第一章
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湯呑みを両手で持って、ふーふーしているなつみを眺めて、ほんわか気分に浸る男性陣。
「こんな子がとんでもない力を秘めてるなんてね」
「到底見えませんよね」
ひと口啜ってみるが、まだお茶は熱いらしい。ぴくんっとして、諦めて湯呑みを置き、「ンー」の口をする。
「なつみちゃん、ボクらさっき下でキミの斬魄刀について話したんよ」
「ンー」の口のまま市丸の方にうんうん頷くなつみ。
「夢現天子っていうんだね。引き寄せるだけじゃなく、もっと他に、いろんなことができるって聞いたけど、本当かい?」
「ンー」の口のまま京楽の方にうんうん頷くなつみ。首をティン♪トン♪ティン♪と左右に振りながら以下のことをひとりで言った。
「やりましょうか。やっていいですか。いいでしょう。やらせてくださいっ」
「なつみちゃん、何そのキャラ」
「ぼくは今日という日を何とか乗り切らないといけないらしいんですよ。気にしないでください。ってことで久しぶりに始解やりますよ」
心を頭の少し上に飛ばしたような面持ちで、なつみは斬魄刀を抜いた。
「やってもええけど、何する気?」
「市丸隊長のお考えでは、ぼくは頭の中で想像したことを何でも実現できるようなんですよね。たった今困っているお悩みを解決してみましょ。これができたら神ってる」
「ボクらに仕返しかい?」
「まさか。そんなことしたら返り討ちされるだけじゃないですか。まぁ、見ててくださいよ。集中‼︎」
なつみはイメージを固めて、霊圧を上げていく。椅子から立ち上がり、その椅子を横にずらすと、窓の方へ後退り、机との距離を取る。腕を上げ、斬魄刀を頭上に構える。
「いきます!従え、夢現天子。霜天に坐せ、氷輪丸‼︎‼︎」
ちょっと声マネまで入れて、斬魄刀を振り下ろした。
「ウソやん‼︎‼︎」
日番谷の解号を唱えたということは巨大な氷の竜が現れるのかと身構え、つい大きな声で驚いてしまった市丸。がしかし、実際に現れたのは…、イモリのような氷。ぽちょんっとなつみの湯呑みに飛び込んでいき、10秒くらい泳ぎ回ると、溶けていった。
「ちょっとぉ、驚いた時間返して〜」
「適温っす🍵」チアーズして、なつみはグイッとお茶を飲む。「うん。飲めます😋」
椅子に座り直して、夢現天子の峰をなでなでしながら「ありがとう。ご苦労さま」と労っているなつみに聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームでコソッと市丸は京楽に話しかける。
「ね、ヤバいでしょ?」
「うーん…、規模こそ小さいけど、再現されていたね。すごいのはわかったよ」京楽はなつみに視線を移す。「なつみちゃんの願いを叶える斬魄刀か。シンプルだけど、何でも有り。まるで魔法使いの杖って感じだね。市丸隊長が危惧するのも無理ないわけだ」
「内緒にした方が絶対ええ。なつみちゃんを誘拐するなんて簡単やし。まさか他人の斬魄刀の能力までマネできるなんて、ボク、これ以上この子の力知るん怖いわ」
久しぶりに能力を解放できて、とっても嬉しそうななつみだったが、市丸の言葉を耳にして、残念そうに夢現天子を鞘に戻した。
「やっぱり、使わない方が良いんですよね…。京楽隊長もそう思われてますよね。それで、秘密にするの協力するよってお知らせしにいらしたんですよね」
そう言うなつみの笑顔はさみしそうで。その顔を見た京楽も、同じようなさみしさが心に伝わってきた。
「違うよ、なつみちゃん。市丸隊長に頼まれたけど、ボクは断ったんだ」
「えっ」
「なつみちゃんがどうしたいのか、キミの本心を知りたいんだよね。それを知ってから対応するのが、一番みんなのためになると思うからさ。そうじゃないかい?だからね、今日はここに、なつみちゃんの気持ちを聞きに来たんだ」
「ぼくの気持ち、ですか」
ちらりと思わず市丸の顔色を伺ってしまう。
「ええよ、なつみちゃん。ボクが言ってきたことは気にせんと、思うこと好きに言うて。言うだけやから」
とは言われたものの、なつみは萎縮し、正解を言わなければとワタワタと考えに考えてしまって、結局何も言い出せずに視線が腰の斬魄刀へ落ちる。
「それじゃあね、なつみちゃん。まずは思い出してごらん?初めて始解ができたときのこと。嬉しかったんだよね?」
「…はい。すごく嬉しかったです。ずっとできるようになりたいって思っていたので」
「うん。そうだよね。念願の始解修得で、自分の能力がどんなものかを知れて、未来が明るく輝いて見えた気がしたって言ってたよね」
「はい///」
改めて自分が言ったことを聞かされると、客観的にクサッと思い、ちょっと笑っちゃう。
「その未来で、キミはどんなことをするつもりだったのかな」
「えっと…」何だったかなぁ…、斜め上に視線をあげる。「あー(笑)、正直にお伝えして良いんですよね。市丸隊長には平和ボケしてるって言われるかもしれませんが」
(言わへんよ)
「自分の思い通りに、いろんなものを動かせるんだって気づいて、ぼく思ったんです、これで、この力を使って、ぼくのお願い通りにみんなが動いてくれたら、ぼくはこの世界を幸せでいっぱいにできるんじゃないかって。そう考えたらワクワクして、もっともっとできることをいっぱい増やして、みんなのことを助けて護ってあげられる強い死神になれるんだって、楽しみになっていました。それこそ、藍染隊長がおっしゃってくれたように、ぼく自身も無限の可能性を感じていました。夢を叶えたその次にもどんどん夢が湧いてきて、それまで大変だったことも無駄じゃなかったって報われた気がして、諦めなくて良かったって思いました。…その夜、市丸隊長とお話するまでは」表情が陰るものの、一旦話し始めると止まらなくなって。「市丸隊長の考えは充分に理解できるものなので、能力を使わないようにとのお願いに、ちゃんと従うことにしました。でも、でも…、ショックでした。だって、一生懸命練習して、早くあいつらの成績に追いついて、なんなら、追い越してやるって意気込んでましたから。だけど、止められてしまって。それからどんどん悩んでしまって、こうなってしまったのは、自分が頼りないからだって思うようになりました。ぼくじゃなく、もっと他の、隊長になれるような人がこの力を手にしてたら、その人にいっぱい使ってもらえてたのに。ぼくのところに来ちゃったばっかりに、この子は始解できるようになっても、させてもらえなくて。ぼく、申し訳なくて、情けなくて」ついに泣き出してしまう。「隊長は隊長だから、ぼくは言うこと聞かなきゃいけないし、みんなだって隊長の意見に賛成してるから、ぼくひとりで反対するわけにもいかなくて。だから、ずっとひとりで悩んでて。誰にも言えなくて。ちょっとだけ見せるだけなら、能力を開放しても良いって許されてるから、禁止されてるわけじゃないから、文句も言えなくて。今いただいてるお仕事だって、始解しなくてもできるのばっかりだから、使用許可をお願いする必要も無くて。ぼくのわがままで迷惑をおかけしてしまうなら、ぼくが我慢すれば良いだけの話で。でも、ぼくは、本当のことを言って良いなら、ぼくは、もっと自由に、好きなだけ、夢現天子の力を使いたいです‼︎始解してるとき、とっても楽しくて嬉しいんです。この子もきっと同じように思ってます。ぼくたちは、始解できなくて、力を使えなかった辛さを知っています。でも今は始解ができるのに、力を使えなくて、その方がもっとずっと辛いって、悲しいって思ってます。…すみません、好き勝手に言ってしまって。控えます。頼りないぼくが全部悪いんです。ぼくのせいです。ごめんなさい…」
思いの丈を全て出し切ったなつみは両手で顔を覆い、涙がぽたぽたと落ちていった。京楽は立ち上がると、なつみのもとへ近寄り、彼女の体を自分の方へ向かせた。膝立ちの姿勢になり、なつみの頭を優しく撫でてやる。
「謝らなくて良いんだよ、なつみちゃん。そんなに自分を責めちゃいけない。キミはキミなりに正しいことをしているよ。ほら、泣かないで」頑なに顔を上げないなつみを抱きしめてあげる。「良いかい?夢現天子はキミを選んだんだよ。この力はキミじゃなきゃ嫌だって思って、キミのところに来たんだ。自分がダメだなんて言ったら、この子が悲しんじゃうよ。もっと自信を持って。ね?」
なつみは覆っていた手を離し、涙を拭った。だが、まだすっと溢れてくる。それを京楽が指で拭いてやった。
「正直な気持ちを話してくれて、ありがとう。ひとりで抱え込んで、辛かったね。でももう大丈夫。みんなでどうしたら良いのか考えよう。みんなで」そう言って京楽は立ち上がった。「市丸隊長もわかったろ?キミはなつみちゃんを護ってるつもりだろうけど、これだけ辛い思いをさせてるんだ。やり方を変えるべきじゃないかい?」
「どう変えるんですか?」
「キミはなつみちゃんの力を隠して、なつみちゃんの身を護りたい。でもそれでは、なつみちゃんが窮屈な思いをする。方やなつみちゃんは自由に力を使いたい。でもそうすると、問題に巻き込まれる可能性があると。これらを考慮して立てられる案は…」うーん…と顎に手を当てて熟考する京楽。「そうだ!こんなのどうだい?」
「何ですか」
名案に期待するなつみの手を取り、京楽はこう言った。
「キミを八番隊に転入させる」
「え…、え⁉︎」驚くことしかできないなつみ。
「ウチにおいで、なつみちゃん。ここだと市丸隊長に使っちゃダメって言われるけど、ボクはそんなこと言わないから。キミは始解したいときに、いつでも解放して良いんだよ。何か悪いことが起きたときには、ボクが必ず助けてあげるから。だから、八番隊においで。万事解決だと思わないかい?大丈夫、キミは良い子だし、優秀だから、すぐにウチに馴染めるよ。安心して。何も心配いらない。それに何たって、ボクがいるんだから。こんなに魅力的な話は無いだろう?ね!ね!」
さっきの涙はどこへやら。困惑の表情でなつみは、京楽と市丸の顔を交互に見比べ、また何が正解なのか考える迷宮に迷い込んでしまった。
「ぎゃぶぅ‼︎」
頭を抱えるなつみ。少し急すぎたかと思った京楽は、彼女から離れて椅子に戻った。
「すぐに決める必要は無いさ。例えばの話だからね。こんな選択肢もあるんだって頭の隅に置いてくれたら、それで良いから」
市丸を選ぶのか、京楽を選ぶのか、今まで考えもしなかった選択に迫られ、追い込まれた気分になる。まるで、どちらを恋人にするか決めなければいけないような場面に陥ってしまったかのような。がしかし待てよ、これは恋だの愛だのの問題ではなく、どう生きたいかの選択であって、どちらがより好きだとかそんな感情はどうでもいい。というか好きに優劣は無い。その話は置いといて。京楽が示してくれたように、市丸の考えの他にもやりようがあるというのがわかった。ならば…。
「こ、こんなのはどうでしょうか‼︎‼︎」机をバンと叩いて、前のめりでなつみは提案する。「ぼくは自由に能力を使います!でもここに、三番隊に残ります!」
まさかの3択目。
「ぼくは、能力をちゃんとコントロールします。嫌なことを頼まれたら、自分の正義に従って、はっきりとお断りします!力はみんなの幸せのために使うと誓っていますから、ぼくを信じてください!ぼくの力を知られるのがリスクを伴うなら、ぼくは能力の説明をしません。内緒にします!市丸隊長はおひとりでぼくを護ろうとされてましたが、京楽隊長がいてくださいますし、藍染隊長だってぼくらの味方をしていただけると思います。みんなで協力すれば、そんなに心配しなくても大丈夫になると思います。なので、市丸隊長、自由に夢現天子を使うこと、許していただけないでしょうか。京楽隊長、せっかくのお誘い、とってもありがたいですが、ぼくはまだ三番隊にいたいので、八番隊には行けません。お断りすることを、お許しください。これがぼくらの希望です!」
なつみは椅子から立ち上がり、隊長両名に頭を下げた。なつみの揺るぎない信念を突きつけられたようだ。
「なつみちゃん、キミは充分強い子だよ。キミがそうしたいなら、ボクはそれに賛成する。その斬魄刀はキミの物なんだから、キミの意志が一番に優先されなきゃいけないもの。ボクはキミの意見を応援するよ。ウチに来てくれないのは残念だけどね。市丸隊長は、どう思う?」
「あ…、せやね…」本来こうなるはずではなかったと思っている市丸だが、なってしまったものは仕方がないと諦める他は無さそうだった。「さすがなつみちゃんやわ。ボクが思いつかんようなこと言うてまう。なつみちゃんが大丈夫言うなら、大丈夫なんやろうね。わかった。キミの好きにし。その代わり、無茶したらあかんよ。それだけは頭に置いといて。悩み事があったら、ちゃんと誰かに相談すること。ボクでもええし、京楽さんでもええし、お友達でもええし。ひとりで抱え込まんこと!」
「それはキミも同じだから、市丸隊長」京楽はポンポンと市丸の肩を叩いた。「さて、とりあえずの方針は決まったってことで良いかな?『なつみちゃんは、キミのとこで自由に過ごす』なんて普通なんだ!笑っちゃうね(笑)」
「そうまとめるからでしょ」
「なつみちゃんの笑顔が一番ってこと!よしっ、会議終了。ここからはただのお茶会にしよ〜」
そう言うと、京楽はお茶を飲んだ。
「あーかーん。なつみちゃんは仕事があんねん。ボクら邪魔してるんですよ。用が終わったから、もう帰りましょ」
「え〜、ボクまだなつみちゃんにお話ししたいことがあるのにー」
市丸に冷たーい視線を送られてしまう。
「わーかった、わかったから、その目やめて。帰るから。なつみちゃん、またね」
「あ、はい。わざわざ来ていただき、ありがとうございました」
なつみは頭を下げて挨拶する。が、市丸が予期せぬお願いをした。
「なつみちゃん、椅子とお茶、ボクが片付けとくから、京楽さんを門まで送ったって」
「え、良いんですか?」
「うん。行ってあげ」
市丸はニコッと笑って言った。既に廊下に出ていた京楽が、彼に一言。
「悪いね」
「お構いなく」
なつみはぴょこぴょこ慌てて京楽のもとへ駆け寄り、市丸にお礼を言う。
「では市丸隊長、お片づけお願いします。お見送りに行ってきますね」
「いってらっしゃ〜い」
手をひらひら振って、市丸は2人の背中を見送った。そしてため息ひとつ。
「こんな子がとんでもない力を秘めてるなんてね」
「到底見えませんよね」
ひと口啜ってみるが、まだお茶は熱いらしい。ぴくんっとして、諦めて湯呑みを置き、「ンー」の口をする。
「なつみちゃん、ボクらさっき下でキミの斬魄刀について話したんよ」
「ンー」の口のまま市丸の方にうんうん頷くなつみ。
「夢現天子っていうんだね。引き寄せるだけじゃなく、もっと他に、いろんなことができるって聞いたけど、本当かい?」
「ンー」の口のまま京楽の方にうんうん頷くなつみ。首をティン♪トン♪ティン♪と左右に振りながら以下のことをひとりで言った。
「やりましょうか。やっていいですか。いいでしょう。やらせてくださいっ」
「なつみちゃん、何そのキャラ」
「ぼくは今日という日を何とか乗り切らないといけないらしいんですよ。気にしないでください。ってことで久しぶりに始解やりますよ」
心を頭の少し上に飛ばしたような面持ちで、なつみは斬魄刀を抜いた。
「やってもええけど、何する気?」
「市丸隊長のお考えでは、ぼくは頭の中で想像したことを何でも実現できるようなんですよね。たった今困っているお悩みを解決してみましょ。これができたら神ってる」
「ボクらに仕返しかい?」
「まさか。そんなことしたら返り討ちされるだけじゃないですか。まぁ、見ててくださいよ。集中‼︎」
なつみはイメージを固めて、霊圧を上げていく。椅子から立ち上がり、その椅子を横にずらすと、窓の方へ後退り、机との距離を取る。腕を上げ、斬魄刀を頭上に構える。
「いきます!従え、夢現天子。霜天に坐せ、氷輪丸‼︎‼︎」
ちょっと声マネまで入れて、斬魄刀を振り下ろした。
「ウソやん‼︎‼︎」
日番谷の解号を唱えたということは巨大な氷の竜が現れるのかと身構え、つい大きな声で驚いてしまった市丸。がしかし、実際に現れたのは…、イモリのような氷。ぽちょんっとなつみの湯呑みに飛び込んでいき、10秒くらい泳ぎ回ると、溶けていった。
「ちょっとぉ、驚いた時間返して〜」
「適温っす🍵」チアーズして、なつみはグイッとお茶を飲む。「うん。飲めます😋」
椅子に座り直して、夢現天子の峰をなでなでしながら「ありがとう。ご苦労さま」と労っているなつみに聞こえるか聞こえないかくらいのボリュームでコソッと市丸は京楽に話しかける。
「ね、ヤバいでしょ?」
「うーん…、規模こそ小さいけど、再現されていたね。すごいのはわかったよ」京楽はなつみに視線を移す。「なつみちゃんの願いを叶える斬魄刀か。シンプルだけど、何でも有り。まるで魔法使いの杖って感じだね。市丸隊長が危惧するのも無理ないわけだ」
「内緒にした方が絶対ええ。なつみちゃんを誘拐するなんて簡単やし。まさか他人の斬魄刀の能力までマネできるなんて、ボク、これ以上この子の力知るん怖いわ」
久しぶりに能力を解放できて、とっても嬉しそうななつみだったが、市丸の言葉を耳にして、残念そうに夢現天子を鞘に戻した。
「やっぱり、使わない方が良いんですよね…。京楽隊長もそう思われてますよね。それで、秘密にするの協力するよってお知らせしにいらしたんですよね」
そう言うなつみの笑顔はさみしそうで。その顔を見た京楽も、同じようなさみしさが心に伝わってきた。
「違うよ、なつみちゃん。市丸隊長に頼まれたけど、ボクは断ったんだ」
「えっ」
「なつみちゃんがどうしたいのか、キミの本心を知りたいんだよね。それを知ってから対応するのが、一番みんなのためになると思うからさ。そうじゃないかい?だからね、今日はここに、なつみちゃんの気持ちを聞きに来たんだ」
「ぼくの気持ち、ですか」
ちらりと思わず市丸の顔色を伺ってしまう。
「ええよ、なつみちゃん。ボクが言ってきたことは気にせんと、思うこと好きに言うて。言うだけやから」
とは言われたものの、なつみは萎縮し、正解を言わなければとワタワタと考えに考えてしまって、結局何も言い出せずに視線が腰の斬魄刀へ落ちる。
「それじゃあね、なつみちゃん。まずは思い出してごらん?初めて始解ができたときのこと。嬉しかったんだよね?」
「…はい。すごく嬉しかったです。ずっとできるようになりたいって思っていたので」
「うん。そうだよね。念願の始解修得で、自分の能力がどんなものかを知れて、未来が明るく輝いて見えた気がしたって言ってたよね」
「はい///」
改めて自分が言ったことを聞かされると、客観的にクサッと思い、ちょっと笑っちゃう。
「その未来で、キミはどんなことをするつもりだったのかな」
「えっと…」何だったかなぁ…、斜め上に視線をあげる。「あー(笑)、正直にお伝えして良いんですよね。市丸隊長には平和ボケしてるって言われるかもしれませんが」
(言わへんよ)
「自分の思い通りに、いろんなものを動かせるんだって気づいて、ぼく思ったんです、これで、この力を使って、ぼくのお願い通りにみんなが動いてくれたら、ぼくはこの世界を幸せでいっぱいにできるんじゃないかって。そう考えたらワクワクして、もっともっとできることをいっぱい増やして、みんなのことを助けて護ってあげられる強い死神になれるんだって、楽しみになっていました。それこそ、藍染隊長がおっしゃってくれたように、ぼく自身も無限の可能性を感じていました。夢を叶えたその次にもどんどん夢が湧いてきて、それまで大変だったことも無駄じゃなかったって報われた気がして、諦めなくて良かったって思いました。…その夜、市丸隊長とお話するまでは」表情が陰るものの、一旦話し始めると止まらなくなって。「市丸隊長の考えは充分に理解できるものなので、能力を使わないようにとのお願いに、ちゃんと従うことにしました。でも、でも…、ショックでした。だって、一生懸命練習して、早くあいつらの成績に追いついて、なんなら、追い越してやるって意気込んでましたから。だけど、止められてしまって。それからどんどん悩んでしまって、こうなってしまったのは、自分が頼りないからだって思うようになりました。ぼくじゃなく、もっと他の、隊長になれるような人がこの力を手にしてたら、その人にいっぱい使ってもらえてたのに。ぼくのところに来ちゃったばっかりに、この子は始解できるようになっても、させてもらえなくて。ぼく、申し訳なくて、情けなくて」ついに泣き出してしまう。「隊長は隊長だから、ぼくは言うこと聞かなきゃいけないし、みんなだって隊長の意見に賛成してるから、ぼくひとりで反対するわけにもいかなくて。だから、ずっとひとりで悩んでて。誰にも言えなくて。ちょっとだけ見せるだけなら、能力を開放しても良いって許されてるから、禁止されてるわけじゃないから、文句も言えなくて。今いただいてるお仕事だって、始解しなくてもできるのばっかりだから、使用許可をお願いする必要も無くて。ぼくのわがままで迷惑をおかけしてしまうなら、ぼくが我慢すれば良いだけの話で。でも、ぼくは、本当のことを言って良いなら、ぼくは、もっと自由に、好きなだけ、夢現天子の力を使いたいです‼︎始解してるとき、とっても楽しくて嬉しいんです。この子もきっと同じように思ってます。ぼくたちは、始解できなくて、力を使えなかった辛さを知っています。でも今は始解ができるのに、力を使えなくて、その方がもっとずっと辛いって、悲しいって思ってます。…すみません、好き勝手に言ってしまって。控えます。頼りないぼくが全部悪いんです。ぼくのせいです。ごめんなさい…」
思いの丈を全て出し切ったなつみは両手で顔を覆い、涙がぽたぽたと落ちていった。京楽は立ち上がると、なつみのもとへ近寄り、彼女の体を自分の方へ向かせた。膝立ちの姿勢になり、なつみの頭を優しく撫でてやる。
「謝らなくて良いんだよ、なつみちゃん。そんなに自分を責めちゃいけない。キミはキミなりに正しいことをしているよ。ほら、泣かないで」頑なに顔を上げないなつみを抱きしめてあげる。「良いかい?夢現天子はキミを選んだんだよ。この力はキミじゃなきゃ嫌だって思って、キミのところに来たんだ。自分がダメだなんて言ったら、この子が悲しんじゃうよ。もっと自信を持って。ね?」
なつみは覆っていた手を離し、涙を拭った。だが、まだすっと溢れてくる。それを京楽が指で拭いてやった。
「正直な気持ちを話してくれて、ありがとう。ひとりで抱え込んで、辛かったね。でももう大丈夫。みんなでどうしたら良いのか考えよう。みんなで」そう言って京楽は立ち上がった。「市丸隊長もわかったろ?キミはなつみちゃんを護ってるつもりだろうけど、これだけ辛い思いをさせてるんだ。やり方を変えるべきじゃないかい?」
「どう変えるんですか?」
「キミはなつみちゃんの力を隠して、なつみちゃんの身を護りたい。でもそれでは、なつみちゃんが窮屈な思いをする。方やなつみちゃんは自由に力を使いたい。でもそうすると、問題に巻き込まれる可能性があると。これらを考慮して立てられる案は…」うーん…と顎に手を当てて熟考する京楽。「そうだ!こんなのどうだい?」
「何ですか」
名案に期待するなつみの手を取り、京楽はこう言った。
「キミを八番隊に転入させる」
「え…、え⁉︎」驚くことしかできないなつみ。
「ウチにおいで、なつみちゃん。ここだと市丸隊長に使っちゃダメって言われるけど、ボクはそんなこと言わないから。キミは始解したいときに、いつでも解放して良いんだよ。何か悪いことが起きたときには、ボクが必ず助けてあげるから。だから、八番隊においで。万事解決だと思わないかい?大丈夫、キミは良い子だし、優秀だから、すぐにウチに馴染めるよ。安心して。何も心配いらない。それに何たって、ボクがいるんだから。こんなに魅力的な話は無いだろう?ね!ね!」
さっきの涙はどこへやら。困惑の表情でなつみは、京楽と市丸の顔を交互に見比べ、また何が正解なのか考える迷宮に迷い込んでしまった。
「ぎゃぶぅ‼︎」
頭を抱えるなつみ。少し急すぎたかと思った京楽は、彼女から離れて椅子に戻った。
「すぐに決める必要は無いさ。例えばの話だからね。こんな選択肢もあるんだって頭の隅に置いてくれたら、それで良いから」
市丸を選ぶのか、京楽を選ぶのか、今まで考えもしなかった選択に迫られ、追い込まれた気分になる。まるで、どちらを恋人にするか決めなければいけないような場面に陥ってしまったかのような。がしかし待てよ、これは恋だの愛だのの問題ではなく、どう生きたいかの選択であって、どちらがより好きだとかそんな感情はどうでもいい。というか好きに優劣は無い。その話は置いといて。京楽が示してくれたように、市丸の考えの他にもやりようがあるというのがわかった。ならば…。
「こ、こんなのはどうでしょうか‼︎‼︎」机をバンと叩いて、前のめりでなつみは提案する。「ぼくは自由に能力を使います!でもここに、三番隊に残ります!」
まさかの3択目。
「ぼくは、能力をちゃんとコントロールします。嫌なことを頼まれたら、自分の正義に従って、はっきりとお断りします!力はみんなの幸せのために使うと誓っていますから、ぼくを信じてください!ぼくの力を知られるのがリスクを伴うなら、ぼくは能力の説明をしません。内緒にします!市丸隊長はおひとりでぼくを護ろうとされてましたが、京楽隊長がいてくださいますし、藍染隊長だってぼくらの味方をしていただけると思います。みんなで協力すれば、そんなに心配しなくても大丈夫になると思います。なので、市丸隊長、自由に夢現天子を使うこと、許していただけないでしょうか。京楽隊長、せっかくのお誘い、とってもありがたいですが、ぼくはまだ三番隊にいたいので、八番隊には行けません。お断りすることを、お許しください。これがぼくらの希望です!」
なつみは椅子から立ち上がり、隊長両名に頭を下げた。なつみの揺るぎない信念を突きつけられたようだ。
「なつみちゃん、キミは充分強い子だよ。キミがそうしたいなら、ボクはそれに賛成する。その斬魄刀はキミの物なんだから、キミの意志が一番に優先されなきゃいけないもの。ボクはキミの意見を応援するよ。ウチに来てくれないのは残念だけどね。市丸隊長は、どう思う?」
「あ…、せやね…」本来こうなるはずではなかったと思っている市丸だが、なってしまったものは仕方がないと諦める他は無さそうだった。「さすがなつみちゃんやわ。ボクが思いつかんようなこと言うてまう。なつみちゃんが大丈夫言うなら、大丈夫なんやろうね。わかった。キミの好きにし。その代わり、無茶したらあかんよ。それだけは頭に置いといて。悩み事があったら、ちゃんと誰かに相談すること。ボクでもええし、京楽さんでもええし、お友達でもええし。ひとりで抱え込まんこと!」
「それはキミも同じだから、市丸隊長」京楽はポンポンと市丸の肩を叩いた。「さて、とりあえずの方針は決まったってことで良いかな?『なつみちゃんは、キミのとこで自由に過ごす』なんて普通なんだ!笑っちゃうね(笑)」
「そうまとめるからでしょ」
「なつみちゃんの笑顔が一番ってこと!よしっ、会議終了。ここからはただのお茶会にしよ〜」
そう言うと、京楽はお茶を飲んだ。
「あーかーん。なつみちゃんは仕事があんねん。ボクら邪魔してるんですよ。用が終わったから、もう帰りましょ」
「え〜、ボクまだなつみちゃんにお話ししたいことがあるのにー」
市丸に冷たーい視線を送られてしまう。
「わーかった、わかったから、その目やめて。帰るから。なつみちゃん、またね」
「あ、はい。わざわざ来ていただき、ありがとうございました」
なつみは頭を下げて挨拶する。が、市丸が予期せぬお願いをした。
「なつみちゃん、椅子とお茶、ボクが片付けとくから、京楽さんを門まで送ったって」
「え、良いんですか?」
「うん。行ってあげ」
市丸はニコッと笑って言った。既に廊下に出ていた京楽が、彼に一言。
「悪いね」
「お構いなく」
なつみはぴょこぴょこ慌てて京楽のもとへ駆け寄り、市丸にお礼を言う。
「では市丸隊長、お片づけお願いします。お見送りに行ってきますね」
「いってらっしゃ〜い」
手をひらひら振って、市丸は2人の背中を見送った。そしてため息ひとつ。