第九章
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藍染への報告を済ませると、罰が言い渡された。
「今夜は私たちと食事をしよう。グリムジョーのことは放っておくこと」
一緒にさせて、また尸魂界へ行く手立てをされては困るからだ。軽く見えそうだが、お世話をしたいなつみには嫌な命令だった。
「行ってしまう前に止められたし、動機もそこまで酷く責めなければならないものでもなかった。このくらいで、充分反省してくれるだろう」
「はい…」
シュン…。
しかし、市丸には予想がついていた。
「義骸を取りに行くだけで、済むわけないわ。寄り道して、遊びに行くに決まってる。だーいすきな京楽さんとこ行っとったやろ」
「そんなことないもん」と、言ってやりたかったが、本心は会いたいに決まっているのだから、嘘はつけない。下唇を強く噛んで、縮こまって居心地の悪さに耐えようとした。
なつみが何日ぶりかにいつもの部屋で食事をするということで、藍染は十刃たちに連絡を入れた。集まった破面たちは嬉しかったものの、なつみの居た堪れなさそうな雰囲気に、同情ではないが、何だか可哀想と思ってしまった。
「もうすぐ完成するんでしょ?どうしてわざわざ取りに戻ろうとしたの」
「だってだって…」
ザエルアポロの問いに、もごもごしてしまう。
「慌てん坊さんなんよ、なつみちゃん」
「っていうか、あの人がこっから逃げ出したいのが、強かったんじゃないの?行くなら独りで行けば良いのに。なつみを巻き込むなんて、最低だよ」
こう述べたルピを、スタークがやや鋭く睨んだ。
なつみの隣でご機嫌なワンダーワイス。再会の乾杯をすると、きゅうと抱きついてきた。
「ワンダーワイス、危ないよ。ジュース溢れちゃう」
「アウー」
注意されても離れようとしなかった。
「こらこら」
懐かれるのは嫌な気がしないため、注意しつつも、なつみはワンダーワイスを撫でてあげる。
あんまり会えなかった日々を、みんなどう過ごしていたのか聞いてみた。それぞれ与えられた仕事や、趣味や、狩りをしていたんだそう。十刃がリーダーとなり、チームで作業することがほとんどで、このように彼らが顔を合わせることも、少なかったらしい。
「やはり良いものだね、皆で食卓を囲むというのは」
お誕生日席から、藍染はみんなの顔を眺めた。
「別に、ぼくが居なくたって、こうして集まれば良いじゃないですか」
たかが1人いつものメンバーから抜けるだけだと思っている。
「ウーウー😠」
なつみの発言はいただけないぞと、ワンダーワイスが膨れっ面になった。
「ワンダーワイスの言う通りだ。虐めて遊んでも良いお前ぇが居ねぇーと、つまんねーだろ。お前に会えなきゃ、わざわざ来る意味無ぇんだよ」
ノイトラが背もたれに大きくのけ反る。
「そこまで言ってねぇし、絶対😒」
だって2音しか発していないぞ。
「なつみの笑顔に癒されたいのだよ。グリムジョーの世話をほどほどにしてもらえないか」
「ゾマリん、照れるじゃんかー、そんなこと言われるとぉ」ほっぺに手を当てて、照れちゃうポーズ。からの。「だが断る✋」
「そうは言っても、俺たちと居るの楽しいんだろ?」「ワイワイスルノ好キダモンネ」
「好きだけどさ」アーロニーロを、唇とんがらせて見る。「まだかかる……」
すると突然背後に誰かが現れて、そこから手を伸ばし、なつみの口角を上げた。クウィッ。
「ニィッ?」
目だけ動かして、犯人を確認した。
「笑っていろ。お前の難しい顔など、何も面白くない」
「うゆいゆゆ」
ウルキオラ。
「笑え」
「むふーっ」
ムニムニムニーッとほっぺを弄られてしまった。
なつみが、わーっとなっている最中、藍染が話を挟んできた。
「取り込み中済まないんだが、なつみ、君の斬魄刀と話したいことがあるんだ。出てきてもらえないかな」
「んにょ。ムッちゃんとですか?にょ、ムッちゃん」
なつみに呼び出されること無く、ムッちゃんは藍染の鼻先に嘴が当たりそうな距離で出現した。
「何事だろうな。何とも丁度いいタイミングで、私もお前と話がしたいと思っていたんだ」
相変わらずの大きな態度。
「場所を移そう。なつみとはどのくらい離れていられるかな」
「他人が気にすることではない」
「そうか」椅子を引いて、立ち上がった。「なら、向こうへ行こう。ごめんね、なつみ。少し借りるよ」
「はい。いってらっしゃい、ムッちゃん」
静かな階段で、藍染とムッちゃんがなつみには内緒の話をする。
「話とは何だ」
「まず、君が私に言いたいことが何か、当ててあげようか。そこに、君を呼び出した理由が含まれているからね」
「何」
「こんなところだろう。なつみを早く尸魂界に帰してやれ。いつまでここに閉じ込めておくつもりだ。お前の目的は何だ。何故、護廷十三隊を裏切った」
ムッちゃんは目を細める。
「私も疑問に思うことがあるよ。何故君は、私たちのこの滞在を疑いながらも、あの子にそれを伝えないのか」
まだ腕を組んでいる。
「あぁ、言わなくても良いよ。ちゃんと気付けたからね」藍染は笑った。「これは全てなつみのために、黙っているんだろう。彼女の混乱を招かないように。何もかもを否定されると、世界を滅ぼしかねない上に、あの子が泣いてしまうから」
「なるほど。なつみを泣かせるくらいのことをしてきているということだな」
「警戒心を強めた方が良さそうだね」
洒落を言うほどの余裕があるらしい。
「情報が無ければ、判断しかねる。打ち明けると言うのであれば、嘘偽り無く語ると誓え」
「ありがたい。君から要求してもらえるとは。ひとつ頼み事もするつもりでいたんだ」
表情がピクリと強張る。
「めでたい奴め。貴様などに協力するか」
「いや、するよ。何故なら、『全てはなつみのために』に繋がっているのだから」
こっそり抜け出し未遂とそのお説教で、心が少し疲れてしまったなつみは、速やかにベッドに潜り込み、もう眠ってしまっている。その隣りには市丸が。
「怒りすぎてまったなぁ。帰りたいに決まってんのに」
彼もまた、反省する側であった。
「起きているな」
なつみの寝顔を見ていたら、上から声がした。
「なぁに」
「お前に伝えておくことがある」
ムッちゃんがふわふわ浮かんでいた。
「さっき藍染隊長と話してたこと?」
「そうだ」
市丸は仰向けになった。
「落ち着いて聞いてほしい」
「どうぞ」
「今夜、私はなつみを連れ出す」
「っ⁉︎」
声は漏れなかったが、息を呑んだ。
「藍染に頼まれたんだ」
「行くて、どこに」
「夢の世界へだ。今回の騒動で、この子の限界が近いことがわかったんだろう。実際には無理だが、夢なら許すそうだ。とは言え、手順が複雑でな、私ひとりでうまくやれるかどうか。何分、時空を超えなければならないからな。どれだけ繋いでいられるか」
「……」
ムッちゃんは、市丸が理解してくれるのを待った。
「お互い、気付くんかな、会えてるて」
軽く腕を広げて、ムッちゃんは答えた。
「夢の中では何でもできる。想像のままに、自由を楽しめるものだ。ただ、夢は夢でしかない。そのことは、見ている彼らも承知している。だから、起きてしまえば、幻であると思うだろう。それでも良いじゃないか。目の前にある一瞬一瞬を、大いに楽しむために、私たちは生きているのだから。それに、幸せな夢というのは、明日への希望となる。なつみの機嫌も直るだろう」
「どういう風の吹き回しや」
「なつみに辛い思いをさせたくないらしい。一度バレているからな、自分が見せるのではいけないと思って、私に頼んだんだろう。お前の眠りを妨げないよう、なつみの身体は向こうへ持っていく。恐らく、そういうことになるだろうからな」
「キミも、姿見せたらあかんで」
「わかっている!じゃあな。お前も早く寝ろ」
「はいはい。ほな、おやすみ」
なつみは布団の中で気が付いた。黄昏の明るさに、不思議さが漂う。
「んん…」
寝返りを打ってみると、隣りには男性の身体があった。
「隊長…?」
いや待てよ。この腕、この胸。
(あわっ///)
市丸には無い毛量。これは。
「春水さん❗️😍」
横になって向き合っていたのを、タックルし、眠る彼に乗っかって抱きついてしまった。
「んあっ⁉︎何だ⁉︎」
「むぎゅふふふっ」
ひとりで眠りについたはずなのに、今、ベッドにもうひとりいる。京楽は突然の襲撃に驚き、目を覚ましたが、自分の胸に顔を幸せそうにすりすりその子の正体に気付き、更に驚いた。
「なつみちゃん⁉︎」
「はぁい😊」
デレデレととぼけた声色の返事だ。
「本当になつみちゃんかい⁉︎」
「はぁい😄」
もう一度同じように返事をした。
「ああ」京楽は、ぎゅっと抱きしめた。「なつみちゃん。なつみちゃんだ」
抱きしめる力が強く、少し苦しくもあり、胸のときめきもあって、きゅっときついことにニヤついてしまうなつみ。
「やっと夢で会えましたね。ずっとずっと会えなくて寂しかったですけど、良かったぁ。会えましたぁ。はぁ、しあわせー💕」
京楽の胸の上で、とろけそうなほど幸せを味わうニヤニヤ。
(夢…?そうか、これは夢か。そうだよね。あり得ない。なつみちゃんは虚圏にいるんだから)
なつみの反応とは裏腹に、京楽はいくらか冷静でいた。
そんな京楽の上で、なつみはよいしょと手を下に着いて身体を起こした。ふたりの視線が合う姿勢。
「わぁ、良かったぁ。ぼく、ちゃんと春水さんのお顔覚えてますね」お髭を愛おしそうに、右手で撫でる。「えへ…、ハンサムさん///」
絶対現実なら言わない発言。
「なつみちゃん…」
京楽もなつみのほっぺに手を伸ばした。愛に満ちた瞳の輝きを見つめながら、懐かしい柔らかさに触れられた。
絶対に言わない恥ずかしいことを言ったことに気付いて、なつみは慌てて伏せてしまった。今度は胸の上ではなく、彼の耳元へ。
「💓💦」
「なつみ ちゃん?☹️💦」
見覚えのないパジャマ越しに、小さな背中を撫でてあげる。
なつみは、縮こまりながら考えた。
(きっと、帰れそうだったのに帰れなかったから、意識しちゃって、この夢を見てるんだ。本当に会えた方が良かったけど、せっかく見れてるんだし、夢でも、したいなら、したいな…。しても良いかな)
顔をちょっとだけ動かして、京楽の頬に口付けた。
ちゅ…
京楽も京楽で考え事をしており、その口付けにピクリとした。
ここは夢の中。どんなに恥ずかしいことをしても、誰も知らない秘密の世界。大胆なお願いだって、きっと叶う夢の世界。だからといって、面と向かってのおねだりは無理なのだが。大きな勇気と小さな声で、思い切ってみる。
「春水さん。ぼく…、し、したいです///」
ちゅ…
今度は、より口元に近いところへ。夢から覚めてしまう前に。
「なつみちゃん」
誘拐されてしまう前の京楽なら、このお願いに意地悪く、「したいって、何を?ちゃんと言ってくれないと、わかんないなー、ボク」なんて返していただろう。だがそんな余裕は、今の京楽には無かった。
夢から覚めてしまう前に。
「おいで」
京楽はなつみを引き寄せ、溜めに溜めた欲望を解放するように、深く一途に口付けた。なつみも無我夢中で身体を寄せ、その快楽に満たされる。
「ボクも、なつみちゃんのこと、よく覚えてるね。そうそう。こんなに柔らかくて、おいしいんだよ」
「恥ずかしいです///💦」
「んふふ。ここのホクロは、ボクしか知らない」
「ああんっ///」
「本当だッ、ボクのこと、覚えててくれてるね。浮気してないみたいで、安心したよ」
「してませんよッ。はぁッ。春水さんじゃなきゃ、やッ」
「愛してる、なつみちゃん。早く帰ってきて」
「ぼくも春水さんのこと愛してます。指輪してなくて、ごめんなさい」
夢であっては嫌なのに、このまま覚めないで欲しいとも思う。起きなければ会えないのに。起きてしまうと、消えてしまう。どれだけ悩もうと答えは出ない。そうして夜が明けていく。創造の世界へと戻される。あたたかいお布団に包まれて。
上半身の温もりと、下の方の湿り気。
「参ったね…、どうも」
情けないと思いつつ、お土産のように残された胸の中の清々しさに、京楽は笑った。
「むふふふふー、むふふふふー😚」
何やらご機嫌で、ちょっぴり気味の悪い笑いがなつみから漏れ出る、朝のキッチン。
「むきゃ〜、んふふ〜///」
コーンスープを混ぜ混ぜしながら、くねくね照れる。
その様子を訝しげに、入り口から見つめるスターク、リリネット、グリムジョー。そして市丸が訳を話す。
「良え夢見たんやて」
「夢であんなになるか?」
「スタークが出てきたんじゃない?」
「俺じゃねぇよ。カレシだろ」
味見をすると、いつもより美味しい気がする。
「にゃふ〜😋💕」
「幸せそうだな、なつみ🐥」
「あー、ムッちゃん。おはよー😊」
「おはよう。今日も仕事、頑張ろうな」
「うん❗️1個ずつ完成させて、春水さんに褒めてもらうんだ〜。『かっこいい』って、言ってもらうの❗️」
「そうだな」
ニッコリ笑い合う。
「地獄行きではない、新たな道を切り拓く。それが私の目標だ」
なつみが鼻歌混じりにトーストを焼き始め、紅茶を淹れる。希望を纏う、爽やかな朝の時間だ。
「その道の先で、私たちは幸せになるだろう。力を有しているために地獄に堕とされるくらいなら、その力で自ら望む未来に踏み出してみせる。私は必ずやり遂げるよ。なつみに絶望を見せたりしない。何が何でも」
一緒に過ごす世界は同じ場所。しかし一人一人の瞳には、それぞれ違う姿で映るもの。
(だから彼奴は仲間を斬り捨てることに躊躇しない。自分が後で救いに行くと、心に誓っているから)
朝食の準備が整い、カートに必要な物を乗せていく。
「会議室に行くよ。グリムジョーも来るの❗️わかった❓みんなで食べよう😁」
(人の夢を笑ってはならない…な)
「今夜は私たちと食事をしよう。グリムジョーのことは放っておくこと」
一緒にさせて、また尸魂界へ行く手立てをされては困るからだ。軽く見えそうだが、お世話をしたいなつみには嫌な命令だった。
「行ってしまう前に止められたし、動機もそこまで酷く責めなければならないものでもなかった。このくらいで、充分反省してくれるだろう」
「はい…」
シュン…。
しかし、市丸には予想がついていた。
「義骸を取りに行くだけで、済むわけないわ。寄り道して、遊びに行くに決まってる。だーいすきな京楽さんとこ行っとったやろ」
「そんなことないもん」と、言ってやりたかったが、本心は会いたいに決まっているのだから、嘘はつけない。下唇を強く噛んで、縮こまって居心地の悪さに耐えようとした。
なつみが何日ぶりかにいつもの部屋で食事をするということで、藍染は十刃たちに連絡を入れた。集まった破面たちは嬉しかったものの、なつみの居た堪れなさそうな雰囲気に、同情ではないが、何だか可哀想と思ってしまった。
「もうすぐ完成するんでしょ?どうしてわざわざ取りに戻ろうとしたの」
「だってだって…」
ザエルアポロの問いに、もごもごしてしまう。
「慌てん坊さんなんよ、なつみちゃん」
「っていうか、あの人がこっから逃げ出したいのが、強かったんじゃないの?行くなら独りで行けば良いのに。なつみを巻き込むなんて、最低だよ」
こう述べたルピを、スタークがやや鋭く睨んだ。
なつみの隣でご機嫌なワンダーワイス。再会の乾杯をすると、きゅうと抱きついてきた。
「ワンダーワイス、危ないよ。ジュース溢れちゃう」
「アウー」
注意されても離れようとしなかった。
「こらこら」
懐かれるのは嫌な気がしないため、注意しつつも、なつみはワンダーワイスを撫でてあげる。
あんまり会えなかった日々を、みんなどう過ごしていたのか聞いてみた。それぞれ与えられた仕事や、趣味や、狩りをしていたんだそう。十刃がリーダーとなり、チームで作業することがほとんどで、このように彼らが顔を合わせることも、少なかったらしい。
「やはり良いものだね、皆で食卓を囲むというのは」
お誕生日席から、藍染はみんなの顔を眺めた。
「別に、ぼくが居なくたって、こうして集まれば良いじゃないですか」
たかが1人いつものメンバーから抜けるだけだと思っている。
「ウーウー😠」
なつみの発言はいただけないぞと、ワンダーワイスが膨れっ面になった。
「ワンダーワイスの言う通りだ。虐めて遊んでも良いお前ぇが居ねぇーと、つまんねーだろ。お前に会えなきゃ、わざわざ来る意味無ぇんだよ」
ノイトラが背もたれに大きくのけ反る。
「そこまで言ってねぇし、絶対😒」
だって2音しか発していないぞ。
「なつみの笑顔に癒されたいのだよ。グリムジョーの世話をほどほどにしてもらえないか」
「ゾマリん、照れるじゃんかー、そんなこと言われるとぉ」ほっぺに手を当てて、照れちゃうポーズ。からの。「だが断る✋」
「そうは言っても、俺たちと居るの楽しいんだろ?」「ワイワイスルノ好キダモンネ」
「好きだけどさ」アーロニーロを、唇とんがらせて見る。「まだかかる……」
すると突然背後に誰かが現れて、そこから手を伸ばし、なつみの口角を上げた。クウィッ。
「ニィッ?」
目だけ動かして、犯人を確認した。
「笑っていろ。お前の難しい顔など、何も面白くない」
「うゆいゆゆ」
ウルキオラ。
「笑え」
「むふーっ」
ムニムニムニーッとほっぺを弄られてしまった。
なつみが、わーっとなっている最中、藍染が話を挟んできた。
「取り込み中済まないんだが、なつみ、君の斬魄刀と話したいことがあるんだ。出てきてもらえないかな」
「んにょ。ムッちゃんとですか?にょ、ムッちゃん」
なつみに呼び出されること無く、ムッちゃんは藍染の鼻先に嘴が当たりそうな距離で出現した。
「何事だろうな。何とも丁度いいタイミングで、私もお前と話がしたいと思っていたんだ」
相変わらずの大きな態度。
「場所を移そう。なつみとはどのくらい離れていられるかな」
「他人が気にすることではない」
「そうか」椅子を引いて、立ち上がった。「なら、向こうへ行こう。ごめんね、なつみ。少し借りるよ」
「はい。いってらっしゃい、ムッちゃん」
静かな階段で、藍染とムッちゃんがなつみには内緒の話をする。
「話とは何だ」
「まず、君が私に言いたいことが何か、当ててあげようか。そこに、君を呼び出した理由が含まれているからね」
「何」
「こんなところだろう。なつみを早く尸魂界に帰してやれ。いつまでここに閉じ込めておくつもりだ。お前の目的は何だ。何故、護廷十三隊を裏切った」
ムッちゃんは目を細める。
「私も疑問に思うことがあるよ。何故君は、私たちのこの滞在を疑いながらも、あの子にそれを伝えないのか」
まだ腕を組んでいる。
「あぁ、言わなくても良いよ。ちゃんと気付けたからね」藍染は笑った。「これは全てなつみのために、黙っているんだろう。彼女の混乱を招かないように。何もかもを否定されると、世界を滅ぼしかねない上に、あの子が泣いてしまうから」
「なるほど。なつみを泣かせるくらいのことをしてきているということだな」
「警戒心を強めた方が良さそうだね」
洒落を言うほどの余裕があるらしい。
「情報が無ければ、判断しかねる。打ち明けると言うのであれば、嘘偽り無く語ると誓え」
「ありがたい。君から要求してもらえるとは。ひとつ頼み事もするつもりでいたんだ」
表情がピクリと強張る。
「めでたい奴め。貴様などに協力するか」
「いや、するよ。何故なら、『全てはなつみのために』に繋がっているのだから」
こっそり抜け出し未遂とそのお説教で、心が少し疲れてしまったなつみは、速やかにベッドに潜り込み、もう眠ってしまっている。その隣りには市丸が。
「怒りすぎてまったなぁ。帰りたいに決まってんのに」
彼もまた、反省する側であった。
「起きているな」
なつみの寝顔を見ていたら、上から声がした。
「なぁに」
「お前に伝えておくことがある」
ムッちゃんがふわふわ浮かんでいた。
「さっき藍染隊長と話してたこと?」
「そうだ」
市丸は仰向けになった。
「落ち着いて聞いてほしい」
「どうぞ」
「今夜、私はなつみを連れ出す」
「っ⁉︎」
声は漏れなかったが、息を呑んだ。
「藍染に頼まれたんだ」
「行くて、どこに」
「夢の世界へだ。今回の騒動で、この子の限界が近いことがわかったんだろう。実際には無理だが、夢なら許すそうだ。とは言え、手順が複雑でな、私ひとりでうまくやれるかどうか。何分、時空を超えなければならないからな。どれだけ繋いでいられるか」
「……」
ムッちゃんは、市丸が理解してくれるのを待った。
「お互い、気付くんかな、会えてるて」
軽く腕を広げて、ムッちゃんは答えた。
「夢の中では何でもできる。想像のままに、自由を楽しめるものだ。ただ、夢は夢でしかない。そのことは、見ている彼らも承知している。だから、起きてしまえば、幻であると思うだろう。それでも良いじゃないか。目の前にある一瞬一瞬を、大いに楽しむために、私たちは生きているのだから。それに、幸せな夢というのは、明日への希望となる。なつみの機嫌も直るだろう」
「どういう風の吹き回しや」
「なつみに辛い思いをさせたくないらしい。一度バレているからな、自分が見せるのではいけないと思って、私に頼んだんだろう。お前の眠りを妨げないよう、なつみの身体は向こうへ持っていく。恐らく、そういうことになるだろうからな」
「キミも、姿見せたらあかんで」
「わかっている!じゃあな。お前も早く寝ろ」
「はいはい。ほな、おやすみ」
なつみは布団の中で気が付いた。黄昏の明るさに、不思議さが漂う。
「んん…」
寝返りを打ってみると、隣りには男性の身体があった。
「隊長…?」
いや待てよ。この腕、この胸。
(あわっ///)
市丸には無い毛量。これは。
「春水さん❗️😍」
横になって向き合っていたのを、タックルし、眠る彼に乗っかって抱きついてしまった。
「んあっ⁉︎何だ⁉︎」
「むぎゅふふふっ」
ひとりで眠りについたはずなのに、今、ベッドにもうひとりいる。京楽は突然の襲撃に驚き、目を覚ましたが、自分の胸に顔を幸せそうにすりすりその子の正体に気付き、更に驚いた。
「なつみちゃん⁉︎」
「はぁい😊」
デレデレととぼけた声色の返事だ。
「本当になつみちゃんかい⁉︎」
「はぁい😄」
もう一度同じように返事をした。
「ああ」京楽は、ぎゅっと抱きしめた。「なつみちゃん。なつみちゃんだ」
抱きしめる力が強く、少し苦しくもあり、胸のときめきもあって、きゅっときついことにニヤついてしまうなつみ。
「やっと夢で会えましたね。ずっとずっと会えなくて寂しかったですけど、良かったぁ。会えましたぁ。はぁ、しあわせー💕」
京楽の胸の上で、とろけそうなほど幸せを味わうニヤニヤ。
(夢…?そうか、これは夢か。そうだよね。あり得ない。なつみちゃんは虚圏にいるんだから)
なつみの反応とは裏腹に、京楽はいくらか冷静でいた。
そんな京楽の上で、なつみはよいしょと手を下に着いて身体を起こした。ふたりの視線が合う姿勢。
「わぁ、良かったぁ。ぼく、ちゃんと春水さんのお顔覚えてますね」お髭を愛おしそうに、右手で撫でる。「えへ…、ハンサムさん///」
絶対現実なら言わない発言。
「なつみちゃん…」
京楽もなつみのほっぺに手を伸ばした。愛に満ちた瞳の輝きを見つめながら、懐かしい柔らかさに触れられた。
絶対に言わない恥ずかしいことを言ったことに気付いて、なつみは慌てて伏せてしまった。今度は胸の上ではなく、彼の耳元へ。
「💓💦」
「なつみ ちゃん?☹️💦」
見覚えのないパジャマ越しに、小さな背中を撫でてあげる。
なつみは、縮こまりながら考えた。
(きっと、帰れそうだったのに帰れなかったから、意識しちゃって、この夢を見てるんだ。本当に会えた方が良かったけど、せっかく見れてるんだし、夢でも、したいなら、したいな…。しても良いかな)
顔をちょっとだけ動かして、京楽の頬に口付けた。
ちゅ…
京楽も京楽で考え事をしており、その口付けにピクリとした。
ここは夢の中。どんなに恥ずかしいことをしても、誰も知らない秘密の世界。大胆なお願いだって、きっと叶う夢の世界。だからといって、面と向かってのおねだりは無理なのだが。大きな勇気と小さな声で、思い切ってみる。
「春水さん。ぼく…、し、したいです///」
ちゅ…
今度は、より口元に近いところへ。夢から覚めてしまう前に。
「なつみちゃん」
誘拐されてしまう前の京楽なら、このお願いに意地悪く、「したいって、何を?ちゃんと言ってくれないと、わかんないなー、ボク」なんて返していただろう。だがそんな余裕は、今の京楽には無かった。
夢から覚めてしまう前に。
「おいで」
京楽はなつみを引き寄せ、溜めに溜めた欲望を解放するように、深く一途に口付けた。なつみも無我夢中で身体を寄せ、その快楽に満たされる。
「ボクも、なつみちゃんのこと、よく覚えてるね。そうそう。こんなに柔らかくて、おいしいんだよ」
「恥ずかしいです///💦」
「んふふ。ここのホクロは、ボクしか知らない」
「ああんっ///」
「本当だッ、ボクのこと、覚えててくれてるね。浮気してないみたいで、安心したよ」
「してませんよッ。はぁッ。春水さんじゃなきゃ、やッ」
「愛してる、なつみちゃん。早く帰ってきて」
「ぼくも春水さんのこと愛してます。指輪してなくて、ごめんなさい」
夢であっては嫌なのに、このまま覚めないで欲しいとも思う。起きなければ会えないのに。起きてしまうと、消えてしまう。どれだけ悩もうと答えは出ない。そうして夜が明けていく。創造の世界へと戻される。あたたかいお布団に包まれて。
上半身の温もりと、下の方の湿り気。
「参ったね…、どうも」
情けないと思いつつ、お土産のように残された胸の中の清々しさに、京楽は笑った。
「むふふふふー、むふふふふー😚」
何やらご機嫌で、ちょっぴり気味の悪い笑いがなつみから漏れ出る、朝のキッチン。
「むきゃ〜、んふふ〜///」
コーンスープを混ぜ混ぜしながら、くねくね照れる。
その様子を訝しげに、入り口から見つめるスターク、リリネット、グリムジョー。そして市丸が訳を話す。
「良え夢見たんやて」
「夢であんなになるか?」
「スタークが出てきたんじゃない?」
「俺じゃねぇよ。カレシだろ」
味見をすると、いつもより美味しい気がする。
「にゃふ〜😋💕」
「幸せそうだな、なつみ🐥」
「あー、ムッちゃん。おはよー😊」
「おはよう。今日も仕事、頑張ろうな」
「うん❗️1個ずつ完成させて、春水さんに褒めてもらうんだ〜。『かっこいい』って、言ってもらうの❗️」
「そうだな」
ニッコリ笑い合う。
「地獄行きではない、新たな道を切り拓く。それが私の目標だ」
なつみが鼻歌混じりにトーストを焼き始め、紅茶を淹れる。希望を纏う、爽やかな朝の時間だ。
「その道の先で、私たちは幸せになるだろう。力を有しているために地獄に堕とされるくらいなら、その力で自ら望む未来に踏み出してみせる。私は必ずやり遂げるよ。なつみに絶望を見せたりしない。何が何でも」
一緒に過ごす世界は同じ場所。しかし一人一人の瞳には、それぞれ違う姿で映るもの。
(だから彼奴は仲間を斬り捨てることに躊躇しない。自分が後で救いに行くと、心に誓っているから)
朝食の準備が整い、カートに必要な物を乗せていく。
「会議室に行くよ。グリムジョーも来るの❗️わかった❓みんなで食べよう😁」
(人の夢を笑ってはならない…な)