第九章
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目覚まし時計のアラームが鳴る。
「ん〜…😪」
起き上がり、伸びをして、静かな部屋で束の間、ぼーっとする。
ズシーンズシーン…
「んー?😑」
遠くの方で、何やら物音が響いてきたような。
ぐるるるる…
しかし、とても身近なおなかの音が急かしてきたため、身支度をして、朝食を取りに行くことにした。
会議室は素通りし、キッチンへと入る。
「おはよー🥱」
「おはよう、なつみ」
ザエルアポロがコーヒーを淹れていた。
「飲む?」
「ありがとう。でもいいよ。お茶にする。今日はお味噌汁の気分なんだよね」
冷蔵庫から野菜を取り出す。冷凍したエノキも忘れず。
「なつみは、味噌汁でもコーヒーを合わせられるモーニング文化圏出身かと思ってたけど、違うんだ」
さっと水洗いした野菜を切っていくのだが、手が止まった。
「よく知ってるね。でも違うよ。けど、現世任務のとき、1回行ったことあって、モーニング。あれね、お得。『みんなよう食うわ、朝から』って思った。お休みの日なんか良いよね。朝からちょっと贅沢したいときにさ。あれを毎日だと、おなかぽんぽこりんになりそうだで、あんま『また行きたい❗️』とは、ぼくは思わんけど。和食にコーヒーは、食後でお願いしますタイプです」
料理再開。
「そっか」
「うん。ザエルアポロはもうご飯食べた?」
「食べたよ」
「チッ。味噌汁のコーヒーセット食らわせれんやん」
「フフフッ、また今度。ありがとう、気にしてくれて」
ぽんぽんと頭を撫でてきた。
野菜が煮えるまで、お茶でも飲もうかと、冷蔵庫を開ける。
「お茶お茶〜っと」
それっぽい容器にそれっぽい物が入っていたので、疑いもなく取り出して冷蔵庫を閉めたら。
「あ、それ、なつみ汁だよ」
「ブッ‼️⁉️」
耳を疑う。危うくグラスに注ぐところだった。
「何でこんなとこ入れてんだよ‼️‼️しかもこんな増やしたの⁉️そしてネーミングセンスよ‼️」
慌てて容器を冷蔵庫に戻して、隣の同じ形の容器を取った。
「クンクン 👃」
蓋を開けて、匂いを確認。
「うん。それはお茶だよ」
「ちゃんと書いといてよ、じゃねーわ。置いとくな❗️」
「ごめんごめん。いや、みんなが飲みたがるから、お裾分けで」
「やめれ💢」
昨夜、ピアノを弾き終えてから、実は、涙活をさせられていたなつみ。ギリアンたちに与える餌を新たに作ろうと、材料として涙を流させられたのだ。「わぁ〜ん。ドラえもぉん、のび太ぁ😭」映画鑑賞中、涙を拭くことは許されず、ボウルを抱えてただただ滴らせていた。
「普通ね、ポップコーンを抱えて映画は見るもんなの。空っぽて、あーた」
「頬に伝ってできた結晶まで採らせてもらったね」
「そのうち献血とか求めてきそうなノリだわ」
「その手があったか❗️🫰🌟」
「やべぇ助言しちまった😦💧」
「クスッ、大丈夫、しないよ。君の身体に負担をかけないやり方しかしないつもりだから。そうしないと、藍染様に叱られてしまうだろ。そろそろ味噌入れたら?」
「そうね〜」
冷凍ご飯をあたためつつ、味噌汁の味見をし、もう少し待つ。
「ちなみにあれね、増やしたというか、涙を粉末にして、水に溶かしただけなんだよ。塩味があって美味しいんだ」
「じゃあ何でちょっと緑なのよ」
「それがわからないんだ。君の身体は少し変なんだよ、やっぱり」
「変なことしてる人に言われたくないけどな」
その時、新たにひとりこちらにやって来た。
「うぃー」
「うぃー」
「おはよう」
ノイトラだった。彼は喉が渇いているのか、グラスを取り、冷蔵庫へ行き、躊躇無くなつみ汁を注いで飲んだ。
「うぇーぃ」
ご満悦。
「うぉーいッ🫱💥」
「何だ、うるせぇな。勝手に飲んで良いつってたろ。一走りしてきて、喉渇いてんだよ、こっちゃー」
「ぼくの涙はポカリじゃない‼️😣」
「ポロリはしてもね(笑)」
遠めからのツッコミ。
「うまくないぞ、それ‼️💢」
ピーピー
「ご飯あったまったよ」
「わかっとるわい‼️」
お盆の上にぼんぼん用意したものを載せていく。そんななつみの姿を眺め、ポツリと呟かれた。
「はぁーあ。お前喰いたい」
「怖ぇことあっさり言うな‼️💢💦」
身の危険を感じ、すったかとことことこーッ💨とキッチンから逃げ出した。
「あーあ、逃げちゃった」
ザエルアポロのカップには、まだコーヒーが残っている。一方ノイトラはもう飲み干し、グラスを洗った。
「なぁ、アイツに潮吹かせるなら、オレにやらせろよ」
それまで壁にもたれていたが、ザエルアポロはそこから立ち去るようだ。
「朝から下品だよ」
濡れた手を振って乾かす。
「どこが朝だよ」
長机に着いて、ひとり、黙々ともぐもぐと朝食を取るなつみだったが、ザエルアポロも、それに続いてノイトラもこちらにやって来てしまい、緊張感が走る。間に挟まれて座るなつみ。
「むぅっ」
殺伐とした雰囲気の中、なつみは眉間に皺を寄せながら食べ進める。
ザエルアポロはタブレットで何かを読み、ノイトラは、何故か何もしないでただなつみをぼーっと見てくるだけ。
「なに。食べさせないよ」
たくあんをポリポリ噛みながら言う。
「いらねぇよ。飯食ったし」
「もうっ❗️そうじゃないよ❗️さっきのは冗談ってことで良いですね、じゃあ❗️」
「怒んなよ。あー、まさか、オレに喰われるところでも想像してたか?」
「してない😤」
「嘘言うなよ」
顎からすくうように、片手で両方のほっぺをむにゅっとしようと、ノイトラが手を伸ばしたが、さっとなつみに避けられてしまった。
「そうさせないために警戒している。どっちもだ。忘れるな。ぼくは君らの友人であり、死神だ」
視線を逸らさず、お米をぱくり。
「ケッ、かわいくねぇ」
「さすがだね」
これは居心地が悪すぎると、なつみは話題を変えることにする。
「ねぇ、さっきさ、一走りしてきたって言ってたけど、もしかして外の様子見てきたの?」
「あぁ、そうだ」
「どうだった?ギリアンたちここまで来てた?」
「とっとと食って、自分で見に行けよ」
「来てたの‼️」
ノイトラのニヤリ顔はそっちの顔だった。
「お前ぇの味を相当気に入ったんだろうな」
「そう言われると、見に行くの怖いじゃん…」
つい、苦い顔になる。
「撒き餌が上手くできているんだよ。みんなよく走るよね」
ザエルアポロのタブレットには、ギリアンたちの動きと、餌配置の情報が、リアルタイムで映し出されているらしい。
「暇なヤツらが多いからな」
「君も含め」
「うるせぇ。鍛えられるわ、なつみと藍染サマのためになるわで、張り切ってんだよ」
話を聞いて、のんびりしていられないと感じたなつみは、お行儀が悪くなるが、ご飯をかき込んで、味噌汁を流し込んだ。
「ふふんーふんっ(ごちそーさま)👏」
すったかとことことこーッ💨
また小走りでキッチンへ戻っていった。
「歯を磨いてから行きなよー」
なつみの背中に言ってあげた。
「んーっ(うーん)❗️」
外へ出るとすぐにわかる。ズシンズシンと聞こえる、足音や石材が置かれる音。
「すごい、すごい❗️」
斬魄刀を抜いて、サーッと舞い上がる。上から見下ろすと、境界線の外側に畝のように岩が積まれ、百を優に超えるだろうか、ギリアンがあちこちから岩を抱えて集まってきてくれていた。
「すぅーげぇえ❗️」
嬉しくて、思わず、気持ちが弾けて霊圧が上がってしまった。くるーーーっと回ってから、叫ぶ。
「すげぇーーーッ‼️‼️」
報酬の餌の中に混ざっていた格別美味しい匂いが、街の中心から漂ってきたのを察知したのか、ギリアンたちは足を止め、破面たちの指示を無視してそちらを見た。
「ん❓…あ💧」
なつみもその一旦停止に気付き、慌てて虚夜宮屋上に降りた。
「やばぁ💦」
欄干に隠れる。
「あわぁッ、戻ってた子たちがこっち帰ってくるじゃん❗うぎゃあッ、境界線超えちゃダメだよ💦」
しゃがみ込んで、手すりの間からふるふるしながら様子を眺めた。
「なんかワタワタしてる。ごめぇーん😖💦」
「本当だよ。順調にいっているのに」
ザエルアポロが小型のヘッドセットをして、隣にやって来た。
「悪いね。なつみが嬉しくなって、飛び跳ねてしまったんだ。ここで大人しくさせておくから、なんとかギリアンたちを落ち着かせて、作業を再開してくれ」
「すいませぇーん😣」
ギリアンたちはなつみ汁ミストで注意を逸らされ、境界線外での活動を再開した。
「ふー。どんだけぼくおいしいんだよ😓」
「最後の晩餐にしても良いくらいだよ」
「んなアホなっ」
立ち上がる。
「でも、こんなにがんばってくれてるから、じっとなんかしてられないよ。手伝いたい❗️」
「なら、応援でもしてあげたら?霊圧は迷惑だけど、声援なら力になるんじゃないかな」
「ほぉ❗️」なるほどと思ったが。「要は、余計なことすんなって言いたいの😒」
「気持ちは受け取ってあげるってこと」
「言いようだなぁ。…まぁいいや。せっかくピアノがあることだし、作業用BGMをお贈りしてあげるよ。単純作業やるときって、音楽欲しくない?ぼくは欲しいよ」
なつみがそう言うものだから、てっきりザエルアポロは室内に戻るかと思ったのだが、なつみは何故かその場から離れず、ただ斬魄刀を構えた。
「叶え、夢現天道子。ここまでひとりで、上がってこれるかな?無理そうなら大丈夫だよ。ムッちゃん、お迎えに行ってあげて」待つ。「ありがとう」
ザエルアポロには何がなんだかわからなかった。霊圧の高まりと、見えないものとのやり取りがあったらしい。
「そういえば聞いてなかったけど、なつみの斬魄刀の能力って何?」
その質問に、なつみは笑って振り向いて答えた。
「ムッちゃんは、なんでもできるんだよっ😄」
それからタンタンッと走り、屋上の中央へ行った。
腕を大きく広げて深呼吸をする。その間に選曲した。
「よし❗️お仕事応援ソングといえば、あれだな❗️」
鋒を下に付け、立てた柄頭に手を置いて、鼻から息を吸い、お腹に溜めた。
さあ がんばろうぜ!
負けるなよ そうさ オマエの輝きはいつだってオレの宝物
エレファントカシマシの『俺たちの明日』だ。
でっかく生きようぜ!
オマエは今日もどこかで不器用に
この日々ときっと戦っていることだろう
さあ がんばろうぜ!
輝き求め暮らしてきたそんな想いが いつだってオレたちの宝物
さあ でかけようぜ!
いつもの景色 この空の下
いつかどでかい どでかい虹をかけようよ
さあ がんばろうぜ!
負けるなよ そうさ オマエがいつかくれた優しさが今でも宝物
でっかく生きようぜ! 誓った遠いあの空
忘れないぜ そうさ 今も同じ星を見ている
のびのび歌っていると、階下へ続く扉がひとりでに開き、大きな四角が小さな四角をお供にして、横向きに現れた。
「来た〜。良いタイミング。おいでおいで〜」
手招きするなつみに向かって、ピアノはキャスターでシャーッと走り、椅子は犬のように駆け、ザエルアポロの前を通り過ぎていった。
「……」
そんな人ではないので、口をぽっかり開けてしまうなんてことは無かったが、ザエルアポロは内心密かにギョッとしていた。
「いい子いい子」
到着したピアノと椅子を撫でてあげる。
「どこもぶつからなかった?」
ド♪で返事。
「よしよーし」
以前藍染から聞いたのも、「なつみは何でもできる」だった。しかし、藍染もその限界を把握しておらず、観察を楽しめと言われていた。ザエルアポロはこれまで見てきて、なつみの能力が、単に物を自在に動かせるだけかと思っていたが、これはもう違う。ピアノという器に命を吹き込んでいる。そしてそれを従わせている。もしくは、物に元から宿っている心を最大限に引き出しているのか?彼は疑問に思えて仕方がない。斬魄刀という武器は敵を殺めるために存在するのに、なつみの夢現天道子はまるで、周囲にあるもの全部と仲良くなるために使われているようだ。だがひょっとすると、使い方によっては、というところなのだろうか。なつみだから得られた能力でありながら、戦闘での使用が考えられていない。あののほほんとした雰囲気からわかる。藍染がそばに置きたがるのは、その可能性を見込んでのことだろうか、となんやかんや考えを巡らせていると話しかけられた。
「ザエルアポロ❗️リクエストある❓」
「え、あ、ううん、お好きにどうぞ🙂」
「そう」
オーディエンスの様子を見て選曲しようと、再び欄干の方へ向かった。
「ムッちゃん」
呼びかけるとなつみは斬魄刀を浮かせ、隣に飛ばしている。鼻歌を歌うように、歩きながら体の横で指を動かすと、それと連動して鍵盤が押される。即興だろうか、覚えのないメロディーが流れてくる。
「お仕事の曲か〜、ふーん。どんなんがあったかなー」
ぽけーっと眺めていると、パッと姿を消した。
「なつみ⁉︎」
ザエルアポロは欄干から前のめりで視線を走らせた。真下にはいない。前方に広がる視界に異変はあるか。
「…、あそこか‼︎」
「うにゃーッ‼️‼️‼️」
なつみは見てしまったのだ。1体のギリアンが躓いて、転びそうになったのを。
「おいしょーッ」
瞬間移動で駆けつけてあげた。
バランスを崩して倒れてくるギリアンの正面下から、スーパーパワーで支えてあげる。
「パワァァーッ‼️」
木之本きんに君はマントを翻しながら、飛んでゆく!
「うにゃーッ‼️‼️‼️」
支えてもらっているギリアンも、倒れてなるものかと、自ら右脚をしっかり出して踏み込んでくれている。グググッ!
「がんばろぉーぜえッ❗️」
周りが見守る中、徐々に斜めの身体が起き上がってきた。
「なつみーッ‼︎‼︎」
ザエルアポロの声援が飛ぶ!
「うぉーッ‼️‼️‼️」
その応援を力に変えるなつみ!
「放っておけ、そんな奴‼︎‼︎早く戻れ‼︎‼︎」
なんと、応援ではなかったが関係ない。ハナから聞こえちゃいないから!
なつみが近くに来た。美味しい匂いの塊が近くに来たということで、岩を降ろして、ギリアンたちがわらわらとこちらへ歩いてこようとする。
「待て!そっちに行くな!」
「暴走させるな!なつみを守れ‼︎」
破面らが地上で指示を飛ばし合い、この混乱を止めようと動き回るも、働き手であるギリアンを傷つけるわけにもいかず、攻撃による足止めができなかった。躓いたギリアンとなつみの方へ集まり出してしまう。
「あのバカ、そんなに喰われてぇのか」
不運なノイトラはその騒動と反対側にいたため、そのとき出せる全速力で駆けたつもりでも、なかなか辿り着けないでいた。
渦中のなつみは起こしてあげたい一心で、目をぎゅっとつむって力んでおり、周りの動きに気付かなかった。運んできた岩はかなり重い。できれば手伝ってもらいたい。向かい合うギリアンも同じ思いだろう。
(ヤバーい❗️助けて助けて助けて助けてぇーッ❗️💦)
虚夜宮で大人しくするという約束は何だったのか。なつみはかまわず霊圧を上げ、存在を知らしめ、更に、助けを求めさえした。転んで怪我をして欲しくないから、立ち上がって欲しい。相手からは、「どうしてもこれを運びたい」という気持ちが伝わってくる。想いが同調し、支え合っているも、もう少し足りない。もう少し。
すると、不意にフッと軽くなった。
「ありゃ?」
なつみが目を開くと、彼女の後方から黒い腕が2本伸びており、岩をすくい上げてくれているのを見た。
「わぁ✨」
なつみを食べにきたと思われていたギリアンの1体が、助けてくれたのだ。
ドォーンッ…
そして、岩を横に投げ飛ばしてくれた。
「あ‼️💦」
せっかくの塊が、いくつかの破片に砕けてしまった。
「あーあ😟」
助太刀してくれたギリアンは、元来た方角へ戻っていってしまう。一応、お礼は言っておかなければ。
「助けに来てくれて、ありがとー❗️」
当然のように反応の無い背中に、なつみのありがとうが響く。
「君は?痛いとこない?」
振り返り、立ち直ったギリアンを見たら、落とされた岩の方へ方向転換し、拾い上げようとした。
「んー、あんまり無理しないで。たぶんあの子、君にはこれが重すぎるって思って砕いたんだと思うよ。ちょっと減らしてった方が良いんだよ」
残念そうだが、なつみの言う通りにするギリアン。
「それでも充分たくさんだよ。ありがとう。ご苦労様😊」
見間違いだろうか、ギリアンが会釈したように見えた。
「さぁーて、じゃあぼくは、この残りを運んであげよーじゃありませんか」
にっこり笑って、よいしょと大きめの欠片を抱えた。
「重たっ😁」
キツいが、みんなの仕事の手伝いができて、嬉しくなってくる。やはり現場の仕事が良い。
「あ、そうだ❗️この曲がいいよ」
閃いたようだ。
『彩り』Mr.Children
なんてことのない作業が この世界を回り回って
何処の誰かも知らない人の笑い声を作ってゆく
そんな些細な生き甲斐が 日常に彩りを加える
モノクロの僕の毎日に増やしていく 水色 オレンジ
なんてことのない作業が 回り回り回り回って
今 僕の目の前の人の笑い顔を作ってゆく
そんな確かな生き甲斐が 日常に彩りを加える
モノクロの僕の毎日に 頬が染まる 温かなピンク
増やしていく きれいな彩り
アカペラで歌いながら、よたよた不安な足取りでもなんとか歩いていく。ギリアンたちはというと、心なしか歌に合わせて揺れているようにも感じられた。
と、少し行ったところで、突然なつみは抱きすくめられ、動けなくなった。
「バカ野郎。こんなとこほっつき歩くな。踏み潰されるぞ」
「ノイトラ」
彼の腕の中で顔を見上げたその背景に、ギリアンの大股がグアーッと過ぎ去って行くのが見え、ちょっと向こうで巨大な足が着地した。
「はわわ💦」
「そんなもん置いて、中に戻れ」
明らかに息が切れている。
「た、確かに危ないね。でも、これだけは運ばせてよ。途中で投げ出したりしたくないもん。気をつけて行くから」
なつみは岩を抱えたまま、ノイトラに身体をかわいく擦り寄せた。
「心配してくれて、ありがとう」
ノイトラは回復していた。今の一瞬で回道を施したのだ。
「お、おう…///」
小さななつみはアリになった気分で、上空を気にしながらも置き場にたどり着いた。
「どっこいせー」
置くと、近くにいた破面の1人が近寄ってきた。
「ザエルアポロ様からです」
「はーい」
ヘッドセットが差し出された。
「もしもーし」
「早く戻ってきて。食べられないとわかっても、そこが危ないことに変わりないから」
ちょっと怒った声だ。
「わかってるよ。今から戻る。ピアノ置きっぱだしね」
通話を終え、ヘッドセットを返した。そして、瞬間移動で屋上に帰る。
「ただいまー😄」
「急に出ていかないでよ。みんな混乱してしまうじゃないか。反省して」
「はーい。」
お説教されてしまった。
「君はここからみんなを鼓舞してあげればいいの。わざわざ降りることないからね。適材適所って言葉わかる?」
「はい、はい」
「返事は1回」
「はぁーい」
なつみはもう選曲していた。みんながその「私」になってもらえるように歌うのだ。ピアノの前に着き、心を整えてから始めた。
『私は最強』Ado
さぁ、怖くはない
不安はない
私の夢は みんなの願い
歌唄えば ココロ晴れる
大丈夫よ 私は最強
私の声が小鳥を空へ運ぶ
靡いた服も踊り子みたいでさ
あなたの声が
私を奮い立たせる
トゲが刺さってしまったなら ほらほらおいで
見たことない 新しい景色
絶対に観れるの
なぜならば
生きてるんだ今日も
さぁ、握る手と手
ヒカリの方へ
みんなの夢は 私の幸せ
あぁ、きっとどこにもない アナタしか持ってない
その温もりで 私は最強
回り道でも
私が歩けば正解
わかっているけど
引くに引けなくてさ
無理はちょっとしてでも
花に水はあげたいわ
そうやっぱ したいことしなきゃ
腐るでしょ? 期待には応えるの
いつか来るだろう 素晴らしい時代
今はただ待ってる 誰かをね
繰り返してる 傷ましい苦味
火を灯す準備は出来てるの?
いざ行かん 最高峰
さぁ、怖くはない?
不安はない?
私の思いは 皆んなには重い?
歌唄えば 霧も晴れる
見事なまでに 私は最恐
さぁ、握る手と手
ヒカリの方へ
みんなの夢は 私の願い
きっとどこにもない アナタしか持ってない
その弱さが 照らすの
最愛の日々
忘れぬ誓い
いつかの夢が 私の心臓
何度でも 何度でも 言うわ
「私は最強」
「アナタと最強」
力強く歌っていたら、光に包まれた。全方向から光が飛んできている。
「うぅ、何…?」
眩しくて目が閉じてしまう。曲も止まる。なのに熱気が、止まない。
「反膜の光だ!凄いよ。集まってるギリアン全員が、君を好きだと言っているんだ!もう食べられる心配はいらないよ!君は仲間と認められたんだ!」
なつみは困っていたひとりを助けた。なつみは破面たちがやっている命令する側ではなく、ギリアンたちがやっている労働を自ら選んで参加してくれた。なつみは罵声ではなく、たくさんの心のこもった応援を贈ってくれた。他の誰とも違って見える。この子を好きにならずにいられるものか。
「僕も、君を選ぶよ」
ザエルアポロも手をかざして反膜の光を放った。
「はわわわぁ✨」
夜が続くこの虚圏で、初めてこれほどの光を浴びた。明るくて、あたたかくて、優しく寄り添ってくるような。ギリアン、破面、このプロジェクトに賛同する全ての虚が思いやりをなつみに向ける。言葉には言い表せない気持ちを光に乗せて。なつみには、声が聞こえるように、誰の光が届いているのか、わかる気がした。
「リリネットちゃんも…😌」
なつみの身体は浮かんでいった。
「そーだ‼️」
グーとパーで手を打ち、何やら閃いたご様子。
「ムッちゃん、後でちゃんと治してあげるから、ちょっと身体ちょうだい」
「何を言っている🐥」
「パキッて、刀のどっか割って、その破片が欲しいの」
「何を企んでいるのやら」
斬魄刀が鞘から抜かれ、パキンと小さく割れた。
「ありがとう。それちょっと持ってて」
なつみはマントを外して四隅を両手で持った。
「みんな❗️そのまま光らせといてねー❗️」
マントを頭の上に構えると、光が風のように吹き上がり、それを受けたマントは膨らんで、パラシュートになった。
「ィヤッフーッ‼️😆」
上昇気流に乗ったなつみは、光を集めてぐんぐん飛ぶ。
「よっしゃー❗️うまくいってるよ❗️ムッちゃん、こん中にその欠片投げて❗️」
「わかった」
ムッちゃんは下から、広がるマントの中に向けて、斬魄刀の欠片を投げた。シュッ。キラリと反射した欠片が流れ星のように過ぎた。
「ゲッチュ。こっから、ぐるぐるタイムじゃけー❗️」
♩♩
会いたくて 会いたくて 星の数の夜を越えて
いつまでも いつまでも 君はきっと僕のヒカリ
ROCK'A'TRENCHの『My Sunshine』を口ずさみながら、コンサートでタオルを振り回すが如く、反膜の光が詰まったマントをこれでもかとグルグル回した。
会いたくて 会いたくて 見つけたんだ僕の太陽
まぶしすぎる君の横顔
♪〜
ABC 見えない未来も
Can’t you see? 選びたいよ
君となら行けるどこまでも
ABC 君への想いを
Can’t you see? 守りたいよ
まぶしすぎる君の横顔
巡る会えた僕の太陽
手を下ろして、パサッとマントの中を広げて見る。
「へ、へぃ、へ〜い♪」
狙い通りらしい。
「ふ〜ッ♪」
今度はプーさんが風船に掴まって降りてくるように、ふわふわ下がってきた。
「みんなありがとー❗️気持ちいーっぱい、受け取ったよ〜❗️😆」
ザエルアポロが差し出す腕に、ふんわり収まる。
「何してきたの?」
「見てみてー。すごいのできちゃった」
支えられながら、慎重に脚を地面につけた。それから、光の漏れるマントを、ザエルアポロの前に広げてあげた。
「わぁ」
彼の目が輝き、なつみもにっこり。
「太陽の赤ちゃんだよ。ぼくの斬魄刀の欠片を核にして、みんなの光を纏わせたんだ。反膜の光っていうの?とっても明るくてあったかかったから、もしかしたらと思ったんだ。うまくいったみたい。ドームが完成する直前に、今度はもっと大きな規模で作ってみようよ。ね❗️😆」
ザエルアポロの視線が、小さな星からなつみへと向けられる。
「いや、それも良いけど、これを僕らで大切に育てていこうよ。せっかく作ったんだから」
「でも、すぐ消えちゃうんじゃない?」
微笑みながら、首を横に振る。
「させないよ。良い?0から1を生み出すことはすごく大変だけど、1から100や1000にするのは、1を2にするように簡単だったりするんだ。何があるかわからないから、もったいないことは極力避けないとね」
ぷにぷにのほっぺを手で包んであげる。
「みんなを照らす、立派な太陽にしてあげよう」
上の話を聞いて思う。
「ふーん。つまり、ザエルアポロは太陽の作り方、思いつかなかったってことか。全く、ぼくがいないとダメなんだからー😙」
「…ほんとだよ」
「ん〜…😪」
起き上がり、伸びをして、静かな部屋で束の間、ぼーっとする。
ズシーンズシーン…
「んー?😑」
遠くの方で、何やら物音が響いてきたような。
ぐるるるる…
しかし、とても身近なおなかの音が急かしてきたため、身支度をして、朝食を取りに行くことにした。
会議室は素通りし、キッチンへと入る。
「おはよー🥱」
「おはよう、なつみ」
ザエルアポロがコーヒーを淹れていた。
「飲む?」
「ありがとう。でもいいよ。お茶にする。今日はお味噌汁の気分なんだよね」
冷蔵庫から野菜を取り出す。冷凍したエノキも忘れず。
「なつみは、味噌汁でもコーヒーを合わせられるモーニング文化圏出身かと思ってたけど、違うんだ」
さっと水洗いした野菜を切っていくのだが、手が止まった。
「よく知ってるね。でも違うよ。けど、現世任務のとき、1回行ったことあって、モーニング。あれね、お得。『みんなよう食うわ、朝から』って思った。お休みの日なんか良いよね。朝からちょっと贅沢したいときにさ。あれを毎日だと、おなかぽんぽこりんになりそうだで、あんま『また行きたい❗️』とは、ぼくは思わんけど。和食にコーヒーは、食後でお願いしますタイプです」
料理再開。
「そっか」
「うん。ザエルアポロはもうご飯食べた?」
「食べたよ」
「チッ。味噌汁のコーヒーセット食らわせれんやん」
「フフフッ、また今度。ありがとう、気にしてくれて」
ぽんぽんと頭を撫でてきた。
野菜が煮えるまで、お茶でも飲もうかと、冷蔵庫を開ける。
「お茶お茶〜っと」
それっぽい容器にそれっぽい物が入っていたので、疑いもなく取り出して冷蔵庫を閉めたら。
「あ、それ、なつみ汁だよ」
「ブッ‼️⁉️」
耳を疑う。危うくグラスに注ぐところだった。
「何でこんなとこ入れてんだよ‼️‼️しかもこんな増やしたの⁉️そしてネーミングセンスよ‼️」
慌てて容器を冷蔵庫に戻して、隣の同じ形の容器を取った。
「クンクン 👃」
蓋を開けて、匂いを確認。
「うん。それはお茶だよ」
「ちゃんと書いといてよ、じゃねーわ。置いとくな❗️」
「ごめんごめん。いや、みんなが飲みたがるから、お裾分けで」
「やめれ💢」
昨夜、ピアノを弾き終えてから、実は、涙活をさせられていたなつみ。ギリアンたちに与える餌を新たに作ろうと、材料として涙を流させられたのだ。「わぁ〜ん。ドラえもぉん、のび太ぁ😭」映画鑑賞中、涙を拭くことは許されず、ボウルを抱えてただただ滴らせていた。
「普通ね、ポップコーンを抱えて映画は見るもんなの。空っぽて、あーた」
「頬に伝ってできた結晶まで採らせてもらったね」
「そのうち献血とか求めてきそうなノリだわ」
「その手があったか❗️🫰🌟」
「やべぇ助言しちまった😦💧」
「クスッ、大丈夫、しないよ。君の身体に負担をかけないやり方しかしないつもりだから。そうしないと、藍染様に叱られてしまうだろ。そろそろ味噌入れたら?」
「そうね〜」
冷凍ご飯をあたためつつ、味噌汁の味見をし、もう少し待つ。
「ちなみにあれね、増やしたというか、涙を粉末にして、水に溶かしただけなんだよ。塩味があって美味しいんだ」
「じゃあ何でちょっと緑なのよ」
「それがわからないんだ。君の身体は少し変なんだよ、やっぱり」
「変なことしてる人に言われたくないけどな」
その時、新たにひとりこちらにやって来た。
「うぃー」
「うぃー」
「おはよう」
ノイトラだった。彼は喉が渇いているのか、グラスを取り、冷蔵庫へ行き、躊躇無くなつみ汁を注いで飲んだ。
「うぇーぃ」
ご満悦。
「うぉーいッ🫱💥」
「何だ、うるせぇな。勝手に飲んで良いつってたろ。一走りしてきて、喉渇いてんだよ、こっちゃー」
「ぼくの涙はポカリじゃない‼️😣」
「ポロリはしてもね(笑)」
遠めからのツッコミ。
「うまくないぞ、それ‼️💢」
ピーピー
「ご飯あったまったよ」
「わかっとるわい‼️」
お盆の上にぼんぼん用意したものを載せていく。そんななつみの姿を眺め、ポツリと呟かれた。
「はぁーあ。お前喰いたい」
「怖ぇことあっさり言うな‼️💢💦」
身の危険を感じ、すったかとことことこーッ💨とキッチンから逃げ出した。
「あーあ、逃げちゃった」
ザエルアポロのカップには、まだコーヒーが残っている。一方ノイトラはもう飲み干し、グラスを洗った。
「なぁ、アイツに潮吹かせるなら、オレにやらせろよ」
それまで壁にもたれていたが、ザエルアポロはそこから立ち去るようだ。
「朝から下品だよ」
濡れた手を振って乾かす。
「どこが朝だよ」
長机に着いて、ひとり、黙々ともぐもぐと朝食を取るなつみだったが、ザエルアポロも、それに続いてノイトラもこちらにやって来てしまい、緊張感が走る。間に挟まれて座るなつみ。
「むぅっ」
殺伐とした雰囲気の中、なつみは眉間に皺を寄せながら食べ進める。
ザエルアポロはタブレットで何かを読み、ノイトラは、何故か何もしないでただなつみをぼーっと見てくるだけ。
「なに。食べさせないよ」
たくあんをポリポリ噛みながら言う。
「いらねぇよ。飯食ったし」
「もうっ❗️そうじゃないよ❗️さっきのは冗談ってことで良いですね、じゃあ❗️」
「怒んなよ。あー、まさか、オレに喰われるところでも想像してたか?」
「してない😤」
「嘘言うなよ」
顎からすくうように、片手で両方のほっぺをむにゅっとしようと、ノイトラが手を伸ばしたが、さっとなつみに避けられてしまった。
「そうさせないために警戒している。どっちもだ。忘れるな。ぼくは君らの友人であり、死神だ」
視線を逸らさず、お米をぱくり。
「ケッ、かわいくねぇ」
「さすがだね」
これは居心地が悪すぎると、なつみは話題を変えることにする。
「ねぇ、さっきさ、一走りしてきたって言ってたけど、もしかして外の様子見てきたの?」
「あぁ、そうだ」
「どうだった?ギリアンたちここまで来てた?」
「とっとと食って、自分で見に行けよ」
「来てたの‼️」
ノイトラのニヤリ顔はそっちの顔だった。
「お前ぇの味を相当気に入ったんだろうな」
「そう言われると、見に行くの怖いじゃん…」
つい、苦い顔になる。
「撒き餌が上手くできているんだよ。みんなよく走るよね」
ザエルアポロのタブレットには、ギリアンたちの動きと、餌配置の情報が、リアルタイムで映し出されているらしい。
「暇なヤツらが多いからな」
「君も含め」
「うるせぇ。鍛えられるわ、なつみと藍染サマのためになるわで、張り切ってんだよ」
話を聞いて、のんびりしていられないと感じたなつみは、お行儀が悪くなるが、ご飯をかき込んで、味噌汁を流し込んだ。
「ふふんーふんっ(ごちそーさま)👏」
すったかとことことこーッ💨
また小走りでキッチンへ戻っていった。
「歯を磨いてから行きなよー」
なつみの背中に言ってあげた。
「んーっ(うーん)❗️」
外へ出るとすぐにわかる。ズシンズシンと聞こえる、足音や石材が置かれる音。
「すごい、すごい❗️」
斬魄刀を抜いて、サーッと舞い上がる。上から見下ろすと、境界線の外側に畝のように岩が積まれ、百を優に超えるだろうか、ギリアンがあちこちから岩を抱えて集まってきてくれていた。
「すぅーげぇえ❗️」
嬉しくて、思わず、気持ちが弾けて霊圧が上がってしまった。くるーーーっと回ってから、叫ぶ。
「すげぇーーーッ‼️‼️」
報酬の餌の中に混ざっていた格別美味しい匂いが、街の中心から漂ってきたのを察知したのか、ギリアンたちは足を止め、破面たちの指示を無視してそちらを見た。
「ん❓…あ💧」
なつみもその一旦停止に気付き、慌てて虚夜宮屋上に降りた。
「やばぁ💦」
欄干に隠れる。
「あわぁッ、戻ってた子たちがこっち帰ってくるじゃん❗うぎゃあッ、境界線超えちゃダメだよ💦」
しゃがみ込んで、手すりの間からふるふるしながら様子を眺めた。
「なんかワタワタしてる。ごめぇーん😖💦」
「本当だよ。順調にいっているのに」
ザエルアポロが小型のヘッドセットをして、隣にやって来た。
「悪いね。なつみが嬉しくなって、飛び跳ねてしまったんだ。ここで大人しくさせておくから、なんとかギリアンたちを落ち着かせて、作業を再開してくれ」
「すいませぇーん😣」
ギリアンたちはなつみ汁ミストで注意を逸らされ、境界線外での活動を再開した。
「ふー。どんだけぼくおいしいんだよ😓」
「最後の晩餐にしても良いくらいだよ」
「んなアホなっ」
立ち上がる。
「でも、こんなにがんばってくれてるから、じっとなんかしてられないよ。手伝いたい❗️」
「なら、応援でもしてあげたら?霊圧は迷惑だけど、声援なら力になるんじゃないかな」
「ほぉ❗️」なるほどと思ったが。「要は、余計なことすんなって言いたいの😒」
「気持ちは受け取ってあげるってこと」
「言いようだなぁ。…まぁいいや。せっかくピアノがあることだし、作業用BGMをお贈りしてあげるよ。単純作業やるときって、音楽欲しくない?ぼくは欲しいよ」
なつみがそう言うものだから、てっきりザエルアポロは室内に戻るかと思ったのだが、なつみは何故かその場から離れず、ただ斬魄刀を構えた。
「叶え、夢現天道子。ここまでひとりで、上がってこれるかな?無理そうなら大丈夫だよ。ムッちゃん、お迎えに行ってあげて」待つ。「ありがとう」
ザエルアポロには何がなんだかわからなかった。霊圧の高まりと、見えないものとのやり取りがあったらしい。
「そういえば聞いてなかったけど、なつみの斬魄刀の能力って何?」
その質問に、なつみは笑って振り向いて答えた。
「ムッちゃんは、なんでもできるんだよっ😄」
それからタンタンッと走り、屋上の中央へ行った。
腕を大きく広げて深呼吸をする。その間に選曲した。
「よし❗️お仕事応援ソングといえば、あれだな❗️」
鋒を下に付け、立てた柄頭に手を置いて、鼻から息を吸い、お腹に溜めた。
さあ がんばろうぜ!
負けるなよ そうさ オマエの輝きはいつだってオレの宝物
エレファントカシマシの『俺たちの明日』だ。
でっかく生きようぜ!
オマエは今日もどこかで不器用に
この日々ときっと戦っていることだろう
さあ がんばろうぜ!
輝き求め暮らしてきたそんな想いが いつだってオレたちの宝物
さあ でかけようぜ!
いつもの景色 この空の下
いつかどでかい どでかい虹をかけようよ
さあ がんばろうぜ!
負けるなよ そうさ オマエがいつかくれた優しさが今でも宝物
でっかく生きようぜ! 誓った遠いあの空
忘れないぜ そうさ 今も同じ星を見ている
のびのび歌っていると、階下へ続く扉がひとりでに開き、大きな四角が小さな四角をお供にして、横向きに現れた。
「来た〜。良いタイミング。おいでおいで〜」
手招きするなつみに向かって、ピアノはキャスターでシャーッと走り、椅子は犬のように駆け、ザエルアポロの前を通り過ぎていった。
「……」
そんな人ではないので、口をぽっかり開けてしまうなんてことは無かったが、ザエルアポロは内心密かにギョッとしていた。
「いい子いい子」
到着したピアノと椅子を撫でてあげる。
「どこもぶつからなかった?」
ド♪で返事。
「よしよーし」
以前藍染から聞いたのも、「なつみは何でもできる」だった。しかし、藍染もその限界を把握しておらず、観察を楽しめと言われていた。ザエルアポロはこれまで見てきて、なつみの能力が、単に物を自在に動かせるだけかと思っていたが、これはもう違う。ピアノという器に命を吹き込んでいる。そしてそれを従わせている。もしくは、物に元から宿っている心を最大限に引き出しているのか?彼は疑問に思えて仕方がない。斬魄刀という武器は敵を殺めるために存在するのに、なつみの夢現天道子はまるで、周囲にあるもの全部と仲良くなるために使われているようだ。だがひょっとすると、使い方によっては、というところなのだろうか。なつみだから得られた能力でありながら、戦闘での使用が考えられていない。あののほほんとした雰囲気からわかる。藍染がそばに置きたがるのは、その可能性を見込んでのことだろうか、となんやかんや考えを巡らせていると話しかけられた。
「ザエルアポロ❗️リクエストある❓」
「え、あ、ううん、お好きにどうぞ🙂」
「そう」
オーディエンスの様子を見て選曲しようと、再び欄干の方へ向かった。
「ムッちゃん」
呼びかけるとなつみは斬魄刀を浮かせ、隣に飛ばしている。鼻歌を歌うように、歩きながら体の横で指を動かすと、それと連動して鍵盤が押される。即興だろうか、覚えのないメロディーが流れてくる。
「お仕事の曲か〜、ふーん。どんなんがあったかなー」
ぽけーっと眺めていると、パッと姿を消した。
「なつみ⁉︎」
ザエルアポロは欄干から前のめりで視線を走らせた。真下にはいない。前方に広がる視界に異変はあるか。
「…、あそこか‼︎」
「うにゃーッ‼️‼️‼️」
なつみは見てしまったのだ。1体のギリアンが躓いて、転びそうになったのを。
「おいしょーッ」
瞬間移動で駆けつけてあげた。
バランスを崩して倒れてくるギリアンの正面下から、スーパーパワーで支えてあげる。
「パワァァーッ‼️」
木之本きんに君はマントを翻しながら、飛んでゆく!
「うにゃーッ‼️‼️‼️」
支えてもらっているギリアンも、倒れてなるものかと、自ら右脚をしっかり出して踏み込んでくれている。グググッ!
「がんばろぉーぜえッ❗️」
周りが見守る中、徐々に斜めの身体が起き上がってきた。
「なつみーッ‼︎‼︎」
ザエルアポロの声援が飛ぶ!
「うぉーッ‼️‼️‼️」
その応援を力に変えるなつみ!
「放っておけ、そんな奴‼︎‼︎早く戻れ‼︎‼︎」
なんと、応援ではなかったが関係ない。ハナから聞こえちゃいないから!
なつみが近くに来た。美味しい匂いの塊が近くに来たということで、岩を降ろして、ギリアンたちがわらわらとこちらへ歩いてこようとする。
「待て!そっちに行くな!」
「暴走させるな!なつみを守れ‼︎」
破面らが地上で指示を飛ばし合い、この混乱を止めようと動き回るも、働き手であるギリアンを傷つけるわけにもいかず、攻撃による足止めができなかった。躓いたギリアンとなつみの方へ集まり出してしまう。
「あのバカ、そんなに喰われてぇのか」
不運なノイトラはその騒動と反対側にいたため、そのとき出せる全速力で駆けたつもりでも、なかなか辿り着けないでいた。
渦中のなつみは起こしてあげたい一心で、目をぎゅっとつむって力んでおり、周りの動きに気付かなかった。運んできた岩はかなり重い。できれば手伝ってもらいたい。向かい合うギリアンも同じ思いだろう。
(ヤバーい❗️助けて助けて助けて助けてぇーッ❗️💦)
虚夜宮で大人しくするという約束は何だったのか。なつみはかまわず霊圧を上げ、存在を知らしめ、更に、助けを求めさえした。転んで怪我をして欲しくないから、立ち上がって欲しい。相手からは、「どうしてもこれを運びたい」という気持ちが伝わってくる。想いが同調し、支え合っているも、もう少し足りない。もう少し。
すると、不意にフッと軽くなった。
「ありゃ?」
なつみが目を開くと、彼女の後方から黒い腕が2本伸びており、岩をすくい上げてくれているのを見た。
「わぁ✨」
なつみを食べにきたと思われていたギリアンの1体が、助けてくれたのだ。
ドォーンッ…
そして、岩を横に投げ飛ばしてくれた。
「あ‼️💦」
せっかくの塊が、いくつかの破片に砕けてしまった。
「あーあ😟」
助太刀してくれたギリアンは、元来た方角へ戻っていってしまう。一応、お礼は言っておかなければ。
「助けに来てくれて、ありがとー❗️」
当然のように反応の無い背中に、なつみのありがとうが響く。
「君は?痛いとこない?」
振り返り、立ち直ったギリアンを見たら、落とされた岩の方へ方向転換し、拾い上げようとした。
「んー、あんまり無理しないで。たぶんあの子、君にはこれが重すぎるって思って砕いたんだと思うよ。ちょっと減らしてった方が良いんだよ」
残念そうだが、なつみの言う通りにするギリアン。
「それでも充分たくさんだよ。ありがとう。ご苦労様😊」
見間違いだろうか、ギリアンが会釈したように見えた。
「さぁーて、じゃあぼくは、この残りを運んであげよーじゃありませんか」
にっこり笑って、よいしょと大きめの欠片を抱えた。
「重たっ😁」
キツいが、みんなの仕事の手伝いができて、嬉しくなってくる。やはり現場の仕事が良い。
「あ、そうだ❗️この曲がいいよ」
閃いたようだ。
『彩り』Mr.Children
なんてことのない作業が この世界を回り回って
何処の誰かも知らない人の笑い声を作ってゆく
そんな些細な生き甲斐が 日常に彩りを加える
モノクロの僕の毎日に増やしていく 水色 オレンジ
なんてことのない作業が 回り回り回り回って
今 僕の目の前の人の笑い顔を作ってゆく
そんな確かな生き甲斐が 日常に彩りを加える
モノクロの僕の毎日に 頬が染まる 温かなピンク
増やしていく きれいな彩り
アカペラで歌いながら、よたよた不安な足取りでもなんとか歩いていく。ギリアンたちはというと、心なしか歌に合わせて揺れているようにも感じられた。
と、少し行ったところで、突然なつみは抱きすくめられ、動けなくなった。
「バカ野郎。こんなとこほっつき歩くな。踏み潰されるぞ」
「ノイトラ」
彼の腕の中で顔を見上げたその背景に、ギリアンの大股がグアーッと過ぎ去って行くのが見え、ちょっと向こうで巨大な足が着地した。
「はわわ💦」
「そんなもん置いて、中に戻れ」
明らかに息が切れている。
「た、確かに危ないね。でも、これだけは運ばせてよ。途中で投げ出したりしたくないもん。気をつけて行くから」
なつみは岩を抱えたまま、ノイトラに身体をかわいく擦り寄せた。
「心配してくれて、ありがとう」
ノイトラは回復していた。今の一瞬で回道を施したのだ。
「お、おう…///」
小さななつみはアリになった気分で、上空を気にしながらも置き場にたどり着いた。
「どっこいせー」
置くと、近くにいた破面の1人が近寄ってきた。
「ザエルアポロ様からです」
「はーい」
ヘッドセットが差し出された。
「もしもーし」
「早く戻ってきて。食べられないとわかっても、そこが危ないことに変わりないから」
ちょっと怒った声だ。
「わかってるよ。今から戻る。ピアノ置きっぱだしね」
通話を終え、ヘッドセットを返した。そして、瞬間移動で屋上に帰る。
「ただいまー😄」
「急に出ていかないでよ。みんな混乱してしまうじゃないか。反省して」
「はーい。」
お説教されてしまった。
「君はここからみんなを鼓舞してあげればいいの。わざわざ降りることないからね。適材適所って言葉わかる?」
「はい、はい」
「返事は1回」
「はぁーい」
なつみはもう選曲していた。みんながその「私」になってもらえるように歌うのだ。ピアノの前に着き、心を整えてから始めた。
『私は最強』Ado
さぁ、怖くはない
不安はない
私の夢は みんなの願い
歌唄えば ココロ晴れる
大丈夫よ 私は最強
私の声が小鳥を空へ運ぶ
靡いた服も踊り子みたいでさ
あなたの声が
私を奮い立たせる
トゲが刺さってしまったなら ほらほらおいで
見たことない 新しい景色
絶対に観れるの
なぜならば
生きてるんだ今日も
さぁ、握る手と手
ヒカリの方へ
みんなの夢は 私の幸せ
あぁ、きっとどこにもない アナタしか持ってない
その温もりで 私は最強
回り道でも
私が歩けば正解
わかっているけど
引くに引けなくてさ
無理はちょっとしてでも
花に水はあげたいわ
そうやっぱ したいことしなきゃ
腐るでしょ? 期待には応えるの
いつか来るだろう 素晴らしい時代
今はただ待ってる 誰かをね
繰り返してる 傷ましい苦味
火を灯す準備は出来てるの?
いざ行かん 最高峰
さぁ、怖くはない?
不安はない?
私の思いは 皆んなには重い?
歌唄えば 霧も晴れる
見事なまでに 私は最恐
さぁ、握る手と手
ヒカリの方へ
みんなの夢は 私の願い
きっとどこにもない アナタしか持ってない
その弱さが 照らすの
最愛の日々
忘れぬ誓い
いつかの夢が 私の心臓
何度でも 何度でも 言うわ
「私は最強」
「アナタと最強」
力強く歌っていたら、光に包まれた。全方向から光が飛んできている。
「うぅ、何…?」
眩しくて目が閉じてしまう。曲も止まる。なのに熱気が、止まない。
「反膜の光だ!凄いよ。集まってるギリアン全員が、君を好きだと言っているんだ!もう食べられる心配はいらないよ!君は仲間と認められたんだ!」
なつみは困っていたひとりを助けた。なつみは破面たちがやっている命令する側ではなく、ギリアンたちがやっている労働を自ら選んで参加してくれた。なつみは罵声ではなく、たくさんの心のこもった応援を贈ってくれた。他の誰とも違って見える。この子を好きにならずにいられるものか。
「僕も、君を選ぶよ」
ザエルアポロも手をかざして反膜の光を放った。
「はわわわぁ✨」
夜が続くこの虚圏で、初めてこれほどの光を浴びた。明るくて、あたたかくて、優しく寄り添ってくるような。ギリアン、破面、このプロジェクトに賛同する全ての虚が思いやりをなつみに向ける。言葉には言い表せない気持ちを光に乗せて。なつみには、声が聞こえるように、誰の光が届いているのか、わかる気がした。
「リリネットちゃんも…😌」
なつみの身体は浮かんでいった。
「そーだ‼️」
グーとパーで手を打ち、何やら閃いたご様子。
「ムッちゃん、後でちゃんと治してあげるから、ちょっと身体ちょうだい」
「何を言っている🐥」
「パキッて、刀のどっか割って、その破片が欲しいの」
「何を企んでいるのやら」
斬魄刀が鞘から抜かれ、パキンと小さく割れた。
「ありがとう。それちょっと持ってて」
なつみはマントを外して四隅を両手で持った。
「みんな❗️そのまま光らせといてねー❗️」
マントを頭の上に構えると、光が風のように吹き上がり、それを受けたマントは膨らんで、パラシュートになった。
「ィヤッフーッ‼️😆」
上昇気流に乗ったなつみは、光を集めてぐんぐん飛ぶ。
「よっしゃー❗️うまくいってるよ❗️ムッちゃん、こん中にその欠片投げて❗️」
「わかった」
ムッちゃんは下から、広がるマントの中に向けて、斬魄刀の欠片を投げた。シュッ。キラリと反射した欠片が流れ星のように過ぎた。
「ゲッチュ。こっから、ぐるぐるタイムじゃけー❗️」
♩♩
会いたくて 会いたくて 星の数の夜を越えて
いつまでも いつまでも 君はきっと僕のヒカリ
ROCK'A'TRENCHの『My Sunshine』を口ずさみながら、コンサートでタオルを振り回すが如く、反膜の光が詰まったマントをこれでもかとグルグル回した。
会いたくて 会いたくて 見つけたんだ僕の太陽
まぶしすぎる君の横顔
♪〜
ABC 見えない未来も
Can’t you see? 選びたいよ
君となら行けるどこまでも
ABC 君への想いを
Can’t you see? 守りたいよ
まぶしすぎる君の横顔
巡る会えた僕の太陽
手を下ろして、パサッとマントの中を広げて見る。
「へ、へぃ、へ〜い♪」
狙い通りらしい。
「ふ〜ッ♪」
今度はプーさんが風船に掴まって降りてくるように、ふわふわ下がってきた。
「みんなありがとー❗️気持ちいーっぱい、受け取ったよ〜❗️😆」
ザエルアポロが差し出す腕に、ふんわり収まる。
「何してきたの?」
「見てみてー。すごいのできちゃった」
支えられながら、慎重に脚を地面につけた。それから、光の漏れるマントを、ザエルアポロの前に広げてあげた。
「わぁ」
彼の目が輝き、なつみもにっこり。
「太陽の赤ちゃんだよ。ぼくの斬魄刀の欠片を核にして、みんなの光を纏わせたんだ。反膜の光っていうの?とっても明るくてあったかかったから、もしかしたらと思ったんだ。うまくいったみたい。ドームが完成する直前に、今度はもっと大きな規模で作ってみようよ。ね❗️😆」
ザエルアポロの視線が、小さな星からなつみへと向けられる。
「いや、それも良いけど、これを僕らで大切に育てていこうよ。せっかく作ったんだから」
「でも、すぐ消えちゃうんじゃない?」
微笑みながら、首を横に振る。
「させないよ。良い?0から1を生み出すことはすごく大変だけど、1から100や1000にするのは、1を2にするように簡単だったりするんだ。何があるかわからないから、もったいないことは極力避けないとね」
ぷにぷにのほっぺを手で包んであげる。
「みんなを照らす、立派な太陽にしてあげよう」
上の話を聞いて思う。
「ふーん。つまり、ザエルアポロは太陽の作り方、思いつかなかったってことか。全く、ぼくがいないとダメなんだからー😙」
「…ほんとだよ」