第二章
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京楽が、なつみの欲しがっていた物、彼の写真集『腕まくら』を、彼女が休日の昼下がり、よりによって尾田に預けてしまったがために、同期の仲間たち全員が彼女は京楽に恋しているというのがバレてしまってからまた何週間か経った頃、なつみはやけに一所懸命その写真集を眺めるようになっていた。この先1ヶ月間の現世単独任務が待っているからだ。その間、彼女は写真集とはお別れ。その1ページ1ページを目に焼き付けておきたいのだ。
「んー…。かっこいい🥰」
出発前日、午前中は通常業務、午後から最終確認を行い、夜に仲間たちとご飯を食べに行く約束をしていた。なつみは彼らが上がるのを待つ間、ブロマイドと写真集を見返し、それが済むとぬいぐるみの春水くんを抱いて、窓辺に立った。
「きれい…」
今夜の星空は美しい。もっと見やすくしようと、部屋の明かりを消した。そして、窓辺に戻り、春水くんをぎゅっとして、星に祈りを。
そこに、一番乗りが扉を開けた。李空だ。
「よぉ、って…、何で暗いんだよ」
「あ、つけないで。星を見てたんだ。きれいだよ」
李空はなつみに手招きされて、窓辺に並んだ。
「ん、本当だ」
「でしょ。お疲れ、李空」
「おう。あ?」春水くんに気づく。「何抱いてんだよ」
「いーじゃん、別に。今ね、星にお祈りしてたんだ。『無事に帰って来られますように』って」
「お前ってさ、ロマンチストかよ」
「何だよ、李空はやらねーのかよ、お星様にお願い」
「しねーよ」
「あっそ」
なつみは春水くんを引き出しにしまった。
「それ、あっちに持ってかねーの?」
「持ってくわけないだろー。遊びじゃないんだから」
(ここだって仕事場だっつの)というツッコミを飲み込んだ李空は明るく柔らかい光を見た。
「月、綺麗だな」
そう呟いた李空の隣で、静かになつみがニヤッと笑っているのに気づいた。
「何か言えよ///」
クシャクシャとなつみの頭を乱暴に撫でる。
「な、やめろよ(笑)」
李空が手を止めると、なつみは髪を整え始めた。その様子を見ていると。
「なぁ、木之本」
「ん?」
廊下の明かりが差し込む。
「お疲れー!って暗っ。何お前ら見つめ合ってんだよ」
尾田だ。
「変なことしてないよ。星見てたの。他のみんなは?もう終わりそう?」
なつみは尾田のところに行き、廊下を覗いた。李空は窓を閉めてから、その後に続く。
「お疲れー!みんなー!」
廊下に続々と出てきた仲間たちに手を振ってご挨拶。プレートを忘れずに「お留守」へ変えて。
「お疲れ」
「おつー」
「お疲れ様」
「お疲れサン」
「木之本、明日こっちに寄らないんだろ?忘れ物してないか確認した?」
「したよー。昨日からしてっから」
李空がなつみの部屋を閉めて、最終確認する。
「本当に、あれ置いてって良いんだな」
「良いよ!名残惜しくなっちゃうから、言わないでよ」
みんなが例の引き出しのことをすぐに思い浮かべた。
「よーし、じゃ、行くか!俺めっちゃ腹減ってんだわ」
移動を始める。
「あ、尾田!デザート奢るって言ったの忘れてねーだろうな!」
「わかってるよ。好きなの食え」
「ぃやった〜🍨🍰🍮😋」
「1個だけな」
「えー‼︎‼︎ケチ!こちとらわかってんだぞ、どーせお前らがひと口という名の六口すんの。ちょっとしか残んねーんだぞ!」
ご立腹ななつみさん。
「ご馳走してもらう分際で、よくそんなデカい態度取れるな(呆)」
「チビだから、態度くらいデカくいさせろってことだろ」
「んだとコラァ‼︎💢🤜」
パンチにキック。
「あー、届かねぇ届かねぇ。手脚が短いと不便だな」
「ムキィ‼︎」
こんな楽しい時間が1ヶ月もお預けになると思うと、ちょっぴり寂しくなる男たち。
「そうだ、李空!さっき何か言いかけてなかったか?」
李空の背中に跳びついて、彼の両ほっぺをむにぃっと引っ張りながらなつみが尋ねる。
「さっき…?あぁ、気ぃ付けて行ってこいよって言おうとしただけ」
「ふーん…、そっか。ありがとッ😁」
ピンッと摘んでいた手を離してやった。
「痛っ」
そして任務初日、穿界門前。準備万端のなつみが地獄蝶と共にいた。見送りに来たのは市丸のみ。
「ほななつみちゃん、いってらっしゃい」
いつもの笑顔で手を振る。
「行って参ります」
まっすぐな視線で答える。
「怪我せんとってな」
心配。
「はいっ!」
サッと頭を下げ、再び現れた顔には自信がたっぷりくっついていた。なつみは門をくぐっていく。その姿が見えなくなり、市丸は空を見上げた。
「何やろ。この変な胸騒ぎ……」
なつみが席官になり、これまで短期ではあったが、単独で任務をこなすことは何度かあった。それなりに経験は積んでいる。それに、今回担当する地区はそこまで危険なところではなかった。強力な虚が出現したことの無いエリア。用心は必要だが、心配はほぼ無用。そう思っている。しっかり仕事をして、1ヶ月後に胸を張って帰る。当然のことと思っていた。
虚を退治することも少なく、なんとも平和な印象を受けた。人間に生まれて生活するとしたら、この街はぜひ候補に入れたいと思うほど。景色が美しい。サボって眺めるには打って付けだった。仕事の内容というと、その一生を立派に全うしたおじいちゃん、おばあちゃんの魂葬がほとんど。たまに、若くして生涯を終えてしまった尊い人たちをお相手することもあったが。死を迎えた人間たちと出会う度、なつみは優しく寄り添い、虚から守りつつ、最期の願いを必ず伺い、できるだけその願いを叶えてあげてから魂葬するようにしていた。おかげで、現場での彼女の仕事は非常に遅い。この調子では、同期たちの成績に追いつくのは難しそうだ。だが、なつみはこのやり方を貫くつもりでいる。命は数字じゃない。どんな命も、出会いと思い出と幸せを大切にしなきゃいけない相手だから…。死神たちが現世任務時に滞在する施設にて、三番隊が月に一度行う幹部会議に、リモートで参加した。その際に、部屋干ししていた下着が画面に映り込むという事件が起きたが、取り乱すほど大変なことはそれ以外に無く、順調に3週間があっという間に過ぎていった。そしてあと3日で期間終了という日、予期せぬ事故が起きてしまった。
月曜日の朝、街は通学通勤で人通りと交通量が多い時間だった。なつみは深夜過ぎに虚退治をしていたため、いつもより起きるのが遅く、それを知ったのは午前9時代のニュースを見たときだった。慌てて準備をし、現場へ向かった。
駅から程近くの道路にて、車数台を巻き込み、歩道にいた歩行者を弾く暴走車による事故が発生。事故を起こした乗用車は、それまでの走行から一変、およそ100mに渡り猛スピードに加速、歩道に乗り上げ、最寄りの建物に突っ込む形で停止した。運転手は死亡。なつみは被害者の情報をできるだけかき集め、魂葬する方の名簿を急いで作った。彼女が駆けつけた時には、すでに事故発生から1時間は経っていたが、あまりの惨事に人集りがなかなか消えることはなかった。魂魄を見つけては、安全な場所に連れて行き、魂葬前にやりたいことがあれば考えておいてほしいととりあえず伝え、待ち合わせ場所と時刻を決め、また新たな魂魄を探しに行った。ただ一つ気がかりなことが、事故を起こした運転手の霊がどこにも見当たらなかった。負傷者として病院に運ばれた人たちの中にも、残念ながら死亡した方があり、その人ともお話をした。
「明日も来る必要があるかもな…」
その日に見つけられた人たちは、全員夜までに魂葬を完了させることができた。あと2人いるはずなのだが、事故現場にも病院にも自宅にも見当たらなかった。人探しとなると広すぎるように感じるこの街のどこかにいるはずなのだが、虚に襲われるか、虚になってしまう前になんとか見つけてあげなければと走り回った。しかし、夜が明けても見つけることができなかった。
仮眠を取った後、再び病院に戻ってみた。すると嬉しいことに、事故での負傷者はみんな容体が安定し、死期は誰にも見られないようだった。事故現場には献花台が設けられ、1日経っても多くの人が集まっていた。そして口々に、事故を起こした運転手を批難する言葉を飛び交わせていた。彼のご遺体は損傷が激しく、死因が究明されていない。月曜の朝でもあり、自暴自棄になったその人が故意に暴走し、自殺に多くの人を巻き込んだというのが世間での見解だった。
「みんな優しいような、醜いような…。こんな酷いことを前にしたら、そりゃ、悪者を見つけて、その人のせいにして、心を落ち着けようとしたくなるよね。でも、なんだか悲しいよ…」
正午を回り、伝令神機に着信があった。
「はい、三番隊第二十席木之本なつみです」
「なつみちゃん、お疲れ。ボクやけど」
「市丸隊長、お疲れ様です」
「最後の最後に、大変やったね」
「大変なのはぼくよりも、人間の方たちの方です。それに、任務期間は明日までなので、気を抜けませんよ。まだまだ終わりじゃないです」
「せやね。まだ魂葬できてへんのは加害者の人と、もう1人女の人やってね。早よしたらんと、虚になってまうで、おしゃべりしてる暇あらへんけど、ひとつ情報や」
「はい」
「加害者の死因がわかったで。『心筋梗塞』や」
「それって…」
「そ、ただの『事故』やったってこと。誰も悪い人のおらん、不運な事故や。そっちでは、このことわかることないやろうから、伝えときたかったんよ」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「なつみちゃん、…後にし。こっち帰ってきてからにしや」
「はいッ」
なつみは悲しい想像がどんどん見えてきてしまい、頬に涙が伝っていたが、気持ちを切り替える。手の甲で涙を拭き取った。
「泣いてる場合やないからね。それとも応援よこそうか?」
「いえ、大丈夫です。このまま一人でやり遂げます」
「わかった。その言葉、信じるわ。もう一踏ん張り、がんばりや。ほな、切るで」
「はい。連絡していただき、ありがとうございました。失礼いたします」
「うん、バイバイ」
通話終了。伝令神機をしまい、斬魄刀を抜いた。
「従え、夢現天子」
願いを込める。
「いろいろと間に合ってくれ。それから、みんなの心に優しさが宿りますように」
「んー…。かっこいい🥰」
出発前日、午前中は通常業務、午後から最終確認を行い、夜に仲間たちとご飯を食べに行く約束をしていた。なつみは彼らが上がるのを待つ間、ブロマイドと写真集を見返し、それが済むとぬいぐるみの春水くんを抱いて、窓辺に立った。
「きれい…」
今夜の星空は美しい。もっと見やすくしようと、部屋の明かりを消した。そして、窓辺に戻り、春水くんをぎゅっとして、星に祈りを。
そこに、一番乗りが扉を開けた。李空だ。
「よぉ、って…、何で暗いんだよ」
「あ、つけないで。星を見てたんだ。きれいだよ」
李空はなつみに手招きされて、窓辺に並んだ。
「ん、本当だ」
「でしょ。お疲れ、李空」
「おう。あ?」春水くんに気づく。「何抱いてんだよ」
「いーじゃん、別に。今ね、星にお祈りしてたんだ。『無事に帰って来られますように』って」
「お前ってさ、ロマンチストかよ」
「何だよ、李空はやらねーのかよ、お星様にお願い」
「しねーよ」
「あっそ」
なつみは春水くんを引き出しにしまった。
「それ、あっちに持ってかねーの?」
「持ってくわけないだろー。遊びじゃないんだから」
(ここだって仕事場だっつの)というツッコミを飲み込んだ李空は明るく柔らかい光を見た。
「月、綺麗だな」
そう呟いた李空の隣で、静かになつみがニヤッと笑っているのに気づいた。
「何か言えよ///」
クシャクシャとなつみの頭を乱暴に撫でる。
「な、やめろよ(笑)」
李空が手を止めると、なつみは髪を整え始めた。その様子を見ていると。
「なぁ、木之本」
「ん?」
廊下の明かりが差し込む。
「お疲れー!って暗っ。何お前ら見つめ合ってんだよ」
尾田だ。
「変なことしてないよ。星見てたの。他のみんなは?もう終わりそう?」
なつみは尾田のところに行き、廊下を覗いた。李空は窓を閉めてから、その後に続く。
「お疲れー!みんなー!」
廊下に続々と出てきた仲間たちに手を振ってご挨拶。プレートを忘れずに「お留守」へ変えて。
「お疲れ」
「おつー」
「お疲れ様」
「お疲れサン」
「木之本、明日こっちに寄らないんだろ?忘れ物してないか確認した?」
「したよー。昨日からしてっから」
李空がなつみの部屋を閉めて、最終確認する。
「本当に、あれ置いてって良いんだな」
「良いよ!名残惜しくなっちゃうから、言わないでよ」
みんなが例の引き出しのことをすぐに思い浮かべた。
「よーし、じゃ、行くか!俺めっちゃ腹減ってんだわ」
移動を始める。
「あ、尾田!デザート奢るって言ったの忘れてねーだろうな!」
「わかってるよ。好きなの食え」
「ぃやった〜🍨🍰🍮😋」
「1個だけな」
「えー‼︎‼︎ケチ!こちとらわかってんだぞ、どーせお前らがひと口という名の六口すんの。ちょっとしか残んねーんだぞ!」
ご立腹ななつみさん。
「ご馳走してもらう分際で、よくそんなデカい態度取れるな(呆)」
「チビだから、態度くらいデカくいさせろってことだろ」
「んだとコラァ‼︎💢🤜」
パンチにキック。
「あー、届かねぇ届かねぇ。手脚が短いと不便だな」
「ムキィ‼︎」
こんな楽しい時間が1ヶ月もお預けになると思うと、ちょっぴり寂しくなる男たち。
「そうだ、李空!さっき何か言いかけてなかったか?」
李空の背中に跳びついて、彼の両ほっぺをむにぃっと引っ張りながらなつみが尋ねる。
「さっき…?あぁ、気ぃ付けて行ってこいよって言おうとしただけ」
「ふーん…、そっか。ありがとッ😁」
ピンッと摘んでいた手を離してやった。
「痛っ」
そして任務初日、穿界門前。準備万端のなつみが地獄蝶と共にいた。見送りに来たのは市丸のみ。
「ほななつみちゃん、いってらっしゃい」
いつもの笑顔で手を振る。
「行って参ります」
まっすぐな視線で答える。
「怪我せんとってな」
心配。
「はいっ!」
サッと頭を下げ、再び現れた顔には自信がたっぷりくっついていた。なつみは門をくぐっていく。その姿が見えなくなり、市丸は空を見上げた。
「何やろ。この変な胸騒ぎ……」
なつみが席官になり、これまで短期ではあったが、単独で任務をこなすことは何度かあった。それなりに経験は積んでいる。それに、今回担当する地区はそこまで危険なところではなかった。強力な虚が出現したことの無いエリア。用心は必要だが、心配はほぼ無用。そう思っている。しっかり仕事をして、1ヶ月後に胸を張って帰る。当然のことと思っていた。
虚を退治することも少なく、なんとも平和な印象を受けた。人間に生まれて生活するとしたら、この街はぜひ候補に入れたいと思うほど。景色が美しい。サボって眺めるには打って付けだった。仕事の内容というと、その一生を立派に全うしたおじいちゃん、おばあちゃんの魂葬がほとんど。たまに、若くして生涯を終えてしまった尊い人たちをお相手することもあったが。死を迎えた人間たちと出会う度、なつみは優しく寄り添い、虚から守りつつ、最期の願いを必ず伺い、できるだけその願いを叶えてあげてから魂葬するようにしていた。おかげで、現場での彼女の仕事は非常に遅い。この調子では、同期たちの成績に追いつくのは難しそうだ。だが、なつみはこのやり方を貫くつもりでいる。命は数字じゃない。どんな命も、出会いと思い出と幸せを大切にしなきゃいけない相手だから…。死神たちが現世任務時に滞在する施設にて、三番隊が月に一度行う幹部会議に、リモートで参加した。その際に、部屋干ししていた下着が画面に映り込むという事件が起きたが、取り乱すほど大変なことはそれ以外に無く、順調に3週間があっという間に過ぎていった。そしてあと3日で期間終了という日、予期せぬ事故が起きてしまった。
月曜日の朝、街は通学通勤で人通りと交通量が多い時間だった。なつみは深夜過ぎに虚退治をしていたため、いつもより起きるのが遅く、それを知ったのは午前9時代のニュースを見たときだった。慌てて準備をし、現場へ向かった。
駅から程近くの道路にて、車数台を巻き込み、歩道にいた歩行者を弾く暴走車による事故が発生。事故を起こした乗用車は、それまでの走行から一変、およそ100mに渡り猛スピードに加速、歩道に乗り上げ、最寄りの建物に突っ込む形で停止した。運転手は死亡。なつみは被害者の情報をできるだけかき集め、魂葬する方の名簿を急いで作った。彼女が駆けつけた時には、すでに事故発生から1時間は経っていたが、あまりの惨事に人集りがなかなか消えることはなかった。魂魄を見つけては、安全な場所に連れて行き、魂葬前にやりたいことがあれば考えておいてほしいととりあえず伝え、待ち合わせ場所と時刻を決め、また新たな魂魄を探しに行った。ただ一つ気がかりなことが、事故を起こした運転手の霊がどこにも見当たらなかった。負傷者として病院に運ばれた人たちの中にも、残念ながら死亡した方があり、その人ともお話をした。
「明日も来る必要があるかもな…」
その日に見つけられた人たちは、全員夜までに魂葬を完了させることができた。あと2人いるはずなのだが、事故現場にも病院にも自宅にも見当たらなかった。人探しとなると広すぎるように感じるこの街のどこかにいるはずなのだが、虚に襲われるか、虚になってしまう前になんとか見つけてあげなければと走り回った。しかし、夜が明けても見つけることができなかった。
仮眠を取った後、再び病院に戻ってみた。すると嬉しいことに、事故での負傷者はみんな容体が安定し、死期は誰にも見られないようだった。事故現場には献花台が設けられ、1日経っても多くの人が集まっていた。そして口々に、事故を起こした運転手を批難する言葉を飛び交わせていた。彼のご遺体は損傷が激しく、死因が究明されていない。月曜の朝でもあり、自暴自棄になったその人が故意に暴走し、自殺に多くの人を巻き込んだというのが世間での見解だった。
「みんな優しいような、醜いような…。こんな酷いことを前にしたら、そりゃ、悪者を見つけて、その人のせいにして、心を落ち着けようとしたくなるよね。でも、なんだか悲しいよ…」
正午を回り、伝令神機に着信があった。
「はい、三番隊第二十席木之本なつみです」
「なつみちゃん、お疲れ。ボクやけど」
「市丸隊長、お疲れ様です」
「最後の最後に、大変やったね」
「大変なのはぼくよりも、人間の方たちの方です。それに、任務期間は明日までなので、気を抜けませんよ。まだまだ終わりじゃないです」
「せやね。まだ魂葬できてへんのは加害者の人と、もう1人女の人やってね。早よしたらんと、虚になってまうで、おしゃべりしてる暇あらへんけど、ひとつ情報や」
「はい」
「加害者の死因がわかったで。『心筋梗塞』や」
「それって…」
「そ、ただの『事故』やったってこと。誰も悪い人のおらん、不運な事故や。そっちでは、このことわかることないやろうから、伝えときたかったんよ」
「そうでしたか、ありがとうございます」
「なつみちゃん、…後にし。こっち帰ってきてからにしや」
「はいッ」
なつみは悲しい想像がどんどん見えてきてしまい、頬に涙が伝っていたが、気持ちを切り替える。手の甲で涙を拭き取った。
「泣いてる場合やないからね。それとも応援よこそうか?」
「いえ、大丈夫です。このまま一人でやり遂げます」
「わかった。その言葉、信じるわ。もう一踏ん張り、がんばりや。ほな、切るで」
「はい。連絡していただき、ありがとうございました。失礼いたします」
「うん、バイバイ」
通話終了。伝令神機をしまい、斬魄刀を抜いた。
「従え、夢現天子」
願いを込める。
「いろいろと間に合ってくれ。それから、みんなの心に優しさが宿りますように」