第九章
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近くまで来ると、ワンダーワイスが迎えにきてくれて、なつみの手を引いて駆け出した。
「アウアウー」
「なになにー😄」
アーロニーロも、その後ろをちゃんとついていく。
行く手は崖になっているらしく、その先に地面は無いが、縁の手前に芝生が広がり、その上でゆらゆらと風に揺れる花が咲いていた。
「うっそ……」
「何だ、ここは」「何デ花ナンカ」
夜の砂漠の世界に、緑豊かな土地が存在するなど、誰も教えてくれなかった。なつみも、アーロニーロも、得意げなワンダーワイスを見る。
「ワンダーワイス、すごい発見だよ、これぇ❗️」
「迷子だなんてバカにして、悪い気がするな」「藍染様ニ報告シヨウ!」
「😊」
なつみは思いついて、伝令神機を取り出した。
「おいで❗️写真撮ろう」
めちゃくちゃ屈むアーロニーロと、カメラを構えるなつみの間にワンダーワイスを挟んで、スリーショットを撮る。
「ワンダーワイスがお花畑を見つけましたぁ〜🌟」
撮れた写真を確認。
「全然花写ってねぇし。花だけ撮り直し」
うつ伏せで寝転がり、なつみは花のアップを撮った。
「ふむー。キレイだね。リンドウっぽい形」
「なつみ、花ニ詳シイノ?」
アーロニーロも隣りで同じ姿勢になる。
「んー、そんなにだけど、リンドウは知ってる。護廷十三隊には隊花っていうのがあって、アイコンとして各隊に花が決まってるんだけど。リンドウは四番隊の花なの。見てると、優しい気持ちになるね〜」
「アー…」
ワンダーワイスが反対の隣りで寝転がる。
「花が咲くってことは、かなり複雑な生態系があるってことなんだけど、本当に不思議。どんな特別な条件が揃ってるんだろう」
自給自足を目指すため、家庭菜園にも挑戦中のなつみ。植物の繁殖と成長は、大変興味深い。
「この子たちの、『生きたい』って気持ちが強いのかな」
写真だけでなく、実物も持って帰って、みんなに見せてあげようと、なつみは手を伸ばして茎に手を添えた。
「……」
しかし、手が止まった。
「どうした?」「折ラナイノ?」
「?」
取らないなつみの代わりに自分が取ってあげようと、ワンダーワイスが別の花に手を伸ばしたが。
「待って。だめ」
なつみがその手を掴んで止めた。
「このまま、見てるだけにしよう。ぼくらの都合で、勝手に荒らしちゃダメだよ」
「ウー…」
なつみのお願いを、素直に聞き入れるワンダーワイス。
「良い子」
手を下げてくれたワンダーワイスに、なつみは頭を撫でてあげた。
「持って帰る間に、枯れるかもしれないしな」「ケド、ザエルアポロガ文句言イソウ」
「いいの。言わせとけば。ここから虚圏が、尸魂界や現世のような自然の営みを目指してるなら、邪魔するようなことしちゃダメだよ。どうしてもって時じゃなきゃ、人は環境を変えない方が良い。このお花は、ぼくたちが何もしなかったから咲けているんだもん。折ったり、引っこ抜くなんて、もってのほかだよ。触らぬ花に祟り無しってね。そんな簡単に殺しちゃいけないの。命なんだから」
両手に顎を乗せて、ちょっと頭を傾げる。優しい眼差しで花を眺め、両足を前後にぷらんぷらんと交互に揺らした。
「アゥー」
すると、ワンダーワイスがなつみにピタリと身体を寄せてきた。
「どんな命も輝いてる。みんな。きれい😊」
甘えてくるワンダーワイスに応えるように、なつみも彼にきゅっと身体を寄せた。
「連れてきてくれて、ありがとう。ワンダーワイスのおかげで、虚圏の希望が見られたよ。これはきっと、嬉しいエラーだよ」
「絶滅に追いやられる途中じゃなくて?」
「悲しいこと言わないの。こうして存在していることに、どうしたって前向きな意味があるよ。この厳しい環境に適応した結果、生存している。ちょっとした群生で。命を繋ぎたい、この花でありたいと思う気持ちが進化を促したんだよ。この世界は、和を許して、求めてるってこと。種の垣根を越えて共存して、みんなで協力して明日を迎える心意気❗️自由な姿の可能性。いろんなものを見せてくれてるような気がするよ」
ほっぺをぷにっとさせて、にんまり笑顔。そんななつみに、アーロニーロも身体を寄せる。
「ふふふ、狭いよぉ😚」
「なつみ、ソイツ イルケド」「約束してた話、聞いて」
なつみはアーロニーロの方へ、顔を向けた。
「うん。ごめんね、連れてきちゃって」
「ワンダーワイスなら良い」「言イフラサナイカラ」
申し訳なさそうに笑ってから、なつみは起き上がった。
「おいで、ワンダーワイス。ちょっとお昼寝」
自分の伸ばした脚をぽんぽん叩いて、膝枕をしに来いと、ワンダーワイスに言った。
「アーゥ」
喜んで体勢を変えると、下からなつみの顔を見上げた。
「アーロニーロが内緒のお話したいからね、ワンダーワイスは聞いちゃダメだよ」
耳を塞いでやると、ワンダーワイスはクスクス笑った。
ワンダーワイスの腕を、トントンとあやすリズムで叩くなつみの隣り、アーロニーロも起きて、座り直した。
「破面でも、藍染隊長でもダメなことなんて、ぼくが役に立てるかわかんないけど、ちゃんと聞いてあげるよ。内緒だって守れるから、安心して」
水槽の中で浮かんでいるふたつの顔を、なつみは静かな想いで見つめてあげた。
「なつみニダッテ、ボクラノ気持チ ワカンナイヨ」「それでも、お前には知ってほしいんだ」
「うん。」
なつみの右手が、アーロニーロの左手を握る。
「ねぇ、なつみ。…俺たち」「生キテル?」
「…、そう見えるよ。居るじゃん、ここに」
きゅっ。
「産まれてないのに」「生キテルナンテ」「変だ」「オカシイ」
「産まれてるよ。居るんだもん。手を握ってられるじゃん。否定しちゃダメ」
なつみは、アーロニーロの出生について、ほんの少しだけ聞いていた。彼らが、胎児の段階で亡くなってしまった双子の魂魄であることを。そしてそれ以上のことを、深く知ろうとしなかった。他者との違いを感じ、内に閉じ込めておこうとする気持ちを、彼女もよく知っていたからだ。その閉じ込めた想いを、自分に見せてくれようとしている。そう思った。
「みんなは外の空気に触れている」「ボクラハ違ウ。世界ヲ知ラナイ」「この手も脚も、俺たちの身体じゃない」「居ルノカ、居ナイノカ、ワカラナイ」「こんな悩み、アイツらは持たない」「ボクラガ持ッテ来ラレタノハ、仮面ト オ互イダケ」「俺たちは居ない」「デモ居ル。なつみガ見エル」「なつみと話せる」「デモ、ミンナト違ウ」「理解してもらえないのはわかってる」「ナノニ、なつみニハ打チ明ケテミタカッタ」「何でだろうな」「なつみノコトガ、好キダカラダヨネ」
握った力を少し緩めて、とんとんと上げ下げする。
「きっと、わかるところがあるからだよ。アーロニーロは匂いを嗅ぎ分けたんだ。ぼくも突然この身体だったからね」
今度はアーロニーロが聞く番。
「ぼくの場合は、産んでくれた両親が、誰だかわかんないんだ」
「捨テラレタノ?」
「違うと思うけど、全然わかんない。何があったのか。とにかくぼくは、拾われた子。だから、ぼくもアーロニーロと一緒だよ。産まれたって感じしない。でも生きてる!それは実感できるよ。一緒に楽しい思い出つくれてるから、ぼくたちは一緒に生きてるよ。さみしくないし、疑わない。本当の血のつながった両親からの愛情をもらえてないけど、出会った人たちからはたくさんもらえてるから、良いんだ😊」
アーロニーロには初耳だった。
「世界に自分が存在するなら、その証を残して、ちゃんと自分が居たことを感じたいんだよね」
生きる意味というもの。
「アーロニーロの人生を教えて。話してくれたら、ぼくの中に、アーロニーロの記憶が残されて、アーロニーロが居ることの証明に、ぼくがなってあげられるからさ。きみもぼくも、一緒に居るんだよ」
なつみは他の者と違う。アーロニーロとも違う。しかし、共通点もある。ここに居るという、確かなこと。リンドウの花を、見ているこの時間。
「大昔のことだ」「ボクタチガ人間ダッタ頃」「ほんの数ヶ月だった」「オ母サンノ オナカノ中」「すごく幸せで」「なつみト同ジクライ、アッタカカッタ」………「事故に遭ったけど、母さんは生き残った」「ボクタチハ死ンダ」「母さんは何も悪くない」「デモ、オ父サンカラモ、オジイサン、オバアサンカラモ、スゴク怒ラレテ」「嫌われて、悲しくて、たくさん泣いていた」「ボクタチ、ミンナデ、大好キナオ母サンヲ泣カセタ」「俺たちが産まれてあげられなかったせいで」「オ母サンハ悪者扱イ」「俺たちは誓った」「死ンジャッタケド、大キクテ強クナルッテ」「そしたら母さんが、泣き止んでくれると思ったから」「イッパイ食ベテ、破面ニモナッタ」「今の俺たちを見てくれたら、母さんは喜んでくれるかな」「ソウ思ッテモ、モウワカラナイ」「会えないから」
「だから、いつの間にか迷子になっていたの?」
「ああ」「ソウダヨ」「なつみを見てると、間違えてきたように思える」「なつみハ良イ子」「俺たちは、どこまで行こうと悪い子」「直ラナイ」
振り返ると、これまで犯してきた過ちに気付かされる。正しいと思ってしてきたことなのに。貪欲に食べて、自分を成長させることが間違いだったように思える。成果を褒めてくれるのを望んだ母親には、会えないと思い知らされる。何のために、何のために。意思を持って動けるのは、何のため。なつみという道標に出会えたならば、自分が迷子になっていることに気付かされる。その道を行くことに憧れても、もう、遅すぎるように見えた。
しかしそれは、アーロニーロの勝手な見方にすぎなかった。なつみにだって、取り返しのつかない過去がある。
「ぼくだって、悪い子だよ」
「ソンナコトナイ」「良い子だ」
「ううん。ぼくも間違えてきたもん。正しいと言われて、差し出されたものを、疑わずに食べてた時期があるからさ。何も考えずに、虫さんを遊んで殺しちゃったりね。いろんな間違いをしてきた。そうしてきた昔のことは、どうにもできないよ。悔い改めたって、反省したって、消せるもんじゃない。痛みを無視する悪い子だったの。地獄に堕ちるんだよ、ぼく。怖いけど」
ふたつの手は握られたまま。
「なつみが行くなら」「ボクモ行ク」
離れた手がもう1人を撫でる。暗い道なら、その手について行きたい。
「…、ありがとう。けどさ、考えたんだよねー、地獄に行かずに済む方法」
「何」「ナニ」
「ひひっ」少し悪そうな笑い方。「自分の居たい世界を勝手に創っちゃうこと」
らしいといえば、らしい考え。
「ぼくらは未来に進むだけ。自分の居場所は、自分で創れば良い。ぼくたちには、夢と、動ける身体がある。世代を超えても、思いやりの心はみんなにあるんだよ。それを信じれば、お母さんに会えなくても、お母さんの優しい視線が、誰かを通して届いてくると思うんだ。間違いは誰にでもある。それを許さない怖い世界に居たくないなら、許してくれる人がいる世界にするんだよ。どんな姿になっても、自分がわかるなら、好きな人も見つかる。間違いを間違いに思えたら、次は正しいことができる。自分なりのね。アーロニーロは良い子たちだよ。たぶんね、きみのお母さんを怒ってしまった家族の人たちも、きっと後悔してるよ。理不尽だったって。みんなの想いを引き継いでるアーロニーロが後悔してるもん。許し合える家族なんだよ。離れきっちゃダメ。会えなくても、心でつながろう。中に持てないなら、すぐ手元にあれば良いの。でしょ?」
つなぐ手の中とか。
殻の胸に手を当ててみた。
「ねぇ…」「ボクタチモ」
「なに?」
ワンダーワイスを見下ろすアーロニーロ。
「膝枕」「シテ」
「ふふっ」
なつみは、かわいいお願いに、子供らしさを感じた。ワンダーワイスを起こしてから、膝をまた叩いた。
「おいで!」
空いた席に、アーロニーロは頭を置かせてもらった。
「歌も歌ってあげようか。ぼく知ってるんだ。こういう景色の中では、これを歌わなきゃってのが、あるんだよ」
「へぇ」
起こされたワンダーワイスは、なつみに抱きつくことにした。
「アウー」
「ワカル。アッタカイヨナ」
『One Night』加賀谷玲
I am waitinig for you
捜してる月夜の記憶
香る花は打ち寄せる波のほとり
And nothing but you
残された風をまとい
So I can see the sky
I want to show you
叫んでる海ぬらす雨
飾られた夢はいつしか砂の中
And don't cry for you
色ずいた瞬間をまとい
So I can see the sky
Melody奏でる刹那を届けたいだけ
小さな手を包み込むように
あなたさえいれば風は吹くの?
いつかstand alone… 時に迷った夜
Let me tell you
おどけてる水面の光
そめられた心は見えない星の輝き
And I think of you
止められた過去をまとい
So I can see the sky
Melody奏でる刹那を届けたいだけ
小さな手を包み込むように
あなたさえいれば風は吹くの?
いつかstand alone… 時に迷った夜
I am waiting for you
And looking for truth
But not a sound is heard
Whenever you need any help my voice
Please let me know
Can I sing for you or pray for dream?
Let the wind blow
So I can see the sky
I am waitinig for you
捜してる月夜の記憶
香る花は打ち寄せる波のほとり
And nothing but you
残された風をまとい
So I can see the sky
「アウアウー」
「なになにー😄」
アーロニーロも、その後ろをちゃんとついていく。
行く手は崖になっているらしく、その先に地面は無いが、縁の手前に芝生が広がり、その上でゆらゆらと風に揺れる花が咲いていた。
「うっそ……」
「何だ、ここは」「何デ花ナンカ」
夜の砂漠の世界に、緑豊かな土地が存在するなど、誰も教えてくれなかった。なつみも、アーロニーロも、得意げなワンダーワイスを見る。
「ワンダーワイス、すごい発見だよ、これぇ❗️」
「迷子だなんてバカにして、悪い気がするな」「藍染様ニ報告シヨウ!」
「😊」
なつみは思いついて、伝令神機を取り出した。
「おいで❗️写真撮ろう」
めちゃくちゃ屈むアーロニーロと、カメラを構えるなつみの間にワンダーワイスを挟んで、スリーショットを撮る。
「ワンダーワイスがお花畑を見つけましたぁ〜🌟」
撮れた写真を確認。
「全然花写ってねぇし。花だけ撮り直し」
うつ伏せで寝転がり、なつみは花のアップを撮った。
「ふむー。キレイだね。リンドウっぽい形」
「なつみ、花ニ詳シイノ?」
アーロニーロも隣りで同じ姿勢になる。
「んー、そんなにだけど、リンドウは知ってる。護廷十三隊には隊花っていうのがあって、アイコンとして各隊に花が決まってるんだけど。リンドウは四番隊の花なの。見てると、優しい気持ちになるね〜」
「アー…」
ワンダーワイスが反対の隣りで寝転がる。
「花が咲くってことは、かなり複雑な生態系があるってことなんだけど、本当に不思議。どんな特別な条件が揃ってるんだろう」
自給自足を目指すため、家庭菜園にも挑戦中のなつみ。植物の繁殖と成長は、大変興味深い。
「この子たちの、『生きたい』って気持ちが強いのかな」
写真だけでなく、実物も持って帰って、みんなに見せてあげようと、なつみは手を伸ばして茎に手を添えた。
「……」
しかし、手が止まった。
「どうした?」「折ラナイノ?」
「?」
取らないなつみの代わりに自分が取ってあげようと、ワンダーワイスが別の花に手を伸ばしたが。
「待って。だめ」
なつみがその手を掴んで止めた。
「このまま、見てるだけにしよう。ぼくらの都合で、勝手に荒らしちゃダメだよ」
「ウー…」
なつみのお願いを、素直に聞き入れるワンダーワイス。
「良い子」
手を下げてくれたワンダーワイスに、なつみは頭を撫でてあげた。
「持って帰る間に、枯れるかもしれないしな」「ケド、ザエルアポロガ文句言イソウ」
「いいの。言わせとけば。ここから虚圏が、尸魂界や現世のような自然の営みを目指してるなら、邪魔するようなことしちゃダメだよ。どうしてもって時じゃなきゃ、人は環境を変えない方が良い。このお花は、ぼくたちが何もしなかったから咲けているんだもん。折ったり、引っこ抜くなんて、もってのほかだよ。触らぬ花に祟り無しってね。そんな簡単に殺しちゃいけないの。命なんだから」
両手に顎を乗せて、ちょっと頭を傾げる。優しい眼差しで花を眺め、両足を前後にぷらんぷらんと交互に揺らした。
「アゥー」
すると、ワンダーワイスがなつみにピタリと身体を寄せてきた。
「どんな命も輝いてる。みんな。きれい😊」
甘えてくるワンダーワイスに応えるように、なつみも彼にきゅっと身体を寄せた。
「連れてきてくれて、ありがとう。ワンダーワイスのおかげで、虚圏の希望が見られたよ。これはきっと、嬉しいエラーだよ」
「絶滅に追いやられる途中じゃなくて?」
「悲しいこと言わないの。こうして存在していることに、どうしたって前向きな意味があるよ。この厳しい環境に適応した結果、生存している。ちょっとした群生で。命を繋ぎたい、この花でありたいと思う気持ちが進化を促したんだよ。この世界は、和を許して、求めてるってこと。種の垣根を越えて共存して、みんなで協力して明日を迎える心意気❗️自由な姿の可能性。いろんなものを見せてくれてるような気がするよ」
ほっぺをぷにっとさせて、にんまり笑顔。そんななつみに、アーロニーロも身体を寄せる。
「ふふふ、狭いよぉ😚」
「なつみ、ソイツ イルケド」「約束してた話、聞いて」
なつみはアーロニーロの方へ、顔を向けた。
「うん。ごめんね、連れてきちゃって」
「ワンダーワイスなら良い」「言イフラサナイカラ」
申し訳なさそうに笑ってから、なつみは起き上がった。
「おいで、ワンダーワイス。ちょっとお昼寝」
自分の伸ばした脚をぽんぽん叩いて、膝枕をしに来いと、ワンダーワイスに言った。
「アーゥ」
喜んで体勢を変えると、下からなつみの顔を見上げた。
「アーロニーロが内緒のお話したいからね、ワンダーワイスは聞いちゃダメだよ」
耳を塞いでやると、ワンダーワイスはクスクス笑った。
ワンダーワイスの腕を、トントンとあやすリズムで叩くなつみの隣り、アーロニーロも起きて、座り直した。
「破面でも、藍染隊長でもダメなことなんて、ぼくが役に立てるかわかんないけど、ちゃんと聞いてあげるよ。内緒だって守れるから、安心して」
水槽の中で浮かんでいるふたつの顔を、なつみは静かな想いで見つめてあげた。
「なつみニダッテ、ボクラノ気持チ ワカンナイヨ」「それでも、お前には知ってほしいんだ」
「うん。」
なつみの右手が、アーロニーロの左手を握る。
「ねぇ、なつみ。…俺たち」「生キテル?」
「…、そう見えるよ。居るじゃん、ここに」
きゅっ。
「産まれてないのに」「生キテルナンテ」「変だ」「オカシイ」
「産まれてるよ。居るんだもん。手を握ってられるじゃん。否定しちゃダメ」
なつみは、アーロニーロの出生について、ほんの少しだけ聞いていた。彼らが、胎児の段階で亡くなってしまった双子の魂魄であることを。そしてそれ以上のことを、深く知ろうとしなかった。他者との違いを感じ、内に閉じ込めておこうとする気持ちを、彼女もよく知っていたからだ。その閉じ込めた想いを、自分に見せてくれようとしている。そう思った。
「みんなは外の空気に触れている」「ボクラハ違ウ。世界ヲ知ラナイ」「この手も脚も、俺たちの身体じゃない」「居ルノカ、居ナイノカ、ワカラナイ」「こんな悩み、アイツらは持たない」「ボクラガ持ッテ来ラレタノハ、仮面ト オ互イダケ」「俺たちは居ない」「デモ居ル。なつみガ見エル」「なつみと話せる」「デモ、ミンナト違ウ」「理解してもらえないのはわかってる」「ナノニ、なつみニハ打チ明ケテミタカッタ」「何でだろうな」「なつみノコトガ、好キダカラダヨネ」
握った力を少し緩めて、とんとんと上げ下げする。
「きっと、わかるところがあるからだよ。アーロニーロは匂いを嗅ぎ分けたんだ。ぼくも突然この身体だったからね」
今度はアーロニーロが聞く番。
「ぼくの場合は、産んでくれた両親が、誰だかわかんないんだ」
「捨テラレタノ?」
「違うと思うけど、全然わかんない。何があったのか。とにかくぼくは、拾われた子。だから、ぼくもアーロニーロと一緒だよ。産まれたって感じしない。でも生きてる!それは実感できるよ。一緒に楽しい思い出つくれてるから、ぼくたちは一緒に生きてるよ。さみしくないし、疑わない。本当の血のつながった両親からの愛情をもらえてないけど、出会った人たちからはたくさんもらえてるから、良いんだ😊」
アーロニーロには初耳だった。
「世界に自分が存在するなら、その証を残して、ちゃんと自分が居たことを感じたいんだよね」
生きる意味というもの。
「アーロニーロの人生を教えて。話してくれたら、ぼくの中に、アーロニーロの記憶が残されて、アーロニーロが居ることの証明に、ぼくがなってあげられるからさ。きみもぼくも、一緒に居るんだよ」
なつみは他の者と違う。アーロニーロとも違う。しかし、共通点もある。ここに居るという、確かなこと。リンドウの花を、見ているこの時間。
「大昔のことだ」「ボクタチガ人間ダッタ頃」「ほんの数ヶ月だった」「オ母サンノ オナカノ中」「すごく幸せで」「なつみト同ジクライ、アッタカカッタ」………「事故に遭ったけど、母さんは生き残った」「ボクタチハ死ンダ」「母さんは何も悪くない」「デモ、オ父サンカラモ、オジイサン、オバアサンカラモ、スゴク怒ラレテ」「嫌われて、悲しくて、たくさん泣いていた」「ボクタチ、ミンナデ、大好キナオ母サンヲ泣カセタ」「俺たちが産まれてあげられなかったせいで」「オ母サンハ悪者扱イ」「俺たちは誓った」「死ンジャッタケド、大キクテ強クナルッテ」「そしたら母さんが、泣き止んでくれると思ったから」「イッパイ食ベテ、破面ニモナッタ」「今の俺たちを見てくれたら、母さんは喜んでくれるかな」「ソウ思ッテモ、モウワカラナイ」「会えないから」
「だから、いつの間にか迷子になっていたの?」
「ああ」「ソウダヨ」「なつみを見てると、間違えてきたように思える」「なつみハ良イ子」「俺たちは、どこまで行こうと悪い子」「直ラナイ」
振り返ると、これまで犯してきた過ちに気付かされる。正しいと思ってしてきたことなのに。貪欲に食べて、自分を成長させることが間違いだったように思える。成果を褒めてくれるのを望んだ母親には、会えないと思い知らされる。何のために、何のために。意思を持って動けるのは、何のため。なつみという道標に出会えたならば、自分が迷子になっていることに気付かされる。その道を行くことに憧れても、もう、遅すぎるように見えた。
しかしそれは、アーロニーロの勝手な見方にすぎなかった。なつみにだって、取り返しのつかない過去がある。
「ぼくだって、悪い子だよ」
「ソンナコトナイ」「良い子だ」
「ううん。ぼくも間違えてきたもん。正しいと言われて、差し出されたものを、疑わずに食べてた時期があるからさ。何も考えずに、虫さんを遊んで殺しちゃったりね。いろんな間違いをしてきた。そうしてきた昔のことは、どうにもできないよ。悔い改めたって、反省したって、消せるもんじゃない。痛みを無視する悪い子だったの。地獄に堕ちるんだよ、ぼく。怖いけど」
ふたつの手は握られたまま。
「なつみが行くなら」「ボクモ行ク」
離れた手がもう1人を撫でる。暗い道なら、その手について行きたい。
「…、ありがとう。けどさ、考えたんだよねー、地獄に行かずに済む方法」
「何」「ナニ」
「ひひっ」少し悪そうな笑い方。「自分の居たい世界を勝手に創っちゃうこと」
らしいといえば、らしい考え。
「ぼくらは未来に進むだけ。自分の居場所は、自分で創れば良い。ぼくたちには、夢と、動ける身体がある。世代を超えても、思いやりの心はみんなにあるんだよ。それを信じれば、お母さんに会えなくても、お母さんの優しい視線が、誰かを通して届いてくると思うんだ。間違いは誰にでもある。それを許さない怖い世界に居たくないなら、許してくれる人がいる世界にするんだよ。どんな姿になっても、自分がわかるなら、好きな人も見つかる。間違いを間違いに思えたら、次は正しいことができる。自分なりのね。アーロニーロは良い子たちだよ。たぶんね、きみのお母さんを怒ってしまった家族の人たちも、きっと後悔してるよ。理不尽だったって。みんなの想いを引き継いでるアーロニーロが後悔してるもん。許し合える家族なんだよ。離れきっちゃダメ。会えなくても、心でつながろう。中に持てないなら、すぐ手元にあれば良いの。でしょ?」
つなぐ手の中とか。
殻の胸に手を当ててみた。
「ねぇ…」「ボクタチモ」
「なに?」
ワンダーワイスを見下ろすアーロニーロ。
「膝枕」「シテ」
「ふふっ」
なつみは、かわいいお願いに、子供らしさを感じた。ワンダーワイスを起こしてから、膝をまた叩いた。
「おいで!」
空いた席に、アーロニーロは頭を置かせてもらった。
「歌も歌ってあげようか。ぼく知ってるんだ。こういう景色の中では、これを歌わなきゃってのが、あるんだよ」
「へぇ」
起こされたワンダーワイスは、なつみに抱きつくことにした。
「アウー」
「ワカル。アッタカイヨナ」
『One Night』加賀谷玲
I am waitinig for you
捜してる月夜の記憶
香る花は打ち寄せる波のほとり
And nothing but you
残された風をまとい
So I can see the sky
I want to show you
叫んでる海ぬらす雨
飾られた夢はいつしか砂の中
And don't cry for you
色ずいた瞬間をまとい
So I can see the sky
Melody奏でる刹那を届けたいだけ
小さな手を包み込むように
あなたさえいれば風は吹くの?
いつかstand alone… 時に迷った夜
Let me tell you
おどけてる水面の光
そめられた心は見えない星の輝き
And I think of you
止められた過去をまとい
So I can see the sky
Melody奏でる刹那を届けたいだけ
小さな手を包み込むように
あなたさえいれば風は吹くの?
いつかstand alone… 時に迷った夜
I am waiting for you
And looking for truth
But not a sound is heard
Whenever you need any help my voice
Please let me know
Can I sing for you or pray for dream?
Let the wind blow
So I can see the sky
I am waitinig for you
捜してる月夜の記憶
香る花は打ち寄せる波のほとり
And nothing but you
残された風をまとい
So I can see the sky