第九章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
スタークは自分のベッドで眠っていた。布団の中から、リリネットが部屋を出ていくのを聞く。
「スタークぅ、今日も寝過ぎだよ❗️先行くからね❗️」
「おー…」
扉が閉まったのを確認し、モソッと、コソッと起きた。
(やーべ)
布団を捲ると、いろいろと濡れていた。
(やべぇ…💧)
ヤバくなったリネンをかき集めて床に置き、着替えた。そしてクリーニング班に連絡を。
「スターク様もでしたか。気が回らず、失礼いたしました。すぐにお取り替えに伺いますね」
情けない気分の中、引っかかることがひとつ。
(俺『も』…?)
会議室には、なんだか見覚えのある面子が揃っていた、というか、残っていた。
「相変わらず遅ぇーなぁ、スターク」
ノイトラ。
「寝坊が許されるご身分は良いよね。別に羨ましくないけど」
ザエルアポロ。
「ん…」
コーヒーを淹れたマグカップを差し出してくれるグリムジョー。
「ありがとう」受け取って、席に着く。「もうみんな朝飯済んだのか?」
「とーっくに。リリネットちゃんは畑行ってるで」
市丸。
「来ていない子たちもいるんだけどね」藍染。「ワンダーワイスが二日酔いになってしまって、要が介抱しているよ。朝食どころではないらしい」
「…なつみは?」
ワンダーワイスが飲酒をするなど考えられない。原因は昨夜の、酒を溢してしまった風呂に入ったことだろう。だとすると、『来ていない子たち』に含まれるのは、なつみもということにならないか。
「起きてへん。今日はもう起きられへんて。あの子も二日酔いや。ワンダーワイスとは逆で、大人しーくベッドの中でじっとしとるわ」
「やはり、なつみに酒を近づけない方が良さそうだね」
「それずっと言ってますよ、ボク」
スタークに、イングリッシュマフィンのモーニングプレートが運ばれてきた。食べ始めながら、何故こんな居心地の悪い状況になっているのか、話を聞く。
「それで、どうして俺が来るのを待ってたんだ」
「いただきます」と手を合わせて、マフィンを手に取る。
「それがよぉ、出ちまったんだよ。昨日の夜」
ヤミーのセリフ的には、お化けが出たように聞こえるが、ニヤついている。
「出たって、何がだ」
藍染も笑みを浮かべながら、ヤミーに続く。
「酔っ払いキス魔だよ」
「…(⁉︎)」
「君の枕元に現れなかったか聞きたくて、みんなここで待っていたんだ」
スタークの手は止まり、マフィンも口に入れたところで止まってしまった。目だけを動かして、周りを見る。みんなの視線が、スタークに集中していた。飲み込んでから答える。
「なつみなら来てねぇよ。部屋にはリリネットしか」
「そーゆーことじゃねぇんだよ」
デカい身体を机に乗り出して、ヤミーはスタークに迫った。
言葉を遮られたスタークは、コーヒーを啜りつつ、今朝得た情報を頭の中で素早く整理する。そうしていたら、ヤミーがはっきりと言ってきた。
「夢ん中で、なつみとヤったかって、きいてんだよ」
「ブフッ‼︎ゴホッ、ゲホッ」
コーヒーで咽せるほどの聞きたくなかった問いかけに、多くの手がかりがカチカチと繋がった。それはこの反応で、向こうも同じように感じているらしい。
「それはそうだろうね。君を差し置いて、私たちのところに来るはずがないから」
口元を手の甲で拭く。
「来るって何だよ。たまたま夢にあいつが出てきただけだろ。ただの想像じゃねぇか。わざわざそんなくだらねぇこと聞くために残ってたのか?趣味悪ぃだろ」
「どんな風になつみと過ごしたのか、知りたいんだよ。忘れてしまわないように、話して思い出しておきたいのもあるしね」
つまり、昨夜なつみと夢の中でセックスをしたメンバーが揃っているということだ。
「誤解せんといて。ボクはそんな夢見てへんから」そう言ったのは市丸。「ボクが見たんは、なつみちゃんがおらんかったことや」
「部屋から抜け出してたのか」
「ちゃう。…、とも言えんのか。けどちゃうわ。なつみちゃんはボクの隣りで寝とったんやけど、姿が見えんかったんよ」
部屋が暗かったなり、布団に被ってるなりして、目に見えなかっただけじゃないのかと、スタークは訝しがったが、そうではない。
「なつみちゃんはなぁ、他の人の夢ん中に入って行けるんよ」
「は?」
「てっきり京楽さんとこ、また行ったんかて思っとったけど、ちゃうかったわぁ。みんなのヤラシイ話聞いて、確信した。なつみちゃんとムッちゃんは酔っ払ってもうて、能力が暴走したんよ。ちゅうしたなって、ムラムラしとる人らの夢に、遊びに行ってもうたんや」
市丸の説明に、焦りと寒気を感じるスターク。
「嘘だろ…。本物のなつみだったってのか?」
「そうや」
「しかも、一晩で6人に…」
スタークは右手を目元に当て、ショックが重くのしかかる頭を支えていた。そうすると、夢で見たことを思い出してしまう。彼らも振り返る。
「なつみって、エッロいところにホクロあるんだな。自分でも見えねぇ、ヤったヤツしか見れねぇところによ」
見覚えのないなつみの全身を見たこと。
「ワンダーワイスに胸揉まれたときは、全然反応しねぇのに、抱かれりゃ感じるらしいな。良い声で『あんあん』言わせれたぜ」
聞き覚えのない声を聞いたこと。
「快楽に溺れる悲鳴も耳障り良かったけど、恍惚とした表情もそそられたなぁ。いろいろ試してみながら、僕に縋り付いてくるなつみの愛らしさといったら、堪らなかったね。君も、極上の一夜を過ごしたんでしょう?」
なつみの涙を飲み込んだ、強欲な自分を。
「グリムジョーも、したのか」
「あぁ」
言葉少ないグリムジョーに代わり、藍染が補足する。
「彼はね、夢の中で左腕を取り戻していたそうなんだ。だから余計に嬉しくて、思う存分なつみを味わい、楽しんだらしいよ」
最近のなつみとグリムジョーの関係を見ていると、優しさに満ちた友情ばかり目立っていたが、この事実を聞くと、彼もなつみに惹かれている者の1人だということを、思い知らされる。
「現実離れし過ぎてたんだ。本人相手にしてるなんて、思わねぇよ。お前だって、そうだったんだろ、スターク」
両手を机に突いて、ザッとスタークは立ち上がった。
「お前ら、よくそんな話、平気で喋ってられるな。あいつが、なつみがダウンしてるのは、二日酔いだけじゃねぇんじゃねぇのか。全員泣かせたんだろ‼︎‼︎抱けりゃ、それで良いのかよ‼︎」
そこで、グッと飛び出しそうになった言葉があったが、なんとか堪えた。代わりに、ダンッと机を殴り、熱り立って席を離れていった。
スタークが退室し、残された者たちは、彼の怒り様を受けて反省するのだろうか。残念ながら、そうはならなかった。そもそもが違っていたのだ。
「やはり、スタークは気付くことなく、最後までできたようだね」
「ズリぃ…のか?」
「僕らだってやるにはやれたんだ。それは良い思い出になったでしょ?でも、僕らの求める理想のなつみが、いくら思い通りに応えてくれても、満たされなかった」
「あんなの、オレらの望むなつみじゃねぇってことだな」
「結局な」
「けど、本当のところはわからんやん。夢は夢やし。なつみちゃんが認めんかったら、ただの幻想や」
彼らの世界から無事に抜け出せたなつみと、残ったなつみが居たらしい。記憶のなつみと、望まれたなつみ。ふたつの姿が見せた夢が5パターンあった。そして6つめだけは、なつみのイメージが一貫していた。どの段階で異変に気付けたのかを知りたかったのに、酔っ払いキス魔にはならず、涙を流していたと。
「最後になつみが選ぶのは、スタークなのかな」
「さぁな。アイツの本能は、誰でも構わねぇらしいから、どうなるかなんて、わかんねーよ」
「謝りに行けんだ。オレらと違ぇのは確かだろ」
なつみの部屋に着き、息を整え、落ち着かせてから扉をノックする。
「なつみ、入って良いか」
「……」
微かに声がした。数秒後、扉が独りでに開かれた。
「入れ」
「悪いな」
声だけがスタークに対応してくれた。スタークは礼を言って1歩入り、静かに扉を閉めた。
部屋は薄暗く、はっきりとは見えなかったが、ベッドから軋む音と生地が擦れる音がした。そちらへ向かう。
「スタークさん、おはよう」
「なつみ、辛いんだってな」
布団から頭だけ出している、目の細いなつみがいた。
「お見舞いに来てくれたの?ありがとう。ごめんね、起きれなくて」
「良いよ」
隣りに椅子を持ってきて腰掛ける。
「頭が痛いのとね、お腹も変に痛いんだ。トイレに行きたい痛いじゃなくて、もっと違うの」
スタークの方を向いて、なつみは少し丸まった。布団の上から手を置いてやる。
「悪かった。ごめんな」
もそっと頭を動かした。
「なんでスタークさんが謝るの?お酒を溢したのは、ヤミーとザエポンだよ」
「そうなんだけどな…」
「…?」
多少でも回復できたらと、なつみの額に手を当ててみる。
「冷たい、スタークさんの手」
「悪い。嫌か?」
離すと、なつみの両手がスタークの手を握ってきた。
「二日酔いはね、お酒を抜かないと良くならないから、傷を治すやり方と違うんだよ」
「そうなのか」
「お水飲んで、じっとしてるのがいちばんかも。心配してくれて、ありがとう」
なつみの手はいつものように暖かかった。
様子を見ていて、スタークは気付いた。
「なつみ、昨日の夜のこと、覚えてるか?」
「お風呂入ったときのこと?あんね…、リリネットちゃんと寝転んだ辺りまでは、ギリ記憶にあるけど、どうやってここにたどり着いたか、わかんない」
ドスコイ背中流し屋を覚えていない。
「夢は?」
「夢なんて、見たかもわかんないよ。全然覚えてないもん。怠くて痛くて気持ち悪くて、それで起きて、隊長に『今日ムリっす』って言ったとこから覚えてる」
6人に抱かれたことを覚えていないらしい。だが、腹痛が酔い以外の原因を示しているように見える。話しても、真相はわからず仕舞いで終わるだろう。余計な混乱を避けるために隠しつつ、自分の仕出かしたことには謝ろうと思った。そう考えていると、なつみも不調ながら頭を働かせたようだ。
「スタークさんは?良い夢見れたの?」
どう答えて良いかわからず、スタークは困って瞬きしかできなかった。
「お風呂にゆっくり浸かって、ぽかぽかになったでしょ?いつもより、良く眠れたんじゃない?」
叩かれた挙句、お湯をブッかけられるという、ゆっくりとは程遠い所業を受けたことは、なつみが元気になってから教えることにしよう。下手に興奮させて、身体に障ると可哀想だから。
「あぁ。夢にお前が出てきた」
「そうなの?何したの?」
「………、キス」
「👀‼️⁉️あうッ😣」
掻い摘んで、極端にシンプルにまとめて発した答えが、なつみを驚かせ、彼女は痛みに襲われた。
「変な夢見ないでよぉ…」
縮こまる。
「本当にな」
「きっとあれでしょ。ぼくが酔ったの見たから、酔っ払いキス魔になるの想像しちゃったんでしょ。忘れて、忘れて。それ、悪い夢だから☝️))」
人差し指を立てて振った。強い訴えだ。
手を布団の中に戻して、なつみはボソッと言った。
「なんかごめん」
「謝るなよ。お前はただ、俺の夢に遊びに来ただけだからな。見た俺が悪ぃだけだ」
「…そっか。だからさっき謝ってきたんだね」なつみはスタークを見上げた。「忘れて、スタークさん。ただの夢だもん。本当じゃないから、忘れて、無かったことにしちゃおう。無かったことなんだから、無かったことにできるよ。大体、酔っ払いキス魔なんか、ぼくじゃないもん」
最後の一言は、視線を落としてブースカ呟いていたものだから、反応が遅れてしまった。スタークはなつみに覆い被さり、その頬にキスをした。もう少しで、彼女の唇にも触れてしまいそうなところに。
「んっ⁉︎///」
固まるなつみ。
スタークのキスは、友人との挨拶とは比べものにならないほど、熱い想いが込められていた。時間をかけ、ゆっくりと離れていく。まだ覆い被さったままで。
「忘れねぇよ。こっちじゃできねぇんだから」
切ない瞳に、なつみの胸が締め付けられ、思わず、慰めたくて、手を彼の頬に伸ばそうとしたが、すぐに思い止まれた。
「ス、ス、スタークさん❗️コーヒー飲んだでしょ❗️ぼくも飲みたい❗️持ってきて❗️」
唐突に話題を変えられ、スタークは面食らう。
その止まった一瞬をついて、なつみはスタークの胸をグイと押して、彼を起こした。
「お願い❗️」
布団をすっぽり被って、完全ガードの姿勢を取った。
「あったかいのね❗️」
これは、言うことを聞くしかない。
やり過ぎたと反省するスタークは、頭をくしゃくしゃと掻き、席を立つことにした。
「なぁ」
だが、なんだかもう少し食い下がりたかった。
「朝飯の続き、ここで食って良いか?」
布団の亀が、にょきっと顔を出すのを見た。
「お前が具合悪くて動けねぇって聞いて、食ってる途中で来ちまったんだ。コーヒー持ってきてやるから、ついでに良いか」
「…わかった。良いよ」
迷ったんだろうが、了解した。
「よし。待ってろ」
キッチンでコーヒーを淹れていると、藍染がやって来た。
「なつみの様子はどうだったかな」
「良くねぇな。今日は大人しくするしかねぇだろ」
「そうか」
藍染はスタークに距離を詰める。
「今朝、既に皆には話したんだが、そろそろ現世へ侵攻しようと思うんだ。井上織姫を誘拐するよ」
ドリッパーにお湯を注ぐ手が止まった。
「しばらくなつみとは会えなくなるから、今のうちに話したいことは、話しておくと良いよ」
「…わかった」
「あとね、京楽の相手を君に任そうと思うんだ。やってくれるね」
スタークは、パッと藍染と視線を合わせた。
「俺に、なつみの彼氏を殺せって言うのか」
「そうだよ。適任だろう」
ポタポタとコーヒーのドリップが垂れていく。
「彼女にとって、今は京楽が1番、君が2番だ。奴を消さない限り、なつみの中の1番にはなれない。現状では満足できないんだろう」
「あいつを泣かせちまう」
「その時は、そばにいてあげれば良い。君があの子を想って、控えめに距離を取るのは、とても美しいことだが、もう変えても良いだろう」
「何?」
「君がなつみにフラれることで、安心しているのを、私は知っているよ。彼女の一途さを見て、安心しているんだ。それは何故か。それは、いずれ目の敵がなつみの隣りから退き、自分がその座に着けた際にも、同じように想われると期待しているからだ」
ポンとスタークの肩に手を置く。
「君の夢を実現させろ。欲しいなら奪え。決着をつけなければ、なつみの心が君たち2人の間で迷い続けることになるよ」
「……あぁ」
「じゃあ、よろしく」
「スタークぅ、今日も寝過ぎだよ❗️先行くからね❗️」
「おー…」
扉が閉まったのを確認し、モソッと、コソッと起きた。
(やーべ)
布団を捲ると、いろいろと濡れていた。
(やべぇ…💧)
ヤバくなったリネンをかき集めて床に置き、着替えた。そしてクリーニング班に連絡を。
「スターク様もでしたか。気が回らず、失礼いたしました。すぐにお取り替えに伺いますね」
情けない気分の中、引っかかることがひとつ。
(俺『も』…?)
会議室には、なんだか見覚えのある面子が揃っていた、というか、残っていた。
「相変わらず遅ぇーなぁ、スターク」
ノイトラ。
「寝坊が許されるご身分は良いよね。別に羨ましくないけど」
ザエルアポロ。
「ん…」
コーヒーを淹れたマグカップを差し出してくれるグリムジョー。
「ありがとう」受け取って、席に着く。「もうみんな朝飯済んだのか?」
「とーっくに。リリネットちゃんは畑行ってるで」
市丸。
「来ていない子たちもいるんだけどね」藍染。「ワンダーワイスが二日酔いになってしまって、要が介抱しているよ。朝食どころではないらしい」
「…なつみは?」
ワンダーワイスが飲酒をするなど考えられない。原因は昨夜の、酒を溢してしまった風呂に入ったことだろう。だとすると、『来ていない子たち』に含まれるのは、なつみもということにならないか。
「起きてへん。今日はもう起きられへんて。あの子も二日酔いや。ワンダーワイスとは逆で、大人しーくベッドの中でじっとしとるわ」
「やはり、なつみに酒を近づけない方が良さそうだね」
「それずっと言ってますよ、ボク」
スタークに、イングリッシュマフィンのモーニングプレートが運ばれてきた。食べ始めながら、何故こんな居心地の悪い状況になっているのか、話を聞く。
「それで、どうして俺が来るのを待ってたんだ」
「いただきます」と手を合わせて、マフィンを手に取る。
「それがよぉ、出ちまったんだよ。昨日の夜」
ヤミーのセリフ的には、お化けが出たように聞こえるが、ニヤついている。
「出たって、何がだ」
藍染も笑みを浮かべながら、ヤミーに続く。
「酔っ払いキス魔だよ」
「…(⁉︎)」
「君の枕元に現れなかったか聞きたくて、みんなここで待っていたんだ」
スタークの手は止まり、マフィンも口に入れたところで止まってしまった。目だけを動かして、周りを見る。みんなの視線が、スタークに集中していた。飲み込んでから答える。
「なつみなら来てねぇよ。部屋にはリリネットしか」
「そーゆーことじゃねぇんだよ」
デカい身体を机に乗り出して、ヤミーはスタークに迫った。
言葉を遮られたスタークは、コーヒーを啜りつつ、今朝得た情報を頭の中で素早く整理する。そうしていたら、ヤミーがはっきりと言ってきた。
「夢ん中で、なつみとヤったかって、きいてんだよ」
「ブフッ‼︎ゴホッ、ゲホッ」
コーヒーで咽せるほどの聞きたくなかった問いかけに、多くの手がかりがカチカチと繋がった。それはこの反応で、向こうも同じように感じているらしい。
「それはそうだろうね。君を差し置いて、私たちのところに来るはずがないから」
口元を手の甲で拭く。
「来るって何だよ。たまたま夢にあいつが出てきただけだろ。ただの想像じゃねぇか。わざわざそんなくだらねぇこと聞くために残ってたのか?趣味悪ぃだろ」
「どんな風になつみと過ごしたのか、知りたいんだよ。忘れてしまわないように、話して思い出しておきたいのもあるしね」
つまり、昨夜なつみと夢の中でセックスをしたメンバーが揃っているということだ。
「誤解せんといて。ボクはそんな夢見てへんから」そう言ったのは市丸。「ボクが見たんは、なつみちゃんがおらんかったことや」
「部屋から抜け出してたのか」
「ちゃう。…、とも言えんのか。けどちゃうわ。なつみちゃんはボクの隣りで寝とったんやけど、姿が見えんかったんよ」
部屋が暗かったなり、布団に被ってるなりして、目に見えなかっただけじゃないのかと、スタークは訝しがったが、そうではない。
「なつみちゃんはなぁ、他の人の夢ん中に入って行けるんよ」
「は?」
「てっきり京楽さんとこ、また行ったんかて思っとったけど、ちゃうかったわぁ。みんなのヤラシイ話聞いて、確信した。なつみちゃんとムッちゃんは酔っ払ってもうて、能力が暴走したんよ。ちゅうしたなって、ムラムラしとる人らの夢に、遊びに行ってもうたんや」
市丸の説明に、焦りと寒気を感じるスターク。
「嘘だろ…。本物のなつみだったってのか?」
「そうや」
「しかも、一晩で6人に…」
スタークは右手を目元に当て、ショックが重くのしかかる頭を支えていた。そうすると、夢で見たことを思い出してしまう。彼らも振り返る。
「なつみって、エッロいところにホクロあるんだな。自分でも見えねぇ、ヤったヤツしか見れねぇところによ」
見覚えのないなつみの全身を見たこと。
「ワンダーワイスに胸揉まれたときは、全然反応しねぇのに、抱かれりゃ感じるらしいな。良い声で『あんあん』言わせれたぜ」
聞き覚えのない声を聞いたこと。
「快楽に溺れる悲鳴も耳障り良かったけど、恍惚とした表情もそそられたなぁ。いろいろ試してみながら、僕に縋り付いてくるなつみの愛らしさといったら、堪らなかったね。君も、極上の一夜を過ごしたんでしょう?」
なつみの涙を飲み込んだ、強欲な自分を。
「グリムジョーも、したのか」
「あぁ」
言葉少ないグリムジョーに代わり、藍染が補足する。
「彼はね、夢の中で左腕を取り戻していたそうなんだ。だから余計に嬉しくて、思う存分なつみを味わい、楽しんだらしいよ」
最近のなつみとグリムジョーの関係を見ていると、優しさに満ちた友情ばかり目立っていたが、この事実を聞くと、彼もなつみに惹かれている者の1人だということを、思い知らされる。
「現実離れし過ぎてたんだ。本人相手にしてるなんて、思わねぇよ。お前だって、そうだったんだろ、スターク」
両手を机に突いて、ザッとスタークは立ち上がった。
「お前ら、よくそんな話、平気で喋ってられるな。あいつが、なつみがダウンしてるのは、二日酔いだけじゃねぇんじゃねぇのか。全員泣かせたんだろ‼︎‼︎抱けりゃ、それで良いのかよ‼︎」
そこで、グッと飛び出しそうになった言葉があったが、なんとか堪えた。代わりに、ダンッと机を殴り、熱り立って席を離れていった。
スタークが退室し、残された者たちは、彼の怒り様を受けて反省するのだろうか。残念ながら、そうはならなかった。そもそもが違っていたのだ。
「やはり、スタークは気付くことなく、最後までできたようだね」
「ズリぃ…のか?」
「僕らだってやるにはやれたんだ。それは良い思い出になったでしょ?でも、僕らの求める理想のなつみが、いくら思い通りに応えてくれても、満たされなかった」
「あんなの、オレらの望むなつみじゃねぇってことだな」
「結局な」
「けど、本当のところはわからんやん。夢は夢やし。なつみちゃんが認めんかったら、ただの幻想や」
彼らの世界から無事に抜け出せたなつみと、残ったなつみが居たらしい。記憶のなつみと、望まれたなつみ。ふたつの姿が見せた夢が5パターンあった。そして6つめだけは、なつみのイメージが一貫していた。どの段階で異変に気付けたのかを知りたかったのに、酔っ払いキス魔にはならず、涙を流していたと。
「最後になつみが選ぶのは、スタークなのかな」
「さぁな。アイツの本能は、誰でも構わねぇらしいから、どうなるかなんて、わかんねーよ」
「謝りに行けんだ。オレらと違ぇのは確かだろ」
なつみの部屋に着き、息を整え、落ち着かせてから扉をノックする。
「なつみ、入って良いか」
「……」
微かに声がした。数秒後、扉が独りでに開かれた。
「入れ」
「悪いな」
声だけがスタークに対応してくれた。スタークは礼を言って1歩入り、静かに扉を閉めた。
部屋は薄暗く、はっきりとは見えなかったが、ベッドから軋む音と生地が擦れる音がした。そちらへ向かう。
「スタークさん、おはよう」
「なつみ、辛いんだってな」
布団から頭だけ出している、目の細いなつみがいた。
「お見舞いに来てくれたの?ありがとう。ごめんね、起きれなくて」
「良いよ」
隣りに椅子を持ってきて腰掛ける。
「頭が痛いのとね、お腹も変に痛いんだ。トイレに行きたい痛いじゃなくて、もっと違うの」
スタークの方を向いて、なつみは少し丸まった。布団の上から手を置いてやる。
「悪かった。ごめんな」
もそっと頭を動かした。
「なんでスタークさんが謝るの?お酒を溢したのは、ヤミーとザエポンだよ」
「そうなんだけどな…」
「…?」
多少でも回復できたらと、なつみの額に手を当ててみる。
「冷たい、スタークさんの手」
「悪い。嫌か?」
離すと、なつみの両手がスタークの手を握ってきた。
「二日酔いはね、お酒を抜かないと良くならないから、傷を治すやり方と違うんだよ」
「そうなのか」
「お水飲んで、じっとしてるのがいちばんかも。心配してくれて、ありがとう」
なつみの手はいつものように暖かかった。
様子を見ていて、スタークは気付いた。
「なつみ、昨日の夜のこと、覚えてるか?」
「お風呂入ったときのこと?あんね…、リリネットちゃんと寝転んだ辺りまでは、ギリ記憶にあるけど、どうやってここにたどり着いたか、わかんない」
ドスコイ背中流し屋を覚えていない。
「夢は?」
「夢なんて、見たかもわかんないよ。全然覚えてないもん。怠くて痛くて気持ち悪くて、それで起きて、隊長に『今日ムリっす』って言ったとこから覚えてる」
6人に抱かれたことを覚えていないらしい。だが、腹痛が酔い以外の原因を示しているように見える。話しても、真相はわからず仕舞いで終わるだろう。余計な混乱を避けるために隠しつつ、自分の仕出かしたことには謝ろうと思った。そう考えていると、なつみも不調ながら頭を働かせたようだ。
「スタークさんは?良い夢見れたの?」
どう答えて良いかわからず、スタークは困って瞬きしかできなかった。
「お風呂にゆっくり浸かって、ぽかぽかになったでしょ?いつもより、良く眠れたんじゃない?」
叩かれた挙句、お湯をブッかけられるという、ゆっくりとは程遠い所業を受けたことは、なつみが元気になってから教えることにしよう。下手に興奮させて、身体に障ると可哀想だから。
「あぁ。夢にお前が出てきた」
「そうなの?何したの?」
「………、キス」
「👀‼️⁉️あうッ😣」
掻い摘んで、極端にシンプルにまとめて発した答えが、なつみを驚かせ、彼女は痛みに襲われた。
「変な夢見ないでよぉ…」
縮こまる。
「本当にな」
「きっとあれでしょ。ぼくが酔ったの見たから、酔っ払いキス魔になるの想像しちゃったんでしょ。忘れて、忘れて。それ、悪い夢だから☝️))」
人差し指を立てて振った。強い訴えだ。
手を布団の中に戻して、なつみはボソッと言った。
「なんかごめん」
「謝るなよ。お前はただ、俺の夢に遊びに来ただけだからな。見た俺が悪ぃだけだ」
「…そっか。だからさっき謝ってきたんだね」なつみはスタークを見上げた。「忘れて、スタークさん。ただの夢だもん。本当じゃないから、忘れて、無かったことにしちゃおう。無かったことなんだから、無かったことにできるよ。大体、酔っ払いキス魔なんか、ぼくじゃないもん」
最後の一言は、視線を落としてブースカ呟いていたものだから、反応が遅れてしまった。スタークはなつみに覆い被さり、その頬にキスをした。もう少しで、彼女の唇にも触れてしまいそうなところに。
「んっ⁉︎///」
固まるなつみ。
スタークのキスは、友人との挨拶とは比べものにならないほど、熱い想いが込められていた。時間をかけ、ゆっくりと離れていく。まだ覆い被さったままで。
「忘れねぇよ。こっちじゃできねぇんだから」
切ない瞳に、なつみの胸が締め付けられ、思わず、慰めたくて、手を彼の頬に伸ばそうとしたが、すぐに思い止まれた。
「ス、ス、スタークさん❗️コーヒー飲んだでしょ❗️ぼくも飲みたい❗️持ってきて❗️」
唐突に話題を変えられ、スタークは面食らう。
その止まった一瞬をついて、なつみはスタークの胸をグイと押して、彼を起こした。
「お願い❗️」
布団をすっぽり被って、完全ガードの姿勢を取った。
「あったかいのね❗️」
これは、言うことを聞くしかない。
やり過ぎたと反省するスタークは、頭をくしゃくしゃと掻き、席を立つことにした。
「なぁ」
だが、なんだかもう少し食い下がりたかった。
「朝飯の続き、ここで食って良いか?」
布団の亀が、にょきっと顔を出すのを見た。
「お前が具合悪くて動けねぇって聞いて、食ってる途中で来ちまったんだ。コーヒー持ってきてやるから、ついでに良いか」
「…わかった。良いよ」
迷ったんだろうが、了解した。
「よし。待ってろ」
キッチンでコーヒーを淹れていると、藍染がやって来た。
「なつみの様子はどうだったかな」
「良くねぇな。今日は大人しくするしかねぇだろ」
「そうか」
藍染はスタークに距離を詰める。
「今朝、既に皆には話したんだが、そろそろ現世へ侵攻しようと思うんだ。井上織姫を誘拐するよ」
ドリッパーにお湯を注ぐ手が止まった。
「しばらくなつみとは会えなくなるから、今のうちに話したいことは、話しておくと良いよ」
「…わかった」
「あとね、京楽の相手を君に任そうと思うんだ。やってくれるね」
スタークは、パッと藍染と視線を合わせた。
「俺に、なつみの彼氏を殺せって言うのか」
「そうだよ。適任だろう」
ポタポタとコーヒーのドリップが垂れていく。
「彼女にとって、今は京楽が1番、君が2番だ。奴を消さない限り、なつみの中の1番にはなれない。現状では満足できないんだろう」
「あいつを泣かせちまう」
「その時は、そばにいてあげれば良い。君があの子を想って、控えめに距離を取るのは、とても美しいことだが、もう変えても良いだろう」
「何?」
「君がなつみにフラれることで、安心しているのを、私は知っているよ。彼女の一途さを見て、安心しているんだ。それは何故か。それは、いずれ目の敵がなつみの隣りから退き、自分がその座に着けた際にも、同じように想われると期待しているからだ」
ポンとスタークの肩に手を置く。
「君の夢を実現させろ。欲しいなら奪え。決着をつけなければ、なつみの心が君たち2人の間で迷い続けることになるよ」
「……あぁ」
「じゃあ、よろしく」