第九章
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顔合わせの後、無事3人とも破面になり、なつみはその時初めて崩玉を目の当たりにした。
「すごーい✨」
「触ったらあかんで」
こそこそと兄弟はおしゃべりする。
「どうしてですか?」
「静電気くる」
「😒…❓」
「嘘に決まってるやん」
「しょーもない」
「けどほんま、触ったらあかんで。あんなもん」
「……?」
真面目な声色に思わず、兄の横顔を見上げた。
集会は終わり、藍染はザエルアポロを別室に連れて行き、ふたりでお茶を飲んでいた。
「それで、なつみとしばらく一緒に暮らしてみて、どう思ったかな」
ティーカップを口に運ぶ。
「そうですね…。面白い子、ですかね」
「そうだろうね」
「彼女の考えには驚かされるばかりです」
「私もだ。考えだけでなく、それを実現させる力にも、驚かされないかい?」
「ええ。何故でしょうね。どうしても、彼女の願いを叶えてあげたいと思えてしまうんです。危険を伴うことは、さすがに止めますが」
「そうしてやってくれ」
ふたりは、そっとなつみの笑顔を思い出していた。キラキラ輝く瞳が、自分を見上げてきてくれる姿。
「あんな能力を斬魄刀が持つこともあるんですね。物に命を宿すような」
「…、そう見えるのか」
「違いますか?」
「それだけではないよ。斬魄刀の名前を聞いたかな?」
「夢現天道子…でしたっけ」
「フフッ、そうだろうな」
「どういうことです」
「夢現天道子はあの子が勝手に付けた名前なんだ」
斬魄刀について深い知識は無かったため、ザエルアポロは研究不足を感じてしまった。
「なつみの力が目覚めたのはね…」藍染は思い出し、笑ってしまった。「ギンのイタズラで、大切なものを取り上げられてしまったのがきっかけだったんだ。つまり、火事場の馬鹿力だよ。ギンも、なつみの始解発動を狙ってやったことらしいんだが、なんとも可笑しい話だ」
「笑っても良いんですか?本人は至って真剣だったんでしょう」
「そうだよ。あんなもののためによくと思うが、当時の彼女にとっては隠し通したい秘密だったから、必死になるのも仕方なかったんだろうね」
あんなものとは何なのか訊ねたいが、やめておくべきか、悩んでいる内に話は進む。
「その時に聞いた名前は、夢現天子だった。解号は『従え』」
「『従え』…。僕が聞いたのは、『叶え』でした」
「あぁ。それは、夢現天道子として使うときに唱えている。彼女が斬魄刀の真の名前を伏せるきっかけを作ってしまったのは、実は私なんだ」
ザエルアポロは一瞬、眉間に皺を寄せた。これは、笑ってはいけないエピソードだろうか。
「覚えているかな?私が、死したばかりの人間の魂魄を捕まえて、短時間で中級大虚に育てた時のことを」
「…ええ。ありましたね。お手伝いさせていただいたので、覚えています」
「うん。その虚を、現世任務に出ていたなつみのところにやったんだよ」
「何故、そのようなことを」
「わかるだろう。試してみたかったんだ。あの子の能力を最大限に引き出し、その底を探ろうとした。誤って死んでしまえば、それまでのことと思っていたからね。無茶なことをさせてしまったよ。今となっては考えられないことだ」
「それで何が起きたんですか」
藍染は回想するため、目を閉じた。
「世界を滅ぼしかけた」
(……⁉︎)
逆にザエルアポロは驚きで見開いた。
「信じられないだろうが、本当に、あの子の周りから世界が消え始めたんだ。あれは彼女の願いではなかったのに」藍染は瞼を開いていく。「なつみは虚と接触をし、ひとつの疑問を抱いた。それで思わず、その虚の正体を知りたいと思ってしまった。能力を解放した状態でだ。万物は彼女の望みを必ず叶える。彼女は思った通り、仮面の下の顔を見ることができたが、もちろん、1人分ではないわけだから、全員を一気に知ってしまった。魂魄の像が、脳裏に流れ込んできたと言っていた。虚に渦巻く苦しみに呑み込まれ、なつみは混乱してしまった。その時に、虚が抱いた感情を自分のものだと錯覚してしまったんだ」
こんな世界、消えてしまえばいいのに。
「駆けつけたギンがすぐに虚を殺して、事なきを得たわけだが」
「そんな大事、かなりの騒ぎになったはずなのに。被害は相当小さく抑えられたんですね」
「そうだ。土の地面でのことだから、さっと埋めるだけで良かった。現世での影響はごく僅かで済んだが、それに対して尸魂界では、隊首会で取り上げられるほどの騒ぎとなった。なつみの敗因は、彼女が自分の能力を制御しきれなかったことにあるとし、なつみがその能力を使いこなせるだけの実力まで鍛え上げられるよう、隊長格が協力し合い、彼女を育てることが決定した。私はあの子の鬼道を見てあげていたよ。その他、斬術、白打、歩法、回道、総合的な戦闘術を、それぞれの専門家から学んでいる。あの子は成績の低さから二十席に着いているが、実質、戦力で見るなら、副隊長にも匹敵するんだよ。だから、私たちが霊圧を控えてやらなくても、元気に走り回っているというわけだ。ここに来て、更に逞しくなったようだね」
お茶を飲んで、少しブレイク。
「斬魄刀の呼び名を変えた理由は…」
「自分の誤った考えで、周りを従わせてはいけない。相手は敵ではなく、護るべき対象なのだから、相手が同意しなければ能力が発動してはならない。なつみはそう思い、力を出し切らないよう、解号を変え、斬魄刀からもある程度抑えてもらえるよう、名前も少しだけ変えた。君たちが見てきたあの子の能力は、まだ序の口なんだよ」
「なるほど」
普段は街づくりプロジェクトが会話の中心であったため、なつみ本人からどんなふうにこれまでを過ごしてきたのか、話す機会が少なかった。ザエルアポロはひとつずつ、見たことと聞いたことを繋げていく。
「そして、あの子自身も気付いていない事があると、私は思う」
「何でしょう」
なつみへの興味はなかなか尽きない。
「彼女は、ほぼ常に始解の状態にいる」
(…⁉︎)
「恐らく本来、夢現天子の解放に抜刀という動作は必要無いんじゃないかな。それで説明がつく数々の不思議な出来事があるからね。あの子はそれに気付いていない。斬魄刀を使うには、抜き、構え、念じるという段階を踏めと教わり、それにこだわっているからだよ。しかし実際はそうではない。無意識に解放しているか、または、あの黄色い鳥が主を想い、独断で動いているのかは知らないが。とにかく、なつみの望みが叶いやすいのは、幸運なだけではない。それだけの力が働いている。時空をも含む、全ての存在がなつみの願いを受け入れ、彼女は容易く夢を叶えていくんだ。不可能はない。…、どこかで似たような物を聞いたことはないかい」
藍染はいよいよ、このティータイムのハイライトへと移行する。
「私は今日、また新たな仮説を立てたよ」
固唾を飲んで聞きいるザエルアポロ。
「リリネットを破面にし、更にスタークを創り出したのは、なつみだ」
ザエルアポロのカップに一度波が立った。頭の中では、会話の内容よりも2歩程先に進んでいるのだろうか。
「なつみはリリネットと接触し、ふたりでリリネットの破面化を願った。交渉は成立し、実現した。どんなにリリネットが強い虚と言えど、あれだけの完成度で破面化が自然発生するはずはない。ならばそこには、なつみという不自然が関与しているとするのが妥当だ」
「なつみはまるで」
その先を口に出したくはないが、続ける。
「人の形をした崩玉…」
「彼女の魅力はそこに尽きる」
思考に呑まれるザエルアポロは動作を失っていたため、それを許し、藍染は自らポットを取って2杯目を注いだ。
「なつみはあくまで保険でしかない。あの子は私の言うことを聞こうとしないからね。だから、朽木ルキアに埋められている浦原喜助の崩玉は、必ず回収しなければならない。あと少しだ。そうしたら、君たち十刃の強化も叶うだろう」今日はよく喋っている藍染。「なつみは私の元に居てもらう。死神などという下らない枷に縛られてはいけない存在なんだ。瀞霊廷を崩壊し、新たな時代を彼女と共に築いていこう。それが私の願いだ」
ザエルアポロはやや伏せた。
「素敵なお考えです、藍染様」
「ありがとう」
穏やかな返事だったが、一変。藍染は不機嫌な表情になった。
「しかし、スタークの存在はあからさまだったな。あれではなつみが創り出したとしか見えない。好みを反映させすぎだ」
恋煩いにのたうち回るなつみが想起された。
「あはは…😅」
笑って凌ごう、この時間。
「あ〜あ、なつみちゃんの好み、ばーっちりわかってしもたわ、ボク」
「むむ❗️///」
会議室を出たなつみは、市丸と住む部屋と、リリネットとスタークが住む部屋を探しに、鍵の束を携え、市丸とリリネットとスタークを連れ、虚夜宮の廊下を歩いていた。
「ヒゲ、オッサン、黒の長髪、ちょっとくねった癖毛のな」
1、2、3と指折りながら、市丸は後ろから列挙した。
「オッサンじゃないです❗️ワイルドって言ってください❗️」
「ボクと全然ちゃうタイプ〜😙」
なつみは振り返りぷりぷり怒るが、市丸は平気なお顔。
「遠距離恋愛て、こうやって終わるんやな」
「終わりませんよ❗️浮気しませんから❗️そ、そ、そ、そうですね、あえて言うなら、…そう❗️スタークさんはぼくのアイドル😚」
鍵の束を片手に握ったまま、両手のグーをほっぺに当てて、きゅーんとときめく。
「ありがたいが、複雑だな」
スタークはそんななつみを見下ろして言った。
「ねぇ、ここじゃない?」
リリネットがなつみの袖をクイクイ引っ張ってお知らせしてくれた。
「お、そうそう。ここ、ここ〜」
部屋の鍵を探し当て、住居者がいる印が付いていないのも確認。
「おーぺんっ♪」
2組が求める部屋の条件は、ツイン、バスとトイレは別、キッチン有り、クローゼットは2人分確保だ。明かりを点ける。
「どう?」
4人はそれぞれで見て回る。
「なつみが遊びに来たらさ、ちょっと狭いかもね」
「そうだな」
「なに。ぼくとここで追いかけっこでもする想定したの?」
「ボクらにも合わんな、ここ。ベッド移動できんひんもん」
まだ言うかと、プチっとキタなつみは市丸をクルッと方向転換させて、背中を押して退室していった。
次の部屋。
「あたしさー、やっぱりなつみと3人部屋が良いんだけど」
「あかんわ。なつみちゃんはボクと一緒。大体なぁ、キミら1番もらったんやから、自分たちのおうち建ててもらったらええやん。なんでわざわざこん中に住むん。贅沢しぃ!」
「じゃぁ、あたしとスタークとなつみが3人で暮らす家建ててもらう❗️」
「ボクをいちいち蚊帳の外に出すんやめてや。なつみちゃんと一緒に寝るのはボクや!」
「彼氏でもないくせに」
「お兄ちゃんや‼︎」
「マジ兄妹なの⁉︎」
「ちゃう!😤」
マジではない。
「だったらあたしらと変わんないじゃん。偉そうにすんな❗️」
リリネットと市丸の言い合いを、なつみとスタークは黙って見ていた。そして、こっそり感想を話す。
「リリネットちゃん、かわいい😊」
「お前も似たようなもんだ」
「っ…///」
「俺はここでも良いぜ」
「そ、そう…?」
「なつみは?」
「ぼくも良いと思うけど、お隣も見てから決めるよ」
見た目の感じから、本当ならなつみはスタークに敬語で話しそうなのだが、仲間であり、お友だちという関係を築きたいため、たどたどしくタメ口を聞いている。照れながら。
「ねぇ、リリネットちゃん。スタークさんがここにしたいって。リリネットちゃんは?気に入った?」
「んー、別に良いんじゃない?」
口喧嘩をやめ、クッションでペシペシ叩きあっているふたりに問いかける。
「隊長はいかがですか?」
「この子らがええ言うなら、別のとこ見に行こか」
「はい。お隣も空いているので、見てきましょう」
こうして2組は隣同士の部屋に住むことにした。
「まぁ、100歩譲ってだけどね」
「ふふっ、リリネットちゃん、ぼくのとこでお泊まり会しても良いよ」
「ヤダよ❗️コイツいんじゃん❗️なつみがこっち来て」
「アカン言うの。そん人おるんやもん。連れてこうとしても無駄やで。鍵かけたるから」
「なつみが内から開けられるから、意味ねぇだろ、その脅し」
「何やて⁉︎あんたが寝とる間にヒゲ剃り落としたろか!」
それも効果が期待できない脅しである。
「ふふふっ🤭」
「すごーい✨」
「触ったらあかんで」
こそこそと兄弟はおしゃべりする。
「どうしてですか?」
「静電気くる」
「😒…❓」
「嘘に決まってるやん」
「しょーもない」
「けどほんま、触ったらあかんで。あんなもん」
「……?」
真面目な声色に思わず、兄の横顔を見上げた。
集会は終わり、藍染はザエルアポロを別室に連れて行き、ふたりでお茶を飲んでいた。
「それで、なつみとしばらく一緒に暮らしてみて、どう思ったかな」
ティーカップを口に運ぶ。
「そうですね…。面白い子、ですかね」
「そうだろうね」
「彼女の考えには驚かされるばかりです」
「私もだ。考えだけでなく、それを実現させる力にも、驚かされないかい?」
「ええ。何故でしょうね。どうしても、彼女の願いを叶えてあげたいと思えてしまうんです。危険を伴うことは、さすがに止めますが」
「そうしてやってくれ」
ふたりは、そっとなつみの笑顔を思い出していた。キラキラ輝く瞳が、自分を見上げてきてくれる姿。
「あんな能力を斬魄刀が持つこともあるんですね。物に命を宿すような」
「…、そう見えるのか」
「違いますか?」
「それだけではないよ。斬魄刀の名前を聞いたかな?」
「夢現天道子…でしたっけ」
「フフッ、そうだろうな」
「どういうことです」
「夢現天道子はあの子が勝手に付けた名前なんだ」
斬魄刀について深い知識は無かったため、ザエルアポロは研究不足を感じてしまった。
「なつみの力が目覚めたのはね…」藍染は思い出し、笑ってしまった。「ギンのイタズラで、大切なものを取り上げられてしまったのがきっかけだったんだ。つまり、火事場の馬鹿力だよ。ギンも、なつみの始解発動を狙ってやったことらしいんだが、なんとも可笑しい話だ」
「笑っても良いんですか?本人は至って真剣だったんでしょう」
「そうだよ。あんなもののためによくと思うが、当時の彼女にとっては隠し通したい秘密だったから、必死になるのも仕方なかったんだろうね」
あんなものとは何なのか訊ねたいが、やめておくべきか、悩んでいる内に話は進む。
「その時に聞いた名前は、夢現天子だった。解号は『従え』」
「『従え』…。僕が聞いたのは、『叶え』でした」
「あぁ。それは、夢現天道子として使うときに唱えている。彼女が斬魄刀の真の名前を伏せるきっかけを作ってしまったのは、実は私なんだ」
ザエルアポロは一瞬、眉間に皺を寄せた。これは、笑ってはいけないエピソードだろうか。
「覚えているかな?私が、死したばかりの人間の魂魄を捕まえて、短時間で中級大虚に育てた時のことを」
「…ええ。ありましたね。お手伝いさせていただいたので、覚えています」
「うん。その虚を、現世任務に出ていたなつみのところにやったんだよ」
「何故、そのようなことを」
「わかるだろう。試してみたかったんだ。あの子の能力を最大限に引き出し、その底を探ろうとした。誤って死んでしまえば、それまでのことと思っていたからね。無茶なことをさせてしまったよ。今となっては考えられないことだ」
「それで何が起きたんですか」
藍染は回想するため、目を閉じた。
「世界を滅ぼしかけた」
(……⁉︎)
逆にザエルアポロは驚きで見開いた。
「信じられないだろうが、本当に、あの子の周りから世界が消え始めたんだ。あれは彼女の願いではなかったのに」藍染は瞼を開いていく。「なつみは虚と接触をし、ひとつの疑問を抱いた。それで思わず、その虚の正体を知りたいと思ってしまった。能力を解放した状態でだ。万物は彼女の望みを必ず叶える。彼女は思った通り、仮面の下の顔を見ることができたが、もちろん、1人分ではないわけだから、全員を一気に知ってしまった。魂魄の像が、脳裏に流れ込んできたと言っていた。虚に渦巻く苦しみに呑み込まれ、なつみは混乱してしまった。その時に、虚が抱いた感情を自分のものだと錯覚してしまったんだ」
こんな世界、消えてしまえばいいのに。
「駆けつけたギンがすぐに虚を殺して、事なきを得たわけだが」
「そんな大事、かなりの騒ぎになったはずなのに。被害は相当小さく抑えられたんですね」
「そうだ。土の地面でのことだから、さっと埋めるだけで良かった。現世での影響はごく僅かで済んだが、それに対して尸魂界では、隊首会で取り上げられるほどの騒ぎとなった。なつみの敗因は、彼女が自分の能力を制御しきれなかったことにあるとし、なつみがその能力を使いこなせるだけの実力まで鍛え上げられるよう、隊長格が協力し合い、彼女を育てることが決定した。私はあの子の鬼道を見てあげていたよ。その他、斬術、白打、歩法、回道、総合的な戦闘術を、それぞれの専門家から学んでいる。あの子は成績の低さから二十席に着いているが、実質、戦力で見るなら、副隊長にも匹敵するんだよ。だから、私たちが霊圧を控えてやらなくても、元気に走り回っているというわけだ。ここに来て、更に逞しくなったようだね」
お茶を飲んで、少しブレイク。
「斬魄刀の呼び名を変えた理由は…」
「自分の誤った考えで、周りを従わせてはいけない。相手は敵ではなく、護るべき対象なのだから、相手が同意しなければ能力が発動してはならない。なつみはそう思い、力を出し切らないよう、解号を変え、斬魄刀からもある程度抑えてもらえるよう、名前も少しだけ変えた。君たちが見てきたあの子の能力は、まだ序の口なんだよ」
「なるほど」
普段は街づくりプロジェクトが会話の中心であったため、なつみ本人からどんなふうにこれまでを過ごしてきたのか、話す機会が少なかった。ザエルアポロはひとつずつ、見たことと聞いたことを繋げていく。
「そして、あの子自身も気付いていない事があると、私は思う」
「何でしょう」
なつみへの興味はなかなか尽きない。
「彼女は、ほぼ常に始解の状態にいる」
(…⁉︎)
「恐らく本来、夢現天子の解放に抜刀という動作は必要無いんじゃないかな。それで説明がつく数々の不思議な出来事があるからね。あの子はそれに気付いていない。斬魄刀を使うには、抜き、構え、念じるという段階を踏めと教わり、それにこだわっているからだよ。しかし実際はそうではない。無意識に解放しているか、または、あの黄色い鳥が主を想い、独断で動いているのかは知らないが。とにかく、なつみの望みが叶いやすいのは、幸運なだけではない。それだけの力が働いている。時空をも含む、全ての存在がなつみの願いを受け入れ、彼女は容易く夢を叶えていくんだ。不可能はない。…、どこかで似たような物を聞いたことはないかい」
藍染はいよいよ、このティータイムのハイライトへと移行する。
「私は今日、また新たな仮説を立てたよ」
固唾を飲んで聞きいるザエルアポロ。
「リリネットを破面にし、更にスタークを創り出したのは、なつみだ」
ザエルアポロのカップに一度波が立った。頭の中では、会話の内容よりも2歩程先に進んでいるのだろうか。
「なつみはリリネットと接触し、ふたりでリリネットの破面化を願った。交渉は成立し、実現した。どんなにリリネットが強い虚と言えど、あれだけの完成度で破面化が自然発生するはずはない。ならばそこには、なつみという不自然が関与しているとするのが妥当だ」
「なつみはまるで」
その先を口に出したくはないが、続ける。
「人の形をした崩玉…」
「彼女の魅力はそこに尽きる」
思考に呑まれるザエルアポロは動作を失っていたため、それを許し、藍染は自らポットを取って2杯目を注いだ。
「なつみはあくまで保険でしかない。あの子は私の言うことを聞こうとしないからね。だから、朽木ルキアに埋められている浦原喜助の崩玉は、必ず回収しなければならない。あと少しだ。そうしたら、君たち十刃の強化も叶うだろう」今日はよく喋っている藍染。「なつみは私の元に居てもらう。死神などという下らない枷に縛られてはいけない存在なんだ。瀞霊廷を崩壊し、新たな時代を彼女と共に築いていこう。それが私の願いだ」
ザエルアポロはやや伏せた。
「素敵なお考えです、藍染様」
「ありがとう」
穏やかな返事だったが、一変。藍染は不機嫌な表情になった。
「しかし、スタークの存在はあからさまだったな。あれではなつみが創り出したとしか見えない。好みを反映させすぎだ」
恋煩いにのたうち回るなつみが想起された。
「あはは…😅」
笑って凌ごう、この時間。
「あ〜あ、なつみちゃんの好み、ばーっちりわかってしもたわ、ボク」
「むむ❗️///」
会議室を出たなつみは、市丸と住む部屋と、リリネットとスタークが住む部屋を探しに、鍵の束を携え、市丸とリリネットとスタークを連れ、虚夜宮の廊下を歩いていた。
「ヒゲ、オッサン、黒の長髪、ちょっとくねった癖毛のな」
1、2、3と指折りながら、市丸は後ろから列挙した。
「オッサンじゃないです❗️ワイルドって言ってください❗️」
「ボクと全然ちゃうタイプ〜😙」
なつみは振り返りぷりぷり怒るが、市丸は平気なお顔。
「遠距離恋愛て、こうやって終わるんやな」
「終わりませんよ❗️浮気しませんから❗️そ、そ、そ、そうですね、あえて言うなら、…そう❗️スタークさんはぼくのアイドル😚」
鍵の束を片手に握ったまま、両手のグーをほっぺに当てて、きゅーんとときめく。
「ありがたいが、複雑だな」
スタークはそんななつみを見下ろして言った。
「ねぇ、ここじゃない?」
リリネットがなつみの袖をクイクイ引っ張ってお知らせしてくれた。
「お、そうそう。ここ、ここ〜」
部屋の鍵を探し当て、住居者がいる印が付いていないのも確認。
「おーぺんっ♪」
2組が求める部屋の条件は、ツイン、バスとトイレは別、キッチン有り、クローゼットは2人分確保だ。明かりを点ける。
「どう?」
4人はそれぞれで見て回る。
「なつみが遊びに来たらさ、ちょっと狭いかもね」
「そうだな」
「なに。ぼくとここで追いかけっこでもする想定したの?」
「ボクらにも合わんな、ここ。ベッド移動できんひんもん」
まだ言うかと、プチっとキタなつみは市丸をクルッと方向転換させて、背中を押して退室していった。
次の部屋。
「あたしさー、やっぱりなつみと3人部屋が良いんだけど」
「あかんわ。なつみちゃんはボクと一緒。大体なぁ、キミら1番もらったんやから、自分たちのおうち建ててもらったらええやん。なんでわざわざこん中に住むん。贅沢しぃ!」
「じゃぁ、あたしとスタークとなつみが3人で暮らす家建ててもらう❗️」
「ボクをいちいち蚊帳の外に出すんやめてや。なつみちゃんと一緒に寝るのはボクや!」
「彼氏でもないくせに」
「お兄ちゃんや‼︎」
「マジ兄妹なの⁉︎」
「ちゃう!😤」
マジではない。
「だったらあたしらと変わんないじゃん。偉そうにすんな❗️」
リリネットと市丸の言い合いを、なつみとスタークは黙って見ていた。そして、こっそり感想を話す。
「リリネットちゃん、かわいい😊」
「お前も似たようなもんだ」
「っ…///」
「俺はここでも良いぜ」
「そ、そう…?」
「なつみは?」
「ぼくも良いと思うけど、お隣も見てから決めるよ」
見た目の感じから、本当ならなつみはスタークに敬語で話しそうなのだが、仲間であり、お友だちという関係を築きたいため、たどたどしくタメ口を聞いている。照れながら。
「ねぇ、リリネットちゃん。スタークさんがここにしたいって。リリネットちゃんは?気に入った?」
「んー、別に良いんじゃない?」
口喧嘩をやめ、クッションでペシペシ叩きあっているふたりに問いかける。
「隊長はいかがですか?」
「この子らがええ言うなら、別のとこ見に行こか」
「はい。お隣も空いているので、見てきましょう」
こうして2組は隣同士の部屋に住むことにした。
「まぁ、100歩譲ってだけどね」
「ふふっ、リリネットちゃん、ぼくのとこでお泊まり会しても良いよ」
「ヤダよ❗️コイツいんじゃん❗️なつみがこっち来て」
「アカン言うの。そん人おるんやもん。連れてこうとしても無駄やで。鍵かけたるから」
「なつみが内から開けられるから、意味ねぇだろ、その脅し」
「何やて⁉︎あんたが寝とる間にヒゲ剃り落としたろか!」
それも効果が期待できない脅しである。
「ふふふっ🤭」