを見つけて驚き、叫んだ。
「危ないッ‼︎‼︎」
だがその声がなつみに届く前に、世界は一変していた。現世に残っているなつみは、アヤの額に当たる感触を認識した直後、右の脇腹に強い衝撃を受けて、何が起きたかもわからずに吹き飛び、受け身も取れずにどこかの壁にぶつかって、全身に痛みが走り、うずくまって倒れていた。
「驚きのニュースが飛び込んできましたね」
「本当ですね。悲劇が連鎖しているようです。あってはならないことだと、僕は思いますよ」
「そうですよね。死因が何であれ、恐らく相当の精神的なご苦労があったのかと思われます。街の皆様のお声の中にも、かなり厳しいお言葉がありましたもんね」
「視聴者のみなさんには、今一度考え直していただきたいですよ。ご家族の方々は、今回の事件と何ら関係が無いわけじゃないですか。それなのに、きつい言葉をかけてしまった方たちは、新たな事件の加害者になってしまったと言っても過言ではありません。良いですか、事件を起こした犯人が悪いんであって、加害者家族の方たちは責められて当然という立場ではないんですよ。みなさん、もっと事実をよく見て、相手の気持ちを考慮してから、ご自身の言葉を選んでください。無関係の人を攻撃してはいけませんよ、悪いのは犯人だけなんですから」
「少し厳しいご意見ですが、私も同感です。気分の良い物ではありませんからね、是非、言葉を発する前に一旦考えるということをしていただきたいです。はい。では、続いてのニュースです」
「そうだ!能力使って見つけ出せば良いじゃん」
さっそく構えてみる。
「うーん‼︎」
霊圧を上げていく。
「ぐーん!」
上げてはみたものの。
「名前しかわからない相手にどうやって命令するんだ」
「そうだよねぇ〜😩⤵︎⤵︎⤵︎」
夢現天子に指摘されて、断念せざるを得なかった。
「勘に頼るしかないのか…」
肩を落とすと、さすがムッちゃん、頼れる斬魄刀様がアドバイスしてくれた。
「諦めるなよ。叶えたいことがあるなら願い続けることが大事だ。想いは必ず目標に届く。お前が歩みを止めなければ、目標もこちらに来ようとしてくれるさ」
「…、うん。ありがとう。そうだよね。よし!考えよう、あの人たちが行きそうなところ」
そしてなつみは、彼らの気持ちを想像して、予測を立て始めた。
「世界とお別れすることになって、時間が少しだけ与えられたら、何をしたいと思うかな…」
眩しいほどの月明かりに照らされて、その魂魄は輝いていた。美しい女性。ビルの屋上から街を見ていた。
「やっと見つけた、アヤさん」
「え…?」
呼ばれて振り向くと、安堵の表情を浮かべた少女が立っていたので驚いた。黒い着物?袴?刀を差している。
「誰、私が見えているの?」
「もちろんです。あなたをお迎えに来たんです。亡くなってからずいぶん経ってしまいましたが。いや、探しましたよ😄」
「あ…、天使さん?」
「ぷっ😙そんな感じですかね。ぼくは死神です」
「死神?こんなにかわいらしいのに、死神なの?」
まじまじと見つめ、大きな鎌を持った恐ろしい骸骨姿の死神イメージと比較する。
「か、かわいらしいなんて言わないでください。『かっこいい』と言って欲しいですね!自称イケメンなんで!😆👍」
突然目の前に現れたちょっと変わった女の子は、何を言ってもかわいいため、思わずアヤから笑みが溢れた。
「あ!笑われた。真面目に言ってるのにな」
「ごめんなさい。それで、死神さん、私を迎えに来たんですよね。どこに行くんですか?地獄…ですか?」
「そんなまさか!アヤさんはとっても良い人です!お兄さんのおやつを横取りした程度で、地獄になんか行きませんよ!」
「うっ、よくご存知ですね😅」
「あなたがいそうな場所を推測するために、いろいろ調べさせていただきましたから。これから行くのは尸魂界です。とっても良いところで、魂のふるさとって感じですよ。普段、ぼくもそっちで生活しています。現世には仕事で来てるんですよ。魂葬と言って、アヤさんのように亡くなった魂を尸魂界に送ってあげることと、虚退治が、ぼくたち死神のお仕事です」
「ホロウ?」
「胸の鎖、昨日はもっと長くありませんでしたか?」
「はい。ちょっと短くなりました」
チャラリと因果の鎖を手のひらに乗せて確認。
「その鎖が消えて、胸に穴が開くと、虚という凶暴で恐いお化けになってしまうんです。アヤさんの場合、間に合って良かったですよ。まだまだ時間に余裕がありそうですから」
なつみはアヤの右隣に寄り添って、一緒に景色を眺めた。
「魂葬をして、尸魂界に行ってしまうと、こちらに戻っては来られません。次に帰って来られるときは恐らく、生まれ変わったときですからね。あなたがここで、今の記憶と身体で過ごせる最後の時間になります。やり残したことがあれば伺いますよ。と言っても、もうだいぶ済ませちゃってるかもしれませんけどね。求めていたもの、見つかりましたか?」
そうきかれると、アヤは眼下を走る車の光をぼんやり見た。
「そうですね…。いろいろ思い出しながら、よく行っていた場所を見てきましたが、やっぱりありませんでした」
「そうでしたか」
「だから、もう充分です。この世界に未練はありません。魂葬ですか、してください。お願いします」
向けられたアヤの笑顔は、見覚えのある悲しみを湛えている。
「ふーん…、良くない」
「え?」
「嘘つきです」
なつみは斬魄刀を抜き、解号を唱える。
「従え、夢現天子」
「何するんですか」
物騒な物を取り出され、困惑するアヤをよそに、なつみは右手に斬魄刀を握り、左手でアヤの手を取った。
「世界を違うところから見てみましょう」
そう言うと宙に飛び立ち、星空に向かってぐんぐん上昇していった。
「キャー!」
「あんまりビックリしないでください!大丈夫ですよ、もう死んでますから!」
本当は落ちたら大変なことだが、そこは内緒で。遠くまで見渡せる高さまで上がると、アヤの手をそっと放した。そしてぐるっと視線を走らせて、街の様子を伺う。
「やっぱり見当たらない…」
「何ですか?」
「今回の事故で亡くなった方の魂葬は、大方済ませているんです。あとは、アヤさんともう一人だけなんですよ」
「誰ですか」
「加害者の方です」
「そう、なんですね…」
落ちないとはわかっていても、あまりの高さに怖がってしまう。しかしアヤも目を凝らして、何かおかしなことが起きていないかと探そうとしてくれた。
「とてもつらいはずなのに、ぼく、見つけてあげられなくて。事故直前で亡くなったそうなので、急がないとヤバいんすよ…」
「ちょっと待って、事故直前って言いました?」
驚きを隠せなかった。
「はい。運転中に心筋梗塞になり、そのまま心肺停止。アクセルを踏んだ状態だったので、そこから動くことなく加速し続け暴走。制御不能のまま歩道に乗り上げ、建物に衝突。こちらではこの報道がされていませんが、尸魂界からはそう伝えられました」
真実を知り、悲しい表情になるアヤ。
「かわいそう…。その人、誰かを殺そうだなんて思ってなかったってことですよね。なのに、あんな人殺しって言われて…。ご家族も酷く責められて。防ぎようがなかった事故なのに、本当にかわいそう」
「人間の方たちが真相を明らかにしてくれることを祈りましょう。起きてしまったことは変えられませんが、これ以上悲しみを募らせないようにしてもらいたいですよね。…にしても、やっぱりアヤさんは優しい人ですね。運転手さんのご家族まで気遣えるなんて😊」
「そんなことないですよ…」
とりあえず、加害者の魂魄をすぐに見つけることは難しいと考え、なつみはアヤと向き合うことにする。
「今夜の星空、とってもキレイだと思いません?月もキレイ。尸魂界を出る前に見た月と同じくらいおっきいです」両腕をめいっぱい広げる。それから視線を街に戻す。「建物から漏れる光はあったかそうで、幸せそうですし。この世界は本当に美しいですよね」
少しだけ浮いていることに慣れてきたアヤに近づき、背中をさすってあげた。
「でも、見せかけだけかもしれませんよね」
なつみの言葉にハッとした。
「あの光の中で、誰かと誰かがケンカしてるかもしれない。別のところでは、耐え難い苦しみや悲しみに押しつぶされそうになってるのに、1人でいなければいけない誰かがいるかもしれない。人の心は、この街の明かりみたいに、本当がなかなか見えないものです。わかりあえるのは難しいですよ。だから、助けを呼んだり、助けてもらうのが、うまくいかないことがほとんど。何もかもが嫌になって、目を閉じたくなる。例えどんなにこの世界が美しかろうと、それは自分の周りで起きていることで、自分がその内側にいるわけじゃない。どこにいても、ここじゃないと思う。人の言葉だって、音と意味はきっと逆。そうじゃないですか?」
胸の上できゅっと両手を握りしめるアヤ。
「わかってもらえないことが、悲しいですか。わかってもらえないのが当たり前だから、諦めていますか」
なつみはアヤの正面に回った。
「それが心ですよね。他人というものです。でもだからって、そんなに自分をダメだなんて思っちゃいけませんよ」
左腕だけで抱きしめてあげる。
「もっと自分を許してあげて、誇りに思うべきです」
どこかで見たことのある素振りと聞いたことのある言葉の後、頭の後ろを撫でてあげながら続ける。
「あなたが何をしようとしていたか知ったとしても、遺された人たちは絶対にアヤさんに対して、感謝の気持ちでいっぱいですよ。あなたが優しくしてくれたときの思い出のおかげです。最期にかばってあげた女の子、生きています」
「えっ…」
「ご自身が亡くなってしまったから、助かっていないと思っていたでしょう?そんなことありませんよ。ちゃんと生きています。時間はかかりそうですが、怪我は完治できて、元の生活に戻れるそうです。よかったですね」
「はいッ…。あの時、とっさに身体が動いて、あの子を守ってあげようとしたんですけど、助けてあげられたのかわからなくて、心配だったんです。私が駆け付けない方が良かったかもしれないとまで思ってました」
「そんなことありませんよ‼︎」なつみはアヤから体を離した。「アヤさんがいなければ死んでしまっていました!アヤさんが救ったんです。アヤさんのおかげで、あの子の未来は守られたんですよ!アヤさんは自分の命をかけて、大事な命を守ったんです!あなたが選択した全ての行為は、全部ぜーんぶ正しかったんです!これから先の未来でだって、そのことが証明されるでしょう。遺されたみなさんの心の中、あなたとの大切な思い出の中で、あなたを想い、あなたがいてくれたことに本当に感謝するんです。あなたの居場所はちゃんとご自身で作られていたんですよ。あなたには見えないところにあっただけ。ね?アヤさんの人生は、とても美しいです。命に終わりはありませんから、自信を持って、これからも生き続けてください。大丈夫、優しいアヤさんなら、ぜーったい大丈夫です。だからもう、自分を騙して『もういいや』なんて言わないで」
本当は勘違いなのかもしれないが、アヤは久しぶりに大切に抱きしめられ、誰かの優しさに触れて、なつみの温もりを感じながら涙を流した。
一度の死を経ても、命はこうして続いていく。だったら、ちゃんと次に進める勇気を持てるように、心の準備をしてもらってから魂葬してあげたい。これがなつみのやり方だった。
「降りましょうか」
なつみがそう言うと、アヤの身体は正面から何か見えないものに支えられて、降下していった。地面に近づくと、その存在は消えて、なつみとバトンタッチしたような。
「ありがとう、ムッちゃん」アヤから離れて、斬魄刀をしまった。「死神がみんなこんなことできると思わないでください。飛んだりできるのは、ぼくだけですから!😁」
涙を拭うと、腕組みをして偉そうにしているなつみの方を見た。
「もう本当に大丈夫です。私を尸魂界に送ってください」
その顔には明るい心が現れていた。
「ふむ、今しまっちゃったのに。もう良いんですね。また抜かなきゃ」
シャキンと斬魄刀を抜き、柄尻をアヤに向けて構えた。
「おでこ出してください。ここをポンッと当てると、あっちゅーまに尸魂界に着きますから」
「あ、はい」
前髪を上げて待った。
「屈んでください。届きません☹️」
「はい(笑)」
膝を曲げてなつみの手が届くようにしてあげると、なつみは両腕を頭上に振り上げて一旦停止。
「いきます‼︎」
「お願いします‼︎」
「そーれぃ!」
それは一瞬のできごとだった。斬魄刀の柄尻が下される動きの向こうに、アヤは何かを見つけて驚き、叫んだ。
「危ないッ‼︎‼︎」
だがその声がなつみに届く前に、世界は一変していた。現世に残っているなつみは、アヤの額に当たる感触を認識した直後、右の脇腹に強い衝撃を受けて、何が起きたかもわからずに吹き飛び、受け身も取れずにどこかの壁にぶつかって、全身に痛みが走り、うずくまって倒れていた。
「驚きのニュースが飛び込んできましたね」
「本当ですね。悲劇が連鎖しているようです。あってはならないことだと、僕は思いますよ」
「そうですよね。死因が何であれ、恐らく相当の精神的なご苦労があったのかと思われます。街の皆様のお声の中にも、かなり厳しいお言葉がありましたもんね」
「視聴者のみなさんには、今一度考え直していただきたいですよ。ご家族の方々は、今回の事件と何ら関係が無いわけじゃないですか。それなのに、きつい言葉をかけてしまった方たちは、新たな事件の加害者になってしまったと言っても過言ではありません。良いですか、事件を起こした犯人が悪いんであって、加害者家族の方たちは責められて当然という立場ではないんですよ。みなさん、もっと事実をよく見て、相手の気持ちを考慮してから、ご自身の言葉を選んでください。無関係の人を攻撃してはいけませんよ、悪いのは犯人だけなんですから」
「少し厳しいご意見ですが、私も同感です。気分の良い物ではありませんからね、是非、言葉を発する前に一旦考えるということをしていただきたいです。はい。では、続いてのニュースです」