第九章
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なつみとリリネットは、長い線が引かれたエリアに到着した。
「これが境界線で、この線の上にずーっとずーっと先までぐるーっと丸く虚夜宮を囲う壁を立てようとしてるの。その石材が運ばれてくる予定でさ。すごいよね」
「あそこ、線が切れてるよ」
「あそこは門にするつもり。8ヶ所門を作るんだって」
「こんなデカいの、要塞ってヤツにすんの?」
「敵なんかいないから、そんな物騒な物じゃないよ。太陽を昇らせて、青空の空間をドームの中に作ろうとしてるの。だから、天井も作らないとなんだけど。環境の変化がおっきすぎると思ってさ、光や熱をなるべく遮断できるように、巨大施設を建設しよーぜって話になってるんだ〜」
「やっぱり水脈は見つからなかったんだ。だからそんな無茶な計画に変更したんでしょ」
「無茶じゃないよ。みんなで力を合わせてやるんだから。水脈はね、太陽が育ててくれるもんだと思ってる」
「ふーん。で、その太陽はどうやって作るの?」
「何か燃やせば良いっしょ😗」
「適当かよ❗️」
「うそうそ。ザエルアポロっていう、とーっても頭のいい科学者さんがいてね、その人がいろいろ考えてくれてるんだ。できないって言われてないから、あの人の中に何か良い方法があるんだよ。頼もしいよね。この街づくりプロジェクトに欠かせないパートナーだよ😚」
「へぇ〜」
すると突然声をかけられた。
「そう言ってもらえるなんて、嬉しいな」
そちらへ振り向いた。
「あ❗️ザエp、ザエルアポロ❗️💦」
「おかえり、なつみ。よく耐えたね(笑)」
「へへへ、セーフよ、セーフ。ただいま。今から❓😄」
「そう。セーフだよ」
なつみはリリネットに向き直る。
「この人がね、ザエルアポロだよ」
「どうも」
リリネットは人見知りをしているのか、少し控えめな挨拶だ。
「君がリリネットか。よろしく。ザエルアポロだ」
ザエルアポロは握手を求めた。
「よろしく」
リリネットも手を出し、彼の手を握ってあげた。
「すごい。ほんとに人間の手だ」
手の感触に感動した。リリネットはこの時初めて破面という存在を目にしたのだ。
「人間だなんて、昔の話だよ。人の形を取り戻しても、君と同じ虚に変わりない。そんなことより、なつみの言う通り、君は最上級大虚のようだね。これなら、藍染様から良い返事が聞けるよ」
「何よ。ぼくのこと疑ってたの?」
「自分の目で確かめられるまで、どんなことでも疑うのが、科学者の性分なんだよ。そうそう、その藍染様だけど、明後日こちらに来てくださるそうだ」
「明後日❗️羨ましい。行ったり来たりして」
「文句言わないの。僕もこっちにしかいられないの、少し退屈に思ってるんだから」
「一緒にしないでよぉ😫」
「その日、リリネットに会ってもらおう」
「あ、無視した😗」
「ということだから、2日後に、ここへ来てもらえるかな?リリネット。僕たちをまとめ、この素晴らしい土地を統治されている藍染様という方に、直接会ってもらいたいんだ。君を仲間に受け入れるかどうかを、判断していただくよ」
そう言われると、ちょっと身構えてしまう。
「面接でもすんの?入団テスト的な?」
「さぁ、どうかな。でもきっと、君なら気に入られるよ。強そうだから」
さらりと言う。そこに、ちょこっと割り込む。
「大丈夫だよ、リリネットちゃん。何かあったら、ぼくが駄々こねるから🤗」
「フフッ、頼もしいね」
ザエルアポロには、なつみに伝えたいことがあるらしい。
「ねぇ、なつみ。藍染様が来てくださること、誰から聞いたと思う?」
「ほよ?お客さん来てるの?」
「会議室にいるよ。怒りに行ってきたら?😉」
「ほぉっ‼︎🫢」察した。「行かなきゃっ」
なつみはリリネットに話しかける。
「ごめんね、リリネットちゃん。ぼくもう行くね」
「うん」
少し残念がる声。
「明後日、絶対ここ来てね❗️絶対だよ❗️」
「うん」少し明るい声。しかし思うことが。「明後日…って、いつ?」
こんな質問をされるとは、思いもしなかった虚夜宮のふたり。
「あ…。そっか。時計で動いてないから、日にちが変わるのわからないんだ」
「太陽の存在が如何に重要か、こんなことからも思い知らされるね。約束ができなくなるところだった」
そこでザエルアポロは、キョロキョロと辺りを探した。
「んー…」
「どうしたの?」
「リリネットはまだ他所者だから、虚夜宮の中に入れたくはないんだけど。この外周付近にある建物で空きがあるなら、そこに2日間滞在してもらおうかなって。そしたら待ち合わせができるでしょ?」
「おー!ナイスアイデア👍」
「そうと決まれば、なつみはもう行った方がいい。グズグズしてると帰ってしまうよ、彼」
「う、うん」
戸惑いながらも頷くが。
「なつみ、あたしのこと気にしないで。適当に空いてるとこ探すから。服、持ってきてくれて、ありがとね」
リリネットがそう言ってくれた。
「うん!わかった。面接、がんばってね!何をどうがんばるか、知らないけど👍」
「あははッ。うん❗️がんばる❗️👍」
「またねーッ👋」
立ち去るなつみに手を振りかえすリリネット。
「さてと。僕も行かせてもらうよ。案内してやれなくて悪いけど、ひとりで探してくれるかな」
「良いよ。どうせあたしも一旦帰るから」
「そう。じゃあ、頑張って」
「うん。ありがとう」
ザエルアポロとリリネットも、それぞれの方向へ去っていった。
なつみは虚夜宮に入ると、足音を響かせながら駆け、会議室へと急いだ。
バンッ‼️
扉を勢いよく開け、ひとつ叫ぶ。
「コラぁーッ‼️‼️😆」
怒っているが、笑ってしまう。
「おかえり、なつみ」
「ただいま、ゾマリん❗️」
そして、ゾマリの隣の席に座っている来客にも挨拶を。
「コラ❗️東仙隊長❗️ぼくをこんな異世界に黙って連れてきて❗️ちゃんと悪いと思ってますかぁ❗️😤」
ご挨拶だ。
「思っているよ。すまなかった。反省しているから、機嫌を直してくれないかな」
胸をこれでもかと張り、えっへんと大きな態度でなつみはいたのだが、再会の嬉しさもあり、どうしてもニヤけてしまう。
「ふふーん。反省してるなら、許さなきゃですねぇ〜🥴」
東仙も、なつみと会えて喜んでいる。
「久しぶりだね。またこうして君の声が聞けるなんて、とても嬉しいよ」
「にひーっ」
椅子に座りながら、身体はこちらに向けてくれた東仙に、なつみはきゅっと抱きついた。
「おやおや。私に甘えてくるなんて、珍しいじゃないか」
そう言いつつ、優しく受け入れてくれる。
「もう来てくださったお二方にも怒ってやりましたし、ハグもしましたから。東仙隊長ともしておかなきゃなんですよ」
「そうか。私たちはチームだから、仲間はずれは良くないと思ってくれたんだね。ありがとう、なつみ」
髪を撫でてくれる東仙に、少し照れてしまう。
「けへへ///」
居た堪れなさがあったか、忘れられている感がしたのか、ゾマリが咳払いをした。
「ンンッ」
「あ、そうだ。なつみにこれを渡すよう、市丸に頼まれたんだ」
なつみは東仙から離れ、東仙は机に置いていた1冊の本を引き寄せた。そしてなつみに渡す。
「ガウディ…。わぁ❗️すっごいキレイ💖」
中を開いてペラペラ捲ると、アントニオ・ガウディの建築が、外観、内装、それぞれいろんな角度から撮られたカラー写真で、いくつも載っていた。なつみの目も輝く。
「そうそう❗️こういうの❗️さっすがイケちゃん先輩。ぼくの好みがわかってるな〜😆」
先日、市丸の帰り際になつみは頼んでいたのだ。池乃に、石材であたたかみのあるデザインがなされた建造物を知らないか、きいてきて欲しいと。そうしたら、このガウディの本が届いた。
「借り物らしいから、読み終わったら、私たち3人の誰かに渡してくれるかな。返しに行ってあげるから」
「はい😊」
読みながらの、半分勢いでした返事であり、間を置いて気付いた。
「いや、自分で返しに行きますよ」
「それはダメ」
「ケチッ‼📔👏😤」
パタンと本を閉じた。
「ケチで結構。君を尸魂界には帰さないように、上からの御達しが下ってるからね。結果を残してからじゃないと、凱旋はさせてあげられないな」
「お言葉ですけどね。準備もさせてもらえず、ぽーんって送り込まれたんですよ?必要な情報収集からすっごい大変なのに、こんなおっきい計画、完成させてからじゃないと帰れないなんて、あんまりです❗️虚のみんなが手伝ってくれますけど、絶対思ってる以上に時間かかるじゃないですか。あっちのみんなにも会って、息抜きしたり、励ましあったりして、がんばるチカラ貰いたいのにー」
なつみも、東仙の隣に腰掛けた。
「ゾマリんも酷いと思うでしょー?何か言ってやってよ😠」
腕組みをする。
「他人の膝の上に腰掛けておいて、その態度は大き過ぎるな」
てへぺろで振り向く。
「あ、そっち?😛」
2人の間に立っていたなつみは、東仙の隣に座るために、向こうへ回り込むのが面倒に思え、しれっとゾマリの膝に座ってみたのだった。時短である。
「やっぱりイヤだった?ごめんね〜」
降りようとしたが。
「そうは言っていない」
止めてもらえた。
「すっかり破面たちと仲良くなっているみたいだな。安心したよ。ひとりだけ死神で、馴染めていないんじゃないかと、心配していたんだ。良かった」
なんだか良いように言っているが、やや気に食わない。
「良かったじゃないですよ。心配してるなら、早くこっちにお引越ししてくださいよー」
ぷくーっと膨れっ面。
「悪かった。だけど、もう少し待ってもらいたいな。引き継ぎには時間をかけたいから」
ほっぺに触れて、空気が抜けないか試すようになだめる。
「ぼくは準備時間ゼロですよ❗️ズルいですよ❗️」
「無責任に放り出したら、みんなが困るだろう?レンが大変な思いをしてしまっても良いのかい?」
「むぅ❗️」
仲間の名前を出されては、それ以上言えなくなる。
「そういうことだから、すまない。今日も、もうすぐ帰らなければ」
「レン、ぼくのこと何か言ってませんか…」
仲間の名前を出すと、視線が下がってしまった。
「元気にしているか、気にしていた。でも、君のことだから、何でもなんとかなると信じてるそうだ。なつみの活躍が聞けるのを、楽しみにしているんじゃないかな」
「そうですか…」
東仙は座り直した。
「市丸から聞いていたんだが、ゾマリからも詳しく聞かせてもらったよ。壮大な計画を立てたようだね。この冷え切った虚圏に太陽をもたらそうなんて。きっと君にしか思い付けないことだよ。連れてきて良かったと、誰もが思っているはずだ。友人達も鼻が高いだろう」
ゾマリが静かに頷いている。
「遠くからだが、みんななつみを応援しているよ。そんな寂しそうな顔をするな。いつものように、前向きななつみでいてくれ。成し遂げれば、必ず帰れるのだから。そうだ。その時には、破面たちをお客として、瀞霊廷に招いてやろう。きっと楽しくなるだろう」
東仙のひらめきは、なつみの心をくすぐった。
「くふふっ、そうですね。そうなったら、おもしろそうですね🤭」
なつみは、死神たちに破面を紹介し、友人たちが種を超えて、親しげに話しているのを想像し、くすくす笑った。
それを見て、東仙は微笑み、話題を変えた。
「そういえば、ゾマリ、この子にあれを見せてあげたか?」
「あれとは?」
「ほら、藍染、隊長がなつみのために用意するよう、随分前に命じられた…」
ふたりの間にいるなつみは、おめめをパチパチ、首をくいくい動かして、何のことだか耳を傾けた。
「あぁ、あれのことか。すっかり忘れていた😅」
「おい」
「すまない。本当に随分と前だから、あることすら忘れていたんだ。誰も触らないからな」
「全く。仕方がないな。私が案内しよう。この子には必要な物だ。それも、今すぐにな。そうだろ😌」
「🙂❓」
意見を求められても、何のこっちゃななつみは、ただ小首を傾げるだけだった。
会議室を出て、ガウディの本を自室に置いてきた後、なつみは東仙に連れられて、ある部屋にやって来た。まだ入ったことのない部屋だ。みんなが素通りするものだから、押入れかと思っていたが、そうではないらしい。だからと言って、鍵が特別かかっていることもなかった。東仙はノックもせず、ノブに手をかけ扉を開いた。室内は暗い。なつみのために明かりを点ける。
「はわっ🫢」
そこにあったのは、アップライトのピアノだった。
「わぁぁーっ💖ピアノだぁーっ😭」
東仙の横を通り過ぎ、ピアノに駆け寄ると、さっそく蓋を開け、Cのコードを押した。すると。
「鳴ったぁ〜😂」
椅子を引いて座り、他のキーも鳴るのかどうか試すように、モーツァルトのきらきら星変奏曲を2つめから弾き始める。
「わぁ、ちゃんと弾けますよ、これ❗️もう、何で早く言ってくれなかったの、あの人たち❗️」
「本当だよね」
扉を閉めて、東仙はなつみのそばに来た。
「これで少しは苛立っても、気晴らしができるな」
「はいっ❗️😆」
「彼らは君の実力を知らないから、平気で放っておいてしまえたんだろうな」
「藍染隊長も市丸隊長も教えてくれませんでしたけど😑」
「藍染隊長が来て下さったのは、君がまだ目覚めたばかりの時だろう。気を遣われたんだ。だが、市丸は何故だろうな。いろいろと頼まれて、頭がいっぱいになってしまったか」
「…、ぼくのせいですか😑」
「そうしてやれ」
やれやれと、なつみは肩をすくめた。
「1曲聴かせてもらおうかな。そうしたら、私は帰るよ」
「えー。じゃあ弾かない」
腕を組んで、リクエストを拒否する。
「そうか。ならばまた今度聴かせてもらうことにして、すぐに出ようかな」
踵を返して立ち去ろうとする東仙を、椅子に座りながらぐわっと焦って掴んだ。
「待ってくださぁい💦弾きます、弾きますぅ💦」
手繰り寄せられ、元の位置に戻される東仙。
「フフッ、なつみはかわいいな」
「褒められてる気がしません❗️何が聴きたいんですか」
「君の弾きたいもので良いよ。あぁでも、せっかくだから、弾き語りをお願いしようかな」
「了解です🫡」
敬礼をした手を降ろして、鍵盤に構える。息を整えて、イントロを弾き始めた。
『夜の歌』大道寺知世
夜の空に瞬く
遠い金の星
ゆうべ夢で見あげた
小鳥と同じ色
眠れぬ夜に
ひとりうたう歌
渡る風と一緒に
想いをのせてとぶよ
夜の空に輝く
遠い銀の月
ゆうべ夢で咲いてた
野ばらと同じ色
優しい夜に
ひとりうたう歌
明日は君とうたおう
夢の翼にのって
優しい夜に
ひとりうたう歌
明日は君とうたおう
夢の翼にのって
「君の声は美しいな。心が穏やかになれる」
「東仙隊長はいつも穏やかじゃないですか」
「そんなことはないさ」
「そうですか?」
「そうさ」
「そっか…。ぼくも歌いながら穏やかになります。ちょうど最近、この曲を口ずさんでることがあって」
「…、寂しいんだね」
「でも、そのうち来てくださるんでしょう。待てますよ。会いたい人には、必ず会える。それがこの世界ですから」にこりと笑ってみせる。「気をつけてお帰りください、東仙隊長」
「ああ。君も身体に気をつけて」
その日、外出を恐れているのもありつつ、なつみはリリネットのことを気にしながらも、借りたガウディの本を読んで過ごすことにした。
ギリアンの巣へ向かったのは、ザエルアポロ、ノイトラ、ハリベル、アーロニーロ、そしてそれぞれの従属官。留守を任されたのがゾマリということもあり、虚夜宮はいつもより静かだった。落ち着いて読書ができる。
ギリアンたちに石材を運んでもらうのだが、巨体とはいえ、相当な重さと距離がある。うまく言うことを聞いてもらえているようだが、速さまでは求めてはいけないようだ。なつみの出汁が利いた餌につられて、従順に仕事をしてくれるギリアン。しっかり働いてくれる彼らの歩みにケチをつけては可哀想である。
ということで、本当はリリネットを訪ねても問題はなかったが、なつみは部屋で大人しくしていた。
方やそのリリネットは服を取りに洞穴に戻った後、境界線を越えて空き家を探し回り、なんとかその日の寝床にありつけていた。
「ベッドなんて久しぶり」
枕をぎゅっと抱きしめた。
「フフフッ」
ずっと夜だが、時間的にも夜になり、考えをまとめるためと、なつみはピアノの部屋に再び入った。音漏れしないように、扉はしっかり閉めておく。
「サティあんじゃん」
この部屋には棚が備え付けてあり、中には何冊か楽譜が収まっていた。その中からサティの楽譜を取り出し、収録されている曲を見てみる。
「あるじゃーん」
ピアノの蓋を開け、譜面台もセットし、ページも開く。これは、正しい音を弾いているか疑いたくなるくらい不安定な旋律だが、美しさが絶えず響き渡る曲だ。
「ノクチュルヌ。虚圏にぴったりな曲」
1番から5番まで弾き通す。ゆったりと、静かで、どこか悲しみに似た組み合わせを鳴らし、それでいて明るい響きも伴わせる。なつみの奏でる不思議な調べは、彼女の気も知らないで、こっそり扉をすり抜けていった。
音楽を耳にするのはいつぶりのことか。虚たちの欠けたところへ、すっと入り込んでしまう。
「なつみか…?」
弾き出して、15分程経っただろうか。最後の和音を切り、休符と余韻に浸った後、「ふへぇ」と息を吐き、違う本でも見てみようかと思い、集中がピアノから離れた途端に気づいた。
「ぐわぁッ‼️⁉️」
振り向いたら、扉が開いており、廊下から十刃たちがこちらを覗いていた。
「いるなら言ってよ‼️💦」
「いやー、気持ちよさそうに弾いてたから。邪魔しちゃ悪いかなって」
京楽の顔を胸に押し付けた日が懐かしい。
「あー、もー。びっくりしたぁ」
あの日と違い、隣に座ってこようなんていう輩はいない。
「上手いな、なつみ。藍染様がお前に弾かせたがっていた理由がわかった」
「悪かったな、黙ってて。てっきりヘッタクソだと思ってたからよ。あえてこの場所教えてやんなかったんだよ」
ハリベルの言葉は嬉しいが、ノイトラのはキック物だ。ドンッ❗️
「痛いっ😫」
「しっかし」
片脚でぴょんぴょん跳ねながら、痛めた足を押さえていたのに、その手をノイトラに掴まれてしまった。
「こんなちっせぇ手でよく弾けるよな」
「うるへぇ❗️そんな長い指せっかくしてるのに、弾かないなんて勿体ないぞ❗️」
大事なおててを引っ込めた。
「なつみは歌もうまいんだ。さっき聴かせてもらったよ」
「ゾマリん、盗み聞きは良くないよ」
「そのつもりはなくとも、聞こえてしまったんだ」
なつみは疑問を抱いた。
「ここ、防音じゃないの?」
「みてぇだな」
「えー‼️」衝撃事実。「なんだ。じゃあ、防音リフォームしてからにしようかな、弾くの」
「えー」
えー返しをしたのは、アーロニーロだった。
「弾いてくれ」「歌聴キタイ!」
「だって、ご近所迷惑になるよ」
「今聴きたい」「聴ク!」
迫り来るアーロニーロにたじたじ。
「ちょ、ちょっとぉ😓」
助け舟を求めて、なつみはハリベルを見た。
「ダメって言ってあげてよぉ」
しかし意外な返事が返ってきた。
「私たちは遠出をして疲れた。音楽を聴いて、癒されたい気分だな」
「なぁッ⁉️」
なつみの負けである。
「ハリベルにまでお願いされたら、応えるしかないね、なつみ。僕も聴きたいな」
異論は起きない。
「おい、テスラ」
ノイトラが一旦廊下に出て、そこから部屋に向かってポイポイとクッションを投げ入れていった。
「おいー。客席入れんなよ❗️」
と言っても遅い。みんな座ってしまい、帰る気ゼロだ。
「なつみー。早く弾けー」
「それがお願いする態度か❗️✊」
そう。これではピアニストに失礼である。
「拍手を贈ってあげよう」
ザエルアポロの言う通りだ。
なつみに向けて拍手が鳴る。こうなれば、お辞儀をして応えるのが筋である。
「しょうがないから、弾き語ってあげるよ。音漏れガンガンしてんだったら、ギリアンたちにも届くかな。灯台の光みたいに導いちゃお。迷子にならないようにね」
♩.、♫♪
「朝が来ることを願ってね」
『夜明けのうた』宮本浩次
夢見る人 わたしはそうdreamer 明日の旅人さ
月の夜も 強い日差しの日も 歩みを止めない
忘られぬ思い出も 空のこの青さも
ぜんぶぜんぶこの胸に抱きしめたい
わたしの好きなこの世界
時に悲しみに打ちひしがれて
ふと忘れたふりしてた涙が 頬をつたうよ
でも町に風が吹き 明日がわたしを誘いに来る
ああ ようこそこの町へ わたしの住む町へ
ああ 夜明けはやってくる 悲しみの向こうに
ああ わたしも出掛けよう わたしの好きな町へ
会いにゆこう わたしの好きな人に
夢見る人 わたしはそうdreamer 明日の旅人さ
悲しいときもうれしいときでも 歩みを止めない ああ
きみとふたり歩いた色づく並木道
光の中ふたり包まれ このまま永遠に
でも町に風が吹き ふたりを明日へといざなう
ああ さよなら わたしの美しい時間よ
ああ 夜明けはやってくる やさしさの向こうに
ああ わたしも旅立とう あたらしい明日に
会いにゆこう あたらしいわたしに
ああ 町よ 夜明けがくる場所よ
そしてわたしの愛する人の 笑顔に会える町よ
ああ 心よ 静かにもえあがれ
風がいざなうその先の あたらしい明日に
会いにゆこう 未来のわたしに
会いに行こう わたしの好きな人に
会いにゆこう あたらしい世界に
「これが境界線で、この線の上にずーっとずーっと先までぐるーっと丸く虚夜宮を囲う壁を立てようとしてるの。その石材が運ばれてくる予定でさ。すごいよね」
「あそこ、線が切れてるよ」
「あそこは門にするつもり。8ヶ所門を作るんだって」
「こんなデカいの、要塞ってヤツにすんの?」
「敵なんかいないから、そんな物騒な物じゃないよ。太陽を昇らせて、青空の空間をドームの中に作ろうとしてるの。だから、天井も作らないとなんだけど。環境の変化がおっきすぎると思ってさ、光や熱をなるべく遮断できるように、巨大施設を建設しよーぜって話になってるんだ〜」
「やっぱり水脈は見つからなかったんだ。だからそんな無茶な計画に変更したんでしょ」
「無茶じゃないよ。みんなで力を合わせてやるんだから。水脈はね、太陽が育ててくれるもんだと思ってる」
「ふーん。で、その太陽はどうやって作るの?」
「何か燃やせば良いっしょ😗」
「適当かよ❗️」
「うそうそ。ザエルアポロっていう、とーっても頭のいい科学者さんがいてね、その人がいろいろ考えてくれてるんだ。できないって言われてないから、あの人の中に何か良い方法があるんだよ。頼もしいよね。この街づくりプロジェクトに欠かせないパートナーだよ😚」
「へぇ〜」
すると突然声をかけられた。
「そう言ってもらえるなんて、嬉しいな」
そちらへ振り向いた。
「あ❗️ザエp、ザエルアポロ❗️💦」
「おかえり、なつみ。よく耐えたね(笑)」
「へへへ、セーフよ、セーフ。ただいま。今から❓😄」
「そう。セーフだよ」
なつみはリリネットに向き直る。
「この人がね、ザエルアポロだよ」
「どうも」
リリネットは人見知りをしているのか、少し控えめな挨拶だ。
「君がリリネットか。よろしく。ザエルアポロだ」
ザエルアポロは握手を求めた。
「よろしく」
リリネットも手を出し、彼の手を握ってあげた。
「すごい。ほんとに人間の手だ」
手の感触に感動した。リリネットはこの時初めて破面という存在を目にしたのだ。
「人間だなんて、昔の話だよ。人の形を取り戻しても、君と同じ虚に変わりない。そんなことより、なつみの言う通り、君は最上級大虚のようだね。これなら、藍染様から良い返事が聞けるよ」
「何よ。ぼくのこと疑ってたの?」
「自分の目で確かめられるまで、どんなことでも疑うのが、科学者の性分なんだよ。そうそう、その藍染様だけど、明後日こちらに来てくださるそうだ」
「明後日❗️羨ましい。行ったり来たりして」
「文句言わないの。僕もこっちにしかいられないの、少し退屈に思ってるんだから」
「一緒にしないでよぉ😫」
「その日、リリネットに会ってもらおう」
「あ、無視した😗」
「ということだから、2日後に、ここへ来てもらえるかな?リリネット。僕たちをまとめ、この素晴らしい土地を統治されている藍染様という方に、直接会ってもらいたいんだ。君を仲間に受け入れるかどうかを、判断していただくよ」
そう言われると、ちょっと身構えてしまう。
「面接でもすんの?入団テスト的な?」
「さぁ、どうかな。でもきっと、君なら気に入られるよ。強そうだから」
さらりと言う。そこに、ちょこっと割り込む。
「大丈夫だよ、リリネットちゃん。何かあったら、ぼくが駄々こねるから🤗」
「フフッ、頼もしいね」
ザエルアポロには、なつみに伝えたいことがあるらしい。
「ねぇ、なつみ。藍染様が来てくださること、誰から聞いたと思う?」
「ほよ?お客さん来てるの?」
「会議室にいるよ。怒りに行ってきたら?😉」
「ほぉっ‼︎🫢」察した。「行かなきゃっ」
なつみはリリネットに話しかける。
「ごめんね、リリネットちゃん。ぼくもう行くね」
「うん」
少し残念がる声。
「明後日、絶対ここ来てね❗️絶対だよ❗️」
「うん」少し明るい声。しかし思うことが。「明後日…って、いつ?」
こんな質問をされるとは、思いもしなかった虚夜宮のふたり。
「あ…。そっか。時計で動いてないから、日にちが変わるのわからないんだ」
「太陽の存在が如何に重要か、こんなことからも思い知らされるね。約束ができなくなるところだった」
そこでザエルアポロは、キョロキョロと辺りを探した。
「んー…」
「どうしたの?」
「リリネットはまだ他所者だから、虚夜宮の中に入れたくはないんだけど。この外周付近にある建物で空きがあるなら、そこに2日間滞在してもらおうかなって。そしたら待ち合わせができるでしょ?」
「おー!ナイスアイデア👍」
「そうと決まれば、なつみはもう行った方がいい。グズグズしてると帰ってしまうよ、彼」
「う、うん」
戸惑いながらも頷くが。
「なつみ、あたしのこと気にしないで。適当に空いてるとこ探すから。服、持ってきてくれて、ありがとね」
リリネットがそう言ってくれた。
「うん!わかった。面接、がんばってね!何をどうがんばるか、知らないけど👍」
「あははッ。うん❗️がんばる❗️👍」
「またねーッ👋」
立ち去るなつみに手を振りかえすリリネット。
「さてと。僕も行かせてもらうよ。案内してやれなくて悪いけど、ひとりで探してくれるかな」
「良いよ。どうせあたしも一旦帰るから」
「そう。じゃあ、頑張って」
「うん。ありがとう」
ザエルアポロとリリネットも、それぞれの方向へ去っていった。
なつみは虚夜宮に入ると、足音を響かせながら駆け、会議室へと急いだ。
バンッ‼️
扉を勢いよく開け、ひとつ叫ぶ。
「コラぁーッ‼️‼️😆」
怒っているが、笑ってしまう。
「おかえり、なつみ」
「ただいま、ゾマリん❗️」
そして、ゾマリの隣の席に座っている来客にも挨拶を。
「コラ❗️東仙隊長❗️ぼくをこんな異世界に黙って連れてきて❗️ちゃんと悪いと思ってますかぁ❗️😤」
ご挨拶だ。
「思っているよ。すまなかった。反省しているから、機嫌を直してくれないかな」
胸をこれでもかと張り、えっへんと大きな態度でなつみはいたのだが、再会の嬉しさもあり、どうしてもニヤけてしまう。
「ふふーん。反省してるなら、許さなきゃですねぇ〜🥴」
東仙も、なつみと会えて喜んでいる。
「久しぶりだね。またこうして君の声が聞けるなんて、とても嬉しいよ」
「にひーっ」
椅子に座りながら、身体はこちらに向けてくれた東仙に、なつみはきゅっと抱きついた。
「おやおや。私に甘えてくるなんて、珍しいじゃないか」
そう言いつつ、優しく受け入れてくれる。
「もう来てくださったお二方にも怒ってやりましたし、ハグもしましたから。東仙隊長ともしておかなきゃなんですよ」
「そうか。私たちはチームだから、仲間はずれは良くないと思ってくれたんだね。ありがとう、なつみ」
髪を撫でてくれる東仙に、少し照れてしまう。
「けへへ///」
居た堪れなさがあったか、忘れられている感がしたのか、ゾマリが咳払いをした。
「ンンッ」
「あ、そうだ。なつみにこれを渡すよう、市丸に頼まれたんだ」
なつみは東仙から離れ、東仙は机に置いていた1冊の本を引き寄せた。そしてなつみに渡す。
「ガウディ…。わぁ❗️すっごいキレイ💖」
中を開いてペラペラ捲ると、アントニオ・ガウディの建築が、外観、内装、それぞれいろんな角度から撮られたカラー写真で、いくつも載っていた。なつみの目も輝く。
「そうそう❗️こういうの❗️さっすがイケちゃん先輩。ぼくの好みがわかってるな〜😆」
先日、市丸の帰り際になつみは頼んでいたのだ。池乃に、石材であたたかみのあるデザインがなされた建造物を知らないか、きいてきて欲しいと。そうしたら、このガウディの本が届いた。
「借り物らしいから、読み終わったら、私たち3人の誰かに渡してくれるかな。返しに行ってあげるから」
「はい😊」
読みながらの、半分勢いでした返事であり、間を置いて気付いた。
「いや、自分で返しに行きますよ」
「それはダメ」
「ケチッ‼📔👏😤」
パタンと本を閉じた。
「ケチで結構。君を尸魂界には帰さないように、上からの御達しが下ってるからね。結果を残してからじゃないと、凱旋はさせてあげられないな」
「お言葉ですけどね。準備もさせてもらえず、ぽーんって送り込まれたんですよ?必要な情報収集からすっごい大変なのに、こんなおっきい計画、完成させてからじゃないと帰れないなんて、あんまりです❗️虚のみんなが手伝ってくれますけど、絶対思ってる以上に時間かかるじゃないですか。あっちのみんなにも会って、息抜きしたり、励ましあったりして、がんばるチカラ貰いたいのにー」
なつみも、東仙の隣に腰掛けた。
「ゾマリんも酷いと思うでしょー?何か言ってやってよ😠」
腕組みをする。
「他人の膝の上に腰掛けておいて、その態度は大き過ぎるな」
てへぺろで振り向く。
「あ、そっち?😛」
2人の間に立っていたなつみは、東仙の隣に座るために、向こうへ回り込むのが面倒に思え、しれっとゾマリの膝に座ってみたのだった。時短である。
「やっぱりイヤだった?ごめんね〜」
降りようとしたが。
「そうは言っていない」
止めてもらえた。
「すっかり破面たちと仲良くなっているみたいだな。安心したよ。ひとりだけ死神で、馴染めていないんじゃないかと、心配していたんだ。良かった」
なんだか良いように言っているが、やや気に食わない。
「良かったじゃないですよ。心配してるなら、早くこっちにお引越ししてくださいよー」
ぷくーっと膨れっ面。
「悪かった。だけど、もう少し待ってもらいたいな。引き継ぎには時間をかけたいから」
ほっぺに触れて、空気が抜けないか試すようになだめる。
「ぼくは準備時間ゼロですよ❗️ズルいですよ❗️」
「無責任に放り出したら、みんなが困るだろう?レンが大変な思いをしてしまっても良いのかい?」
「むぅ❗️」
仲間の名前を出されては、それ以上言えなくなる。
「そういうことだから、すまない。今日も、もうすぐ帰らなければ」
「レン、ぼくのこと何か言ってませんか…」
仲間の名前を出すと、視線が下がってしまった。
「元気にしているか、気にしていた。でも、君のことだから、何でもなんとかなると信じてるそうだ。なつみの活躍が聞けるのを、楽しみにしているんじゃないかな」
「そうですか…」
東仙は座り直した。
「市丸から聞いていたんだが、ゾマリからも詳しく聞かせてもらったよ。壮大な計画を立てたようだね。この冷え切った虚圏に太陽をもたらそうなんて。きっと君にしか思い付けないことだよ。連れてきて良かったと、誰もが思っているはずだ。友人達も鼻が高いだろう」
ゾマリが静かに頷いている。
「遠くからだが、みんななつみを応援しているよ。そんな寂しそうな顔をするな。いつものように、前向きななつみでいてくれ。成し遂げれば、必ず帰れるのだから。そうだ。その時には、破面たちをお客として、瀞霊廷に招いてやろう。きっと楽しくなるだろう」
東仙のひらめきは、なつみの心をくすぐった。
「くふふっ、そうですね。そうなったら、おもしろそうですね🤭」
なつみは、死神たちに破面を紹介し、友人たちが種を超えて、親しげに話しているのを想像し、くすくす笑った。
それを見て、東仙は微笑み、話題を変えた。
「そういえば、ゾマリ、この子にあれを見せてあげたか?」
「あれとは?」
「ほら、藍染、隊長がなつみのために用意するよう、随分前に命じられた…」
ふたりの間にいるなつみは、おめめをパチパチ、首をくいくい動かして、何のことだか耳を傾けた。
「あぁ、あれのことか。すっかり忘れていた😅」
「おい」
「すまない。本当に随分と前だから、あることすら忘れていたんだ。誰も触らないからな」
「全く。仕方がないな。私が案内しよう。この子には必要な物だ。それも、今すぐにな。そうだろ😌」
「🙂❓」
意見を求められても、何のこっちゃななつみは、ただ小首を傾げるだけだった。
会議室を出て、ガウディの本を自室に置いてきた後、なつみは東仙に連れられて、ある部屋にやって来た。まだ入ったことのない部屋だ。みんなが素通りするものだから、押入れかと思っていたが、そうではないらしい。だからと言って、鍵が特別かかっていることもなかった。東仙はノックもせず、ノブに手をかけ扉を開いた。室内は暗い。なつみのために明かりを点ける。
「はわっ🫢」
そこにあったのは、アップライトのピアノだった。
「わぁぁーっ💖ピアノだぁーっ😭」
東仙の横を通り過ぎ、ピアノに駆け寄ると、さっそく蓋を開け、Cのコードを押した。すると。
「鳴ったぁ〜😂」
椅子を引いて座り、他のキーも鳴るのかどうか試すように、モーツァルトのきらきら星変奏曲を2つめから弾き始める。
「わぁ、ちゃんと弾けますよ、これ❗️もう、何で早く言ってくれなかったの、あの人たち❗️」
「本当だよね」
扉を閉めて、東仙はなつみのそばに来た。
「これで少しは苛立っても、気晴らしができるな」
「はいっ❗️😆」
「彼らは君の実力を知らないから、平気で放っておいてしまえたんだろうな」
「藍染隊長も市丸隊長も教えてくれませんでしたけど😑」
「藍染隊長が来て下さったのは、君がまだ目覚めたばかりの時だろう。気を遣われたんだ。だが、市丸は何故だろうな。いろいろと頼まれて、頭がいっぱいになってしまったか」
「…、ぼくのせいですか😑」
「そうしてやれ」
やれやれと、なつみは肩をすくめた。
「1曲聴かせてもらおうかな。そうしたら、私は帰るよ」
「えー。じゃあ弾かない」
腕を組んで、リクエストを拒否する。
「そうか。ならばまた今度聴かせてもらうことにして、すぐに出ようかな」
踵を返して立ち去ろうとする東仙を、椅子に座りながらぐわっと焦って掴んだ。
「待ってくださぁい💦弾きます、弾きますぅ💦」
手繰り寄せられ、元の位置に戻される東仙。
「フフッ、なつみはかわいいな」
「褒められてる気がしません❗️何が聴きたいんですか」
「君の弾きたいもので良いよ。あぁでも、せっかくだから、弾き語りをお願いしようかな」
「了解です🫡」
敬礼をした手を降ろして、鍵盤に構える。息を整えて、イントロを弾き始めた。
『夜の歌』大道寺知世
夜の空に瞬く
遠い金の星
ゆうべ夢で見あげた
小鳥と同じ色
眠れぬ夜に
ひとりうたう歌
渡る風と一緒に
想いをのせてとぶよ
夜の空に輝く
遠い銀の月
ゆうべ夢で咲いてた
野ばらと同じ色
優しい夜に
ひとりうたう歌
明日は君とうたおう
夢の翼にのって
優しい夜に
ひとりうたう歌
明日は君とうたおう
夢の翼にのって
「君の声は美しいな。心が穏やかになれる」
「東仙隊長はいつも穏やかじゃないですか」
「そんなことはないさ」
「そうですか?」
「そうさ」
「そっか…。ぼくも歌いながら穏やかになります。ちょうど最近、この曲を口ずさんでることがあって」
「…、寂しいんだね」
「でも、そのうち来てくださるんでしょう。待てますよ。会いたい人には、必ず会える。それがこの世界ですから」にこりと笑ってみせる。「気をつけてお帰りください、東仙隊長」
「ああ。君も身体に気をつけて」
その日、外出を恐れているのもありつつ、なつみはリリネットのことを気にしながらも、借りたガウディの本を読んで過ごすことにした。
ギリアンの巣へ向かったのは、ザエルアポロ、ノイトラ、ハリベル、アーロニーロ、そしてそれぞれの従属官。留守を任されたのがゾマリということもあり、虚夜宮はいつもより静かだった。落ち着いて読書ができる。
ギリアンたちに石材を運んでもらうのだが、巨体とはいえ、相当な重さと距離がある。うまく言うことを聞いてもらえているようだが、速さまでは求めてはいけないようだ。なつみの出汁が利いた餌につられて、従順に仕事をしてくれるギリアン。しっかり働いてくれる彼らの歩みにケチをつけては可哀想である。
ということで、本当はリリネットを訪ねても問題はなかったが、なつみは部屋で大人しくしていた。
方やそのリリネットは服を取りに洞穴に戻った後、境界線を越えて空き家を探し回り、なんとかその日の寝床にありつけていた。
「ベッドなんて久しぶり」
枕をぎゅっと抱きしめた。
「フフフッ」
ずっと夜だが、時間的にも夜になり、考えをまとめるためと、なつみはピアノの部屋に再び入った。音漏れしないように、扉はしっかり閉めておく。
「サティあんじゃん」
この部屋には棚が備え付けてあり、中には何冊か楽譜が収まっていた。その中からサティの楽譜を取り出し、収録されている曲を見てみる。
「あるじゃーん」
ピアノの蓋を開け、譜面台もセットし、ページも開く。これは、正しい音を弾いているか疑いたくなるくらい不安定な旋律だが、美しさが絶えず響き渡る曲だ。
「ノクチュルヌ。虚圏にぴったりな曲」
1番から5番まで弾き通す。ゆったりと、静かで、どこか悲しみに似た組み合わせを鳴らし、それでいて明るい響きも伴わせる。なつみの奏でる不思議な調べは、彼女の気も知らないで、こっそり扉をすり抜けていった。
音楽を耳にするのはいつぶりのことか。虚たちの欠けたところへ、すっと入り込んでしまう。
「なつみか…?」
弾き出して、15分程経っただろうか。最後の和音を切り、休符と余韻に浸った後、「ふへぇ」と息を吐き、違う本でも見てみようかと思い、集中がピアノから離れた途端に気づいた。
「ぐわぁッ‼️⁉️」
振り向いたら、扉が開いており、廊下から十刃たちがこちらを覗いていた。
「いるなら言ってよ‼️💦」
「いやー、気持ちよさそうに弾いてたから。邪魔しちゃ悪いかなって」
京楽の顔を胸に押し付けた日が懐かしい。
「あー、もー。びっくりしたぁ」
あの日と違い、隣に座ってこようなんていう輩はいない。
「上手いな、なつみ。藍染様がお前に弾かせたがっていた理由がわかった」
「悪かったな、黙ってて。てっきりヘッタクソだと思ってたからよ。あえてこの場所教えてやんなかったんだよ」
ハリベルの言葉は嬉しいが、ノイトラのはキック物だ。ドンッ❗️
「痛いっ😫」
「しっかし」
片脚でぴょんぴょん跳ねながら、痛めた足を押さえていたのに、その手をノイトラに掴まれてしまった。
「こんなちっせぇ手でよく弾けるよな」
「うるへぇ❗️そんな長い指せっかくしてるのに、弾かないなんて勿体ないぞ❗️」
大事なおててを引っ込めた。
「なつみは歌もうまいんだ。さっき聴かせてもらったよ」
「ゾマリん、盗み聞きは良くないよ」
「そのつもりはなくとも、聞こえてしまったんだ」
なつみは疑問を抱いた。
「ここ、防音じゃないの?」
「みてぇだな」
「えー‼️」衝撃事実。「なんだ。じゃあ、防音リフォームしてからにしようかな、弾くの」
「えー」
えー返しをしたのは、アーロニーロだった。
「弾いてくれ」「歌聴キタイ!」
「だって、ご近所迷惑になるよ」
「今聴きたい」「聴ク!」
迫り来るアーロニーロにたじたじ。
「ちょ、ちょっとぉ😓」
助け舟を求めて、なつみはハリベルを見た。
「ダメって言ってあげてよぉ」
しかし意外な返事が返ってきた。
「私たちは遠出をして疲れた。音楽を聴いて、癒されたい気分だな」
「なぁッ⁉️」
なつみの負けである。
「ハリベルにまでお願いされたら、応えるしかないね、なつみ。僕も聴きたいな」
異論は起きない。
「おい、テスラ」
ノイトラが一旦廊下に出て、そこから部屋に向かってポイポイとクッションを投げ入れていった。
「おいー。客席入れんなよ❗️」
と言っても遅い。みんな座ってしまい、帰る気ゼロだ。
「なつみー。早く弾けー」
「それがお願いする態度か❗️✊」
そう。これではピアニストに失礼である。
「拍手を贈ってあげよう」
ザエルアポロの言う通りだ。
なつみに向けて拍手が鳴る。こうなれば、お辞儀をして応えるのが筋である。
「しょうがないから、弾き語ってあげるよ。音漏れガンガンしてんだったら、ギリアンたちにも届くかな。灯台の光みたいに導いちゃお。迷子にならないようにね」
♩.、♫♪
「朝が来ることを願ってね」
『夜明けのうた』宮本浩次
夢見る人 わたしはそうdreamer 明日の旅人さ
月の夜も 強い日差しの日も 歩みを止めない
忘られぬ思い出も 空のこの青さも
ぜんぶぜんぶこの胸に抱きしめたい
わたしの好きなこの世界
時に悲しみに打ちひしがれて
ふと忘れたふりしてた涙が 頬をつたうよ
でも町に風が吹き 明日がわたしを誘いに来る
ああ ようこそこの町へ わたしの住む町へ
ああ 夜明けはやってくる 悲しみの向こうに
ああ わたしも出掛けよう わたしの好きな町へ
会いにゆこう わたしの好きな人に
夢見る人 わたしはそうdreamer 明日の旅人さ
悲しいときもうれしいときでも 歩みを止めない ああ
きみとふたり歩いた色づく並木道
光の中ふたり包まれ このまま永遠に
でも町に風が吹き ふたりを明日へといざなう
ああ さよなら わたしの美しい時間よ
ああ 夜明けはやってくる やさしさの向こうに
ああ わたしも旅立とう あたらしい明日に
会いにゆこう あたらしいわたしに
ああ 町よ 夜明けがくる場所よ
そしてわたしの愛する人の 笑顔に会える町よ
ああ 心よ 静かにもえあがれ
風がいざなうその先の あたらしい明日に
会いにゆこう 未来のわたしに
会いに行こう わたしの好きな人に
会いにゆこう あたらしい世界に