第八章
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屋上の広いところに着陸してもらい、なつみもスタッと降りた。
「わぁー💖」
お出かけの前には無かった絨毯やクッション、ミニテーブルがセッティングされており、花火鑑賞に最適な空間が用意されていた。柄や形が、かわいいデザイン好きななつみの心をいちいちくすぐる。
「こっちおいで」
なつみの席も当然用意されている。みんなの真ん中。市丸の前。駆けていき、ちょこんと座る。
「んふーっ。いいねー😊」
「ほい、木之本の🥤」
「ありがとー😙」
チュゥとひと口。
「うまい😋」
ポップコーンのありかを探し、はいはいして近づいて腕を伸ばし、ひと掴み盗むように取って頬張ると。
「おー❗️見て見てー❗️」
そんなことを言わずとも、みんなはちゃんと見ている連発する花火。なつみははしゃいで指をさす。
花火に目を奪われているものだから、自分の席のクッションに座ろうとしたら、後方に行き過ぎて、お尻がクッションの縁をかすめて座り損ねてしまった。そのまま後ろにごろん。
「あわっ😣」
すると視界に入ったのは、お兄ちゃんのお顔だった。むにゅっと両手でほっぺを挟まれてしまった。
「こっちの空に花火無いで」
「わかってますよー」
尖ったお口でぶーぶー言うなつみ。思わず大きな態度で出たくなって、脚をぽんぽんと投げ出すと、トントンとちょうど足置きが都合よくあった。
「「おい💢」」
それは李空とケイジの背中だった。
「ふふふっ」
笑ってから降ろしてあげる。
座り直して、膝に乗せた両手で頬杖をつきながら、しばらく大人しく花火を見ていた。
「李空、楽しい?」
「あぁ。すげぇ楽しい」
「よかった❗️😁」
やっぱりじっとしていられなかった。なつみは出入り口のあるところの屋根の上にひとり登って、叫ぶことにした。
「たぁーまやーッ‼️かぁーぎやーッ‼️」
花火といえばこのかけ声だが。
「意味わかって言ってるか、木之本ー」
「知ぃーらなぁいやーッ‼️😆」
だろうなと、みんな吹き出した。
「黙って見てろ、バァーカ‼︎」
李空がこう言えば、すぐに「なんだとー⁉️」や「バカって言う方がバカだ、バカ李空ーッ💢」とケンカが始まるものだが、何故かこの時は静かだった。
そのわけは、見ずともわかるというのか、見たくもないというのか、花火を見ているべき時間のため、見なくてもいいことなのであった。
後ろに引っ張られ、驚いて息を呑んだ。
「春水さん…///」
「ごめん。やっぱり会いに来ちゃった」
ヒュー……ドォーンッ‼︎‼︎
パラパラパラ……
抱きすくめられるなつみは、恋人の腕の中で一際大きな花火が打ち上がったのを見た。
「わぁ…///」
京楽も珍しくなつみから視線を外して、花火のきらめきを堪能する。
「綺麗だね」
頬をなつみの頭に寄せる。なつみもきゅぅとくっついた。
「好きな人と見ると、音がもっと響いてきますね。きゅんって」
「そうだね。ふふ、良かった。追い返されるかと思ったよ」
「そんなことしませんよ」
京楽がなつみの髪にキスをすれば、なつみもお返しに頬へキスした。
上でそんな風にイチャイチャラブラブしていたら、下から話しかけられた。
「なつみちゃーん、こっち来ぃ。そっちやと、お尻痛いやろー」
なつみと京楽は見下ろす。
「はーい」
「ボクの心配はしてくれないのかい?って、何で牛⁉︎」
「モォー」
サンタの目から察するに、「誰だコイツ」と言った。
「ぼくのお友だちです😁」
ふたりは降りてきた。
「ぼくのクッション使ってください」
「ありがとー。じゃあ、なつみちゃんは、ボクのお膝の上においで」
そんなやり取りをして、なつみがクッションを差し出した横から、別のクッションが割り込んできた。
「あれ、尾田、もう1個持ってきてたの?」
「予備」
ノールックで腕を伸ばしてクッションを差し出していた。
「さすがボクの部下。そんなに邪魔されたくないんだ」
と言いつつ、クッションを受け取ってあげる。
「なつみちゃんは自分の使いな」
「なら、ぼくのお隣りどうぞ」
場所をつくり、どうぞと示す。
「ありがとう。でも良いよ。今日はお友だちといたい日なんでしょ?いちばん前で見ておいで」
「せやで。なつみちゃんはちっこいから、背の順で先頭や」
「むぅ❗️」
「早く来い。終わっちまうぞ」
「むぅ、むぅ❗️」
わっかりましたよ〜という足取りで、誰よりも前の特等席に座らせてもらった。
「よく見えるだろ」
「うん❗️😊」
楽しそうに、ゆらゆら小さく揺れながら花火を見るなつみの後ろ姿を、この場にいる全員が微笑ましく見ている。
「すっげぇーっ❗️✨」
また指を差して振り返る。
「見て見てー❗️」
「見てるよ」
「はいはい、後ろ向かないの」
レンがなつみの頭を両手で挟んで、くるっと方向転換させる。
「見逃すなんて、勿体ないぞ」
「なつみの好きな錦冠だったんじゃない?」
「派手だよね、やっぱり」
「打ち上げ花火も良いな」
「尾田ね、線香花火が好きなんだって😄」
「あんたたちって、いろんな話してるのね」
「旅行のときに話したんだよ」
「思い出がまた増えたな」
「ぼ〜くらはみんな〜いーきている〜、いきーているからまるもうけ〜♪」
「歌詞ちゃうけどな(笑)」
「モ〜♪」
「間の手かい?上手だねぇ🥤」
「京楽隊長、それ、なつみちゃんのですよ」
「あーっ‼️また横取りされてるー‼️」
「ふたりで仲良く飲もうよ〜😚」
これだけわいわいしていたが、クライマックスの大連発には、全員言葉を無くして夜空に見入っていた。
(さいっこー✨✨✨)
最後の花火が消えて、煙も流れ去った静かな時間。感動したなつみは、いつの間にか持っているウクレレを構えながら、ころんと後ろに寝転がった。
「最後のー、花火にー、今年もー、なったなー。何年ー、経ってもー、思い出してしまうなー♪」
余韻に浸り、フジファブリックの『若者のすべて』を歌っている。そこから先は鼻歌で。
そんなBGMを聴きながら、結局ほとんど手を付けずにいたポップコーンをみんなで食べつつ、おしゃべりを再開する。
「花火終わったから、灯り点けるか」
尾田が鞄からまだ何か出そうとした。
「ジャジャーン」
「わぁ❗️かわいい❗️おしゃランプだ〜💖」
それはトルコランプのようで、色付きのガラスでモザイクをあしらったシェードをしている。尾田がスイッチを入れると、ピカッと点灯。消えない花火のような光が辺りに広がった。
「うにゅにゅ〜。夜のピクニックもオツですな〜😚」
ウクレレを脇に置いて、なつみはうつ伏せに寝転んだ。ランプを近くで見て、頬杖をつき、脚は曲げてぷらんぷらん。
「尾田くんの私物なん?それとも今日のために用意したん?」
「マジぃ?ちょー気ぃ効くじゃ〜ん」
答えも聞かずに、頬杖の手をぱっと降ろして、少しだけ身体を起こし、尾田を見た。
「俺がって言えたら、良いんだけどな。違うんですよ。朝な、偶然池乃さんと会って、木之本の誕生日プレゼントにって、一旦俺が預かったんだよ」
「包みとかあったんじゃないの?勝手に開けちゃったんだ。悪い子だね」
「いや!まぁ、勝手に開けましたけど、でも先に、『これは俺が作ったランプだよ』って教えてもらってたんで、…、悪いことしたか💧」
反省の尾田。
「いーよ。お前が持ってきてくれなきゃ、今こうしてみんなで囲むことなかったもん。こんなに素敵な作品は、ひとりで鑑賞するだけなんて、勿体ないからさ」
ランプから漏れる光を手で掬う。
「尾田がほっつき歩くと、良いことあるよな」
「例えば?」
「イケちゃん先輩とばったり会うでしょ?激かわランプ預かったのが李空だったら、控室の山に積んで終了だろ?どうせ」
李空の眉間に皺。
「あとさ、アヤさんと偶然会ってくれた。あれがなかったら、ぼくは今いないもん。ありがとな」
尾田の膝をぽんぽん叩いてあげた。
「今日は確かにほっつき歩いてたけど、あの時は仕事だからな!」
「ひひひっ。照れんなって」
なつみは、ぽーっとランプに見惚れる。
「アヤさんもありがとう。ぼくを信じて、懸命に声を上げてくれて」
「今更改まらないでよ。私もなつみちゃんに一目惚れしちゃったクチだもの。当然のことだよ」
なつみは頭を下げて、明らかに照れた。
「アヤさんがぼくを信じてくれた。尾田がアヤさんを信じてくれた。それで市丸隊長が尾田を信じてくれたから、ぼくは助けてもらえたんだ。ありがとうございます、隊長」
「もうそれ何遍も聞いてるで」
「言い足りないんですよ」
「なつみちゃんのことなら、みんな助けたいに決まってるやろ」
「優しい人たちばっかりですよね。美沙ちゃんも、ありがとう。過去に戻って霊力が無くなったとき、訳もわからない状況なのに、ほとんどの霊力、分けてくれたんだもんね。回復はできなかったけど、ああしてくれなきゃ、ぼくはきっと消えてなくなってたよ。繋ぎ止めてくれて、ありがとう」
「なつみ…。あたしもそれ、何回も聞いた。なつみがいるところにいられるようにするなんて、当たり前なの」
「感謝してもしきれないよ」
そして眼差しを彼に。
「京楽隊長も。川から助け出してくれました」
さすがに。さすがに?さすがに、これを言うのには、身体を起こして座り直さなければ。
「ありがとうございました」
お辞儀をする。
「ボクも、たくさん聞いたよ。キミがいなくなっちゃうなんて、絶対に嫌なんだから、生かすに決まってるだろ?誕生日おめでとう、なつみちゃん。キミが元気で何よりだよ。ね、みんな」
静かに頷く仲間たちの微笑みにつられて、なつみもにっこり。
「そっか…。誕生日だから、こんなに振り返るんだ。いろんなことがあったな〜」
星空を見上げる。
「これからはどんなかな〜」
幾億もの可能性が、視界いっぱいに瞬いている。
「なーんだか、しんみりモード?」
「らしくねぇな。騒ぎすぎて疲れたか?」
「たまにゃいーだろ。うるせぇな」
「花火も終わって、静かな夜ってか」
「大人なんだから、騒がなくたって楽しめるだろ」
「うわー、ジュース飲みながらカッコいいこと言ってる〜😙」
「酒が無いとか。どんだけ健全だ、俺ら。大人どころか、子供の集会だって開けるぞ、このセッティング」
「全くその通りだが、私を招待しないとは薄情者だな、なつみ🐥」
いつもの7人に黄色い鳥が乱入。
「ムッちゃん‼️」
ポップコーンをひとつ掴んで啄む。
「招待なんて。ぼくがいれば、ムッちゃんもいるじゃん」
「そうであっても、カタチは大事だろう。やっとこの日を認められたんだ。私には記念日だぞ。供として、一緒に祝わなければ。私とて、今日は誕生日なのだからな」
公園の鳩よりもスマートにポップコーンを頬張るムッちゃん。
「ふふふっ、お誕生日おめでとう、ムッちゃん」
「フンッ、やっと言ったか。おめでとう、なつみ。ケーキの無い誕生日など、お前が死神になって以来初めてだが、まぁ良いだろう。また1年楽しんで過ごすとしよう」
そしてふっと消えた。
「なんだよ。愚痴言いに来たのかよ」
「でもほんまや。ケーキ用意してへんかったな」
「ほんとですね。忙しくて、食べる暇がないから断ってたんですけど。拗ねちゃってましたね。さすが、ぼくの精霊さん。お供え物はやっぱり必要だったみたいです。明日食べよーっと」
そこで親友が打ち明ける。
「そう言うと思って、ちゃんと作ってあるよ、なつみ」
「うそ‼︎」
「ほんと。日持ちするように、いつもみたいなデコレーションはしてないけどね。ドライフルーツのパウンドケーキにしたよ」
「本当か🐥」
「ムッちゃん🤭」
薄情な主人の前に、現金な相棒が戻ってきた。
「食べたいなら、先に帰りなよ」
そう言われてムッちゃんは、なつみと家方面を許可と誘惑の間に揺れて交互に見た。
「ンー。…、そんなわけないだろう」
右手をひらりと挙げて、再び姿を消した。
「あっははは!かわいいんだから😄」
なつみは京楽にコップを渡してもらうよう、手を伸ばした。
「ください」
「はい、どうぞ😌」
「軽い💢」
「ごめーん。おいしいんだもん」
むぅとしながら飲む。
「そうだそうだ。お酒欲しいんでしょ。良い呪文を知ってんだよね〜。いっちょやったろーか」
コップを床に置いて、袖をまくり、右の人差し指を立てる。何をする気だろうと、周りは興味津々に見つめる。なつみは咳払いをする。
「ンンンッ。いくよ。うさぎの目❗️ハープの音色❗️このジュースをキンッキンに冷えたビールに変えよ❗️☝️」唱えながら、力強くそれっぽく指を振る。そして左腕を掴む。「どぉーしてだよーッ‼️」倒れる。
「何がだよ‼︎😅」
尾田がツッコんだと同時に、笑い声が上がる。
「ダァーハハハハハッ‼️😂」
レンだ。…、レンだけだ。
「おまっ、おい、俺しか笑ってねぇーじゃんか‼️アハハハハッ😂」
レン以外はきょとんだ。
「なつみちゃん、今の何?」
「知らないんですか?ガーリィレコードチャンネルの高井くんがやってた、シェーマスの呪文を練習する藤原竜也ハリーポッターのマネのマネです」
「わからん💧(笑)」
「俺だけにしか共有してなかったのか😂」
「こういうのがわかるのは、レンだけだと思っているからね」
「何でちょっとだけ藍染隊長ぽく言うんだよ。眼鏡クイじゃねーよ。かけてねーよ。」
尾田の無意識フェニックス風ツッコミにすら笑えてしまうレン。
「助けてくれ。俺はもう、腹筋がッ‼︎‼︎(笑)」
ふざけ倒すなつみと笑い転げるレンの外は、なかなかにシラけている。
「どれどれ。なつみちゃんの魔法はかかってるのかな」
京楽がその冷めた空気の中、勇敢にも動いた。ジュースに手を伸ばす。そして口に含む。
「ん‼︎」驚く京楽。「え、ちょっと味変わってるかも」
「ウソやん!」
「いやいや、ほんとほんと」
「ほんまに〜?」
「飲んでみる?🥤」
「いらんわ‼︎」
これには笑える人たち。
「えー、気になるなぁ。ボクのもやってや」
ミニテーブルを中央に置いて、そこに市丸は自分のコップを置いた。
これは良い余興だと、みんなも乗ってくる。
「じゃあ、あたしも」
「俺も」
「私も」
「はいはい、置いて置いて〜。自分のどれか、わかんなくなんないようにね。気を付けてね〜」
いんちきマジシャンなつみは、両手を擦り合わせる。
「なんかさ、杖になる棒が欲しいんだけど。何かないかな。…、おう、これで良いや」
目に入ったのはストロー。京楽の持つカップからすっと抜き取って、下から滴らないよう、素早くチュッと吸った。すると。
「ん⁉︎マジだ」
「ウソだって、それ」
「マジだぜ❗️へへへ、思わず、ドラえもんの名台詞出たわ。ちゃ、ほんと変わった気がするって」
「あれやないの。ふたりの唾液で発酵したんやわ」
「ヤな言い方しないでくださいよ💧」
「ヤなの?」
「…💧」
「イヤやろ」
気を取り直して、いざ魔法を。
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。マジックショーの始まりだよ。この欲しがり屋たちめ」
こう言って、1個思い付いた。
「欲しがり屋」
「ガハハハハッ😂」
またレンだけ笑い出した。
「欲しがり屋。アメノミヤ。ルーム!」
「やめろ!ローやんな!何で俺だけ集中攻撃なんだよ‼︎💢😂」
「シャンブルス❗️欲しがり屋。シャンブルス❗️」
「早くやれよ💧」
再び気を取り直して。
「いくぞ❗️」
「シャクれんな」
「うさぎの目❗️ハープの音色❗️これらのジュースをキンッキンに冷えたビールに変えよ❗️」
バタン
「どぉーしてだよーッ❗️」「ダァーハハハハハッ‼️😂」
なつみが倒れて「どうしてだよ」を言うのを待たずに、同時に倒れてレンは早くも笑い転げていた。
「変にシンクロすんなよ」
「だって、これっぽっちも似てねぇのに、コイツ、全力なんだもん‼︎😂」
「つか、『どうしてだよ』まで込みなのな」
「そこまでやんないと、再現になんないから。ほれー、飲んでみー」
京楽のところに行って、ストローを戻している間、各々カップを取って、試しに飲んでみた。
「くふふっ(笑)」
「ほんとだ。ちょっと変わってる」
「しかも」
「な。思った」
「おい、ちょっとだけマズくするって、やめろよな!」
そう。キンッキンに冷えたビールにはなっていなかったが、なんだか気持ちちょっとだけ味がかわっていたのだ。マズい方へ。
「よかったー、結構飲んどいて」
「でもさ、ちょっと確かにアルコール感あるよ」
「せやね。ちょびぃーっとな」
「唾液で発酵したんでしょ(笑)」
「ヤな言い方やめてくださいって!」
「お前さ、酒になったらもう飲めねーじゃん」
「はぁ‼︎🫢」気付かされたなつみ、倒れる。「どぉーしてだよーッ‼️」
「お前ぇがやったんだよ❗️」
「結局しんみりしてらんないのね」
「モォ〜モォ〜」
「サンタぁ〜。慰めて〜」
なつみはサンタの頭に、覆うようにくっついた。
ちょっぴりマズくなった分、ちょっぴりアルコールが謎に湧いてきた魔法のドリンクを飲んでいる横で、なつみはサンタに膝枕をさせて、いいこいいこと頭を優しく撫でてあげていた。
「良いな〜。ボクもなつみちゃんに膝枕してもらいたいな」
「恥ずかしいこと、みんなの前で言わないでください」
「はぁ〜い」
仕方ないと、なつみは京楽に耳を寄せるよう手招きした。そっと耳打ちすると京楽はご満悦の表情になった。お返しにと、なつみに耳打ちすると、なつみは真っ赤になって俯いた。
それを見せられる人たちの、なんたる冷たい目。
「せやから京楽さん呼びたないねん」
「モフッ」
「何だよ、牛くん。なつみちゃんとボクはお付き合いしてるんだよ。ラブラブなの」
サンタはうるさい言葉を叩き落とすように、耳をぱたつかせて、軽く首を振った。
「牛くんなんて呼び方やめてください。サンタって名前があるんですから。ね、サンタ。サンタはまつ毛が長くて、美人さんだね」
サンタの頬を撫でながら、なつみがそう言った。
「雄牛なんだから、美人とは言わないだろ」
「良いじゃん、別に」
褒めてくれたお礼にと、サンタは身体を起こしてなつみの顔に擦り寄った。
「あっはは!くすぐったいよ、サンタぁ〜」
京楽とイチャつくところは見ていられないが、牛と戯れるなつみは見ていられる一団。
「モフモフ🐮」
「むきゃきゃ😆」
「かわいい(笑)」
思わず誰かからポツリと、本音が漏れてしまった。全員の視線が声の主に集まる。
「やべっ😨💦」
その人、口に手を当てる。しかし、無かったことにはできない。
「はいケイジ、アウトぉー👍」
「言ってねぇッ‼️」
「言いましたー。聞こえましたー😙👉」
「ちょい不味ジュースで酔ってんじゃねーよ」
「確かに、今のは微笑ましい光景だったから、つい言っちゃっても仕方ないけどさぁ〜😏」
「だからぁッ‼️💦」
そんな慌てるケイジの肩を、大親友がガッチリ掴んで組んできた。
「わかるッ‼️ 木之本はかわいい❗️お前だけズルいから、俺も木之本に言わせてくれ」
「お前も大概酔ってんな」
レンのそれは助け舟ではなかった。
「木之本はなー、サンタとわちゃわちゃしてんのも良いが、俺とお笑いのセンスがダダ被ってるところが好きだ‼️😆」
「俺は好きとは言ってねぇだろ❗️」
「かわいいつったろ😤」
「ふたりともアウトだ」
尾田はそう思ったが。
「お前ら、変なの〜😄」
なつみは笑っていた。
「じゃあさ、俺も日々思ってること言って良い?」
ハルが話し始めた。
「何だよ」
「かわいいなーって見てて思ってたけど、これ共有できる人いないだろうなと思って黙ってたことなんだけど」
「なになに?」
「木之本さ、ゲップするとき『ゲップ』って言うの」
「は?」
「あくびした後は、しばらく口元むにゃむにゃしてんの」
「あー、見る見る」
「くしゃみした後は、鼻に皺寄せてじっとしてるし」
「マニアックなとこついてくるなー」
「鼻噛んだら、プンッて言うの」
「よく見てるねー」
「あとは、おいしいもの食べたら、アヒル口になる」
言われた本人の感想は。
「見過ぎだろ」
「目につくんだよ。かわいいなーと思って。お前の癖😊」
「はいはーい❗️俺も俺も❗️『なつみのかわいいとこ言い合い合戦』に参加するー✋」
クーちゃんが割り込んできた。
「何だよ、そのしょーもない合戦は」
「なつみはね、好きなものを遠くから見つけると、走ってそっちに行っちゃうの。で、飛びつくの。かわいいよね♪」
「わかるよー。そうなんだよ。さっきもね、なつみちゃん、ボクに駆け寄ってくれたんだ〜」
(はい、はい。)
京楽のお惚気に、みんな「はいはい」と思うのみ。
「そんなにいろいろ言わないでよー」
むぅーと、少し照れて言うなつみ。
「今日の主役はお前だぞ、木之本。王様にヨイショすんのが、子分の務めだから、ありがたくかわいがられてろ」
「言ってること、めちゃくちゃだぞ、レン」
「よーし、あとお前ら2人言えよな」
レンが李空と尾田を指す。
「えー、ボクたちはダメなのー?」
「ダメっすよ。市丸隊長はあえてとぼけたこと言いそうですし、京楽隊長はお茶の間に相応しくないこと言いそうなんで」
「ダメなの〜?(笑)」
言うつもりだったらしい。
「あたしらも無しなんだ」
「ダメダメ。やっぱね、これは三番隊同期内の争いだから」
「いつから争いになってんだよ」
「美沙ちゃんとアヤさんが参戦した日にゃ、木之本は安全牌だっつって、どうせふたりを選ぶから。そんなふうに逃すかよって話」
「あらそー」
「でもさ、レンが言ったの、めちゃめちゃ個人的に気に入ってるだけのことで、共感得てねぇーじゃん。悪いけど、暫定最下位だぞ」
コミッショナーからの辛辣なひと言だった。
「どぉーしてだよーッ‼️」
レン、敗れたり。
「やりたがり屋😏(ロー風)」
「なら俺言う✋」
先に手が挙がったのは李空だった。
「おい、先越すなよ💦」
「早い者勝ちだ」
どぉーしてだよーから立ち上がるレンが李空を指す。
「李空選手、どうぞ❗️木之本のかわいいところ、どこでしょーか❗️」
「チビなとこ」
「ブーッ❗️ブーブーブーッ❗️」
「おーっと、コミッショナー木之本から大きなバツが出ましたぁ❗️これは一発退場の禁句でありました❗️」
「かわいいだろ。チビで」
「ブゥーウッ❌」
「二度も言ったぞ、李空選手❗️次回大会への参加権剥奪も辞さないつもりか❗️」
「第二回もあんのかよ」
「さぁーて、トリを務めるのはこの男。無茶振り担当、尾田選手❗️ 木之本のかわいいところは、どこでしょーか❗️」
李空のターンは失格で終わり、最後の尾田に番が回ってきた。
「はい、5ぉ❗️」
「ややっ、ちょっと待てよ!」
慌てる尾田、頭を抱える。
「 4❗️」
「3❗️」
「2❗️」
「1❗️どうぞ❗️」
「ぜ、ぜんぶッ‼️‼️😫///」
「「「「「「「「「「ブーッ❌」」」」」」」」」」
サンタもブゥッと唇を振るわせた。
一斉に掲げられたバツ。尾田の回答は満場一致の❌であった。
「何でだよーッ💦」
「そこ、『どぉーしてだよーッ‼️』て言えないとこ、お前のダメなとこな」
お笑いに厳しいコミッショナー。
「尾田くん、そら無いわ。いっちゃん無いわ」
「そうそう。『全部』は『無い』と言ってるのと同じだからね」
「俺だけ厳しくないすか⁉︎💦」
尾田にだけ厳しい隊長ふたり。
こんなふうにからかうと楽しいものだが、最後はちゃんとフォローしなければ気が済まないコミッショナーは、トントンッと尾田に駆け寄って、膝を抱えて隣りでしゃがんだ。
「尾田、ぼくはお前と一緒にいられる全部の時間、楽しくて好きだぞ❗️だからぼくも、尾田の全部が良いって言う❗️わざわざ選ぶことなんてないよな😁」
にっと笑うなつみの笑顔のおかげで、尾田は遅れて答えを見出せた。もう時間切れなので、喉の奥にしまうしかないのだが。
(お前の、そうやって誰も見捨てないところに、俺は惹かれるんだ)
という思いとは裏腹に、現実を提示してやる。
「そんなこと言って慰めてるつもりかよ。一緒になってバツ挙げてたくせによッ❗️」
コツンと肩を当ててやった。
「だぁーって、その方がおもしろいじゃんか🥴」コツンと当て返した。「ぼくは笑いに貪欲なんだよ。隙あらば狙う😤」
「わざわざ狙わなくても、天然ボケで笑えるときもあるけどな」
「何だと、李空、コラァッ💢」
怒ってもかわいい。
「それはボクも思うよ。だってほら、あの、ウ、ウルトラマン…ップフッ(笑)」
「あーもうッ❗️こんなとこでそんな話しないでくださいッ❗️💦///」
恥ずかしそうに困ってもかわいい。
「京楽さんのことが大好きななつみちゃんいうのも、かわいらしいと思うで」
「隊長💦///」
「あと、がんばり屋さんなとこな」
「にゃふー///」
褒められて照れてもかわいい。
「お前ら、隊長のこういうとこ見習えよ❗️これが人を喜ばせる言葉だ❗️」
偉そうに語る姿もかわいい。
つまり、尾田の言った『全部』がいちばん的を射ていたのだろう。彼をバカにしてはいけない。どこを切り取ってもかわいい、全部ひっくるめてかわいい。それが木之本なつみという人物である。だからこそ、これだけ誰からも愛されてしまうのだろう。例え薬指に約束が光っていても、好きの気持ちを止める信号にはならない。
この日を過ごせた者たちは、口に出すことは無くとも、似た感覚を味わっていたことだろう。
「他人の誕生日をここまで楽しめるなんて。まるで記念日だ」と。
ある時点の住人たちも、これと同様のことを体験したはずだ。しかし、同じ運命を辿るわけにはいかない。そうでなければ、現在や未来に願った価値は無くなってしまうからだ。託すばかりでなく、不安に備えるだけでなく、自らも進んで望んだ明るい未来へ、共に肩を並べて歩いて行けるように。
「わぁー💖」
お出かけの前には無かった絨毯やクッション、ミニテーブルがセッティングされており、花火鑑賞に最適な空間が用意されていた。柄や形が、かわいいデザイン好きななつみの心をいちいちくすぐる。
「こっちおいで」
なつみの席も当然用意されている。みんなの真ん中。市丸の前。駆けていき、ちょこんと座る。
「んふーっ。いいねー😊」
「ほい、木之本の🥤」
「ありがとー😙」
チュゥとひと口。
「うまい😋」
ポップコーンのありかを探し、はいはいして近づいて腕を伸ばし、ひと掴み盗むように取って頬張ると。
「おー❗️見て見てー❗️」
そんなことを言わずとも、みんなはちゃんと見ている連発する花火。なつみははしゃいで指をさす。
花火に目を奪われているものだから、自分の席のクッションに座ろうとしたら、後方に行き過ぎて、お尻がクッションの縁をかすめて座り損ねてしまった。そのまま後ろにごろん。
「あわっ😣」
すると視界に入ったのは、お兄ちゃんのお顔だった。むにゅっと両手でほっぺを挟まれてしまった。
「こっちの空に花火無いで」
「わかってますよー」
尖ったお口でぶーぶー言うなつみ。思わず大きな態度で出たくなって、脚をぽんぽんと投げ出すと、トントンとちょうど足置きが都合よくあった。
「「おい💢」」
それは李空とケイジの背中だった。
「ふふふっ」
笑ってから降ろしてあげる。
座り直して、膝に乗せた両手で頬杖をつきながら、しばらく大人しく花火を見ていた。
「李空、楽しい?」
「あぁ。すげぇ楽しい」
「よかった❗️😁」
やっぱりじっとしていられなかった。なつみは出入り口のあるところの屋根の上にひとり登って、叫ぶことにした。
「たぁーまやーッ‼️かぁーぎやーッ‼️」
花火といえばこのかけ声だが。
「意味わかって言ってるか、木之本ー」
「知ぃーらなぁいやーッ‼️😆」
だろうなと、みんな吹き出した。
「黙って見てろ、バァーカ‼︎」
李空がこう言えば、すぐに「なんだとー⁉️」や「バカって言う方がバカだ、バカ李空ーッ💢」とケンカが始まるものだが、何故かこの時は静かだった。
そのわけは、見ずともわかるというのか、見たくもないというのか、花火を見ているべき時間のため、見なくてもいいことなのであった。
後ろに引っ張られ、驚いて息を呑んだ。
「春水さん…///」
「ごめん。やっぱり会いに来ちゃった」
ヒュー……ドォーンッ‼︎‼︎
パラパラパラ……
抱きすくめられるなつみは、恋人の腕の中で一際大きな花火が打ち上がったのを見た。
「わぁ…///」
京楽も珍しくなつみから視線を外して、花火のきらめきを堪能する。
「綺麗だね」
頬をなつみの頭に寄せる。なつみもきゅぅとくっついた。
「好きな人と見ると、音がもっと響いてきますね。きゅんって」
「そうだね。ふふ、良かった。追い返されるかと思ったよ」
「そんなことしませんよ」
京楽がなつみの髪にキスをすれば、なつみもお返しに頬へキスした。
上でそんな風にイチャイチャラブラブしていたら、下から話しかけられた。
「なつみちゃーん、こっち来ぃ。そっちやと、お尻痛いやろー」
なつみと京楽は見下ろす。
「はーい」
「ボクの心配はしてくれないのかい?って、何で牛⁉︎」
「モォー」
サンタの目から察するに、「誰だコイツ」と言った。
「ぼくのお友だちです😁」
ふたりは降りてきた。
「ぼくのクッション使ってください」
「ありがとー。じゃあ、なつみちゃんは、ボクのお膝の上においで」
そんなやり取りをして、なつみがクッションを差し出した横から、別のクッションが割り込んできた。
「あれ、尾田、もう1個持ってきてたの?」
「予備」
ノールックで腕を伸ばしてクッションを差し出していた。
「さすがボクの部下。そんなに邪魔されたくないんだ」
と言いつつ、クッションを受け取ってあげる。
「なつみちゃんは自分の使いな」
「なら、ぼくのお隣りどうぞ」
場所をつくり、どうぞと示す。
「ありがとう。でも良いよ。今日はお友だちといたい日なんでしょ?いちばん前で見ておいで」
「せやで。なつみちゃんはちっこいから、背の順で先頭や」
「むぅ❗️」
「早く来い。終わっちまうぞ」
「むぅ、むぅ❗️」
わっかりましたよ〜という足取りで、誰よりも前の特等席に座らせてもらった。
「よく見えるだろ」
「うん❗️😊」
楽しそうに、ゆらゆら小さく揺れながら花火を見るなつみの後ろ姿を、この場にいる全員が微笑ましく見ている。
「すっげぇーっ❗️✨」
また指を差して振り返る。
「見て見てー❗️」
「見てるよ」
「はいはい、後ろ向かないの」
レンがなつみの頭を両手で挟んで、くるっと方向転換させる。
「見逃すなんて、勿体ないぞ」
「なつみの好きな錦冠だったんじゃない?」
「派手だよね、やっぱり」
「打ち上げ花火も良いな」
「尾田ね、線香花火が好きなんだって😄」
「あんたたちって、いろんな話してるのね」
「旅行のときに話したんだよ」
「思い出がまた増えたな」
「ぼ〜くらはみんな〜いーきている〜、いきーているからまるもうけ〜♪」
「歌詞ちゃうけどな(笑)」
「モ〜♪」
「間の手かい?上手だねぇ🥤」
「京楽隊長、それ、なつみちゃんのですよ」
「あーっ‼️また横取りされてるー‼️」
「ふたりで仲良く飲もうよ〜😚」
これだけわいわいしていたが、クライマックスの大連発には、全員言葉を無くして夜空に見入っていた。
(さいっこー✨✨✨)
最後の花火が消えて、煙も流れ去った静かな時間。感動したなつみは、いつの間にか持っているウクレレを構えながら、ころんと後ろに寝転がった。
「最後のー、花火にー、今年もー、なったなー。何年ー、経ってもー、思い出してしまうなー♪」
余韻に浸り、フジファブリックの『若者のすべて』を歌っている。そこから先は鼻歌で。
そんなBGMを聴きながら、結局ほとんど手を付けずにいたポップコーンをみんなで食べつつ、おしゃべりを再開する。
「花火終わったから、灯り点けるか」
尾田が鞄からまだ何か出そうとした。
「ジャジャーン」
「わぁ❗️かわいい❗️おしゃランプだ〜💖」
それはトルコランプのようで、色付きのガラスでモザイクをあしらったシェードをしている。尾田がスイッチを入れると、ピカッと点灯。消えない花火のような光が辺りに広がった。
「うにゅにゅ〜。夜のピクニックもオツですな〜😚」
ウクレレを脇に置いて、なつみはうつ伏せに寝転んだ。ランプを近くで見て、頬杖をつき、脚は曲げてぷらんぷらん。
「尾田くんの私物なん?それとも今日のために用意したん?」
「マジぃ?ちょー気ぃ効くじゃ〜ん」
答えも聞かずに、頬杖の手をぱっと降ろして、少しだけ身体を起こし、尾田を見た。
「俺がって言えたら、良いんだけどな。違うんですよ。朝な、偶然池乃さんと会って、木之本の誕生日プレゼントにって、一旦俺が預かったんだよ」
「包みとかあったんじゃないの?勝手に開けちゃったんだ。悪い子だね」
「いや!まぁ、勝手に開けましたけど、でも先に、『これは俺が作ったランプだよ』って教えてもらってたんで、…、悪いことしたか💧」
反省の尾田。
「いーよ。お前が持ってきてくれなきゃ、今こうしてみんなで囲むことなかったもん。こんなに素敵な作品は、ひとりで鑑賞するだけなんて、勿体ないからさ」
ランプから漏れる光を手で掬う。
「尾田がほっつき歩くと、良いことあるよな」
「例えば?」
「イケちゃん先輩とばったり会うでしょ?激かわランプ預かったのが李空だったら、控室の山に積んで終了だろ?どうせ」
李空の眉間に皺。
「あとさ、アヤさんと偶然会ってくれた。あれがなかったら、ぼくは今いないもん。ありがとな」
尾田の膝をぽんぽん叩いてあげた。
「今日は確かにほっつき歩いてたけど、あの時は仕事だからな!」
「ひひひっ。照れんなって」
なつみは、ぽーっとランプに見惚れる。
「アヤさんもありがとう。ぼくを信じて、懸命に声を上げてくれて」
「今更改まらないでよ。私もなつみちゃんに一目惚れしちゃったクチだもの。当然のことだよ」
なつみは頭を下げて、明らかに照れた。
「アヤさんがぼくを信じてくれた。尾田がアヤさんを信じてくれた。それで市丸隊長が尾田を信じてくれたから、ぼくは助けてもらえたんだ。ありがとうございます、隊長」
「もうそれ何遍も聞いてるで」
「言い足りないんですよ」
「なつみちゃんのことなら、みんな助けたいに決まってるやろ」
「優しい人たちばっかりですよね。美沙ちゃんも、ありがとう。過去に戻って霊力が無くなったとき、訳もわからない状況なのに、ほとんどの霊力、分けてくれたんだもんね。回復はできなかったけど、ああしてくれなきゃ、ぼくはきっと消えてなくなってたよ。繋ぎ止めてくれて、ありがとう」
「なつみ…。あたしもそれ、何回も聞いた。なつみがいるところにいられるようにするなんて、当たり前なの」
「感謝してもしきれないよ」
そして眼差しを彼に。
「京楽隊長も。川から助け出してくれました」
さすがに。さすがに?さすがに、これを言うのには、身体を起こして座り直さなければ。
「ありがとうございました」
お辞儀をする。
「ボクも、たくさん聞いたよ。キミがいなくなっちゃうなんて、絶対に嫌なんだから、生かすに決まってるだろ?誕生日おめでとう、なつみちゃん。キミが元気で何よりだよ。ね、みんな」
静かに頷く仲間たちの微笑みにつられて、なつみもにっこり。
「そっか…。誕生日だから、こんなに振り返るんだ。いろんなことがあったな〜」
星空を見上げる。
「これからはどんなかな〜」
幾億もの可能性が、視界いっぱいに瞬いている。
「なーんだか、しんみりモード?」
「らしくねぇな。騒ぎすぎて疲れたか?」
「たまにゃいーだろ。うるせぇな」
「花火も終わって、静かな夜ってか」
「大人なんだから、騒がなくたって楽しめるだろ」
「うわー、ジュース飲みながらカッコいいこと言ってる〜😙」
「酒が無いとか。どんだけ健全だ、俺ら。大人どころか、子供の集会だって開けるぞ、このセッティング」
「全くその通りだが、私を招待しないとは薄情者だな、なつみ🐥」
いつもの7人に黄色い鳥が乱入。
「ムッちゃん‼️」
ポップコーンをひとつ掴んで啄む。
「招待なんて。ぼくがいれば、ムッちゃんもいるじゃん」
「そうであっても、カタチは大事だろう。やっとこの日を認められたんだ。私には記念日だぞ。供として、一緒に祝わなければ。私とて、今日は誕生日なのだからな」
公園の鳩よりもスマートにポップコーンを頬張るムッちゃん。
「ふふふっ、お誕生日おめでとう、ムッちゃん」
「フンッ、やっと言ったか。おめでとう、なつみ。ケーキの無い誕生日など、お前が死神になって以来初めてだが、まぁ良いだろう。また1年楽しんで過ごすとしよう」
そしてふっと消えた。
「なんだよ。愚痴言いに来たのかよ」
「でもほんまや。ケーキ用意してへんかったな」
「ほんとですね。忙しくて、食べる暇がないから断ってたんですけど。拗ねちゃってましたね。さすが、ぼくの精霊さん。お供え物はやっぱり必要だったみたいです。明日食べよーっと」
そこで親友が打ち明ける。
「そう言うと思って、ちゃんと作ってあるよ、なつみ」
「うそ‼︎」
「ほんと。日持ちするように、いつもみたいなデコレーションはしてないけどね。ドライフルーツのパウンドケーキにしたよ」
「本当か🐥」
「ムッちゃん🤭」
薄情な主人の前に、現金な相棒が戻ってきた。
「食べたいなら、先に帰りなよ」
そう言われてムッちゃんは、なつみと家方面を許可と誘惑の間に揺れて交互に見た。
「ンー。…、そんなわけないだろう」
右手をひらりと挙げて、再び姿を消した。
「あっははは!かわいいんだから😄」
なつみは京楽にコップを渡してもらうよう、手を伸ばした。
「ください」
「はい、どうぞ😌」
「軽い💢」
「ごめーん。おいしいんだもん」
むぅとしながら飲む。
「そうだそうだ。お酒欲しいんでしょ。良い呪文を知ってんだよね〜。いっちょやったろーか」
コップを床に置いて、袖をまくり、右の人差し指を立てる。何をする気だろうと、周りは興味津々に見つめる。なつみは咳払いをする。
「ンンンッ。いくよ。うさぎの目❗️ハープの音色❗️このジュースをキンッキンに冷えたビールに変えよ❗️☝️」唱えながら、力強くそれっぽく指を振る。そして左腕を掴む。「どぉーしてだよーッ‼️」倒れる。
「何がだよ‼︎😅」
尾田がツッコんだと同時に、笑い声が上がる。
「ダァーハハハハハッ‼️😂」
レンだ。…、レンだけだ。
「おまっ、おい、俺しか笑ってねぇーじゃんか‼️アハハハハッ😂」
レン以外はきょとんだ。
「なつみちゃん、今の何?」
「知らないんですか?ガーリィレコードチャンネルの高井くんがやってた、シェーマスの呪文を練習する藤原竜也ハリーポッターのマネのマネです」
「わからん💧(笑)」
「俺だけにしか共有してなかったのか😂」
「こういうのがわかるのは、レンだけだと思っているからね」
「何でちょっとだけ藍染隊長ぽく言うんだよ。眼鏡クイじゃねーよ。かけてねーよ。」
尾田の無意識フェニックス風ツッコミにすら笑えてしまうレン。
「助けてくれ。俺はもう、腹筋がッ‼︎‼︎(笑)」
ふざけ倒すなつみと笑い転げるレンの外は、なかなかにシラけている。
「どれどれ。なつみちゃんの魔法はかかってるのかな」
京楽がその冷めた空気の中、勇敢にも動いた。ジュースに手を伸ばす。そして口に含む。
「ん‼︎」驚く京楽。「え、ちょっと味変わってるかも」
「ウソやん!」
「いやいや、ほんとほんと」
「ほんまに〜?」
「飲んでみる?🥤」
「いらんわ‼︎」
これには笑える人たち。
「えー、気になるなぁ。ボクのもやってや」
ミニテーブルを中央に置いて、そこに市丸は自分のコップを置いた。
これは良い余興だと、みんなも乗ってくる。
「じゃあ、あたしも」
「俺も」
「私も」
「はいはい、置いて置いて〜。自分のどれか、わかんなくなんないようにね。気を付けてね〜」
いんちきマジシャンなつみは、両手を擦り合わせる。
「なんかさ、杖になる棒が欲しいんだけど。何かないかな。…、おう、これで良いや」
目に入ったのはストロー。京楽の持つカップからすっと抜き取って、下から滴らないよう、素早くチュッと吸った。すると。
「ん⁉︎マジだ」
「ウソだって、それ」
「マジだぜ❗️へへへ、思わず、ドラえもんの名台詞出たわ。ちゃ、ほんと変わった気がするって」
「あれやないの。ふたりの唾液で発酵したんやわ」
「ヤな言い方しないでくださいよ💧」
「ヤなの?」
「…💧」
「イヤやろ」
気を取り直して、いざ魔法を。
「寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。マジックショーの始まりだよ。この欲しがり屋たちめ」
こう言って、1個思い付いた。
「欲しがり屋」
「ガハハハハッ😂」
またレンだけ笑い出した。
「欲しがり屋。アメノミヤ。ルーム!」
「やめろ!ローやんな!何で俺だけ集中攻撃なんだよ‼︎💢😂」
「シャンブルス❗️欲しがり屋。シャンブルス❗️」
「早くやれよ💧」
再び気を取り直して。
「いくぞ❗️」
「シャクれんな」
「うさぎの目❗️ハープの音色❗️これらのジュースをキンッキンに冷えたビールに変えよ❗️」
バタン
「どぉーしてだよーッ❗️」「ダァーハハハハハッ‼️😂」
なつみが倒れて「どうしてだよ」を言うのを待たずに、同時に倒れてレンは早くも笑い転げていた。
「変にシンクロすんなよ」
「だって、これっぽっちも似てねぇのに、コイツ、全力なんだもん‼︎😂」
「つか、『どうしてだよ』まで込みなのな」
「そこまでやんないと、再現になんないから。ほれー、飲んでみー」
京楽のところに行って、ストローを戻している間、各々カップを取って、試しに飲んでみた。
「くふふっ(笑)」
「ほんとだ。ちょっと変わってる」
「しかも」
「な。思った」
「おい、ちょっとだけマズくするって、やめろよな!」
そう。キンッキンに冷えたビールにはなっていなかったが、なんだか気持ちちょっとだけ味がかわっていたのだ。マズい方へ。
「よかったー、結構飲んどいて」
「でもさ、ちょっと確かにアルコール感あるよ」
「せやね。ちょびぃーっとな」
「唾液で発酵したんでしょ(笑)」
「ヤな言い方やめてくださいって!」
「お前さ、酒になったらもう飲めねーじゃん」
「はぁ‼︎🫢」気付かされたなつみ、倒れる。「どぉーしてだよーッ‼️」
「お前ぇがやったんだよ❗️」
「結局しんみりしてらんないのね」
「モォ〜モォ〜」
「サンタぁ〜。慰めて〜」
なつみはサンタの頭に、覆うようにくっついた。
ちょっぴりマズくなった分、ちょっぴりアルコールが謎に湧いてきた魔法のドリンクを飲んでいる横で、なつみはサンタに膝枕をさせて、いいこいいこと頭を優しく撫でてあげていた。
「良いな〜。ボクもなつみちゃんに膝枕してもらいたいな」
「恥ずかしいこと、みんなの前で言わないでください」
「はぁ〜い」
仕方ないと、なつみは京楽に耳を寄せるよう手招きした。そっと耳打ちすると京楽はご満悦の表情になった。お返しにと、なつみに耳打ちすると、なつみは真っ赤になって俯いた。
それを見せられる人たちの、なんたる冷たい目。
「せやから京楽さん呼びたないねん」
「モフッ」
「何だよ、牛くん。なつみちゃんとボクはお付き合いしてるんだよ。ラブラブなの」
サンタはうるさい言葉を叩き落とすように、耳をぱたつかせて、軽く首を振った。
「牛くんなんて呼び方やめてください。サンタって名前があるんですから。ね、サンタ。サンタはまつ毛が長くて、美人さんだね」
サンタの頬を撫でながら、なつみがそう言った。
「雄牛なんだから、美人とは言わないだろ」
「良いじゃん、別に」
褒めてくれたお礼にと、サンタは身体を起こしてなつみの顔に擦り寄った。
「あっはは!くすぐったいよ、サンタぁ〜」
京楽とイチャつくところは見ていられないが、牛と戯れるなつみは見ていられる一団。
「モフモフ🐮」
「むきゃきゃ😆」
「かわいい(笑)」
思わず誰かからポツリと、本音が漏れてしまった。全員の視線が声の主に集まる。
「やべっ😨💦」
その人、口に手を当てる。しかし、無かったことにはできない。
「はいケイジ、アウトぉー👍」
「言ってねぇッ‼️」
「言いましたー。聞こえましたー😙👉」
「ちょい不味ジュースで酔ってんじゃねーよ」
「確かに、今のは微笑ましい光景だったから、つい言っちゃっても仕方ないけどさぁ〜😏」
「だからぁッ‼️💦」
そんな慌てるケイジの肩を、大親友がガッチリ掴んで組んできた。
「わかるッ‼️ 木之本はかわいい❗️お前だけズルいから、俺も木之本に言わせてくれ」
「お前も大概酔ってんな」
レンのそれは助け舟ではなかった。
「木之本はなー、サンタとわちゃわちゃしてんのも良いが、俺とお笑いのセンスがダダ被ってるところが好きだ‼️😆」
「俺は好きとは言ってねぇだろ❗️」
「かわいいつったろ😤」
「ふたりともアウトだ」
尾田はそう思ったが。
「お前ら、変なの〜😄」
なつみは笑っていた。
「じゃあさ、俺も日々思ってること言って良い?」
ハルが話し始めた。
「何だよ」
「かわいいなーって見てて思ってたけど、これ共有できる人いないだろうなと思って黙ってたことなんだけど」
「なになに?」
「木之本さ、ゲップするとき『ゲップ』って言うの」
「は?」
「あくびした後は、しばらく口元むにゃむにゃしてんの」
「あー、見る見る」
「くしゃみした後は、鼻に皺寄せてじっとしてるし」
「マニアックなとこついてくるなー」
「鼻噛んだら、プンッて言うの」
「よく見てるねー」
「あとは、おいしいもの食べたら、アヒル口になる」
言われた本人の感想は。
「見過ぎだろ」
「目につくんだよ。かわいいなーと思って。お前の癖😊」
「はいはーい❗️俺も俺も❗️『なつみのかわいいとこ言い合い合戦』に参加するー✋」
クーちゃんが割り込んできた。
「何だよ、そのしょーもない合戦は」
「なつみはね、好きなものを遠くから見つけると、走ってそっちに行っちゃうの。で、飛びつくの。かわいいよね♪」
「わかるよー。そうなんだよ。さっきもね、なつみちゃん、ボクに駆け寄ってくれたんだ〜」
(はい、はい。)
京楽のお惚気に、みんな「はいはい」と思うのみ。
「そんなにいろいろ言わないでよー」
むぅーと、少し照れて言うなつみ。
「今日の主役はお前だぞ、木之本。王様にヨイショすんのが、子分の務めだから、ありがたくかわいがられてろ」
「言ってること、めちゃくちゃだぞ、レン」
「よーし、あとお前ら2人言えよな」
レンが李空と尾田を指す。
「えー、ボクたちはダメなのー?」
「ダメっすよ。市丸隊長はあえてとぼけたこと言いそうですし、京楽隊長はお茶の間に相応しくないこと言いそうなんで」
「ダメなの〜?(笑)」
言うつもりだったらしい。
「あたしらも無しなんだ」
「ダメダメ。やっぱね、これは三番隊同期内の争いだから」
「いつから争いになってんだよ」
「美沙ちゃんとアヤさんが参戦した日にゃ、木之本は安全牌だっつって、どうせふたりを選ぶから。そんなふうに逃すかよって話」
「あらそー」
「でもさ、レンが言ったの、めちゃめちゃ個人的に気に入ってるだけのことで、共感得てねぇーじゃん。悪いけど、暫定最下位だぞ」
コミッショナーからの辛辣なひと言だった。
「どぉーしてだよーッ‼️」
レン、敗れたり。
「やりたがり屋😏(ロー風)」
「なら俺言う✋」
先に手が挙がったのは李空だった。
「おい、先越すなよ💦」
「早い者勝ちだ」
どぉーしてだよーから立ち上がるレンが李空を指す。
「李空選手、どうぞ❗️木之本のかわいいところ、どこでしょーか❗️」
「チビなとこ」
「ブーッ❗️ブーブーブーッ❗️」
「おーっと、コミッショナー木之本から大きなバツが出ましたぁ❗️これは一発退場の禁句でありました❗️」
「かわいいだろ。チビで」
「ブゥーウッ❌」
「二度も言ったぞ、李空選手❗️次回大会への参加権剥奪も辞さないつもりか❗️」
「第二回もあんのかよ」
「さぁーて、トリを務めるのはこの男。無茶振り担当、尾田選手❗️ 木之本のかわいいところは、どこでしょーか❗️」
李空のターンは失格で終わり、最後の尾田に番が回ってきた。
「はい、5ぉ❗️」
「ややっ、ちょっと待てよ!」
慌てる尾田、頭を抱える。
「 4❗️」
「3❗️」
「2❗️」
「1❗️どうぞ❗️」
「ぜ、ぜんぶッ‼️‼️😫///」
「「「「「「「「「「ブーッ❌」」」」」」」」」」
サンタもブゥッと唇を振るわせた。
一斉に掲げられたバツ。尾田の回答は満場一致の❌であった。
「何でだよーッ💦」
「そこ、『どぉーしてだよーッ‼️』て言えないとこ、お前のダメなとこな」
お笑いに厳しいコミッショナー。
「尾田くん、そら無いわ。いっちゃん無いわ」
「そうそう。『全部』は『無い』と言ってるのと同じだからね」
「俺だけ厳しくないすか⁉︎💦」
尾田にだけ厳しい隊長ふたり。
こんなふうにからかうと楽しいものだが、最後はちゃんとフォローしなければ気が済まないコミッショナーは、トントンッと尾田に駆け寄って、膝を抱えて隣りでしゃがんだ。
「尾田、ぼくはお前と一緒にいられる全部の時間、楽しくて好きだぞ❗️だからぼくも、尾田の全部が良いって言う❗️わざわざ選ぶことなんてないよな😁」
にっと笑うなつみの笑顔のおかげで、尾田は遅れて答えを見出せた。もう時間切れなので、喉の奥にしまうしかないのだが。
(お前の、そうやって誰も見捨てないところに、俺は惹かれるんだ)
という思いとは裏腹に、現実を提示してやる。
「そんなこと言って慰めてるつもりかよ。一緒になってバツ挙げてたくせによッ❗️」
コツンと肩を当ててやった。
「だぁーって、その方がおもしろいじゃんか🥴」コツンと当て返した。「ぼくは笑いに貪欲なんだよ。隙あらば狙う😤」
「わざわざ狙わなくても、天然ボケで笑えるときもあるけどな」
「何だと、李空、コラァッ💢」
怒ってもかわいい。
「それはボクも思うよ。だってほら、あの、ウ、ウルトラマン…ップフッ(笑)」
「あーもうッ❗️こんなとこでそんな話しないでくださいッ❗️💦///」
恥ずかしそうに困ってもかわいい。
「京楽さんのことが大好きななつみちゃんいうのも、かわいらしいと思うで」
「隊長💦///」
「あと、がんばり屋さんなとこな」
「にゃふー///」
褒められて照れてもかわいい。
「お前ら、隊長のこういうとこ見習えよ❗️これが人を喜ばせる言葉だ❗️」
偉そうに語る姿もかわいい。
つまり、尾田の言った『全部』がいちばん的を射ていたのだろう。彼をバカにしてはいけない。どこを切り取ってもかわいい、全部ひっくるめてかわいい。それが木之本なつみという人物である。だからこそ、これだけ誰からも愛されてしまうのだろう。例え薬指に約束が光っていても、好きの気持ちを止める信号にはならない。
この日を過ごせた者たちは、口に出すことは無くとも、似た感覚を味わっていたことだろう。
「他人の誕生日をここまで楽しめるなんて。まるで記念日だ」と。
ある時点の住人たちも、これと同様のことを体験したはずだ。しかし、同じ運命を辿るわけにはいかない。そうでなければ、現在や未来に願った価値は無くなってしまうからだ。託すばかりでなく、不安に備えるだけでなく、自らも進んで望んだ明るい未来へ、共に肩を並べて歩いて行けるように。