第十章
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競技場に設けられた特設の診療所で、なつみはなつみに顔を洗うように言われた。
「シャキッとしてから行って」
「あいよ🤲💦」
「お茶も飲んで」
「あいよ🍵」
それはもう、不思議な光景だった。
「木之本が3人💧」
そのやり取りに、ベッドに移されたスタークが声をかける。
「支えてやるって言っておきながら、まだ動けそうにねぇ。悪いな」
「しょうがないよ。大丈夫、ゆっくりしてて」
「そーだよ❗️なつみのことは、あたしが代わりに守るから、スタークはそこで大人しくしてなよ😤」
ピストル姿のリリネットが、自信たっぷりに宣言した。
「心強いけど、本当に大丈夫?」
「足手纏いにならねぇように、その格好のまま連れてってもらえ。その方が、なつみも扱いやすいだろ」
「けど、スタークさんと離れたら、変身が解けちゃうんじゃ」
「リリネットが大丈夫っつったら、大丈夫だろ」
「うん❗️大丈夫❗️任せて」
恐らくリリネットは胸を張っている。
「なら良いけど」
持ち物確認は、他にも。現世にいた未来のなつみが言う。
「きみのマントは、このままスタークさんに着けといてもらおう。ぼくのはまだ、向こうで必要かもしれないから、そっちのと交換して」
ハリベルに巻いたマントを、虚圏担当のなつみの物と取り替えた。
「ここからきみは手当じゃなく、戦いの中に入っていってもらうよ。向こうに着いたらすぐ、藍染隊長のところに飛ぶんだ。いきなりきみが現れれば、護廷隊もあの3人も、驚いて動きが止まって、ちょっとは冷静に話を聞いてくれるかもしれない」
気を引き締めた顔つきで、なつみは頷いた。
すると、海燕に呼ばれた。
「おい、木之本」
「「「何ですか?」」」
3人で振り向かれてしまった。ゲッとする海燕。訂正する。
「全員で返事すんな!お前だ、お前。この時間の木之本💦」
「はい✋」
自分ですと、挙手をする。
「お前にひとつ、確認しておきたいことがある」間違えないように、現在のなつみの前に立つ。「お前が、俺たち護廷十三隊の戦闘を妨害しようとする理由を教えてくれ 」
なつみは目を見開いてしまった。
「あのな、向こうの2人は総隊長の許可があるから自由にさせているが、お前については奪還の命が出されている。お前の返答次第じゃ、すぐにでもこっから連れ帰って良いんだぜ」
聞きながら、むぅと鼻の穴が膨らむ。
「何の顔だよ💧」
1歩前へ、グイッ。
「破面たちは、ぼくのお友だちなんです!どうしても、助けてあげたいんです!」
意志の強い眼差しに、海燕は鼻からため息をふっと漏らした。
「まぁ、それはそれで良いだろう。虚たちは討伐の対象だが、今回はそれよりも重要な目的がある。破面たちは戦闘不能にさせられれば、最低限、それで良い。だがな、藍染たちはどうする」
胸がきゅっとした。
「これからやろうとしている計画だけじゃねぇ。今まで犯してきた罪は、何をしても許されるもんじゃねぇんだ」
クッと俯き、唇を噛んでしまう。
「護廷十三隊は、藍染惣右介、東仙要、市丸ギンの処刑を完遂させる。その邪魔をするつもりなら、行かせられねぇ」
両手が、ギシギシと震える拳になる。
(市丸隊長ッ…、隊長!)
なつみは答えられなかった。彼女にとって大切で大好きな人たちが、彼女にとっては無意味とも見える戦いを、殺し合いを、してしまっている。戦いを終わらせたい。戦うことをやめさせたい。でもたった1人で、自分が何をしたら良いのかわからない。自分より強い人たちを相手に。
時間は進んでしまう。
「答えろ、木之本。お前が下手に動いて、総隊長がお前もアイツらの仲間だと判断したら、お前も処刑の対象になっちまうんだぞ」
ハッと息を呑んで、顔が上がる。
「何のために、何をしに行くのか、俺に教えろ」
なつみの肩を掴んで、海燕は視線を合わせた。とても不安そうに。
「……ぼ」
口を開いたと同時に、なつみの言葉は遮られてしまった。
「なつみ、あの3人をここまで連れてこい」
「えっ」
スタークだった。
身体は動かせれなかったが、知恵を貸してやることで、なつみを支えようとしてくれた。
「逃すつもりか。んなこと無駄だぞ」
疑う海燕は、スタークに鋭く言った。
「違ぇよ。そうじゃねぇ」
スタークはなつみに向いた。
「なつみには、事情を知る権利がある。3人がどうしてここまでしたのか。全部だ。こいつは俺たちの仲間に違いねぇが、誘拐されて監禁されていたのも事実。本人たちの口から直接、これまでの経緯と、こいつへの謝罪を言わせてやるべきなんだよ。殺しちまったら、あんたらだって、何もわからずじまいになる。話をさせるために、戻って来させるんだよ」
海燕は眉をひそめて聞く。
「今日やらなきゃならねぇのは、空座町の住民たちを守ることだろ。現世か尸魂界に3人がいるのはリスクだ。ここなら連中の計画は進まねぇ。それに、気になるなら、あんたらが付きっきりで見張れば良い。刑の執行は後回しでも良いだろ」
「スタークさん…」
なつみは複雑な気持ちになった。それを見て、スタークは無言で訴えかけた。
(なつみ、答えが出せねぇなら、とにかく時間を稼げ)
強く優しい瞳に、なつみの心は切り替わり、「うん」と頷いた。
「志波副隊長。ぼくは、空座町を守るために、あの3人の侵攻を止めます。そして、聴取のため、一時こちらで身柄を留置したいと思います。必ず総隊長にこの旨を伝え、許可を求めますので、ぼくを現世に行かせてください!お願いしますッ!」
なつみはしっかりと頭を下げた。
そのなつみの言葉を海燕は受け止め、下がる頭に右手を置いた。
「わかった」グシャグシャッと撫でる。「行ってこい、木之本」スンッと手前に手を引き。「そんで、ちゃんと帰って来いよ」
顔を上げたなつみに、ニッと笑って見せた。
「ニッ😁」
「にっ‼️」
未来のなつみの方へ行き、黒腔へ突入しようとした時、外で異変が起きた。
「卯ノ花隊長とツンツンくんが出発した。急ごう。2人より先に向こうに行かなきゃ」
「ツンツンくん?」
はてなマークを浮かばせつつ、手を引っ張られて走っていった。
なつみたちが去っていく背中を見送った海燕は、スタークのベッド脇に椅子を置いて腰掛けた。
「お前、よく頭が回るな」
「…、余計だったか?」
「いや、助かった。ありがとよ」
ハリベルの手当てへ向かう前に、そんな様子をなつみがちらりと見ていた。
「🤭」
不思議な組み合わせだ。
「さすがは1番十刃ってとこだな」
「そういうあんたは、なつみが気まぐれで生き返らせちまった副隊長さん、なんだろ?」
ピクリと海燕の眉が反応した。
「よくわかったな。というか、よく知ってたな」
「誤解すんなよ。敵の情報収集のために聞き出したわけじゃねぇからな。アイツが思い出話をよく、俺たちに聞かせてたんだ。だから、なんとなく、アイツを見るあんたの目を見て、そうなんじゃねぇかと思ったんだ」
「そうかよ」
「あぁ。かわいがってる目だ」
そっとスタークは、巻かれているマントに触れた。なつみの仕業に。それを見ながら海燕は、スタークとの共通点に気が付いた。
「お互い、変なことに巻き込まれちまったな。笑えねぇ冗談だ」
行き止まりから、手を引かれて、別の路へと移されてしまった2人。
「笑っとこうぜ」「護」の刺繍で硬くなった部分に手を被せた。「これが現実なんだからよ」
スタークよりもやや元気そうなグリムジョーが、黙ってこちらにやって来た。ただいまの挨拶をしてやる。
「よぉ、生きてて何よりだ」
「フンッ」
彼なりの、おかえりの挨拶だ。
藍染は、虚化がほとんど解けてしまった、横たわる東仙を見ていた。
「…ありがとう、…狛村。…檜佐木、顔をよく見せてくれ…。虚化の影響で、今はまだ眼が見えるのだ…。今のうちに、お前の顔を見ておきたい…」
東仙の左手が、檜佐木に伸びていく。その時。
ドゴォォンッ‼︎‼︎………
3人の近くで巨大な衝撃が発生し、砂煙が突如、彼らを囲んだ。
「クッ」
「何だッ⁉︎」
爆風に乗って飛んでくる砂から目を守るため、立っている2人は手で顔を覆った。
風が通り過ぎ、辺りが落ち着いて見えてきたのは、忽然と東仙の姿が消えた地面だった。
「東仙…」
「隊長、どこですか⁉︎東仙隊長‼︎」
上空で藍染も、驚きで身動きが取れずにいた。
パリンッ‼︎‼︎
その止まった藍染の後方で、空が割れた。割れ目から、オレンジ色の髪をした見覚えのない死神が、隊長格の霊圧を放ちながら、斬魄刀を振りかざして現れた。
(後ろだ‼︎)
黒い霊子を纏わせた、強烈な一撃を狙う。
ドォン
斬撃が壁にぶち当たったように、残滓が上下左右に広がった。
「きみか…、ウルキオラと戦ったの」
「!」
轟音と暴風の中、藍染とオレンジ頭の間に立っていた。
「クロサキイチゴくん…だっけ?ツンツンくん」
首を少し回し、振り返る藍染は、穏やかに呼びかけた。
「なつみ…。ありがとう。助かったよ」
眉間に皺を寄せるなつみは、唇を噛み、藍染に答えなかった。代わりに、必ず決めなければならなかった絶好のチャンスを逃してしまった一護が、唸るように言った。
「テメェ、やっぱりそっち側なのかよ」
なつみは一護に向け、斬魄刀を構えたまま立つ。
待ち侘びたなつみの姿を視界に捉えた死神たちは、複雑な思いでその場に駆けつけていった。
一護を離れさせようと、なつみは鬼道を使い、集まってくる隊長たちの方へ、彼を放り投げた。
「グアッ‼︎‼︎」
そしてようやく、藍染に話しかける。
「負傷した破面たちを虚夜宮に連れて行きました。残っているのはワンダーワイスだけです」
「そう。ご苦労様。ここは危ないから、君も帰りなさい」
フードを被った頭がやや下がった。
シャキンッ‼︎
「なつみちゃん‼︎‼︎」
「来ないでくださいッ‼︎‼︎」
藍染の正面に回り込み、低いところから彼の喉元に向けて、なつみは斬魄刀を突きつけた。やっと声が届いたのに、ふたりはまだ向き合えない。2つの勢力の間に立つなつみは、護廷隊に背を向けて制止した。
「どういうつもりかな」
見下ろす藍染は言う。
「それはこっちのセリフですよ。ここで何やってんですか。ぼくと一緒に、虚夜宮に帰ってもらいますよ。藍染隊長、市丸隊長‼︎‼︎」
嘲笑うように、藍染はフッと笑った。
ザンッ‼︎‼︎
チャキッ‼︎‼︎
「来ないでくださいって、言いましたよ」
耐えられずに瞬歩で距離を詰めてきた京楽に反応できたなつみは、彼の胸にピストルを構えた。
「なつみちゃん、ダメだよ」
右手に斬魄刀、左手にピストルを持ち、藍染と京楽を止める。
「ダメなのは、春水さんですよ。よくも、スタークさんを」
押し殺して発したその言葉を聞き、京楽は、なつみを引き寄せようと伸ばした手を戻してしまった。
その代わりになつみの腕を掴んだ者がいた。
「下げ」
市丸だ。
「ッ‼︎…ッ‼︎」
振り払おうとグッグッと力を入れても、市丸は手を放さなかった。
「後でいくらでもお説教聞いたるから、なつみちゃんはおうち帰り」
滲んだ瞳が市丸を睨む。ギギギギギッ…、歯を食い縛り溜め込み溜め込み、感情と力を発散させた。
「いい加減にしろ…。ぼくを、これ以上騙すなァッ‼︎‼︎」
ズバァァァンッ‼︎‼︎
なつみの霊圧の質が随分と変わってしまったことに、周囲は驚き、またショックを受けもした。衝動任せに強引に押し出す、怒りのこもった刺々しい霊圧。
(なつみちゃんまで、虚の力に染まってるのか)
戦いを止めること、それを邪魔されないこと、この戦場から全員を撤退させること。それらの願いが頭の中でいっぱいになり、京楽の心配そうに見つめる姿は、なつみの目に映らない。
「ウラァッ‼︎‼︎」
ダァァァンッ‼︎‼︎
右肘を引いてから、なつみは天高く斬魄刀をまっすぐ掲げた。その勢いで更に霊圧と霊力がズドンと増す。近くにいた藍染、市丸、京楽が押された。
「もう誰も、殺さないで‼︎‼︎」
参戦し、対戦相手に血を流させてしまった者たちに届けと、なつみは声を張り上げた。世界が震えるほど、なつみの心が辺りを支配していく。
「頭が高ぇぞ、クソチビ」
なつみの霊圧の隙を縫ってこられたのか、やけにクリアにこの言葉が聞こえてきた。ドキリとして、集中が切れてしまう。
タンッタンッ
「痛っ」
左、右と手首を叩かれ、反射して開いた手から、武器が落ちてしまった。
「うあぁぁぁあ、なつみーっ💦」
「リリネットちゃん‼︎」
落下するリリネットを追いかけようと屈んだら、手首を叩いてきた男に腹の下に腕を回され、抱えられてしまった。目の前で、ムッちゃんの切先が突きつけられる。
「ッ‼︎」
刺されると思い、息が詰まったが、そうではなく、なつみの顔の横を通り過ぎて、ムッちゃんは鞘に収められた。チャキン。腰から視線を、そいつの顔に移す。
「李空‼︎⁉︎」
久しぶりに見る仏頂面と目が合った。
「迷惑かけんな、バカ」
コツン🤛
軽いゲンコツを喰らわせてきた。
「総隊長、木之本を確保しました。これより帰還します」
軍の最後尾にいた元柳斎が応答する。
「うむ。行け」
会釈すると、李空は発とうとして踏み込んだが。
「偉くなったもんやね、李空」
市丸に話しかけられ、止められた。
「せやけど、あと少し足りひんな。帰るんはキミだけにして、なつみちゃんは置いていき」
今度は李空の眉間に皺が寄る。
「いつまでも隊長面するなよ」
市丸は、聞く耳を持たない李空を斬り捨てることにした。柄に手を掛け、ひよ里のように真っ二つにしてやろうと。大丈夫。どうせ藍染が、鏡花水月でフォローしてくれる。が、しかし。
「モフッ‼︎‼︎」
ボカンッ
赤火砲が飛んできた。正直、朝飯前どころか寝ていても払えるほどの弱さだったが、それを飛ばしてきた者の正体を知り、面食らって動けなくなってしまった。
「ウソやん⁉︎サンタ⁉︎」
「サンタぁ⁉️」
「モッ🐮」
「サンタ、ロデオだ」
李空が駆けてきたサンタに、なつみを放り投げた。
「うおッ💦」
駆け上がるサンタは、下から掬うようになつみを背に乗せた。それから、彼女に逃げられないよう、前脚、後脚と大きく蹴り上げ、ロデオを始めた。
「こらっ、サンタ❗️止まれ❗️止まれ❗️止まりなさーいッ❗️💦」
振り落とさないギリギリの線で、うまく暴れる。
「俺はもう、あんたを隊長だなんて思ってない。裏切り者」
李空はサンタも通れる大きな穿界門を開き、一瞬で立ち去った。
平子はポカンと一部始終を見ていた。
「何やねん、今の。誰やねん、あのけったいな霊圧かましてきた子ぉは」
その問いに、砕蜂がボソリと答えた。
「京楽の恋人だ」
「ハァッ⁉︎」ちらっ。「ウソやろ‼︎‼︎」
「一瞬でも、あたしのこと見んで」
藍染が一歩前に出ると、現場にピリついた雰囲気が戻った。幾らも感情の変化も無く、藍染は市丸の前に手を出した。
「ギン、疲れただろう。少し休んでいてくれ」
「良えんですか?」
「私独りで充分だ。片付けて、なつみに早く追いつこう」
なつみは護廷十三隊に計画を阻まれ、戦争を止められず、尸魂界に連れて行かれてしまった。リリネットは行方不明。世界の運命に、否定されてしまった。
「舐められたものじゃな。今に始まったことではないが…。よう見い。この状況で、貴様らに勝機があると思うか」
藍染の率いる兵は、もはや市丸とワンダーワイスのみ。そしてなつみの奪還は果たされた。どう見ても、護廷隊が優勢である。
「私にはよく見えているよ。なつみが君たちに向けて、何をしてしまったか。あの子を救えるのは、私たちでしかなくなった。死神とは、どこまで哀れなんだ」
「シャキッとしてから行って」
「あいよ🤲💦」
「お茶も飲んで」
「あいよ🍵」
それはもう、不思議な光景だった。
「木之本が3人💧」
そのやり取りに、ベッドに移されたスタークが声をかける。
「支えてやるって言っておきながら、まだ動けそうにねぇ。悪いな」
「しょうがないよ。大丈夫、ゆっくりしてて」
「そーだよ❗️なつみのことは、あたしが代わりに守るから、スタークはそこで大人しくしてなよ😤」
ピストル姿のリリネットが、自信たっぷりに宣言した。
「心強いけど、本当に大丈夫?」
「足手纏いにならねぇように、その格好のまま連れてってもらえ。その方が、なつみも扱いやすいだろ」
「けど、スタークさんと離れたら、変身が解けちゃうんじゃ」
「リリネットが大丈夫っつったら、大丈夫だろ」
「うん❗️大丈夫❗️任せて」
恐らくリリネットは胸を張っている。
「なら良いけど」
持ち物確認は、他にも。現世にいた未来のなつみが言う。
「きみのマントは、このままスタークさんに着けといてもらおう。ぼくのはまだ、向こうで必要かもしれないから、そっちのと交換して」
ハリベルに巻いたマントを、虚圏担当のなつみの物と取り替えた。
「ここからきみは手当じゃなく、戦いの中に入っていってもらうよ。向こうに着いたらすぐ、藍染隊長のところに飛ぶんだ。いきなりきみが現れれば、護廷隊もあの3人も、驚いて動きが止まって、ちょっとは冷静に話を聞いてくれるかもしれない」
気を引き締めた顔つきで、なつみは頷いた。
すると、海燕に呼ばれた。
「おい、木之本」
「「「何ですか?」」」
3人で振り向かれてしまった。ゲッとする海燕。訂正する。
「全員で返事すんな!お前だ、お前。この時間の木之本💦」
「はい✋」
自分ですと、挙手をする。
「お前にひとつ、確認しておきたいことがある」間違えないように、現在のなつみの前に立つ。「お前が、俺たち護廷十三隊の戦闘を妨害しようとする理由を教えてくれ 」
なつみは目を見開いてしまった。
「あのな、向こうの2人は総隊長の許可があるから自由にさせているが、お前については奪還の命が出されている。お前の返答次第じゃ、すぐにでもこっから連れ帰って良いんだぜ」
聞きながら、むぅと鼻の穴が膨らむ。
「何の顔だよ💧」
1歩前へ、グイッ。
「破面たちは、ぼくのお友だちなんです!どうしても、助けてあげたいんです!」
意志の強い眼差しに、海燕は鼻からため息をふっと漏らした。
「まぁ、それはそれで良いだろう。虚たちは討伐の対象だが、今回はそれよりも重要な目的がある。破面たちは戦闘不能にさせられれば、最低限、それで良い。だがな、藍染たちはどうする」
胸がきゅっとした。
「これからやろうとしている計画だけじゃねぇ。今まで犯してきた罪は、何をしても許されるもんじゃねぇんだ」
クッと俯き、唇を噛んでしまう。
「護廷十三隊は、藍染惣右介、東仙要、市丸ギンの処刑を完遂させる。その邪魔をするつもりなら、行かせられねぇ」
両手が、ギシギシと震える拳になる。
(市丸隊長ッ…、隊長!)
なつみは答えられなかった。彼女にとって大切で大好きな人たちが、彼女にとっては無意味とも見える戦いを、殺し合いを、してしまっている。戦いを終わらせたい。戦うことをやめさせたい。でもたった1人で、自分が何をしたら良いのかわからない。自分より強い人たちを相手に。
時間は進んでしまう。
「答えろ、木之本。お前が下手に動いて、総隊長がお前もアイツらの仲間だと判断したら、お前も処刑の対象になっちまうんだぞ」
ハッと息を呑んで、顔が上がる。
「何のために、何をしに行くのか、俺に教えろ」
なつみの肩を掴んで、海燕は視線を合わせた。とても不安そうに。
「……ぼ」
口を開いたと同時に、なつみの言葉は遮られてしまった。
「なつみ、あの3人をここまで連れてこい」
「えっ」
スタークだった。
身体は動かせれなかったが、知恵を貸してやることで、なつみを支えようとしてくれた。
「逃すつもりか。んなこと無駄だぞ」
疑う海燕は、スタークに鋭く言った。
「違ぇよ。そうじゃねぇ」
スタークはなつみに向いた。
「なつみには、事情を知る権利がある。3人がどうしてここまでしたのか。全部だ。こいつは俺たちの仲間に違いねぇが、誘拐されて監禁されていたのも事実。本人たちの口から直接、これまでの経緯と、こいつへの謝罪を言わせてやるべきなんだよ。殺しちまったら、あんたらだって、何もわからずじまいになる。話をさせるために、戻って来させるんだよ」
海燕は眉をひそめて聞く。
「今日やらなきゃならねぇのは、空座町の住民たちを守ることだろ。現世か尸魂界に3人がいるのはリスクだ。ここなら連中の計画は進まねぇ。それに、気になるなら、あんたらが付きっきりで見張れば良い。刑の執行は後回しでも良いだろ」
「スタークさん…」
なつみは複雑な気持ちになった。それを見て、スタークは無言で訴えかけた。
(なつみ、答えが出せねぇなら、とにかく時間を稼げ)
強く優しい瞳に、なつみの心は切り替わり、「うん」と頷いた。
「志波副隊長。ぼくは、空座町を守るために、あの3人の侵攻を止めます。そして、聴取のため、一時こちらで身柄を留置したいと思います。必ず総隊長にこの旨を伝え、許可を求めますので、ぼくを現世に行かせてください!お願いしますッ!」
なつみはしっかりと頭を下げた。
そのなつみの言葉を海燕は受け止め、下がる頭に右手を置いた。
「わかった」グシャグシャッと撫でる。「行ってこい、木之本」スンッと手前に手を引き。「そんで、ちゃんと帰って来いよ」
顔を上げたなつみに、ニッと笑って見せた。
「ニッ😁」
「にっ‼️」
未来のなつみの方へ行き、黒腔へ突入しようとした時、外で異変が起きた。
「卯ノ花隊長とツンツンくんが出発した。急ごう。2人より先に向こうに行かなきゃ」
「ツンツンくん?」
はてなマークを浮かばせつつ、手を引っ張られて走っていった。
なつみたちが去っていく背中を見送った海燕は、スタークのベッド脇に椅子を置いて腰掛けた。
「お前、よく頭が回るな」
「…、余計だったか?」
「いや、助かった。ありがとよ」
ハリベルの手当てへ向かう前に、そんな様子をなつみがちらりと見ていた。
「🤭」
不思議な組み合わせだ。
「さすがは1番十刃ってとこだな」
「そういうあんたは、なつみが気まぐれで生き返らせちまった副隊長さん、なんだろ?」
ピクリと海燕の眉が反応した。
「よくわかったな。というか、よく知ってたな」
「誤解すんなよ。敵の情報収集のために聞き出したわけじゃねぇからな。アイツが思い出話をよく、俺たちに聞かせてたんだ。だから、なんとなく、アイツを見るあんたの目を見て、そうなんじゃねぇかと思ったんだ」
「そうかよ」
「あぁ。かわいがってる目だ」
そっとスタークは、巻かれているマントに触れた。なつみの仕業に。それを見ながら海燕は、スタークとの共通点に気が付いた。
「お互い、変なことに巻き込まれちまったな。笑えねぇ冗談だ」
行き止まりから、手を引かれて、別の路へと移されてしまった2人。
「笑っとこうぜ」「護」の刺繍で硬くなった部分に手を被せた。「これが現実なんだからよ」
スタークよりもやや元気そうなグリムジョーが、黙ってこちらにやって来た。ただいまの挨拶をしてやる。
「よぉ、生きてて何よりだ」
「フンッ」
彼なりの、おかえりの挨拶だ。
藍染は、虚化がほとんど解けてしまった、横たわる東仙を見ていた。
「…ありがとう、…狛村。…檜佐木、顔をよく見せてくれ…。虚化の影響で、今はまだ眼が見えるのだ…。今のうちに、お前の顔を見ておきたい…」
東仙の左手が、檜佐木に伸びていく。その時。
ドゴォォンッ‼︎‼︎………
3人の近くで巨大な衝撃が発生し、砂煙が突如、彼らを囲んだ。
「クッ」
「何だッ⁉︎」
爆風に乗って飛んでくる砂から目を守るため、立っている2人は手で顔を覆った。
風が通り過ぎ、辺りが落ち着いて見えてきたのは、忽然と東仙の姿が消えた地面だった。
「東仙…」
「隊長、どこですか⁉︎東仙隊長‼︎」
上空で藍染も、驚きで身動きが取れずにいた。
パリンッ‼︎‼︎
その止まった藍染の後方で、空が割れた。割れ目から、オレンジ色の髪をした見覚えのない死神が、隊長格の霊圧を放ちながら、斬魄刀を振りかざして現れた。
(後ろだ‼︎)
黒い霊子を纏わせた、強烈な一撃を狙う。
ドォン
斬撃が壁にぶち当たったように、残滓が上下左右に広がった。
「きみか…、ウルキオラと戦ったの」
「!」
轟音と暴風の中、藍染とオレンジ頭の間に立っていた。
「クロサキイチゴくん…だっけ?ツンツンくん」
首を少し回し、振り返る藍染は、穏やかに呼びかけた。
「なつみ…。ありがとう。助かったよ」
眉間に皺を寄せるなつみは、唇を噛み、藍染に答えなかった。代わりに、必ず決めなければならなかった絶好のチャンスを逃してしまった一護が、唸るように言った。
「テメェ、やっぱりそっち側なのかよ」
なつみは一護に向け、斬魄刀を構えたまま立つ。
待ち侘びたなつみの姿を視界に捉えた死神たちは、複雑な思いでその場に駆けつけていった。
一護を離れさせようと、なつみは鬼道を使い、集まってくる隊長たちの方へ、彼を放り投げた。
「グアッ‼︎‼︎」
そしてようやく、藍染に話しかける。
「負傷した破面たちを虚夜宮に連れて行きました。残っているのはワンダーワイスだけです」
「そう。ご苦労様。ここは危ないから、君も帰りなさい」
フードを被った頭がやや下がった。
シャキンッ‼︎
「なつみちゃん‼︎‼︎」
「来ないでくださいッ‼︎‼︎」
藍染の正面に回り込み、低いところから彼の喉元に向けて、なつみは斬魄刀を突きつけた。やっと声が届いたのに、ふたりはまだ向き合えない。2つの勢力の間に立つなつみは、護廷隊に背を向けて制止した。
「どういうつもりかな」
見下ろす藍染は言う。
「それはこっちのセリフですよ。ここで何やってんですか。ぼくと一緒に、虚夜宮に帰ってもらいますよ。藍染隊長、市丸隊長‼︎‼︎」
嘲笑うように、藍染はフッと笑った。
ザンッ‼︎‼︎
チャキッ‼︎‼︎
「来ないでくださいって、言いましたよ」
耐えられずに瞬歩で距離を詰めてきた京楽に反応できたなつみは、彼の胸にピストルを構えた。
「なつみちゃん、ダメだよ」
右手に斬魄刀、左手にピストルを持ち、藍染と京楽を止める。
「ダメなのは、春水さんですよ。よくも、スタークさんを」
押し殺して発したその言葉を聞き、京楽は、なつみを引き寄せようと伸ばした手を戻してしまった。
その代わりになつみの腕を掴んだ者がいた。
「下げ」
市丸だ。
「ッ‼︎…ッ‼︎」
振り払おうとグッグッと力を入れても、市丸は手を放さなかった。
「後でいくらでもお説教聞いたるから、なつみちゃんはおうち帰り」
滲んだ瞳が市丸を睨む。ギギギギギッ…、歯を食い縛り溜め込み溜め込み、感情と力を発散させた。
「いい加減にしろ…。ぼくを、これ以上騙すなァッ‼︎‼︎」
ズバァァァンッ‼︎‼︎
なつみの霊圧の質が随分と変わってしまったことに、周囲は驚き、またショックを受けもした。衝動任せに強引に押し出す、怒りのこもった刺々しい霊圧。
(なつみちゃんまで、虚の力に染まってるのか)
戦いを止めること、それを邪魔されないこと、この戦場から全員を撤退させること。それらの願いが頭の中でいっぱいになり、京楽の心配そうに見つめる姿は、なつみの目に映らない。
「ウラァッ‼︎‼︎」
ダァァァンッ‼︎‼︎
右肘を引いてから、なつみは天高く斬魄刀をまっすぐ掲げた。その勢いで更に霊圧と霊力がズドンと増す。近くにいた藍染、市丸、京楽が押された。
「もう誰も、殺さないで‼︎‼︎」
参戦し、対戦相手に血を流させてしまった者たちに届けと、なつみは声を張り上げた。世界が震えるほど、なつみの心が辺りを支配していく。
「頭が高ぇぞ、クソチビ」
なつみの霊圧の隙を縫ってこられたのか、やけにクリアにこの言葉が聞こえてきた。ドキリとして、集中が切れてしまう。
タンッタンッ
「痛っ」
左、右と手首を叩かれ、反射して開いた手から、武器が落ちてしまった。
「うあぁぁぁあ、なつみーっ💦」
「リリネットちゃん‼︎」
落下するリリネットを追いかけようと屈んだら、手首を叩いてきた男に腹の下に腕を回され、抱えられてしまった。目の前で、ムッちゃんの切先が突きつけられる。
「ッ‼︎」
刺されると思い、息が詰まったが、そうではなく、なつみの顔の横を通り過ぎて、ムッちゃんは鞘に収められた。チャキン。腰から視線を、そいつの顔に移す。
「李空‼︎⁉︎」
久しぶりに見る仏頂面と目が合った。
「迷惑かけんな、バカ」
コツン🤛
軽いゲンコツを喰らわせてきた。
「総隊長、木之本を確保しました。これより帰還します」
軍の最後尾にいた元柳斎が応答する。
「うむ。行け」
会釈すると、李空は発とうとして踏み込んだが。
「偉くなったもんやね、李空」
市丸に話しかけられ、止められた。
「せやけど、あと少し足りひんな。帰るんはキミだけにして、なつみちゃんは置いていき」
今度は李空の眉間に皺が寄る。
「いつまでも隊長面するなよ」
市丸は、聞く耳を持たない李空を斬り捨てることにした。柄に手を掛け、ひよ里のように真っ二つにしてやろうと。大丈夫。どうせ藍染が、鏡花水月でフォローしてくれる。が、しかし。
「モフッ‼︎‼︎」
ボカンッ
赤火砲が飛んできた。正直、朝飯前どころか寝ていても払えるほどの弱さだったが、それを飛ばしてきた者の正体を知り、面食らって動けなくなってしまった。
「ウソやん⁉︎サンタ⁉︎」
「サンタぁ⁉️」
「モッ🐮」
「サンタ、ロデオだ」
李空が駆けてきたサンタに、なつみを放り投げた。
「うおッ💦」
駆け上がるサンタは、下から掬うようになつみを背に乗せた。それから、彼女に逃げられないよう、前脚、後脚と大きく蹴り上げ、ロデオを始めた。
「こらっ、サンタ❗️止まれ❗️止まれ❗️止まりなさーいッ❗️💦」
振り落とさないギリギリの線で、うまく暴れる。
「俺はもう、あんたを隊長だなんて思ってない。裏切り者」
李空はサンタも通れる大きな穿界門を開き、一瞬で立ち去った。
平子はポカンと一部始終を見ていた。
「何やねん、今の。誰やねん、あのけったいな霊圧かましてきた子ぉは」
その問いに、砕蜂がボソリと答えた。
「京楽の恋人だ」
「ハァッ⁉︎」ちらっ。「ウソやろ‼︎‼︎」
「一瞬でも、あたしのこと見んで」
藍染が一歩前に出ると、現場にピリついた雰囲気が戻った。幾らも感情の変化も無く、藍染は市丸の前に手を出した。
「ギン、疲れただろう。少し休んでいてくれ」
「良えんですか?」
「私独りで充分だ。片付けて、なつみに早く追いつこう」
なつみは護廷十三隊に計画を阻まれ、戦争を止められず、尸魂界に連れて行かれてしまった。リリネットは行方不明。世界の運命に、否定されてしまった。
「舐められたものじゃな。今に始まったことではないが…。よう見い。この状況で、貴様らに勝機があると思うか」
藍染の率いる兵は、もはや市丸とワンダーワイスのみ。そしてなつみの奪還は果たされた。どう見ても、護廷隊が優勢である。
「私にはよく見えているよ。なつみが君たちに向けて、何をしてしまったか。あの子を救えるのは、私たちでしかなくなった。死神とは、どこまで哀れなんだ」