第九章
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死神4人と十刃と従属官たちが、なつみん家(仮)の屋上に集まり、待ちに待った夜明けを迎えようとしていた。
「今のとこ、星空が綺麗に見えてますね」なつみはほへーっと真上を見上げる。「ほんとにあのまんまなの❓うまく反射するかなぁ」
「僕が信じられないの?温室ではちゃんと光が漏れてなかったから、大丈夫だよ」
虚夜宮の天井は、壁の作りとは違い、ガラス質の素材が使われていた。夜には星が見えるようにしたいからと、なつみが能力で透明な結晶を石材の中から抜き取り、パネル状にまとめたその表面に、ザエルアポロが特殊な塗料を塗ったものを上に敷き詰めたのだ。
「今、地下❓」
「通過したよ。そろそろ扉が開くはず。実際のタイミングと合わせるから…」時計をチェック。「あと5分だね」
「いよいよ〜👏」
パチパチパチパチ〜と上機嫌。ワクワクななつみである。
「なんや、一足早い大晦日みたいやな」
「あ ゔぇーりぃ めり くりすま〜す♪」
「クリスマスもまだやし」
「あんど はっぴーにゅーいゅ〜♪ふんふーふんふんふー ふんふーふんふふ〜♪」
「知らへんのかい」
「雰囲気っすよ、ふんいき。みんな、カウントダウンしようね❗️レッツぅ〜、御来光ぉ✊😆」
そして、その時が訪れた。
「15秒前」
「くるくるくる〜🤩」
「ほら、くるくる回っとらんと、いちばん前においで」
「はーい。リリネットちゃんも行こっ」
「10秒前。9、8」
「7👏6👏5👏4👏3👏2👏1👏御開帳ぉ〜🥳」
ギィ…と扉がスライドし、東の端から光の放射が世界を照らし始めた。
「ピッカァーッ‼️💖」
ピカチュウが歓喜の声を上げる。
あっという間に、光が空に色彩を与えていく。
「すごいすごいすごーい❗️赤くて金色❗️ねぇ、ちょっとあったかくない❓良いねー😄」
「ほんとに太陽じゃん。すご…」
なつみとリリネットはくっついて、朝日を正面から受け止めていた。
「おはようございまぁーーすッ‼️☀️🐔」
「おはよぉーーッ‼️😆」
世界と太陽に、心からの「おはよう」を。すると、周りのみんなからも「おはよう」の挨拶が。
「おはよう、皆」
「おはようございます」
「おはようさん」
「おはよう」
「はよーっす」
新しい1日がこれから始まる。
「なつみが来てくれて、虚夜宮はすっかり様変わりしたね。居心地が良くなる一方だよ」ザエルアポロは、自分の仕事が成功を収めていることに満足するも、それを自慢せず、なつみを褒めてあげることで、胸の内に自然と閉じ込めてた。「そう思うでしょ?バラガンさん。あのまま意地を張り続けてたらと思うと、ゾッとするんじゃない?」
「全くだ。お前さんに言われる筋合いではないがな」バラガンは、かつて肉眼で見た、生活の豊かさというものを、久しぶりに見ている気がしていた。「儂は城を整えることも、守りきることもしなかった、相応しくない者だったんじゃろう。なつみがこの地を救っておる。なつみのために席を空けたと思えば、儂は今の座でも納得できるわ」
「素直なんだか、そうでもねぇのか」
肩をすくめたのはスターク。
「藍染の独壇場など、仮初めにすぎん。そいつのお気に入りかどうかは、どうでも良いことだ」
ならばと、藍染もバラガンの意見には無視の姿勢をとる。
「ねぇねぇ、バラガンさんっ。そろそろアレ、鳴らしちゃっても良いんじゃないですか⁇」
普通に聞いていなくて無視してしまっているなつみが、バラガンの前に軽いステップで寄ってきた。
「おお、そうだな」
バラガンは、みんながいる後方に立てた、背の高い何かに近づいていった。それは2本の支柱に支えられた鐘である。
何年か前、バラガンが虚夜宮の王であった頃、その鐘は、彼の玉座のそばにあった。鐘の音は、バラガンの存在を周囲に知らせる、ある種警鐘の役割もあったかもしれない。鐘は、彼が城を去る際に残され、藍染に不要なものとして物置にしまわれたため、しばらく忘れられていたのだが、バラガンが帰ってきたことで、再び表に出されることになった。大きく欠けていたのを修復し、この記念の日に鳴らそうと、バラガンと従属官が準備していた。
なつみが肩を揺らし、足踏みステップで気持ちよく歌う。
「町はぁ今〜 砂漠のぉ中〜 あのかーねーぅお〜鳴らすのはぁ あなーたぁー🫱」
バラガンを指す。しかし。
「何を言っている。お前が鳴らせ、なつみ。この紐を引くんだぞ」
「えー💦」両手を突き出して振る。ないないのポーズ。「何でぼく。バラガンさんの鐘なんだから、バラガンさんが鳴らさなきゃ」
「これは王が鳴らす物だと決まっている。さぁ、やれ。お前のために新調してやったんだぞ」
「ぼくはぁッ、何度言ったらわかってもらえるんですか。王様じゃありません!そりゃぁ…、ぼくのためってのは、嬉しいですけど。でも、庶民なので、バラガンさんが鳴らした後にします😤」
強情な鼻息の向かいで、呆れたため息が。
「全く。頑固者め。来いッ‼︎」
「あわぁッ⁉️💦」
頑固なのはお互い様。バラガンはなつみの手首を掴んで引っ張り、鐘の下まで連れてくると、垂れ下がった綱を掴ませ、自分もそれを取り、ふたりで一緒に鳴らすことにした。
「引くぞ、なつみ!そーれッ‼︎」
「そ、そーれっ‼️💦」
強引な勢いには、簡単に巻き込まれてしまうなつみ。バラガンの前に立たされ、グイッと綱を引っ張った。
カラーンカラーンカラーン…
「はわわわわ✨」
鐘の音が響き渡る黄金の空。空気にまたひとつ、彩りが添えられた。
「美しい…」
東仙にも、その感想が抱けるほどに。
「これがお前の音だ」
バラガンはなつみの頭を撫でる。玉座を彼女に譲る想いで。
「うぅぅぅぅ…」
あたたかい想いで…、と思っていたら、そんな安らかな雰囲気はサイレンで遮られてしまった。
「ぅわあああーんッ‼️‼️」
なつみの大泣きが始まったのだ。ギョッとする周囲。
「なっ⁉️💦何じゃ💦」
「うわー、バラガンさん、なつみちゃんを泣かせたわー」
「手首痛かったんじゃない?😒」
「そんな強く引いとらんわ‼︎‼︎💦」
「ぅわあああーんッ‼️‼️😭」
「泣くな‼︎💦」
オロオロするバラガンの前で、なつみは両手で涙を拭いながら、首を横に振って話した。
「違うんです。ただ、感動しちゃって。あんまりにも、嬉しくて」
ふぃーっと縮こまるなつみ。幸せな空間に圧倒されてしまったらしい。これまでの作業でだって、ひとつひとつの工程が達成されるのを見てきたが、辺りは暗く、それだけでどこか、みんなとの間に何かあるような気がして、自分が喜んでいることしか感じられなかったが、今は違う。太陽が照らすことで、ちゃんと世界が見えるようになったのだ。みんなで作った街と、満足そうな笑顔と、祝福の鐘。夢見た世界に近づいているような。
「ぅわわーんッ😭」
伏しているなつみに、すっと誰かが寄り添ってくれた。
「なつみ、鼻をかんで。そんなに泣かれると、みんなが心配するから」
ずぶ濡れの顔を上げると、ティッシュを差し出すテスラがいた。箱でって。
「うぅぅ、あいがどぉー、テスラぁ😭」シュシュッと2枚取って、鼻をかむ。「ふーん🤧💦」
ゴミ袋まで持っているとは、用意周到な。
「はい、ここに入れて」
「ぽい🫱」
テスラはなつみの耳元に口を近づけた。
「お礼ならノイトラ様に言って」
離れると、なつみにウィンクした。トキンとしたなつみは、テスラから、ノイトラの後ろ姿に視線を移した。泣き虫が泣くのを予測していたと。その言葉無い優しさに、またサイレンが。
「うわぁぁぁーんッ‼️‼️😭」
「何で泣くんだよッ💢」
「す、すいません💦ほらなつみ、拭いて💦」
慌ててテスラはティッシュをもう2枚取って、なつみの顔にやった。
泣いている小さい子を、どうやってあやすべきか。ハウツー本を読まずとも、伝統のように受け継がれてきた手段がある。それがこれ。
「なつみ。私からもプレゼントがあるよ」
ゾマリがそう言って差し出したのは蓋のついた箱。鼻を啜って、への字になった口をして、箱を受け取る。
「あいがと」
「開けてご覧」
言われた通りに開けてみると、2列に並んでいた。
「クッキーだ。アモールクッキーだ❗️」
「約束したからな。新しい虚夜宮の完成祝いのご褒美だ」
1枚取り出す。取り出す前からわかっている。前回までのアモールクッキーとは違うことを。
「かわいい」
「温室で採れたイチゴで作ったジャムを乗せてみた。食べてくれ。元気になれる」
泣いている子には甘いお菓子を。
「ふふっ、こっちにも太陽☀️」
その1枚を掲げて、クイクイと左右に揺らすと、太陽の光を反射して、赤いジャムが煌めく。パクッ。
「おいしぃー💖」
甘くてほっぺが落ちそうなのを手で押さえていたら。
「うぅぅぅぅー😭」
また泣いた。
「あかんわ。何しても泣くわ(笑)」
お兄ちゃんはクスクス笑うばかりだ。
最後のイベントに進んでいく。
「そしたら、みんなで記念写真撮ろか」
「んなぁ⁉️😫💦」
泣き顔ぐじゅぐじゅなのは見ればわかるのに、お兄ちゃんはカメラの準備を始めた。何しても泣くなら、もうしょうがないと。
「ええ感じに並んでやー。なつみちゃんはちっこいで、いちばん前の真ん中やでー」
「ちょっと待ってくださいよ〜ッ‼️‼️🤧️」
ティッシュボックスが軽い軽い。
なつみの近くが良いのはみんな同じ。だが、藍染は当然の如く優先され、なつみのすぐ後ろを陣取った。
「顔、真っ赤じゃないか」
なつみのほっぺを親指で撫でてみる。そうすると、なつみが歌い出した。
「虚夜宮での記念写真 その日はあまりに幸せで 涙で顔が荒れ放題 この写真が一生残る この写真が一生残る…」
「撮ーるで♪」🐢
「wッしゃい💢」
兄妹の掛け合いの中、藍染は閃いた。
「わかった。さっきゾマリからもらったクッキーを、ここにこう…」
2枚クッキーを取り出して、なつみの両ほっぺに当てた。
「ブフッ、ウケる😙」
前に回って、覗き込んだリリネットが噴いた。太陽型のアモールクッキーで、泣いた跡を隠しているのだが、ユニークだ。
「あー、どうしよ。タイマーやと、撮り直しが面倒いな。なつみちゃん、そっからシャッター押されへん?」
「いーですよー」
からかわれて、ちょいと不機嫌ななつみは、斬魄刀を抜いて躊躇なく遠投した。
「とうッ❗️」
「うわッ💦危ないなぁ💦」
「ムッちゃーん、お願ーい」
「私がやるのか?🐥」
市丸がみんなのところへ行く。ムッちゃんはブーブーと文句。
「お前の頭をボタンにする。そっちで勝手にやってくれ」
「もー、『はい、チーズ』って言うだけじゃん。何でぼくがてへぺろポーズしなきゃ撮れなくすんの」
「文句言うな🐥」
「そっちがな❗️」
藍染が仲裁に入る。
「ほらほら、何のことで喧嘩してるか知らないけど、仲良くして」
「ぼくの頭を押すとシャッター切れるそうです」自分で言って気付く。「ピースしたら撮れるとかで良いじゃん❗️」
「とっととクッキーを構えろ🐥」
「気に入ってんじゃねーよ‼️」
「みんなには彼が見えてないから、落ち着いてね」
なだめようとポンと頭を叩いたら、カシャッ、本当にシャッターが切れた。
「あははっ。おもしろいね」
「遊ばないでくださいよー。変なの撮れちゃったじゃないですか」ぷいぷいと藍染の手を払う。「みんなぁ、カメラ見てねー。ニッコリ笑うだよー」
「準備良いかな」
藍染の声掛けに、「はーい」とみんなが答えた。
「いくよ。3、2、1」
ポン、カシャッ
「ポーズ変えてみようか。そんなに堅くならなくて良いからね。なつみは太陽ほっぺにするように。はい、撮るよ」
「なんでーっ。ぼくにポージングの自由を✊」
なんて言いつつ、なつみはくっついてきたリリネットに、太陽ほっぺのお裾分けをして構えた。
「3、2、1」
ポン、カシャッ
そして何を思ったか。
ワシャワシャワシャッ‼︎、カシャカシャカシャッ‼︎
「あははッ(笑)」
「ちょっと❗️連写しないでくださいよ❗️😖」
予期せぬ連写のシャッター音は、どうしてか笑いを誘う。
「はははっ、いらない、いらない!(笑)」
「速いって!(笑)」
「どんだけ撮るんだよ!全部一緒!(笑)」
楽しくなっちゃった藍染様は、シャッターを切る手を止められない。ハマってハマって、なつみの頭はぐっちゃぐちゃ。それが余計におもしろい。
「藍染様、おやめください!なつみの髪が、はははっ!(笑)」
「そーですよ‼️‼️もう、このッ❗️やめいッ❗️やめいッ❗️」
なつみはブチギレて、クッキーをバクバクッと一気に食べると、藍染の脇をすり抜けて、背中へ飛びつき、脚でガッツリホールドすると、ワシャワシャ返しをお見舞いした。こんなこと、なつみ意外がやったらどうなることやら。
「成敗してくれる、この悪者めーッ‼️‼️ワシャワシャワシャーッ‼️‼️💢」
「あははッ!ごめん、ごめんッ!勘弁して!あははッ!😂」
この戯れ合いはカメラに写らない。みんなの一段階上がった笑いも。勿体無い。
いつの頃からか、他人の不幸で邪悪に笑うことが多くなっていた。彼らのうち、大半がそうだったろう。だが今回見ている不幸は別物のようで、あったかい気持ちで笑えている。
「よくも笑ったなーっ。みんなの髪も、ぐちゃぐちゃにしてやるーッ‼️‼️✊」
と意気込んだら。
「あはは、はぁ。じゃあ、皆、やられないように、なつみを押さえなきゃね」
「はい(笑)」
「えーーーッ⁉️😱」
大乱闘な第3ラウンドに突入してしまった。このよく見える世界の中で、獲物1対鬼いっぱいの鬼ごっこが、朝も早よから繰り広げられたとさ。
「今のとこ、星空が綺麗に見えてますね」なつみはほへーっと真上を見上げる。「ほんとにあのまんまなの❓うまく反射するかなぁ」
「僕が信じられないの?温室ではちゃんと光が漏れてなかったから、大丈夫だよ」
虚夜宮の天井は、壁の作りとは違い、ガラス質の素材が使われていた。夜には星が見えるようにしたいからと、なつみが能力で透明な結晶を石材の中から抜き取り、パネル状にまとめたその表面に、ザエルアポロが特殊な塗料を塗ったものを上に敷き詰めたのだ。
「今、地下❓」
「通過したよ。そろそろ扉が開くはず。実際のタイミングと合わせるから…」時計をチェック。「あと5分だね」
「いよいよ〜👏」
パチパチパチパチ〜と上機嫌。ワクワクななつみである。
「なんや、一足早い大晦日みたいやな」
「あ ゔぇーりぃ めり くりすま〜す♪」
「クリスマスもまだやし」
「あんど はっぴーにゅーいゅ〜♪ふんふーふんふんふー ふんふーふんふふ〜♪」
「知らへんのかい」
「雰囲気っすよ、ふんいき。みんな、カウントダウンしようね❗️レッツぅ〜、御来光ぉ✊😆」
そして、その時が訪れた。
「15秒前」
「くるくるくる〜🤩」
「ほら、くるくる回っとらんと、いちばん前においで」
「はーい。リリネットちゃんも行こっ」
「10秒前。9、8」
「7👏6👏5👏4👏3👏2👏1👏御開帳ぉ〜🥳」
ギィ…と扉がスライドし、東の端から光の放射が世界を照らし始めた。
「ピッカァーッ‼️💖」
ピカチュウが歓喜の声を上げる。
あっという間に、光が空に色彩を与えていく。
「すごいすごいすごーい❗️赤くて金色❗️ねぇ、ちょっとあったかくない❓良いねー😄」
「ほんとに太陽じゃん。すご…」
なつみとリリネットはくっついて、朝日を正面から受け止めていた。
「おはようございまぁーーすッ‼️☀️🐔」
「おはよぉーーッ‼️😆」
世界と太陽に、心からの「おはよう」を。すると、周りのみんなからも「おはよう」の挨拶が。
「おはよう、皆」
「おはようございます」
「おはようさん」
「おはよう」
「はよーっす」
新しい1日がこれから始まる。
「なつみが来てくれて、虚夜宮はすっかり様変わりしたね。居心地が良くなる一方だよ」ザエルアポロは、自分の仕事が成功を収めていることに満足するも、それを自慢せず、なつみを褒めてあげることで、胸の内に自然と閉じ込めてた。「そう思うでしょ?バラガンさん。あのまま意地を張り続けてたらと思うと、ゾッとするんじゃない?」
「全くだ。お前さんに言われる筋合いではないがな」バラガンは、かつて肉眼で見た、生活の豊かさというものを、久しぶりに見ている気がしていた。「儂は城を整えることも、守りきることもしなかった、相応しくない者だったんじゃろう。なつみがこの地を救っておる。なつみのために席を空けたと思えば、儂は今の座でも納得できるわ」
「素直なんだか、そうでもねぇのか」
肩をすくめたのはスターク。
「藍染の独壇場など、仮初めにすぎん。そいつのお気に入りかどうかは、どうでも良いことだ」
ならばと、藍染もバラガンの意見には無視の姿勢をとる。
「ねぇねぇ、バラガンさんっ。そろそろアレ、鳴らしちゃっても良いんじゃないですか⁇」
普通に聞いていなくて無視してしまっているなつみが、バラガンの前に軽いステップで寄ってきた。
「おお、そうだな」
バラガンは、みんながいる後方に立てた、背の高い何かに近づいていった。それは2本の支柱に支えられた鐘である。
何年か前、バラガンが虚夜宮の王であった頃、その鐘は、彼の玉座のそばにあった。鐘の音は、バラガンの存在を周囲に知らせる、ある種警鐘の役割もあったかもしれない。鐘は、彼が城を去る際に残され、藍染に不要なものとして物置にしまわれたため、しばらく忘れられていたのだが、バラガンが帰ってきたことで、再び表に出されることになった。大きく欠けていたのを修復し、この記念の日に鳴らそうと、バラガンと従属官が準備していた。
なつみが肩を揺らし、足踏みステップで気持ちよく歌う。
「町はぁ今〜 砂漠のぉ中〜 あのかーねーぅお〜鳴らすのはぁ あなーたぁー🫱」
バラガンを指す。しかし。
「何を言っている。お前が鳴らせ、なつみ。この紐を引くんだぞ」
「えー💦」両手を突き出して振る。ないないのポーズ。「何でぼく。バラガンさんの鐘なんだから、バラガンさんが鳴らさなきゃ」
「これは王が鳴らす物だと決まっている。さぁ、やれ。お前のために新調してやったんだぞ」
「ぼくはぁッ、何度言ったらわかってもらえるんですか。王様じゃありません!そりゃぁ…、ぼくのためってのは、嬉しいですけど。でも、庶民なので、バラガンさんが鳴らした後にします😤」
強情な鼻息の向かいで、呆れたため息が。
「全く。頑固者め。来いッ‼︎」
「あわぁッ⁉️💦」
頑固なのはお互い様。バラガンはなつみの手首を掴んで引っ張り、鐘の下まで連れてくると、垂れ下がった綱を掴ませ、自分もそれを取り、ふたりで一緒に鳴らすことにした。
「引くぞ、なつみ!そーれッ‼︎」
「そ、そーれっ‼️💦」
強引な勢いには、簡単に巻き込まれてしまうなつみ。バラガンの前に立たされ、グイッと綱を引っ張った。
カラーンカラーンカラーン…
「はわわわわ✨」
鐘の音が響き渡る黄金の空。空気にまたひとつ、彩りが添えられた。
「美しい…」
東仙にも、その感想が抱けるほどに。
「これがお前の音だ」
バラガンはなつみの頭を撫でる。玉座を彼女に譲る想いで。
「うぅぅぅぅ…」
あたたかい想いで…、と思っていたら、そんな安らかな雰囲気はサイレンで遮られてしまった。
「ぅわあああーんッ‼️‼️」
なつみの大泣きが始まったのだ。ギョッとする周囲。
「なっ⁉️💦何じゃ💦」
「うわー、バラガンさん、なつみちゃんを泣かせたわー」
「手首痛かったんじゃない?😒」
「そんな強く引いとらんわ‼︎‼︎💦」
「ぅわあああーんッ‼️‼️😭」
「泣くな‼︎💦」
オロオロするバラガンの前で、なつみは両手で涙を拭いながら、首を横に振って話した。
「違うんです。ただ、感動しちゃって。あんまりにも、嬉しくて」
ふぃーっと縮こまるなつみ。幸せな空間に圧倒されてしまったらしい。これまでの作業でだって、ひとつひとつの工程が達成されるのを見てきたが、辺りは暗く、それだけでどこか、みんなとの間に何かあるような気がして、自分が喜んでいることしか感じられなかったが、今は違う。太陽が照らすことで、ちゃんと世界が見えるようになったのだ。みんなで作った街と、満足そうな笑顔と、祝福の鐘。夢見た世界に近づいているような。
「ぅわわーんッ😭」
伏しているなつみに、すっと誰かが寄り添ってくれた。
「なつみ、鼻をかんで。そんなに泣かれると、みんなが心配するから」
ずぶ濡れの顔を上げると、ティッシュを差し出すテスラがいた。箱でって。
「うぅぅ、あいがどぉー、テスラぁ😭」シュシュッと2枚取って、鼻をかむ。「ふーん🤧💦」
ゴミ袋まで持っているとは、用意周到な。
「はい、ここに入れて」
「ぽい🫱」
テスラはなつみの耳元に口を近づけた。
「お礼ならノイトラ様に言って」
離れると、なつみにウィンクした。トキンとしたなつみは、テスラから、ノイトラの後ろ姿に視線を移した。泣き虫が泣くのを予測していたと。その言葉無い優しさに、またサイレンが。
「うわぁぁぁーんッ‼️‼️😭」
「何で泣くんだよッ💢」
「す、すいません💦ほらなつみ、拭いて💦」
慌ててテスラはティッシュをもう2枚取って、なつみの顔にやった。
泣いている小さい子を、どうやってあやすべきか。ハウツー本を読まずとも、伝統のように受け継がれてきた手段がある。それがこれ。
「なつみ。私からもプレゼントがあるよ」
ゾマリがそう言って差し出したのは蓋のついた箱。鼻を啜って、への字になった口をして、箱を受け取る。
「あいがと」
「開けてご覧」
言われた通りに開けてみると、2列に並んでいた。
「クッキーだ。アモールクッキーだ❗️」
「約束したからな。新しい虚夜宮の完成祝いのご褒美だ」
1枚取り出す。取り出す前からわかっている。前回までのアモールクッキーとは違うことを。
「かわいい」
「温室で採れたイチゴで作ったジャムを乗せてみた。食べてくれ。元気になれる」
泣いている子には甘いお菓子を。
「ふふっ、こっちにも太陽☀️」
その1枚を掲げて、クイクイと左右に揺らすと、太陽の光を反射して、赤いジャムが煌めく。パクッ。
「おいしぃー💖」
甘くてほっぺが落ちそうなのを手で押さえていたら。
「うぅぅぅぅー😭」
また泣いた。
「あかんわ。何しても泣くわ(笑)」
お兄ちゃんはクスクス笑うばかりだ。
最後のイベントに進んでいく。
「そしたら、みんなで記念写真撮ろか」
「んなぁ⁉️😫💦」
泣き顔ぐじゅぐじゅなのは見ればわかるのに、お兄ちゃんはカメラの準備を始めた。何しても泣くなら、もうしょうがないと。
「ええ感じに並んでやー。なつみちゃんはちっこいで、いちばん前の真ん中やでー」
「ちょっと待ってくださいよ〜ッ‼️‼️🤧️」
ティッシュボックスが軽い軽い。
なつみの近くが良いのはみんな同じ。だが、藍染は当然の如く優先され、なつみのすぐ後ろを陣取った。
「顔、真っ赤じゃないか」
なつみのほっぺを親指で撫でてみる。そうすると、なつみが歌い出した。
「虚夜宮での記念写真 その日はあまりに幸せで 涙で顔が荒れ放題 この写真が一生残る この写真が一生残る…」
「撮ーるで♪」🐢
「wッしゃい💢」
兄妹の掛け合いの中、藍染は閃いた。
「わかった。さっきゾマリからもらったクッキーを、ここにこう…」
2枚クッキーを取り出して、なつみの両ほっぺに当てた。
「ブフッ、ウケる😙」
前に回って、覗き込んだリリネットが噴いた。太陽型のアモールクッキーで、泣いた跡を隠しているのだが、ユニークだ。
「あー、どうしよ。タイマーやと、撮り直しが面倒いな。なつみちゃん、そっからシャッター押されへん?」
「いーですよー」
からかわれて、ちょいと不機嫌ななつみは、斬魄刀を抜いて躊躇なく遠投した。
「とうッ❗️」
「うわッ💦危ないなぁ💦」
「ムッちゃーん、お願ーい」
「私がやるのか?🐥」
市丸がみんなのところへ行く。ムッちゃんはブーブーと文句。
「お前の頭をボタンにする。そっちで勝手にやってくれ」
「もー、『はい、チーズ』って言うだけじゃん。何でぼくがてへぺろポーズしなきゃ撮れなくすんの」
「文句言うな🐥」
「そっちがな❗️」
藍染が仲裁に入る。
「ほらほら、何のことで喧嘩してるか知らないけど、仲良くして」
「ぼくの頭を押すとシャッター切れるそうです」自分で言って気付く。「ピースしたら撮れるとかで良いじゃん❗️」
「とっととクッキーを構えろ🐥」
「気に入ってんじゃねーよ‼️」
「みんなには彼が見えてないから、落ち着いてね」
なだめようとポンと頭を叩いたら、カシャッ、本当にシャッターが切れた。
「あははっ。おもしろいね」
「遊ばないでくださいよー。変なの撮れちゃったじゃないですか」ぷいぷいと藍染の手を払う。「みんなぁ、カメラ見てねー。ニッコリ笑うだよー」
「準備良いかな」
藍染の声掛けに、「はーい」とみんなが答えた。
「いくよ。3、2、1」
ポン、カシャッ
「ポーズ変えてみようか。そんなに堅くならなくて良いからね。なつみは太陽ほっぺにするように。はい、撮るよ」
「なんでーっ。ぼくにポージングの自由を✊」
なんて言いつつ、なつみはくっついてきたリリネットに、太陽ほっぺのお裾分けをして構えた。
「3、2、1」
ポン、カシャッ
そして何を思ったか。
ワシャワシャワシャッ‼︎、カシャカシャカシャッ‼︎
「あははッ(笑)」
「ちょっと❗️連写しないでくださいよ❗️😖」
予期せぬ連写のシャッター音は、どうしてか笑いを誘う。
「はははっ、いらない、いらない!(笑)」
「速いって!(笑)」
「どんだけ撮るんだよ!全部一緒!(笑)」
楽しくなっちゃった藍染様は、シャッターを切る手を止められない。ハマってハマって、なつみの頭はぐっちゃぐちゃ。それが余計におもしろい。
「藍染様、おやめください!なつみの髪が、はははっ!(笑)」
「そーですよ‼️‼️もう、このッ❗️やめいッ❗️やめいッ❗️」
なつみはブチギレて、クッキーをバクバクッと一気に食べると、藍染の脇をすり抜けて、背中へ飛びつき、脚でガッツリホールドすると、ワシャワシャ返しをお見舞いした。こんなこと、なつみ意外がやったらどうなることやら。
「成敗してくれる、この悪者めーッ‼️‼️ワシャワシャワシャーッ‼️‼️💢」
「あははッ!ごめん、ごめんッ!勘弁して!あははッ!😂」
この戯れ合いはカメラに写らない。みんなの一段階上がった笑いも。勿体無い。
いつの頃からか、他人の不幸で邪悪に笑うことが多くなっていた。彼らのうち、大半がそうだったろう。だが今回見ている不幸は別物のようで、あったかい気持ちで笑えている。
「よくも笑ったなーっ。みんなの髪も、ぐちゃぐちゃにしてやるーッ‼️‼️✊」
と意気込んだら。
「あはは、はぁ。じゃあ、皆、やられないように、なつみを押さえなきゃね」
「はい(笑)」
「えーーーッ⁉️😱」
大乱闘な第3ラウンドに突入してしまった。このよく見える世界の中で、獲物1対鬼いっぱいの鬼ごっこが、朝も早よから繰り広げられたとさ。