第一章
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第二十席に就任後、新しい職務内容に体を慣らしていく日々に追われていたなつみが、ようやく休み時間に好きなことをする余裕が持ててきた頃、三番隊隊舎の1階、木々から漏れる光が当たりそよ風が撫でる縁側で、彼女は読書を楽しんでいた。本日の読み物は先月号の瀞霊廷通信。忙しさの中、積ん読の小山に放置していた号だ。ペラペラと寝そべりながらページを捲る。そこには各隊長、副隊長の写真付きプロフィールが載っていた。春の第一弾は大抵このネタで、毎年そんなに変わることのない内容。しかし普段それほど関わりのもてない隊長たちの情報をここから得ている一般隊士たちは、こういった読み物を楽しみにしている。なつみの場合、嫌でもそんな関わりは降ってくるのだが。
「総隊長と雀部副隊長って、趣味違いすぎませんかねこれ。ケンカとかすんのかな。『元柳斎殿、紅茶が入りました』『儂はそんなもん飲まん!』的なね。へへへ(笑)」
独り言を呟きながら読み進める。
そんななつみを観察している男が1人。
「まーたなつみちゃん、あんなとこでくつろいでるわ。もーそろそろ、落ち着いてきた頃やろ。こないだのお仕置きしたろ♪」
1階の縁側を見下ろせる隊首室の窓からなつみを眺め、市丸はイタズラを考えていた。
「イヅル、ボクちょっと出かけてくるわ~」
「はい。残りの仕事は僕が片付けておきますね」
「頼むわ」
楽しそうに市丸が部屋を出ていくと、イヅルはため息をついた。
「今度はどんな意地悪を思いついたんですか」
市丸が向かったのはなつみのいる縁側ではなく、八番隊隊舎の屋上。そこで昼寝をしているだろう男に会いに行く。
「おったおった。京楽さーん!こんにちは〜」
「ん…?」
市丸は京楽のそばに来ると、腰を曲げニコニコと京楽が起きるのを見つめた。仰向けで寝ている京楽は、顔の上に置いていた笠をずらして市丸を確認する。
「なんだい?市丸隊長じゃないか」
「ねぇ、起きてくださいよ。ちょっとボクに付き合ってもらえません?」
「やだよ。ボクは、キミに怒られて傷心なの」
そう言ってまた笠を戻す。
「もぉー。なつみちゃんで遊びましょって誘ったら、来てくれます?ボク、こないだのことで嫌な思いしたんで、仕返ししてやりたいんです」
「なつみちゃん?」
その名前を聞いて、むくっと起き上がる京楽。
「昼間っからエッチなこと考えてるんだね」
「何でそうなるんですか。それはおタクだけです。いっしょにせんとってください」
「じゃあ何するっての?」
市丸は曲げていた腰を伸ばす。
「なつみちゃん、今昼休みで、ウチんとこの隊舎の縁側で先月の瀞霊廷通信読んでるんです」
「うん。で?」
「あの子、独り言呟きながら読んでるんですよ。何言ってるか気になりません?毒舌でモノ言うてるかも」
「言われてる本人たちがそばで聞いてたなんて気づいたら、かわいい顔して慌てるんだろうな」
「行きません?彼女のとこ」
「行ってみますか」
この隊長2人の楽しみの一つは、なつみの取り乱した恥ずかしそうな顔を見ることであった。
ページは進み、二番隊へ。
「砕蜂隊長かわいいなぁ。目元がかわいいよねぇ。はぁ…、強い女性ってマジ憧れる😌」
ふんふんと鼻歌交じりに次のページへ。三番隊、我らが市丸ギン隊長のページ。
「あ、好きな食べ物。出ました、干し柿。隊長からいっぱいもらうんだよなぁ。でもぼく実は、断然干し芋派。って、隊長干し芋嫌いなんだぁ。残念だなぁ。なんて言ってたら、あれあれ、吉良副隊長は干し柿嫌いなんだ。あんなに食べさせられてるのに。かわいそう。でもなんか隊長のことだから、わかって辛い目に遭わせてんだろうな(笑)」
四、五、六と読み進め、七に来ると「射場さーん!」と叫んでみる。
「いや、射場さんの顔見たら、射場さん!と叫びたくなる。男になれるなら、射場さんみたいに『じゃけー』言ってみたいな。じゃけー、じゃけー、じゃけーのぉ。…単品で言うもんじゃないな(笑)」
そして、八番隊。
「京楽隊長だ💖!うぇ!?身長192cmもあんの!?ぼくと…、40cm以上も違う。男の人ってどーしてあーも背が伸びるんだ!不公平だ。ぼくだって、ドーンッと190cmくらいになる予定だったっつーの!」
もう少し下に目をやる。
「特技は昼寝かぁ。嘘こけやい。夜の間違いやろ。ははーん(笑)」
「知ったふうな口きくじゃない」
「⁉︎」
「干し柿無理矢理食べさせて悪かったな。ってか、『単品じゃけー』って何(笑)??」
「あわーッ!」
なつみはとっさに瀞霊廷通信を放り投げ、縁側の外に下りて土下座をした。
「お見苦しいところ、お聞き苦しいところ、大変申し訳ございません‼︎‼︎」
なつみの周りで砂埃が舞う。
「ずっとおってんのに、何でなつみちゃんボクらに気づかんの?」
「あわわわわ」
額に砂のつぶつぶが刺さる。
「ボクらの知らないなつみちゃんを見ちゃったねぇ」
「あわわわわ」
地面についていた両手を上げ、頭を抱えた。体が小刻みに震える。自分の失態にどうしたら良いのかわからなくなっているなつみに、京楽がしゃがみこんで彼女の耳元に止めの一発をお見舞いする。
「夜の方が得意かどうか、確かめてみるかい?なつみちゃん」
「あわわわわーッ‼︎‼︎」
叫んで、すっ飛んで逃げるなつみ。その通った辺りに生えている草が揺れた。
「ドヤ!ボクを心配させて、怒らせた罰や!もー、京楽さんグッジョブ!プククククッ」
「あははははッ。あれはかわいすぎだよ!なつみちゃん!」
「大成功や。お腹痛いー、ウケるぅッ」
いじめた人たちは大爆笑。市丸に関しては、今までに無い以上楽しそうに笑っていた。
「なつみちゃんて、何で慌てると『あわわわわ』って言うんだろうね」
「癖なんとちゃいます?ほんま好きやわー、あの子。なつみちゃんいじめるん楽しすぎる!」
笑いすぎて少し疲れた市丸と京楽は縁側に並んで座った。
「ほんとに羨ましいな、キミは。いつもこうしてなつみちゃんと遊んでるのかい?」
「いつもではないですよ。それに、なつみちゃん“で”ですけど」
「そうだね(笑)」
「はぁ、スッキリした」
京楽はなつみが投げ飛ばした雑誌を拾い、後で返しに行ってあげようと思った。
「なつみちゃんにお仕置きを執行したってことは、ボクも覚悟しなきゃいけないってことかな?」
「どないしよーかな〜」
「協力してあげたんだから、免除してほしいね」
「ほな、も1個協力してくれるんなら、許しましょ。ボクの監督不行き届きも原因のひとつでしたし」
やっと本題に入ってくれるかと、京楽は市丸の話に身構えた。
「京楽さん、あの日なつみちゃんと何があったか教えてくれません?」
「あの日、ね。あの日ボクは、クッキーを頬張りながら歩くかわいいなつみちゃんを見つけて、思わず人気のいないところに連れてって独り占めしたくなったんだよね」
「最低ですね」
「…ま、そう言わないでよ。だって、ずっと元気なさそうにしてたのに、気づいたら突然、彼女に明るい笑顔が戻ってたんだよ!事情を聞かないわけにいかないじゃない。…睨まないでよ。それで、最近どう?良いことでもあったの?ってきいたら、始解ができるようになって、それに伴って席官にもなるんだってあんまりにも嬉しそうに話すもんだから、聞いてるボクも嬉しくなっちゃって、ついハグしちゃった。…顔怖いって。そしたら、びっくりしちゃったのか、なつみちゃん、顔隠して縮こまって動かなくなっちゃってさ。もー、照れ屋さんなんだからぁ。そんな反応も嬉しいけど、やっぱりかわいいお顔が見たくてさ、始解をやってみてって頼んだんだよ。しばらく悩んでたみたいだけど、了承してくれてね。ボクはなつみちゃんからちょっと離れたところに立って、見ることにしたんだ。ボクはドキドキを楽しみたかったから、なつみちゃんに能力がどんなものか全く説明させなかった。全部受け止めてあげるから、思いっきりやってみてって、ボクを信じてって言ってね。なつみちゃんが斬魄刀を構えて、力を解放したら、キミが後で教えてくれたように、なつみちゃんの方に、ボクの体は引き寄せられていったんだ。ボクがゆっくりなつみちゃんに近づいていく間、彼女突然、刀を下ろして、もう片方の手で口を塞いで、恥ずかしそうにモジモジし始めてさ。目の前までボクが来てるのに気付いてふと見上げてきて、そのままチューしちゃった。あれは事故だから!わざとじゃないから許してよ」
「信じますよー。ご安心くださーい」
市丸は先程のなつみをいじめて楽しげな時と一転、抑揚のない声で返事をした。それに焦った京楽は「本当だから!怒らないでよ!」と懇願する。すると、市丸はクスッと笑った。
「なつみちゃんから話聞いてますから、京楽さんのこと信じますよ。別にボクはチューしたこと怒ってるんとちゃうもん。誘拐の件や。二度とせんって約束してくれればええの」
「はい。しません。…たぶん」
睨む市丸。
「仕事に支障をきたさなきゃ文句ないだろ?ボクだってなつみちゃんと遊びたいんだもーん」
「はぁ、まったく」
反省の色が薄すぎる京楽を諦め、市丸は話を戻す。
「そいで、京楽さんはなつみちゃんの能力どう思いました?」
「ん?うーん、不思議な感覚だったな」
「ほんまにチューしたんが事故で、わざとやない思います?」
「疑ってるのかい?」
「ガッツリなつみちゃんの頭に両手添えとったやん」
「あれ?そうだっけ(笑)」
「京楽さんは無意識やったで、覚えとらんのです」
「まさか、そんな、…彼女が⁉︎」
「それもちゃうといえばちゃう」
「どっちなんだい」
「なつみちゃんも、ああなるなんて思ってなかったそうです」
「…ごめん、話が全く読めない」
「なつみちゃんは、ほんまは京楽さんのこと引き寄せて、チークダンスしようとしてたんです。やのに、京楽さんと手を取り合って、そんな近くに顔寄せて、チューでもされたらどないしよー‼︎///って考えてしもーて、結果あれです」
「それって…、やっぱり、なつみちゃんがボクにキスさせたってこと?」
「結果としてです。本人は狙ってやってない。京楽さんも変や思ったでしょ?あのダンス作戦は良くないねんて。無理あるわ」市丸は京楽にまっすぐ言葉を投げた。「ええですか、京楽さん。ボクはアンタをなつみちゃんを攫う悪い人やと思ってる。でも、いちばん彼女の助けになってくれる良い人やとも思ってる。やから、ボクは京楽さんを信じて、ホンマのこと教えます。なつみちゃんの能力、いや、なつみちゃんが手に入れてしまった能力について」
あまりの普段見せない真剣さに、京楽は驚いた。だが、このことを伝えるために、自分が呼ばれたんだと初めから気づいていた彼は、何を聞かされても受け入れられるよう、心の準備をする。
「なつみちゃんの夢現天子は、彼女の夢や理想を絶対に実現させる全能の斬魄刀や」
「ウソーッ⁉︎」
準備が追いつかないこともあるわけで。
「総隊長と雀部副隊長って、趣味違いすぎませんかねこれ。ケンカとかすんのかな。『元柳斎殿、紅茶が入りました』『儂はそんなもん飲まん!』的なね。へへへ(笑)」
独り言を呟きながら読み進める。
そんななつみを観察している男が1人。
「まーたなつみちゃん、あんなとこでくつろいでるわ。もーそろそろ、落ち着いてきた頃やろ。こないだのお仕置きしたろ♪」
1階の縁側を見下ろせる隊首室の窓からなつみを眺め、市丸はイタズラを考えていた。
「イヅル、ボクちょっと出かけてくるわ~」
「はい。残りの仕事は僕が片付けておきますね」
「頼むわ」
楽しそうに市丸が部屋を出ていくと、イヅルはため息をついた。
「今度はどんな意地悪を思いついたんですか」
市丸が向かったのはなつみのいる縁側ではなく、八番隊隊舎の屋上。そこで昼寝をしているだろう男に会いに行く。
「おったおった。京楽さーん!こんにちは〜」
「ん…?」
市丸は京楽のそばに来ると、腰を曲げニコニコと京楽が起きるのを見つめた。仰向けで寝ている京楽は、顔の上に置いていた笠をずらして市丸を確認する。
「なんだい?市丸隊長じゃないか」
「ねぇ、起きてくださいよ。ちょっとボクに付き合ってもらえません?」
「やだよ。ボクは、キミに怒られて傷心なの」
そう言ってまた笠を戻す。
「もぉー。なつみちゃんで遊びましょって誘ったら、来てくれます?ボク、こないだのことで嫌な思いしたんで、仕返ししてやりたいんです」
「なつみちゃん?」
その名前を聞いて、むくっと起き上がる京楽。
「昼間っからエッチなこと考えてるんだね」
「何でそうなるんですか。それはおタクだけです。いっしょにせんとってください」
「じゃあ何するっての?」
市丸は曲げていた腰を伸ばす。
「なつみちゃん、今昼休みで、ウチんとこの隊舎の縁側で先月の瀞霊廷通信読んでるんです」
「うん。で?」
「あの子、独り言呟きながら読んでるんですよ。何言ってるか気になりません?毒舌でモノ言うてるかも」
「言われてる本人たちがそばで聞いてたなんて気づいたら、かわいい顔して慌てるんだろうな」
「行きません?彼女のとこ」
「行ってみますか」
この隊長2人の楽しみの一つは、なつみの取り乱した恥ずかしそうな顔を見ることであった。
ページは進み、二番隊へ。
「砕蜂隊長かわいいなぁ。目元がかわいいよねぇ。はぁ…、強い女性ってマジ憧れる😌」
ふんふんと鼻歌交じりに次のページへ。三番隊、我らが市丸ギン隊長のページ。
「あ、好きな食べ物。出ました、干し柿。隊長からいっぱいもらうんだよなぁ。でもぼく実は、断然干し芋派。って、隊長干し芋嫌いなんだぁ。残念だなぁ。なんて言ってたら、あれあれ、吉良副隊長は干し柿嫌いなんだ。あんなに食べさせられてるのに。かわいそう。でもなんか隊長のことだから、わかって辛い目に遭わせてんだろうな(笑)」
四、五、六と読み進め、七に来ると「射場さーん!」と叫んでみる。
「いや、射場さんの顔見たら、射場さん!と叫びたくなる。男になれるなら、射場さんみたいに『じゃけー』言ってみたいな。じゃけー、じゃけー、じゃけーのぉ。…単品で言うもんじゃないな(笑)」
そして、八番隊。
「京楽隊長だ💖!うぇ!?身長192cmもあんの!?ぼくと…、40cm以上も違う。男の人ってどーしてあーも背が伸びるんだ!不公平だ。ぼくだって、ドーンッと190cmくらいになる予定だったっつーの!」
もう少し下に目をやる。
「特技は昼寝かぁ。嘘こけやい。夜の間違いやろ。ははーん(笑)」
「知ったふうな口きくじゃない」
「⁉︎」
「干し柿無理矢理食べさせて悪かったな。ってか、『単品じゃけー』って何(笑)??」
「あわーッ!」
なつみはとっさに瀞霊廷通信を放り投げ、縁側の外に下りて土下座をした。
「お見苦しいところ、お聞き苦しいところ、大変申し訳ございません‼︎‼︎」
なつみの周りで砂埃が舞う。
「ずっとおってんのに、何でなつみちゃんボクらに気づかんの?」
「あわわわわ」
額に砂のつぶつぶが刺さる。
「ボクらの知らないなつみちゃんを見ちゃったねぇ」
「あわわわわ」
地面についていた両手を上げ、頭を抱えた。体が小刻みに震える。自分の失態にどうしたら良いのかわからなくなっているなつみに、京楽がしゃがみこんで彼女の耳元に止めの一発をお見舞いする。
「夜の方が得意かどうか、確かめてみるかい?なつみちゃん」
「あわわわわーッ‼︎‼︎」
叫んで、すっ飛んで逃げるなつみ。その通った辺りに生えている草が揺れた。
「ドヤ!ボクを心配させて、怒らせた罰や!もー、京楽さんグッジョブ!プククククッ」
「あははははッ。あれはかわいすぎだよ!なつみちゃん!」
「大成功や。お腹痛いー、ウケるぅッ」
いじめた人たちは大爆笑。市丸に関しては、今までに無い以上楽しそうに笑っていた。
「なつみちゃんて、何で慌てると『あわわわわ』って言うんだろうね」
「癖なんとちゃいます?ほんま好きやわー、あの子。なつみちゃんいじめるん楽しすぎる!」
笑いすぎて少し疲れた市丸と京楽は縁側に並んで座った。
「ほんとに羨ましいな、キミは。いつもこうしてなつみちゃんと遊んでるのかい?」
「いつもではないですよ。それに、なつみちゃん“で”ですけど」
「そうだね(笑)」
「はぁ、スッキリした」
京楽はなつみが投げ飛ばした雑誌を拾い、後で返しに行ってあげようと思った。
「なつみちゃんにお仕置きを執行したってことは、ボクも覚悟しなきゃいけないってことかな?」
「どないしよーかな〜」
「協力してあげたんだから、免除してほしいね」
「ほな、も1個協力してくれるんなら、許しましょ。ボクの監督不行き届きも原因のひとつでしたし」
やっと本題に入ってくれるかと、京楽は市丸の話に身構えた。
「京楽さん、あの日なつみちゃんと何があったか教えてくれません?」
「あの日、ね。あの日ボクは、クッキーを頬張りながら歩くかわいいなつみちゃんを見つけて、思わず人気のいないところに連れてって独り占めしたくなったんだよね」
「最低ですね」
「…ま、そう言わないでよ。だって、ずっと元気なさそうにしてたのに、気づいたら突然、彼女に明るい笑顔が戻ってたんだよ!事情を聞かないわけにいかないじゃない。…睨まないでよ。それで、最近どう?良いことでもあったの?ってきいたら、始解ができるようになって、それに伴って席官にもなるんだってあんまりにも嬉しそうに話すもんだから、聞いてるボクも嬉しくなっちゃって、ついハグしちゃった。…顔怖いって。そしたら、びっくりしちゃったのか、なつみちゃん、顔隠して縮こまって動かなくなっちゃってさ。もー、照れ屋さんなんだからぁ。そんな反応も嬉しいけど、やっぱりかわいいお顔が見たくてさ、始解をやってみてって頼んだんだよ。しばらく悩んでたみたいだけど、了承してくれてね。ボクはなつみちゃんからちょっと離れたところに立って、見ることにしたんだ。ボクはドキドキを楽しみたかったから、なつみちゃんに能力がどんなものか全く説明させなかった。全部受け止めてあげるから、思いっきりやってみてって、ボクを信じてって言ってね。なつみちゃんが斬魄刀を構えて、力を解放したら、キミが後で教えてくれたように、なつみちゃんの方に、ボクの体は引き寄せられていったんだ。ボクがゆっくりなつみちゃんに近づいていく間、彼女突然、刀を下ろして、もう片方の手で口を塞いで、恥ずかしそうにモジモジし始めてさ。目の前までボクが来てるのに気付いてふと見上げてきて、そのままチューしちゃった。あれは事故だから!わざとじゃないから許してよ」
「信じますよー。ご安心くださーい」
市丸は先程のなつみをいじめて楽しげな時と一転、抑揚のない声で返事をした。それに焦った京楽は「本当だから!怒らないでよ!」と懇願する。すると、市丸はクスッと笑った。
「なつみちゃんから話聞いてますから、京楽さんのこと信じますよ。別にボクはチューしたこと怒ってるんとちゃうもん。誘拐の件や。二度とせんって約束してくれればええの」
「はい。しません。…たぶん」
睨む市丸。
「仕事に支障をきたさなきゃ文句ないだろ?ボクだってなつみちゃんと遊びたいんだもーん」
「はぁ、まったく」
反省の色が薄すぎる京楽を諦め、市丸は話を戻す。
「そいで、京楽さんはなつみちゃんの能力どう思いました?」
「ん?うーん、不思議な感覚だったな」
「ほんまにチューしたんが事故で、わざとやない思います?」
「疑ってるのかい?」
「ガッツリなつみちゃんの頭に両手添えとったやん」
「あれ?そうだっけ(笑)」
「京楽さんは無意識やったで、覚えとらんのです」
「まさか、そんな、…彼女が⁉︎」
「それもちゃうといえばちゃう」
「どっちなんだい」
「なつみちゃんも、ああなるなんて思ってなかったそうです」
「…ごめん、話が全く読めない」
「なつみちゃんは、ほんまは京楽さんのこと引き寄せて、チークダンスしようとしてたんです。やのに、京楽さんと手を取り合って、そんな近くに顔寄せて、チューでもされたらどないしよー‼︎///って考えてしもーて、結果あれです」
「それって…、やっぱり、なつみちゃんがボクにキスさせたってこと?」
「結果としてです。本人は狙ってやってない。京楽さんも変や思ったでしょ?あのダンス作戦は良くないねんて。無理あるわ」市丸は京楽にまっすぐ言葉を投げた。「ええですか、京楽さん。ボクはアンタをなつみちゃんを攫う悪い人やと思ってる。でも、いちばん彼女の助けになってくれる良い人やとも思ってる。やから、ボクは京楽さんを信じて、ホンマのこと教えます。なつみちゃんの能力、いや、なつみちゃんが手に入れてしまった能力について」
あまりの普段見せない真剣さに、京楽は驚いた。だが、このことを伝えるために、自分が呼ばれたんだと初めから気づいていた彼は、何を聞かされても受け入れられるよう、心の準備をする。
「なつみちゃんの夢現天子は、彼女の夢や理想を絶対に実現させる全能の斬魄刀や」
「ウソーッ⁉︎」
準備が追いつかないこともあるわけで。