第十章
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黒腔を行く途中、フーラーが追いついてきて、背中に乗せてくれた。
「すぅっごぃ、揺れる、けど、はやぃ、はや〜い」
空座町の隣町で出口を開けてもらい、ワンダーワイスとはそこでお別れ。
「送ってくれて、ありがとう。ワンダーワイス、無茶なことしちゃダメだからね。いっしょに帰るんだからね。約束だよ」
「アウゥ」
指切りに小指同士を絡めたら、ワンダーワイスが身体を寄せてきた。背中を摩ってあげる。
「なつみ…」
「ぼくも気を付ける。約束する」
現世の地に降りると、背後で道が閉ざされた。
「えっと…、こっちぃなんだよね」
出てまっすぐと言われていたが、目前に広がる景色は閑静な街だった。戦いの気配など、微塵も感じない。
「どこぉ…❓」
まっすぐ、まっすぐ、まっすぐ…と言えど、不安になってなんとなく右折してしまった。
「ちょっと待ったぁッ‼️‼️」
「うぎゃあッ‼️‼️💦」
方向転換して歩き出したところで、背後から大声で叫ばれた。聞き覚えのある声で。
「そっちじゃないよ❗️」
振り向けば、自分と同じコートを着た自分がいた。
「あれ⁉️ついてきたの❓」
「違うよ」
姿を隠すためにフードを被っていたが、外して、相手からも見えるようにした。こちらに駆け寄ってくれる。
「ついてきたんじゃなくて、あっちとは別のぼくだよ。こっちの破面の手当がしたくてさ。2回目なんだ✌️」
「ゲッ😵」
思わず「面倒」だと思ってしまった。
そして、ふたりのなつみの元に、新たに駆けつける者がいた。
「見つけたか」
紳士なあの人だ。
「先生‼️」
わぁッと、久しぶりに会った、懐かしの雀部に抱きついた。
「おおっ」
少々驚いたが、再会の歓喜に熱く抱きつくなつみを見て、すぐに顔がほころんだ。
「本物だな…」
「言っときますけど、ぼくも本物ですよ」
横から厳しいツッコミ付きで。
「ん、もしかして、助っ人って」
腕から力を抜いて、なつみは雀部を見上げた。
「ぼくはそうだけど、先生は、たまたま見つかっちゃっただけ。まさか、あそこで出くわすとは思わなかったもんなぁ」
「残念ながらな。私の仕事は、ここにある結界の周辺で、『異常』が無いか、見て回ることだ」
『異常』と言ったところで、未来のなつみを見た。
「そそっ、見て回ってますよね。先生、ぼくらのために、結界を開けてもらえます?😙」
雀部はため息を吐いた。
「一応確認してくれたか。わかっている。元柳斎殿には後ほどお許しを頂くとして、今は見つかるなよ」
「はい❗️」
なつみはなつみに話しかける。
「中に入る前に、この場所を覚えておいて。何年先になっても覚えてられるくらい、しっかりとね」
そう言われて、ギクッとする。
「そんな先から来たの⁉︎」
「それはきみの自由だよ。どれだけのんびりしても構わない。いつか必ずこの日に帰ってこれば良いの。その日まで、この景色を覚えておくこと。さぁ、周りをよーく見て。会える場所がこことは限らないけど、たぶんここだから」
「はぁい…」
とことこと右回りをして、観察する。
「手当を済ませて、虚圏に運ぶばっかりの破面たちを1箇所に集めてある。結界の中に入ったら、そこまで瞬間移動するよ。ぼくが連れてく。フードをしっかり被ってね」
なつみはこくんと頷いた。
「たぶん大丈夫」
「信じる。じゃあ、行こう」
「なつみ」
「「はい」」
ふたりで返事した。プッと笑ってしまう。
「済まない」咳払いをする。「言いたいことがあったが、今はやめておこう。私もお前を信じるよ」
雀部が結界に手を添え、ふたりのなつみは手を繋ぐ。未来のなつみが現在のなつみにフードを被せ、自分の方も被った。
「お願いします」
結界の壁に穴が開き、高濃度の霊圧が爆風となって吹き出してきた。
「ううッ‼︎⁉︎」
「これが隊長格の死闘だよ。怖いよね」
ぎゅっと握る手に力が籠った。
「でも行くよ。せーのッ」
雀部は地面に砂埃が上がるのを見た。
「済まない、なつみ」
力んだ手が、やや乱暴に入り口を閉した。
ジャンプしてから着地すると、なつみの視界の先で、黒焦げの服を着たアパッチ、ミラ・ローズ、スンスン、それからパンツ一丁のクールホーンが地面に寝かされていた。
「大変‼︎」
ポールを置き、破面たちのそばに駆けていった。
「腕が無いってことは、アヨンを呼んだの?それにこの霊圧」
3人から漂う残り香のような霊圧は。
「総隊長」
未来のなつみは鬼道で結界を張っていた。
「これでオッケー。フード取って。黒腔の準備するよ」
絨毯を広げて、作業を開始する。
「力を消耗したくなかったから、腕は戻してないけど、他の傷は応急処置してある。復活して、また戦いに行かれても困るから、ほどほどにしたんだ。アパッチたちは乱菊さんと雛森副隊長と戦ってたけど、アヨンを出したら、駆けつけた会長と檜佐木副隊長も巻き込んで倒しちゃって、総隊長が相手になることになったの。吉良副隊長が独りでだけど、副隊長たちの治療をしてるから、向こうは心配無いよ。シャロさんは、なんだかよくわかんないけど、弓親さんと戦って、身ぐるみ剥がされたらしいよ。霊力がギリギリのとこまで減らされてて危なかったけど、なんとか保ったよ」
その時、結界の外から誰かがやって来た。
「入れてください」
「どうぞ」
「あ‼︎」
これは驚いた。なつみ、男バージョンの義骸であった。義魂丸が入っており、自立している。
「戦況は」
「ワンダーワイスが加勢して、破面たちが優勢になっています。仮面の軍勢も来たところです」
この義魂丸は未来から持ち込まれたらしく、現在の死神たちが知っているはずのない名をスラスラと言っている。なつみでも知らないことを。
「ヴァイザード?」
幕の張られた空を指して、義骸が説明してくれる。
「あそこにいます。100年前、藍染によって虚化の実験体にされてしまった、当時の隊長と副隊長たちのことです」
「藍染隊長を恨んでて、この戦争に乗じて、敵討しようとしてる」
なつみの目はスタークを捉えた。帰刃状態だ。仮面を着け、解放された斬魄刀で戦う2人の男性を相手にしている。
(春水さんがどこにもいない。虚圏にもいなかった。尸魂界かな。良かった)
そんな安堵の表情を見たなつみは、陰で顔を曇らせた。
ポールのコードを掴み、未来のなつみが黒腔を開く準備を整えた。
「きみも搬送の手伝いをして。先にこの3人を運ぼう。シャロさんはまた後で」
「はい」
「ぼくはここの見張りと、黒腔を開け続けてるからね。なるべく早く帰って来て。出口に着いたら、すぐに向こうのぼくと会えるはずだよ」
テキパキと義骸が絨毯にミラ・ローズを乗せ、アパッチを背負う間、なつみは空を見上げている。
「リリネットちゃんはスタークさんのとこにいるでしょ。アパッチたちはここにいる。従属官も連れて来てるって聞いたんだけどさ。…シャロさん意外のバラガンさんの従属官はどこ」
聞かれたくなくて、早く移動を始めて欲しかったが、逃れられない質問だった。2度目だ。
「亡くなったよ」
質問した方も、予想できていた。言い訳も、既に聞いたものであろうことも。だからなつみは、黙って拳を身体の横で握りしめた。
それでも、微かにでも慰められるよう、未来のなつみが言葉をかける。
「結局、ぼくらも運命を変えるのが怖いんだ。誰かの生死を覆すことのリスクが怖い。でも、今を生きるきみなら、どんな運命を辿るのか、今の時点で自由に決められるんだ。その選択する権利は、他のみんなにもある。ぼくらが未来から戻って来たのは、運命を変えるよりも、良い未来をつくって欲しいから。助けられるなら、思い切り助けてあげて。あっちの戦いも、この人たちを運べたら止めに行けるから。順番に、できることを片付けていこう」
早くしなければ、京楽が影から出て、スタークを刺してしまう。
「想像できる?もしもぼくが虚夜宮に閉じ込められたまま、何も知らず、何もできずに、ただ、破面たちが殺されてしまった事実と向き合わなきゃならなくなるところを」
視線を、空からこちらに移してくれた。
「…できるよ」
「画が浮かぶくらい、はっきりと」
「うん」
「ぼくは思うよ。それは現実のひとつだったんじゃないかって」
「えっ」
ハッと息を呑む。
「最初の可能性だよ。でもさ、どれだけ悲しいシーンが思い浮かんでも、今ならそれを否定できる。何をするか選べるように、ぼくらでチャンスをつくるから、後悔しない決断をして。できないことに悔やんでないで、できることに目を向けるんだ‼︎」
「できること…」
スンスンが、まだ寝かされていた。
「そうだね。理想は自分で描いて掴みに行く。後は成るように成る、だよね。ごめん、迷って。すぐ行くよ。開けて」
「了解😌」
なつみはスンスンをおぶった。
黒腔を出た先で、また驚くことが起きていた。
「おう、来たか木之本」
「し、志波副隊長⁉️」
「まーた、お前らが2人いるとこに居合わせちまったな。そっちのデカいのを預かる」
義骸の方には。
「虎徹副隊長も❗️」
「久しぶり、木之本さん。元気そうでよかった。この人は私が引き取るね」
なつみにはなつみが来てくれる。
「卯ノ花隊長が破面も助けるようにって、虎徹副隊長に言ってくださったんだって。志波副隊長はね、ぼくを迎えに来たところを無理矢理引き留めたの」
「総隊長命令もあるから、仕方なしな!」
遠くから海燕が声を張り上げた。
なつみん家(仮)付近は、先の戦闘で崩れており、負傷者の手当をするには、安全が確保できないとのことで、この建設中の競技場に運び込むことにしたようだ。
「さ、次はシャロさんでしょ。重そうだけど、がんばって連れてきてね」
「あ、服用意しといてね。あの人、パンツ一丁だったから」
「そうだった❗️」
往復をして、クールホーンの搬送も完了。
「ウルキオラの気配がしない…」
ヤミーの怒りで隠れているだけだと、思いたかった。だが、未来のなつみが静かに首を横に振り、知らされる。
「ッ…、ねぇ、ヤミーの腕を切り落としたり、グリムジョーが攻め込んでいったのってさ、相手、死神だったの」
絨毯を返して答える。
「黒崎一護くん。オレンジ色のツンツン頭の高校生が、死神代行っていう活動をしてるんだって。空座町の子でさ、浦原元隊長に鍛えられたんだって。空座町で王鍵を作ろうとしてることと、織姫さんを誘拐したことで、彼らは藍染隊長を敵対視してる。所属はしてないけど、護廷隊側についてる。でも、彼らが破面たちをやっつけてるからって、恨んじゃダメ。いつも先手を打ってきたのは、虚夜宮側だったから。どっちも正義で動いてる」
抱えた絨毯を握る手に力がこもる。声も籠る。
「どっちも悪いよ。やりすぎだよ」
なつみは、硬く縮こまっている背中を押して、黒腔へと向かわせた。
「うん。その通り。だから辞めさせよう」
「だったら、そっちはヤミーを止めて‼︎‼︎これ以上戦わせないで‼︎‼︎」
そう言い捨てて、残り5人の破面を回収するため、なつみは黒腔に飛び込んでいった。
「無理な頼みだな」
死覇装を着る死神はこう言う。
「ぼく、天蓋の上にいきますね」
虚夜宮製の服を着続ける死神はこう言った。
現世に帰ってくると、即座に空を見上げる。
「お帰り。次、向こう。フードしっかり」
「そんな…」
胸を裂かれたスタークが真っ逆様に落下するところだった。そのすぐ上空で、血の滴る刀を握っていたのは。
「春水さん」
「行って」
一瞬で真下を目指す。
致命傷を与え、敵が落ちていくのを目で追っていた京楽は、100年振りに会ったかつての同僚に話しかけられ、意識を2人に移した。
「…流儀に酔って、勝ちを捨てるのは、三下のすることさ。隊長は、そんな悠長なこと言ってらんないの。…良い子になろうとしなさんな。貸しがあろうが、借りがあろうが、戦争なんて始めた瞬間から、どっちも悪だよ」
晴れた空は青く、風が吹く。
「ご免よ、…なつみちゃん」
「すぅっごぃ、揺れる、けど、はやぃ、はや〜い」
空座町の隣町で出口を開けてもらい、ワンダーワイスとはそこでお別れ。
「送ってくれて、ありがとう。ワンダーワイス、無茶なことしちゃダメだからね。いっしょに帰るんだからね。約束だよ」
「アウゥ」
指切りに小指同士を絡めたら、ワンダーワイスが身体を寄せてきた。背中を摩ってあげる。
「なつみ…」
「ぼくも気を付ける。約束する」
現世の地に降りると、背後で道が閉ざされた。
「えっと…、こっちぃなんだよね」
出てまっすぐと言われていたが、目前に広がる景色は閑静な街だった。戦いの気配など、微塵も感じない。
「どこぉ…❓」
まっすぐ、まっすぐ、まっすぐ…と言えど、不安になってなんとなく右折してしまった。
「ちょっと待ったぁッ‼️‼️」
「うぎゃあッ‼️‼️💦」
方向転換して歩き出したところで、背後から大声で叫ばれた。聞き覚えのある声で。
「そっちじゃないよ❗️」
振り向けば、自分と同じコートを着た自分がいた。
「あれ⁉️ついてきたの❓」
「違うよ」
姿を隠すためにフードを被っていたが、外して、相手からも見えるようにした。こちらに駆け寄ってくれる。
「ついてきたんじゃなくて、あっちとは別のぼくだよ。こっちの破面の手当がしたくてさ。2回目なんだ✌️」
「ゲッ😵」
思わず「面倒」だと思ってしまった。
そして、ふたりのなつみの元に、新たに駆けつける者がいた。
「見つけたか」
紳士なあの人だ。
「先生‼️」
わぁッと、久しぶりに会った、懐かしの雀部に抱きついた。
「おおっ」
少々驚いたが、再会の歓喜に熱く抱きつくなつみを見て、すぐに顔がほころんだ。
「本物だな…」
「言っときますけど、ぼくも本物ですよ」
横から厳しいツッコミ付きで。
「ん、もしかして、助っ人って」
腕から力を抜いて、なつみは雀部を見上げた。
「ぼくはそうだけど、先生は、たまたま見つかっちゃっただけ。まさか、あそこで出くわすとは思わなかったもんなぁ」
「残念ながらな。私の仕事は、ここにある結界の周辺で、『異常』が無いか、見て回ることだ」
『異常』と言ったところで、未来のなつみを見た。
「そそっ、見て回ってますよね。先生、ぼくらのために、結界を開けてもらえます?😙」
雀部はため息を吐いた。
「一応確認してくれたか。わかっている。元柳斎殿には後ほどお許しを頂くとして、今は見つかるなよ」
「はい❗️」
なつみはなつみに話しかける。
「中に入る前に、この場所を覚えておいて。何年先になっても覚えてられるくらい、しっかりとね」
そう言われて、ギクッとする。
「そんな先から来たの⁉︎」
「それはきみの自由だよ。どれだけのんびりしても構わない。いつか必ずこの日に帰ってこれば良いの。その日まで、この景色を覚えておくこと。さぁ、周りをよーく見て。会える場所がこことは限らないけど、たぶんここだから」
「はぁい…」
とことこと右回りをして、観察する。
「手当を済ませて、虚圏に運ぶばっかりの破面たちを1箇所に集めてある。結界の中に入ったら、そこまで瞬間移動するよ。ぼくが連れてく。フードをしっかり被ってね」
なつみはこくんと頷いた。
「たぶん大丈夫」
「信じる。じゃあ、行こう」
「なつみ」
「「はい」」
ふたりで返事した。プッと笑ってしまう。
「済まない」咳払いをする。「言いたいことがあったが、今はやめておこう。私もお前を信じるよ」
雀部が結界に手を添え、ふたりのなつみは手を繋ぐ。未来のなつみが現在のなつみにフードを被せ、自分の方も被った。
「お願いします」
結界の壁に穴が開き、高濃度の霊圧が爆風となって吹き出してきた。
「ううッ‼︎⁉︎」
「これが隊長格の死闘だよ。怖いよね」
ぎゅっと握る手に力が籠った。
「でも行くよ。せーのッ」
雀部は地面に砂埃が上がるのを見た。
「済まない、なつみ」
力んだ手が、やや乱暴に入り口を閉した。
ジャンプしてから着地すると、なつみの視界の先で、黒焦げの服を着たアパッチ、ミラ・ローズ、スンスン、それからパンツ一丁のクールホーンが地面に寝かされていた。
「大変‼︎」
ポールを置き、破面たちのそばに駆けていった。
「腕が無いってことは、アヨンを呼んだの?それにこの霊圧」
3人から漂う残り香のような霊圧は。
「総隊長」
未来のなつみは鬼道で結界を張っていた。
「これでオッケー。フード取って。黒腔の準備するよ」
絨毯を広げて、作業を開始する。
「力を消耗したくなかったから、腕は戻してないけど、他の傷は応急処置してある。復活して、また戦いに行かれても困るから、ほどほどにしたんだ。アパッチたちは乱菊さんと雛森副隊長と戦ってたけど、アヨンを出したら、駆けつけた会長と檜佐木副隊長も巻き込んで倒しちゃって、総隊長が相手になることになったの。吉良副隊長が独りでだけど、副隊長たちの治療をしてるから、向こうは心配無いよ。シャロさんは、なんだかよくわかんないけど、弓親さんと戦って、身ぐるみ剥がされたらしいよ。霊力がギリギリのとこまで減らされてて危なかったけど、なんとか保ったよ」
その時、結界の外から誰かがやって来た。
「入れてください」
「どうぞ」
「あ‼︎」
これは驚いた。なつみ、男バージョンの義骸であった。義魂丸が入っており、自立している。
「戦況は」
「ワンダーワイスが加勢して、破面たちが優勢になっています。仮面の軍勢も来たところです」
この義魂丸は未来から持ち込まれたらしく、現在の死神たちが知っているはずのない名をスラスラと言っている。なつみでも知らないことを。
「ヴァイザード?」
幕の張られた空を指して、義骸が説明してくれる。
「あそこにいます。100年前、藍染によって虚化の実験体にされてしまった、当時の隊長と副隊長たちのことです」
「藍染隊長を恨んでて、この戦争に乗じて、敵討しようとしてる」
なつみの目はスタークを捉えた。帰刃状態だ。仮面を着け、解放された斬魄刀で戦う2人の男性を相手にしている。
(春水さんがどこにもいない。虚圏にもいなかった。尸魂界かな。良かった)
そんな安堵の表情を見たなつみは、陰で顔を曇らせた。
ポールのコードを掴み、未来のなつみが黒腔を開く準備を整えた。
「きみも搬送の手伝いをして。先にこの3人を運ぼう。シャロさんはまた後で」
「はい」
「ぼくはここの見張りと、黒腔を開け続けてるからね。なるべく早く帰って来て。出口に着いたら、すぐに向こうのぼくと会えるはずだよ」
テキパキと義骸が絨毯にミラ・ローズを乗せ、アパッチを背負う間、なつみは空を見上げている。
「リリネットちゃんはスタークさんのとこにいるでしょ。アパッチたちはここにいる。従属官も連れて来てるって聞いたんだけどさ。…シャロさん意外のバラガンさんの従属官はどこ」
聞かれたくなくて、早く移動を始めて欲しかったが、逃れられない質問だった。2度目だ。
「亡くなったよ」
質問した方も、予想できていた。言い訳も、既に聞いたものであろうことも。だからなつみは、黙って拳を身体の横で握りしめた。
それでも、微かにでも慰められるよう、未来のなつみが言葉をかける。
「結局、ぼくらも運命を変えるのが怖いんだ。誰かの生死を覆すことのリスクが怖い。でも、今を生きるきみなら、どんな運命を辿るのか、今の時点で自由に決められるんだ。その選択する権利は、他のみんなにもある。ぼくらが未来から戻って来たのは、運命を変えるよりも、良い未来をつくって欲しいから。助けられるなら、思い切り助けてあげて。あっちの戦いも、この人たちを運べたら止めに行けるから。順番に、できることを片付けていこう」
早くしなければ、京楽が影から出て、スタークを刺してしまう。
「想像できる?もしもぼくが虚夜宮に閉じ込められたまま、何も知らず、何もできずに、ただ、破面たちが殺されてしまった事実と向き合わなきゃならなくなるところを」
視線を、空からこちらに移してくれた。
「…できるよ」
「画が浮かぶくらい、はっきりと」
「うん」
「ぼくは思うよ。それは現実のひとつだったんじゃないかって」
「えっ」
ハッと息を呑む。
「最初の可能性だよ。でもさ、どれだけ悲しいシーンが思い浮かんでも、今ならそれを否定できる。何をするか選べるように、ぼくらでチャンスをつくるから、後悔しない決断をして。できないことに悔やんでないで、できることに目を向けるんだ‼︎」
「できること…」
スンスンが、まだ寝かされていた。
「そうだね。理想は自分で描いて掴みに行く。後は成るように成る、だよね。ごめん、迷って。すぐ行くよ。開けて」
「了解😌」
なつみはスンスンをおぶった。
黒腔を出た先で、また驚くことが起きていた。
「おう、来たか木之本」
「し、志波副隊長⁉️」
「まーた、お前らが2人いるとこに居合わせちまったな。そっちのデカいのを預かる」
義骸の方には。
「虎徹副隊長も❗️」
「久しぶり、木之本さん。元気そうでよかった。この人は私が引き取るね」
なつみにはなつみが来てくれる。
「卯ノ花隊長が破面も助けるようにって、虎徹副隊長に言ってくださったんだって。志波副隊長はね、ぼくを迎えに来たところを無理矢理引き留めたの」
「総隊長命令もあるから、仕方なしな!」
遠くから海燕が声を張り上げた。
なつみん家(仮)付近は、先の戦闘で崩れており、負傷者の手当をするには、安全が確保できないとのことで、この建設中の競技場に運び込むことにしたようだ。
「さ、次はシャロさんでしょ。重そうだけど、がんばって連れてきてね」
「あ、服用意しといてね。あの人、パンツ一丁だったから」
「そうだった❗️」
往復をして、クールホーンの搬送も完了。
「ウルキオラの気配がしない…」
ヤミーの怒りで隠れているだけだと、思いたかった。だが、未来のなつみが静かに首を横に振り、知らされる。
「ッ…、ねぇ、ヤミーの腕を切り落としたり、グリムジョーが攻め込んでいったのってさ、相手、死神だったの」
絨毯を返して答える。
「黒崎一護くん。オレンジ色のツンツン頭の高校生が、死神代行っていう活動をしてるんだって。空座町の子でさ、浦原元隊長に鍛えられたんだって。空座町で王鍵を作ろうとしてることと、織姫さんを誘拐したことで、彼らは藍染隊長を敵対視してる。所属はしてないけど、護廷隊側についてる。でも、彼らが破面たちをやっつけてるからって、恨んじゃダメ。いつも先手を打ってきたのは、虚夜宮側だったから。どっちも正義で動いてる」
抱えた絨毯を握る手に力がこもる。声も籠る。
「どっちも悪いよ。やりすぎだよ」
なつみは、硬く縮こまっている背中を押して、黒腔へと向かわせた。
「うん。その通り。だから辞めさせよう」
「だったら、そっちはヤミーを止めて‼︎‼︎これ以上戦わせないで‼︎‼︎」
そう言い捨てて、残り5人の破面を回収するため、なつみは黒腔に飛び込んでいった。
「無理な頼みだな」
死覇装を着る死神はこう言う。
「ぼく、天蓋の上にいきますね」
虚夜宮製の服を着続ける死神はこう言った。
現世に帰ってくると、即座に空を見上げる。
「お帰り。次、向こう。フードしっかり」
「そんな…」
胸を裂かれたスタークが真っ逆様に落下するところだった。そのすぐ上空で、血の滴る刀を握っていたのは。
「春水さん」
「行って」
一瞬で真下を目指す。
致命傷を与え、敵が落ちていくのを目で追っていた京楽は、100年振りに会ったかつての同僚に話しかけられ、意識を2人に移した。
「…流儀に酔って、勝ちを捨てるのは、三下のすることさ。隊長は、そんな悠長なこと言ってらんないの。…良い子になろうとしなさんな。貸しがあろうが、借りがあろうが、戦争なんて始めた瞬間から、どっちも悪だよ」
晴れた空は青く、風が吹く。
「ご免よ、…なつみちゃん」