第十章
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そこそこ高く吹っ飛ばされて落下を始めたなつみうさぎを受け止め、京楽は踏ん張る足を地面で滑らせて停止した。
「ふぅ…。大丈夫?なつみちゃん」
京楽の腕の中で、なつみは目を回していた。
「ふぃ〜、世界が回る〜😵💫」
「大丈夫じゃないね💧」
よしよしと撫でて、眩暈が治るようにじっとしてあげる。
「指輪が腕輪になってるね」
だらんとしたなつみの左腕を、指でひょいひょいと上下に揺すった。ふふっと笑顔になってしまう。
「春水さん…」
「ん…?何、なつみちゃん」
薄らと開いている目で、なつみは京楽を見上げた。
「ぼく、死刑なんですか…?」
なつみの口からは、聞きたくない言葉であった。京楽は胸がドキリとしたが、それは一瞬だけ。申し訳なさそうに優しく微笑んで、なつみの身体を大切そうに、一度大きくすぅと撫でた。
「惣右介くんの予想は当たってたよ。ボクは山じいに頼んで、もしもの時はボクがキミを、って…」
はっきりとはその言葉を言いたくなくて、京楽は濁した。そんな京楽の胸に、そっとなつみは右手を当てた。
「けどね、ボクが山じいにした約束と、実際に起きたことは違ったんだ。だからボクは、キミを傷つけなくても良いんだよ。キミは死刑になんかならないから。心配しないで」
京楽はなつみとおでこを合わせた。
「何て、約束してたんですか?」
ゆっくり離す。
「もしもなつみちゃんが、ボクたちに刃を向けたら…」
「刃を向けたら…」
振り返ると、なつみが京楽に向けたのは。
「キミがボクに向けたのは、銃口。刀じゃない」
「…屁理屈です」
「屁理屈だろうと、構わない。どうせボクには無理だったんだから」
自分のしでかしてしまった行為に後悔する。例え脅すためだとしても、大好きな人にピストルを向けるなど、絶対にしてはいけなかった。
「ごめんなさい。怖かったですよね」
「良いよ。ボクだってさっき、本当にキミに斬りかかっちゃったし。惣右介くんを狙ったつもりだったのに、ごめんね」
なつみはふるふると首を振った。
「春水さんのこと、信じてましたから。間に合って良かったです」
「ボクもなつみちゃんを信じてたよ」
ふたりはきゅっと抱き合った。
「もうクラクラしてない?大丈夫?」
「はい。治りました」
「そう。じゃあ、みんなと合流しようか」
なつみを抱っこしたまま、京楽は道を戻り始めようとした時、向こうから、尾田と美沙が駆け寄ってきた。
「隊長ー!木之本ー!無事ですかー?」
「なつみー!大丈夫ー?」
「おーい❗️こっちこっちー❗️」
短い腕でなつみはふたりに手を振った。
「はぁ、良かった。お前、マジでうさぎになれんだな」
お鼻を上下にヒクヒクさせて、なつみはニンマリした。
「すげぇだろー😏」
「もう。斬られたかと思ったじゃんか。こっちが生きた心地しなかった!人騒がせなんだからぁ」
美沙はワシワシとなつみの頭を撫でた。
「ごぉめん〜」
それを見て、ちょっと羨ましく思う尾田。
(触りてぇー。フワフワじゃん)
和んでいる場合ではない。京楽は2人に尋ねた。
「他のみんなは」
尾田が答える。
「レンとケイジが、市丸隊長と藍染を尾行して動向を見ています。李空とハルと久原は、手分けして住民たちを避難させているところです。指示を仰がず、独断で動いてしまい、申し訳ありません」
「良いよ。それで良い。ボクたちも急ごうか…と言いたいけど、なつみちゃんをこのままにはしておけないよね」
見下ろすと、なつみと目が合った。
「人に戻ったら、すっぽんぽんです」
「そうだよね。ボクは大歓迎だけど」
ご冗談を。
「チッ」あ、美沙が舌打ちをした。「なつみ、斬魄刀持ってきてあげたんだけど、すごいちっちゃくなってるんだよね」
美沙が、交通安全のお守りを付けた小刀を、両掌の上に乗せて差し出した。
「服も拾ってきたが、もう着れたもんじゃないよな」
尾田は、藍染に斬られてしまった服と、脱ぎっぱなしだった靴を持ってきてくれていた。
「ありがとう。斬魄刀はそれで良いんだよ
。うさぎサイズになるんだ。でも、服がダメだな…」
京楽に抱っこしてもらったまま、なつみは尾田に差し出されている自分の着ていた服を、丸い手で握って持ち上げる。
「どうしよう」
なつみの長い耳がへなっと垂れ下がり、見るからに困って落ち込んでいる。
「これさ、後で必要になるからって、預かったんだけど」
そう言って京楽は、懐から何かを引っ張り出した。
「あ‼️」
「これでは、服の代わりにならないよね」
出てきたのは、なつみのマントだった。
「どうして⁉️スタークさんが来てくれたんですか⁉️それともぼくですか⁉️」
なつみはマントを受け取った。
「ふたりでだよ。リリネットちゃんを迎えに来たんだ。キミがあの子を落っことした時、ボクが拾いに行ってさ。それでボクのところに。彼にはもう必要ないからって、それを渡されたんだ。まだフラフラしてて、大丈夫そうには見えなかったけどね」
「ぼくと会って、びっくりしませんでした?」
「驚いたよ。てっきり今のキミかと思って、思いっきり抱きついちゃった」
(😅)
「事情はちょっとだけ聞かせてもらった。惣右介くんが崩玉と融合しちゃってるってね。切り離さないと倒せないんだって。通りで自信過剰なわけだよ」
うんうんとなつみは頷いた。
「急がないと、市丸隊長が動いちゃう。早く早く❗️春水さん、降ろしてください」
「うん」
京楽はなつみを下に降ろす。
「これを、んーと…、こっちだな。こっち向きに広げてっと」
なつみはマントの護を確認して、地面に広げた。そして尾田を見上げて指示を出す。
「尾田、ぼくの服、ドサッとここの上に乗せて」
「ここにか?どうするんだよ」
とききながら、マントの上になつみの服を置く。
「直すんだよ❗️」
ぴょんぴょん跳び回り、四隅を掴んで包んだ。
「直せるの⁉︎」
「直せるよ❗️だからぼくは、これを持ってきてくれたんだ。スタークさんに一旦預けといて良かった。服と一緒に斬られてたかもしれないもん」
タイムトラベルがうまくいっている。なつみは、今日という日を本当に大事に覚えておかなければと、強く思った。
「いつの間に、そんな凄いことができるようになったんだい?」
しゃがみ込んで、京楽は尋ねた。
「織姫さんに、コツを教えてもらったんです。で、このペアリングを復活させましたっ」
ピッと左腕のペアリングを、京楽に見せてあげた。
「虚を昇華させるために作ったマントですけど、裏返して使うと、包んだものの時間を遡らせることができるんですよ。だから、割れちゃった指輪も、スタークさんの傷も、なおすことができたんです」
説明し終えると、すーっと深呼吸した。
「なかなか信じられないけど、うさぎにもなれてるから、本当なんだろうね」
しっぽを摘んで、京楽は霊力を送って応援してみた。
「へ、変な感じするので、そこ触らないでもらえますか///💦」
「ごめんごめん」手を離す。「また後でね😚💕」
細い目になる美沙と尾田を横に、なつみは術を発動した。
………⏳
💡
「できた❗️」
マントを広げていく。
「どやどや」
「どれどれ〜?」
小さななつみに代わって、京楽がコートを持ち上げて、くっついているかどうか見せてくれる。
「ほぉんとだ!直ってるよ。凄いね、なつみちゃん」
「てへへ〜///」
照れるうさぎ。
「これでなつみちゃんの裸ん坊問題は解決だね」
いやん❤️
「ちょっとそっち行って、着ておいで。美沙ちゃん、手伝ってあげてね」
「「はい」」
「ボクらはこっち向いてようか、尾田くん」
「はいッ///」
なつみたちに背を向けて立つ京楽と尾田。
「で、市丸隊長の手紙には、何が書かれてたんだい?」
「えッ、どうしてそれを」
「未来から来たなつみちゃんに教えてもらったんだよ。でも、キミたちがそれを読んで、なつみちゃんに協力する気になったとしか教えてくれなかった。内容までは話してくれなかったんだよ。内緒だって言ってさ」
「じゃ、じゃあ、内緒ですよ!」
「……」
じーっと尾田の顔を見る。
「言いませんッ‼︎」
ぷいっと尾田は反抗した。
「かわいくないね😒」
「仕方ありませんよ。市丸隊長が恥ずかしがって、言うなって言うんですから。あたしさっき、それで怒られたんですよ!」
「早いね」
人型に戻ったなつみを連れて、美沙が戻ってきた。
「でもね、彼が何をするつもりなのか、手がかりになることが、書かれていなかったかい?それがわかれば、ボクたちがどうしたら良いのか、はっきり決められるんだよ」
「そうですけど…」
「妹のなつみちゃんに託した遺書だ。大事なことしか、書かれてなかったはずだよね」京楽の思いは、気持ち1歩、困った顔の部下たちに近寄る。「教えてくれないかい?ボクだって協力したいんだ」
どうしようと悩み、尾田と美沙が打ち明けても良いかもしれないと、思ったその時だった。ふたりの間を堂々とトーンと押し退けて、ニヤリ顔のなつみが京楽の前にズンと立った。
「なぁに、なつみちゃん、その顔」
「ふふん」胸を張って、偉そうに笑う。「春水さんには、手紙のこと教えません❗️知る必要ありませんよ❗️」
ムッと京楽が拗ねる。
「何を閃いたって言うの?」
「藍染隊長は、崩玉を持っているからダメなんです。崩玉が使えなくなれば、絶対に諦めるしかなくなる。つまり、それが今できるのは、ぼくだけなんです❗️」
「まさか…。必要になるって、服のことじゃなくて」
「そうですよ❗️崩玉のことだったんですよ❗️ぼくなら、崩玉に取り込まれた魂魄を解放できるかもしれない。だから持ってきてくれたんです」
京楽はぷにゅっとなつみのほっぺを両手で包み込んで、きゅいきゅい〜っと愛おしげに揺すった。
「賢いぞ〜、なつみちゃぁ〜ん💕」
「むゆぅ〜💓」
それは恋人の褒め方ではなく、若干のペット感。
「よし。なつみちゃんの作戦でいこう。まだレンくんたちから連絡無いんだよね。急げば間に合う。ボクはなつみちゃんを援護して、惣右介くんと市丸隊長のところに行くから、キミたちは住民たちの避難に回って。ある程度の範囲を確保できたら、結界を張って、惣右介くんの力が人間に触れないようにしてくれるかい」
「「はい!」」
京楽の隊長らしく、テキパキと指示を出す姿を間近で見られて、なつみはぽやんとときめいていた。
(かっくいぃ〜。かっくいぃよ〜💕)
そのぽやん顔に気付く。
「しっかりして、なつみちゃん。キミは、この戦いを終わらせる切り札になるんだよ」
指摘されて、なつみは真面目な顔にキリッと変わった。
「はい❗️しっかりしますッ❗️✋😠」
そして、気合いを入れるため、グッと体を丸めてから、ズバンッ!と両手の拳を空に突き上げた。
「藍染隊長マントグルグル大作戦❗️ぃやったるぞぉーッ‼️おーッ‼️✊」
レンはケイジと別行動を取っていた。市丸が藍染から離れたためだ。ケイジに藍染の尾行を任せ、自分は市丸の方へ。信じてはいるが、彼が何をするのか気になったのだ。彼らの前に、独り現れた乱菊を連れ去り、一体何をしようとしているのか。
ふたりの会話を陰に隠れて聞き入る。だがその最中に、尾田の声が脳内に響いてきた。天挺空羅だ。尾田は、なつみと京楽が藍染から崩玉の力を奪う作戦と、他、自分たちは住民の避難及び結界の発動をするよう指示を伝えてきた。聞き終えて、視線を市丸と乱菊がいた方へ戻すと、なんと、市丸の姿が無い上に、乱菊は倒れていた。急いで乱菊のもとに近寄る。
「……、気絶しているだけ…か?」
呼吸と脈を確認し、白伏を疑った。
戦いに巻き込まないように、市丸が配慮したことならば、このままにしておくべきなのかと考えた。京楽からの指示もある。レンはその場を離れ、住民の避難作業に加わることにした。
尾田が天挺空羅をし、美沙と避難作業へ向かった直後、京楽といるなつみはハッとした。
「春水さん!乱菊さんの霊圧が消えました!」
京楽も気付いている。
「市丸隊長がそばから離れた。何かしたんだ」
なつみは京楽の前に回り込んだ。
「今すぐ乱菊さんのとこに行ってください!春水さんが助けに行ってあげてください!」
懸命に声を上げるなつみを見下ろす。
「で、でも、キミをひとりには」
「一刻を争うんです!早く!春水さんしか行けません!ぼくじゃダメですよ!」
「けどッ」
市丸が藍染のところへ戻るのを目で追うように、焦って顔を上げる。
「ぼくなら大丈夫です!絶対大丈夫です!」ぐいと京楽の胸元を掴んで引き寄せた。「お兄ちゃんがついててくれるから、絶対大丈夫です!乱菊さんを助けてください!寝かせてる場合じゃないんですよ!」
「なつみちゃん…」
愛する者に「大丈夫」と言われると、信じたいと思うのが恋人だ。京楽はなつみを抱き寄せて、頭のてっぺんに、強い想いを込めてキスをした。
「気を付けてね。必ず迎えに戻るから」
「はい」
応えて、なつみも強く抱きついた。
藍染は市丸が戻るまで、実は、大人しく座って待っていた。
(ギンが先か…)
藍染は待っていた。彼は、自らの信念を貫き、精一杯生きようとする者が好きだった。だから敢えて、彼らに時間を与えた。一護、市丸、そしてなつみ。護廷十三隊という、権力を暴力のように振るう堕落した組織の指示ではなく、自分で考えた上で、藍染に戦いを挑もうとする彼らの意志を尊重し、彼は3人に、全力をぶつけさせようとしていた。そして最後にねじ伏せ、藍染惣右介には誰も敵わないと、思い知らせるつもりでいる。敗北とは絶望ではなく、目標という未来を見せるきっかけでなければならない。その未来に立つのが自分であり、自分の示す未来こそが正しい世界なのだと、彼らに教えてやりたいのだ。
「…只今、戻りました。藍染隊長」
「…戻ったか。彼女はどうした?」
「殺しました」
「ー確かに、霊圧は消えている。…驚いたな。君はもう少し彼女に、何かしらの情があるものと思っていたが」
そうして悠長に構えていた藍染だったが、彼の想定の範囲を超える出来事が、容易く起こり得るということを、市丸に慢心ごと身体を貫かれ、思い知らされた。
「死せ、神殺槍」
「ギン……、貴様……‼︎」
「胸に孔があいて死ぬんや。本望ですやろ」
右腕の一部を千切られながらも、市丸は藍染から崩玉を奪うことに成功した。ビルの陰に隠れる。
(終わりや…。これで終わりーー…)
しかし、何かがおかしい。
ドン、ズォォォォオ‼︎‼︎
光の柱が立った風上に目を向けると、倒れたはずの藍染が、多すぎる蝶の羽を生やし、復活してしまっていた。
「…私の勝ちだ、ギン…。お前の奪った崩玉は既に、私の中に無くとも…」
市丸の居場所を見た。
「私のものだ」
「!」
手の中にある崩玉が藍染に反応し、動き出した。
「何や…、これは…っ」
呼び寄せられた藍染が、一瞬で市丸の前に現れた。
と、その一瞬の直前で2人の間に入れた者がいた。
「えいッ‼︎‼︎」
小さなその子は市丸の右手に緑の布を被せると、崩玉を包み込んで、奪い取ってしまった。
「なつみちゃん⁉︎」
もちろんなつみである。
「なつみ…?」
これも、藍染が予想し得なかったこと。
「そうか」
市丸は瞬時になつみがしようとしていることを理解し、彼女を引っ張って藍染から離した。
「早よ逃げ‼︎」
「はい!」
藍染も一足遅く理解した。観察でではなく、感覚で知らされたのだ。
「辞めろォォォオオ‼︎‼︎」
力が抜けていくのを、明かに感じていた。崩玉が壊されていくのを。
襲いかかる藍染からなつみを守ろうと、市丸は再び剣を抜いた。しかし、余裕を失った藍染は加減を忘れてしまい、防衛本能を爆発させて剣を振った。その押しは余りに強く、一撃で市丸の腹を貫いてしまった。
「ウッ…‼︎‼︎」
それに気付いたなつみは、足を止めて振り向いてしまった。
「隊長‼︎‼︎」
「…、アホ‼︎早よ行き‼︎」
先に行かさないよう、逃しはしないと、市丸は藍染の右腕を力一杯掴んだ。
なつみは命令されたが、移動できなかった。市丸を助けなければと思ったから。
「ウリャアッ‼︎‼︎」
なつみが下した決断は、崩玉をマントで包んだままコートのポケットに突っ込んで、藍染に蹴りをお見舞いするというものだった。
「グフッ」
「グゥッ」
藍染が飛ばされると市丸に刺さった斬魄刀が抜けた。
「隊長!すぐ治します!」
すぐになつみが傷口に手を当てる。
「アカン‼︎‼︎」
なつみは気付かなかったが、藍染と接触した瞬間、彼はポケットからマントを抜き取り、崩玉を放り飛ばしていた。崩玉が今度こそと、藍染の中に帰っていく。
市丸は右手を藍染の胸に伸ばした。
ガシッ
しかし、先に掴まれ、腕が引き抜かれた。
「‼︎⁉︎」
なつみの左頬に、市丸の血がかかった。
藍染が斬魄刀を掲げたのを見、市丸は左手でなつみの背中を掴み、最後の力で彼女を背後に投げ飛ばした。
「ギャウッ‼︎」
転がったなつみが、なんとか顔を上げると。
ザンッ………
兄が、斬られた。
「ふぅ…。大丈夫?なつみちゃん」
京楽の腕の中で、なつみは目を回していた。
「ふぃ〜、世界が回る〜😵💫」
「大丈夫じゃないね💧」
よしよしと撫でて、眩暈が治るようにじっとしてあげる。
「指輪が腕輪になってるね」
だらんとしたなつみの左腕を、指でひょいひょいと上下に揺すった。ふふっと笑顔になってしまう。
「春水さん…」
「ん…?何、なつみちゃん」
薄らと開いている目で、なつみは京楽を見上げた。
「ぼく、死刑なんですか…?」
なつみの口からは、聞きたくない言葉であった。京楽は胸がドキリとしたが、それは一瞬だけ。申し訳なさそうに優しく微笑んで、なつみの身体を大切そうに、一度大きくすぅと撫でた。
「惣右介くんの予想は当たってたよ。ボクは山じいに頼んで、もしもの時はボクがキミを、って…」
はっきりとはその言葉を言いたくなくて、京楽は濁した。そんな京楽の胸に、そっとなつみは右手を当てた。
「けどね、ボクが山じいにした約束と、実際に起きたことは違ったんだ。だからボクは、キミを傷つけなくても良いんだよ。キミは死刑になんかならないから。心配しないで」
京楽はなつみとおでこを合わせた。
「何て、約束してたんですか?」
ゆっくり離す。
「もしもなつみちゃんが、ボクたちに刃を向けたら…」
「刃を向けたら…」
振り返ると、なつみが京楽に向けたのは。
「キミがボクに向けたのは、銃口。刀じゃない」
「…屁理屈です」
「屁理屈だろうと、構わない。どうせボクには無理だったんだから」
自分のしでかしてしまった行為に後悔する。例え脅すためだとしても、大好きな人にピストルを向けるなど、絶対にしてはいけなかった。
「ごめんなさい。怖かったですよね」
「良いよ。ボクだってさっき、本当にキミに斬りかかっちゃったし。惣右介くんを狙ったつもりだったのに、ごめんね」
なつみはふるふると首を振った。
「春水さんのこと、信じてましたから。間に合って良かったです」
「ボクもなつみちゃんを信じてたよ」
ふたりはきゅっと抱き合った。
「もうクラクラしてない?大丈夫?」
「はい。治りました」
「そう。じゃあ、みんなと合流しようか」
なつみを抱っこしたまま、京楽は道を戻り始めようとした時、向こうから、尾田と美沙が駆け寄ってきた。
「隊長ー!木之本ー!無事ですかー?」
「なつみー!大丈夫ー?」
「おーい❗️こっちこっちー❗️」
短い腕でなつみはふたりに手を振った。
「はぁ、良かった。お前、マジでうさぎになれんだな」
お鼻を上下にヒクヒクさせて、なつみはニンマリした。
「すげぇだろー😏」
「もう。斬られたかと思ったじゃんか。こっちが生きた心地しなかった!人騒がせなんだからぁ」
美沙はワシワシとなつみの頭を撫でた。
「ごぉめん〜」
それを見て、ちょっと羨ましく思う尾田。
(触りてぇー。フワフワじゃん)
和んでいる場合ではない。京楽は2人に尋ねた。
「他のみんなは」
尾田が答える。
「レンとケイジが、市丸隊長と藍染を尾行して動向を見ています。李空とハルと久原は、手分けして住民たちを避難させているところです。指示を仰がず、独断で動いてしまい、申し訳ありません」
「良いよ。それで良い。ボクたちも急ごうか…と言いたいけど、なつみちゃんをこのままにはしておけないよね」
見下ろすと、なつみと目が合った。
「人に戻ったら、すっぽんぽんです」
「そうだよね。ボクは大歓迎だけど」
ご冗談を。
「チッ」あ、美沙が舌打ちをした。「なつみ、斬魄刀持ってきてあげたんだけど、すごいちっちゃくなってるんだよね」
美沙が、交通安全のお守りを付けた小刀を、両掌の上に乗せて差し出した。
「服も拾ってきたが、もう着れたもんじゃないよな」
尾田は、藍染に斬られてしまった服と、脱ぎっぱなしだった靴を持ってきてくれていた。
「ありがとう。斬魄刀はそれで良いんだよ
。うさぎサイズになるんだ。でも、服がダメだな…」
京楽に抱っこしてもらったまま、なつみは尾田に差し出されている自分の着ていた服を、丸い手で握って持ち上げる。
「どうしよう」
なつみの長い耳がへなっと垂れ下がり、見るからに困って落ち込んでいる。
「これさ、後で必要になるからって、預かったんだけど」
そう言って京楽は、懐から何かを引っ張り出した。
「あ‼️」
「これでは、服の代わりにならないよね」
出てきたのは、なつみのマントだった。
「どうして⁉️スタークさんが来てくれたんですか⁉️それともぼくですか⁉️」
なつみはマントを受け取った。
「ふたりでだよ。リリネットちゃんを迎えに来たんだ。キミがあの子を落っことした時、ボクが拾いに行ってさ。それでボクのところに。彼にはもう必要ないからって、それを渡されたんだ。まだフラフラしてて、大丈夫そうには見えなかったけどね」
「ぼくと会って、びっくりしませんでした?」
「驚いたよ。てっきり今のキミかと思って、思いっきり抱きついちゃった」
(😅)
「事情はちょっとだけ聞かせてもらった。惣右介くんが崩玉と融合しちゃってるってね。切り離さないと倒せないんだって。通りで自信過剰なわけだよ」
うんうんとなつみは頷いた。
「急がないと、市丸隊長が動いちゃう。早く早く❗️春水さん、降ろしてください」
「うん」
京楽はなつみを下に降ろす。
「これを、んーと…、こっちだな。こっち向きに広げてっと」
なつみはマントの護を確認して、地面に広げた。そして尾田を見上げて指示を出す。
「尾田、ぼくの服、ドサッとここの上に乗せて」
「ここにか?どうするんだよ」
とききながら、マントの上になつみの服を置く。
「直すんだよ❗️」
ぴょんぴょん跳び回り、四隅を掴んで包んだ。
「直せるの⁉︎」
「直せるよ❗️だからぼくは、これを持ってきてくれたんだ。スタークさんに一旦預けといて良かった。服と一緒に斬られてたかもしれないもん」
タイムトラベルがうまくいっている。なつみは、今日という日を本当に大事に覚えておかなければと、強く思った。
「いつの間に、そんな凄いことができるようになったんだい?」
しゃがみ込んで、京楽は尋ねた。
「織姫さんに、コツを教えてもらったんです。で、このペアリングを復活させましたっ」
ピッと左腕のペアリングを、京楽に見せてあげた。
「虚を昇華させるために作ったマントですけど、裏返して使うと、包んだものの時間を遡らせることができるんですよ。だから、割れちゃった指輪も、スタークさんの傷も、なおすことができたんです」
説明し終えると、すーっと深呼吸した。
「なかなか信じられないけど、うさぎにもなれてるから、本当なんだろうね」
しっぽを摘んで、京楽は霊力を送って応援してみた。
「へ、変な感じするので、そこ触らないでもらえますか///💦」
「ごめんごめん」手を離す。「また後でね😚💕」
細い目になる美沙と尾田を横に、なつみは術を発動した。
………⏳
💡
「できた❗️」
マントを広げていく。
「どやどや」
「どれどれ〜?」
小さななつみに代わって、京楽がコートを持ち上げて、くっついているかどうか見せてくれる。
「ほぉんとだ!直ってるよ。凄いね、なつみちゃん」
「てへへ〜///」
照れるうさぎ。
「これでなつみちゃんの裸ん坊問題は解決だね」
いやん❤️
「ちょっとそっち行って、着ておいで。美沙ちゃん、手伝ってあげてね」
「「はい」」
「ボクらはこっち向いてようか、尾田くん」
「はいッ///」
なつみたちに背を向けて立つ京楽と尾田。
「で、市丸隊長の手紙には、何が書かれてたんだい?」
「えッ、どうしてそれを」
「未来から来たなつみちゃんに教えてもらったんだよ。でも、キミたちがそれを読んで、なつみちゃんに協力する気になったとしか教えてくれなかった。内容までは話してくれなかったんだよ。内緒だって言ってさ」
「じゃ、じゃあ、内緒ですよ!」
「……」
じーっと尾田の顔を見る。
「言いませんッ‼︎」
ぷいっと尾田は反抗した。
「かわいくないね😒」
「仕方ありませんよ。市丸隊長が恥ずかしがって、言うなって言うんですから。あたしさっき、それで怒られたんですよ!」
「早いね」
人型に戻ったなつみを連れて、美沙が戻ってきた。
「でもね、彼が何をするつもりなのか、手がかりになることが、書かれていなかったかい?それがわかれば、ボクたちがどうしたら良いのか、はっきり決められるんだよ」
「そうですけど…」
「妹のなつみちゃんに託した遺書だ。大事なことしか、書かれてなかったはずだよね」京楽の思いは、気持ち1歩、困った顔の部下たちに近寄る。「教えてくれないかい?ボクだって協力したいんだ」
どうしようと悩み、尾田と美沙が打ち明けても良いかもしれないと、思ったその時だった。ふたりの間を堂々とトーンと押し退けて、ニヤリ顔のなつみが京楽の前にズンと立った。
「なぁに、なつみちゃん、その顔」
「ふふん」胸を張って、偉そうに笑う。「春水さんには、手紙のこと教えません❗️知る必要ありませんよ❗️」
ムッと京楽が拗ねる。
「何を閃いたって言うの?」
「藍染隊長は、崩玉を持っているからダメなんです。崩玉が使えなくなれば、絶対に諦めるしかなくなる。つまり、それが今できるのは、ぼくだけなんです❗️」
「まさか…。必要になるって、服のことじゃなくて」
「そうですよ❗️崩玉のことだったんですよ❗️ぼくなら、崩玉に取り込まれた魂魄を解放できるかもしれない。だから持ってきてくれたんです」
京楽はぷにゅっとなつみのほっぺを両手で包み込んで、きゅいきゅい〜っと愛おしげに揺すった。
「賢いぞ〜、なつみちゃぁ〜ん💕」
「むゆぅ〜💓」
それは恋人の褒め方ではなく、若干のペット感。
「よし。なつみちゃんの作戦でいこう。まだレンくんたちから連絡無いんだよね。急げば間に合う。ボクはなつみちゃんを援護して、惣右介くんと市丸隊長のところに行くから、キミたちは住民たちの避難に回って。ある程度の範囲を確保できたら、結界を張って、惣右介くんの力が人間に触れないようにしてくれるかい」
「「はい!」」
京楽の隊長らしく、テキパキと指示を出す姿を間近で見られて、なつみはぽやんとときめいていた。
(かっくいぃ〜。かっくいぃよ〜💕)
そのぽやん顔に気付く。
「しっかりして、なつみちゃん。キミは、この戦いを終わらせる切り札になるんだよ」
指摘されて、なつみは真面目な顔にキリッと変わった。
「はい❗️しっかりしますッ❗️✋😠」
そして、気合いを入れるため、グッと体を丸めてから、ズバンッ!と両手の拳を空に突き上げた。
「藍染隊長マントグルグル大作戦❗️ぃやったるぞぉーッ‼️おーッ‼️✊」
レンはケイジと別行動を取っていた。市丸が藍染から離れたためだ。ケイジに藍染の尾行を任せ、自分は市丸の方へ。信じてはいるが、彼が何をするのか気になったのだ。彼らの前に、独り現れた乱菊を連れ去り、一体何をしようとしているのか。
ふたりの会話を陰に隠れて聞き入る。だがその最中に、尾田の声が脳内に響いてきた。天挺空羅だ。尾田は、なつみと京楽が藍染から崩玉の力を奪う作戦と、他、自分たちは住民の避難及び結界の発動をするよう指示を伝えてきた。聞き終えて、視線を市丸と乱菊がいた方へ戻すと、なんと、市丸の姿が無い上に、乱菊は倒れていた。急いで乱菊のもとに近寄る。
「……、気絶しているだけ…か?」
呼吸と脈を確認し、白伏を疑った。
戦いに巻き込まないように、市丸が配慮したことならば、このままにしておくべきなのかと考えた。京楽からの指示もある。レンはその場を離れ、住民の避難作業に加わることにした。
尾田が天挺空羅をし、美沙と避難作業へ向かった直後、京楽といるなつみはハッとした。
「春水さん!乱菊さんの霊圧が消えました!」
京楽も気付いている。
「市丸隊長がそばから離れた。何かしたんだ」
なつみは京楽の前に回り込んだ。
「今すぐ乱菊さんのとこに行ってください!春水さんが助けに行ってあげてください!」
懸命に声を上げるなつみを見下ろす。
「で、でも、キミをひとりには」
「一刻を争うんです!早く!春水さんしか行けません!ぼくじゃダメですよ!」
「けどッ」
市丸が藍染のところへ戻るのを目で追うように、焦って顔を上げる。
「ぼくなら大丈夫です!絶対大丈夫です!」ぐいと京楽の胸元を掴んで引き寄せた。「お兄ちゃんがついててくれるから、絶対大丈夫です!乱菊さんを助けてください!寝かせてる場合じゃないんですよ!」
「なつみちゃん…」
愛する者に「大丈夫」と言われると、信じたいと思うのが恋人だ。京楽はなつみを抱き寄せて、頭のてっぺんに、強い想いを込めてキスをした。
「気を付けてね。必ず迎えに戻るから」
「はい」
応えて、なつみも強く抱きついた。
藍染は市丸が戻るまで、実は、大人しく座って待っていた。
(ギンが先か…)
藍染は待っていた。彼は、自らの信念を貫き、精一杯生きようとする者が好きだった。だから敢えて、彼らに時間を与えた。一護、市丸、そしてなつみ。護廷十三隊という、権力を暴力のように振るう堕落した組織の指示ではなく、自分で考えた上で、藍染に戦いを挑もうとする彼らの意志を尊重し、彼は3人に、全力をぶつけさせようとしていた。そして最後にねじ伏せ、藍染惣右介には誰も敵わないと、思い知らせるつもりでいる。敗北とは絶望ではなく、目標という未来を見せるきっかけでなければならない。その未来に立つのが自分であり、自分の示す未来こそが正しい世界なのだと、彼らに教えてやりたいのだ。
「…只今、戻りました。藍染隊長」
「…戻ったか。彼女はどうした?」
「殺しました」
「ー確かに、霊圧は消えている。…驚いたな。君はもう少し彼女に、何かしらの情があるものと思っていたが」
そうして悠長に構えていた藍染だったが、彼の想定の範囲を超える出来事が、容易く起こり得るということを、市丸に慢心ごと身体を貫かれ、思い知らされた。
「死せ、神殺槍」
「ギン……、貴様……‼︎」
「胸に孔があいて死ぬんや。本望ですやろ」
右腕の一部を千切られながらも、市丸は藍染から崩玉を奪うことに成功した。ビルの陰に隠れる。
(終わりや…。これで終わりーー…)
しかし、何かがおかしい。
ドン、ズォォォォオ‼︎‼︎
光の柱が立った風上に目を向けると、倒れたはずの藍染が、多すぎる蝶の羽を生やし、復活してしまっていた。
「…私の勝ちだ、ギン…。お前の奪った崩玉は既に、私の中に無くとも…」
市丸の居場所を見た。
「私のものだ」
「!」
手の中にある崩玉が藍染に反応し、動き出した。
「何や…、これは…っ」
呼び寄せられた藍染が、一瞬で市丸の前に現れた。
と、その一瞬の直前で2人の間に入れた者がいた。
「えいッ‼︎‼︎」
小さなその子は市丸の右手に緑の布を被せると、崩玉を包み込んで、奪い取ってしまった。
「なつみちゃん⁉︎」
もちろんなつみである。
「なつみ…?」
これも、藍染が予想し得なかったこと。
「そうか」
市丸は瞬時になつみがしようとしていることを理解し、彼女を引っ張って藍染から離した。
「早よ逃げ‼︎」
「はい!」
藍染も一足遅く理解した。観察でではなく、感覚で知らされたのだ。
「辞めろォォォオオ‼︎‼︎」
力が抜けていくのを、明かに感じていた。崩玉が壊されていくのを。
襲いかかる藍染からなつみを守ろうと、市丸は再び剣を抜いた。しかし、余裕を失った藍染は加減を忘れてしまい、防衛本能を爆発させて剣を振った。その押しは余りに強く、一撃で市丸の腹を貫いてしまった。
「ウッ…‼︎‼︎」
それに気付いたなつみは、足を止めて振り向いてしまった。
「隊長‼︎‼︎」
「…、アホ‼︎早よ行き‼︎」
先に行かさないよう、逃しはしないと、市丸は藍染の右腕を力一杯掴んだ。
なつみは命令されたが、移動できなかった。市丸を助けなければと思ったから。
「ウリャアッ‼︎‼︎」
なつみが下した決断は、崩玉をマントで包んだままコートのポケットに突っ込んで、藍染に蹴りをお見舞いするというものだった。
「グフッ」
「グゥッ」
藍染が飛ばされると市丸に刺さった斬魄刀が抜けた。
「隊長!すぐ治します!」
すぐになつみが傷口に手を当てる。
「アカン‼︎‼︎」
なつみは気付かなかったが、藍染と接触した瞬間、彼はポケットからマントを抜き取り、崩玉を放り飛ばしていた。崩玉が今度こそと、藍染の中に帰っていく。
市丸は右手を藍染の胸に伸ばした。
ガシッ
しかし、先に掴まれ、腕が引き抜かれた。
「‼︎⁉︎」
なつみの左頬に、市丸の血がかかった。
藍染が斬魄刀を掲げたのを見、市丸は左手でなつみの背中を掴み、最後の力で彼女を背後に投げ飛ばした。
「ギャウッ‼︎」
転がったなつみが、なんとか顔を上げると。
ザンッ………
兄が、斬られた。