第九章
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集まった4人がマユリの報告を聞く。
「予想通り、血液中に薬物の成分が検出されたヨ」
「薬⁉︎薬でうさぎになったって言うの⁉︎」
京楽に話を遮られて、マユリは眼球だけ天を仰いだ。すぐに戻す。
「見られる特徴からして、睡眠薬らしい。それで、これだけよく眠っているんだヨ。だが、その他に怪しい物質は、見当たらなかった。気になることと言えば、その睡眠薬の強さと量だネ」
「強いんですか」
「処方も無しに、寝付きが悪くて飲んだとは考えられないほどにネ。確実に彼女を眠らせ、尚且つ長時間目を覚させないようにしたかったんだろう。注射痕が無かったことから、食べ物に混ぜて薬を投与した疑いが高いネ。可能性は無くも無いが、もしかするとこれは、なつみの命を狙った犯行かもしれないヨ」
「そんな⁉︎」
マユリはその意見を確信めいて述べた。
「自己防衛反応でうさぎ化した……?」
藍染は自分で言いながら、首を傾げた。
「今わかる異変と変化を無理矢理結びつけるなら、そうなるがネェ。しかし、考えてみ給え。うさぎになったところで、何から身を守れるというんだ。副作用という可能性もあるが、それこそあり得ないだろう。睡眠薬を使ったくらいで耳が長くなった者を見たことがあるかネ?」
「涅隊長、睡眠薬の種類とか特定できるかい?」
「特段珍しいものではないネ。四番隊からくすねられる代物だろう。昨日は普通に過ごしていたなら、摂取は夜と考えられるヨ。そう仮定するならば、目覚めるのは日が暮れてからじゃあないかと思うんだが、うさぎの小さな身体では、薬の回りや消化にどう時間がかかるかわからない。いつ気がつくのか、予測ができないヨ」
ネガティブなことが述べられる。希望を持つには情報がまだ足りないようだ。
「どうやって睡眠薬を飲ませたと思う?」
「あれじゃないですか!」美沙が言う。「モデルの活動で人気出てたけど、お祭りのおかげで、もっとなつみの人気が上がったんですよ。それで、ファンだっていうたくさんの人たちから、いろんな差し入れを貰うようになって。毎日のように、どのお菓子から食べようかって、いっつも悩んでたんです。たぶん、その差し入れのお菓子の中に…」
「紛れ込んでいたんだろうネ。なんとも、向こうにしてみれば、好都合な手段だヨ。これは、犯人探しまで難航しそうだネェ。『嫌がらせがしたかった』などと自白すれば、隊長全員を敵に回すことになる。そんな恐ろしいマネを、一般隊士ができるはずもないからネ」
「嫌がらせでここまでするなんて」
「やった本人が一番驚いとるやろね」
「このまま元の姿に戻らなかったら、どうしよう。これじゃあ、死神は務まらないよ」
「原因がわからないんだ。手の施しようが無いヨ。自然と戻ってくれると良いんだが、どうなるかは何とも言えないネェ。なつみの意識はどこまで保たれているのか。起きたとて、精神までうさぎと化していたら、殺されたのと同じことだヨ」
「そんな言い方ッ…」
マユリの冷酷な言葉に、思わず美沙は遮ったが、否定はできない。
「動機は何だろう。なつみちゃんが恨まれるなんて、考えられないけど」
「君がよくしていることじゃないか?嫉妬だヨ」
「ボクと付き合ってることが、そんなに羨ましいかい?」
そんなことはないと、マユリが京楽を見ているそばで、美沙はちらりと藍染を見た。
「どうしたの?何か思い当たることがあるなら言ってごらん。今はどんな些細なことも貴重な情報だからね」
気は進まないが、隊長から言われたため、心当たりを打ち明けてみる美沙。
「うちの隊の人たちを疑うなんてしたくないですけど、でも…。実は、女子隊士たちの間で、たまになつみについての陰口を聞くようになったんです」
「陰口⁉︎ボクのかわいいなつみちゃんは、すごく良い子なんだよ。嫌われるようなことなんか、してないだろ?」
「してませんよ。ですが、なつみというか、その、藍染隊長が…」
「僕?」
不意に名前を挙げられ、藍染は自らを指差して驚いた。
「藍染隊長が、なつみを下の名前で呼ぶようになったじゃないですか。それを良く思ってない人たちが、結構多くて。五番隊の隊員でもないのに、特別扱いされててズルいとか、何様だ、とか…」
「そら酷いなぁ」
「充分、動機になり得る嫉妬心だネェ」
「そうだったんだ。知らなかったよ。…、こんなことが起きてしまったのは、僕のせいということか」
そうなるだろうとわかっていて、呼び方を変えていた藍染。ここは計画通りだった。肩を落とす。
「軽率だったよ」
「藍染隊長が気に病まれることはありませんよ。なつみを大切に思ってくださってるだけなんですから。それにまだ、睡眠薬を仕込んだのが、どこの誰だかわかりません。陰口だって、そのうち納まるでしょうし。とにかく、早く犯人を探しに行きましょう。ここで考えてても仕方ありません。探せば、うさぎに変身した新しい手がかりが、見つかるかもしれませんよ」
「そうだね」
「せやけど、なつみちゃんのことも見とらなあかんやろ。檻に入れるなんて、かわいそうやし」
「それなら、私に任せてもらおうか。まだもう少し調べてみたいからネ」
マユリの申し出に、一同、迷う間があったが。
「わかった。なつみは涅隊長に預けて、僕たちは隊舎に戻って、仕事をしながらみんなに話を聞いてみよう。良いですよね、京楽隊長」
「ああ。そうしよう。ボクは、山じいや他の隊長たちに、このことを伝えるよ」
「お願いします」
「涅隊長、なつみちゃんを頼んだよ」
「わかってるヨ。一度抱いておくか?」
珍しく親切に、マユリは京楽になつみを差し出した。受け取る京楽。
「こんなに小さくなって…。はぁ…」
抱いたなつみの背中に、自分の口元を持っていく。ふわふわが肌に触れる。
「持って帰りたい」
本音が出た。
「ダメです。暗くなる前には、様子を見にまた伺いましょう」
「はぁーい」
渋々なつみをマユリに返した。
「京楽に触られても起きないとは。相当自我を失っているようだネ」
「わぁーんッ‼️なつみちゃーん‼️起きてよーッ‼️イチャイチャできないじゃないかーッ‼️😭」
泣き喚く京楽の襟をひっ捕まえ、廊下を引きずっていく市丸。
「もう行くで。ボクらにできること、早よせな!」
「失礼します、涅隊長」美沙は一礼すると、なつみの頭を撫でた。「なつみ、早く起きてね。こんなことした奴、絶対あたしたちで捕まえてやるんだから!」
「涅隊長、進展があれば、すぐに連絡を回してくださいね」
藍染が言った。
「承知したヨ。そちらからの報告も待っているヨ」
「わかりました。行こうか」
「はい!」
市丸と京楽に続き、藍染と美沙も技術開発局を後にした。
京楽から伝えられた『なつみのうさぎ化』ニュースは、当然、隊長らに信じてもらえなかったが、藍染からも再度説明されて、ようやく信じてもらえた。
「だから言ったじゃないか❗️ なつみちゃんがちっちゃいうさぎになっちゃったって❗️大変なんだよ❗️😫」
「未だ信じられんがの。即急に儂等も涅のもとへ向かう。睡眠薬をなつみに盛った者の情報はどうじゃ」
「まだだよ。美沙ちゃんと惣右介くんが、なつみちゃんが使ってるゴミ箱から差し入れの包みを集めて、技術開発局に持っていったって。薬品か何かが付いてないか調べてるところさ。効果は期待できないけど、五番隊のみんなに、やった覚えがある人は、正直に申し出るようにとも、言ってあるみたい。あそこが一番怪しいからってさ」
「そうか」
技術開発局にて、なつみがうさぎであることを確認すると、元柳斎はある男と会った。狛村だ。
「狛村よ、なつみを見て、どう思った」
「申し訳ございません、元柳斎殿。ご期待に添えるお答えはしかねます。我々は生まれつき人狼であり、自らの意志で人化することは可能ですが、木之本の場合、どれも当てはまらないでしょう」
「なるほどのぉ。自らの意志か」
更に元柳斎は独自に聞き込みをした。
「砕蜂、なつみを見て来たかの」
「は。よくもまた大問題の渦中にいれるものです。今回は、巻き込まれたようですが」
「そう思うか」
「というと」
「術を使ったとは考えられんかの」
「変化ですか」
「左様」
「あれは四楓院家の血で為せる業。無関係のなつみができるはずもありません」
「そうなのか」
「そもそも、そんな術があることも知り得ないでしょう。涅の言う通り、薬の作用ではないでしょうか」
「ふむ……」
差し入れの包み紙の調査結果を聞きに、藍染と美沙が技術開発局へ三度目の訪問をする。
「どうだったかな」
阿近が報告する。
「ありましたよ、不自然なヤツがひとつ」
透明な袋に入れられた包み紙と箱を2人に見せた。
「他の紙やら箱には、回収してくれたあんた方2人の以外に、差出人や配達をした奴の指紋が付いていたが、これらには木之本が触った跡しか付いていませんでした。そして、薬品の成分も若干付着していました。睡眠薬については、これを送った人物の犯行で間違いないでしょう」
「そう…。ということは、ここから探すのも難しいということだよね」
「まぁ、そうっスね」
自分を特定されないように、送り主は証拠を残さない細心の注意を払いながら、なつみに薬入りのお菓子を差し入れたのだ。指紋を付けず、直接自宅の郵便受けに届ける。そこには、他の差し入れも入っているため、不自然に思われることなく、紛れ込ませることができる。そして必ず食べてもらえるように、メッセージカードを添えて、特別なものであることを装った。
「あ!藍染隊長からだ!珍しい〜。どれどれ〜?😋」
あとはカードのみ自分で回収するだけである。
「犯人が、やってしまったことに負い目を感じてくれることを、祈るしかなさそうだね」
有益な収穫が無かったと思った藍染と美沙が立ち去ろうとすると、マユリがふたりのもとへ現れた。うさぎのなつみを抱えて。
「待ち給え」
「どうしました?」
「もうなつみを連れて帰ってもらってかまわないヨ」
「良いんですか」
「ああ」
五番隊のふたりは驚いた。
「余すところなく調べ上げたつもりだが、私にはお手上げでネ。新しいことは何ひとつ発見できなかったヨ」
「そうですか……」
美沙ががっかりする。
「例えうさぎの身体であろうと、診察台で寝るより、自分の布団で寝かせたほうが良いだろう。自分が変身していることに気付いていないんだヨ。ここで目覚めて、変に驚かせるよりマシなはずだ」
マユリはそう言って、なつみを美沙に渡した。
「そうですね。ご協力いただいて、ありがとうございました、涅隊長」
「構わないヨ。なつみのためだ」
優しい言葉を発する顔には、悔しさが滲んでいた。
「落ち込まないでください。なつみが目覚めて、元の姿に戻る方法は、必ずどこかにあるはずですから」
「気休めなどいらないヨ。さぁ、早く行ってくれ給え。ここにその方法とやらは無いんだからネ」
相当堪えているようだ。藍染と美沙は困り、顔を見合わせてしまった。それでも、気の利いた言葉をかけてやることはできなかった。
「失礼します。変化があれば、すぐにお伝えしますね」
「ああ、頼むヨ」
ポツリと呟いた言葉があった。
「だからあの部屋を残しておけば良かったんだヨ」
しかし、美沙にはまだその日の仕事が残っていた。早退して、いつ起きるともわからないなつみのそばにいてやることはできない。そこで藍染は、美沙が仕事を終えるまで、なつみを隊首室にて自分が預かっておくと言い出した。
「わかりました。お願いします」
「何かあれば、声をかけるから、安心して仕事に集中してくれて良いからね」
藍染はそうしてなつみを手にし、隊首室ではなく、他の場所へ向かった。
「頼んだものは用意できたか」
「これです」
市丸が示したのは、ケージに閉じ込められた灰色のうさぎだった。
「少し大きいようだが、まぁ良いだろう」
「急やったんで、今日のところはこの子で勘弁してください」
「いや、別に探すことはないよ。こいつでいこう。余計な動きは危険だからね。これ以上計画を狂わさないようにしなければ。要、そこに睡眠薬がある。そのうさぎに飲ませろ」
「はい」
東仙が指示に従い、市丸が抑えるうさぎの口にスポイトを突っ込んだ。
「計画は狂いはしたが、良いことも多いよ。勝手に運びやすい大きさになってくれたんだからね。起きないことよりも、変身の方が問題なんだ。私のしたことなど、さほど注目されないだろう」
「でも、変身の原因、わからんかったんでしょう。ほんまに戻らんかったら」
「戻るさ。私が命じるんだ。戻させるに決まっている。ザエルアポロに任せれば、何とかするだろう。奴は優秀な科学者だからね。手がかりがないからと、簡単に諦める馬鹿とは違うよ」
用意されたうさぎは動かなくなった。
「眠りました」
「よし。では、なつみを虚圏に連れて行くよ。皆にお別れを言わせてやれなくて心苦しいが、私たちでこの子の心を支えてやろう」
「京楽さん、悲しむで」
「知ったことではないよ。お前が消えればなつみが悲しむんだ。その方が、ずっと辛いんじゃないか。なつみは私たちといる方が幸せなんだよ。京楽にはただのうさぎを抱かせてやれ。わかりはしないさ」
藍染はなつみを抱え直し、盗んできておいた彼女の斬魄刀とマントを持った。
「指輪はどうしたんですか?」
斬魄刀に着けられた御守りを見て、市丸は尋ねた。
答えずそのまま出口のところまで進み、ようやく藍染は振り返った。
「砕いたに決まっているだろう」
笑みを残して去っていった。
「予想通り、血液中に薬物の成分が検出されたヨ」
「薬⁉︎薬でうさぎになったって言うの⁉︎」
京楽に話を遮られて、マユリは眼球だけ天を仰いだ。すぐに戻す。
「見られる特徴からして、睡眠薬らしい。それで、これだけよく眠っているんだヨ。だが、その他に怪しい物質は、見当たらなかった。気になることと言えば、その睡眠薬の強さと量だネ」
「強いんですか」
「処方も無しに、寝付きが悪くて飲んだとは考えられないほどにネ。確実に彼女を眠らせ、尚且つ長時間目を覚させないようにしたかったんだろう。注射痕が無かったことから、食べ物に混ぜて薬を投与した疑いが高いネ。可能性は無くも無いが、もしかするとこれは、なつみの命を狙った犯行かもしれないヨ」
「そんな⁉︎」
マユリはその意見を確信めいて述べた。
「自己防衛反応でうさぎ化した……?」
藍染は自分で言いながら、首を傾げた。
「今わかる異変と変化を無理矢理結びつけるなら、そうなるがネェ。しかし、考えてみ給え。うさぎになったところで、何から身を守れるというんだ。副作用という可能性もあるが、それこそあり得ないだろう。睡眠薬を使ったくらいで耳が長くなった者を見たことがあるかネ?」
「涅隊長、睡眠薬の種類とか特定できるかい?」
「特段珍しいものではないネ。四番隊からくすねられる代物だろう。昨日は普通に過ごしていたなら、摂取は夜と考えられるヨ。そう仮定するならば、目覚めるのは日が暮れてからじゃあないかと思うんだが、うさぎの小さな身体では、薬の回りや消化にどう時間がかかるかわからない。いつ気がつくのか、予測ができないヨ」
ネガティブなことが述べられる。希望を持つには情報がまだ足りないようだ。
「どうやって睡眠薬を飲ませたと思う?」
「あれじゃないですか!」美沙が言う。「モデルの活動で人気出てたけど、お祭りのおかげで、もっとなつみの人気が上がったんですよ。それで、ファンだっていうたくさんの人たちから、いろんな差し入れを貰うようになって。毎日のように、どのお菓子から食べようかって、いっつも悩んでたんです。たぶん、その差し入れのお菓子の中に…」
「紛れ込んでいたんだろうネ。なんとも、向こうにしてみれば、好都合な手段だヨ。これは、犯人探しまで難航しそうだネェ。『嫌がらせがしたかった』などと自白すれば、隊長全員を敵に回すことになる。そんな恐ろしいマネを、一般隊士ができるはずもないからネ」
「嫌がらせでここまでするなんて」
「やった本人が一番驚いとるやろね」
「このまま元の姿に戻らなかったら、どうしよう。これじゃあ、死神は務まらないよ」
「原因がわからないんだ。手の施しようが無いヨ。自然と戻ってくれると良いんだが、どうなるかは何とも言えないネェ。なつみの意識はどこまで保たれているのか。起きたとて、精神までうさぎと化していたら、殺されたのと同じことだヨ」
「そんな言い方ッ…」
マユリの冷酷な言葉に、思わず美沙は遮ったが、否定はできない。
「動機は何だろう。なつみちゃんが恨まれるなんて、考えられないけど」
「君がよくしていることじゃないか?嫉妬だヨ」
「ボクと付き合ってることが、そんなに羨ましいかい?」
そんなことはないと、マユリが京楽を見ているそばで、美沙はちらりと藍染を見た。
「どうしたの?何か思い当たることがあるなら言ってごらん。今はどんな些細なことも貴重な情報だからね」
気は進まないが、隊長から言われたため、心当たりを打ち明けてみる美沙。
「うちの隊の人たちを疑うなんてしたくないですけど、でも…。実は、女子隊士たちの間で、たまになつみについての陰口を聞くようになったんです」
「陰口⁉︎ボクのかわいいなつみちゃんは、すごく良い子なんだよ。嫌われるようなことなんか、してないだろ?」
「してませんよ。ですが、なつみというか、その、藍染隊長が…」
「僕?」
不意に名前を挙げられ、藍染は自らを指差して驚いた。
「藍染隊長が、なつみを下の名前で呼ぶようになったじゃないですか。それを良く思ってない人たちが、結構多くて。五番隊の隊員でもないのに、特別扱いされててズルいとか、何様だ、とか…」
「そら酷いなぁ」
「充分、動機になり得る嫉妬心だネェ」
「そうだったんだ。知らなかったよ。…、こんなことが起きてしまったのは、僕のせいということか」
そうなるだろうとわかっていて、呼び方を変えていた藍染。ここは計画通りだった。肩を落とす。
「軽率だったよ」
「藍染隊長が気に病まれることはありませんよ。なつみを大切に思ってくださってるだけなんですから。それにまだ、睡眠薬を仕込んだのが、どこの誰だかわかりません。陰口だって、そのうち納まるでしょうし。とにかく、早く犯人を探しに行きましょう。ここで考えてても仕方ありません。探せば、うさぎに変身した新しい手がかりが、見つかるかもしれませんよ」
「そうだね」
「せやけど、なつみちゃんのことも見とらなあかんやろ。檻に入れるなんて、かわいそうやし」
「それなら、私に任せてもらおうか。まだもう少し調べてみたいからネ」
マユリの申し出に、一同、迷う間があったが。
「わかった。なつみは涅隊長に預けて、僕たちは隊舎に戻って、仕事をしながらみんなに話を聞いてみよう。良いですよね、京楽隊長」
「ああ。そうしよう。ボクは、山じいや他の隊長たちに、このことを伝えるよ」
「お願いします」
「涅隊長、なつみちゃんを頼んだよ」
「わかってるヨ。一度抱いておくか?」
珍しく親切に、マユリは京楽になつみを差し出した。受け取る京楽。
「こんなに小さくなって…。はぁ…」
抱いたなつみの背中に、自分の口元を持っていく。ふわふわが肌に触れる。
「持って帰りたい」
本音が出た。
「ダメです。暗くなる前には、様子を見にまた伺いましょう」
「はぁーい」
渋々なつみをマユリに返した。
「京楽に触られても起きないとは。相当自我を失っているようだネ」
「わぁーんッ‼️なつみちゃーん‼️起きてよーッ‼️イチャイチャできないじゃないかーッ‼️😭」
泣き喚く京楽の襟をひっ捕まえ、廊下を引きずっていく市丸。
「もう行くで。ボクらにできること、早よせな!」
「失礼します、涅隊長」美沙は一礼すると、なつみの頭を撫でた。「なつみ、早く起きてね。こんなことした奴、絶対あたしたちで捕まえてやるんだから!」
「涅隊長、進展があれば、すぐに連絡を回してくださいね」
藍染が言った。
「承知したヨ。そちらからの報告も待っているヨ」
「わかりました。行こうか」
「はい!」
市丸と京楽に続き、藍染と美沙も技術開発局を後にした。
京楽から伝えられた『なつみのうさぎ化』ニュースは、当然、隊長らに信じてもらえなかったが、藍染からも再度説明されて、ようやく信じてもらえた。
「だから言ったじゃないか❗️ なつみちゃんがちっちゃいうさぎになっちゃったって❗️大変なんだよ❗️😫」
「未だ信じられんがの。即急に儂等も涅のもとへ向かう。睡眠薬をなつみに盛った者の情報はどうじゃ」
「まだだよ。美沙ちゃんと惣右介くんが、なつみちゃんが使ってるゴミ箱から差し入れの包みを集めて、技術開発局に持っていったって。薬品か何かが付いてないか調べてるところさ。効果は期待できないけど、五番隊のみんなに、やった覚えがある人は、正直に申し出るようにとも、言ってあるみたい。あそこが一番怪しいからってさ」
「そうか」
技術開発局にて、なつみがうさぎであることを確認すると、元柳斎はある男と会った。狛村だ。
「狛村よ、なつみを見て、どう思った」
「申し訳ございません、元柳斎殿。ご期待に添えるお答えはしかねます。我々は生まれつき人狼であり、自らの意志で人化することは可能ですが、木之本の場合、どれも当てはまらないでしょう」
「なるほどのぉ。自らの意志か」
更に元柳斎は独自に聞き込みをした。
「砕蜂、なつみを見て来たかの」
「は。よくもまた大問題の渦中にいれるものです。今回は、巻き込まれたようですが」
「そう思うか」
「というと」
「術を使ったとは考えられんかの」
「変化ですか」
「左様」
「あれは四楓院家の血で為せる業。無関係のなつみができるはずもありません」
「そうなのか」
「そもそも、そんな術があることも知り得ないでしょう。涅の言う通り、薬の作用ではないでしょうか」
「ふむ……」
差し入れの包み紙の調査結果を聞きに、藍染と美沙が技術開発局へ三度目の訪問をする。
「どうだったかな」
阿近が報告する。
「ありましたよ、不自然なヤツがひとつ」
透明な袋に入れられた包み紙と箱を2人に見せた。
「他の紙やら箱には、回収してくれたあんた方2人の以外に、差出人や配達をした奴の指紋が付いていたが、これらには木之本が触った跡しか付いていませんでした。そして、薬品の成分も若干付着していました。睡眠薬については、これを送った人物の犯行で間違いないでしょう」
「そう…。ということは、ここから探すのも難しいということだよね」
「まぁ、そうっスね」
自分を特定されないように、送り主は証拠を残さない細心の注意を払いながら、なつみに薬入りのお菓子を差し入れたのだ。指紋を付けず、直接自宅の郵便受けに届ける。そこには、他の差し入れも入っているため、不自然に思われることなく、紛れ込ませることができる。そして必ず食べてもらえるように、メッセージカードを添えて、特別なものであることを装った。
「あ!藍染隊長からだ!珍しい〜。どれどれ〜?😋」
あとはカードのみ自分で回収するだけである。
「犯人が、やってしまったことに負い目を感じてくれることを、祈るしかなさそうだね」
有益な収穫が無かったと思った藍染と美沙が立ち去ろうとすると、マユリがふたりのもとへ現れた。うさぎのなつみを抱えて。
「待ち給え」
「どうしました?」
「もうなつみを連れて帰ってもらってかまわないヨ」
「良いんですか」
「ああ」
五番隊のふたりは驚いた。
「余すところなく調べ上げたつもりだが、私にはお手上げでネ。新しいことは何ひとつ発見できなかったヨ」
「そうですか……」
美沙ががっかりする。
「例えうさぎの身体であろうと、診察台で寝るより、自分の布団で寝かせたほうが良いだろう。自分が変身していることに気付いていないんだヨ。ここで目覚めて、変に驚かせるよりマシなはずだ」
マユリはそう言って、なつみを美沙に渡した。
「そうですね。ご協力いただいて、ありがとうございました、涅隊長」
「構わないヨ。なつみのためだ」
優しい言葉を発する顔には、悔しさが滲んでいた。
「落ち込まないでください。なつみが目覚めて、元の姿に戻る方法は、必ずどこかにあるはずですから」
「気休めなどいらないヨ。さぁ、早く行ってくれ給え。ここにその方法とやらは無いんだからネ」
相当堪えているようだ。藍染と美沙は困り、顔を見合わせてしまった。それでも、気の利いた言葉をかけてやることはできなかった。
「失礼します。変化があれば、すぐにお伝えしますね」
「ああ、頼むヨ」
ポツリと呟いた言葉があった。
「だからあの部屋を残しておけば良かったんだヨ」
しかし、美沙にはまだその日の仕事が残っていた。早退して、いつ起きるともわからないなつみのそばにいてやることはできない。そこで藍染は、美沙が仕事を終えるまで、なつみを隊首室にて自分が預かっておくと言い出した。
「わかりました。お願いします」
「何かあれば、声をかけるから、安心して仕事に集中してくれて良いからね」
藍染はそうしてなつみを手にし、隊首室ではなく、他の場所へ向かった。
「頼んだものは用意できたか」
「これです」
市丸が示したのは、ケージに閉じ込められた灰色のうさぎだった。
「少し大きいようだが、まぁ良いだろう」
「急やったんで、今日のところはこの子で勘弁してください」
「いや、別に探すことはないよ。こいつでいこう。余計な動きは危険だからね。これ以上計画を狂わさないようにしなければ。要、そこに睡眠薬がある。そのうさぎに飲ませろ」
「はい」
東仙が指示に従い、市丸が抑えるうさぎの口にスポイトを突っ込んだ。
「計画は狂いはしたが、良いことも多いよ。勝手に運びやすい大きさになってくれたんだからね。起きないことよりも、変身の方が問題なんだ。私のしたことなど、さほど注目されないだろう」
「でも、変身の原因、わからんかったんでしょう。ほんまに戻らんかったら」
「戻るさ。私が命じるんだ。戻させるに決まっている。ザエルアポロに任せれば、何とかするだろう。奴は優秀な科学者だからね。手がかりがないからと、簡単に諦める馬鹿とは違うよ」
用意されたうさぎは動かなくなった。
「眠りました」
「よし。では、なつみを虚圏に連れて行くよ。皆にお別れを言わせてやれなくて心苦しいが、私たちでこの子の心を支えてやろう」
「京楽さん、悲しむで」
「知ったことではないよ。お前が消えればなつみが悲しむんだ。その方が、ずっと辛いんじゃないか。なつみは私たちといる方が幸せなんだよ。京楽にはただのうさぎを抱かせてやれ。わかりはしないさ」
藍染はなつみを抱え直し、盗んできておいた彼女の斬魄刀とマントを持った。
「指輪はどうしたんですか?」
斬魄刀に着けられた御守りを見て、市丸は尋ねた。
答えずそのまま出口のところまで進み、ようやく藍染は振り返った。
「砕いたに決まっているだろう」
笑みを残して去っていった。