第九章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
食糧や、細々とした生活用品を運んできてくれた市丸。今夜は帰らなければならないが、お散歩には付き合ってくれると言う。
「泊まればいいのに」
自分の部屋から絨毯を巻いて持って、廊下を歩くなつみは、口を尖らせてぶーぶー文句を垂れる。
「ボクかて帰りたないわ。けど、しゃーないんよ」
「じゃあ、こっそりぼくを連れて帰ってください」
「それもあかんの」
「むー」
階段まで来ると、なつみは上に、市丸は下に行こうとした。
「あれ?降りるんとちゃうの?お外でピクニックするんやろ?」
「へへーん。上に行くんですよ、隊長。夜の砂漠を散策するっていったら、あほーにゅーわーしなきゃ☝️」
「あほ?(笑)」
言われるがままなつみについていった市丸は、ベランダに出てきた。
「よいしょー」
絨毯を足元に広げ、なつみは斬魄刀を抜いた。
「叶え、夢現天道子。この絨毯に魔法をかけて」
願いを聞き受けた絨毯に、生命が宿る。
ぴょこ、ぴょこ、ぴゅーんっ💨
四隅が起きると、それは元気に宙返りして、空を飛び始めた。その上になつみがスタッと跳び乗る。
「ぼくを信じろ」
「何やて?」
「ぼくを信じろ」
市丸に、斬魄刀とは逆の手を差し伸べるなつみ。
「何でボクがお姫様側やねん」
ノリが悪い市丸にガクッとくる。
「良いから、乗ってください‼️✊」
「はいはい(笑)」
アラジンなつみの手を取って、ジャスミン市丸が乗ると、絨毯は急発進してふたりはくっついた。
「「わぁっ💦」」
ジャスミン市丸に身体を支えてもらったアラジンなつみ。
「びっくりしたー」
「ちゃんと操縦してや」
「すいません😋」
空飛ぶ絨毯は虚夜宮を出発して、上昇して離れていく。
「I can show you the world
Shining, shimmering, splendid
Tell me, princess, now when did
You last let your heart decide?
I can open your eyes
って、市丸隊長がおめめ開けてるの、あんまり見ませんよね」
「見たいん?」
「ふふ、どーっちでも〜」
「なんやの、その言い方ー」
戯れ合うのが楽しい。笑い合うのも。
なつみはどこに向かっているのだろう。
「屋根を置くには、柱や壁が要ります」
「せやね」
「いちばん端っこはどの辺が良いんですかね。街いっこ分の広さにするから、半径でも、とっても長くなって…」
「大変なことやね」
「なんだか…。世界のはじまりを見てみたい気分です。お手本にしたいなぁ。太陽の作り方、空の作り方、雨の降らせ方、植物の育て方、生き物があったかいところで暮らせる場所の作り方。神様って、創造主さんって、すごいですよね。初めてなのに、何でも知ってて、何でも上手にできて」
きゅうと後ろからなつみを抱き寄せてあげる。
「ごめんな。こないな、とんでもないこと、ぽんて任せてもうて。藍染隊長は無茶苦茶や。なつみちゃんのこと、魔法使いやと思てる。何でも叶えてくれるて」
「頼ってもらえるのは、嬉しいことなんですけどね。けどたぶん、藍染隊長は建物建てて欲しいって言ってるだけなんですよ。ぼくが尸魂界でしてたような。畑とか、ましてや太陽とか、考えてないんです。ぼくが勝手にやろうとしてるだけ。虚圏は虚圏で綺麗だけど、良くなる余地がありそうで。ぼくの理想を映し出してみたいんですよね。ぼくが良いと思うものを、みんなに見せてあげたいなーって」
「なつみちゃんは、空の色が変わってくの見とるの好きやもんね。キミにとって、ここは色が足りんのやろ。せやなぁ…、もしかしたらここは、神様にとって予期せんかった、影の部分かもしれへんで。神様も、なつみちゃんみたいに、こんな世界におってみたいって思て、いろんなもん造ってみたけど、命が好き勝手動き出してしもて、幸せが届きにくい場所が知らんうちにできてしもうたんかもしれへん」
もしくは、ただ会いたくてきっかけを作っただけかもしれない。自然は自然と、偶然が重なって築かれただけなのかも。
「それが虚圏?」
「そんだけとちゃうかもしれへんけど、なつみちゃんがここを照らそうとしとんのは、ええことやと思うで。やりたいようにやって、みんなの幸せ追っかけたったらええわ」
「幸せは、人それぞれですけどね」
「ボクはなつみちゃんが笑ってくれたら、幸せや」
「今は怒ってますよ!」
「はいはい」
思い出し怒りにクスクスするふたり。
「せや、なつみちゃん」
「何ですか?」
「しばらくしたら、ボクらもこっちに住むことになるやん。あのふたりはどう言うかわからんけど、ボクの部屋をな、なつみちゃんに用意してもらいたいんよ」
「あぁ、良いですよ。やっときます」
「ありがと。ごめんな、他で忙しいのに」
「大丈夫ですよ。で、どんなお部屋ご所望なんですか?」
「なつみちゃんと一緒の部屋がええ」
「…、んと、部屋の広さですか?インテリアですか?」
「ちゃう。なつみちゃんと一緒に寝たいっちゅーこと。また2人暮らししたいんよ」
「は…?😑」
プロポーズの一歩手前のようなセリフに、ときめくどころか、呆れるなつみ。
「女に戻った途端に追い出したの、どこの誰でしたっけ?」
市丸のお腹に、肘で軽くデュクシデュクシする。
「あれは、美沙ちゃんとこ帰したらなって思っとったからやんか」
「異性とは暮らせないからって聞きましたけど」
「誰に」
「京楽隊長に」
「適当言うただけやろ」
(絶対ぇウソ)
「兄妹なんやから、仲良う暮らしてけるに決まってるて。それに、なつみちゃん、ひとりぼっちでさみしいやろうし。添い寝したげたいんよ」
「市丸隊長がさみしいだけでしょ」
ぼそっ。
「フフッ、それも」
(わぉ、白状した)
「なぁ、ええやろ?お部屋一緒にしよ」
なつみは、甘えん坊お兄ちゃんに細い視線を送った。
「ツインですよ」
「何でや」
「何でって!ぼくには恋人がいるんです!ひとつのベッドにふたりで寝て良いわけ無いじゃないですか!」
「ケチんぼ」
「京楽隊長は、やきもち焼きさんなんです。ただでさえ、お別れも言えずに来ちゃって、拗ねてるかもしれないのに、市丸隊長と一緒に寝てるなんて知られたら、怒らせちゃいますよ!ダメです!シングルベッド2台のお部屋で、別々に寝るんです!それなら一緒のお部屋で良いですよ😤」
「…、まぁええわ。くっつけるだけやし」
ぼそっ。
「ダぁメですってぇ‼️✊」
随分と遠くまで来たようだ。絨毯に着陸させ、なつみは術を解いた。市丸の方を向く。
「この距離で、ぶわぁーって壁建てて、一周して、天井塞いで、ドーム造っちゃうの、良いアイデアだと思いません?」
「ええんとちゃう?途方もない作業になりそうやけどね。神殿造るよりも、もっと規模が大きいやん。えらい、人手と時間かかりそうやな」
「大丈夫ですよ❗️(ぼくが無茶をすれば良いだけです)」
言葉の裏側も、市丸には聞こえてしまっている。
市丸はなつみの頭を静かに撫でてあげた。
「その顔のせいですよ」
「え、…何が?」
言われて、市丸の手が止まる。
「今なら、ちょっと訳がわかりますけど、ずっとぼく、隊長のこと心配してたんです。だから変身できるようにしたんですよ」
「ちょっ、どういうこと」
なつみは、予想だにしなかったことを話し始めた。
「あれは薬の作用で偶然やて」
「その話がよくわかんないんですけどね。きっと、ぼくが変身の練習をして、成功して、やたらと霊力を使っちゃったから、タイムトラベルするくらい疲れちゃって、やたらと寝ちゃったんだと思うんですよ、たぶん。ぼくに嫌がらせしたくて、お寝坊させるために睡眠薬飲ませるなんて、くだらなすぎて、あり得ませんよ」
話を聞いても、首をかしげる市丸。
「せやけど、うさぎさんになってたこと、驚いとったって聞いたで。『何で、うさぎ⁉︎』みたいな反応したんやろ?起きたとき」
頷くなつみ。
「はい。そうなんです。ぼく、驚きましたよ。うさぎになんてなる気なかったのに、ザエルアポロに後から映像見せてもらって、もうビックリ。本当にうさぎになってたんですね」しみじみひとりで頷きながら言う。「コアラになる予定だったのに」
「コアラ⁉︎」
I could open your eyes.
「えーっと…、ボクのために、コアラになろうとしとったん?」
「はい❗️」
「…、そらまた、何で💧」
腰に手を当てて、胸を反らせる、えっへんな態度でお答えする。
「市丸隊長を癒してあげようと思って‼️」
「あー…、そう😅」
「失敗しちゃいましたけどね。ぼくは間違えちゃいました😩」
しょぼん。
謎はまだ半分も解けていない。しかし良かった。虚夜宮の監視から遠く離れたこの場所で、この事実を聞けたのは幸いだった。
「ボク、そんな心配させるぐらい、変に見えてたん?」
「はい。みんなは気付いてないでしょうけど。なんか、悩み事があるような、寂しい感じもあるような、そんなお顔をたまに見かけるんです。ずーっと前から。けど、それが深刻さを増した気がして、何とかしなきゃって思ったんです。どうせ、『何があったんですか?』なんてきいても、正直に答えてくれないでしょうし、ぼくなんかに相談してくれるわけないですから、そばにいて、寄り添ってあげることしか、ぼくにはできないので、でも、居るだけじゃ足りない気がして、それで、心安らぐ方法を見つけようと思い立ったんです」
「それが、コアラになること?(笑)」
「もふもふに触れば、確実に癒されます。緊張した心も緩んで、ストレスから一時的に解放されて、何か新しい考えが降ってくるかもしれないじゃないですか。名案だと確信しましたね」自信たっぷりの言い方。「今思えば、そのお悩みって、ぼくのこの誘拐ドッキリ作戦だったんじゃないかって感じですけど。だったら、勇気出して『どうしたんですかぁ?』ってきけば良かった‼️😖」
クソゥッ、と拳を振り落とす。
「きかれたかて、言わんけど」
「クソゥッ‼️はぁ…、だからぼくは怪しさに気付いていたんですね。ターゲットがぼくだから。もー、狙われてたのかぁ‼️」
悲しい事実を悟り、なつみは頭を抱えた。
なつみが何故、市丸といることにこだわるのか、そのヒントを見られ、それだけでも癒されるようだった。
「なつみちゃん…。ようボクのこと、見てくれてんねやね」
「当たり前です。好きですから。隊長として、兄として。大切な人なんですから、支えたいのは当然ですよ。ツラそうなお顔は、見たくありません」
「ありがとう」
今度は正面から、すっと抱きしめてあげた。
「はわわ///」
「コアラさんやなくても、そのまんまのなつみちゃんで充分、ボクは癒されるで」
「んー…、それじゃ、変化の術の練習した意味無くなっちゃいますよ。もったいないなー」
「なぁ、そのこと、もうちょい詳しく聞かせてくれへん?変化の術て何?なつみちゃんの斬魄刀の能力とちゃうの?どないして、コアラを選んだのかも気になるわ」
身体を離した。
「ふふん。話せば長くなるというヤツですよ☝️」
なつみは語り出した。
「始解ができるようになる前のことです。ぼくは本屋さんで、1冊の本に目が止まりましてね。『猿でもできる変化の術入門書』って書いてあったんです。止まりますよね。『へんげ』って。
ぼく、その術使えば、男になれると思って、中身見ずにすぐ買っちゃったんです。そしたら、なんとその変化の術、なりたい対象の一部を、自分の中に取り込まないといけないらしくて。それって、そのなりたいものの遺伝子の構造を元に、変身するってことなんで、仮に尾田の髪の毛プンッて抜いて、むしゃむしゃ食べて術を使うと、ぼくが尾田になっちゃうってことなんですよ。ぼくは別に誰かになりたいわけじゃなくて、性転換したいだけだったから、『使えないじゃん、この術』って思って、1回読んだだけで、その本売っちゃったんです。でもいちお、何かに使えるかなーと思って、念のために、大事なとこはメモに書いて残しておいたんです。
そのメモを今回引っ張りだしてきまして、もふもふに変身して、市丸隊長を癒してあげよう大作戦を決行したんです。
まぁ、変化の術をするって決める前に、イケちゃん先輩にお話を伺ってたんですけどね。どのもふもふが最強ですかって」
「コアラがええって教わったん?」
「ダントツで」
「へぇー」
「オーストラリアに行って、触ってきたんですって。ズルいですよね、あの人。
イケちゃん先輩は現世で旅行できますけど、市丸隊長はお忙しいので、そんな遠くまで連れ回すなんてできないじゃないですか。イケちゃん先輩に言ってやりましたよ。尸魂界でコアラに会うなんて無理だから、参考になりませんって」
「そしたら?」
「そしたらなんと、尸魂界にも、確実にコアラと会える場所があるって言うんですよ。知ってます?動物園とか水族館で飼育を担当していた方たちが集まるコミュニティがあるの。ぼくそこ知らなくて。教えてもらって行きましたよ。ちゃんといました、コアラ。もう、やっばい。もっふもふなんですよ。ただ、大人コアラだったんで、だいぶユーカリが馴染んでるお顔してましたけど。ふふっ。
でもぉ、考えたんですよ。あんまり触ってるとコアラにストレスかかるから、ふれあうのちょっとしかできないなって。隊長の悩み方は、そんな短時間じゃフニャッてならないんじゃないかって。そこで、ふと変化の術を思い出したんですよ。ぼくがコアラになっちゃえば、いくらでも隊長に触らせてあげられるじゃないかと❗️
コアラがいた近くの地面を探して、こっそり毛を持って帰ってきました。それを、ウェイッと飲み込んで、準備万端です。もちろん洗いましたよ、いちお。あとは、ニンニン念じるだけ。
それなのに、うさぎになっちゃうなんてなぁー。同じ色だから気付かなかったんですよね。コアラの毛だと思ったのが、うさぎの毛だったんですよ😩」
それがなつみがやらかした間違い。
市丸は、そのコミュニティを知っていた。だから、あんなに早く灰色のうさぎを替え玉として用意できたのだ。もしかしたら、なつみが摂取した毛は、あのうさぎの兄弟のものだったかもしれない。
「フフフフフッ、なつみちゃん、おもろいわ」
変身が、身体に起きた不具合ではなかったと明かされたうさぎ化の謎。市丸は確認してみたくなった。
「ザエルアポロに、うさぎさんになっとるときの映像見せてもらったんやんね。そんとき、『ほんまはコアラになるはずやったのにー』て、言うたん?」
「いいえ。『マジうさぎじゃん‼️』くらいですかね。コアラのことは言ってません。寝込んじゃうほどなんで、実用的じゃないんですもん。変身できるって、まだ自慢できませんよ」
「なら、ボクしか変化の術のこと知らんてこと?」
「はい。市丸隊長のためにしたことなんで、白状しました。ご心配おかけして、申し訳ありませんでした」
仰々しく、大きく腕を回してから土下座をした。
「もぉ。頭上げ。ボクらはキミに断りなく、長期任務を課したんやから。おあいこや。ボクこそ、ごめんやで」
市丸もすっと頭を上品に下げた。
「くるしゅーないぞょ」
市丸の言葉の間に身体を起こしていたなつみの、なんと大きな態度。右手をひらひらさせて、高貴に振る舞う。
「クククッ、何様や」
市丸は、ツーンとなつみのおでこをつっついた。
「あたーっ💦弟様や❗️」
そう言って思い出した。
「そうだ!隊長、ぼくの義骸も持ってきてくださいよ。男の方の。そしたら、男湯も女湯も入れるようになるので♨️」
「イヤやー。地味にデカいし、重いんやもん」
「食材たくさん運んできてくれたじゃないですかー」
「それのついでになるんやろ?お荷物や」
「ぶーぶー」
「それよか、うさぎさんに変身してみてや。男の子なつみちゃんより、うさぎさんなつみちゃんに会いたいわ。ほらほら、もふもふさせてー」
「えー」
お願いされたが、なつみは嫌そうだった。
「また寝ちゃいますよ」
「ええやん。今日はもう帰って寝るだけなんやし。大丈夫やって。もし寝てもうても、ボクが抱っこしながら回復させたるから」
「……どうしても今ですか?」
「どーしてもや。あー、なんや、急にイライラしてきたわ。こんなときは、小動物とふれあって、癒されたくなるなぁ。おらんかなー、かわいいもふもふ」
下手な演技だ。
「わかりましたよぉ。どうなっても知りませんからね」
「わーい」
なつみはやれやれとため息を吐いた。
背筋を伸ばして、姿勢を正す。目を閉じて集中し、内側から力を湧き上がらせる。手は人差し指を握って、ニンニン。
ドロンッ
術の発動で、なつみの身体は一瞬で消えてしまった。中身が無くなった衣類がシュゥと落ちる。
もぞもぞもぞ
その落ちた衣類の中でうごめく。
「おお、おおー。起きてるぅ❗️」
しわしわの服に包まれ、出口を求めて、ぴょこぴょこ頭を上げたり下げたり。襟元か裾が無いかと探っている。
「出れないー。助けてください、隊長❗️」
「はいはい。こっから出ておいで」
襟元を軽く持ち上げて広げてあげた。
「ありがとうございます😊」
そっと下ろすと、長い耳が現れ、その後からひくひくと動く鼻をもたげた丸顔のうさぎが出てきた。おめめはパッチリ。
「隊長❗️変身できましたよ❗️」
「ほんまやねぇ」
二本足で立ち、頭を大きく横に一度振って、片耳をキャッチ。
「わぁ❗️耳長ぁい」
その手も灰色の毛むくじゃらだ。腕は短い上に、指など無いようなものだった。
「隊長、隊長。ぼくしっぽ付いてます?」
お尻を見るのも一苦労。
「付いてるで。ここにちっこいのが」
摘んでみると。
「はぎゃッ‼️///」
うさぎはビクッとした。
「変な触り方しないでくださいよ‼️」
「なんや。感じてもうたん?(笑)」
味を占めて、もう一度触りにきたので、なつみはひらりと華麗にかわして逃げた。
「しっしっ」
イタズラなおててに、あっちいけを。
「ふーむ、これだけ普通にしてられるってことは、はぁっ❗️睡眠薬飲まされたの、本当だったってことですか❗️こわっ🫢」
「せやから、そう言うてるやん」
両方のほっぺをむにっと寄せて、「こわーい」と言っているなつみを、市丸はまじまじと見て、考えた。
「なぁ、このことしばらく黙っとった方がええと思うで」
「せっかく変身できるのにですか?まぁ、うさぎになれるからって、あんまり役に立たないでしょうけどね」
「うん。隠し芸用にあっためとくべきやで。他にも変身できること増やしてやなぁ」
「例えば?」
「ボクとか」
「ケッ」
なつみは乗り気になれないらしい。
「隊長の髪の毛なんか食べたくないですよぉ」
「髪の毛やなくてもええやろ。涙とかではあかんの?」
「わかりませんよ、そんなの。てか、よく自分の涙を他人に飲まそうなんて思いますね😑」
「唾液でもええなら、京楽さんにはなれそうやな」
「なってどうするんですか。隊長の代わりなんか、ぼくに務まらないですよ。声はぼくのままみたいですし。しゃべったらバレますね」
「そうかー。おもんな」
「💢」
うさぎパンチ👊
「真面目な話。ほんま、ボクらだけの秘密にしといた方がええわ」
パンチパンチ❗️も腕が短いわ、回らないわで、ただの小暴れ。市丸がなつみを抱き上げた。
「隊長がおっきい🐰」
「なつみちゃんがちっこいんよ。あんな、藍染隊長と東仙隊長にこの能力が見つからんかったら、上手いことこっそりここを抜け出せるかもしれへんのよ。フフッ、もふもふやな」
「お主もワルよの〜。って言いたいとこですけど、ぼくは虚圏から出る方法を知らないんですよ。こっそりできても、ひとりではどこにも行けません」
あぐらの上に座らせてもらった。
「ボクが連れてったるやん」
「さっきダメって言ったじゃないですか」
「隠して歩かれへんから。けど、これなら、服の中に入れるんとちゃう?」
胸元を広げてみせる。
「えー?どうですかね」
なんて言いつつ、誘われるままとりあえず入っていく。
「くすぐったいなぁ😊」
「我慢してくださいー」
「はーい」
腹にふさふさが当たる。そのふさふさが胸元から顔を覗かせた。
「変に膨らんでるから、バレません?」
「頭出すからあかんのやろ」
「そんな問題じゃないですよ。第一、居心地が悪いです」
「これでキミも有袋類やなー」
「コアラじゃなく、カンガルーですね。大きさ的にワラビーか。クォッカっぽく、笑っときましょうか」
クイッと口角を上げてみた。
「ちょっとムリあったなぁ」
「んなっ❗️」
クォッカに見えないのか❗️
「そうやのぉて、こっそりお散歩計画」
「あぁ」
納得のなつみ。市丸に手を借りて、服から出てきた。
「他の方法考えなな」
「ぼくは、上手な戻り方を覚えなきゃ。今すっぽんぽんなんですよ」
「あら、えっち」
「おっぱいここですよ」
「見せんでええ」
「それはさて置きですよ。人からうさぎは縮むだけなんで、脱ぎっぱなしだし、毛むくじゃらなんで、すっぽんぽんでも平気なんですけど、うさぎから人はね、これ、どうやってうまいこと服を着たら良いのかって感じですよ」
「失敗してポロリしてまうかもなぁ」
「そのときは見せませんけど」
「見せてもええけど」
キック💥
「それはちょっと痛いなぁ」
やっぱりうさぎは脚である。
「絨毯に魔法かけたように、服も動かしたったらええやんか」
「あぁそっか、なんて思っても、斬魄刀を握らないと始解できませんよ」
「握れるやろ」
「んー…」
まるーい手を不安げに見る。
だが、物は試しであるため、脱いである服を捲って、斬魄刀の柄を手で挟んでみた。すると。
シュウゥゥゥ…
みるみる刀身と柄が縮んでしまった。
「わぁ❗️ちっちゃくなった❗️抜けます❗️」
バックして抜刀。
「おぉ〜✨」
「斬魄刀の大きさは、霊圧によって自由に変えられるんよ。って、学校で習ったやろ」
「あ〜…、そうでしたっけ」
「キミが優等生やったなんて、信じられんわぁ。大事なこといっぱい忘れてしもてるやんか」
「隊長はよく覚えてますね。100年ちょっと前のたった1年間教わっただけなのに」
「今のは知識いうより、常識や」
「むぅ❗️ビビディバビディブー❗️」
ヤケに始解をした。
「舞踏会へ、お出かけですか?(笑)」
ふわーっと中に風が吹くように、なつみの服が人の形に膨らみ、起き上がった。
「こういうオバケいそうやな」
「ヤなこと言わないでください。斬魄刀、持っててくださいね」
「はいはい」
首と手足の無いヒトガタは、腕は軽く万歳、脚を伸ばした状態で座る姿勢になった。そこへ、上の裾を捲って入っていくなつみ。
「よっと」お尻の空間に座る。「戻りまーす」
ニョキッ‼️
「やったー。どっこもポロってなーい🙌」
「上手上手👏」
しかし。
「さすがに履き物はスポンといかなかったですね」
「せやね。おもくそ向こうに飛んでったわ」
「歩いて帰ってきて〜。ごめんね〜😅」
元の姿に戻った勢いで、密かにスタンバイしてくれていた靴と靴下が、市丸の両脇を通り過ぎ、ぽーんと蹴飛ばされてしまっていた。斬魄刀を返してもらい、靴たちにも帰ってきてもらった。
「変化の術に適した服装まで考えなきゃいけませんね」
「ワンピースやな」
「ありったけぇの、ゆーめを〜、かきあぁつーめ〜」
そこまで来てくれた靴下と靴を履く。
「それか、ずーっとボクの前でだけにするかや。そしたら着替えのこと考えんでも、ええんとちゃう?ボクを癒すか、一緒にお散歩するかしか、うさぎさんにできること無さそうやもんね」
「隊長のうさぎに『さん』付けするの、かわいいですよね」
「計算や」
「こわっ❗️なんか、こわっ❗️」
「ええから。もうそろそろ帰ろか。絨毯動かす元気残ってるん?」
「モリモリ〜💪」
「ほな、前向き。念のために、後ろから力分けたるわ」
「ありがとうございます😄」
再び絨毯が生命を宿し、ふたりを乗せて虚夜宮へと飛んで帰っていった。
「おいでおいでおいでおいでパンダ パンダ
おいでおいでおいでおいでうさぎ うさぎ
おいでおいでおいでおいでコアラ コアラ
パンダ うさぎ コアラ」
「なつみちゃん、パンダも好きやんな」
「死覇装をパンダ色と呼ぶならば、コアラになる日も遠くなさそうですね」
「泊まればいいのに」
自分の部屋から絨毯を巻いて持って、廊下を歩くなつみは、口を尖らせてぶーぶー文句を垂れる。
「ボクかて帰りたないわ。けど、しゃーないんよ」
「じゃあ、こっそりぼくを連れて帰ってください」
「それもあかんの」
「むー」
階段まで来ると、なつみは上に、市丸は下に行こうとした。
「あれ?降りるんとちゃうの?お外でピクニックするんやろ?」
「へへーん。上に行くんですよ、隊長。夜の砂漠を散策するっていったら、あほーにゅーわーしなきゃ☝️」
「あほ?(笑)」
言われるがままなつみについていった市丸は、ベランダに出てきた。
「よいしょー」
絨毯を足元に広げ、なつみは斬魄刀を抜いた。
「叶え、夢現天道子。この絨毯に魔法をかけて」
願いを聞き受けた絨毯に、生命が宿る。
ぴょこ、ぴょこ、ぴゅーんっ💨
四隅が起きると、それは元気に宙返りして、空を飛び始めた。その上になつみがスタッと跳び乗る。
「ぼくを信じろ」
「何やて?」
「ぼくを信じろ」
市丸に、斬魄刀とは逆の手を差し伸べるなつみ。
「何でボクがお姫様側やねん」
ノリが悪い市丸にガクッとくる。
「良いから、乗ってください‼️✊」
「はいはい(笑)」
アラジンなつみの手を取って、ジャスミン市丸が乗ると、絨毯は急発進してふたりはくっついた。
「「わぁっ💦」」
ジャスミン市丸に身体を支えてもらったアラジンなつみ。
「びっくりしたー」
「ちゃんと操縦してや」
「すいません😋」
空飛ぶ絨毯は虚夜宮を出発して、上昇して離れていく。
「I can show you the world
Shining, shimmering, splendid
Tell me, princess, now when did
You last let your heart decide?
I can open your eyes
って、市丸隊長がおめめ開けてるの、あんまり見ませんよね」
「見たいん?」
「ふふ、どーっちでも〜」
「なんやの、その言い方ー」
戯れ合うのが楽しい。笑い合うのも。
なつみはどこに向かっているのだろう。
「屋根を置くには、柱や壁が要ります」
「せやね」
「いちばん端っこはどの辺が良いんですかね。街いっこ分の広さにするから、半径でも、とっても長くなって…」
「大変なことやね」
「なんだか…。世界のはじまりを見てみたい気分です。お手本にしたいなぁ。太陽の作り方、空の作り方、雨の降らせ方、植物の育て方、生き物があったかいところで暮らせる場所の作り方。神様って、創造主さんって、すごいですよね。初めてなのに、何でも知ってて、何でも上手にできて」
きゅうと後ろからなつみを抱き寄せてあげる。
「ごめんな。こないな、とんでもないこと、ぽんて任せてもうて。藍染隊長は無茶苦茶や。なつみちゃんのこと、魔法使いやと思てる。何でも叶えてくれるて」
「頼ってもらえるのは、嬉しいことなんですけどね。けどたぶん、藍染隊長は建物建てて欲しいって言ってるだけなんですよ。ぼくが尸魂界でしてたような。畑とか、ましてや太陽とか、考えてないんです。ぼくが勝手にやろうとしてるだけ。虚圏は虚圏で綺麗だけど、良くなる余地がありそうで。ぼくの理想を映し出してみたいんですよね。ぼくが良いと思うものを、みんなに見せてあげたいなーって」
「なつみちゃんは、空の色が変わってくの見とるの好きやもんね。キミにとって、ここは色が足りんのやろ。せやなぁ…、もしかしたらここは、神様にとって予期せんかった、影の部分かもしれへんで。神様も、なつみちゃんみたいに、こんな世界におってみたいって思て、いろんなもん造ってみたけど、命が好き勝手動き出してしもて、幸せが届きにくい場所が知らんうちにできてしもうたんかもしれへん」
もしくは、ただ会いたくてきっかけを作っただけかもしれない。自然は自然と、偶然が重なって築かれただけなのかも。
「それが虚圏?」
「そんだけとちゃうかもしれへんけど、なつみちゃんがここを照らそうとしとんのは、ええことやと思うで。やりたいようにやって、みんなの幸せ追っかけたったらええわ」
「幸せは、人それぞれですけどね」
「ボクはなつみちゃんが笑ってくれたら、幸せや」
「今は怒ってますよ!」
「はいはい」
思い出し怒りにクスクスするふたり。
「せや、なつみちゃん」
「何ですか?」
「しばらくしたら、ボクらもこっちに住むことになるやん。あのふたりはどう言うかわからんけど、ボクの部屋をな、なつみちゃんに用意してもらいたいんよ」
「あぁ、良いですよ。やっときます」
「ありがと。ごめんな、他で忙しいのに」
「大丈夫ですよ。で、どんなお部屋ご所望なんですか?」
「なつみちゃんと一緒の部屋がええ」
「…、んと、部屋の広さですか?インテリアですか?」
「ちゃう。なつみちゃんと一緒に寝たいっちゅーこと。また2人暮らししたいんよ」
「は…?😑」
プロポーズの一歩手前のようなセリフに、ときめくどころか、呆れるなつみ。
「女に戻った途端に追い出したの、どこの誰でしたっけ?」
市丸のお腹に、肘で軽くデュクシデュクシする。
「あれは、美沙ちゃんとこ帰したらなって思っとったからやんか」
「異性とは暮らせないからって聞きましたけど」
「誰に」
「京楽隊長に」
「適当言うただけやろ」
(絶対ぇウソ)
「兄妹なんやから、仲良う暮らしてけるに決まってるて。それに、なつみちゃん、ひとりぼっちでさみしいやろうし。添い寝したげたいんよ」
「市丸隊長がさみしいだけでしょ」
ぼそっ。
「フフッ、それも」
(わぉ、白状した)
「なぁ、ええやろ?お部屋一緒にしよ」
なつみは、甘えん坊お兄ちゃんに細い視線を送った。
「ツインですよ」
「何でや」
「何でって!ぼくには恋人がいるんです!ひとつのベッドにふたりで寝て良いわけ無いじゃないですか!」
「ケチんぼ」
「京楽隊長は、やきもち焼きさんなんです。ただでさえ、お別れも言えずに来ちゃって、拗ねてるかもしれないのに、市丸隊長と一緒に寝てるなんて知られたら、怒らせちゃいますよ!ダメです!シングルベッド2台のお部屋で、別々に寝るんです!それなら一緒のお部屋で良いですよ😤」
「…、まぁええわ。くっつけるだけやし」
ぼそっ。
「ダぁメですってぇ‼️✊」
随分と遠くまで来たようだ。絨毯に着陸させ、なつみは術を解いた。市丸の方を向く。
「この距離で、ぶわぁーって壁建てて、一周して、天井塞いで、ドーム造っちゃうの、良いアイデアだと思いません?」
「ええんとちゃう?途方もない作業になりそうやけどね。神殿造るよりも、もっと規模が大きいやん。えらい、人手と時間かかりそうやな」
「大丈夫ですよ❗️(ぼくが無茶をすれば良いだけです)」
言葉の裏側も、市丸には聞こえてしまっている。
市丸はなつみの頭を静かに撫でてあげた。
「その顔のせいですよ」
「え、…何が?」
言われて、市丸の手が止まる。
「今なら、ちょっと訳がわかりますけど、ずっとぼく、隊長のこと心配してたんです。だから変身できるようにしたんですよ」
「ちょっ、どういうこと」
なつみは、予想だにしなかったことを話し始めた。
「あれは薬の作用で偶然やて」
「その話がよくわかんないんですけどね。きっと、ぼくが変身の練習をして、成功して、やたらと霊力を使っちゃったから、タイムトラベルするくらい疲れちゃって、やたらと寝ちゃったんだと思うんですよ、たぶん。ぼくに嫌がらせしたくて、お寝坊させるために睡眠薬飲ませるなんて、くだらなすぎて、あり得ませんよ」
話を聞いても、首をかしげる市丸。
「せやけど、うさぎさんになってたこと、驚いとったって聞いたで。『何で、うさぎ⁉︎』みたいな反応したんやろ?起きたとき」
頷くなつみ。
「はい。そうなんです。ぼく、驚きましたよ。うさぎになんてなる気なかったのに、ザエルアポロに後から映像見せてもらって、もうビックリ。本当にうさぎになってたんですね」しみじみひとりで頷きながら言う。「コアラになる予定だったのに」
「コアラ⁉︎」
I could open your eyes.
「えーっと…、ボクのために、コアラになろうとしとったん?」
「はい❗️」
「…、そらまた、何で💧」
腰に手を当てて、胸を反らせる、えっへんな態度でお答えする。
「市丸隊長を癒してあげようと思って‼️」
「あー…、そう😅」
「失敗しちゃいましたけどね。ぼくは間違えちゃいました😩」
しょぼん。
謎はまだ半分も解けていない。しかし良かった。虚夜宮の監視から遠く離れたこの場所で、この事実を聞けたのは幸いだった。
「ボク、そんな心配させるぐらい、変に見えてたん?」
「はい。みんなは気付いてないでしょうけど。なんか、悩み事があるような、寂しい感じもあるような、そんなお顔をたまに見かけるんです。ずーっと前から。けど、それが深刻さを増した気がして、何とかしなきゃって思ったんです。どうせ、『何があったんですか?』なんてきいても、正直に答えてくれないでしょうし、ぼくなんかに相談してくれるわけないですから、そばにいて、寄り添ってあげることしか、ぼくにはできないので、でも、居るだけじゃ足りない気がして、それで、心安らぐ方法を見つけようと思い立ったんです」
「それが、コアラになること?(笑)」
「もふもふに触れば、確実に癒されます。緊張した心も緩んで、ストレスから一時的に解放されて、何か新しい考えが降ってくるかもしれないじゃないですか。名案だと確信しましたね」自信たっぷりの言い方。「今思えば、そのお悩みって、ぼくのこの誘拐ドッキリ作戦だったんじゃないかって感じですけど。だったら、勇気出して『どうしたんですかぁ?』ってきけば良かった‼️😖」
クソゥッ、と拳を振り落とす。
「きかれたかて、言わんけど」
「クソゥッ‼️はぁ…、だからぼくは怪しさに気付いていたんですね。ターゲットがぼくだから。もー、狙われてたのかぁ‼️」
悲しい事実を悟り、なつみは頭を抱えた。
なつみが何故、市丸といることにこだわるのか、そのヒントを見られ、それだけでも癒されるようだった。
「なつみちゃん…。ようボクのこと、見てくれてんねやね」
「当たり前です。好きですから。隊長として、兄として。大切な人なんですから、支えたいのは当然ですよ。ツラそうなお顔は、見たくありません」
「ありがとう」
今度は正面から、すっと抱きしめてあげた。
「はわわ///」
「コアラさんやなくても、そのまんまのなつみちゃんで充分、ボクは癒されるで」
「んー…、それじゃ、変化の術の練習した意味無くなっちゃいますよ。もったいないなー」
「なぁ、そのこと、もうちょい詳しく聞かせてくれへん?変化の術て何?なつみちゃんの斬魄刀の能力とちゃうの?どないして、コアラを選んだのかも気になるわ」
身体を離した。
「ふふん。話せば長くなるというヤツですよ☝️」
なつみは語り出した。
「始解ができるようになる前のことです。ぼくは本屋さんで、1冊の本に目が止まりましてね。『猿でもできる変化の術入門書』って書いてあったんです。止まりますよね。『へんげ』って。
ぼく、その術使えば、男になれると思って、中身見ずにすぐ買っちゃったんです。そしたら、なんとその変化の術、なりたい対象の一部を、自分の中に取り込まないといけないらしくて。それって、そのなりたいものの遺伝子の構造を元に、変身するってことなんで、仮に尾田の髪の毛プンッて抜いて、むしゃむしゃ食べて術を使うと、ぼくが尾田になっちゃうってことなんですよ。ぼくは別に誰かになりたいわけじゃなくて、性転換したいだけだったから、『使えないじゃん、この術』って思って、1回読んだだけで、その本売っちゃったんです。でもいちお、何かに使えるかなーと思って、念のために、大事なとこはメモに書いて残しておいたんです。
そのメモを今回引っ張りだしてきまして、もふもふに変身して、市丸隊長を癒してあげよう大作戦を決行したんです。
まぁ、変化の術をするって決める前に、イケちゃん先輩にお話を伺ってたんですけどね。どのもふもふが最強ですかって」
「コアラがええって教わったん?」
「ダントツで」
「へぇー」
「オーストラリアに行って、触ってきたんですって。ズルいですよね、あの人。
イケちゃん先輩は現世で旅行できますけど、市丸隊長はお忙しいので、そんな遠くまで連れ回すなんてできないじゃないですか。イケちゃん先輩に言ってやりましたよ。尸魂界でコアラに会うなんて無理だから、参考になりませんって」
「そしたら?」
「そしたらなんと、尸魂界にも、確実にコアラと会える場所があるって言うんですよ。知ってます?動物園とか水族館で飼育を担当していた方たちが集まるコミュニティがあるの。ぼくそこ知らなくて。教えてもらって行きましたよ。ちゃんといました、コアラ。もう、やっばい。もっふもふなんですよ。ただ、大人コアラだったんで、だいぶユーカリが馴染んでるお顔してましたけど。ふふっ。
でもぉ、考えたんですよ。あんまり触ってるとコアラにストレスかかるから、ふれあうのちょっとしかできないなって。隊長の悩み方は、そんな短時間じゃフニャッてならないんじゃないかって。そこで、ふと変化の術を思い出したんですよ。ぼくがコアラになっちゃえば、いくらでも隊長に触らせてあげられるじゃないかと❗️
コアラがいた近くの地面を探して、こっそり毛を持って帰ってきました。それを、ウェイッと飲み込んで、準備万端です。もちろん洗いましたよ、いちお。あとは、ニンニン念じるだけ。
それなのに、うさぎになっちゃうなんてなぁー。同じ色だから気付かなかったんですよね。コアラの毛だと思ったのが、うさぎの毛だったんですよ😩」
それがなつみがやらかした間違い。
市丸は、そのコミュニティを知っていた。だから、あんなに早く灰色のうさぎを替え玉として用意できたのだ。もしかしたら、なつみが摂取した毛は、あのうさぎの兄弟のものだったかもしれない。
「フフフフフッ、なつみちゃん、おもろいわ」
変身が、身体に起きた不具合ではなかったと明かされたうさぎ化の謎。市丸は確認してみたくなった。
「ザエルアポロに、うさぎさんになっとるときの映像見せてもらったんやんね。そんとき、『ほんまはコアラになるはずやったのにー』て、言うたん?」
「いいえ。『マジうさぎじゃん‼️』くらいですかね。コアラのことは言ってません。寝込んじゃうほどなんで、実用的じゃないんですもん。変身できるって、まだ自慢できませんよ」
「なら、ボクしか変化の術のこと知らんてこと?」
「はい。市丸隊長のためにしたことなんで、白状しました。ご心配おかけして、申し訳ありませんでした」
仰々しく、大きく腕を回してから土下座をした。
「もぉ。頭上げ。ボクらはキミに断りなく、長期任務を課したんやから。おあいこや。ボクこそ、ごめんやで」
市丸もすっと頭を上品に下げた。
「くるしゅーないぞょ」
市丸の言葉の間に身体を起こしていたなつみの、なんと大きな態度。右手をひらひらさせて、高貴に振る舞う。
「クククッ、何様や」
市丸は、ツーンとなつみのおでこをつっついた。
「あたーっ💦弟様や❗️」
そう言って思い出した。
「そうだ!隊長、ぼくの義骸も持ってきてくださいよ。男の方の。そしたら、男湯も女湯も入れるようになるので♨️」
「イヤやー。地味にデカいし、重いんやもん」
「食材たくさん運んできてくれたじゃないですかー」
「それのついでになるんやろ?お荷物や」
「ぶーぶー」
「それよか、うさぎさんに変身してみてや。男の子なつみちゃんより、うさぎさんなつみちゃんに会いたいわ。ほらほら、もふもふさせてー」
「えー」
お願いされたが、なつみは嫌そうだった。
「また寝ちゃいますよ」
「ええやん。今日はもう帰って寝るだけなんやし。大丈夫やって。もし寝てもうても、ボクが抱っこしながら回復させたるから」
「……どうしても今ですか?」
「どーしてもや。あー、なんや、急にイライラしてきたわ。こんなときは、小動物とふれあって、癒されたくなるなぁ。おらんかなー、かわいいもふもふ」
下手な演技だ。
「わかりましたよぉ。どうなっても知りませんからね」
「わーい」
なつみはやれやれとため息を吐いた。
背筋を伸ばして、姿勢を正す。目を閉じて集中し、内側から力を湧き上がらせる。手は人差し指を握って、ニンニン。
ドロンッ
術の発動で、なつみの身体は一瞬で消えてしまった。中身が無くなった衣類がシュゥと落ちる。
もぞもぞもぞ
その落ちた衣類の中でうごめく。
「おお、おおー。起きてるぅ❗️」
しわしわの服に包まれ、出口を求めて、ぴょこぴょこ頭を上げたり下げたり。襟元か裾が無いかと探っている。
「出れないー。助けてください、隊長❗️」
「はいはい。こっから出ておいで」
襟元を軽く持ち上げて広げてあげた。
「ありがとうございます😊」
そっと下ろすと、長い耳が現れ、その後からひくひくと動く鼻をもたげた丸顔のうさぎが出てきた。おめめはパッチリ。
「隊長❗️変身できましたよ❗️」
「ほんまやねぇ」
二本足で立ち、頭を大きく横に一度振って、片耳をキャッチ。
「わぁ❗️耳長ぁい」
その手も灰色の毛むくじゃらだ。腕は短い上に、指など無いようなものだった。
「隊長、隊長。ぼくしっぽ付いてます?」
お尻を見るのも一苦労。
「付いてるで。ここにちっこいのが」
摘んでみると。
「はぎゃッ‼️///」
うさぎはビクッとした。
「変な触り方しないでくださいよ‼️」
「なんや。感じてもうたん?(笑)」
味を占めて、もう一度触りにきたので、なつみはひらりと華麗にかわして逃げた。
「しっしっ」
イタズラなおててに、あっちいけを。
「ふーむ、これだけ普通にしてられるってことは、はぁっ❗️睡眠薬飲まされたの、本当だったってことですか❗️こわっ🫢」
「せやから、そう言うてるやん」
両方のほっぺをむにっと寄せて、「こわーい」と言っているなつみを、市丸はまじまじと見て、考えた。
「なぁ、このことしばらく黙っとった方がええと思うで」
「せっかく変身できるのにですか?まぁ、うさぎになれるからって、あんまり役に立たないでしょうけどね」
「うん。隠し芸用にあっためとくべきやで。他にも変身できること増やしてやなぁ」
「例えば?」
「ボクとか」
「ケッ」
なつみは乗り気になれないらしい。
「隊長の髪の毛なんか食べたくないですよぉ」
「髪の毛やなくてもええやろ。涙とかではあかんの?」
「わかりませんよ、そんなの。てか、よく自分の涙を他人に飲まそうなんて思いますね😑」
「唾液でもええなら、京楽さんにはなれそうやな」
「なってどうするんですか。隊長の代わりなんか、ぼくに務まらないですよ。声はぼくのままみたいですし。しゃべったらバレますね」
「そうかー。おもんな」
「💢」
うさぎパンチ👊
「真面目な話。ほんま、ボクらだけの秘密にしといた方がええわ」
パンチパンチ❗️も腕が短いわ、回らないわで、ただの小暴れ。市丸がなつみを抱き上げた。
「隊長がおっきい🐰」
「なつみちゃんがちっこいんよ。あんな、藍染隊長と東仙隊長にこの能力が見つからんかったら、上手いことこっそりここを抜け出せるかもしれへんのよ。フフッ、もふもふやな」
「お主もワルよの〜。って言いたいとこですけど、ぼくは虚圏から出る方法を知らないんですよ。こっそりできても、ひとりではどこにも行けません」
あぐらの上に座らせてもらった。
「ボクが連れてったるやん」
「さっきダメって言ったじゃないですか」
「隠して歩かれへんから。けど、これなら、服の中に入れるんとちゃう?」
胸元を広げてみせる。
「えー?どうですかね」
なんて言いつつ、誘われるままとりあえず入っていく。
「くすぐったいなぁ😊」
「我慢してくださいー」
「はーい」
腹にふさふさが当たる。そのふさふさが胸元から顔を覗かせた。
「変に膨らんでるから、バレません?」
「頭出すからあかんのやろ」
「そんな問題じゃないですよ。第一、居心地が悪いです」
「これでキミも有袋類やなー」
「コアラじゃなく、カンガルーですね。大きさ的にワラビーか。クォッカっぽく、笑っときましょうか」
クイッと口角を上げてみた。
「ちょっとムリあったなぁ」
「んなっ❗️」
クォッカに見えないのか❗️
「そうやのぉて、こっそりお散歩計画」
「あぁ」
納得のなつみ。市丸に手を借りて、服から出てきた。
「他の方法考えなな」
「ぼくは、上手な戻り方を覚えなきゃ。今すっぽんぽんなんですよ」
「あら、えっち」
「おっぱいここですよ」
「見せんでええ」
「それはさて置きですよ。人からうさぎは縮むだけなんで、脱ぎっぱなしだし、毛むくじゃらなんで、すっぽんぽんでも平気なんですけど、うさぎから人はね、これ、どうやってうまいこと服を着たら良いのかって感じですよ」
「失敗してポロリしてまうかもなぁ」
「そのときは見せませんけど」
「見せてもええけど」
キック💥
「それはちょっと痛いなぁ」
やっぱりうさぎは脚である。
「絨毯に魔法かけたように、服も動かしたったらええやんか」
「あぁそっか、なんて思っても、斬魄刀を握らないと始解できませんよ」
「握れるやろ」
「んー…」
まるーい手を不安げに見る。
だが、物は試しであるため、脱いである服を捲って、斬魄刀の柄を手で挟んでみた。すると。
シュウゥゥゥ…
みるみる刀身と柄が縮んでしまった。
「わぁ❗️ちっちゃくなった❗️抜けます❗️」
バックして抜刀。
「おぉ〜✨」
「斬魄刀の大きさは、霊圧によって自由に変えられるんよ。って、学校で習ったやろ」
「あ〜…、そうでしたっけ」
「キミが優等生やったなんて、信じられんわぁ。大事なこといっぱい忘れてしもてるやんか」
「隊長はよく覚えてますね。100年ちょっと前のたった1年間教わっただけなのに」
「今のは知識いうより、常識や」
「むぅ❗️ビビディバビディブー❗️」
ヤケに始解をした。
「舞踏会へ、お出かけですか?(笑)」
ふわーっと中に風が吹くように、なつみの服が人の形に膨らみ、起き上がった。
「こういうオバケいそうやな」
「ヤなこと言わないでください。斬魄刀、持っててくださいね」
「はいはい」
首と手足の無いヒトガタは、腕は軽く万歳、脚を伸ばした状態で座る姿勢になった。そこへ、上の裾を捲って入っていくなつみ。
「よっと」お尻の空間に座る。「戻りまーす」
ニョキッ‼️
「やったー。どっこもポロってなーい🙌」
「上手上手👏」
しかし。
「さすがに履き物はスポンといかなかったですね」
「せやね。おもくそ向こうに飛んでったわ」
「歩いて帰ってきて〜。ごめんね〜😅」
元の姿に戻った勢いで、密かにスタンバイしてくれていた靴と靴下が、市丸の両脇を通り過ぎ、ぽーんと蹴飛ばされてしまっていた。斬魄刀を返してもらい、靴たちにも帰ってきてもらった。
「変化の術に適した服装まで考えなきゃいけませんね」
「ワンピースやな」
「ありったけぇの、ゆーめを〜、かきあぁつーめ〜」
そこまで来てくれた靴下と靴を履く。
「それか、ずーっとボクの前でだけにするかや。そしたら着替えのこと考えんでも、ええんとちゃう?ボクを癒すか、一緒にお散歩するかしか、うさぎさんにできること無さそうやもんね」
「隊長のうさぎに『さん』付けするの、かわいいですよね」
「計算や」
「こわっ❗️なんか、こわっ❗️」
「ええから。もうそろそろ帰ろか。絨毯動かす元気残ってるん?」
「モリモリ〜💪」
「ほな、前向き。念のために、後ろから力分けたるわ」
「ありがとうございます😄」
再び絨毯が生命を宿し、ふたりを乗せて虚夜宮へと飛んで帰っていった。
「おいでおいでおいでおいでパンダ パンダ
おいでおいでおいでおいでうさぎ うさぎ
おいでおいでおいでおいでコアラ コアラ
パンダ うさぎ コアラ」
「なつみちゃん、パンダも好きやんな」
「死覇装をパンダ色と呼ぶならば、コアラになる日も遠くなさそうですね」