第十章
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絨毯がしっかりとスタークをキャッチした。
(酷い、酷いよッ)
絨毯の端を引っ張り、京楽から充分に距離を取って、物陰に隠れられるよう、素早く移動した。追手がいないことを確認して、先に応急処置を施す。スタークの胸に手を添えて、回道を行った。
「なつみ…、やっぱり、来てたのか」
「シッ、喋らないで」
傷はかなり深く、意識が薄くなっていた。
「お前のカレシ…、強すぎだ…」
「黙って!傷に障る!」
回復させたいのだが、悲しいことに、スタークの身体は昇華が始まっていた。
「ッ、ダメ。いっちゃダメ‼︎」
スタークはゆっくりと、なつみにある物を差し出した。
「お前が持ってろ」
一丁のピストルだ。
「スターク」
涙声のリリネットの声がした。なつみは両手で受け取る。
「リリネットちゃん、怪我してない?」
グスンッ
「あたしは大丈夫。スタークが守ってくれたから。でも、スターク、消えかかってるの。助けてあげて、なつみ!」
「絶対助けるよ!」
ぎゅっとピストルを抱きしめてから、腰の右側に差した。
ぐーっと集中して、回復を試みるが、京楽の一撃は強烈で、昇華の進行の方がなつみの回道を上回っている。
(本気で斬ったんだ。スタークさんが一体、何をしたっていうんですか、春水さん‼︎‼︎)
怒りの感情も込み上げ、なつみの開いていた手が拳になり、左手の薬指にはめた物の感触が、嫌に際立った。
「クッ……‼︎‼︎」
複雑な思いに駆られたが、そのおかげで、別の手段へと切り替えることができた。自分の首元に手をやり、マントを取ると、それをスタークに巻きつけていった。
「治す、治す、絶対治す」
上空では騒々しく、戦闘の音が響いてくる。
「とりあえず帰ろう」
ハリベルの無事を祈りつつ、移動を再開する。
ポールに辿り着き、黒腔に突入しようとした刹那、なつみは腕を掴まれ、未来の自分に引き留められた。
「何、放してよ!」
「待って」
もうひとりは、スタークに巻いたマントを捲ってみせた。
「ほら、全然治ってないよ。術が発動してない」
「嘘だよ、そんなの!だって、ちゃんと‼︎…ああ、そんな‼︎」
見ると、本当に何も変わっていなかった。
「指輪直した時みたいに、力使ったのに!何で⁉︎」
傷口は開いたまま。ただ、マントに血が染み込んでいるだけだった。
「スタークさんが諦めてるんだよ」
「え⁉︎どうして!」
信じがたい憶測を聞かされ、なつみがパッとスタークの顔を見ると、彼は薄っすら笑っていた。
「ははっ、なつみが、ふたりいる。変なこと、願うんじゃ、なかったな」
これにはリリネットも怒る。
「何笑ってんの、スターク‼︎‼︎このままだと死んじゃうんだよ‼︎消えちゃうんだよ⁉︎あたしとなつみに会えなくなっちゃうんだよ‼︎独りで良いなんて、思ってんじゃねー‼︎‼︎」
なつみが、リリネットが人の姿に戻れるように、腰からピストルを抜こうとしたが、これも未来の自分に止められた。
「ダメ。まだ危ないから、リリネットちゃんはそのままでいて」空を一度見上げる。「スタークさんの言い分は、移動しながら聞いてあげて。時間が無くなる」
「わかった。卯ノ花隊長もいてくれると良いな」
マントを巻き直して、なつみはスタークをキッと睨んだ。そして一喝。
「バカ❗️」
言われて、彼はそっぽを向いた。
「…るせぇよ」
黒腔の中。
「さぁ、わがままを通したい理由を、ぼくが納得いくように言ってみなさい!」
「そーだ!そーだ!」
プンスカプンスカ。
スタークの傷口は広がろうとするも、なつみの意地でそうはさせない。現状維持が続きまくるだけ。依然、スタークは苦しい状況にある。なつみの集中が続く限り、時間稼ぎはできる。
「お願い、スタークさん。死んでも良いなんて、思わないで」
くぅとなつみは下唇を噛んだ。
風を切って進む、3人だけの空間。スタークは正直、あのまま消えてなくなりたかった。京楽に挑み、そして負けた。その時点で自分の望みが2つ、成就したはずだったから。
「俺は…」
そんな告白はダサくて、特に見栄を張っていたい2人の前では言いたくなかった。
「お前のカレシに負けた」
だが、なつみが別れの瞬間に間に合ってしまったのなら、伝えなければならないのだろうと悟った。なつみにも、諦めて欲しくて。
「俺はずっと、弱くなりたいと、思っていた。俺の強さで、敵は死に、仲間も死に。群がってられる、弱い連中が、羨ましかった」
そんなものは、過去の話なのに。
「俺はようやく、俺より強い奴と、会えたんだ。もう良いんだ」
なつみが好む答えではないのも、わかっている。
「あの人のとこに帰れ、なつみ。お前を隣で守るのは、あの人だ」
振り向かずに聞くなつみの頭が、やや下を向いた。
「俺じゃねぇ…。それがはっきりした」
めでたしめでたしと、したいのだろう。
なつみが立ち止まると、絨毯も止まる。
「なつみを幸せにできるのは、隊長さんだ」
負けた者の引き際として、最も格好の付くセリフだった。ありきたりな。
なつみはガバッとスタークの胸ぐらを掴んで、一通り黙って聞いた感想をぶち撒けてやる。
「スタークさんは矛盾してるよ‼︎‼︎」
ウググググと込み上げたものを、鼻を啜って押し込める。
「ひとりぼっちが嫌で弱くなりたいって言うくせに、春水さんより弱かったから、独りで勝手にいなくなろうとしてる‼︎‼︎」
啜っても、目からは溢れてくる。
「おかしいよ‼︎誤魔化してるよ‼︎本心を言ってよ‼︎じゃなきゃ、ぼく、わかってあげれないんだから‼︎‼︎」
心配そうに斬魄刀がふよふよと浮いている横で、なつみの大泣きが始まった。
「このままじゃぼく、ぼくらを置いてけぼりにしたスタークさんのことも嫌いになっちゃうし、スタークさんをこんなにした春水さんのことも大っ嫌いになっちゃうんだからぁ‼︎‼︎ふたりとも嫌いだよ‼︎幸せになんか、なれるわけないよ‼︎‼︎バカぁ‼︎」
うわぁーんと、スタークの胸に顔を付けて涙を流す。
「なつみの言う通りだよ!バカスターク!カッコつけて、全部背負い込もうとすんな!可哀想な自分に浸るな!あたしらを残して、死のうとすんな!そんな未来、誰も望んでないんだからね‼︎‼︎」
リリネットも精一杯訴えた。
「スタークさん、ぼくたち、スタークさんの一生懸命な気持ちを笑ったりしないから、正直に教えて。お願い」
自分の選択に、最も大切な存在であるふたりから、猛反対をくらったスターク。涙に濡れる頬を見て、思わず、忍ばせておきたかった、格好の悪い自分が顔を出してきた。
「俺は、あの人の隣で幸せそうにするお前を見たくねぇんだ。そんなの、耐えられねぇんだよ。死んだ方が…マシだ」
なつみは、ぎゅっと額をスタークの胸に付けた。スタークの本音が聞けたのは良かったのに。この、遣る瀬無さが。
「スタークさんが、そんな悲しいことを思っちゃうのは、…ぼくのせいなんだね」
「ッ、違」
咄嗟に起き上がろうとしたが、痛みが走った。
「ごめんね…」
右手をなつみのほっぺに伸ばし、優しく包むように添えた。
「お前は悪くない。俺が一方的に、お前のことを想ってるだけだからな」
親指で撫でる。
「スタークさん」
なつみのほっぺの柔らかさに癒されて、目が細くなってしまう。
「なつみ、駆けつけてくれて、ありがとな。最期に、お前と会えて良かった」
ゆっくりと、名残惜しいが、右手を下ろしていく。
「なつみ…、大好きだ」
瞼は重くなり、完全に閉じようとする。
そして、どうしても言わなければいけない言葉を遺す。恥ずかしくて、笑われてしまうかもしれない、とてもとても大切な気持ちを。控えめに、小さく。謝るのは、こちらの方だと。
「愛してる…」
力が抜け、落ちるスタークの手。涙でいっぱいのなつみの瞳が大きくなる。
「ああっ」
伸ばして良い。伸ばしても良い。伸ばさなきゃ、
パシンッ…!
いけない。
「ぼくも!」
スタークの手を取り、なつみは絶対に聞こえるように、はっきり言った。
「ぼくも、スタークさんのこと、愛してる‼︎‼︎」
なつみの手の中で、ピクリと反応があった。
「弱いってわかったら、誰かと一緒にいられるって思ってるんなら、その誰かは、ぼくとリリネットちゃんだよ‼︎‼︎スタークさんのとこいるよ!」
振り解けない、なつみの手の力。
「それにさ!強い春水さんと会えたように、スタークさんが恋したいって思える人とも、これから出会えるかもしれないよ!ぼくが、妬いちゃうくらいの素敵な人と!世界は広いんだもん!絶対どこかに、スタークさんの運命の人がいるから!生きて!おっきい魚になって、ぼくを後悔させてよ!死にたいほど愛してくれたくせに、ぼくより良い人を見つけたって、ぼくに、幸せな後悔をさせてよ!」
握る手が、なつみの胸元に移動する。
「ぼくだって、ちょっぴりスタークさんに恋してるもん。でも、スタークさんに好きな人ができたら、その恋を全力で応援するんだもん。ぼく、スタークさんとお別れしたくないから、お友だちでいたいの。何があっても仲良しでいて、困ったことがあったら、そばにいて欲しいし、いてあげたいんだよ」
そんな関係になれると信じている。仲間たち6人が、ずっとなつみに示してきた友情が証明しているから。
「大好きだから。スタークさんがいなくなった世界なんて、ぼく、嫌だよ。一緒に帰ろう」
これまで命の危機に陥ったなつみを救ってくれた人たちのように、ありったけの愛を込めて霊力を送り、離れていってしまったスタークの気持ちにも、手を伸ばそうとした。
「リリネットちゃんと3人で、おうち帰ろう」
下へと降りていくスタークは、その進む先を肩越しに見てみた。どこまでも暗く、何も無い。これが本来辿るべき運命の路だろう。
だが上を向けば、眩しい夢が、彼に手を差し伸べていた。動き出す勇気があれば、きっと、笑顔いっぱい、涙ちょっぴりの、愛しくてたまらない日々の続きを辿れる路が、未来に拓いて延びていくに違いない。
「スタークさん」
そんな声で名前を呼ばれたら、もう、応えなきゃ、可哀想じゃないか。
(敵わねぇな…。負けっぱなしじゃねぇか)
なつみにとって京楽を選ぶのに、スタークが虚であるからという理由は無い。スタークの弱さにも無い。ただスタークとは、友人でいたいのだと。なつみの心の支えであってほしいのだと。なつみなりに、両想いでいられるスタークとの付き合い方を考えてくれている。例え恋人として結ばれなくとも、それで終わらせることは無いのだ。リリネットとなつみを置き去りにして、自分は意地を張ってひとりぼっち。そんな嫌なことばっかりの選択に、希望がつながっていくはずもないから。
(そうか…、その路があったか)
ぎゅっ……
「うぅ、しゅたぁくしゃん」
「なぁ、なつみ」
なつみは黒腔の暗がりの中、スタークの温かさに包まれていた。
「仕方ねぇから、お前のカレシの手が届かないお前の隣りは、俺が支えて守ってやるよ」
すっかりしょっぱくなったほっぺに、触れるようなキスを。
「お前のわがまま聞いてやるから、もう泣くな」
抱きしめる腕に、力が戻ってくる。
「3人で、帰るぞ」
笑顔も、戻ってきた。
「うん‼︎」
「うん‼︎😭」
みんな泣き笑いだ。
「リリネット、お前、いつから水鉄砲になったんだよ」
銃口からダーダーである。
「うるさいっ❗️」
「はははっ❗️」
そんな喜びのシーンに、元来た道から追いついてしまった者たちが乱入してきた。
「いつまで道草食ってんの!早く走って!」
それは未来のなつみだった。
「ハリベルさん⁉︎」
そして彼女は、ぐったりしているハリベルを担いでいた。スタークと同じく、最も深刻な傷口を塞ぐように、マントが巻かれている。
2組は出口に向かい、駆けていく。なつみは励まそうと、ハリベルのそばに行った。
「すぐ治療してもらうから、安心してね」
この声の方に、ハリベルは頭を動かす。
「なつみ…」痛みで声が詰まるが、ハリベルは続けた。「戻るなら、気を付けろ。奴等、何をしてくるかわからない。この傷を負わせたのは、藍染だ」
「え‼︎⁉︎」
「あの3人の言うことに、耳を貸すな。目的のためなら、仲間を斬り捨てることも厭わないぞ」
「そんな‼︎‼︎」
ハリベルの言葉こそ耳を疑うことだが、確かに、戦争を選ぶ思考回路。なつみの見てきた3人を相手にするとは、思わない方が良さそうだ。
「早く終わらせなきゃ。早く」
(酷い、酷いよッ)
絨毯の端を引っ張り、京楽から充分に距離を取って、物陰に隠れられるよう、素早く移動した。追手がいないことを確認して、先に応急処置を施す。スタークの胸に手を添えて、回道を行った。
「なつみ…、やっぱり、来てたのか」
「シッ、喋らないで」
傷はかなり深く、意識が薄くなっていた。
「お前のカレシ…、強すぎだ…」
「黙って!傷に障る!」
回復させたいのだが、悲しいことに、スタークの身体は昇華が始まっていた。
「ッ、ダメ。いっちゃダメ‼︎」
スタークはゆっくりと、なつみにある物を差し出した。
「お前が持ってろ」
一丁のピストルだ。
「スターク」
涙声のリリネットの声がした。なつみは両手で受け取る。
「リリネットちゃん、怪我してない?」
グスンッ
「あたしは大丈夫。スタークが守ってくれたから。でも、スターク、消えかかってるの。助けてあげて、なつみ!」
「絶対助けるよ!」
ぎゅっとピストルを抱きしめてから、腰の右側に差した。
ぐーっと集中して、回復を試みるが、京楽の一撃は強烈で、昇華の進行の方がなつみの回道を上回っている。
(本気で斬ったんだ。スタークさんが一体、何をしたっていうんですか、春水さん‼︎‼︎)
怒りの感情も込み上げ、なつみの開いていた手が拳になり、左手の薬指にはめた物の感触が、嫌に際立った。
「クッ……‼︎‼︎」
複雑な思いに駆られたが、そのおかげで、別の手段へと切り替えることができた。自分の首元に手をやり、マントを取ると、それをスタークに巻きつけていった。
「治す、治す、絶対治す」
上空では騒々しく、戦闘の音が響いてくる。
「とりあえず帰ろう」
ハリベルの無事を祈りつつ、移動を再開する。
ポールに辿り着き、黒腔に突入しようとした刹那、なつみは腕を掴まれ、未来の自分に引き留められた。
「何、放してよ!」
「待って」
もうひとりは、スタークに巻いたマントを捲ってみせた。
「ほら、全然治ってないよ。術が発動してない」
「嘘だよ、そんなの!だって、ちゃんと‼︎…ああ、そんな‼︎」
見ると、本当に何も変わっていなかった。
「指輪直した時みたいに、力使ったのに!何で⁉︎」
傷口は開いたまま。ただ、マントに血が染み込んでいるだけだった。
「スタークさんが諦めてるんだよ」
「え⁉︎どうして!」
信じがたい憶測を聞かされ、なつみがパッとスタークの顔を見ると、彼は薄っすら笑っていた。
「ははっ、なつみが、ふたりいる。変なこと、願うんじゃ、なかったな」
これにはリリネットも怒る。
「何笑ってんの、スターク‼︎‼︎このままだと死んじゃうんだよ‼︎消えちゃうんだよ⁉︎あたしとなつみに会えなくなっちゃうんだよ‼︎独りで良いなんて、思ってんじゃねー‼︎‼︎」
なつみが、リリネットが人の姿に戻れるように、腰からピストルを抜こうとしたが、これも未来の自分に止められた。
「ダメ。まだ危ないから、リリネットちゃんはそのままでいて」空を一度見上げる。「スタークさんの言い分は、移動しながら聞いてあげて。時間が無くなる」
「わかった。卯ノ花隊長もいてくれると良いな」
マントを巻き直して、なつみはスタークをキッと睨んだ。そして一喝。
「バカ❗️」
言われて、彼はそっぽを向いた。
「…るせぇよ」
黒腔の中。
「さぁ、わがままを通したい理由を、ぼくが納得いくように言ってみなさい!」
「そーだ!そーだ!」
プンスカプンスカ。
スタークの傷口は広がろうとするも、なつみの意地でそうはさせない。現状維持が続きまくるだけ。依然、スタークは苦しい状況にある。なつみの集中が続く限り、時間稼ぎはできる。
「お願い、スタークさん。死んでも良いなんて、思わないで」
くぅとなつみは下唇を噛んだ。
風を切って進む、3人だけの空間。スタークは正直、あのまま消えてなくなりたかった。京楽に挑み、そして負けた。その時点で自分の望みが2つ、成就したはずだったから。
「俺は…」
そんな告白はダサくて、特に見栄を張っていたい2人の前では言いたくなかった。
「お前のカレシに負けた」
だが、なつみが別れの瞬間に間に合ってしまったのなら、伝えなければならないのだろうと悟った。なつみにも、諦めて欲しくて。
「俺はずっと、弱くなりたいと、思っていた。俺の強さで、敵は死に、仲間も死に。群がってられる、弱い連中が、羨ましかった」
そんなものは、過去の話なのに。
「俺はようやく、俺より強い奴と、会えたんだ。もう良いんだ」
なつみが好む答えではないのも、わかっている。
「あの人のとこに帰れ、なつみ。お前を隣で守るのは、あの人だ」
振り向かずに聞くなつみの頭が、やや下を向いた。
「俺じゃねぇ…。それがはっきりした」
めでたしめでたしと、したいのだろう。
なつみが立ち止まると、絨毯も止まる。
「なつみを幸せにできるのは、隊長さんだ」
負けた者の引き際として、最も格好の付くセリフだった。ありきたりな。
なつみはガバッとスタークの胸ぐらを掴んで、一通り黙って聞いた感想をぶち撒けてやる。
「スタークさんは矛盾してるよ‼︎‼︎」
ウググググと込み上げたものを、鼻を啜って押し込める。
「ひとりぼっちが嫌で弱くなりたいって言うくせに、春水さんより弱かったから、独りで勝手にいなくなろうとしてる‼︎‼︎」
啜っても、目からは溢れてくる。
「おかしいよ‼︎誤魔化してるよ‼︎本心を言ってよ‼︎じゃなきゃ、ぼく、わかってあげれないんだから‼︎‼︎」
心配そうに斬魄刀がふよふよと浮いている横で、なつみの大泣きが始まった。
「このままじゃぼく、ぼくらを置いてけぼりにしたスタークさんのことも嫌いになっちゃうし、スタークさんをこんなにした春水さんのことも大っ嫌いになっちゃうんだからぁ‼︎‼︎ふたりとも嫌いだよ‼︎幸せになんか、なれるわけないよ‼︎‼︎バカぁ‼︎」
うわぁーんと、スタークの胸に顔を付けて涙を流す。
「なつみの言う通りだよ!バカスターク!カッコつけて、全部背負い込もうとすんな!可哀想な自分に浸るな!あたしらを残して、死のうとすんな!そんな未来、誰も望んでないんだからね‼︎‼︎」
リリネットも精一杯訴えた。
「スタークさん、ぼくたち、スタークさんの一生懸命な気持ちを笑ったりしないから、正直に教えて。お願い」
自分の選択に、最も大切な存在であるふたりから、猛反対をくらったスターク。涙に濡れる頬を見て、思わず、忍ばせておきたかった、格好の悪い自分が顔を出してきた。
「俺は、あの人の隣で幸せそうにするお前を見たくねぇんだ。そんなの、耐えられねぇんだよ。死んだ方が…マシだ」
なつみは、ぎゅっと額をスタークの胸に付けた。スタークの本音が聞けたのは良かったのに。この、遣る瀬無さが。
「スタークさんが、そんな悲しいことを思っちゃうのは、…ぼくのせいなんだね」
「ッ、違」
咄嗟に起き上がろうとしたが、痛みが走った。
「ごめんね…」
右手をなつみのほっぺに伸ばし、優しく包むように添えた。
「お前は悪くない。俺が一方的に、お前のことを想ってるだけだからな」
親指で撫でる。
「スタークさん」
なつみのほっぺの柔らかさに癒されて、目が細くなってしまう。
「なつみ、駆けつけてくれて、ありがとな。最期に、お前と会えて良かった」
ゆっくりと、名残惜しいが、右手を下ろしていく。
「なつみ…、大好きだ」
瞼は重くなり、完全に閉じようとする。
そして、どうしても言わなければいけない言葉を遺す。恥ずかしくて、笑われてしまうかもしれない、とてもとても大切な気持ちを。控えめに、小さく。謝るのは、こちらの方だと。
「愛してる…」
力が抜け、落ちるスタークの手。涙でいっぱいのなつみの瞳が大きくなる。
「ああっ」
伸ばして良い。伸ばしても良い。伸ばさなきゃ、
パシンッ…!
いけない。
「ぼくも!」
スタークの手を取り、なつみは絶対に聞こえるように、はっきり言った。
「ぼくも、スタークさんのこと、愛してる‼︎‼︎」
なつみの手の中で、ピクリと反応があった。
「弱いってわかったら、誰かと一緒にいられるって思ってるんなら、その誰かは、ぼくとリリネットちゃんだよ‼︎‼︎スタークさんのとこいるよ!」
振り解けない、なつみの手の力。
「それにさ!強い春水さんと会えたように、スタークさんが恋したいって思える人とも、これから出会えるかもしれないよ!ぼくが、妬いちゃうくらいの素敵な人と!世界は広いんだもん!絶対どこかに、スタークさんの運命の人がいるから!生きて!おっきい魚になって、ぼくを後悔させてよ!死にたいほど愛してくれたくせに、ぼくより良い人を見つけたって、ぼくに、幸せな後悔をさせてよ!」
握る手が、なつみの胸元に移動する。
「ぼくだって、ちょっぴりスタークさんに恋してるもん。でも、スタークさんに好きな人ができたら、その恋を全力で応援するんだもん。ぼく、スタークさんとお別れしたくないから、お友だちでいたいの。何があっても仲良しでいて、困ったことがあったら、そばにいて欲しいし、いてあげたいんだよ」
そんな関係になれると信じている。仲間たち6人が、ずっとなつみに示してきた友情が証明しているから。
「大好きだから。スタークさんがいなくなった世界なんて、ぼく、嫌だよ。一緒に帰ろう」
これまで命の危機に陥ったなつみを救ってくれた人たちのように、ありったけの愛を込めて霊力を送り、離れていってしまったスタークの気持ちにも、手を伸ばそうとした。
「リリネットちゃんと3人で、おうち帰ろう」
下へと降りていくスタークは、その進む先を肩越しに見てみた。どこまでも暗く、何も無い。これが本来辿るべき運命の路だろう。
だが上を向けば、眩しい夢が、彼に手を差し伸べていた。動き出す勇気があれば、きっと、笑顔いっぱい、涙ちょっぴりの、愛しくてたまらない日々の続きを辿れる路が、未来に拓いて延びていくに違いない。
「スタークさん」
そんな声で名前を呼ばれたら、もう、応えなきゃ、可哀想じゃないか。
(敵わねぇな…。負けっぱなしじゃねぇか)
なつみにとって京楽を選ぶのに、スタークが虚であるからという理由は無い。スタークの弱さにも無い。ただスタークとは、友人でいたいのだと。なつみの心の支えであってほしいのだと。なつみなりに、両想いでいられるスタークとの付き合い方を考えてくれている。例え恋人として結ばれなくとも、それで終わらせることは無いのだ。リリネットとなつみを置き去りにして、自分は意地を張ってひとりぼっち。そんな嫌なことばっかりの選択に、希望がつながっていくはずもないから。
(そうか…、その路があったか)
ぎゅっ……
「うぅ、しゅたぁくしゃん」
「なぁ、なつみ」
なつみは黒腔の暗がりの中、スタークの温かさに包まれていた。
「仕方ねぇから、お前のカレシの手が届かないお前の隣りは、俺が支えて守ってやるよ」
すっかりしょっぱくなったほっぺに、触れるようなキスを。
「お前のわがまま聞いてやるから、もう泣くな」
抱きしめる腕に、力が戻ってくる。
「3人で、帰るぞ」
笑顔も、戻ってきた。
「うん‼︎」
「うん‼︎😭」
みんな泣き笑いだ。
「リリネット、お前、いつから水鉄砲になったんだよ」
銃口からダーダーである。
「うるさいっ❗️」
「はははっ❗️」
そんな喜びのシーンに、元来た道から追いついてしまった者たちが乱入してきた。
「いつまで道草食ってんの!早く走って!」
それは未来のなつみだった。
「ハリベルさん⁉︎」
そして彼女は、ぐったりしているハリベルを担いでいた。スタークと同じく、最も深刻な傷口を塞ぐように、マントが巻かれている。
2組は出口に向かい、駆けていく。なつみは励まそうと、ハリベルのそばに行った。
「すぐ治療してもらうから、安心してね」
この声の方に、ハリベルは頭を動かす。
「なつみ…」痛みで声が詰まるが、ハリベルは続けた。「戻るなら、気を付けろ。奴等、何をしてくるかわからない。この傷を負わせたのは、藍染だ」
「え‼︎⁉︎」
「あの3人の言うことに、耳を貸すな。目的のためなら、仲間を斬り捨てることも厭わないぞ」
「そんな‼︎‼︎」
ハリベルの言葉こそ耳を疑うことだが、確かに、戦争を選ぶ思考回路。なつみの見てきた3人を相手にするとは、思わない方が良さそうだ。
「早く終わらせなきゃ。早く」