第九章
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その後、瀞霊廷ではなつみが目覚めたという知らせが周ったが、まるで本物のうさぎのような振る舞いを見せたため、特に彼女の関係者らは動揺してしまった。
「嘘だって言ってよ、なつみ!わざとうさぎみたいなことしてるだけなんでしょ!お願いだから、返事してよッ…」
美沙がそう訴えても、なつみは長い耳を丁寧に舐めたり、首を傾けて後ろ足で痒いところを掻いたりしていた。言葉を失ったどころか、知人たちへの興味も失くしてしまったらしい態度。普段の食事を受け付けず、生野菜ばかり齧るようになった。
「これがなつみちゃんなの…?」
野菜を差し入れてくれたアヤとサンタが、美沙たちの家の前で怪訝そうにうさぎを見つめた。抱っこも嫌がるため、ハーネスとリードで繋いでいなければ大人しくなどしていられない。
「じゃあ、どこに行ったっていうの。あたしだって信じたくないって、こんなの!」
「……」
サンタの脚を恐る恐るくんくん嗅ぐなつみ。サンタが挨拶に顔を近づけたら、驚いて紐が許す限り遠くへ走って逃げてしまった。そこで安心したのか、うんちをぽろぽろ。
「絶対なつみちゃんじゃないよ。ただのうさぎだって。誰かがなつみちゃんとすり替えたんだよ」
「わざわざなつみをうさぎにして、本物のうさぎとすり替えて、どこかへあの子を連れ去ったってこと?そんな面倒なこと誰も思いつかないし、するわけないでしょ。手がかりは残ってないし、このうさぎからはなつみの霊圧が出てる。弱くなってきてるけど。どんなに見えてることが疑わしくても、信じるしかないの」
うさぎは美沙が持っているニンジンをねだった。
そこに京楽が現れた。
「やぁ、美沙ちゃん、アヤさん、サンタ」
「こんにちは、京楽隊長」
「こんにちは」
両手にニンジンを持って、むしゃむしゃ食べているうさぎの頭を撫でてあげる京楽。
「こんにちは、なつみちゃん」
アヤにはおかしな光景に見えていた。
「なつみちゃんをお散歩に連れてっても良いかい?」
「どうぞ」
「ありがとう」
リードが美沙から京楽の手に渡る。
「その辺歩いてくるよ」
「あたし、五番隊舎に行くので、帰るときそっちに連れてきてもらえますか?」
「わかったよ。いってくるね」
なつみを抱き上げて、歩いて行った。
「今日もかわいいね〜、なつみちゃん」
あの京楽ですら、これを現実と捉えていた。
「またね、アヤさん、サンタ。野菜、ありがとう」
「うん。また持ってくるね」
美沙はふたりに手を振ってから、家の中に戻っていった。
アヤには不思議でならなかった。自分は死神としての素質が無いため、霊圧探知もできないし、死神の組織としての特性も自分の考え方とは合わないと思っていたため、美沙や京楽の反応が理解できなくとも仕方がないのだろうとは思えるが。
「あれがなつみちゃんだなんて、到底思えないよ。ねぇ、サンタ」
「モフッ」
頷くサンタ。
「なつみちゃんが大変なことに巻き込まれてて、助けを求めてたらどうしよう。これじゃあ、誰も助けに行かないよね、きっと」
だからといって、アヤが訴えても、聞く耳を持ってもらえないことは目に見えている。仲の良い美沙ですら、あの態度なのだから。
「早く、解決してほしいね。こんなお別れ、イヤだよ」
「モォー」
なつみが所属する三番隊では、彼女の除名の話題が静かに上がっていた。方針をはっきりさせるため、イヅルが部下たちを代表して、市丸に話しかける。
「市丸隊長、木之本くんの席、どうしましょうか」
「どうするて?」
「彼女にとっては無念でしょうが、あの姿では死神として責務を全うすることはできませんよ。新しく、席官候補を探した方が良いんじゃないですか」
「あかん」
ひとつ目の返事からイヅルにはわかっていたが、市丸の答えは断固なものであった。
「なつみちゃんはうさぎさんになってもうただけや。そのうち戻る」
「そうでしょうが、しかし、いつになるかわからないんですよ。待つにしても、代理を用意しなければ、仕事に穴を開け続けることになります」
「それはボクが上手いこと処理するわ。せやから、なつみちゃんはウチの二十席のまんまにしとく。誰にも文句言わさへん」
「ですが」
「あの部屋はなつみちゃんのもんや。秘密のもんがよーさんあんねん。勝手に使われてたてなつみちゃんが知ったら、そらショック受けてまうで。あそこに他の子を入れたらあかん。まぁ、お菓子は腐ってまうかもしれへんで、こっそりいただいてもかまへんやろうけど」
イヅルは閉口した。
「心配せんでも大丈夫や。なつみちゃんは、必ずここに戻ってくる。元の元気な姿でな。
ええか?普段なつみちゃんは、自分の願いばっかり叶えてるように見えるやろ?けどな、ほんまはそれだけとちゃうねん。ボクらの理想も叶えてくれてんねんで。
ボクらが、なつみちゃんに帰ってきてほしいて願ったら、ちゃーんと叶えてくれるわ。ボクらが信じて待ったらなかん。なつみちゃんがおらん世界なんて、みんな耐えられるわけないもん。誰にも代わりなんか務まらんし。な、なつみちゃんがいらん子みたいに言うたるの、辞めたってや」
きっと他の隊士がうさぎに変身して、戦闘不能になったら、簡単に見捨ててしまうだろうに。少し寂しさを纏いつつも、市丸はなつみに見せるような頼もしく優しい笑顔をイヅルに向けた。こう言われては、彼に従うほかない。隊長の言葉を快く聞き入れよう。
「失礼しました。引き続き、この体制でいきましょう。木之本くんが奇跡を起こすのなんて、いつものことですもんね。僕も信じます、彼女が元気に帰ってくることを。嫌がらせに屈したりしませんよね」
「そうや。『いつも』のことや」
イヅルが隊首室を去ると、市丸は窓の外の空を見上げた。
「みんな、流されすぎや」
雲が流れて行く。
「ボクがなんとかしたらな、あかんねんなぁ…、やっぱり」
それが、悩みの種だった。その顔が。
みんなが望むいつものなつみはいない。楽しそうに笑ったり、かわいく拗ねたり、かまわずにはいられないほど大泣きしたり、遠くからでも嬉しそうに駆け寄ってくれる、あの小さな子は見当たらない。愛しい声は耳に届かない。別れはあまりにも突然で、なつみと過ごした思い出は、今よりも未来よりもずっと美しく心に残っている。自分たちからは取り戻せない、だからといって前にも進みたくはない、この欠けた世界で。なつみを知ってしまい、失うことを認めたくない彼らは、そのうさぎに縋った。どんなになつみらしさが消えていても、それがなつみであるというなら、仕方がないという気持ちと、いつかまた奇跡が起こると信じたい気持ちとで、偽物だと疑うことをしなくなってしまった。愛するが故に、真実を見ようとしなくなった。手元にある微弱な手がかりだけで、満足しようと決めてしまったのだ。そう、奇跡を起こすのはなつみであり、自分たちはただ待つしかできない、祈るしかできないと思い込んで。なつみらしいこのうさぎがいてくれる。それだけで、少なくとも絶望からは逃れられている。それが幸いであると誤認させられているとも知らないで。
「こんな連中が、世界を支えている面をして、蔓延っていると思うとゾッとする」
異変に気付けた者がいても、その考えを異変としてくるこの世界で。
「ふぁ〜🥱🫧」大きなあくびの後、友だちに指摘されたことを無意識にする。お口をしばらくむにゃむにゃむにゃ。むくりと起き上がり、両手のグーで目元をくりくり擦る。
「目覚まし鳴らなかったなぁ…」
しばしばと瞬きをしていると、視界が段々クリアになってきた。
「あれ。」
手を脚の付け根のところに下ろして、若干猫背で、寝ぼけながらも異様な真っ白さに気づいて、頭が真っ白。
「…(はわわわわ)😨」
口をあんぐり開けて、冗談じゃない寝起きドッキリにあわあわ慌てる。
「あわーーーッ‼️⁉️どこぉーーーッ⁉️」
頭を抱え、背筋伸ばして絶叫していた。
「天国か❗️白いから、天国か❗️ここがそうなのか❗️つか、夢か❗️うわ〜ッ✨」
まさかのぶっ飛んだ光景で、奇跡体験!アンビリぃバボーをちょっぴり楽しんでしまっちゃうなつみ。
「これが異世界か。起きる前に探検しよう❗️ムッちゃんはいないのかな」
寝ているものと思い込み、どおりで目覚ましが鳴っていないと決めたなつみは、ベッドを飛び出して、裸足でペタペタと歩いてみる。扉があるので、そちらの方へ。
「新しいパジャマだぁ。真っ白けっけ。この世界の人って、白過ぎてつまんなくないのかな。ぼくなら飽きるな」
ドアノブに手を伸ばしたら袖が見えたので、ついでに全身をくるーっと見回したのだ。京楽がその場にいたら、萌え袖とぽてっと大きめサイズの着こなしなつみに、躊躇なく飛び掛かっていたことだろう。
カチャリとドアを開けたらびっくり。ピンク色の髪の毛とメガネが印象的なお兄さんが、すぐそこに立っていた。
「あわーッ‼️⁉️💦」
なつみが驚いても、お兄さんは驚かない。
「寝起きなのに、元気だね」
にっこり笑って、見下してくれる。
「お兄さん、どちら様」
開けたドアをすーっと閉じて、半開きの隙間から質問してみるなつみ。見上げる。
「僕の名前はザエルアポロ。科学者だよ」
「科学者?天使さんじゃなくて?」
「そうだよ。ここは天国じゃなくて、虚圏だからね。天使じゃなくて、虚」
「ほろー⁉️うぇこむんどー⁉️」
バタンッ、ガチャッ‼︎
「夢じゃないのー⁉️」
「どうして今、1回閉めしたの💧」
ひょえ〜と眩むなつみ。理解が追いつけない。
「どしてぼくは、虚圏に?いつ来たんでしょう。お酒飲みましたっけ」
「酔っ払った勢いで来ちゃったと思ったかな?大丈夫、飲んでいないよ。飲酒は止められているんだろう?君が寝ている間に、部屋から連れ出したんだよ」
「なして?誰が?あなたが?」
「僕じゃなくて、藍染様が」
「藍染様…?藍染、惣右介さん…?」
「うん🙂」
「…、なすて?🤔」
「話してあげるから、そろそろ部屋の中に入れてくれないかな?」
「あ…。」言われて気づいた。「はい」
ザエルアポロを入れてあげると、なつみはぺこりとお辞儀した。
「申し遅れました。ぼくは木之本なつみです。よろしくお願いします」
「これはご丁寧に、どうも。こちらこそよろしくね。君はベッドに座ってくれるかな。僕はそこのスツールに座るから」
「はーい」
ペタペタ急足で、降りた時と反対側に回ってみて、初めて知った。
「あ、スリッパあった」
ザエルアポロがなつみの肩に手を置き、ベッドに上がってしまうのを一旦止めた。
「それだけじゃないよ」
しゃがむと、ベッドの下にある引き出しを開けた。
「あぁ❗️ムッちゃんとマント❗️」
なつみはザエルアポロの隣に屈んで、斬魄刀とマントを取り出した。
「目覚めてパニックを起こして、暴れてしまうんじゃないかと心配していたんだよ。念のため、ここにしまっておいていたんだ。ごめんね」
「いえいえ、ご丁寧にしまっていただいて、ありがとうございます」
ベッドの上にそのふたつを置き、自分もベッドに上がった。あぐらをかく。
するとノックが聞こえた。
「どうぞ」
ザエルアポロが返事をする。
「失礼致します」1人の女性が入室してきた。「お茶をお持ちしました」
「ありがとう。そこに置いて」
ベッド脇のテーブルにカップが置かれる。
「どうぞ」
「ありがとうございます😊」
何茶かなーと、なつみが湯気の香りを嗅いでいると。
「お食事の準備をさせていだたきますが、召し上がれそうですか」
ときかれた。
「へ、いや、そんなわざわざおもてなししていただかなくても💦」
ギュるる〜……
「///💦」
「身体は正直だね。我慢しなくても良いよ」
なつみの遠慮も知らないで鳴ったお腹を押さえて、こくんと頷いた。
「はい///」
「少し話してから行かせるから、それまでに作っておいて」
「承知しました。失礼致します」
女性は退室した。
「あの…、ここって、ザエルアポロさんのおうちですか?」
「そうだね…、住宅と研究所と、まぁいろいろだけど」
「他の方もいらっしゃったんですね」
「うん。何人かいるよ」
「そのみなさんも、ザエルアポロさんみたいに人っぽいんですか?」
ちょっと失礼な質問のように思え、控えめなトーンできいてみた。
「あぁ、見た目のことかな?そうだよ。ここのみんなは、僕と同じように仮面を取ってしまっているんだよ」
「と、取っちゃったんですか⁉︎そんなことできるんですか⁉︎」
「うん。知らないかな。こういうのを破面というんだけど」
「アランカル?」
「虚から、より死神に近い存在へと進化させた姿なんだ。人間だった頃のように振る舞える上に、更に強力な戦闘能力を手に入れられる。力を求める虚なら、みんな破面になりたがっているよ。こういう話を友だちとしたりしないのかな?」
「友だち?」
「噂は前からよく聞いていたんだ。虚と仲良くなりたがっている、変わった死神がいるってね。虚に優しく接してくれる木之本なつみが、僕に助けを求め、連れてこられた。仲間たちのことで恩義があるから、僕は快く君の面倒を見ることにしたんだよ」
(ふわ〜。良い人〜💖)
爽やかな笑顔に、なつみはすっかりやられてしまった。
「やはり、君は強い子なんだね。ここにいる僕らは、中級大虚や最上級大虚なんだけど、全く辛そうじゃないから」
「……😑⁉️」
衝撃の事実に絶句である。
「みんなが仲良くしたがる訳だよ。僕も仲良くなりたいから、呼び捨てで呼んでもらってもかまわないよ。僕もなつみって呼びたいな」
(や、やべぇとこじゃんッ‼︎‼︎‼😱︎💦)
冷や汗たらたらさせながら頷いてみせた。
「ありがとう。それでね、なつみ。君が僕のところに連れてこられた理由なんだけど」
本題に入るらしく、なつみは気を取り直して、聞き耳を立てた。
「君は昨日の夜、睡眠薬を飲まされてしまったらしいんだ。誰の仕業かは判明していないらしいよ。ただ、ファンからもらった差し入れのお菓子の中に仕込まれていたことは、わかっているって」
「なん、ですと…?」
「君の活躍ぶりを妬んだ人の犯行らしいけど、嫌がらせにしてはやり過ぎだよね。薬の作用か何なのか、何故か君はうさぎに変身してしまったんだよ」
「うさぎッ⁉️何で⁉️」
なつみは心底驚き、考えを巡らせると、真剣に心当たりを探ろうとしていた。その様子を観察するザエルアポロ。
「君にもわからないか。まぁ、良いよ。睡眠薬の効果が切れた辺りで、眠りが浅くなって、自然とこの姿になれていたから」
「よく眠っていた…🤔」
腕を組んで考え、ボソッとつぶやいていた。その呟きは、ザエルアポロの耳には入らなかった。
「涅マユリが眠りと変身の原因を探ったようだけど、結論を出せなかったんだって。彼が匙を投げてしまったから、藍染様は君を僕に託すことにしたんだよ。それで君はここにいる。元の姿に戻ってくれて良かったよ。これで安心だね」
ザエルアポロはなつみの頭を撫でた。
「どうして藍染隊長からあなたに依頼があったんですか?」
当然の質問に、彼はにこやかに答えた。
「あの方には、君の理想を叶えるという夢があるそうなんだ」
(理想…?)
「そのために、僕たち破面が必要なんだって。僕は涅マユリに匹敵する程の技術と知識を有していると見込まれて、なつみを助けるように頼まれたんだ」
「ふぇ〜」
「フフッ、ここから先は本人から聞いてくれるかな?」
そう言った直後、再びノックが聞こえた。慌てて力がこもっているような響きだ。
「どうぞ」
ザエルアポロが返事をするや否や、ドアが勢いよく開かれ、喜びに駆られて安堵と驚きとが混ざった表情でなつみに抱きついてきた男が。
「良かった、なつみ!」
「藍染隊長⁉︎///」
※「しゅんすけさん」事故以降、「惣右介さん」と呼ぶのは心の中だけにしているなつみ
「うさぎのまま、元に戻らないんじゃないかって、心配してたんだからね。どこも身体に異変は無い?大丈夫?」
確かめるように、藍染はなつみの身体をあちこち触った。
「んむむ、大丈夫ですよ。人前で恥ずかしいので、あんまりくっつかないでください」
むーむーと、照れながら拗ねた。
「ごめん。つい、嬉しくて」
少し離れてくれた。ザエルアポロの目がやけに細くなったようだが。
「そろそろ食事に行ってきたらどうかな?食べながら、藍染様とお話してしておいで」
そう提案した。
「そうだね。行こうか、なつみ」
「は、はい」
なつみは貴重品を探した。が、ムッちゃんとマントしかない。
「ごめんね。急いでたから、それしか持ってきてないんだ」
「いえ。大丈夫です。行きましょう」
似合わないが、マントを着けて、スリッパを履き、斬魄刀は手に持ったまま出口の方へ向かった。薬指が寂しくて、全く大丈夫ではなかったが。
藍染についていき入った部屋は、会議ができそうなほど広々としていた。長いテーブルに、椅子が両サイドにずらりとお誕生日席に1脚。藍染は先を行き、椅子を引いてなつみを誘導した。
「ここに座って」
「どうも」
自分はというと、平気な顔をしてお誕生日席に着いた。右隣からなつみに、「良いのかよ」と疑っている顔を向けられながら。
「食事をお持ちしました。熱いので、気をつけてお召し上がりください」
運ばれてきたのはお粥だった。
「ありがとうございます。いただきます😊(虚圏でお粥⁉️)」
蓮華で掬ってみる。
(オートミールでもなければ、リゾットでもない。おかゆ‼︎)
ぱくり。
「ッ‼️‼️(アツいッ‼️)💦」
ピクついたなつみに、相変わらずの姿を見れて微笑ましくなった藍染。
「ふふ、注意してもらったのに、君って子は」
「ちゅいまちぇん😣」
「僕が冷まして、食べさせてあげようか?」
そう言って藍染が手を伸ばしてきたので、器を取られまいと、なつみはズルズルとお盆ごと引いて、ちょっとだけ逃げた。
「いいです!自分で食べれます!おいしいです!」
「それは残念だけど、良かったよ(笑)」
ふーふーしてから、ふた口目をいただく。おいしそうに、もぐもぐもぐ。
「ししとうの天ぷらも添えてくれると、面白かったかな?(笑)」
笑えない冗談に睨み返すなつみ。
「記憶力に問題は無さそうだね。うっかりと慌てん坊なのは、治ってないみたいだけど」
(確かめ方よ‼️💢)
藍染の意地悪は放っておくことにする。
「そんなことより、何がどうなってるのか教えてくださいよ。ザエルアポロさんからは、ほんとかどうか信じられませんけど、うさぎに変身しちゃったのを、どうにかするために連れてこられたって聞きましたよ。戻ったから、もう瀞霊廷に帰れるんですよね。仕事に戻らなきゃ。でも、それだけじゃないみたいな言い方してました。藍染隊長の理想とか、何とか…」
藍染は椅子に深く座り直し、改まった。
「そうなんだ。黙っていて、ごめん。僕たちは、ある大きな計画を立てているんだ。君を驚かせたくて、ずっと内緒にしていたんだ」
怪しい…の目つきで、蓮華を口に運ぶ。
「そんな目で見ないでほしいな。これはなつみが大喜びすることなんだからね」
下手に口は挟まない。ただ疑う顔のみ。
「君は、虚と仲良くなって、痛みを伴う魂の浄化から、彼らを解放したいという信念を持って、これまで頑張ってきたよね。その理想を、僕ら護廷十三隊全体でも共有して、虚と無駄に争わずに済む環境というものを築いていこうということになったんだ」
「フンッ‼️⁉️」鼻の穴と目をかっ開いて興奮するなつみ。「マジですか‼️」
「そう。マジなんだよ。その手始めに、君がさっき会ったザエルアポロのような、破面を集め、交流を深め、死神と虚の絆を育もうとしているんだ。それをするための施設がここ。僕が代表で管理人を務めてるんだ」
(だから平気でお誕生日席)
「破面は下級虚と違って、感情が豊かなんだ。思考も、僕たちとほとんど変わらない。話し合うには持ってこいの存在なんだよ。彼らが僕らを敵だと思わなければ、弱い虚たちもそれに倣ってくれる。君もここで、たくさんの新しい友達を増やしていってほしいな」
食べる手を止める。
「すごーく素敵なお話ですけど、ぼくがその計画に、どう関わってくるんでしょうか。もしかして、ここで長期滞在の任務が与えられてるとか…。事前に何にも聞かされてないのに、そんなことあっちゃ困るんですけど」
「困ってくれるかな😊」
笑顔の応答。
「ダハーッ‼️‼️‼️やっぱりぃーッ‼️‼️‼️」
頭を抱えて天を仰ぐ、オーマイガッネス。
「だって、言い訳させてもらうけど、前もって説明しようと思ったんだよ。なのに、君が突然起きなくなるし、うさぎになるしで。いつその状態から回復するかわからなかったから、とりあえず連れてきちゃったんだ。総隊長にはもちろん許可をもらってるし、市丸隊長もこのことを理解してるよ」
「京楽隊長は」
「…、説得できてないけど、そのうちわかってくれるよ😅」
さよならも言えずに来てしまった特別任務。俯く。
「期間は」
「どうかな…」
「荷物は」
「それならここで揃うよ。服もね、新しい装いにするから。死神とは違う仕事をする予定なんだよ」
「帰らせてくれないってことっすか」
「京楽隊長に捕まると困るから。ごめん」
「指輪は、伝令神機は…」
「ここは圏外だ。連絡なら毎日の報告書のついでになるかな。指輪のことは…、謝らなきゃ」
「どうしたんですか」
恐る恐る尋ねる。
「君がうさぎになったとき、指から外れてしまったんだろうね。床に落ちているのを知らずに、僕が踏んづけてしまったんだ。ごめん。割れてしまったから、あっちに置いてきたよ」
この報告には、涙が込み上げてきた。
「ごめん。本当にごめん。許してくれないよね。京楽隊長と引き離すことになったのに、指輪まで壊してしまって」
大泣きしたいが、抑えておかなければならない。なつみは堪えた。
「総隊長がお決めになったことなんですよね。正式な任務です。命令されたのであれば、遂行するのみですよ。京楽隊長や、友だちや、やり残した仕事は、帰ってからどうにかします。早く帰っても良くなるように、精一杯やれることしますよ」
「なつみ…。ありがとう」
強い言葉が嬉しかった。
「もっと驚くことを伝えても良いかな」
「ゲ…。まだ何か」
「ここは虚圏。危険がいっぱい潜んでいるかもしれないから、君ひとりに大役を任せるばかりではダメだということで」
「藍染隊長まで長期っすか?大丈夫なんですか?五番隊」
「頼もしい部下ばかりだから、大丈夫。それに、僕だけじゃないんだ」
「はい?」
「しばらくは仕事の引き継ぎとかで行ったり来たりにはなるんだけど、そのうちこの任務に任命された全員が揃うよ」
「全員とは?」
なつみにくっと顔を近づけて教えてあげる。
「東仙隊長と市丸隊長」
顔を引きつらせてフリーズするなつみ。
「どう?嬉しいでしょ」
「うそぉぉぉおーッ⁉️」
「4人で楽しく暮らそうね。そうそう、君に与えられたとっておきの任務なんだけど、この虚圏にこの施設よりももっと大きなものを建ててもらいたいんだ。死神と破面が共存できるような、素晴らしい街づくりをしていくためにね。君には、その街づくりを指揮する『棟梁』になってもらいたいんだ」
どおりで無期限を匂わせる言い方だった。
「とーりょーッ⁉️まちーッ⁉️むっちゃんこ言うやん、この人ー‼️😱」
「大丈夫、大丈夫。材料調達は自分達でしなければいけないけど、タダだし、虚たちは力持ちばかりだから、なんとかなるよ。時間はいっぱいあるし🙂」
「絶対ぇ手伝いもしねぇ言い方だぜ、今の」
ご明察。
「僕らには隊長業務もあるからね😌」
「このワルモノぉーッ‼️‼️」
「嘘だって言ってよ、なつみ!わざとうさぎみたいなことしてるだけなんでしょ!お願いだから、返事してよッ…」
美沙がそう訴えても、なつみは長い耳を丁寧に舐めたり、首を傾けて後ろ足で痒いところを掻いたりしていた。言葉を失ったどころか、知人たちへの興味も失くしてしまったらしい態度。普段の食事を受け付けず、生野菜ばかり齧るようになった。
「これがなつみちゃんなの…?」
野菜を差し入れてくれたアヤとサンタが、美沙たちの家の前で怪訝そうにうさぎを見つめた。抱っこも嫌がるため、ハーネスとリードで繋いでいなければ大人しくなどしていられない。
「じゃあ、どこに行ったっていうの。あたしだって信じたくないって、こんなの!」
「……」
サンタの脚を恐る恐るくんくん嗅ぐなつみ。サンタが挨拶に顔を近づけたら、驚いて紐が許す限り遠くへ走って逃げてしまった。そこで安心したのか、うんちをぽろぽろ。
「絶対なつみちゃんじゃないよ。ただのうさぎだって。誰かがなつみちゃんとすり替えたんだよ」
「わざわざなつみをうさぎにして、本物のうさぎとすり替えて、どこかへあの子を連れ去ったってこと?そんな面倒なこと誰も思いつかないし、するわけないでしょ。手がかりは残ってないし、このうさぎからはなつみの霊圧が出てる。弱くなってきてるけど。どんなに見えてることが疑わしくても、信じるしかないの」
うさぎは美沙が持っているニンジンをねだった。
そこに京楽が現れた。
「やぁ、美沙ちゃん、アヤさん、サンタ」
「こんにちは、京楽隊長」
「こんにちは」
両手にニンジンを持って、むしゃむしゃ食べているうさぎの頭を撫でてあげる京楽。
「こんにちは、なつみちゃん」
アヤにはおかしな光景に見えていた。
「なつみちゃんをお散歩に連れてっても良いかい?」
「どうぞ」
「ありがとう」
リードが美沙から京楽の手に渡る。
「その辺歩いてくるよ」
「あたし、五番隊舎に行くので、帰るときそっちに連れてきてもらえますか?」
「わかったよ。いってくるね」
なつみを抱き上げて、歩いて行った。
「今日もかわいいね〜、なつみちゃん」
あの京楽ですら、これを現実と捉えていた。
「またね、アヤさん、サンタ。野菜、ありがとう」
「うん。また持ってくるね」
美沙はふたりに手を振ってから、家の中に戻っていった。
アヤには不思議でならなかった。自分は死神としての素質が無いため、霊圧探知もできないし、死神の組織としての特性も自分の考え方とは合わないと思っていたため、美沙や京楽の反応が理解できなくとも仕方がないのだろうとは思えるが。
「あれがなつみちゃんだなんて、到底思えないよ。ねぇ、サンタ」
「モフッ」
頷くサンタ。
「なつみちゃんが大変なことに巻き込まれてて、助けを求めてたらどうしよう。これじゃあ、誰も助けに行かないよね、きっと」
だからといって、アヤが訴えても、聞く耳を持ってもらえないことは目に見えている。仲の良い美沙ですら、あの態度なのだから。
「早く、解決してほしいね。こんなお別れ、イヤだよ」
「モォー」
なつみが所属する三番隊では、彼女の除名の話題が静かに上がっていた。方針をはっきりさせるため、イヅルが部下たちを代表して、市丸に話しかける。
「市丸隊長、木之本くんの席、どうしましょうか」
「どうするて?」
「彼女にとっては無念でしょうが、あの姿では死神として責務を全うすることはできませんよ。新しく、席官候補を探した方が良いんじゃないですか」
「あかん」
ひとつ目の返事からイヅルにはわかっていたが、市丸の答えは断固なものであった。
「なつみちゃんはうさぎさんになってもうただけや。そのうち戻る」
「そうでしょうが、しかし、いつになるかわからないんですよ。待つにしても、代理を用意しなければ、仕事に穴を開け続けることになります」
「それはボクが上手いこと処理するわ。せやから、なつみちゃんはウチの二十席のまんまにしとく。誰にも文句言わさへん」
「ですが」
「あの部屋はなつみちゃんのもんや。秘密のもんがよーさんあんねん。勝手に使われてたてなつみちゃんが知ったら、そらショック受けてまうで。あそこに他の子を入れたらあかん。まぁ、お菓子は腐ってまうかもしれへんで、こっそりいただいてもかまへんやろうけど」
イヅルは閉口した。
「心配せんでも大丈夫や。なつみちゃんは、必ずここに戻ってくる。元の元気な姿でな。
ええか?普段なつみちゃんは、自分の願いばっかり叶えてるように見えるやろ?けどな、ほんまはそれだけとちゃうねん。ボクらの理想も叶えてくれてんねんで。
ボクらが、なつみちゃんに帰ってきてほしいて願ったら、ちゃーんと叶えてくれるわ。ボクらが信じて待ったらなかん。なつみちゃんがおらん世界なんて、みんな耐えられるわけないもん。誰にも代わりなんか務まらんし。な、なつみちゃんがいらん子みたいに言うたるの、辞めたってや」
きっと他の隊士がうさぎに変身して、戦闘不能になったら、簡単に見捨ててしまうだろうに。少し寂しさを纏いつつも、市丸はなつみに見せるような頼もしく優しい笑顔をイヅルに向けた。こう言われては、彼に従うほかない。隊長の言葉を快く聞き入れよう。
「失礼しました。引き続き、この体制でいきましょう。木之本くんが奇跡を起こすのなんて、いつものことですもんね。僕も信じます、彼女が元気に帰ってくることを。嫌がらせに屈したりしませんよね」
「そうや。『いつも』のことや」
イヅルが隊首室を去ると、市丸は窓の外の空を見上げた。
「みんな、流されすぎや」
雲が流れて行く。
「ボクがなんとかしたらな、あかんねんなぁ…、やっぱり」
それが、悩みの種だった。その顔が。
みんなが望むいつものなつみはいない。楽しそうに笑ったり、かわいく拗ねたり、かまわずにはいられないほど大泣きしたり、遠くからでも嬉しそうに駆け寄ってくれる、あの小さな子は見当たらない。愛しい声は耳に届かない。別れはあまりにも突然で、なつみと過ごした思い出は、今よりも未来よりもずっと美しく心に残っている。自分たちからは取り戻せない、だからといって前にも進みたくはない、この欠けた世界で。なつみを知ってしまい、失うことを認めたくない彼らは、そのうさぎに縋った。どんなになつみらしさが消えていても、それがなつみであるというなら、仕方がないという気持ちと、いつかまた奇跡が起こると信じたい気持ちとで、偽物だと疑うことをしなくなってしまった。愛するが故に、真実を見ようとしなくなった。手元にある微弱な手がかりだけで、満足しようと決めてしまったのだ。そう、奇跡を起こすのはなつみであり、自分たちはただ待つしかできない、祈るしかできないと思い込んで。なつみらしいこのうさぎがいてくれる。それだけで、少なくとも絶望からは逃れられている。それが幸いであると誤認させられているとも知らないで。
「こんな連中が、世界を支えている面をして、蔓延っていると思うとゾッとする」
異変に気付けた者がいても、その考えを異変としてくるこの世界で。
「ふぁ〜🥱🫧」大きなあくびの後、友だちに指摘されたことを無意識にする。お口をしばらくむにゃむにゃむにゃ。むくりと起き上がり、両手のグーで目元をくりくり擦る。
「目覚まし鳴らなかったなぁ…」
しばしばと瞬きをしていると、視界が段々クリアになってきた。
「あれ。」
手を脚の付け根のところに下ろして、若干猫背で、寝ぼけながらも異様な真っ白さに気づいて、頭が真っ白。
「…(はわわわわ)😨」
口をあんぐり開けて、冗談じゃない寝起きドッキリにあわあわ慌てる。
「あわーーーッ‼️⁉️どこぉーーーッ⁉️」
頭を抱え、背筋伸ばして絶叫していた。
「天国か❗️白いから、天国か❗️ここがそうなのか❗️つか、夢か❗️うわ〜ッ✨」
まさかのぶっ飛んだ光景で、奇跡体験!アンビリぃバボーをちょっぴり楽しんでしまっちゃうなつみ。
「これが異世界か。起きる前に探検しよう❗️ムッちゃんはいないのかな」
寝ているものと思い込み、どおりで目覚ましが鳴っていないと決めたなつみは、ベッドを飛び出して、裸足でペタペタと歩いてみる。扉があるので、そちらの方へ。
「新しいパジャマだぁ。真っ白けっけ。この世界の人って、白過ぎてつまんなくないのかな。ぼくなら飽きるな」
ドアノブに手を伸ばしたら袖が見えたので、ついでに全身をくるーっと見回したのだ。京楽がその場にいたら、萌え袖とぽてっと大きめサイズの着こなしなつみに、躊躇なく飛び掛かっていたことだろう。
カチャリとドアを開けたらびっくり。ピンク色の髪の毛とメガネが印象的なお兄さんが、すぐそこに立っていた。
「あわーッ‼️⁉️💦」
なつみが驚いても、お兄さんは驚かない。
「寝起きなのに、元気だね」
にっこり笑って、見下してくれる。
「お兄さん、どちら様」
開けたドアをすーっと閉じて、半開きの隙間から質問してみるなつみ。見上げる。
「僕の名前はザエルアポロ。科学者だよ」
「科学者?天使さんじゃなくて?」
「そうだよ。ここは天国じゃなくて、虚圏だからね。天使じゃなくて、虚」
「ほろー⁉️うぇこむんどー⁉️」
バタンッ、ガチャッ‼︎
「夢じゃないのー⁉️」
「どうして今、1回閉めしたの💧」
ひょえ〜と眩むなつみ。理解が追いつけない。
「どしてぼくは、虚圏に?いつ来たんでしょう。お酒飲みましたっけ」
「酔っ払った勢いで来ちゃったと思ったかな?大丈夫、飲んでいないよ。飲酒は止められているんだろう?君が寝ている間に、部屋から連れ出したんだよ」
「なして?誰が?あなたが?」
「僕じゃなくて、藍染様が」
「藍染様…?藍染、惣右介さん…?」
「うん🙂」
「…、なすて?🤔」
「話してあげるから、そろそろ部屋の中に入れてくれないかな?」
「あ…。」言われて気づいた。「はい」
ザエルアポロを入れてあげると、なつみはぺこりとお辞儀した。
「申し遅れました。ぼくは木之本なつみです。よろしくお願いします」
「これはご丁寧に、どうも。こちらこそよろしくね。君はベッドに座ってくれるかな。僕はそこのスツールに座るから」
「はーい」
ペタペタ急足で、降りた時と反対側に回ってみて、初めて知った。
「あ、スリッパあった」
ザエルアポロがなつみの肩に手を置き、ベッドに上がってしまうのを一旦止めた。
「それだけじゃないよ」
しゃがむと、ベッドの下にある引き出しを開けた。
「あぁ❗️ムッちゃんとマント❗️」
なつみはザエルアポロの隣に屈んで、斬魄刀とマントを取り出した。
「目覚めてパニックを起こして、暴れてしまうんじゃないかと心配していたんだよ。念のため、ここにしまっておいていたんだ。ごめんね」
「いえいえ、ご丁寧にしまっていただいて、ありがとうございます」
ベッドの上にそのふたつを置き、自分もベッドに上がった。あぐらをかく。
するとノックが聞こえた。
「どうぞ」
ザエルアポロが返事をする。
「失礼致します」1人の女性が入室してきた。「お茶をお持ちしました」
「ありがとう。そこに置いて」
ベッド脇のテーブルにカップが置かれる。
「どうぞ」
「ありがとうございます😊」
何茶かなーと、なつみが湯気の香りを嗅いでいると。
「お食事の準備をさせていだたきますが、召し上がれそうですか」
ときかれた。
「へ、いや、そんなわざわざおもてなししていただかなくても💦」
ギュるる〜……
「///💦」
「身体は正直だね。我慢しなくても良いよ」
なつみの遠慮も知らないで鳴ったお腹を押さえて、こくんと頷いた。
「はい///」
「少し話してから行かせるから、それまでに作っておいて」
「承知しました。失礼致します」
女性は退室した。
「あの…、ここって、ザエルアポロさんのおうちですか?」
「そうだね…、住宅と研究所と、まぁいろいろだけど」
「他の方もいらっしゃったんですね」
「うん。何人かいるよ」
「そのみなさんも、ザエルアポロさんみたいに人っぽいんですか?」
ちょっと失礼な質問のように思え、控えめなトーンできいてみた。
「あぁ、見た目のことかな?そうだよ。ここのみんなは、僕と同じように仮面を取ってしまっているんだよ」
「と、取っちゃったんですか⁉︎そんなことできるんですか⁉︎」
「うん。知らないかな。こういうのを破面というんだけど」
「アランカル?」
「虚から、より死神に近い存在へと進化させた姿なんだ。人間だった頃のように振る舞える上に、更に強力な戦闘能力を手に入れられる。力を求める虚なら、みんな破面になりたがっているよ。こういう話を友だちとしたりしないのかな?」
「友だち?」
「噂は前からよく聞いていたんだ。虚と仲良くなりたがっている、変わった死神がいるってね。虚に優しく接してくれる木之本なつみが、僕に助けを求め、連れてこられた。仲間たちのことで恩義があるから、僕は快く君の面倒を見ることにしたんだよ」
(ふわ〜。良い人〜💖)
爽やかな笑顔に、なつみはすっかりやられてしまった。
「やはり、君は強い子なんだね。ここにいる僕らは、中級大虚や最上級大虚なんだけど、全く辛そうじゃないから」
「……😑⁉️」
衝撃の事実に絶句である。
「みんなが仲良くしたがる訳だよ。僕も仲良くなりたいから、呼び捨てで呼んでもらってもかまわないよ。僕もなつみって呼びたいな」
(や、やべぇとこじゃんッ‼︎‼︎‼😱︎💦)
冷や汗たらたらさせながら頷いてみせた。
「ありがとう。それでね、なつみ。君が僕のところに連れてこられた理由なんだけど」
本題に入るらしく、なつみは気を取り直して、聞き耳を立てた。
「君は昨日の夜、睡眠薬を飲まされてしまったらしいんだ。誰の仕業かは判明していないらしいよ。ただ、ファンからもらった差し入れのお菓子の中に仕込まれていたことは、わかっているって」
「なん、ですと…?」
「君の活躍ぶりを妬んだ人の犯行らしいけど、嫌がらせにしてはやり過ぎだよね。薬の作用か何なのか、何故か君はうさぎに変身してしまったんだよ」
「うさぎッ⁉️何で⁉️」
なつみは心底驚き、考えを巡らせると、真剣に心当たりを探ろうとしていた。その様子を観察するザエルアポロ。
「君にもわからないか。まぁ、良いよ。睡眠薬の効果が切れた辺りで、眠りが浅くなって、自然とこの姿になれていたから」
「よく眠っていた…🤔」
腕を組んで考え、ボソッとつぶやいていた。その呟きは、ザエルアポロの耳には入らなかった。
「涅マユリが眠りと変身の原因を探ったようだけど、結論を出せなかったんだって。彼が匙を投げてしまったから、藍染様は君を僕に託すことにしたんだよ。それで君はここにいる。元の姿に戻ってくれて良かったよ。これで安心だね」
ザエルアポロはなつみの頭を撫でた。
「どうして藍染隊長からあなたに依頼があったんですか?」
当然の質問に、彼はにこやかに答えた。
「あの方には、君の理想を叶えるという夢があるそうなんだ」
(理想…?)
「そのために、僕たち破面が必要なんだって。僕は涅マユリに匹敵する程の技術と知識を有していると見込まれて、なつみを助けるように頼まれたんだ」
「ふぇ〜」
「フフッ、ここから先は本人から聞いてくれるかな?」
そう言った直後、再びノックが聞こえた。慌てて力がこもっているような響きだ。
「どうぞ」
ザエルアポロが返事をするや否や、ドアが勢いよく開かれ、喜びに駆られて安堵と驚きとが混ざった表情でなつみに抱きついてきた男が。
「良かった、なつみ!」
「藍染隊長⁉︎///」
※「しゅんすけさん」事故以降、「惣右介さん」と呼ぶのは心の中だけにしているなつみ
「うさぎのまま、元に戻らないんじゃないかって、心配してたんだからね。どこも身体に異変は無い?大丈夫?」
確かめるように、藍染はなつみの身体をあちこち触った。
「んむむ、大丈夫ですよ。人前で恥ずかしいので、あんまりくっつかないでください」
むーむーと、照れながら拗ねた。
「ごめん。つい、嬉しくて」
少し離れてくれた。ザエルアポロの目がやけに細くなったようだが。
「そろそろ食事に行ってきたらどうかな?食べながら、藍染様とお話してしておいで」
そう提案した。
「そうだね。行こうか、なつみ」
「は、はい」
なつみは貴重品を探した。が、ムッちゃんとマントしかない。
「ごめんね。急いでたから、それしか持ってきてないんだ」
「いえ。大丈夫です。行きましょう」
似合わないが、マントを着けて、スリッパを履き、斬魄刀は手に持ったまま出口の方へ向かった。薬指が寂しくて、全く大丈夫ではなかったが。
藍染についていき入った部屋は、会議ができそうなほど広々としていた。長いテーブルに、椅子が両サイドにずらりとお誕生日席に1脚。藍染は先を行き、椅子を引いてなつみを誘導した。
「ここに座って」
「どうも」
自分はというと、平気な顔をしてお誕生日席に着いた。右隣からなつみに、「良いのかよ」と疑っている顔を向けられながら。
「食事をお持ちしました。熱いので、気をつけてお召し上がりください」
運ばれてきたのはお粥だった。
「ありがとうございます。いただきます😊(虚圏でお粥⁉️)」
蓮華で掬ってみる。
(オートミールでもなければ、リゾットでもない。おかゆ‼︎)
ぱくり。
「ッ‼️‼️(アツいッ‼️)💦」
ピクついたなつみに、相変わらずの姿を見れて微笑ましくなった藍染。
「ふふ、注意してもらったのに、君って子は」
「ちゅいまちぇん😣」
「僕が冷まして、食べさせてあげようか?」
そう言って藍染が手を伸ばしてきたので、器を取られまいと、なつみはズルズルとお盆ごと引いて、ちょっとだけ逃げた。
「いいです!自分で食べれます!おいしいです!」
「それは残念だけど、良かったよ(笑)」
ふーふーしてから、ふた口目をいただく。おいしそうに、もぐもぐもぐ。
「ししとうの天ぷらも添えてくれると、面白かったかな?(笑)」
笑えない冗談に睨み返すなつみ。
「記憶力に問題は無さそうだね。うっかりと慌てん坊なのは、治ってないみたいだけど」
(確かめ方よ‼️💢)
藍染の意地悪は放っておくことにする。
「そんなことより、何がどうなってるのか教えてくださいよ。ザエルアポロさんからは、ほんとかどうか信じられませんけど、うさぎに変身しちゃったのを、どうにかするために連れてこられたって聞きましたよ。戻ったから、もう瀞霊廷に帰れるんですよね。仕事に戻らなきゃ。でも、それだけじゃないみたいな言い方してました。藍染隊長の理想とか、何とか…」
藍染は椅子に深く座り直し、改まった。
「そうなんだ。黙っていて、ごめん。僕たちは、ある大きな計画を立てているんだ。君を驚かせたくて、ずっと内緒にしていたんだ」
怪しい…の目つきで、蓮華を口に運ぶ。
「そんな目で見ないでほしいな。これはなつみが大喜びすることなんだからね」
下手に口は挟まない。ただ疑う顔のみ。
「君は、虚と仲良くなって、痛みを伴う魂の浄化から、彼らを解放したいという信念を持って、これまで頑張ってきたよね。その理想を、僕ら護廷十三隊全体でも共有して、虚と無駄に争わずに済む環境というものを築いていこうということになったんだ」
「フンッ‼️⁉️」鼻の穴と目をかっ開いて興奮するなつみ。「マジですか‼️」
「そう。マジなんだよ。その手始めに、君がさっき会ったザエルアポロのような、破面を集め、交流を深め、死神と虚の絆を育もうとしているんだ。それをするための施設がここ。僕が代表で管理人を務めてるんだ」
(だから平気でお誕生日席)
「破面は下級虚と違って、感情が豊かなんだ。思考も、僕たちとほとんど変わらない。話し合うには持ってこいの存在なんだよ。彼らが僕らを敵だと思わなければ、弱い虚たちもそれに倣ってくれる。君もここで、たくさんの新しい友達を増やしていってほしいな」
食べる手を止める。
「すごーく素敵なお話ですけど、ぼくがその計画に、どう関わってくるんでしょうか。もしかして、ここで長期滞在の任務が与えられてるとか…。事前に何にも聞かされてないのに、そんなことあっちゃ困るんですけど」
「困ってくれるかな😊」
笑顔の応答。
「ダハーッ‼️‼️‼️やっぱりぃーッ‼️‼️‼️」
頭を抱えて天を仰ぐ、オーマイガッネス。
「だって、言い訳させてもらうけど、前もって説明しようと思ったんだよ。なのに、君が突然起きなくなるし、うさぎになるしで。いつその状態から回復するかわからなかったから、とりあえず連れてきちゃったんだ。総隊長にはもちろん許可をもらってるし、市丸隊長もこのことを理解してるよ」
「京楽隊長は」
「…、説得できてないけど、そのうちわかってくれるよ😅」
さよならも言えずに来てしまった特別任務。俯く。
「期間は」
「どうかな…」
「荷物は」
「それならここで揃うよ。服もね、新しい装いにするから。死神とは違う仕事をする予定なんだよ」
「帰らせてくれないってことっすか」
「京楽隊長に捕まると困るから。ごめん」
「指輪は、伝令神機は…」
「ここは圏外だ。連絡なら毎日の報告書のついでになるかな。指輪のことは…、謝らなきゃ」
「どうしたんですか」
恐る恐る尋ねる。
「君がうさぎになったとき、指から外れてしまったんだろうね。床に落ちているのを知らずに、僕が踏んづけてしまったんだ。ごめん。割れてしまったから、あっちに置いてきたよ」
この報告には、涙が込み上げてきた。
「ごめん。本当にごめん。許してくれないよね。京楽隊長と引き離すことになったのに、指輪まで壊してしまって」
大泣きしたいが、抑えておかなければならない。なつみは堪えた。
「総隊長がお決めになったことなんですよね。正式な任務です。命令されたのであれば、遂行するのみですよ。京楽隊長や、友だちや、やり残した仕事は、帰ってからどうにかします。早く帰っても良くなるように、精一杯やれることしますよ」
「なつみ…。ありがとう」
強い言葉が嬉しかった。
「もっと驚くことを伝えても良いかな」
「ゲ…。まだ何か」
「ここは虚圏。危険がいっぱい潜んでいるかもしれないから、君ひとりに大役を任せるばかりではダメだということで」
「藍染隊長まで長期っすか?大丈夫なんですか?五番隊」
「頼もしい部下ばかりだから、大丈夫。それに、僕だけじゃないんだ」
「はい?」
「しばらくは仕事の引き継ぎとかで行ったり来たりにはなるんだけど、そのうちこの任務に任命された全員が揃うよ」
「全員とは?」
なつみにくっと顔を近づけて教えてあげる。
「東仙隊長と市丸隊長」
顔を引きつらせてフリーズするなつみ。
「どう?嬉しいでしょ」
「うそぉぉぉおーッ⁉️」
「4人で楽しく暮らそうね。そうそう、君に与えられたとっておきの任務なんだけど、この虚圏にこの施設よりももっと大きなものを建ててもらいたいんだ。死神と破面が共存できるような、素晴らしい街づくりをしていくためにね。君には、その街づくりを指揮する『棟梁』になってもらいたいんだ」
どおりで無期限を匂わせる言い方だった。
「とーりょーッ⁉️まちーッ⁉️むっちゃんこ言うやん、この人ー‼️😱」
「大丈夫、大丈夫。材料調達は自分達でしなければいけないけど、タダだし、虚たちは力持ちばかりだから、なんとかなるよ。時間はいっぱいあるし🙂」
「絶対ぇ手伝いもしねぇ言い方だぜ、今の」
ご明察。
「僕らには隊長業務もあるからね😌」
「このワルモノぉーッ‼️‼️」