第九章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
現れた速さからして、振り向いて構える時間は無いと思ったなつみは、縛道でバリアを張った。
「うわあッ‼︎⁉︎」
張ったのだが、押し飛ばされてしまった。
攻撃をされたわけではない。その者が放った霊圧が予想を超えてとてつもなく、身動きひとつしていないのに、衝撃に襲われてしまったのだ。その圧力は威嚇のために放たれた短いものではなく、敵と対峙するとき、集中するときにいつも出しているものなのだろう。感情の昂りは無く、状況を把握しようとしているだけの表情に見えたから。
「ぐうぅッ…」
霊圧に押されて、周りの死体から血が搾り出される。
「強すぎるッ」
圧倒されながらも、なつみはなんとか堪えていた。
「あんた、死神か…?」
虚が話しかけてきた。
「あたしを倒しに来たの?あんたじゃ無理だから、帰った方が良いよ」
霊圧ごときを防ぐだけで必死であるからなのか、見た目からなのか、それとも、その虚にとって戦いに美学でもあるのか、とにかくなつみは弱いと判断された。
「ふんぬぬぬぬぬッ💢」
言われた言葉に、なつみはブチ切れた。
「ぼくを、子ども扱いするなァァァァァアアアアアーッ‼️‼️‼️💢」
ドゴォォォォオンッ
ムキになってなつみも霊圧を上げてやった。嬉しいことに、虚は腕を顔の前にやり、若干押された。この虚、かなり人型に近い。
「あなたの仲間はどこ‼︎まとめて相手してやるんだから‼︎ぼくはここに水脈を探しに来ただけだけど、ケンカ売ってくるなら、喜んで買ってやるぞ‼︎」
なつみは興奮して言ったが、虚の方はいたって冷静だった。
「水脈……?何のことかわかんないけど、戦いに来たんじゃないなら、良いや。ここには死体の山しか無いよ。用が無いなら早く出てって。こいつらみたいになるよ」
「脅してんの?ぼくは、馬鹿にされたからって、逃げ出すようなマネはしない!そんなことして負けたりしないもん!絶対誰にも負けないって、隊長と約束したんだから!あなたがぼくを弱い者扱いしたこと謝るまで、帰らない‼︎」
確実に、態度からしてなつみよりも断然この虚の方が強いのが明らかだが、なつみは怯まない。なつみへの小さい子扱いは、それほどまでに罪深いのだ。恐怖よりも、怒りが勝る。
「隊長…。お前の仲間か」
「そうだよ!ぼくの絶対の味方だよ!」
(味方……)
虚は首を動かし、視線を静かに死体の山へ向けた。
「あなたの仲間はどこなの。こんなにたくさん殺して、ひとりでやったわけじゃないでしょ。こんなの酷いよ。食べずに、ただ積んでおくだけなんて。何のためにこんなことができるの。下らない理由だったら、ぼくは怒る。あなたたち全員まとめて説教してやる!命を無駄にして、弄んで、最低だよッ!」
死体から、込み上げる感情を伝えてくるなつみに視線を戻す。
「あたしは独りだ。全部、あたしがやった」
「嘘」
「本当だよ。誰もいない」
その声色に、異常なほどの寂しさを感じ取ったなつみは、思わず構えを解いた。
「あたしを倒しにきたんじゃないなら、あんたとは戦わない。あんたが帰らないって言うなら、あたしが帰る。悪かったな、早とちりして。あんた、そこそこ強いよ」
虚が背を向けて立ち去ろうとした。だからなつみは斬魄刀をしまい、その背中に声をかけてしまった。
「待って!」
「?」
振り返ってくれた。
「待って。ぼく、あなたとは戦わないけど、もうちょっとお話しがしたいから、まだ帰らないで。謝ってくれて、ありがとう。もう、怒ってないよ。どうして、こんなことをしてしまったのか、話してほしい。知りたいんだ、あなたのこと。きっと、辛いことがあったんでしょ。だから」
「あんた」
まだ話していたが、途中で遮られた。
「どうしてあたしを斬らないの?死神のくせに」
「え、…だって、斬られたら、痛いじゃん」
「グフッ」
なつみは正直に答えただけなのに、虚は笑ってしまった。
「あははははっ!あんた、変なの!痛いけどさ、はははっ、あたしら敵なんだから、普通殺すでしょ!はははっ!」
「殺すんじゃないよ!魂の浄化をしてるの!それに、ぼくが死神で、あなたが虚だからって、敵だなんて思わないよ。昇華を望まないなら、ぼくはその人の意志を大切にする。誰かに迷惑をかけなければ、虚が虚のままでいても良いと思うんだもん。ぼくたちよりも欲に負けやすいから、大変なことも多いだろうけど、ぼくがお友だちになって、支えてあげるから、みんな大丈夫なの。変じゃないよ!」
また怒ってしまった。
「あんた、もしかして…、木之本なつみって奴か?」
名前を出されて、なつみは驚いた。
「そう、だよ」
「ははっ。やっぱ、変な奴」
歩み寄って来た。しかし、先程放っていた霊圧は抑えられ、なつみが気を張っていれば充分に耐えられるものだった。
「変じゃないよ」
「変だ。変だ。変だ」
戦意は無いが、一応警戒する。
「良いよ。あんたとお話ししてあげる。霊圧、上げたままにしといて」
「な、何する気」
「良いから。言うこと聞いてくれなきゃ、置いて帰るよ」
「む❗️わ、わかった」
集中力を高めようと、なつみは胸のところで手を握り、ぐっと力を込めた。
「ふむむむむ❗️」
「よし」
ニヤリと笑うと、虚はなつみを抱えてその場を去った。
足が浮いたと思ったら、あっという間に着いたのだが、恐る恐る目を開けると、全く知らない場所にいた。
「ど…こ…😯」
パチパチと瞬き。
「クレーター?」
空から降って来た強い衝撃により、抉られた大地の丸の中。建物2階分ほどは低くなっているだろうか。
「おぅ、なつみム洞窟‼︎」
囲う崖のとあるところに、ひとつの洞窟が空いていた。
(こいつの住処なのだろう。私たちの名前を勝手に付けるな)
「おぅおぅ。そうだね」
「何、独り言言ってんの?入って。ここ、あたしが最近住んでるとこなんだ」
虚は先に洞窟に入っていった。
「ねぇ、名前教えて」
後からついていって、なつみが尋ねた。
「リリネット・ジンジャーバック・コヨーテ・スターク」
「長っ⁉️リジコス洞窟…」
「は?(笑)」
「あ、明かりつけるよね。ぼくやるよ〜」
両手をピストルのように構えると、ドキュンドキュンと指先から赤火砲を繰り出した。洞窟の壁面に火の玉がポコポコとくっつく。イメージとしてはブラケット。
「燃ぉえ〜よ、あの空に燃ぉえ〜よ👆👆🔥」
「便利だな」
トンネルに、ライトの列が並ぶ。
「すっごーい❗️どこまで続くの、この洞窟❗️」
なつみは左脇に霊力を新たに溜めて、フリスビーのように、洞窟の奥へ光を飛ばした。
「それーッ🫴💫」
リリネットの横をすり抜け、光はどんどん進んでいく。
「いや、まっすぐすぎるし、長すぎるでしょ❗️全然突き当たらないね。って、あれ。リリネットちゃん❓👀」
気付いたら姿が無かった。
すると、ズバッと現れた。
「あわッ‼️」
なんと、なつみの投げたフリスビーな光を持って帰って来たようだ。
「あ、ごめん。奥に大切なものか何かあった?変なの投げちゃったね」
住処に傷をつけられると思われたのだろうと思い、謝ったが、そうではないらしい。
「ん、いや、なんか、反射的に追いかけたくなっただけ」
「犬‼️(笑)」
笑ってしまった。確かにリリネットの尻尾がフリフリしている。
「犬じゃねーし❗️狼だし❗️」
光る板をパリンと割った。
「ここ、あたしが掘ったの」
「掘ったぁ⁉️」
衝撃の事実である。
「手でじゃ無いよ。虚閃でドーンッてね、やったらできた。大切なものなんて無いし。別に潰されたって良いよ。また新しいの作るだけだから」
「ひょえ〜…(どんだけ長ぶっといの出しただよ)」
つまり、外のクレーターもドーンッてやったのだろう。
「あたしも魔法使おっかな。なつみ、椅子と机作ってあげるから、下がってて」
「う、うん」
虚が魔法?と思いながらも、なつみは出入り口の方へ下がっていった。
「見てて👆👆」
リリネットもなつみと同様、両手をピストルの形に構え、飛び上がった。
「とうっ❗️」
ズババババババババッ‼︎‼︎‼︎
天井まで上がり、コウモリのように逆さになると、床に向かって指先からから光線を連射した。
「あわわッ‼️⁉️」
砂埃が舞い上がり、とっさになつみは顔を覆う。魔法というよりかは、ただの虚閃だ。
「よいしょーっ‼️😆🌪」
リリネットが降りた途端に回し蹴りをすると、その風圧で砂埃を洞窟の奥に吹き飛ばしてしまう突風が発生した。すっかり視界はオールクリア。
「わ〜😳」
あっという間に。
「掘りごたつ」
「あーとーは」
円形に残したテーブルの下に向け、左右の拳で90°の角度で突いた。
「えいっ❗️えいっ❗️脚入れるとこ、でーきたっ」
瓦礫を取り払い、スルッと、ドーナツ状の椅子に腰掛けるリリネット。
「おいで、なつみ。遠いとこ座って。そしたらあたしの霊圧あんま届かないでしょ」
「うん。ありがとう」
なつみも、斬魄刀を外してから、ちょこんと座った。
「お茶出してあげれないの残念だけど、これくらいのおもてなしで我慢してよね」
「充分だよー。お茶持ってるけど、コップが無いから、分けてあげれないや。ごめんね。でもでも」鞄をごそごそ。「ジャジャーン。おやつはあるよ〜」
袋を掲げる。
「おー👏」
このふたり、もう仲良しのお友だちになっている。
なつみは始解を使う。
「叶え、夢現天道子。これをお皿にして」
ザエルアポロが渡してくれた地図をひらりと投げ上げると、それが独りでに折り畳み、器になった。
「ふんふ〜ん♪」
鼻歌を歌いつつ、袋を開けて、パラパラとおやつを器に盛る。
「今日のおやつはポテチだよ〜❗️😆」
「イェーイ❗️🙌」
「って、あれ?なんか…、割れてる💧」
出したは良いが、できたての頃と比べてやたらと小さくなった1枚1枚。
「あ、ごめん。たぶん抱えてくるとき、あたしが潰してたかも」
「おいぃーっ❗️(笑)」
「ごめんってーっ😝」
怒ってるのに笑ってる。謝ってるのに笑ってる。
「はい、これ、リリネットちゃんの分ね😊」
ムッちゃんの魔法で、すいーっと器がリリネットの前に運ばれる。
「ありがとう🙂」
なつみは袋に残した分をいただく。ぱくっ。
「どーぞ。食べて。うすしお味にしたの」
「こんなの、最後に食べたのいつだろう」パリッ。「……」
「…」もぐもぐ。「コンソメ派だった?😶」
「…ちがうけど」
「わかった。のり塩派だ。食材がさ、揃えにくいんだよー。また今度作ってあげるね」
「ふふん。うん…」
「んふふっ。また今度〜😊」
小さなカケラを分け合って、ふたりは気持ちも分け合う。
「塩、ふりすぎじゃない?」
「そっかなー。そっかー。ぼくはちょうどだけどな」
「ならそっちのちょうだいよ」
「いいよ。そっちのももらうよ」
豆をぽーんと投げるように、不思議な重さを伴って、なつみからリリネットへポテチが飛ぶ。ぱくっ。
「どう?良い塩梅でしょ」
「しょっぱー❗️(笑)」
「ウソだよぉ(笑)」
「ほら、食べてみて」
ぽーん。リリネットからなつみの口に届く。ぱくっ。
「こんなもんだって〜。塩食べるの久しぶりすぎて、口がびっくりしてるんだよ、きっと。ってことにしてあげる😙」
リリネットの明るい性格と桁違いの強さ、そしてあの死体の山をつなげることを思うと、なつみは勝手な想像ではあるが、何があったのかわかったような気がした。ポテチの塩辛さの理由も。
「ポテチ食ったくらいで泣くかよ」
「え⁉️違うの⁉️ウっソだ〜」
「泣いてねーよ‼️うわぁぁぁぁあ😭」
「ぷくくくくッ🤭」
嘘が下手なリリネットは、机に伏して泣き出した。
「泣け泣け。どーんと泣け。ぼくの胸を貸してあげられないのが残念だけど、ちゃんと聞いてあげるから。リリネットちゃんのこれまでを、ぼくに教えて」
仮面の下は大洪水。リリネットは頷いて、話してくれた。
リリネット自身は、その身に宿る力を全く欲していなかった。初めは喰われずに済むから良かったのだが、その強さのせいで招かれる周りで起こる勝手な展開に、リリネットは虚しさを感じていた。誰からも見捨てられ、弱さ故に現世で命を落とすことになった寂しさは、虚になり力を得て、同族たちがいる安心感にも包まれ、かなり救われた気がしていた。だが、虚であることで襲われる魂の渇きが、新たな苦しみとなった。強さを求めること、それが生き残り、仲間を見つける方法であるとされるこの世界。確かにリリネットが望んだ環境だったのだろう。生前見せられてきた世界を生き抜くための手段がそれだったから。望んだ力と環境が得られ、幸せになれるはずなのに、喜びは訪れる度に一瞬で消え去る。すぐに蝕んでくる渇き。潤わないのは、心を失ったためだろうか。
リリネットの強さは弱き者を連れてきた。守ってほしいと頼まれた。親友と呼べる人と楽しく笑い合うことを夢見てきた彼女にとって、寄り添ってくれる者は何であれ嬉しかった。寝食を共にして、誰かといられる喜びを味わう。望んだ世界。
リリネットの強さは血の気の多い者も連れて来た。彼らは虚。ここは虚圏。ギリアンから中級大虚に進化できた者たちは、更に強者の身を欲する。再び個を失う恐怖から逃れようと、食べられまいとする。そして多くの獲物を捕食し、その上の階級へ自らを高めようとする。生き残るために。本能が導くままに。
リリネットのもとにも、そのような虚がやってくる。戦いに流儀は存在しない。食うか食われるか。ただそれだけだ。卑怯だろうと何だろうと、多くの虚を食すことが強化の条件であるため、リリネットが気を逸らせば、そばにいる弱い虚たちが彼らに食われてしまうことはよくあることだった。リリネットの強さに魅かれて、勝負を挑んでくる者もいた。ことごとく、リリネットが勝つのだが。そうして敵から守れた虚たちも、リリネットの強い霊圧に当てられ、抗えずに倒れてしまうのが常。戦っても独り、戦わずとも独り。独りにならずに済むように強さを求めたのに。顔を上げると見えるのは、巡り逢い、そして目の前で死んでいった虚の山。これが理想の世界…?
「あそこにいるの、ツラくて嫌だから、ここに住んでるけど、目立つから、よく誰かが来るんだ。仲間になりたいってヤツなら、迎えにいってやりたいから、さっきもそうしたんだ。そしたら、いたのなつみだった」
「うん」
なつみのことは、集まってきた虚から聞いていたのだ。「虚と仲良くなりたがる、変な死神」の噂。やたらと強いのに、斬りかかっては来ない。昇華を勧めてくるが、強要はしない。「虚は心を取り戻せる」と信じているらしい。自分たちは同じ「人」であるからと。助けを求めれば、必ず助けてくれる。必ず笑いかけてくれる。おかしなことに、敵も倒したりしない。説教が耳に届くまで絶対にそばにいる。彼女と出会えば幸運。あたたかい気持ちを思い出すことができる。彼女が死神であることが不思議なくらい、仲間意識を持ちたくなる。それとも、自分が虚であることを嫌に思うか。リリネットは話を聞いて、なつみに興味を持った。いつか会えたら良いとさえ願った。そしたら。
「わぁぁぁぁんっ‼︎ なつみに会えたぁぁぁあ‼︎」
「うんうん。会えたねぇ」なつみは至って、いつも通りののほほんトーンでお話しする。「ぼくは死神だから、消えちゃうほど弱くはないよ。ぼくは死神だけど、リリネットちゃんと戦おうなんて思ったりしないよ。大丈夫。ぼくたちお友だちになれるよ。ぼくが、リリネットちゃんのいちばんのお友だちになってあげる。ふふっ」
リリネットはお礼を言いたくて顔を上げた。それとすれ違うように、なつみはぱたりと倒れた。
「えっ……。なつみ?なつみー‼︎‼︎」
身体を起こしてやろうと、なつみに近づこうとしたが、自分の霊圧の高まりに気付き、はっとして退いた。
「ごめん。ずっと痛かったの?言ってよ!」
なつみはずるずると力を振り絞って起き上がった。顔は伏せたまま。皮膚が少しずつ捲れて飛んでいってしまっている。血が流れている。
「大丈夫。これくらい。痛くないよ」
鼻がぴくついている。
「嘘つき。早く治さなきゃ。助けを呼んでくるよ。あんたの仲間どこいんの。連れてきてあげる」
リリネットは立ち上がり、出口へと向かう。
「仲間なら、ここにいるよ。助けも、ここにいる」
「は?あたしのこと言ってんの?だったら無理だよ。治し方なんか知らない!」
「大丈夫。力を貸してくれれば良いだけだから」
左手を伸ばすなつみ。
「ぼくを他の子といっしょにしないで。信じて」
と言われても困るリリネット。出口となつみを交互に見る。
「リリネットちゃんも、手を出して。ぼくに霊力を送ってくれないかな」
言われた通りに差し出すも。
「送り方知らないよ」
「大丈夫。できるよ。ぼくに元気になってほしいって思うだけで、できるから」
疑いながらも、リリネットは願った。不安でいっぱいでも。
「ケガ治して!早く!」
言葉に乗って、霊力がリリネットの中から湧き上がり、差し出した右手からなつみへ流れて飛んでいく。その気をなつみが左手で受け止める。
「ほら、できたじゃん。くぁっ…。強ぇな」
左手で力を分けてもらいながら、右手で自分の胸を掴む。
「んんんッ!」
なつみの霊力はリリネットの霊圧に耐えるために、静かに削られていた。それを補うために分けてもらった。力を得たなつみは回道で回復する。みるみるなつみの皮膚は、いつものすべすべぷにぷにに戻っていった。
「むはーっ‼️😆」
両手を高く上げて、元気いっぱいの合図を見せてあげるなつみ。
「ドヤァ‼️✨」
完全復活である。
「すご💧」
改めて思う。
(こいつ、変だ)
「ひひっ。リリネットちゃんがいれば、ぼくはリリネットちゃんといても大丈夫なんだ〜。安心していっぱい泣きなよ。そんですっきりさして、思いっ切り笑ったらイイんだって」
笑顔のなつみは机を叩く。
「こっち戻っといで。良い話聞かせてあげる」
「良い話?」
さっきまで座っていた席へ向かうが、気にして距離を取ってしまう。
「そう。とっても良い話」遠くにいるので、身体を机の方へくっと寄せて前のめりで言う。「リリネットちゃんを破面にするの❗️」
「アランカル?何それ」
破面を知らないらしく、良い話に聞こえてもらえなかった。なつみも「あれ?」となる。
「聞いたことない?(ザエポン嘘言ったのか?)☹️」
強い虚なら、みんな破面になりたがる説。
「知らない」
「まぁいいや。破面っていうのは、仮面を取っちゃった虚なんだけど。人の姿に戻れるんだよ。表情がばっちり見えるようになるんだよ」
「ふーん」特にまだ良いように聞こえない。「顔見える以外良いことあんの?」
「あるよー。破面になれば強くなれるし、お友だちがいっぱいできるよ」
「?」
「ぼくが住んでる虚夜宮ってところ、その地図に書いてあるとこね、その辺には中級大虚とか最上級大虚の破面も住んでるんだよ。何人もね。ぼくの任務はそこ一帯の街づくりなんだけど。生活圏の環境整備のために水脈探しに探検してたんだ。そしたら偶然リリネットちゃんと巡り逢っちゃってさ。水と同じくらいかけがえのないものを見つけた気分だよ😌✨」
(話逸れてるぞ🐥)
「おっと。でね、リリネットちゃんも破面になって、ぼくらと暮らしたらどうかなって思うんだ❗️どう?楽しそうじゃない?あそこなら、リリネットちゃんくらい強い人がごろごろいるから、リリネットちゃんの霊圧にやられちゃうことないはずだよ。ぼくももっと強くなるし💪ここでひとりぼっちより、全然良いよ💪」
「どう〜?😊」と、名案への回答を、肘をついた手に顎を乗せて、上機嫌にゆらゆら揺れながら待ってみた。
「…、めっちゃ良さそう」
「でしょ‼️」
「けどさ…」
「けど?」
膝を抱えて座るリリネットは現実的だ。
「どうやってなんの?破面」
「⁉️😊」確かに‼️「……😊💦」
焦るなつみ。提案しておきながら、肝心のなり方を知らなかった。
「はぁ…」
呆れられてしまった。
「無理矢理捲るんじゃないと思うよ❗️えっとね、そだな、あれよ、藍染隊長にお話してあげる❗️そしたらそのままでも住まわせてくれるかも❗️それか、ザエポンになり方教えてもらって、今度リリネットちゃんにそれしてあげる❗️」
(アイゼン?ザエポン?)
「と、とにかく、そっか。今日連れて帰るってまずいことか。むんむん、そっかそっか。手順を踏まなきゃな」
ひとりで何やら納得しようとしている。
その考え込んでくれる姿に、リリネットは微笑んだ。
「ありがと、なつみ。あたしのために考えてくれて」
感謝を述べられたにも関わらず、なつみは、何を言ってるんだという表情を向けた。
「これはぼくのわがままだよ。お礼なんていらないね」
「ん?どういうこと」
「リリネットちゃん、ぼくと会えたら、ぼくに昇華のお願いしようと思ってたでしょ」
「⁉︎」
「わかるよー。リリネットちゃんはお話しがしたくてぼくをここに連れてきた。ちゃんと聞いてくれる人が欲しかった。リリネットちゃんがいたことを、誰かの中に残しておきたかったからさ。ぼくならって思ってくれてた。だから会いたかった。でしょ?」
「……うん」
「誰にも邪魔されないように、おうちに連れてきた。でもさー、ぼく、それイヤだよ。リリネットちゃんのこと、そんなに急いで昇華したくないって」
「どうして?」
「魂が浄化されて、リリネットちゃんは嫌なことをすっかり忘れられる。だけど、ぼくはリリネットちゃんを覚えてる。この先もずっとね。ああ、あの子にはどれだけの楽しい思い出があったんだろう。生まれてきたことを嫌に思ってたんだろうか。未来に希望を見てくれてただろうかって、ずっと気にしちゃうよ。これはぼくのわがまま。リリネットちゃんには、諦めてじゃなく、幸せを見てから、その幸せを超える幸せを目指して旅立ってほしい。虚になれたことはチャンスだよ。リリネットちゃん、リリネットちゃんはリリネットちゃんの心を持ったまままだ時間を過ごすことができるんだ。無くしたとか、忘れたとか言わないで。ちゃんとここにある」
海燕の受け売り。右手の拳をふたりの間に。
「無いと思うなら、新しく取りに行けば良い。リリネットちゃんはもう独りじゃないよ。ぼくがいる。みんながいる。力を授けられる理由ってわかる?ぼくには持論があるよ。相手がいることは自分の存在を確認できること。愛し愛されるために人は独りではいられない。優れた能力は、その大切な存在をどっちも守るためにある。リリネットちゃんのその強さは、どこかにいる、リリネットちゃんにとって大切な人のためにあるんだよ。まだその人と出会えてないみたいだから、ぼくがいっしょに探してあげたい。そしたらきっと、リリネットちゃんは、リリネットちゃんとして生まれてこられたことに嬉しくなれるはずだからさ。命は恨みじゃなくて、希望を遺して未来に繋げなきゃ。怒ってるより、笑ってる方が楽しいもん😄」
リリネットは泣き出さないように、感情を昂らせないように、膝を抱えて耐えた。
「変なの」
地図の器を取って、残りのポテチを一気に口に放り込んだ。
「塩辛すぎるから、次作るときの味付け係はあたしだからね‼️」
もぐもぐしながらそんなことを言った。
「くふふっ、はいはい。お好きにどうぞ😊」
なつみも袋の中をさらった。
「こんなもんだけどなぁ…😌」
鞄におやつ袋をしまい、斬魄刀を掴んでから立ち上がる。
「よいしょっと。そろそろ帰らなきゃ。ぼく勝負してるんだよ。水脈見っけ競争。負けでも報告はしないとね〜」
お尻に付いた砂をぱっぱと払う。
リリネットも見送ろうと立ち上がった。
「血の川は見つけたじゃん」
「飲み水が欲しいの❗️」
ぱっとなつみが差し出した。右手の小指。
「なに?」
大丈夫と何度も言われても、リリネットは離れていたい。なつみを傷つけたくないから。なのに、なつみはお構いなしにリリネットの小指を掬い上げた。
「あ、こら!」
バリア無しで触れ合えば、霊圧にやられてしまう。リリネットは手を引こうとしたが、なつみの馬鹿力が発動した。
「約束❗️リリネットちゃんは破面になって、ぼくたちとしあわせに暮らす❗️ぜぇーったい‼️」
力を込めて引き寄せたために歪んだのか、それとも他の痛みだったか。
「バカ‼︎無理すんなよ‼︎離せ‼︎」
「だいじょーぶッ‼️」
なつみの太陽のような原動力が霊圧を上げる。だから大丈夫。熱く抱き締めても、もう大丈夫。
「友だちにハグできない世界なんて、ぼくは許さない」
つまり、それに応えなければなつみは許さないと。
「なつみ…」
恐る恐る、リリネットはなつみの背中に腕を回した。
「ほら、大丈夫。怖いことなんか無いよ。リリネットちゃん、あったかいね」
「なつみも、ぽかぽか」
珍しくなつみから他の誰かの頭を撫でてあげていた。
洞窟を出て、クレーターの上に上がってみた。しかし。
「どこー…😓」
虚夜宮から離れたところにあるエリアに到着後、更に遠くへ連れて来られてしまい、完全な迷子である。
「おうちどこー❗️」
呼んでもおうちは返事しない。
「さっきいたとこはあっちだよ」
指を差されても、よくわからない。
「こーなったら、SOSだ❗️」
助けを呼ぶ方法は確認済みだ。鬼道で光の玉を空に打ち上げる。それをザエルアポロが見つけて返事を返せば、万事OK。
「ドーンッ‼️🙌」
虚夜宮の見張り台にて。
「あ!青い光」
「随分遠くまで行ってんな」
「もっと手前じゃなかったか?言ってたの」
「そりゃ、迷子になるわな」
「屋根に上がるぞ。ま、僕だけでも充分だろうけど」
「待てよ。久しぶりに俺もバーッと出してぇ」
「必要以上のことをすると、藍染様のお怒りを買うぞ」
「あぁ?なつみのためなら、許してくれんだろ」
ザエルアポロだけでなく、他にも見物人がいた模様。みんなで屋根に上がり、青い光が上がった方角へ身体を構える。
「せーの」
ズドォォォォーンッ‼︎‼︎‼︎
轟音と爆風を伴って、強烈な光線が虚夜宮からふたりが見上げる上空を駆け抜けていった。
「うわぁッ⁉️」
勢いにやられて、屈むなつみ。
「やりすぎだろ。わかった。おうち、あっちね😅」
虚閃の来た路を目で辿る。
「乱暴なとこ、直させなきゃ」
やれやれとなつみは肩をすくめた。
リリネットはというと、呆然と夜空を見上げていた。
「ね。強い人たちがいっぱいいるの」
「うん…。そう、みたいだね」
ぽつりと答えた。
その隣りで、なつみはにひっと笑った。
「またね、リリネットちゃん。向こうで話がまとまり次第、すぐに迎えに来るよ。じゃあね👋😊」
「うん。待ちきれなくて、こっちから行くかもしんないよ」
「ははっ❗️上等👍」
手を振り合って、ふたりは別れた。急がないと、虚閃の通った跡が、風に流されてしまうから。
「バイバーイ❗️リリネットちゃーん❗️」
「またなー❗️なつみー❗️」
再会の約束ができる人生であったことに、久しぶりに気付かされたリリネットであった。名前を呼び合えることも。
「またな…か」
止まった心臓がときめきを覚えたような。
「ねぇ、ムッちゃん。リリネットちゃんパワーすごいよ❗️ぼくめっちゃ強くなった気分❗️💪」
「だろうな。奴は最上級大虚だ。私にはそう見えたぞ」
「だよね。虚と混ざっちゃったけど、まぁ良っか」
「虚圏に住んでいる以上、混ざるのは当然だ」
「死神感がまーた薄れるわ〜」
「なつみはなつみだ。どんな力を得ようと、芯の部分は揺るがないだろう」
「そうそう。春水さんを想う気持ちは揺るがないよ〜🥰」
「凶暴さは真似するなよ」
「大丈夫だよ。お酒飲まなきゃ良いんだもん」
「うわあッ‼︎⁉︎」
張ったのだが、押し飛ばされてしまった。
攻撃をされたわけではない。その者が放った霊圧が予想を超えてとてつもなく、身動きひとつしていないのに、衝撃に襲われてしまったのだ。その圧力は威嚇のために放たれた短いものではなく、敵と対峙するとき、集中するときにいつも出しているものなのだろう。感情の昂りは無く、状況を把握しようとしているだけの表情に見えたから。
「ぐうぅッ…」
霊圧に押されて、周りの死体から血が搾り出される。
「強すぎるッ」
圧倒されながらも、なつみはなんとか堪えていた。
「あんた、死神か…?」
虚が話しかけてきた。
「あたしを倒しに来たの?あんたじゃ無理だから、帰った方が良いよ」
霊圧ごときを防ぐだけで必死であるからなのか、見た目からなのか、それとも、その虚にとって戦いに美学でもあるのか、とにかくなつみは弱いと判断された。
「ふんぬぬぬぬぬッ💢」
言われた言葉に、なつみはブチ切れた。
「ぼくを、子ども扱いするなァァァァァアアアアアーッ‼️‼️‼️💢」
ドゴォォォォオンッ
ムキになってなつみも霊圧を上げてやった。嬉しいことに、虚は腕を顔の前にやり、若干押された。この虚、かなり人型に近い。
「あなたの仲間はどこ‼︎まとめて相手してやるんだから‼︎ぼくはここに水脈を探しに来ただけだけど、ケンカ売ってくるなら、喜んで買ってやるぞ‼︎」
なつみは興奮して言ったが、虚の方はいたって冷静だった。
「水脈……?何のことかわかんないけど、戦いに来たんじゃないなら、良いや。ここには死体の山しか無いよ。用が無いなら早く出てって。こいつらみたいになるよ」
「脅してんの?ぼくは、馬鹿にされたからって、逃げ出すようなマネはしない!そんなことして負けたりしないもん!絶対誰にも負けないって、隊長と約束したんだから!あなたがぼくを弱い者扱いしたこと謝るまで、帰らない‼︎」
確実に、態度からしてなつみよりも断然この虚の方が強いのが明らかだが、なつみは怯まない。なつみへの小さい子扱いは、それほどまでに罪深いのだ。恐怖よりも、怒りが勝る。
「隊長…。お前の仲間か」
「そうだよ!ぼくの絶対の味方だよ!」
(味方……)
虚は首を動かし、視線を静かに死体の山へ向けた。
「あなたの仲間はどこなの。こんなにたくさん殺して、ひとりでやったわけじゃないでしょ。こんなの酷いよ。食べずに、ただ積んでおくだけなんて。何のためにこんなことができるの。下らない理由だったら、ぼくは怒る。あなたたち全員まとめて説教してやる!命を無駄にして、弄んで、最低だよッ!」
死体から、込み上げる感情を伝えてくるなつみに視線を戻す。
「あたしは独りだ。全部、あたしがやった」
「嘘」
「本当だよ。誰もいない」
その声色に、異常なほどの寂しさを感じ取ったなつみは、思わず構えを解いた。
「あたしを倒しにきたんじゃないなら、あんたとは戦わない。あんたが帰らないって言うなら、あたしが帰る。悪かったな、早とちりして。あんた、そこそこ強いよ」
虚が背を向けて立ち去ろうとした。だからなつみは斬魄刀をしまい、その背中に声をかけてしまった。
「待って!」
「?」
振り返ってくれた。
「待って。ぼく、あなたとは戦わないけど、もうちょっとお話しがしたいから、まだ帰らないで。謝ってくれて、ありがとう。もう、怒ってないよ。どうして、こんなことをしてしまったのか、話してほしい。知りたいんだ、あなたのこと。きっと、辛いことがあったんでしょ。だから」
「あんた」
まだ話していたが、途中で遮られた。
「どうしてあたしを斬らないの?死神のくせに」
「え、…だって、斬られたら、痛いじゃん」
「グフッ」
なつみは正直に答えただけなのに、虚は笑ってしまった。
「あははははっ!あんた、変なの!痛いけどさ、はははっ、あたしら敵なんだから、普通殺すでしょ!はははっ!」
「殺すんじゃないよ!魂の浄化をしてるの!それに、ぼくが死神で、あなたが虚だからって、敵だなんて思わないよ。昇華を望まないなら、ぼくはその人の意志を大切にする。誰かに迷惑をかけなければ、虚が虚のままでいても良いと思うんだもん。ぼくたちよりも欲に負けやすいから、大変なことも多いだろうけど、ぼくがお友だちになって、支えてあげるから、みんな大丈夫なの。変じゃないよ!」
また怒ってしまった。
「あんた、もしかして…、木之本なつみって奴か?」
名前を出されて、なつみは驚いた。
「そう、だよ」
「ははっ。やっぱ、変な奴」
歩み寄って来た。しかし、先程放っていた霊圧は抑えられ、なつみが気を張っていれば充分に耐えられるものだった。
「変じゃないよ」
「変だ。変だ。変だ」
戦意は無いが、一応警戒する。
「良いよ。あんたとお話ししてあげる。霊圧、上げたままにしといて」
「な、何する気」
「良いから。言うこと聞いてくれなきゃ、置いて帰るよ」
「む❗️わ、わかった」
集中力を高めようと、なつみは胸のところで手を握り、ぐっと力を込めた。
「ふむむむむ❗️」
「よし」
ニヤリと笑うと、虚はなつみを抱えてその場を去った。
足が浮いたと思ったら、あっという間に着いたのだが、恐る恐る目を開けると、全く知らない場所にいた。
「ど…こ…😯」
パチパチと瞬き。
「クレーター?」
空から降って来た強い衝撃により、抉られた大地の丸の中。建物2階分ほどは低くなっているだろうか。
「おぅ、なつみム洞窟‼︎」
囲う崖のとあるところに、ひとつの洞窟が空いていた。
(こいつの住処なのだろう。私たちの名前を勝手に付けるな)
「おぅおぅ。そうだね」
「何、独り言言ってんの?入って。ここ、あたしが最近住んでるとこなんだ」
虚は先に洞窟に入っていった。
「ねぇ、名前教えて」
後からついていって、なつみが尋ねた。
「リリネット・ジンジャーバック・コヨーテ・スターク」
「長っ⁉️リジコス洞窟…」
「は?(笑)」
「あ、明かりつけるよね。ぼくやるよ〜」
両手をピストルのように構えると、ドキュンドキュンと指先から赤火砲を繰り出した。洞窟の壁面に火の玉がポコポコとくっつく。イメージとしてはブラケット。
「燃ぉえ〜よ、あの空に燃ぉえ〜よ👆👆🔥」
「便利だな」
トンネルに、ライトの列が並ぶ。
「すっごーい❗️どこまで続くの、この洞窟❗️」
なつみは左脇に霊力を新たに溜めて、フリスビーのように、洞窟の奥へ光を飛ばした。
「それーッ🫴💫」
リリネットの横をすり抜け、光はどんどん進んでいく。
「いや、まっすぐすぎるし、長すぎるでしょ❗️全然突き当たらないね。って、あれ。リリネットちゃん❓👀」
気付いたら姿が無かった。
すると、ズバッと現れた。
「あわッ‼️」
なんと、なつみの投げたフリスビーな光を持って帰って来たようだ。
「あ、ごめん。奥に大切なものか何かあった?変なの投げちゃったね」
住処に傷をつけられると思われたのだろうと思い、謝ったが、そうではないらしい。
「ん、いや、なんか、反射的に追いかけたくなっただけ」
「犬‼️(笑)」
笑ってしまった。確かにリリネットの尻尾がフリフリしている。
「犬じゃねーし❗️狼だし❗️」
光る板をパリンと割った。
「ここ、あたしが掘ったの」
「掘ったぁ⁉️」
衝撃の事実である。
「手でじゃ無いよ。虚閃でドーンッてね、やったらできた。大切なものなんて無いし。別に潰されたって良いよ。また新しいの作るだけだから」
「ひょえ〜…(どんだけ長ぶっといの出しただよ)」
つまり、外のクレーターもドーンッてやったのだろう。
「あたしも魔法使おっかな。なつみ、椅子と机作ってあげるから、下がってて」
「う、うん」
虚が魔法?と思いながらも、なつみは出入り口の方へ下がっていった。
「見てて👆👆」
リリネットもなつみと同様、両手をピストルの形に構え、飛び上がった。
「とうっ❗️」
ズババババババババッ‼︎‼︎‼︎
天井まで上がり、コウモリのように逆さになると、床に向かって指先からから光線を連射した。
「あわわッ‼️⁉️」
砂埃が舞い上がり、とっさになつみは顔を覆う。魔法というよりかは、ただの虚閃だ。
「よいしょーっ‼️😆🌪」
リリネットが降りた途端に回し蹴りをすると、その風圧で砂埃を洞窟の奥に吹き飛ばしてしまう突風が発生した。すっかり視界はオールクリア。
「わ〜😳」
あっという間に。
「掘りごたつ」
「あーとーは」
円形に残したテーブルの下に向け、左右の拳で90°の角度で突いた。
「えいっ❗️えいっ❗️脚入れるとこ、でーきたっ」
瓦礫を取り払い、スルッと、ドーナツ状の椅子に腰掛けるリリネット。
「おいで、なつみ。遠いとこ座って。そしたらあたしの霊圧あんま届かないでしょ」
「うん。ありがとう」
なつみも、斬魄刀を外してから、ちょこんと座った。
「お茶出してあげれないの残念だけど、これくらいのおもてなしで我慢してよね」
「充分だよー。お茶持ってるけど、コップが無いから、分けてあげれないや。ごめんね。でもでも」鞄をごそごそ。「ジャジャーン。おやつはあるよ〜」
袋を掲げる。
「おー👏」
このふたり、もう仲良しのお友だちになっている。
なつみは始解を使う。
「叶え、夢現天道子。これをお皿にして」
ザエルアポロが渡してくれた地図をひらりと投げ上げると、それが独りでに折り畳み、器になった。
「ふんふ〜ん♪」
鼻歌を歌いつつ、袋を開けて、パラパラとおやつを器に盛る。
「今日のおやつはポテチだよ〜❗️😆」
「イェーイ❗️🙌」
「って、あれ?なんか…、割れてる💧」
出したは良いが、できたての頃と比べてやたらと小さくなった1枚1枚。
「あ、ごめん。たぶん抱えてくるとき、あたしが潰してたかも」
「おいぃーっ❗️(笑)」
「ごめんってーっ😝」
怒ってるのに笑ってる。謝ってるのに笑ってる。
「はい、これ、リリネットちゃんの分ね😊」
ムッちゃんの魔法で、すいーっと器がリリネットの前に運ばれる。
「ありがとう🙂」
なつみは袋に残した分をいただく。ぱくっ。
「どーぞ。食べて。うすしお味にしたの」
「こんなの、最後に食べたのいつだろう」パリッ。「……」
「…」もぐもぐ。「コンソメ派だった?😶」
「…ちがうけど」
「わかった。のり塩派だ。食材がさ、揃えにくいんだよー。また今度作ってあげるね」
「ふふん。うん…」
「んふふっ。また今度〜😊」
小さなカケラを分け合って、ふたりは気持ちも分け合う。
「塩、ふりすぎじゃない?」
「そっかなー。そっかー。ぼくはちょうどだけどな」
「ならそっちのちょうだいよ」
「いいよ。そっちのももらうよ」
豆をぽーんと投げるように、不思議な重さを伴って、なつみからリリネットへポテチが飛ぶ。ぱくっ。
「どう?良い塩梅でしょ」
「しょっぱー❗️(笑)」
「ウソだよぉ(笑)」
「ほら、食べてみて」
ぽーん。リリネットからなつみの口に届く。ぱくっ。
「こんなもんだって〜。塩食べるの久しぶりすぎて、口がびっくりしてるんだよ、きっと。ってことにしてあげる😙」
リリネットの明るい性格と桁違いの強さ、そしてあの死体の山をつなげることを思うと、なつみは勝手な想像ではあるが、何があったのかわかったような気がした。ポテチの塩辛さの理由も。
「ポテチ食ったくらいで泣くかよ」
「え⁉️違うの⁉️ウっソだ〜」
「泣いてねーよ‼️うわぁぁぁぁあ😭」
「ぷくくくくッ🤭」
嘘が下手なリリネットは、机に伏して泣き出した。
「泣け泣け。どーんと泣け。ぼくの胸を貸してあげられないのが残念だけど、ちゃんと聞いてあげるから。リリネットちゃんのこれまでを、ぼくに教えて」
仮面の下は大洪水。リリネットは頷いて、話してくれた。
リリネット自身は、その身に宿る力を全く欲していなかった。初めは喰われずに済むから良かったのだが、その強さのせいで招かれる周りで起こる勝手な展開に、リリネットは虚しさを感じていた。誰からも見捨てられ、弱さ故に現世で命を落とすことになった寂しさは、虚になり力を得て、同族たちがいる安心感にも包まれ、かなり救われた気がしていた。だが、虚であることで襲われる魂の渇きが、新たな苦しみとなった。強さを求めること、それが生き残り、仲間を見つける方法であるとされるこの世界。確かにリリネットが望んだ環境だったのだろう。生前見せられてきた世界を生き抜くための手段がそれだったから。望んだ力と環境が得られ、幸せになれるはずなのに、喜びは訪れる度に一瞬で消え去る。すぐに蝕んでくる渇き。潤わないのは、心を失ったためだろうか。
リリネットの強さは弱き者を連れてきた。守ってほしいと頼まれた。親友と呼べる人と楽しく笑い合うことを夢見てきた彼女にとって、寄り添ってくれる者は何であれ嬉しかった。寝食を共にして、誰かといられる喜びを味わう。望んだ世界。
リリネットの強さは血の気の多い者も連れて来た。彼らは虚。ここは虚圏。ギリアンから中級大虚に進化できた者たちは、更に強者の身を欲する。再び個を失う恐怖から逃れようと、食べられまいとする。そして多くの獲物を捕食し、その上の階級へ自らを高めようとする。生き残るために。本能が導くままに。
リリネットのもとにも、そのような虚がやってくる。戦いに流儀は存在しない。食うか食われるか。ただそれだけだ。卑怯だろうと何だろうと、多くの虚を食すことが強化の条件であるため、リリネットが気を逸らせば、そばにいる弱い虚たちが彼らに食われてしまうことはよくあることだった。リリネットの強さに魅かれて、勝負を挑んでくる者もいた。ことごとく、リリネットが勝つのだが。そうして敵から守れた虚たちも、リリネットの強い霊圧に当てられ、抗えずに倒れてしまうのが常。戦っても独り、戦わずとも独り。独りにならずに済むように強さを求めたのに。顔を上げると見えるのは、巡り逢い、そして目の前で死んでいった虚の山。これが理想の世界…?
「あそこにいるの、ツラくて嫌だから、ここに住んでるけど、目立つから、よく誰かが来るんだ。仲間になりたいってヤツなら、迎えにいってやりたいから、さっきもそうしたんだ。そしたら、いたのなつみだった」
「うん」
なつみのことは、集まってきた虚から聞いていたのだ。「虚と仲良くなりたがる、変な死神」の噂。やたらと強いのに、斬りかかっては来ない。昇華を勧めてくるが、強要はしない。「虚は心を取り戻せる」と信じているらしい。自分たちは同じ「人」であるからと。助けを求めれば、必ず助けてくれる。必ず笑いかけてくれる。おかしなことに、敵も倒したりしない。説教が耳に届くまで絶対にそばにいる。彼女と出会えば幸運。あたたかい気持ちを思い出すことができる。彼女が死神であることが不思議なくらい、仲間意識を持ちたくなる。それとも、自分が虚であることを嫌に思うか。リリネットは話を聞いて、なつみに興味を持った。いつか会えたら良いとさえ願った。そしたら。
「わぁぁぁぁんっ‼︎ なつみに会えたぁぁぁあ‼︎」
「うんうん。会えたねぇ」なつみは至って、いつも通りののほほんトーンでお話しする。「ぼくは死神だから、消えちゃうほど弱くはないよ。ぼくは死神だけど、リリネットちゃんと戦おうなんて思ったりしないよ。大丈夫。ぼくたちお友だちになれるよ。ぼくが、リリネットちゃんのいちばんのお友だちになってあげる。ふふっ」
リリネットはお礼を言いたくて顔を上げた。それとすれ違うように、なつみはぱたりと倒れた。
「えっ……。なつみ?なつみー‼︎‼︎」
身体を起こしてやろうと、なつみに近づこうとしたが、自分の霊圧の高まりに気付き、はっとして退いた。
「ごめん。ずっと痛かったの?言ってよ!」
なつみはずるずると力を振り絞って起き上がった。顔は伏せたまま。皮膚が少しずつ捲れて飛んでいってしまっている。血が流れている。
「大丈夫。これくらい。痛くないよ」
鼻がぴくついている。
「嘘つき。早く治さなきゃ。助けを呼んでくるよ。あんたの仲間どこいんの。連れてきてあげる」
リリネットは立ち上がり、出口へと向かう。
「仲間なら、ここにいるよ。助けも、ここにいる」
「は?あたしのこと言ってんの?だったら無理だよ。治し方なんか知らない!」
「大丈夫。力を貸してくれれば良いだけだから」
左手を伸ばすなつみ。
「ぼくを他の子といっしょにしないで。信じて」
と言われても困るリリネット。出口となつみを交互に見る。
「リリネットちゃんも、手を出して。ぼくに霊力を送ってくれないかな」
言われた通りに差し出すも。
「送り方知らないよ」
「大丈夫。できるよ。ぼくに元気になってほしいって思うだけで、できるから」
疑いながらも、リリネットは願った。不安でいっぱいでも。
「ケガ治して!早く!」
言葉に乗って、霊力がリリネットの中から湧き上がり、差し出した右手からなつみへ流れて飛んでいく。その気をなつみが左手で受け止める。
「ほら、できたじゃん。くぁっ…。強ぇな」
左手で力を分けてもらいながら、右手で自分の胸を掴む。
「んんんッ!」
なつみの霊力はリリネットの霊圧に耐えるために、静かに削られていた。それを補うために分けてもらった。力を得たなつみは回道で回復する。みるみるなつみの皮膚は、いつものすべすべぷにぷにに戻っていった。
「むはーっ‼️😆」
両手を高く上げて、元気いっぱいの合図を見せてあげるなつみ。
「ドヤァ‼️✨」
完全復活である。
「すご💧」
改めて思う。
(こいつ、変だ)
「ひひっ。リリネットちゃんがいれば、ぼくはリリネットちゃんといても大丈夫なんだ〜。安心していっぱい泣きなよ。そんですっきりさして、思いっ切り笑ったらイイんだって」
笑顔のなつみは机を叩く。
「こっち戻っといで。良い話聞かせてあげる」
「良い話?」
さっきまで座っていた席へ向かうが、気にして距離を取ってしまう。
「そう。とっても良い話」遠くにいるので、身体を机の方へくっと寄せて前のめりで言う。「リリネットちゃんを破面にするの❗️」
「アランカル?何それ」
破面を知らないらしく、良い話に聞こえてもらえなかった。なつみも「あれ?」となる。
「聞いたことない?(ザエポン嘘言ったのか?)☹️」
強い虚なら、みんな破面になりたがる説。
「知らない」
「まぁいいや。破面っていうのは、仮面を取っちゃった虚なんだけど。人の姿に戻れるんだよ。表情がばっちり見えるようになるんだよ」
「ふーん」特にまだ良いように聞こえない。「顔見える以外良いことあんの?」
「あるよー。破面になれば強くなれるし、お友だちがいっぱいできるよ」
「?」
「ぼくが住んでる虚夜宮ってところ、その地図に書いてあるとこね、その辺には中級大虚とか最上級大虚の破面も住んでるんだよ。何人もね。ぼくの任務はそこ一帯の街づくりなんだけど。生活圏の環境整備のために水脈探しに探検してたんだ。そしたら偶然リリネットちゃんと巡り逢っちゃってさ。水と同じくらいかけがえのないものを見つけた気分だよ😌✨」
(話逸れてるぞ🐥)
「おっと。でね、リリネットちゃんも破面になって、ぼくらと暮らしたらどうかなって思うんだ❗️どう?楽しそうじゃない?あそこなら、リリネットちゃんくらい強い人がごろごろいるから、リリネットちゃんの霊圧にやられちゃうことないはずだよ。ぼくももっと強くなるし💪ここでひとりぼっちより、全然良いよ💪」
「どう〜?😊」と、名案への回答を、肘をついた手に顎を乗せて、上機嫌にゆらゆら揺れながら待ってみた。
「…、めっちゃ良さそう」
「でしょ‼️」
「けどさ…」
「けど?」
膝を抱えて座るリリネットは現実的だ。
「どうやってなんの?破面」
「⁉️😊」確かに‼️「……😊💦」
焦るなつみ。提案しておきながら、肝心のなり方を知らなかった。
「はぁ…」
呆れられてしまった。
「無理矢理捲るんじゃないと思うよ❗️えっとね、そだな、あれよ、藍染隊長にお話してあげる❗️そしたらそのままでも住まわせてくれるかも❗️それか、ザエポンになり方教えてもらって、今度リリネットちゃんにそれしてあげる❗️」
(アイゼン?ザエポン?)
「と、とにかく、そっか。今日連れて帰るってまずいことか。むんむん、そっかそっか。手順を踏まなきゃな」
ひとりで何やら納得しようとしている。
その考え込んでくれる姿に、リリネットは微笑んだ。
「ありがと、なつみ。あたしのために考えてくれて」
感謝を述べられたにも関わらず、なつみは、何を言ってるんだという表情を向けた。
「これはぼくのわがままだよ。お礼なんていらないね」
「ん?どういうこと」
「リリネットちゃん、ぼくと会えたら、ぼくに昇華のお願いしようと思ってたでしょ」
「⁉︎」
「わかるよー。リリネットちゃんはお話しがしたくてぼくをここに連れてきた。ちゃんと聞いてくれる人が欲しかった。リリネットちゃんがいたことを、誰かの中に残しておきたかったからさ。ぼくならって思ってくれてた。だから会いたかった。でしょ?」
「……うん」
「誰にも邪魔されないように、おうちに連れてきた。でもさー、ぼく、それイヤだよ。リリネットちゃんのこと、そんなに急いで昇華したくないって」
「どうして?」
「魂が浄化されて、リリネットちゃんは嫌なことをすっかり忘れられる。だけど、ぼくはリリネットちゃんを覚えてる。この先もずっとね。ああ、あの子にはどれだけの楽しい思い出があったんだろう。生まれてきたことを嫌に思ってたんだろうか。未来に希望を見てくれてただろうかって、ずっと気にしちゃうよ。これはぼくのわがまま。リリネットちゃんには、諦めてじゃなく、幸せを見てから、その幸せを超える幸せを目指して旅立ってほしい。虚になれたことはチャンスだよ。リリネットちゃん、リリネットちゃんはリリネットちゃんの心を持ったまままだ時間を過ごすことができるんだ。無くしたとか、忘れたとか言わないで。ちゃんとここにある」
海燕の受け売り。右手の拳をふたりの間に。
「無いと思うなら、新しく取りに行けば良い。リリネットちゃんはもう独りじゃないよ。ぼくがいる。みんながいる。力を授けられる理由ってわかる?ぼくには持論があるよ。相手がいることは自分の存在を確認できること。愛し愛されるために人は独りではいられない。優れた能力は、その大切な存在をどっちも守るためにある。リリネットちゃんのその強さは、どこかにいる、リリネットちゃんにとって大切な人のためにあるんだよ。まだその人と出会えてないみたいだから、ぼくがいっしょに探してあげたい。そしたらきっと、リリネットちゃんは、リリネットちゃんとして生まれてこられたことに嬉しくなれるはずだからさ。命は恨みじゃなくて、希望を遺して未来に繋げなきゃ。怒ってるより、笑ってる方が楽しいもん😄」
リリネットは泣き出さないように、感情を昂らせないように、膝を抱えて耐えた。
「変なの」
地図の器を取って、残りのポテチを一気に口に放り込んだ。
「塩辛すぎるから、次作るときの味付け係はあたしだからね‼️」
もぐもぐしながらそんなことを言った。
「くふふっ、はいはい。お好きにどうぞ😊」
なつみも袋の中をさらった。
「こんなもんだけどなぁ…😌」
鞄におやつ袋をしまい、斬魄刀を掴んでから立ち上がる。
「よいしょっと。そろそろ帰らなきゃ。ぼく勝負してるんだよ。水脈見っけ競争。負けでも報告はしないとね〜」
お尻に付いた砂をぱっぱと払う。
リリネットも見送ろうと立ち上がった。
「血の川は見つけたじゃん」
「飲み水が欲しいの❗️」
ぱっとなつみが差し出した。右手の小指。
「なに?」
大丈夫と何度も言われても、リリネットは離れていたい。なつみを傷つけたくないから。なのに、なつみはお構いなしにリリネットの小指を掬い上げた。
「あ、こら!」
バリア無しで触れ合えば、霊圧にやられてしまう。リリネットは手を引こうとしたが、なつみの馬鹿力が発動した。
「約束❗️リリネットちゃんは破面になって、ぼくたちとしあわせに暮らす❗️ぜぇーったい‼️」
力を込めて引き寄せたために歪んだのか、それとも他の痛みだったか。
「バカ‼︎無理すんなよ‼︎離せ‼︎」
「だいじょーぶッ‼️」
なつみの太陽のような原動力が霊圧を上げる。だから大丈夫。熱く抱き締めても、もう大丈夫。
「友だちにハグできない世界なんて、ぼくは許さない」
つまり、それに応えなければなつみは許さないと。
「なつみ…」
恐る恐る、リリネットはなつみの背中に腕を回した。
「ほら、大丈夫。怖いことなんか無いよ。リリネットちゃん、あったかいね」
「なつみも、ぽかぽか」
珍しくなつみから他の誰かの頭を撫でてあげていた。
洞窟を出て、クレーターの上に上がってみた。しかし。
「どこー…😓」
虚夜宮から離れたところにあるエリアに到着後、更に遠くへ連れて来られてしまい、完全な迷子である。
「おうちどこー❗️」
呼んでもおうちは返事しない。
「さっきいたとこはあっちだよ」
指を差されても、よくわからない。
「こーなったら、SOSだ❗️」
助けを呼ぶ方法は確認済みだ。鬼道で光の玉を空に打ち上げる。それをザエルアポロが見つけて返事を返せば、万事OK。
「ドーンッ‼️🙌」
虚夜宮の見張り台にて。
「あ!青い光」
「随分遠くまで行ってんな」
「もっと手前じゃなかったか?言ってたの」
「そりゃ、迷子になるわな」
「屋根に上がるぞ。ま、僕だけでも充分だろうけど」
「待てよ。久しぶりに俺もバーッと出してぇ」
「必要以上のことをすると、藍染様のお怒りを買うぞ」
「あぁ?なつみのためなら、許してくれんだろ」
ザエルアポロだけでなく、他にも見物人がいた模様。みんなで屋根に上がり、青い光が上がった方角へ身体を構える。
「せーの」
ズドォォォォーンッ‼︎‼︎‼︎
轟音と爆風を伴って、強烈な光線が虚夜宮からふたりが見上げる上空を駆け抜けていった。
「うわぁッ⁉️」
勢いにやられて、屈むなつみ。
「やりすぎだろ。わかった。おうち、あっちね😅」
虚閃の来た路を目で辿る。
「乱暴なとこ、直させなきゃ」
やれやれとなつみは肩をすくめた。
リリネットはというと、呆然と夜空を見上げていた。
「ね。強い人たちがいっぱいいるの」
「うん…。そう、みたいだね」
ぽつりと答えた。
その隣りで、なつみはにひっと笑った。
「またね、リリネットちゃん。向こうで話がまとまり次第、すぐに迎えに来るよ。じゃあね👋😊」
「うん。待ちきれなくて、こっちから行くかもしんないよ」
「ははっ❗️上等👍」
手を振り合って、ふたりは別れた。急がないと、虚閃の通った跡が、風に流されてしまうから。
「バイバーイ❗️リリネットちゃーん❗️」
「またなー❗️なつみー❗️」
再会の約束ができる人生であったことに、久しぶりに気付かされたリリネットであった。名前を呼び合えることも。
「またな…か」
止まった心臓がときめきを覚えたような。
「ねぇ、ムッちゃん。リリネットちゃんパワーすごいよ❗️ぼくめっちゃ強くなった気分❗️💪」
「だろうな。奴は最上級大虚だ。私にはそう見えたぞ」
「だよね。虚と混ざっちゃったけど、まぁ良っか」
「虚圏に住んでいる以上、混ざるのは当然だ」
「死神感がまーた薄れるわ〜」
「なつみはなつみだ。どんな力を得ようと、芯の部分は揺るがないだろう」
「そうそう。春水さんを想う気持ちは揺るがないよ〜🥰」
「凶暴さは真似するなよ」
「大丈夫だよ。お酒飲まなきゃ良いんだもん」