第九章
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キッチンでお料理をしていると、偶然東仙がそこに入ってきた。
「やぁ、なつみ。今日のメニューは何かな」
「ビビンバですよ。このナムルにしてる豆苗なんですけど、ぼくの部屋で育ったんですよ。もう、後半3日くらいの急成長がすごかったです」
「ふふっ、そうなんだね」
石焼風にするため、フライパンでおこげ作る作戦。ジュー。
「あ❗️東仙隊長❗️デートしましょう❗️」
フライ返しで東仙をズバリ指した。
「唐突だね💧」
自分で良いのかと、首を傾げてしまう。
「お話ししたいことがあるんです。ふたりっきりで‼️✌️」
「デートの誘いにしては、怒っているように聞こえるけど💧」
「体育館裏に来いやぁ👍」
「怒ってるんだね」
お皿に盛り付けて、スープも器に注ぐ。
「お連れしたい場所があるんです。遠いところなので、半日予定を空けてほしいんですよね」
「わかった。君の頼みだ。予定を調整するよ」
「お願いします」
できたものをカートに乗せて、なつみはお先に失礼する。
「ところで」
ちょいと押しただけで、声をかけられてしまった。
「はい」
「これから誰とデートかな?」
「⁉️」
ビビンバと東仙を交互に見る。
「どぉしてわかっちゃうんですかぁ?2人分なのぉ。見えてませんよね」
「ふふっ、グラスとスプーンが2つずつあるのは、音でわかるからね」
「さっすが〜」
「私を褒めてはいけないんだろう。怒らなきゃ」
「😮!むぅっ😤」
指摘されてからぷりぷりして、キッチンを出ていった。
都合をつけてくれた東仙とやって来たのは、もちろんあの花畑。
「本当に存在したんだな」
さらさらと風になびく草の音と、その風に乗って渡ってきた花の香りで、東仙も特別な景色の中にいることを認識した。
「ワンダーワイスを疑っていたわけではないが、これは驚きだな」
なつみはしゃがんで、じっくり草原を眺める。
「荒らされてなくて、よかった。この前来たときのままです」
東仙もしゃがみ、地面に触れてみる。
「わずかに湿っているかな。君が見つけられなかった水脈が、この辺りにあるのかもしれない」
「が…😦今度ダウジングしてやる😑」
「知られていないということは、最近出現したばかりの環境かもしれないということかな。虚夜宮の改築によって、外にも影響が出ているのかもしれない」
「研究したくなっても、お花を引っこ抜いちゃダメですからね」
東仙はなつみの顔の方を向いて、ムッとした。
「ケチだな」
「環境保護です❗️」
えっへんと胸を張るなつみ。
「わかった。王様の仰せの通りに」
張った胸を内側に戻す。
「ぼくは王様じゃありません。棟梁です」
ふんわりと、東仙が頭を撫でてくれる。
「君のような人が、世界の1人目だったら良かったのに」
「?🙂」
急に変なことを言って、東仙は立ち上がった。
「さて、ピクニックの準備をしよう」
「は、はいっ」
シートを広げ、水筒で持って来たお茶を2人分コップに注ぐ。
「私の理想の世界は、ありのままの姿を、自分とその周囲も、当たり前のこととして受け止められるところだと思っているんだ」
先程の続きだ。
「ありのままですか。今だって、できてそうですけど」
東仙は首を振った。
「いいや、なっていないよ。世界は不公平や差別で溢れている。手付かずで見過ごすことができたら、救われていたかもしれないものは、たくさんある」
東仙を見つつ、なつみはお茶を飲んだ。
「ッ💦」
熱かった。
「🫱👅🫲💦」
静かに火傷した舌をベッと出して、扇いで冷ます。音を立てなければ、見た目上失礼なことをしても、バレやしないだろうと。
「なつみは、利他的に考えられている。それが世界の正義であれば、どれだけ良かったか☝️」
しかし、東仙にはわかっていた。一旦舌を口内に収めて、むにむにしたところで、東仙に人差し指を唇に当てられてしまった。
「😣///💦」
「私の信じる正義ある世界へは、最も血に染まらない道を辿るしか、方法はないと思っているよ」
もごもごもご
回道で火傷を癒してくれているのだが、なつみは何か言いたげだった。
「何」
「全くとは言わないんですね」
口の右端から発した。
「分からず屋には、口での説得が効かないから」
指を当てられたまま、口を尖らせた。
「もう飲みやすくなったんじゃないかな」
(いーッ‼︎‼︎だ)
性懲りも無く、「ありがとうございます」を言わずに、声に出さず威嚇した。
今日は東仙に物申すのだ。
「グリムジョーのことは、やり過ぎですよ、東仙隊長!勝手に戦いに行っちゃったのは、ダメなことでしたけど、せっかく帰ってこられたのに、腕を斬っちゃうなんて、あんまりです!」
「虚夜宮を構成しているのは組織だ。平和な世をつくるために、虚が暴走せずに済む存在であることを、私たちが証明しなければならないのは、なつみもわかっているだろう。私たちとの間に結んだ規律を守れないならば、力を奪ってでも、大人しくさせる必要がある」
「でも、彼らだって反省できますよ!」
「そう。…、私もな」
東仙がお茶をひと口飲む動作につられて、なつみも口に運んだ。飲めた。彼の横顔を見ながら、言葉の続きを静かに待ってみる。
「今思えば、あの時の私はやり過ぎだった。反省したよ。結果、君はグリムジョーの世話をするようになり、食事も私たちとは離れて取るようになった。グリムジョーの腕を奪ったことで、皆からなつみまで奪ってしまったんだ。残ったのは、正義を貫けた喜びではなく、寂しさだった」
なつみの方を向いてくれる。
「済まなかったと、思っている」
素直な言葉に、きゅんとしたが、なつみ宛であってはいけない。
「言う相手が違いますよ」
「ああ。本人に言わなければね」清々しい夜の風を正面から受けるように、東仙は鼻先をそちらへ。「言うよ」
(かっこいいー…💖)
隊長というのは、かっこいい人をいうのである。哀愁かな。
「どうしたのかな。虚圏に来てから、徐々にだけど、怒りっぽくなってきている気がするんだ」
「そうですか?…」
グリムジョーの一件以外、思い当たる節は無さそうだが。
「そうしなければと、正義感に駆られてしまうと、それに集中してしまって、押し切ろうとするんだ。悪気は無いのに、湧き上がる感情の波に乗って、怒鳴ってしまったり、暴力に走ってしまったり。環境に染まってきているんだろうか」
「んー…🤔」
「なつみは、そんなこと無さそうだな」
「ぼくはぼくですから。東仙隊長も東仙隊長ですよ。きっとぉ、たぶん、尸魂界だと、東仙隊長が面倒を見るのは隊士たちで、みんな東仙隊長を上司として見ているから、ちゃんと『はい!』って言うこと素直に聞いてくれるんですけど、ここのみんなはそうは見てなさそうですから、言うこと聞かなかったりするんですよ」
「舐められてるってこと?(笑)」
「そうじゃなくて😫💦」語弊があった。「破面になる前は、すごくピリピリした緊張感の中生活していたんですよ。みんなそれぞれの強い考えがあって、向こうも意志を貫き通したいっていうか。負けたくない、折れたくないって気持ちが強いんですよ。それと東仙隊長はぶつかるから、同じくらいの強さでケンカになっちゃうっていうか。…、それが環境に染まってるってことなのか?🤔でも、怒りっぽくなったかもしれなくても、それで東仙隊長が嫌な人になっちゃったってことには、ならないと思いますから、悪い方に考えなくても良いと思いますよ」
こんな時、友だち相手なら、背中を摩ってあげたいものだが、何分、隊長ともなると、そうはいかない。
「ありがとう、なつみ。こんなこと、君にしか打ち明けられなかったよ。出かけに誘ってくれて、ありがとう」
「慰めるつもりでは、ありませんでしたが」
「ふふ、そうだね。体育館裏に呼び出されたんだった」
くいーっとコップを傾けて、飲み干す。
「東仙隊長、東仙隊長もおかわりいります?」
「うん。もらおうかな」
「はーい」
「おやつも持ってきたら良かったのに」
「👀‼️…。😣」
「忘れてきてしまったんだね(笑)」
「おかわりどーぞっ😫」
「ありがとう😌」
東仙とのデートは多少緊張するもので、お茶とサンドイッチで頭いっぱいになり、おやつのおの字も出てこなかった。誤魔化すためにも、話題を変えてみよう。
「そうですよ❗️👏」
「何が?」
「話さなきゃと思ってたけど、ずっと言えずにチャンス逃してたことがあるんですよね☝️」
興味を傾けてくれるように、顔だけでなく、身体も少しこちらに向けてくれた。
「むかーしむかし。ぼくがこれくらいちっちゃい時のお話です」
「…😌どのくらい?」
おやおや、見えないのになつみは、右手を上げて説明してしまった。
「すみません💦このくらいです」
コップを置いて、東仙の左手を取って高さを示してあげた。
「ふふふ、かわいいね」
ほんとはわかってたでしょう。
「結構昔のことだね。何があったのかな」
座り直す。
「ぼく、流魂街から瀞霊廷にお引越ししてたんですよ。その時、たぶんですけど、東仙隊長のことをお見かけしたと思うんです」
東仙は小さく驚いた表情になった。
「どうして、私だと思ったんだろう」
「お外にいらっしゃってて、隣にいたお姉さんとふたりで、楽しそうにおしゃべりされてたんですよ。お姉さんの方は、お顔を見てお話ししてましたけど、お兄さんの視線は別のとこに向いていたんです。変だなーと思って、失礼なことですけどね、子供だから許してほしいんですけど、じっとおふたりのこと、遠くから見てました。それでわかったんですけど、お兄さんは目が見えてないっぽかったんですよ。大人になってから、東仙隊長のことを知りまして、目が見えないことと、この肌の色が、あの時見たお兄さんと同じだと思ったんです」
「そうなんだ…。君が見たお姉さんは、どんな人だった?覚えているかな」
「お姉さんは確か、お顔に傷か痣かわかりませんでしたが、おっきな跡がありました」
また、東仙は驚いて、今度ははっと息を呑んだ。そしてにっこり笑う。
「ああ、それは確かに私たちだ。間違いないよ」
「やっぱり😄」
「そうか。面白い偶然があったんだね」
答え合わせができて、スッキリしたなつみ。
「素敵なカップルに見えましたよ。パッと見、かわいそうって思えることがおふたりにはあるのに、幸せそうに笑ってらっしゃいました。偏見って良くないなーと思いましたよ」
「それを言うなら、私もなつみに思っていた」
「どんなことですか?」
「君は自分の性別に悩んでいた。本来それは自然なことで、気にする程でもないのに、社会の常識のせいで、いくらか障害になっていたんだろう。生きにくいんじゃないかと思っていたよ。だけれど、君はいつしかその悩みから解放されていた。君は君らしく、自分の在り方を見つけられたんだろう。状況も環境も変わってはいないが、考え方ひとつで、納得のいく姿でいられるようになるんだ。周りが抱く偏見は、真実のごく一部分を捉えているに過ぎない。私も、君を見誤っていた。決して君は、特異だからといって、かわいそうなのではなかったんだ」
なつみは、目を細めて、嬉しい気持ちを噛み締めた。
「ありがとうございます」
「良い人に、巡り会えたんだよ」
「東仙隊長もですよ」
あの日見た東仙の優しい笑顔が、蘇ったようだ。
「お姉さんといた東仙隊長の穏やか〜な感じと比べると、確かに今の東仙隊長は、怒りっぽくなっているかもしれませんね。でもそれは、あの頃と違って、責任を背負っているからなんじゃないでしょうか。仕方ないんですよ、たぶん」
「なつみは本当に優しい子だ」
望んで蝕ませている心のことは、なつみに話せそうにない。こればかりは、偏見を持たせにいかなければならないのだろう。
「東仙隊長」
「ん?」
「突然ですが、やってみたいことがあるんです。付き合っていただけますか?」
「何だろう」
「東仙隊長に、この綺麗な世界を見ていただきたいんです」
なつみは簡単にこれを言ってしまった。
「嫌ですか?」
「…というより、できるの?」
「きっとできますよ!ぼくと東仙隊長が一緒に願えば😄」
お茶を置いて、なつみは東仙の前に行き、縦に並んで座った。
「ほんとは、これを試すために声をかけたんですよ」斬魄刀を抜く。「どうしても、東仙隊長とも分かち合いたくて」
準備を進めるなつみは、東仙からの返事を待つ。
「わかった。是非、やってみて」
「りよーーかいッ😆」
上がる霊圧。
「叶え、夢現天道子。ぼくが見ているものを、東仙隊長に届けて」
東仙は、なつみの肩に手を置いた。そうした方が良いと思い。
「あ……、ああ…」
置かれた手が、肩を握っていく。なつみは目をまん丸にしていたくて、ニヤつくのを堪えた。
「これが…、世界」
「はい。そうです」
「これが」
「これがお花、これが草。これが土で、これが石。あれが空で、あれが星です」
「これが君の手」
「東仙隊長の手も見えます」
指を差して、周りのものを教えてくれる手に触れたくて、東仙の身体がなつみの背に付く。
「要、私たちは幸せ者ね。だって、こんなに美しい世界にいられるんだもの」
懐かしい暖かさが、東仙の胸に伝わってきた。
「やぁ、なつみ。今日のメニューは何かな」
「ビビンバですよ。このナムルにしてる豆苗なんですけど、ぼくの部屋で育ったんですよ。もう、後半3日くらいの急成長がすごかったです」
「ふふっ、そうなんだね」
石焼風にするため、フライパンでおこげ作る作戦。ジュー。
「あ❗️東仙隊長❗️デートしましょう❗️」
フライ返しで東仙をズバリ指した。
「唐突だね💧」
自分で良いのかと、首を傾げてしまう。
「お話ししたいことがあるんです。ふたりっきりで‼️✌️」
「デートの誘いにしては、怒っているように聞こえるけど💧」
「体育館裏に来いやぁ👍」
「怒ってるんだね」
お皿に盛り付けて、スープも器に注ぐ。
「お連れしたい場所があるんです。遠いところなので、半日予定を空けてほしいんですよね」
「わかった。君の頼みだ。予定を調整するよ」
「お願いします」
できたものをカートに乗せて、なつみはお先に失礼する。
「ところで」
ちょいと押しただけで、声をかけられてしまった。
「はい」
「これから誰とデートかな?」
「⁉️」
ビビンバと東仙を交互に見る。
「どぉしてわかっちゃうんですかぁ?2人分なのぉ。見えてませんよね」
「ふふっ、グラスとスプーンが2つずつあるのは、音でわかるからね」
「さっすが〜」
「私を褒めてはいけないんだろう。怒らなきゃ」
「😮!むぅっ😤」
指摘されてからぷりぷりして、キッチンを出ていった。
都合をつけてくれた東仙とやって来たのは、もちろんあの花畑。
「本当に存在したんだな」
さらさらと風になびく草の音と、その風に乗って渡ってきた花の香りで、東仙も特別な景色の中にいることを認識した。
「ワンダーワイスを疑っていたわけではないが、これは驚きだな」
なつみはしゃがんで、じっくり草原を眺める。
「荒らされてなくて、よかった。この前来たときのままです」
東仙もしゃがみ、地面に触れてみる。
「わずかに湿っているかな。君が見つけられなかった水脈が、この辺りにあるのかもしれない」
「が…😦今度ダウジングしてやる😑」
「知られていないということは、最近出現したばかりの環境かもしれないということかな。虚夜宮の改築によって、外にも影響が出ているのかもしれない」
「研究したくなっても、お花を引っこ抜いちゃダメですからね」
東仙はなつみの顔の方を向いて、ムッとした。
「ケチだな」
「環境保護です❗️」
えっへんと胸を張るなつみ。
「わかった。王様の仰せの通りに」
張った胸を内側に戻す。
「ぼくは王様じゃありません。棟梁です」
ふんわりと、東仙が頭を撫でてくれる。
「君のような人が、世界の1人目だったら良かったのに」
「?🙂」
急に変なことを言って、東仙は立ち上がった。
「さて、ピクニックの準備をしよう」
「は、はいっ」
シートを広げ、水筒で持って来たお茶を2人分コップに注ぐ。
「私の理想の世界は、ありのままの姿を、自分とその周囲も、当たり前のこととして受け止められるところだと思っているんだ」
先程の続きだ。
「ありのままですか。今だって、できてそうですけど」
東仙は首を振った。
「いいや、なっていないよ。世界は不公平や差別で溢れている。手付かずで見過ごすことができたら、救われていたかもしれないものは、たくさんある」
東仙を見つつ、なつみはお茶を飲んだ。
「ッ💦」
熱かった。
「🫱👅🫲💦」
静かに火傷した舌をベッと出して、扇いで冷ます。音を立てなければ、見た目上失礼なことをしても、バレやしないだろうと。
「なつみは、利他的に考えられている。それが世界の正義であれば、どれだけ良かったか☝️」
しかし、東仙にはわかっていた。一旦舌を口内に収めて、むにむにしたところで、東仙に人差し指を唇に当てられてしまった。
「😣///💦」
「私の信じる正義ある世界へは、最も血に染まらない道を辿るしか、方法はないと思っているよ」
もごもごもご
回道で火傷を癒してくれているのだが、なつみは何か言いたげだった。
「何」
「全くとは言わないんですね」
口の右端から発した。
「分からず屋には、口での説得が効かないから」
指を当てられたまま、口を尖らせた。
「もう飲みやすくなったんじゃないかな」
(いーッ‼︎‼︎だ)
性懲りも無く、「ありがとうございます」を言わずに、声に出さず威嚇した。
今日は東仙に物申すのだ。
「グリムジョーのことは、やり過ぎですよ、東仙隊長!勝手に戦いに行っちゃったのは、ダメなことでしたけど、せっかく帰ってこられたのに、腕を斬っちゃうなんて、あんまりです!」
「虚夜宮を構成しているのは組織だ。平和な世をつくるために、虚が暴走せずに済む存在であることを、私たちが証明しなければならないのは、なつみもわかっているだろう。私たちとの間に結んだ規律を守れないならば、力を奪ってでも、大人しくさせる必要がある」
「でも、彼らだって反省できますよ!」
「そう。…、私もな」
東仙がお茶をひと口飲む動作につられて、なつみも口に運んだ。飲めた。彼の横顔を見ながら、言葉の続きを静かに待ってみる。
「今思えば、あの時の私はやり過ぎだった。反省したよ。結果、君はグリムジョーの世話をするようになり、食事も私たちとは離れて取るようになった。グリムジョーの腕を奪ったことで、皆からなつみまで奪ってしまったんだ。残ったのは、正義を貫けた喜びではなく、寂しさだった」
なつみの方を向いてくれる。
「済まなかったと、思っている」
素直な言葉に、きゅんとしたが、なつみ宛であってはいけない。
「言う相手が違いますよ」
「ああ。本人に言わなければね」清々しい夜の風を正面から受けるように、東仙は鼻先をそちらへ。「言うよ」
(かっこいいー…💖)
隊長というのは、かっこいい人をいうのである。哀愁かな。
「どうしたのかな。虚圏に来てから、徐々にだけど、怒りっぽくなってきている気がするんだ」
「そうですか?…」
グリムジョーの一件以外、思い当たる節は無さそうだが。
「そうしなければと、正義感に駆られてしまうと、それに集中してしまって、押し切ろうとするんだ。悪気は無いのに、湧き上がる感情の波に乗って、怒鳴ってしまったり、暴力に走ってしまったり。環境に染まってきているんだろうか」
「んー…🤔」
「なつみは、そんなこと無さそうだな」
「ぼくはぼくですから。東仙隊長も東仙隊長ですよ。きっとぉ、たぶん、尸魂界だと、東仙隊長が面倒を見るのは隊士たちで、みんな東仙隊長を上司として見ているから、ちゃんと『はい!』って言うこと素直に聞いてくれるんですけど、ここのみんなはそうは見てなさそうですから、言うこと聞かなかったりするんですよ」
「舐められてるってこと?(笑)」
「そうじゃなくて😫💦」語弊があった。「破面になる前は、すごくピリピリした緊張感の中生活していたんですよ。みんなそれぞれの強い考えがあって、向こうも意志を貫き通したいっていうか。負けたくない、折れたくないって気持ちが強いんですよ。それと東仙隊長はぶつかるから、同じくらいの強さでケンカになっちゃうっていうか。…、それが環境に染まってるってことなのか?🤔でも、怒りっぽくなったかもしれなくても、それで東仙隊長が嫌な人になっちゃったってことには、ならないと思いますから、悪い方に考えなくても良いと思いますよ」
こんな時、友だち相手なら、背中を摩ってあげたいものだが、何分、隊長ともなると、そうはいかない。
「ありがとう、なつみ。こんなこと、君にしか打ち明けられなかったよ。出かけに誘ってくれて、ありがとう」
「慰めるつもりでは、ありませんでしたが」
「ふふ、そうだね。体育館裏に呼び出されたんだった」
くいーっとコップを傾けて、飲み干す。
「東仙隊長、東仙隊長もおかわりいります?」
「うん。もらおうかな」
「はーい」
「おやつも持ってきたら良かったのに」
「👀‼️…。😣」
「忘れてきてしまったんだね(笑)」
「おかわりどーぞっ😫」
「ありがとう😌」
東仙とのデートは多少緊張するもので、お茶とサンドイッチで頭いっぱいになり、おやつのおの字も出てこなかった。誤魔化すためにも、話題を変えてみよう。
「そうですよ❗️👏」
「何が?」
「話さなきゃと思ってたけど、ずっと言えずにチャンス逃してたことがあるんですよね☝️」
興味を傾けてくれるように、顔だけでなく、身体も少しこちらに向けてくれた。
「むかーしむかし。ぼくがこれくらいちっちゃい時のお話です」
「…😌どのくらい?」
おやおや、見えないのになつみは、右手を上げて説明してしまった。
「すみません💦このくらいです」
コップを置いて、東仙の左手を取って高さを示してあげた。
「ふふふ、かわいいね」
ほんとはわかってたでしょう。
「結構昔のことだね。何があったのかな」
座り直す。
「ぼく、流魂街から瀞霊廷にお引越ししてたんですよ。その時、たぶんですけど、東仙隊長のことをお見かけしたと思うんです」
東仙は小さく驚いた表情になった。
「どうして、私だと思ったんだろう」
「お外にいらっしゃってて、隣にいたお姉さんとふたりで、楽しそうにおしゃべりされてたんですよ。お姉さんの方は、お顔を見てお話ししてましたけど、お兄さんの視線は別のとこに向いていたんです。変だなーと思って、失礼なことですけどね、子供だから許してほしいんですけど、じっとおふたりのこと、遠くから見てました。それでわかったんですけど、お兄さんは目が見えてないっぽかったんですよ。大人になってから、東仙隊長のことを知りまして、目が見えないことと、この肌の色が、あの時見たお兄さんと同じだと思ったんです」
「そうなんだ…。君が見たお姉さんは、どんな人だった?覚えているかな」
「お姉さんは確か、お顔に傷か痣かわかりませんでしたが、おっきな跡がありました」
また、東仙は驚いて、今度ははっと息を呑んだ。そしてにっこり笑う。
「ああ、それは確かに私たちだ。間違いないよ」
「やっぱり😄」
「そうか。面白い偶然があったんだね」
答え合わせができて、スッキリしたなつみ。
「素敵なカップルに見えましたよ。パッと見、かわいそうって思えることがおふたりにはあるのに、幸せそうに笑ってらっしゃいました。偏見って良くないなーと思いましたよ」
「それを言うなら、私もなつみに思っていた」
「どんなことですか?」
「君は自分の性別に悩んでいた。本来それは自然なことで、気にする程でもないのに、社会の常識のせいで、いくらか障害になっていたんだろう。生きにくいんじゃないかと思っていたよ。だけれど、君はいつしかその悩みから解放されていた。君は君らしく、自分の在り方を見つけられたんだろう。状況も環境も変わってはいないが、考え方ひとつで、納得のいく姿でいられるようになるんだ。周りが抱く偏見は、真実のごく一部分を捉えているに過ぎない。私も、君を見誤っていた。決して君は、特異だからといって、かわいそうなのではなかったんだ」
なつみは、目を細めて、嬉しい気持ちを噛み締めた。
「ありがとうございます」
「良い人に、巡り会えたんだよ」
「東仙隊長もですよ」
あの日見た東仙の優しい笑顔が、蘇ったようだ。
「お姉さんといた東仙隊長の穏やか〜な感じと比べると、確かに今の東仙隊長は、怒りっぽくなっているかもしれませんね。でもそれは、あの頃と違って、責任を背負っているからなんじゃないでしょうか。仕方ないんですよ、たぶん」
「なつみは本当に優しい子だ」
望んで蝕ませている心のことは、なつみに話せそうにない。こればかりは、偏見を持たせにいかなければならないのだろう。
「東仙隊長」
「ん?」
「突然ですが、やってみたいことがあるんです。付き合っていただけますか?」
「何だろう」
「東仙隊長に、この綺麗な世界を見ていただきたいんです」
なつみは簡単にこれを言ってしまった。
「嫌ですか?」
「…というより、できるの?」
「きっとできますよ!ぼくと東仙隊長が一緒に願えば😄」
お茶を置いて、なつみは東仙の前に行き、縦に並んで座った。
「ほんとは、これを試すために声をかけたんですよ」斬魄刀を抜く。「どうしても、東仙隊長とも分かち合いたくて」
準備を進めるなつみは、東仙からの返事を待つ。
「わかった。是非、やってみて」
「りよーーかいッ😆」
上がる霊圧。
「叶え、夢現天道子。ぼくが見ているものを、東仙隊長に届けて」
東仙は、なつみの肩に手を置いた。そうした方が良いと思い。
「あ……、ああ…」
置かれた手が、肩を握っていく。なつみは目をまん丸にしていたくて、ニヤつくのを堪えた。
「これが…、世界」
「はい。そうです」
「これが」
「これがお花、これが草。これが土で、これが石。あれが空で、あれが星です」
「これが君の手」
「東仙隊長の手も見えます」
指を差して、周りのものを教えてくれる手に触れたくて、東仙の身体がなつみの背に付く。
「要、私たちは幸せ者ね。だって、こんなに美しい世界にいられるんだもの」
懐かしい暖かさが、東仙の胸に伝わってきた。