第八章
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女性死神協会がマネージャーの役を買って出てくれたおかげで、モデルのバイトは息抜きがてらな件数で捌くことができていた。たまに変身して、日頃のちょっぴり溜まった疲れを楽しく解消できるので、良いことしてる〜と、なつみは思っていた。
面倒なことに、と言うと彼は怒るだろうが、周りが少し引いているのは確かなこと。撮影で誰よりも熱がこもっていたのは京楽だった。
普通なら、撮影を依頼してきた者たちが、カメラマン等のスタッフを用意するものだが、他人に任せてなるものかと、京楽が自ら人材を集めたわけだ。京楽曰く、「知らないオジサンに撮られるのなんてイヤでしょ」とのこと。そう聞くと、くすりと笑えてくるが。
最愛のなつみに関して、信頼できる者たちと言えば、彼らしかいない。同期7人組だ。カメラはレンにしか頼むことができないので、彼のスケジュールを優先して撮影が行われた。美沙が衣装をチェックしたり、その他5人が照明やら小道具のセッティングやら送風やらな雑務を担当した。そして、総監督である京楽が、採用する写真の最終決定を下す。
女性死神協会は、仕事を選び、依頼人と打ち合わせ、その意見交換を参考にして上がってきた写真を提出するという流れを取っていた。ということで、ギャランティーの設定も協会に決定権があり、なつみ人気が上がれば上がるほど、その資金繰りが更に向上していった。これが乱菊の狙いであった。
なつみにとってしてみれば、大好きな京楽と会えるのと、友だちと会えるのと、普段しない格好ができて気分転換になるのとで、嬉しいことが多い。お小遣いも稼げ、趣味の街づくりボランティアに回せるので、やり甲斐も感じられる。いろんな人から声をかけられることも増えた。人気者であることが嬉しいのではなく、なつみにしてみれば、親しげに話しかけてくれる人々の優しい笑顔が自分に向けられるのがとても良かった。
京楽にとって、金銭についてはどうでもよく、求める報酬はなつみのお宝写真だった。提出する写真以外にも、非公開に相応しい秘密の写真を撮っておくのだ。
「もっとボクを誘うような視線で!そう!そう!それ!」
などと熱い支持を出しながら。撮られる側は恥ずかしくて、そんなに言われた通りにできていないが、かわいいから何でも許しちゃう総監督。非公開なので、どこがチラ見しようとも構わない。
手伝わされているお友だちらは、なつみと同じく、みんなで集まれることが楽しく、なおかつ、ひとりで選べば私服が全部部屋着に見えてしまうセンスのなつみが綺麗に着飾っているのを見られて、見目麗しい彼女にひとときの安らぎを享受させてもらっていた。
「馬子にも衣装」
「ああッ⁉んだと、コノヤロー️💢」
「怒るなよ、木之本。今のは、李空なりに褒めてくれたんだよ。な?😅」
「なつみはちっちゃいから、フリフリがよく似合うよね〜。美沙ちゃんわかってる〜」
「どーも。あたしなりの願望をぶつけてみた」
「ははっ、俺らと感覚一緒だわ、それ」
「おい、暴れたから頭の飾りがズレたぞ。直してやるから、大人しくしろ」
「相変わらずの母性だな😙」
初日はこんな感じで、わちゃわちゃしていた。
なつみの認知度と人気が高まってきた頃、ついにカラオケ大会開催日が近づいていた。宣伝のために男性死神協会面々で、手分けしてポスターを瀞霊廷中に貼って回った。なつみとペアで貼っているのは大前田である。
「楽しみですね〜、本番!」
「お前出番多過ぎるだろ。出突っ張りじゃねーか」
「マジで、武部聡志気分っす」
「よくわかんねーけどよ。ぶっ倒れるなよ」
「ひひっ!花火も見なきゃなんで、お布団入るまでは倒れませんよ😁」
「布団まで辿り着けるか?みんなお前と騒ぎてぇだろ。雑魚寝だ、雑魚寝。どんちゃん騒ぎからの雑魚寝でシメだ」
「はははっ!そんな誕生日も良いですね!😆」
そう、大会はなつみの誕生日に行われるのだ。準備を進めていく中で、頃合いと思われる時期にちょうどその日があったためだ。
「めでたい日ぃじけぇ。ここでええじゃろ!木之本の誕生日を、全員で祝ったる!のォッ、お前ら!」
いつもの男子トイレで、満場一致の大賛成だった。
ポスターを貼る許可をもらった塀に、1枚ペタッと貼っていく。
「でも、誕生日って言っても、ぼくの本当の誕生日ではないんですよ。たぶんですけど」
両面テープの剥離紙を取って、上から順に付ける。
「あ?そうなのか?」
シワにならないよう、ピシッと伸ばして。
「ぼく、尸魂界生まれなんですよ。でも血の繋がった両親に、会ったことが無くて。育ててくれたお父さんと出会った日を誕生日にしてるんです。ぼくがこの世界で初めて認識してもらえた日だからって、お父さんが決めてくれたんです」
下も壁にくっ付けた。斜めになっていないか、数歩下がって確認。
「現世で、母親の腹の中で死んじまった赤ん坊ってことでもなくか?」
「それなら、魂葬の履歴が残ってますもん。探したけど、ありませんでした。だから違うんです。こっち生まれです。誕生日って特別な日なのに、はっきりしないのモヤモヤしますよ。それなのに、みんながお祝いしてくれる。お誕生日がお誕生日だって、わかってる人が羨ましいです」
大丈夫そうなので、貼る場所リストの現在地の欄にチェックを入れた。
「次に行きましょう」
なつみは歩き出したが、大前田はポスターを見て立ち止まったままだ。
「どうしました?歪んでます?」
戻ってみた。
「なつみ、自分の誕生日なんてもんは、誰も覚えちゃいねーよ。俺にはお袋も親父もいるからよ、あの2人がそうだって言うから信じてるだけだ。俺とお前じゃ境遇が違ぇかもしんねーけど、ひとつだけ同じことがあるぜ」
「何ですか?😊」
「大事な家族のところに初めて会いに行けた日。それを誕生日って呼んでることだ。誰にとってもな。血の繋がった親であれ、何であれだ。初めて自分の顔を見せてやれた日なんだから、特別なんだろ。だからな」
大前田はポスターに書かれた日付を指差した。
「正真正銘、これがお前の誕生日だ。疑うんじゃねーよ」
偉そうに、だが、とても優しい気持ちが伝わってきて、なつみは涙を少し浮かべて笑ってみせた。
「はぁーいっ///」
その目に気付いた大前田。
「バカが!泣くんじゃねーよ!こんなことで!」
「すいませーん(笑)」
溢れてきた涙を指で拭う。
「大前田副隊長のご家族を想う気持ち、素敵だな〜と思って、つい。そっかぁ。そうやって考えれば良いんだ。会いに行けた日かぁ。ふふっ、かぁっこいい〜。ロマンチック〜😙」
肘で小突いてやった。
「何だよ。ったりめーだろ。俺様は色男なんだからよ。知ってんだろ!」
「ひひひっ、存じております🤭」
まだまだクサいセリフが出るわ出るわ。この色男。歩きながら続けていこう。
「誕生日ってな、『おめでとう!』つって、とりあえず言われるじゃねーか。だから受け取ってばっかだし、何故か偉い気分に浸れるだろ。けどなぁ、そんだけじゃ、ダメだ」
「どうしてですか?」
「良いか?テメェが居てこそのめでてぇ日なんだ。元気な姿を見せびらかさねぇで、どうする。無事にまたこの日を迎えられたのは、祝ってくれる連中のおかげだって思う感謝の気持ちを伝える方法は、それっきゃねぇ。ニコニコ笑って、安心させるのが、主役の役目ってヤツよ。そんで、1年後も元気でいることを約束してやる!これが誕生日を正しく過ごす心構えな」
「ほぉ〜👏」
「松本みてぇに、誕生日が来る度に『また老けたー』とか言うなよ?」
「くふくふっ、せっかくの誕生日が冷めちまうじゃねーかって?(笑)」
「そーだ。その通りだぜ。全く。去年だかどっかで、松本がそれ言ってやがったからよ、『おー、老けたなー』って同調してやったらキレてきたんだよな、アイツ。思いっ切りブン殴りやがった。こっちは寄こせって言うからプレゼントまで用意してやってんのにだぞ。お前は、あぁはなるな」
「乱菊さんは、『そんなことないよ』って言ってもらいたかったんですよ。『ますます綺麗になってる』って」
「お前、どんだけイケメンなんだよ。言っておくが、実際1歳増えるんだから、老けてんだよ。俺は嘘つけねぇーな」
「老けるって言うからダメなんですよ。歳を取ることは、悪いことではありません。経験値が多くなれて、もっと魅力的になれるんですから」
「なら、なつみはこの日、もっとモテるわけだな」
「どうですかね。わがまま言って良いなら、女の子からモテたいです😊」
「…。男は全員網羅してっからな」
「そういうことじゃないですよ❗全然してませんからね️💦」
カラオケ大会当日は良く晴れて、野外会場には、今か今かと待ち侘びる瀞霊廷の住人たちが集まっていた。音楽を浴びる気合いは充分だと。
「やばぁ〜✨」
ステージ脇でスタンバイしているなつみは、こっそりとその光景を眺めてみた。
「ぼくは、とんでもない企画を出しちゃったみたいですね」
「提案だけじゃねぇよ。実現までしたんだ」
すぐ後ろに檜佐木が立って、一緒に観客を見る。彼は今日、進行役も務める。
「デカい祭りは滅多にやらんけぇのォ。騒ぎたい連中が多いんじゃろ」
射場もいる。
「会長、トイレ済ませました?(笑)」
「じゃかーしいッ‼︎行ったところで出んッ‼︎」
「緊張しすぎ(笑)」
そこに、本日のタイムキーパー、伊江村が知らせに来た。
「皆さん、そろそろ時間ですよ。吉良副隊長、案内放送お願いします」
「わかりました」
イヅルは音響ブースにおり、チャイムを鳴らしてから、マイクの音量を上げた。
「大変長らくお待たせ致しました。まもなく男性死神協会主催、大音楽祭を開催致します。皆様、会場へお集まりください」
チャイムが鳴り終わると、開幕1曲目のバンドメンバーが登壇する。もちろん、その中にはなつみの姿が。
さて、持ち場にスタンバイ。とキーボードへ向かったのだが、ベース担当の会長、射場がステージ中央に立った。観客に背を向けている。すると、オフマイクで叫んだ。
「会員‼︎全員集合ーッ‼︎」
打ち合わせでは聞いていないので、何事かと思ったが、両腕を肩の高さで開いて伸ばしているところから察することができた。
(円陣だ‼️)
大抵、裏で行うべきことなのだが、今回は会場内にいる一部の観客も出演するので、ある意味全員参加とも言える。見えるところでやっても良いだろう。
射場、伊江村、荻堂、檜佐木、大前田、なつみ、イヅル、阿近、浮竹が並んで肩を組み、円陣を築く。
「ヨッシャ、いよいよ始めたるぞ、協会設立以来初の大仕事。ここに集まる全員の心を一つに燃やして、明日への活力になるよう、全力で祭りを盛り上げたるんじゃけぇ!ええな。気合い入れていくぞーッ‼︎‼︎」
「「「「「「「「押ォー忍ッ‼︎‼︎」」」」」」」」
会員たちの声が会場に響き、客席からは拍手が鳴った。ワクワクとドキドキが全身を巡って、なつみは生まれて初めて武者震いに襲われていた。ニコニコが止まらない。ぴょんぴょん弾むようにキーボードへと戻っていく。檜佐木がマイクを持つと、プログラムが進み始めた。
「それでは、大音楽祭を始めさせていただきます。初めに、総隊長より開幕宣言を賜ります。護廷十三隊総隊長、山本元柳斎重國殿、よろしくお願い致します」
舞台脇から元柳斎がステージ中央のマイクスタンドへと進んでいくと、自然と皆が起立し、静粛にその言葉を待った。
「此度はいかなる身分も分け隔てなく、築き上げた幸いの時を分かち合おう。皆の者、歌うのじゃ‼︎」
ウォーーーッ‼︎と歓声が上がり、イントロが始まる頃には、上階に設えた隊長格専用の席に元柳斎は着いていた。
「見上げた夜空の星達の光」
2曲目からは、募集によって参加が決まったグループが登場していった。隊長らもなるべく歌ってくださいと、なつみがお願いしたものだから、元柳斎を除く全員もそれぞれ披露してくれることになっている。以下、なつみがバックバンドやステージ横で休憩しながら堪能した、隊長たちのパフォーマンスの感想。
(朽木隊長、歌声優し〜。好きな人には、好きって伝えちゃうのよ〜。んも〜。ギャップ萌😊)
(惣右介さん、せっかくならデスボイスもやってよ🥴へへへ)
(すごい!更木隊長、本番めっちゃ強すぎ!練習じゃ謎呪文だったのに。英語の発音キレイにできてるよーッ✨)
(ヤバたん!ヤバたん!涅隊長の英語やっぱヤバたん!鼻血出てまう美声やし!はぁ〜ん、ときめき〜💖)
(ちょっつ、東仙隊長、マイク持つと変わる人なん?ラップ、ハマりすぎっしょ。マジの人やん。え?え?ちょ…、かっこよ(笑))
(日番谷隊長と乱菊さんて、普段はプンスカし合ってるのに、結局良いコンビなんだよね😄)
(砕蜂隊長、かぁわいい〜♪これ、ひとりで歌うとブレスきついはずなのに、完璧!すごいなぁ。何だか、歌詞に思いがちゃんと乗ってる感じがする。砕蜂隊長には、大切な人がいるんだな、きっと。でも、会えないんだ。会えると良いなぁ、その人と…)
(卯ノ花隊長が歌うと、日本語がきらきら柔らかく光ってるみたい。身も心も癒される〜🌸)
(ひゃぁーッ‼️‼️狛村隊長ぉーッ‼️‼️かっこいーッ‼️‼️「君のことだけ考えさせておくれぇーッ」‼️‼️‼️選曲バッチリ👍)
(安定だよねー。浮竹隊長って、何だか安定だよねー。気持ち良さそうに歌うよね〜。そりゃもう、のびのびと。「原色のぉリズムぅ〜♪」リズムぅ〜♪)
(あのねぇ、志波副隊長が、これ歌うの、反則なんですよ。みんな泣いちゃうじゃん。もれなく泣いちゃうじゃん。ズルいわ〜。確信犯よ。何でぼくに伴奏させるかなー。もう楽譜見えんて。勘で弾いたろ😭)
お昼の眠い時間にかますは、雀部となつみのクラシックデュオ。ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』だ。長年、このふたりはこっそりと美しいメロディーをお互いのためだけに奏でてきたが、今日は瀞霊廷という広い空間に響かせて、みんなに癒しの音色を届けた。うっとりなのか、うとうとなのか、観客のぼんやりとした視界に入るのは、雀部となつみが目配せをしながら旋律を交わらせる、ちょっと妬けてしまう光景だった。
京楽ももちろんなつみとステージに立ちたくて、彼女の好きなバンドの曲を選び、なつみにキーボードを担当してもらった。歌詞に合わせて彼女に視線を送ったり、曲の最後は後ろから抱きしめて、ラブラブなところをみんなに見せつけた。アウトロ部分、なつみはちょっぴり弾きにくそうにしていた。コーラスで参加の尾田の冷たい視線たるや。
WANDS 『世界中の誰よりきっと』
まぶしい季節が 黄金色に街を染めて
君の横顔 そっと包んでた
まためぐり逢えたのも きっと偶然じゃないよ
心のどこかで 待ってた
世界中の誰よりきっと 熱い夢見てたから
目覚めてはじめて気づく つのる想いに
世界中の誰よりきっと 果てしないその笑顔
ずっと抱きしめていたい 季節を越えていつでも
言葉の終わりを いつまでも探している
君の眼差し 遠く見つめてた
そう本気の数だけ 涙見せたけど
許してあげたい 輝きを
世界中の誰よりきっと 熱い夢見てたから
目覚めてはじめて気づく つのる想いに
世界中の誰よりきっと 果てしないその笑顔
ずっと抱きしめていたい 季節を越えていつでも
世界中の誰よりきっと 優しい気持ちになる
目覚めてはじめて気づく はかない愛に
世界中の誰よりきっと 胸に響く鼓動を
ずっと抱きしめていたい 季節を越えていつでも
ずっと抱きしめていたい 季節を越えていつでも
市丸はというと、本当は出たくなかったが、なつみが隊首室で駄々をこね、家までついてきては駄々をこねたため、渋々出演をOKした。なつみはピアノ伴奏。練習のときから不思議でならなかったことがある。何故か彼がこれを歌うと、なつみの目に涙が込み上げてくるのだ。バンドメンバーも同じように感じていた。どうしてこれを選んだんだろう。何を思っているんだろう。向こうで聴いているだろう彼女の目にも、恐らくは。
荒井由美 『翳りゆく部屋』
窓辺に置いた椅子にもたれ
あなたは夕陽見てた
なげやりな別れの気配を
横顔に漂わせ
二人の言葉はあてもなく
過ぎた日々をさまよう
ふりむけばドアの隙間から
宵闇が しのび込む
どんな運命が愛を遠ざけたの
輝きはもどらない
わたしが今死んでも
ランプを灯せば街は沈み
窓には部屋が映る
冷たい壁に耳をあてて
靴音を追いかけた
どんな運命が愛を遠ざけたの
輝きはもどらない
わたしが今死んでも
どんな運命が愛を遠ざけたの
輝きはもどらない
わたしが今死んでも
面倒なことに、と言うと彼は怒るだろうが、周りが少し引いているのは確かなこと。撮影で誰よりも熱がこもっていたのは京楽だった。
普通なら、撮影を依頼してきた者たちが、カメラマン等のスタッフを用意するものだが、他人に任せてなるものかと、京楽が自ら人材を集めたわけだ。京楽曰く、「知らないオジサンに撮られるのなんてイヤでしょ」とのこと。そう聞くと、くすりと笑えてくるが。
最愛のなつみに関して、信頼できる者たちと言えば、彼らしかいない。同期7人組だ。カメラはレンにしか頼むことができないので、彼のスケジュールを優先して撮影が行われた。美沙が衣装をチェックしたり、その他5人が照明やら小道具のセッティングやら送風やらな雑務を担当した。そして、総監督である京楽が、採用する写真の最終決定を下す。
女性死神協会は、仕事を選び、依頼人と打ち合わせ、その意見交換を参考にして上がってきた写真を提出するという流れを取っていた。ということで、ギャランティーの設定も協会に決定権があり、なつみ人気が上がれば上がるほど、その資金繰りが更に向上していった。これが乱菊の狙いであった。
なつみにとってしてみれば、大好きな京楽と会えるのと、友だちと会えるのと、普段しない格好ができて気分転換になるのとで、嬉しいことが多い。お小遣いも稼げ、趣味の街づくりボランティアに回せるので、やり甲斐も感じられる。いろんな人から声をかけられることも増えた。人気者であることが嬉しいのではなく、なつみにしてみれば、親しげに話しかけてくれる人々の優しい笑顔が自分に向けられるのがとても良かった。
京楽にとって、金銭についてはどうでもよく、求める報酬はなつみのお宝写真だった。提出する写真以外にも、非公開に相応しい秘密の写真を撮っておくのだ。
「もっとボクを誘うような視線で!そう!そう!それ!」
などと熱い支持を出しながら。撮られる側は恥ずかしくて、そんなに言われた通りにできていないが、かわいいから何でも許しちゃう総監督。非公開なので、どこがチラ見しようとも構わない。
手伝わされているお友だちらは、なつみと同じく、みんなで集まれることが楽しく、なおかつ、ひとりで選べば私服が全部部屋着に見えてしまうセンスのなつみが綺麗に着飾っているのを見られて、見目麗しい彼女にひとときの安らぎを享受させてもらっていた。
「馬子にも衣装」
「ああッ⁉んだと、コノヤロー️💢」
「怒るなよ、木之本。今のは、李空なりに褒めてくれたんだよ。な?😅」
「なつみはちっちゃいから、フリフリがよく似合うよね〜。美沙ちゃんわかってる〜」
「どーも。あたしなりの願望をぶつけてみた」
「ははっ、俺らと感覚一緒だわ、それ」
「おい、暴れたから頭の飾りがズレたぞ。直してやるから、大人しくしろ」
「相変わらずの母性だな😙」
初日はこんな感じで、わちゃわちゃしていた。
なつみの認知度と人気が高まってきた頃、ついにカラオケ大会開催日が近づいていた。宣伝のために男性死神協会面々で、手分けしてポスターを瀞霊廷中に貼って回った。なつみとペアで貼っているのは大前田である。
「楽しみですね〜、本番!」
「お前出番多過ぎるだろ。出突っ張りじゃねーか」
「マジで、武部聡志気分っす」
「よくわかんねーけどよ。ぶっ倒れるなよ」
「ひひっ!花火も見なきゃなんで、お布団入るまでは倒れませんよ😁」
「布団まで辿り着けるか?みんなお前と騒ぎてぇだろ。雑魚寝だ、雑魚寝。どんちゃん騒ぎからの雑魚寝でシメだ」
「はははっ!そんな誕生日も良いですね!😆」
そう、大会はなつみの誕生日に行われるのだ。準備を進めていく中で、頃合いと思われる時期にちょうどその日があったためだ。
「めでたい日ぃじけぇ。ここでええじゃろ!木之本の誕生日を、全員で祝ったる!のォッ、お前ら!」
いつもの男子トイレで、満場一致の大賛成だった。
ポスターを貼る許可をもらった塀に、1枚ペタッと貼っていく。
「でも、誕生日って言っても、ぼくの本当の誕生日ではないんですよ。たぶんですけど」
両面テープの剥離紙を取って、上から順に付ける。
「あ?そうなのか?」
シワにならないよう、ピシッと伸ばして。
「ぼく、尸魂界生まれなんですよ。でも血の繋がった両親に、会ったことが無くて。育ててくれたお父さんと出会った日を誕生日にしてるんです。ぼくがこの世界で初めて認識してもらえた日だからって、お父さんが決めてくれたんです」
下も壁にくっ付けた。斜めになっていないか、数歩下がって確認。
「現世で、母親の腹の中で死んじまった赤ん坊ってことでもなくか?」
「それなら、魂葬の履歴が残ってますもん。探したけど、ありませんでした。だから違うんです。こっち生まれです。誕生日って特別な日なのに、はっきりしないのモヤモヤしますよ。それなのに、みんながお祝いしてくれる。お誕生日がお誕生日だって、わかってる人が羨ましいです」
大丈夫そうなので、貼る場所リストの現在地の欄にチェックを入れた。
「次に行きましょう」
なつみは歩き出したが、大前田はポスターを見て立ち止まったままだ。
「どうしました?歪んでます?」
戻ってみた。
「なつみ、自分の誕生日なんてもんは、誰も覚えちゃいねーよ。俺にはお袋も親父もいるからよ、あの2人がそうだって言うから信じてるだけだ。俺とお前じゃ境遇が違ぇかもしんねーけど、ひとつだけ同じことがあるぜ」
「何ですか?😊」
「大事な家族のところに初めて会いに行けた日。それを誕生日って呼んでることだ。誰にとってもな。血の繋がった親であれ、何であれだ。初めて自分の顔を見せてやれた日なんだから、特別なんだろ。だからな」
大前田はポスターに書かれた日付を指差した。
「正真正銘、これがお前の誕生日だ。疑うんじゃねーよ」
偉そうに、だが、とても優しい気持ちが伝わってきて、なつみは涙を少し浮かべて笑ってみせた。
「はぁーいっ///」
その目に気付いた大前田。
「バカが!泣くんじゃねーよ!こんなことで!」
「すいませーん(笑)」
溢れてきた涙を指で拭う。
「大前田副隊長のご家族を想う気持ち、素敵だな〜と思って、つい。そっかぁ。そうやって考えれば良いんだ。会いに行けた日かぁ。ふふっ、かぁっこいい〜。ロマンチック〜😙」
肘で小突いてやった。
「何だよ。ったりめーだろ。俺様は色男なんだからよ。知ってんだろ!」
「ひひひっ、存じております🤭」
まだまだクサいセリフが出るわ出るわ。この色男。歩きながら続けていこう。
「誕生日ってな、『おめでとう!』つって、とりあえず言われるじゃねーか。だから受け取ってばっかだし、何故か偉い気分に浸れるだろ。けどなぁ、そんだけじゃ、ダメだ」
「どうしてですか?」
「良いか?テメェが居てこそのめでてぇ日なんだ。元気な姿を見せびらかさねぇで、どうする。無事にまたこの日を迎えられたのは、祝ってくれる連中のおかげだって思う感謝の気持ちを伝える方法は、それっきゃねぇ。ニコニコ笑って、安心させるのが、主役の役目ってヤツよ。そんで、1年後も元気でいることを約束してやる!これが誕生日を正しく過ごす心構えな」
「ほぉ〜👏」
「松本みてぇに、誕生日が来る度に『また老けたー』とか言うなよ?」
「くふくふっ、せっかくの誕生日が冷めちまうじゃねーかって?(笑)」
「そーだ。その通りだぜ。全く。去年だかどっかで、松本がそれ言ってやがったからよ、『おー、老けたなー』って同調してやったらキレてきたんだよな、アイツ。思いっ切りブン殴りやがった。こっちは寄こせって言うからプレゼントまで用意してやってんのにだぞ。お前は、あぁはなるな」
「乱菊さんは、『そんなことないよ』って言ってもらいたかったんですよ。『ますます綺麗になってる』って」
「お前、どんだけイケメンなんだよ。言っておくが、実際1歳増えるんだから、老けてんだよ。俺は嘘つけねぇーな」
「老けるって言うからダメなんですよ。歳を取ることは、悪いことではありません。経験値が多くなれて、もっと魅力的になれるんですから」
「なら、なつみはこの日、もっとモテるわけだな」
「どうですかね。わがまま言って良いなら、女の子からモテたいです😊」
「…。男は全員網羅してっからな」
「そういうことじゃないですよ❗全然してませんからね️💦」
カラオケ大会当日は良く晴れて、野外会場には、今か今かと待ち侘びる瀞霊廷の住人たちが集まっていた。音楽を浴びる気合いは充分だと。
「やばぁ〜✨」
ステージ脇でスタンバイしているなつみは、こっそりとその光景を眺めてみた。
「ぼくは、とんでもない企画を出しちゃったみたいですね」
「提案だけじゃねぇよ。実現までしたんだ」
すぐ後ろに檜佐木が立って、一緒に観客を見る。彼は今日、進行役も務める。
「デカい祭りは滅多にやらんけぇのォ。騒ぎたい連中が多いんじゃろ」
射場もいる。
「会長、トイレ済ませました?(笑)」
「じゃかーしいッ‼︎行ったところで出んッ‼︎」
「緊張しすぎ(笑)」
そこに、本日のタイムキーパー、伊江村が知らせに来た。
「皆さん、そろそろ時間ですよ。吉良副隊長、案内放送お願いします」
「わかりました」
イヅルは音響ブースにおり、チャイムを鳴らしてから、マイクの音量を上げた。
「大変長らくお待たせ致しました。まもなく男性死神協会主催、大音楽祭を開催致します。皆様、会場へお集まりください」
チャイムが鳴り終わると、開幕1曲目のバンドメンバーが登壇する。もちろん、その中にはなつみの姿が。
さて、持ち場にスタンバイ。とキーボードへ向かったのだが、ベース担当の会長、射場がステージ中央に立った。観客に背を向けている。すると、オフマイクで叫んだ。
「会員‼︎全員集合ーッ‼︎」
打ち合わせでは聞いていないので、何事かと思ったが、両腕を肩の高さで開いて伸ばしているところから察することができた。
(円陣だ‼️)
大抵、裏で行うべきことなのだが、今回は会場内にいる一部の観客も出演するので、ある意味全員参加とも言える。見えるところでやっても良いだろう。
射場、伊江村、荻堂、檜佐木、大前田、なつみ、イヅル、阿近、浮竹が並んで肩を組み、円陣を築く。
「ヨッシャ、いよいよ始めたるぞ、協会設立以来初の大仕事。ここに集まる全員の心を一つに燃やして、明日への活力になるよう、全力で祭りを盛り上げたるんじゃけぇ!ええな。気合い入れていくぞーッ‼︎‼︎」
「「「「「「「「押ォー忍ッ‼︎‼︎」」」」」」」」
会員たちの声が会場に響き、客席からは拍手が鳴った。ワクワクとドキドキが全身を巡って、なつみは生まれて初めて武者震いに襲われていた。ニコニコが止まらない。ぴょんぴょん弾むようにキーボードへと戻っていく。檜佐木がマイクを持つと、プログラムが進み始めた。
「それでは、大音楽祭を始めさせていただきます。初めに、総隊長より開幕宣言を賜ります。護廷十三隊総隊長、山本元柳斎重國殿、よろしくお願い致します」
舞台脇から元柳斎がステージ中央のマイクスタンドへと進んでいくと、自然と皆が起立し、静粛にその言葉を待った。
「此度はいかなる身分も分け隔てなく、築き上げた幸いの時を分かち合おう。皆の者、歌うのじゃ‼︎」
ウォーーーッ‼︎と歓声が上がり、イントロが始まる頃には、上階に設えた隊長格専用の席に元柳斎は着いていた。
「見上げた夜空の星達の光」
2曲目からは、募集によって参加が決まったグループが登場していった。隊長らもなるべく歌ってくださいと、なつみがお願いしたものだから、元柳斎を除く全員もそれぞれ披露してくれることになっている。以下、なつみがバックバンドやステージ横で休憩しながら堪能した、隊長たちのパフォーマンスの感想。
(朽木隊長、歌声優し〜。好きな人には、好きって伝えちゃうのよ〜。んも〜。ギャップ萌😊)
(惣右介さん、せっかくならデスボイスもやってよ🥴へへへ)
(すごい!更木隊長、本番めっちゃ強すぎ!練習じゃ謎呪文だったのに。英語の発音キレイにできてるよーッ✨)
(ヤバたん!ヤバたん!涅隊長の英語やっぱヤバたん!鼻血出てまう美声やし!はぁ〜ん、ときめき〜💖)
(ちょっつ、東仙隊長、マイク持つと変わる人なん?ラップ、ハマりすぎっしょ。マジの人やん。え?え?ちょ…、かっこよ(笑))
(日番谷隊長と乱菊さんて、普段はプンスカし合ってるのに、結局良いコンビなんだよね😄)
(砕蜂隊長、かぁわいい〜♪これ、ひとりで歌うとブレスきついはずなのに、完璧!すごいなぁ。何だか、歌詞に思いがちゃんと乗ってる感じがする。砕蜂隊長には、大切な人がいるんだな、きっと。でも、会えないんだ。会えると良いなぁ、その人と…)
(卯ノ花隊長が歌うと、日本語がきらきら柔らかく光ってるみたい。身も心も癒される〜🌸)
(ひゃぁーッ‼️‼️狛村隊長ぉーッ‼️‼️かっこいーッ‼️‼️「君のことだけ考えさせておくれぇーッ」‼️‼️‼️選曲バッチリ👍)
(安定だよねー。浮竹隊長って、何だか安定だよねー。気持ち良さそうに歌うよね〜。そりゃもう、のびのびと。「原色のぉリズムぅ〜♪」リズムぅ〜♪)
(あのねぇ、志波副隊長が、これ歌うの、反則なんですよ。みんな泣いちゃうじゃん。もれなく泣いちゃうじゃん。ズルいわ〜。確信犯よ。何でぼくに伴奏させるかなー。もう楽譜見えんて。勘で弾いたろ😭)
お昼の眠い時間にかますは、雀部となつみのクラシックデュオ。ラヴェルの『亡き王女のためのパヴァーヌ』だ。長年、このふたりはこっそりと美しいメロディーをお互いのためだけに奏でてきたが、今日は瀞霊廷という広い空間に響かせて、みんなに癒しの音色を届けた。うっとりなのか、うとうとなのか、観客のぼんやりとした視界に入るのは、雀部となつみが目配せをしながら旋律を交わらせる、ちょっと妬けてしまう光景だった。
京楽ももちろんなつみとステージに立ちたくて、彼女の好きなバンドの曲を選び、なつみにキーボードを担当してもらった。歌詞に合わせて彼女に視線を送ったり、曲の最後は後ろから抱きしめて、ラブラブなところをみんなに見せつけた。アウトロ部分、なつみはちょっぴり弾きにくそうにしていた。コーラスで参加の尾田の冷たい視線たるや。
WANDS 『世界中の誰よりきっと』
まぶしい季節が 黄金色に街を染めて
君の横顔 そっと包んでた
まためぐり逢えたのも きっと偶然じゃないよ
心のどこかで 待ってた
世界中の誰よりきっと 熱い夢見てたから
目覚めてはじめて気づく つのる想いに
世界中の誰よりきっと 果てしないその笑顔
ずっと抱きしめていたい 季節を越えていつでも
言葉の終わりを いつまでも探している
君の眼差し 遠く見つめてた
そう本気の数だけ 涙見せたけど
許してあげたい 輝きを
世界中の誰よりきっと 熱い夢見てたから
目覚めてはじめて気づく つのる想いに
世界中の誰よりきっと 果てしないその笑顔
ずっと抱きしめていたい 季節を越えていつでも
世界中の誰よりきっと 優しい気持ちになる
目覚めてはじめて気づく はかない愛に
世界中の誰よりきっと 胸に響く鼓動を
ずっと抱きしめていたい 季節を越えていつでも
ずっと抱きしめていたい 季節を越えていつでも
市丸はというと、本当は出たくなかったが、なつみが隊首室で駄々をこね、家までついてきては駄々をこねたため、渋々出演をOKした。なつみはピアノ伴奏。練習のときから不思議でならなかったことがある。何故か彼がこれを歌うと、なつみの目に涙が込み上げてくるのだ。バンドメンバーも同じように感じていた。どうしてこれを選んだんだろう。何を思っているんだろう。向こうで聴いているだろう彼女の目にも、恐らくは。
荒井由美 『翳りゆく部屋』
窓辺に置いた椅子にもたれ
あなたは夕陽見てた
なげやりな別れの気配を
横顔に漂わせ
二人の言葉はあてもなく
過ぎた日々をさまよう
ふりむけばドアの隙間から
宵闇が しのび込む
どんな運命が愛を遠ざけたの
輝きはもどらない
わたしが今死んでも
ランプを灯せば街は沈み
窓には部屋が映る
冷たい壁に耳をあてて
靴音を追いかけた
どんな運命が愛を遠ざけたの
輝きはもどらない
わたしが今死んでも
どんな運命が愛を遠ざけたの
輝きはもどらない
わたしが今死んでも