第九章
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市丸とリリネットがニヤニヤして合流してくれたため、なんとかスタークから逃れられたなつみ。お部屋に入ると、テキパキと寝る支度をする。
シャワーを浴びて、歯を磨きながら寝室に行ってみてビックリ。ベッドがまたくっついていた。
「なッ⁉️💢」
市丸は掛け布団を整えていた。
「くっつけんの面倒いで、離さんといてー」
「離すの面倒いんで、くっつけないでくださいー」
すっくと偉そうに、手を腰にやって立った市丸。
「なつみちゃん。偉いのどっち」
「はい?😑」
こっちは、奥歯をゴシゴシしながら偉そうに立った。
「ズルいですよ、こういうときだけ。職権濫用です❗️」
「悔しかったら、隊長になりぃ」
諦めて回れ右して、洗面台に戻ることにする。
「ムリ‼️‼️」
結局ダブルベッドに、ふたり並んで寝ることに。
「…よくない」
「『返したくねぇ。お前の彼氏のとこに』なーんて、ボクは言わへんやん。兄妹仲良く添い寝するだけや」
「似てないですよー」
「それよりなつみちゃん、お昼寝したで、まだ眠ないんとちゃうの?」
「そうですけど、寝る時間なので寝ますよ。何かやって、隊長の睡りを邪魔するわけにもいきませんし」
「そう?気にせんでもええのに。ほな、ちょっとおしゃべりしようか」
「隊長は眠くないんですか?」
「向こう出るときいろいろあって、ちょっと疲れたけど、まだ起きてられるで」
「まさか送別会」
「みたいなもんやな」
「ずーるッ‼️」
「それは置いといてや。さっきキミが席外してるときに、藍染隊長が言うてたんやけど」
鼻筋に皺を寄せたまま、「何ぞ」と耳を傾ける。
「京楽さん宛に、お手紙書いてみたらどうやって。会わすんはできひんけど、文通くらいなら、丁度ええ気晴らしになるんやない?書けたら、ボクがあの人のとこ届けたるわ。どうや?」
皺が伸びた。
「むきゃーッ‼️💖」
喜びで抱きつく。
「ほれみ。ベッドくっつけといて良かったやん」
「ほんとにほんとに、届けてくれるんですか。やったー❗️んー、何書こう。お話ししたいことたくさんありすぎて、困っちゃいますね。むふーッ💖」
市丸の胸にすりすり。
「便箋と封筒は藍染隊長が持っとるんやて。明日起きたら、取りに行き」
「100枚くらい欲しいです❗️」
「フフッ、ほどほどにしてや」
「隊長も乱菊さんに書きますか」
「せやね。時間あるときにな」
「にひーっ😁」
「それとな、忘れんうちに、もう一個言っとかなあかんことがあんねん」
「?」
「ボク、なつみちゃんにお手紙書いて来たんよ」
「??どして」
「もしもんときに、読んで欲しくて。遺言書いといたわ」
呆れてぱかー…と口が開く。
「何言ってんすか。めちゃめちゃみんな仲良しで、身の危険特に感じないのに。滅多なこと言わないでください」
「けど、何あるかわからんもんやん。敵は虚だけとも限らんし、思いもよらん病気や事故もあるしやな…」
「だったらぼくも書いとかなきゃいけないじゃないですか」
「キミのことはボクが守るやんか」
「じゃあ隊長はぼくがお守りします❗️まったく。しかも何でそんな大事な物をぼくに託すんですか。普通、吉良副隊長に預けるものじゃないんですか?」
「ええやんかー。なつみちゃんはボクの妹やから、適任やで」
「弟❗️」ぷんぷんぷん。「その遺書はどこにあるんですか?すぐに出してください」
「どないすんの」
「捨てます😤」
「1回くらい読んでやぁ」
「読みませんよ。縁起でもない。隊長はこの任務で死んだりしません❗️ぼくと一緒に帰りますよ❗️」
「そうかー…、ボクの秘密いろいろ書いといたんに、読んでくれへんかぁ。残念やなぁ」
「遺言って、財産がどーのこーのじゃないんですか。よく知らないけど」
「お金なんか、適当にどっかに寄付したればええもん。欲しいん?」
「いりませんよ‼️第一、隊長は死にません‼️」
おでこを市丸の胸にびったりくっつける。念を送っているのか。
「ちなみに手紙は持ってきてへんよ。なつみちゃんの秘密の引き出しに入れたったわ」
ガバッ、顔を上げる。
「なんでッ‼️‼️まーたぼくの部屋勝手に入ったんですね‼️」
「ついでにお掃除もしてあげてん。怒られる筋合いないわ」妹の鼻の頭をちょんっ。「付き合ってんねんから、いくらでも京楽さん本人を見てられるのに、まだ新しい写真欲しいんやね。お互いにお互いのコスプレ写真、どんだけ集めるつもりや。変なカップル」
「うるさい‼️てか見たなら、それこそついでに持ってきてくださいよ‼️」
「ヤや、そんなん。はぁーあ。もうええわ。京楽さん宛の手紙持ってったら、その足でボクの遺書捨ててくるわ」
「そーしてくださいっ」
「ほんなら、この話はここまでや。他のみんなに言うたらあかんで。遺言書いといて即破棄やなんて、みっともなくて笑われてまうから。内緒や」
「はい❗️話すこと終わったなら、そろそろ寝てください。ぼくはお手紙に何書くか考えなきゃ」
ごそごそと、眠りの妨げにならないようなつみは市丸から離れた。
「くっついとってもええのに」
「いいえ。春水さんのこと考えて寝たら、寝ぼけて隊長に変なことしちゃうかもしれないじゃないですか」
「変なことて何?(笑)」
「変は変です❗️構わず寝てください❗️」
「えー、気になるわぁ、変なこと。教えてや〜」
離れたのにくっついてくる。逃げる。
「おやすみなさいッ❗️」
「いけずやなぁ、なつみちゃん」
「それはあなたでしょう❗️おやすみって言ってください❗️」
「わぁかったわ。おやすみなさいー」
そう言って、市丸はなつみの頭をぐっちゃぐちゃに撫でた。
「うぎゃーッ‼️」
「大丈夫かなつみー‼️」
壁の向こうから心配するリリネットの声が飛んできた。
(襲われ方が思ってたのと違ぇな…💧)
それから1週間後、瀞霊廷にて。
「てめぇ‼︎‼︎待てコラ、一護‼︎‼︎」
十一番隊舎。
「誰が待つかっ‼︎あんたと戦うのなんか、二度とゴメンだ‼︎💦」
「何だと⁉︎逃すか‼︎‼︎」
逃げる一護に、追う更木。
「やれやれ…。騒々しいね、毎度のことながら…」
ため息を吐く弓親。
「あの一護ゆうんが、十一番隊舎に顔出すようになってからは特にの。ええこっちゃ。静かすぎるより、だいぶん良えわい」
「…ていうか、鉄サンもなんでフツーにウチになじんでんですか。狛村隊長はどうしたんです?」
頭をバリッと掻く射場。
「いやあ…、それがのう…。ウチの隊長さん…、しばらく一人になりたいんじゃげな」
「フーン。まぁ、そうだろうね」
一護に逃げられた一角は、隊士の中から1人引き摺り出して、稽古の相手をさせる。それを引き続き見物する弓親と射場。
「こういうとき、なつみちゃんならすぐ『はいはーいっ』って、喜んで相手するのにね」
「ほうなんか」
「一角、内心複雑だろうな。彼女が無事だったことが知れて良かっただろうけど、いなくなっちゃったんだもんね」
「…、木之本の奴、どこ行ってもうたんじゃろうな」
「さぁ。うさぎからは戻ってるはずですよね、きっと」
「アイツは、ワシらん仲間じゃろ。元に戻っとるなら、何で戻ってこんのじゃ。アイツの能力なら、どうとでもできると違うんか」
会長は会員の心配をし、拳を握る。
「どうとでもできるから、連れてかれちゃったんでしょ」
弓親は、一護が飛び出していった窓の外の空を見上げた。
「なつみちゃんの前では、みんな仲間になっちゃうからなぁ…」
十番隊舎にて。
「…って、うお⁉︎どうしたんだ吉良⁉︎ベロンベロンじゃなーか‼︎」
窓辺から乱菊に呼ばれて、その室内を見た檜佐木が、酔っ払ってダウンしているイヅルを発見した。
「お!」
乱菊が、また人を呼び止める。
「一護ぉ!織姫ぇ‼︎あんたらもどう⁉︎いい酒あるわよう‼︎」
何やら急いでいる高校生たちを飲みに誘う。
「あ!あとでもらいま…」
「未成年です!」
織姫が大きくバッテンを出して、一護の返事に割って入った。
「おいしいお茶もあるわよう…。つれないのねぇ…」
一護と織姫の進行方向から声がかけられた。
「そんなに急いでどこ行くの?」
「お、京楽さん!」
「こんにちは!」
またサボってこんなところをお散歩中。
「俺たち、ルキア捜してんだ。アイツ見ませんでしたか?」
「んー、ルキアちゃん?見てないね。十三番隊舎に居ないのかい?」
「はい。朽木さんに用事があるのに、どこ行っちゃったか見当もつかなくて、あちこち走り回ってますけど、全然見つからないんです」
そう言う織姫の手には、ワンピースが。
「そっか…。ふーん、でもさぁ、一護くんなら、走り回る必要無いんじゃない?落ち着いて霊圧を探れば、きっと辿れるよ」
にっこり笑って教えてあげる。
「あ、そっか。さっきまで剣八の野郎に追われてて、そんなことに気が回らなかったぜ」
霊圧からの現実逃避。
「…」
目を閉じて集中する。
「居た!なんだ、瀞霊廷ん中にいるじゃねーか、アイツ。行くぞ、井上!」
「うん!」
「ありがとう、京楽さん!」
「ありがとうございまぁす!」
手を振って走り去る高校生たちに、手を振りかえす京楽。
「どういたしまして〜」
それから気づく。
「おんやァ。楽しそうじゃないの」
近くから聞こえてきた檜佐木の慌てる声に誘われて、そちらへ近寄る。
「ボクもまぜてくんないかなァ」
乱菊のもとへ。
「やですよ。隊長まぜて七緒に怒られんの、あたしなんですからね。てかさっき七緒が捜してましたよ?」
「あぁそうなの?ここを通り過ぎたのが『さっき』ってことなら、しばらく居ても大丈夫だね、じゃあ」
しめしめと自分で言って頷く。
「京楽隊長の分はありませんよ」
「いいよ、別に。酔って、束の間でも気が楽になるなら、今飲むべきは彼らだから。上司が突然謀反起こして姿を消すなんて、想像もつかない心境だよ」
フンドシ一丁のイヅルの介抱で、檜佐木は京楽がいることに気づいていない。
「恋人を誘拐された気持ちも、あたしにはわかりませんよ」
「キミと似たようなものじゃないの?」
「違いますよ」
「そう…」
「お茶なら出しますよ」
「やったぁ」
中に入れてもらって、乱菊と檜佐木は酒を、京楽とイヅルにはお茶が用意された。
「あれから1週間だけど、どう?いろいろ大変でしょう。ボクも力になれることがあれば、喜んで手伝うよ」
「お世辞で言ってるだけですよね。まず自分の仕事をこなしてから、そう言ってあげてくださいよ」
乱菊にツッコまれた。
「ボクはいいの。七緒ちゃんも尾田くんもいるから」
「お気遣いに感謝します。ですが、今のところは総隊長の配慮も頂いてて、なんとか間に合ってます。コイツんとこもそうでしょう」
「そーだそーだぁ‼︎」
服を着せてもらったイヅルは、机に突っ伏したまま拳を振るう。
「三番隊は2人もいなくなっちゃったね」
仲良し兄妹が。
「抜けた穴は、相当大きいと思うなぁ」
頬杖をつく京楽の視線が少し下がる。
「京楽隊長も辛いでしょう。木之本が連れ去られて」
遠くで小鳥が鳴いている。
「ボクね、悲しいの半分、嬉しいも半分なんだ」
乱菊と檜佐木は少し驚いた。
「愛するなつみちゃんと会えないのはとっても辛いけど、彼女がどこかで元気に生きてることがわかったから、そこは知れて良かったんだ」
「京楽隊長…」
「馬鹿者!何故気付いておりながら、儂に言わなんだ!」
「だって…、山じいの言ったこと覚えてたからさ。だから、なつみちゃんは自分の世界に帰っちゃったと思うようにしてたんだ」
「かぐや姫でもあるまい、現実を見よ‼︎」
「連れ去ったのが惣右介くんだとわかったなら、彼女は絶対に取り戻すよ。何てったってボクたちは、相思相愛だもん。どんなに惣右介くんがなつみちゃんを騙そうと頑張っても、彼女の想いがボクから外れることはない。なつみちゃんはボクらを裏切ったりしないしね。必ず帰ってくる。ボクはそう信じてるよ」
それをちゃんと聞く2人は頷いた。
「ええ、もちろん」
「俺たちも信じます。恐らく藍染が木之本を誘拐したのは、アイツがうさぎになってすぐなんですよね」
「そうだね」
「初めからあっち側なら、あんな手の込んだことする必要ありませんし、その間に寝返っていたら、あの場に4人で居たはずです。木之本はまだ、俺たちの仲間ですよ」
「『まだ』じゃないわ。『ずっと』よ。なつみはあたしたちを敵だなんて思わないわ。藍染はなつみの能力を利用したくて、連れてったのよね。一体、何が目的なのかしら」
それは市丸にも投げかけたい疑問。
「たぶんね、利用したいだけじゃないんだ。なつみちゃんはね、以前、鏡花水月の能力をかかった後で破ったことがあるんだよ」
「何⁉︎本当ですか、それ‼︎」
思い出したくもない話だった。
「みんなの前では言えない話なんだけどね。惣右介くんは、なつみちゃんを騙して、抱いたんだよ」
「何じゃと⁉︎知りながら、お前は奴を生かしておいたというのか。寛大にも程があるわい‼︎」
「なつみちゃんが怒らないでって言うから。ボクだって殺したいほど憎かったけど、仕方ないだろ」
「下衆めが」
「なつみちゃんはあの日、疲れて寝ちゃったって言ってたけど、本当は、今回使われた睡眠薬と同じ物を飲まされてたんだ。彼女は寝ぼけてたわけじゃない。鏡花水月でボクに化た惣右介くんに抱かれたんだ。けど途中で異変に気付いて、なつみちゃんは夢現天子の能力で、惣右介くんの術を解いた。あくまでボクの推測だけどね。でもこれが真相だと思う」
「術が効かんから、連れ去ったというんか」
「それだけなら、言いたくないけど、あの子を…」
「言わんでええ。口にするな、そんなこと。確かにそうじゃの。だったら、何故生かしておいた」
「それがわかれば、惣右介くんを止められるかな」
「うさぎにだってなれるんだもん。それくらい、なつみちゃんには朝飯前だよ」
「うさぎになったのは、藍染が何かしたからじゃないんですか⁉︎」
京楽は首を振った。
「彼がしたのは、なつみちゃんを眠らせ、替え玉を用意し、霊圧を鏡花水月で出していたくらいだよ。うさぎになったことは、想定外だったはずだ」
「どうしてそんなこと」
京楽はフッと笑った。
「なつみちゃんがうさぎになっちゃった日、彼らは本当に驚いた顔をしていたんだもん」
市丸の動揺は本物だった。
「涅隊長は早々に気付いていたよ。1日調べただけでわかっていたんだ。うさぎに変身したのは、なつみちゃん本人の仕業だってね。けど彼にはその動機がわからなかった。だから、気を遣ってそっとしておくことにしたのかもね。彼もなつみちゃんにベタ惚れだから」
「あたしもわかりませんよ、うさぎになりたい理由なんて。なれる方法すらわかりませんけど。京楽隊長はわかったんですか?」
京楽は微笑んで答えた。
「ボクも最初はわからなかった。けど、尾田くんと池乃の話を聞いて察しがついた」
「何だったんですか?」
「わかりましたよ、隊長。アイツ、市丸…前隊長のためにうさぎになったんじゃないですか」
「どういうこと?」
「木之本、ずっと言ってたんですよ。『市丸隊長が寂しそうな顔をしてる』って。漠然とですけど、アイツなりのやり方で、あの人を元気づけようとしたんじゃないでしょうか。かなりぶっ飛んだ考えですけど、アイツならあり得ます」
「優しいって言ってあげて」
「そういや、なつみにきかれたな」
「何て?」
「いちばん触り心地の良い動物は何かって」
「それでうさぎって答えたの?」
「いや、俺はコアラって言った」
「へ?じゃあ何でうさぎ?」
「知らねぇよ」
「あ、でもちょっと待って。色が一緒かも。なつみちゃんがなったうさぎ、灰色だった」
「変身に毛を使ったってのか」
「取り間違えたんだ!きっとそうだ!ってことは、もしかすると市丸隊長が無理矢理買ってきたうさぎが元の…?」
「あぁ、市丸っつったら、そいつもここに来たぞ」
「は⁉︎何で」
「なつみの代わりに街づくりのボランティアをしてぇって奴がいて、建築デザインの勉強をしたがってるから、良い本があったら貸してくれって、頼んできたんだ。んで、ガウディの本を貸してやった。もうとっくに返ってきてる」
「…それ、代わりじゃなくて、なつみちゃんだったりして」
「かもな」
「悩んで辛そうな市丸隊長を癒してあげるため」
今となっては、いろいろと想像できる。
「ギン…」
「なつみちゃんをボクたちから別れさせること、キミから離れること。大きな悩みさ」
乱菊は額に手を当てた。
「馬鹿ね、あの子。小さくなって、余計に連れ出しやすくしてたなんて」
「偶然重なったんだよ。奇跡を起こす天才だもん。…お兄ちゃん想いのね」
するとそこに、なつみの友人が現れた。
「失礼します。…あれ、隊長はいらっしゃらないんですね」
「あら李空。あんたも飲む?」
乱菊が先程の雰囲気を振り払うように、酒の瓶を持ち上げてフリフリ振った。
「いいえ、結構です。勤務中なので」
部屋の入り口に立ったまま、隊長らに挨拶をする李空。
「お疲れ様です、京楽隊長、檜佐木副隊長、吉良副隊長」
「うん、お疲れ」
「お疲れ」
「おぉつかれ、りくぅ〜」
ひとりだけ妙にご機嫌な返事で、李空はギョッとした。
「吉良副隊長⁉︎どうしたんですか。あなたまで飲んだんですか⁉︎」
イヅルの前にある容器の中身を確かめようと、李空も入室。
「それはお茶だ。だが、俺が来るまでに相当飲んでたらしい」
「はぁ…、松本副隊長!この大変な時に、この人をグデングデンにしないでください!三番隊がどれだけ痛手を被ったか、あなたにもわかるでしょう!」
「おっこんないでよ、李空。うるさいなぁ」
乱菊は耳を塞いだ。
「まぁまぁ、落ち着いてよ、戸隠くん」
「京楽隊長、あなただって」
と言って見たが、京楽の湯呑みもお茶だった。
すると、またそこに騒ぎを聞きつけやって来た人物が。
「三番隊が大変なのは知ってる。五番隊も、九番隊もな」
「あ〜、隊長〜。おかえりなさぁい」
日番谷だった。
「俺に用か、戸隠」
「はい」
李空の横を通り過ぎ、日番谷は自分の席に着いた。
「悪いが、まず俺から話をさせてくれ」
「何でしょう」
背筋を伸ばして、姿勢を正した李空。
「お前、三番隊に帰ってくれ」
「え…」
言葉を失い、ただ瞬きをした。
「1週間考えていたんだが、その吉良の酔い方を見て決めさせてもらうぜ。隊長と二十席が抜けた穴を、戸隠、お前が埋めてやれ。お前が適任だ。お陰とウチの隊に被害は無ぇ。お前が抜けると松本が苦しくなるだけだ。大した問題じゃねぇ。俺たちのことは気にせず行け、戸隠。お前なら吉良を支えてやれる」
「隊長…」
「大した問題だけど、あたしも賛成よ。三番隊の要領をわかってるあんた以外、ここから回せる人材いないもの」
「副隊長…」
「異動願は既に用意した。良い返事を聞かせてくれ」
考えが巡っているようで、李空の心はひとつにしか決まっていない。必要なのは後押しだけだ。
「なつみちゃんの秘密を守ってあげて、戸隠くん」
京楽がコソッと呟いた。それを拾った李空。
「わかりました。俺、三番隊に戻ります!」
「よし」
にっと笑ったのは日番谷だけではなかっただろう。
「さっすが〜、李空。帰ってきたなつみを驚かせてやりなさいよ」
「当然っす」
「じゃあな、戸隠、荷物が多いだろうが、引越しの準備をして、その副隊長を持って帰れ。今すぐだ」
「今すぐ⁉︎」
それは無茶な。静かだと思ったら、いつの間にかイヅルは眠っていた。喜びに参加できない。
「だーいじょうぶうよ。届のハンコなら、あたしが押しといたから。あんたいつもあたしの押してくれてるでしょ?お返しにあたしもしてあげたのよ。喜びなさ〜い」
乱菊は李空の背中をぐいぐい押して、退出させようとする。
「ちょっと待ってくださいよ!💦」
「待てねぇな。これは緊急事態だ。好都合ならすぐに話は通るだろう。お前が決心した時点で、もうお前の席はここには無ぇよ。とっとと行ってやれ。三番隊は今、副隊長まで機能しなくなっちまってるからな」
日番谷、乱菊、イヅルをパッパッパッと見てから、李空は唸った。
「だぁーッ、もう‼️お世話になりました‼️失礼しますッ‼️💢」
出ていった。
「あーあ、怒らせちゃったじゃない。昇進させて、機嫌取ったら?」
京楽は笑った。
「言われるまでもねぇ」
「あの子は三席になりますよ。総隊長も承諾されてます」
「そっか。フフッ、なつみちゃんの驚く顔が目に浮かぶよ」
なつみと李空の口喧嘩が懐かしい。
「京楽隊長も帰る準備したらどうですか?」
と乱菊。
「お前ぇも仕事に戻る準備したらどうだ、松本💢」
と日番谷。
「お、俺もう帰ります💧」
と檜佐木。
「ボクは戸隠くんの荷造り手伝おっかな〜」
なんて嘘をつく京楽。
「こちらにいらしたんですね、京楽隊長!」
と窓の外からお客さま。
「ルキアちゃん?」
シャワーを浴びて、歯を磨きながら寝室に行ってみてビックリ。ベッドがまたくっついていた。
「なッ⁉️💢」
市丸は掛け布団を整えていた。
「くっつけんの面倒いで、離さんといてー」
「離すの面倒いんで、くっつけないでくださいー」
すっくと偉そうに、手を腰にやって立った市丸。
「なつみちゃん。偉いのどっち」
「はい?😑」
こっちは、奥歯をゴシゴシしながら偉そうに立った。
「ズルいですよ、こういうときだけ。職権濫用です❗️」
「悔しかったら、隊長になりぃ」
諦めて回れ右して、洗面台に戻ることにする。
「ムリ‼️‼️」
結局ダブルベッドに、ふたり並んで寝ることに。
「…よくない」
「『返したくねぇ。お前の彼氏のとこに』なーんて、ボクは言わへんやん。兄妹仲良く添い寝するだけや」
「似てないですよー」
「それよりなつみちゃん、お昼寝したで、まだ眠ないんとちゃうの?」
「そうですけど、寝る時間なので寝ますよ。何かやって、隊長の睡りを邪魔するわけにもいきませんし」
「そう?気にせんでもええのに。ほな、ちょっとおしゃべりしようか」
「隊長は眠くないんですか?」
「向こう出るときいろいろあって、ちょっと疲れたけど、まだ起きてられるで」
「まさか送別会」
「みたいなもんやな」
「ずーるッ‼️」
「それは置いといてや。さっきキミが席外してるときに、藍染隊長が言うてたんやけど」
鼻筋に皺を寄せたまま、「何ぞ」と耳を傾ける。
「京楽さん宛に、お手紙書いてみたらどうやって。会わすんはできひんけど、文通くらいなら、丁度ええ気晴らしになるんやない?書けたら、ボクがあの人のとこ届けたるわ。どうや?」
皺が伸びた。
「むきゃーッ‼️💖」
喜びで抱きつく。
「ほれみ。ベッドくっつけといて良かったやん」
「ほんとにほんとに、届けてくれるんですか。やったー❗️んー、何書こう。お話ししたいことたくさんありすぎて、困っちゃいますね。むふーッ💖」
市丸の胸にすりすり。
「便箋と封筒は藍染隊長が持っとるんやて。明日起きたら、取りに行き」
「100枚くらい欲しいです❗️」
「フフッ、ほどほどにしてや」
「隊長も乱菊さんに書きますか」
「せやね。時間あるときにな」
「にひーっ😁」
「それとな、忘れんうちに、もう一個言っとかなあかんことがあんねん」
「?」
「ボク、なつみちゃんにお手紙書いて来たんよ」
「??どして」
「もしもんときに、読んで欲しくて。遺言書いといたわ」
呆れてぱかー…と口が開く。
「何言ってんすか。めちゃめちゃみんな仲良しで、身の危険特に感じないのに。滅多なこと言わないでください」
「けど、何あるかわからんもんやん。敵は虚だけとも限らんし、思いもよらん病気や事故もあるしやな…」
「だったらぼくも書いとかなきゃいけないじゃないですか」
「キミのことはボクが守るやんか」
「じゃあ隊長はぼくがお守りします❗️まったく。しかも何でそんな大事な物をぼくに託すんですか。普通、吉良副隊長に預けるものじゃないんですか?」
「ええやんかー。なつみちゃんはボクの妹やから、適任やで」
「弟❗️」ぷんぷんぷん。「その遺書はどこにあるんですか?すぐに出してください」
「どないすんの」
「捨てます😤」
「1回くらい読んでやぁ」
「読みませんよ。縁起でもない。隊長はこの任務で死んだりしません❗️ぼくと一緒に帰りますよ❗️」
「そうかー…、ボクの秘密いろいろ書いといたんに、読んでくれへんかぁ。残念やなぁ」
「遺言って、財産がどーのこーのじゃないんですか。よく知らないけど」
「お金なんか、適当にどっかに寄付したればええもん。欲しいん?」
「いりませんよ‼️第一、隊長は死にません‼️」
おでこを市丸の胸にびったりくっつける。念を送っているのか。
「ちなみに手紙は持ってきてへんよ。なつみちゃんの秘密の引き出しに入れたったわ」
ガバッ、顔を上げる。
「なんでッ‼️‼️まーたぼくの部屋勝手に入ったんですね‼️」
「ついでにお掃除もしてあげてん。怒られる筋合いないわ」妹の鼻の頭をちょんっ。「付き合ってんねんから、いくらでも京楽さん本人を見てられるのに、まだ新しい写真欲しいんやね。お互いにお互いのコスプレ写真、どんだけ集めるつもりや。変なカップル」
「うるさい‼️てか見たなら、それこそついでに持ってきてくださいよ‼️」
「ヤや、そんなん。はぁーあ。もうええわ。京楽さん宛の手紙持ってったら、その足でボクの遺書捨ててくるわ」
「そーしてくださいっ」
「ほんなら、この話はここまでや。他のみんなに言うたらあかんで。遺言書いといて即破棄やなんて、みっともなくて笑われてまうから。内緒や」
「はい❗️話すこと終わったなら、そろそろ寝てください。ぼくはお手紙に何書くか考えなきゃ」
ごそごそと、眠りの妨げにならないようなつみは市丸から離れた。
「くっついとってもええのに」
「いいえ。春水さんのこと考えて寝たら、寝ぼけて隊長に変なことしちゃうかもしれないじゃないですか」
「変なことて何?(笑)」
「変は変です❗️構わず寝てください❗️」
「えー、気になるわぁ、変なこと。教えてや〜」
離れたのにくっついてくる。逃げる。
「おやすみなさいッ❗️」
「いけずやなぁ、なつみちゃん」
「それはあなたでしょう❗️おやすみって言ってください❗️」
「わぁかったわ。おやすみなさいー」
そう言って、市丸はなつみの頭をぐっちゃぐちゃに撫でた。
「うぎゃーッ‼️」
「大丈夫かなつみー‼️」
壁の向こうから心配するリリネットの声が飛んできた。
(襲われ方が思ってたのと違ぇな…💧)
それから1週間後、瀞霊廷にて。
「てめぇ‼︎‼︎待てコラ、一護‼︎‼︎」
十一番隊舎。
「誰が待つかっ‼︎あんたと戦うのなんか、二度とゴメンだ‼︎💦」
「何だと⁉︎逃すか‼︎‼︎」
逃げる一護に、追う更木。
「やれやれ…。騒々しいね、毎度のことながら…」
ため息を吐く弓親。
「あの一護ゆうんが、十一番隊舎に顔出すようになってからは特にの。ええこっちゃ。静かすぎるより、だいぶん良えわい」
「…ていうか、鉄サンもなんでフツーにウチになじんでんですか。狛村隊長はどうしたんです?」
頭をバリッと掻く射場。
「いやあ…、それがのう…。ウチの隊長さん…、しばらく一人になりたいんじゃげな」
「フーン。まぁ、そうだろうね」
一護に逃げられた一角は、隊士の中から1人引き摺り出して、稽古の相手をさせる。それを引き続き見物する弓親と射場。
「こういうとき、なつみちゃんならすぐ『はいはーいっ』って、喜んで相手するのにね」
「ほうなんか」
「一角、内心複雑だろうな。彼女が無事だったことが知れて良かっただろうけど、いなくなっちゃったんだもんね」
「…、木之本の奴、どこ行ってもうたんじゃろうな」
「さぁ。うさぎからは戻ってるはずですよね、きっと」
「アイツは、ワシらん仲間じゃろ。元に戻っとるなら、何で戻ってこんのじゃ。アイツの能力なら、どうとでもできると違うんか」
会長は会員の心配をし、拳を握る。
「どうとでもできるから、連れてかれちゃったんでしょ」
弓親は、一護が飛び出していった窓の外の空を見上げた。
「なつみちゃんの前では、みんな仲間になっちゃうからなぁ…」
十番隊舎にて。
「…って、うお⁉︎どうしたんだ吉良⁉︎ベロンベロンじゃなーか‼︎」
窓辺から乱菊に呼ばれて、その室内を見た檜佐木が、酔っ払ってダウンしているイヅルを発見した。
「お!」
乱菊が、また人を呼び止める。
「一護ぉ!織姫ぇ‼︎あんたらもどう⁉︎いい酒あるわよう‼︎」
何やら急いでいる高校生たちを飲みに誘う。
「あ!あとでもらいま…」
「未成年です!」
織姫が大きくバッテンを出して、一護の返事に割って入った。
「おいしいお茶もあるわよう…。つれないのねぇ…」
一護と織姫の進行方向から声がかけられた。
「そんなに急いでどこ行くの?」
「お、京楽さん!」
「こんにちは!」
またサボってこんなところをお散歩中。
「俺たち、ルキア捜してんだ。アイツ見ませんでしたか?」
「んー、ルキアちゃん?見てないね。十三番隊舎に居ないのかい?」
「はい。朽木さんに用事があるのに、どこ行っちゃったか見当もつかなくて、あちこち走り回ってますけど、全然見つからないんです」
そう言う織姫の手には、ワンピースが。
「そっか…。ふーん、でもさぁ、一護くんなら、走り回る必要無いんじゃない?落ち着いて霊圧を探れば、きっと辿れるよ」
にっこり笑って教えてあげる。
「あ、そっか。さっきまで剣八の野郎に追われてて、そんなことに気が回らなかったぜ」
霊圧からの現実逃避。
「…」
目を閉じて集中する。
「居た!なんだ、瀞霊廷ん中にいるじゃねーか、アイツ。行くぞ、井上!」
「うん!」
「ありがとう、京楽さん!」
「ありがとうございまぁす!」
手を振って走り去る高校生たちに、手を振りかえす京楽。
「どういたしまして〜」
それから気づく。
「おんやァ。楽しそうじゃないの」
近くから聞こえてきた檜佐木の慌てる声に誘われて、そちらへ近寄る。
「ボクもまぜてくんないかなァ」
乱菊のもとへ。
「やですよ。隊長まぜて七緒に怒られんの、あたしなんですからね。てかさっき七緒が捜してましたよ?」
「あぁそうなの?ここを通り過ぎたのが『さっき』ってことなら、しばらく居ても大丈夫だね、じゃあ」
しめしめと自分で言って頷く。
「京楽隊長の分はありませんよ」
「いいよ、別に。酔って、束の間でも気が楽になるなら、今飲むべきは彼らだから。上司が突然謀反起こして姿を消すなんて、想像もつかない心境だよ」
フンドシ一丁のイヅルの介抱で、檜佐木は京楽がいることに気づいていない。
「恋人を誘拐された気持ちも、あたしにはわかりませんよ」
「キミと似たようなものじゃないの?」
「違いますよ」
「そう…」
「お茶なら出しますよ」
「やったぁ」
中に入れてもらって、乱菊と檜佐木は酒を、京楽とイヅルにはお茶が用意された。
「あれから1週間だけど、どう?いろいろ大変でしょう。ボクも力になれることがあれば、喜んで手伝うよ」
「お世辞で言ってるだけですよね。まず自分の仕事をこなしてから、そう言ってあげてくださいよ」
乱菊にツッコまれた。
「ボクはいいの。七緒ちゃんも尾田くんもいるから」
「お気遣いに感謝します。ですが、今のところは総隊長の配慮も頂いてて、なんとか間に合ってます。コイツんとこもそうでしょう」
「そーだそーだぁ‼︎」
服を着せてもらったイヅルは、机に突っ伏したまま拳を振るう。
「三番隊は2人もいなくなっちゃったね」
仲良し兄妹が。
「抜けた穴は、相当大きいと思うなぁ」
頬杖をつく京楽の視線が少し下がる。
「京楽隊長も辛いでしょう。木之本が連れ去られて」
遠くで小鳥が鳴いている。
「ボクね、悲しいの半分、嬉しいも半分なんだ」
乱菊と檜佐木は少し驚いた。
「愛するなつみちゃんと会えないのはとっても辛いけど、彼女がどこかで元気に生きてることがわかったから、そこは知れて良かったんだ」
「京楽隊長…」
「馬鹿者!何故気付いておりながら、儂に言わなんだ!」
「だって…、山じいの言ったこと覚えてたからさ。だから、なつみちゃんは自分の世界に帰っちゃったと思うようにしてたんだ」
「かぐや姫でもあるまい、現実を見よ‼︎」
「連れ去ったのが惣右介くんだとわかったなら、彼女は絶対に取り戻すよ。何てったってボクたちは、相思相愛だもん。どんなに惣右介くんがなつみちゃんを騙そうと頑張っても、彼女の想いがボクから外れることはない。なつみちゃんはボクらを裏切ったりしないしね。必ず帰ってくる。ボクはそう信じてるよ」
それをちゃんと聞く2人は頷いた。
「ええ、もちろん」
「俺たちも信じます。恐らく藍染が木之本を誘拐したのは、アイツがうさぎになってすぐなんですよね」
「そうだね」
「初めからあっち側なら、あんな手の込んだことする必要ありませんし、その間に寝返っていたら、あの場に4人で居たはずです。木之本はまだ、俺たちの仲間ですよ」
「『まだ』じゃないわ。『ずっと』よ。なつみはあたしたちを敵だなんて思わないわ。藍染はなつみの能力を利用したくて、連れてったのよね。一体、何が目的なのかしら」
それは市丸にも投げかけたい疑問。
「たぶんね、利用したいだけじゃないんだ。なつみちゃんはね、以前、鏡花水月の能力をかかった後で破ったことがあるんだよ」
「何⁉︎本当ですか、それ‼︎」
思い出したくもない話だった。
「みんなの前では言えない話なんだけどね。惣右介くんは、なつみちゃんを騙して、抱いたんだよ」
「何じゃと⁉︎知りながら、お前は奴を生かしておいたというのか。寛大にも程があるわい‼︎」
「なつみちゃんが怒らないでって言うから。ボクだって殺したいほど憎かったけど、仕方ないだろ」
「下衆めが」
「なつみちゃんはあの日、疲れて寝ちゃったって言ってたけど、本当は、今回使われた睡眠薬と同じ物を飲まされてたんだ。彼女は寝ぼけてたわけじゃない。鏡花水月でボクに化た惣右介くんに抱かれたんだ。けど途中で異変に気付いて、なつみちゃんは夢現天子の能力で、惣右介くんの術を解いた。あくまでボクの推測だけどね。でもこれが真相だと思う」
「術が効かんから、連れ去ったというんか」
「それだけなら、言いたくないけど、あの子を…」
「言わんでええ。口にするな、そんなこと。確かにそうじゃの。だったら、何故生かしておいた」
「それがわかれば、惣右介くんを止められるかな」
「うさぎにだってなれるんだもん。それくらい、なつみちゃんには朝飯前だよ」
「うさぎになったのは、藍染が何かしたからじゃないんですか⁉︎」
京楽は首を振った。
「彼がしたのは、なつみちゃんを眠らせ、替え玉を用意し、霊圧を鏡花水月で出していたくらいだよ。うさぎになったことは、想定外だったはずだ」
「どうしてそんなこと」
京楽はフッと笑った。
「なつみちゃんがうさぎになっちゃった日、彼らは本当に驚いた顔をしていたんだもん」
市丸の動揺は本物だった。
「涅隊長は早々に気付いていたよ。1日調べただけでわかっていたんだ。うさぎに変身したのは、なつみちゃん本人の仕業だってね。けど彼にはその動機がわからなかった。だから、気を遣ってそっとしておくことにしたのかもね。彼もなつみちゃんにベタ惚れだから」
「あたしもわかりませんよ、うさぎになりたい理由なんて。なれる方法すらわかりませんけど。京楽隊長はわかったんですか?」
京楽は微笑んで答えた。
「ボクも最初はわからなかった。けど、尾田くんと池乃の話を聞いて察しがついた」
「何だったんですか?」
「わかりましたよ、隊長。アイツ、市丸…前隊長のためにうさぎになったんじゃないですか」
「どういうこと?」
「木之本、ずっと言ってたんですよ。『市丸隊長が寂しそうな顔をしてる』って。漠然とですけど、アイツなりのやり方で、あの人を元気づけようとしたんじゃないでしょうか。かなりぶっ飛んだ考えですけど、アイツならあり得ます」
「優しいって言ってあげて」
「そういや、なつみにきかれたな」
「何て?」
「いちばん触り心地の良い動物は何かって」
「それでうさぎって答えたの?」
「いや、俺はコアラって言った」
「へ?じゃあ何でうさぎ?」
「知らねぇよ」
「あ、でもちょっと待って。色が一緒かも。なつみちゃんがなったうさぎ、灰色だった」
「変身に毛を使ったってのか」
「取り間違えたんだ!きっとそうだ!ってことは、もしかすると市丸隊長が無理矢理買ってきたうさぎが元の…?」
「あぁ、市丸っつったら、そいつもここに来たぞ」
「は⁉︎何で」
「なつみの代わりに街づくりのボランティアをしてぇって奴がいて、建築デザインの勉強をしたがってるから、良い本があったら貸してくれって、頼んできたんだ。んで、ガウディの本を貸してやった。もうとっくに返ってきてる」
「…それ、代わりじゃなくて、なつみちゃんだったりして」
「かもな」
「悩んで辛そうな市丸隊長を癒してあげるため」
今となっては、いろいろと想像できる。
「ギン…」
「なつみちゃんをボクたちから別れさせること、キミから離れること。大きな悩みさ」
乱菊は額に手を当てた。
「馬鹿ね、あの子。小さくなって、余計に連れ出しやすくしてたなんて」
「偶然重なったんだよ。奇跡を起こす天才だもん。…お兄ちゃん想いのね」
するとそこに、なつみの友人が現れた。
「失礼します。…あれ、隊長はいらっしゃらないんですね」
「あら李空。あんたも飲む?」
乱菊が先程の雰囲気を振り払うように、酒の瓶を持ち上げてフリフリ振った。
「いいえ、結構です。勤務中なので」
部屋の入り口に立ったまま、隊長らに挨拶をする李空。
「お疲れ様です、京楽隊長、檜佐木副隊長、吉良副隊長」
「うん、お疲れ」
「お疲れ」
「おぉつかれ、りくぅ〜」
ひとりだけ妙にご機嫌な返事で、李空はギョッとした。
「吉良副隊長⁉︎どうしたんですか。あなたまで飲んだんですか⁉︎」
イヅルの前にある容器の中身を確かめようと、李空も入室。
「それはお茶だ。だが、俺が来るまでに相当飲んでたらしい」
「はぁ…、松本副隊長!この大変な時に、この人をグデングデンにしないでください!三番隊がどれだけ痛手を被ったか、あなたにもわかるでしょう!」
「おっこんないでよ、李空。うるさいなぁ」
乱菊は耳を塞いだ。
「まぁまぁ、落ち着いてよ、戸隠くん」
「京楽隊長、あなただって」
と言って見たが、京楽の湯呑みもお茶だった。
すると、またそこに騒ぎを聞きつけやって来た人物が。
「三番隊が大変なのは知ってる。五番隊も、九番隊もな」
「あ〜、隊長〜。おかえりなさぁい」
日番谷だった。
「俺に用か、戸隠」
「はい」
李空の横を通り過ぎ、日番谷は自分の席に着いた。
「悪いが、まず俺から話をさせてくれ」
「何でしょう」
背筋を伸ばして、姿勢を正した李空。
「お前、三番隊に帰ってくれ」
「え…」
言葉を失い、ただ瞬きをした。
「1週間考えていたんだが、その吉良の酔い方を見て決めさせてもらうぜ。隊長と二十席が抜けた穴を、戸隠、お前が埋めてやれ。お前が適任だ。お陰とウチの隊に被害は無ぇ。お前が抜けると松本が苦しくなるだけだ。大した問題じゃねぇ。俺たちのことは気にせず行け、戸隠。お前なら吉良を支えてやれる」
「隊長…」
「大した問題だけど、あたしも賛成よ。三番隊の要領をわかってるあんた以外、ここから回せる人材いないもの」
「副隊長…」
「異動願は既に用意した。良い返事を聞かせてくれ」
考えが巡っているようで、李空の心はひとつにしか決まっていない。必要なのは後押しだけだ。
「なつみちゃんの秘密を守ってあげて、戸隠くん」
京楽がコソッと呟いた。それを拾った李空。
「わかりました。俺、三番隊に戻ります!」
「よし」
にっと笑ったのは日番谷だけではなかっただろう。
「さっすが〜、李空。帰ってきたなつみを驚かせてやりなさいよ」
「当然っす」
「じゃあな、戸隠、荷物が多いだろうが、引越しの準備をして、その副隊長を持って帰れ。今すぐだ」
「今すぐ⁉︎」
それは無茶な。静かだと思ったら、いつの間にかイヅルは眠っていた。喜びに参加できない。
「だーいじょうぶうよ。届のハンコなら、あたしが押しといたから。あんたいつもあたしの押してくれてるでしょ?お返しにあたしもしてあげたのよ。喜びなさ〜い」
乱菊は李空の背中をぐいぐい押して、退出させようとする。
「ちょっと待ってくださいよ!💦」
「待てねぇな。これは緊急事態だ。好都合ならすぐに話は通るだろう。お前が決心した時点で、もうお前の席はここには無ぇよ。とっとと行ってやれ。三番隊は今、副隊長まで機能しなくなっちまってるからな」
日番谷、乱菊、イヅルをパッパッパッと見てから、李空は唸った。
「だぁーッ、もう‼️お世話になりました‼️失礼しますッ‼️💢」
出ていった。
「あーあ、怒らせちゃったじゃない。昇進させて、機嫌取ったら?」
京楽は笑った。
「言われるまでもねぇ」
「あの子は三席になりますよ。総隊長も承諾されてます」
「そっか。フフッ、なつみちゃんの驚く顔が目に浮かぶよ」
なつみと李空の口喧嘩が懐かしい。
「京楽隊長も帰る準備したらどうですか?」
と乱菊。
「お前ぇも仕事に戻る準備したらどうだ、松本💢」
と日番谷。
「お、俺もう帰ります💧」
と檜佐木。
「ボクは戸隠くんの荷造り手伝おっかな〜」
なんて嘘をつく京楽。
「こちらにいらしたんですね、京楽隊長!」
と窓の外からお客さま。
「ルキアちゃん?」