第八章
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その翌日の昼下がり。乱菊は酒饅頭を食べながら、届いたばかりの瀞霊廷通信を隊舎の一室でペラペラと読んでいた。窓際で、心地よい風を肌に感じながら。
「あっ‼︎うっそ‼︎🫢」
とあるページに行き着き、何やら驚いている。
雑誌を顔に近づけて、よーく見ていると、外から呼ばれる声がした。
「乱菊ちゃ〜ん」
顔を上げると、そこにいたのは。
「京楽隊長。お疲れ様です」
「お疲れ様。今、時間ある?」
話せる距離まで来た。
「大丈夫ですよ。酒饅頭、おひとつどうぞ」
窓越しに手渡した。
「ありがとう」
京楽は受け取って、さっそくひと口齧った。
「それ、何か事情知ってるでしょ」
京楽が「それ」と指差したのは、乱菊が今見ていたページ。乱菊は、わざわざそこを見せるように雑誌を逆に閉じ、掲げた。
「かわいいですね😁」
「知ってるよ、そんなこと。ボクが知りたいのは、何で載っちゃったかってことだよ」
「あたしにきかないでくださいよ。確かに、これを撮ってる時、その場にいましたけど、写真を出したのは店のアイツだし、採用したのは九番隊の編集部じゃないですか。文句ならそっちに言ってください。でも、こんだけかわいいんだから、見せびらかしちゃえば良いじゃないですかぁ」
「嫌だよ!谷間見せすぎ、脚出しすぎ、キス顔まで晒しちゃって!これ見ながら、瀞霊廷中の男が扱いてると思うと、鳥肌が止まんないよ!エッチななつみちゃんは、ボクだけのものなのに!」
瀞霊廷通信最新号の広告ページに載ってしまったもの。それは、なつみがモデルを務めた、あのランジェリーショップで撮影した写真だった。約束通り、着用した商品は部屋着ばかりであったが、肌の露出が必要以上であったことは否めない。それに、写真の公開は、店内展示のみと聞かされていたのに、なつみに無断で瀞霊廷通信に掲載されてしまった。乱菊も知らなかったということは、店側の独断であるとわかる。
「あー…、全部回収したい…」
「無理ですね。回収したところで、1回見ちゃえば脳裏に焼き付いてるでしょうし」
「あの子を変なことに巻き込まないでよ!」
「あたしは買い物に付き合っただけですよ」
「それが問題だったの!」
「お気に召しませんでした?」
「召したよ…」
視線は合わせないが、固い握手を交わす。
「けどね、今度からはボクがお金払うから。もうこんなバイトさせません!」
「え〜😩」
「『え〜』って。またやらせようとしてたの。ダメだよ」
「第二弾の話来てたのに〜。つまんないの〜」
ぶーぶーとブーイングを送る乱菊。
「キミといい、涅隊長といい、余計なことしすぎだよ。なつみちゃんに大人の遊びを教えるのは、恋人であるボクの務めだっていうのにさ!」
「私が何だって?」
「わぁあ⁉️💦」
イライラしながら目を瞑り、饅頭を齧って愚痴っていた京楽の目の前に、突然マユリが現れた。
「驚かすなよ」
「勝手に驚いたのは、そっちだヨ。そんなことより、私の陰口をしていたみたいだネェ。文句があるなら、直接言い給え。こちらからも、ひとつ言っておきたいことがあるが」
グッと接近する。
「っ、何だよ💧」
「キミがあの子にしているのは、子供扱いだヨ」
「んなッ、何でそんなこと言うのさ!」
すっと距離を取る。
「昨夜、君が彼女に用意したのは、アヒルのおもちゃらしいじゃないか」
いやらしくニタニタと笑う。
「どうしてキミが知ってるんだよ!」
「安心し給え。私に盗撮の趣味はないヨ」
盗聴だヨ。
「京楽隊長」
「なに」
乱菊が、窓枠に腕と胸を置き、外へ身を乗り出した。
「京楽隊長には、なつみになってもらいたい理想像があるかもしれませんけど、なつみにだって、京楽隊長の恋人としてこうありたいっていう理想があるんですよ。あの子なりに考えて、京楽隊長の隣りに相応しい大人の女性に成長しようとしてるんです。あたしたちは、その手伝いをしてあげてるだけです。かわいいなつみのために」
「…、わかってるよ」
続いて、マユリからのご意見。
「数多の異性から言い寄られようと、恋愛での交際はキミが初めての相手になるんだヨ。勝手がわからず、不器用に振る舞ってしまうのは致し方ないだろう。下手をしてキミの気分を害さないよう、悩みがあれば周りに頼りたい。慕っているからこそ、本人には隠しておきたい、微笑ましい乙女心というヤツじゃあないか。相思相愛の現れなのだから、いちいち腹を立てるんじゃあないヨ。そんな態度は、選ばれなかった私たちに嫌味でしかないからネ」
「そうそう。京楽隊長は贅沢言ってます」
乱菊はうんうんと頷いた。
「はいはい。もうわかったから、それ以上ボクを責めないで」
「付き合い方など人それぞれなのだから、時間をかけて歩調を合わせていけば良いだけの話だろう。気に入らなければすぐに捨ててきたキミの悪い癖が、仇となっているようだネ。まぁ、別れたいなら別れてもらって構わないヨ。私が慰めに駆けつけてやるまでだからネ」
「それはご親切にどうも」
「キミのところではないヨ」
「そもそもそうならないです〜」
醜い小言の掛け合いが聞いていられない乱菊が、酒饅頭を新たに取って、マユリに差し出した。
「はい、涅隊長。おひとつどうぞ」
「すまないネェ。ありがたく頂くヨ」
受け取る手をガッと掴んで、ちょいと尋ねる。
「で、涅隊長はなつみに何してあげたんですか?😏」
「乱菊ちゃん!」
すかさず割って入る京楽。しかし。
「残念ながら、公共の場で言えることではないんでネ。本人に確認してくれ給え」
「えー。教えてくださいよ〜」
口を尖らせる乱菊。
「何でもかんでも、大っぴらにすれば良いというものじゃあないヨ。そうだろう?市丸」
いつの間に来たのか、市丸が膝に手をついて3人の輪に参加していた。
「はぁ、はぁ、あ〜、しんど。乱菊、お茶飲ませてや」
「どうしたのよぉ。なんか問題発生?」
新しく淹れるのが面倒なので、市丸相手ならと、飲みかけの自分の湯呑みを渡してやった。
「ありがと。ひゃ〜、疲れた」
「わぁーーーーーッ‼️‼️‼️💦」
「わぁーーーーーッ‼️‼️‼️💦」
「わぁーーーーーッ‼️‼️‼️💦」
遠くから絶叫が断続的にあちこちから響いてくる。
「何あれ」
「なつみちゃんだね」
「追われているようだヨ」
「乱菊のせいや。その写真が出回ってもうて、他の店からも『ウチでこの子使わせてくれ〜』いう依頼が、アッホみたいに押し寄せて来てん。手紙やなしに地獄蝶やから、ずーっと付き纏って来るんよ。鬱陶しくて仕事にならへんもんで、イヅルに外出てください言われてな。んで、1件ずつ断っててんけど、何回も同じとこから繰り返し来んのがほとんどやで、『やってられんわ〜』いうて、諦めてもらうまで逃げ回ることにしたんよ」
「あんた関係無いじゃない」
「ボクから説得したってやっちゅー輩もおるんよ」
「それで、君は巻くことに成功し、なつみを囮として放置してきたわけだネ」
「正解。やけど、そんだけとちゃう。これに懲りて、後先考えんと変わったことしたらアカンって、思い知ってもらうつもりや」
「あぁ、その通りだ。さすがわかってるね、お兄ちゃんは」
「もともとボクだけのなつみちゃんやったのに、こんなに知れ渡ってもうて。野蛮な狼さんたちから守るん大変やで、ホンマ。勘弁して欲しいわ」
同志を見つけて安心した京楽は、嬉しそうに肩をすくめると、この輪から少し外れ、空に向かって叫んだ。
「なつみちゃーん‼︎‼︎おいでー‼︎‼︎」
(春水さん‼️)
腕を前に伸ばして待つと、なつみがパッと現れ、京楽の腕の中、縮こまって抱っこされていた。
「うぅぅっ😖」
「よしよし。もう大丈夫だよ」
ゆっくりなつみを地面に降ろしてやる。
「後ろに隠れてて。ボクが追い払ってあげるからね。って、ぅわっ⁉️💦」
視線を上げると、オオカバマダラの渡り並みの大群がこちらに向かって来ているのに気付いた。まぁ、それは比喩が過ぎるかもしれないが、たくさんいた。
だが、即座に状況を確認し、右手を構える。霊圧を高め、振り上げると、縛道の鬼道を放った。
ズババババーッ‼︎‼︎‼︎
最後尾の地獄蝶にまで届く強烈な波動が一面に広がった。
………。
衝撃が伝わったものの攻撃ではないため、全て無傷で飛び続けているが、進行が止まった。その場でしばらく考えるように羽ばたき、その後、何かを思い出したかのように、それぞれの方向へ散らばって去っていった。
「しゅごい✨」
本当は、すべきことを忘れてしまっていたのだ。とりあえず、飼い主の元へ帰ることにしたのだろう。
「すごいなぁ」
京楽の技を目の当たりにした4人は、空を見上げて感動していた。
「あぁ、たまげたヨ。いつもこうして副隊長からの連絡を無かったことにしているんだネ」
「京楽隊長!今のどうやるんですか?教えてくださいよ〜っ!」
乱菊の悩みの種でもあったらしい。
「乱菊ちゃんには教えないし、七緒ちゃんにも教えないで💧」
窓際会議はまだ続く。
「これ、何の集まりですか?」
まんまるおめめをぱちぱちさせて、なつみは隊長らの顔を見回した。
「キミのお話してたの」
「‼️ふむー(-公-)」
一瞬見開いてからの、下手なことしゃべってねぇだろーなな視線をマユリに突き刺した。
「弁えて話したつもりだヨ」
疑うなつみは腕を組み、右脚重心の左脚ちょっと斜め前への偉そうな態度で立ち、口を尖らせて睨み続けた。
「ほら、人前で気まずくなるなら、最初からやらなきゃいいんだよ」
「むぅッ‼️」
「はいはい。お兄ちゃんの後ろ隠れや」
恋人に意地悪言われたので、てとてとと市丸の後ろに回っていった。
「助けてもろて、ありがたいですけど。たぶん、一時凌ぎですよね。手を打たんと、明日も来てまうんやろうね」
「えー😫」
なつみは、市丸の背中にくっつき、羽織を掴んで前後に揺すった。やだやだぁー、と。
「山じいに頼んでみようか。あの人の鶴の一声があれば、一発で解決するでしょ」
京楽は伝令神機を取り出して、発信した。スピーカーモードにするため、みんなの輪の中央に構えた。
「あ、もしもし、雀部さん?山じいと話したいんだけど、今、大丈夫かい?」
「用件は何だ」
「なつみちゃんのことだよ」
「はぁ…。あの広告記事だな」
「そうだよ」
「待っていろ」
「ありがとう。そっちもさ、スピーカーにしてくれる?」
「そっちもということは、そっちもなのか?誰がいる」
「なつみちゃんと、市丸隊長と、涅隊長と、乱菊ちゃん」
「どういう集まりだ💧松本がいるところ、ことの経緯が想像できるが、涅は何故いる」
「それはボクらも謎」
「ただの通りすがりだヨ。そして、これから行われる会議において、貴重な1票を投じるつもりだ」
話している間に元柳斎のいる部屋に着いた。
「元柳斎殿、京楽が話したいとのこと。例のなつみの記事についてだそうです。このままお話しください」
上がってきた報告書に目を通すことを中断し、机の上に置かれた雀部の伝令神機に話しかける。
「何じゃ」
「山じい、新しい瀞霊廷通信見た?」
「見たが、どうした。恋人自慢なら聞く気は無いぞ」
「そうじゃないよ。あのページを見たいろんなお店が、なつみちゃんに仕事の依頼をしてきてるんだ。なつみちゃんの写真で広告を作りたいって」
「地獄蝶がいっぱい隊舎に集まって来て、大変だったんです。今は、京楽隊長が追い払ってくれたので、落ち着いていますが、しばらくすれば、また戻ってくると思われます。お断りのお返事するのに手一杯で、ぼく、今日の自分のお仕事全然進められてないんですよ」
伝令神機の向こう側、何やら気まずい雰囲気になったような。
「そうじゃったか…。それは悪いことをしたのぉ」
何事かを後悔する元柳斎。
「山じい、何かしたの?」
「ふむ。先刻、東仙から連絡が来ての。編集部の方に、あの写真の人物が誰かという問い合わせがあったんじゃと。それで、情報を公開する許可を儂に求めてきたんじゃ」
「げ、それで『いいよ』って言っちゃったの。相当一役買ってるね、山じい」
「こうなるとは思わんかったからのぉ…。すまん」
「でも何で総隊長さんに?なつみちゃんに直接確認したらええのに」
市丸の言う通り。
だからなつみは、自分の伝令神機を取り出して着信履歴を見てみた。
「ガッ❗️東仙隊長から来てたはッ」
顎を引いて口を開け、ショックな顔。
「そうか…、地獄蝶の相手に忙しくて気付かなかったんだ。ぼくのこともともと知ってた人たちから先に来てたっぽいから。どうりで、一気に増えたタイミングがあったわけだ」
謎解明。
「すまんの💧」
自分が東仙と連絡した後、やたらと窓の外を一方向に地獄蝶が何匹か飛んでいくのを目撃していた元柳斎、厄介事を招いてしまったと知り、ちょっぴり反省。
「まぁ、済んじゃったことだから、しょうがないよ。次の行動が大事だ。山じい、なつみちゃんはモデルの仕事を受けないから、みんなに諦めてもらうよう言ってもらえないかな」
それを伝えたくてかけたわけだが。
「……。」
ガクッ❗️💧
元柳斎の無言に京楽はコケてしまった。
「何渋ってんのさ!やんないの!あれっきりで終わらせるの!」
「…2、3件程」
「ダメ❗️どんなことされるか、わかんないんだよ❗️あれだって、ボクとしては全っ然許せないんだから❗️」
「……。何様じゃ(ボソ)」
「彼氏様だよ‼️」
なつみがムキャーッ💖と喜んで、市丸に「今の聞きました?😍」とはしゃいでいるのは、置いておいて。
「総隊長も、もっと他の写真見てみたいんですよ〜。これでやめちゃうなんて、もったいないですって。京楽隊長だって、かわいいなつみを見たいんじゃないですか?こんなことでもしないと、この子の好みじゃ大したオシャレしてもらえないんですよ?」
乱菊からの悪魔の囁きだ。
「なつみは、どう思うておるのじゃ」
「あ、逃げたな、山じい!」
「うるさいのぉ。どうなんじゃ、なつみ。撮影の仕事を受ける気は無いのかの?嫌なんか?」
自分のセンスがオシャレじゃないと言ってきた乱菊に文句を言っていたが、止めて、本題に戻ってきた。
「撮影自体は嫌じゃないですよ。みんなの反応もそんなに悪くないみたいですし。ただ、依頼件数が多すぎて困っちゃうんですよね。全部引き受けたら、死神の仕事もあるから、他のことができなくなっちゃいそうで、それが嫌ですね」
「なるほど」
「……。」
今度は京楽が納得できずに無言になっていた。
「やっ、で、でも、京楽隊長がやらないで欲しいって言ってるので、その意向にぼくも合わせたいです。恋人なので🫣💓」
また、ムキャーッ💖と市丸に駆け寄って、「言っちゃいました〜///」と報告する。
ということは、内容を整理するに。
「涅隊長、気休めにもう帰ったら…?」
「フフッ、それで君を慰められるなら、喜んでそうしてやりたいが、ここまで来てしまったら、最後まで見届けたいんだヨ。悪いが断らせてもらおう」
「あーそー。ボクの味方は市丸隊長だけだよ」
遠い目に細い目が答える。
「ボクもなつみちゃんと同じやで。しつこいのが嫌やっただけで、なつみちゃんの写真、他のも見れるなら見たいわ」
「💢」
つまり、モデルに反対なのは京楽ただ1人だけだったということだ。
「あーもーッ!大人気だな、ボクのなつみちゃんは!」
ではどうしたものか。こうしたものだ。
「そうだ!良いこと思いついた!」
乱菊が閃いた。
「女性死神協会が受ける依頼を選んで、なつみが忙しくなりすぎないように、間に入って調整してあげるっていうのは、どうかしら?そしたら、過激な仕事から、なつみを守ってあげられますよ。良い考えだと思いません?」
ニンマリ笑ってみせる。悪意なんてありませんよ〜顔だ。
「会長に頼るとアレですけど、七緒が仕切ってくれるなら、京楽隊長も安心じゃないですか?」
このひと押しは、かなり効果的である。
「まぁ、確かにね」
ちょっと納得してしまった。
そこを突いて、元柳斎が鶴の一声をここで発する。
「その案を可決する!これにて落着!とっとと仕事に戻るのじゃ‼︎‼︎」
ブチッ‼️‼️ツーツーツー…
「ぁあッ!切りやがった、あのジジイ‼︎」
握りしめる画面はホームに戻る。
「解決になってないよ‼︎」
かけ直したところで無駄なのは予想できる。大人しく伝令神機をしまうしかない。
「残念ながら、君より総隊長殿の意見の方が力があるからネェ。泣き寝入りし給え」
この時ばかりは、総隊長になりたいと思ってしまう京楽であった。
「ダァッ、クソ‼︎‼︎」
「言葉遣い悪いで〜」
「この裏切り者‼︎」
「勝手に味方に思っとっただけやん」
彼氏様とお兄様の言い合いは見ていられないなつみ。下の方から間に入って、ケンカを止めようと、懸命に見上げて訴える。
「ケンカはやめてください❗️総隊長がいいよって言っても、最後はぼくが決めるんですから、まだ何も決めてませんから、怒ることないじゃないですか❗️怖い顔しないでください❗️春水さん‼️😫」
(((シュンスイサン…?)))
「なつみちゃん、…、ま、いっか」
2人でいるときだけの呼び方を、必死なために思わず言ってしまったなつみが、縋り付いてくるわ、かわいい声でお願いしてくるわで、すっかりやられてしまったので、周りのニヤニヤな視線の中、京楽はぎゅっと彼女を抱きしめることにした。
「ごめんごめん。つい拗ねちゃった。なつみちゃんの大好きなお兄ちゃんに怒っちゃダメだよね。困らせちゃって、ごめんね」
気持ちを落ち着けてもらえて安心したなつみは、きゅーっと抱きしめ返した。それは幸せそうなお顔で。
「ごちそーさまでーす👏」
「オシアワセニ👏」
「春水さんやて。ボクもギンちゃんって呼んで欲しいわ〜」
「んッ‼️むおッ⁉️ムキャッ‼️‼️あわーッ️///💦」
「今頃我に返っても遅いよ。なつみちゃんにこんなことして良いのは、ボクだけだもんね。指を咥えることしかできない彼らに、ちょっとくらいならキミのかわいさをお裾分けしてあげても良いや。ね〜😚」
ぶちゅーっとなつみのほっぺに口付ける。
「むきゃきゃーっ😣💓💦」
自分にメロメロななつみにメロメロになってしまった京楽は、結局どうでもよくなってしまった模様。1.5人分のアツアツが漂う、その時、冷たい声が届いた。
「で、いつまでサボってるつもりですか」
「りくぁー‼️」
人前で唇にまでキスしようとしてくる京楽の顔面を押し返しながら、なつみはその人物の姿を確認した。
「李空、ノックくらいしなさいよ。今、大事な話してるのよ」
「総隊長とのお話ならそうでしょうけど、とっくに通話終わってるじゃないですか」
今は余韻で戯れて遊んでいるだけにしか見えない外の光景。
「そうだけど」
「日番谷隊長が随分前からお怒りのご様子ですよ」
「はーい。報告、ありがとう」
扉を閉める際、言っておきたいことがあるらしい李空。
「木之本」
「ん、なにっ」
上からは逃げられないなつみが、腕の下から潜って出ていった。
「お前ヤバいな」
パタン。
それだけ。
「どういう意味だ、コラァッ‼️‼️待ちやがれーッ‼️‼️」
窓に駆けつけて、部屋の中まで身を乗り出してなつみは李空の背中を追った。
「戻ってこい、コラァッ‼️‼️」
「口悪いで〜」
「これはこれでかわいい☺️」
「まるで盲目だネ」
窓枠に引っかかって、小さなおけつをぷりぷりしているところ、また新たな声が到着した。
「なつみ、大変だ。君の家が地獄蝶の群れに囲まれているよ」
瞬歩で現れた藍染だった。
「あ〜ら、こっちも知らんうちに呼び方変わってるわ」
ハァッと息を吸い、ショックで絶句する京楽。
「ハァッ…‼︎⁉︎」
前言撤回だ。
「んーーーーーッ!やっぱりモデルなんてさせない!ボクは独りでも戦うぞ!なつみちゃんは、ボクだけのものなんだから!恋人気取りすら誰にもさせるもんか!大体何だよ、その呼び方!ねっとり言うな!エロいぞ!もっと爽やかに呼べって!」
「ああ、また💦怒っちゃダメですって❗️しゅんすけさん❗️」
痛恨のミス!
「あらら、混ざってもうた(笑)」
「……ッ‼️‼️💦」
半分間違えたのではなく、最後だけ間違えただけと思いたいものだ。大事ななつみに寄り付く虫は、駆除あるのみである。余所見の種も踏み潰す。
「変なこと吹き込む連中を、許すもんかー‼️」
ズドーンと怒りが爆発すると、遠くの方でもついに爆発した。
「許さねぇのはこっちの方だ。テメェらいつまでも騒いでねぇで、とっとと帰りやがれェーッ‼️💢💢💢」
なかなかマジな霊圧が届いたため、言うことを聞くのが賢明だと判断した隊長格たち。
「帰るで、なつみちゃん。ご迷惑やからな」
「はい!早く逃げましょう!京楽隊長とは、また後でゆっくり話し合います!」
呼び方ですら逃げるなつみ。
「乱菊さん!女性死神協会へ、なるべく急いで連絡お願いします!事態は一刻を争いますよ!」
「わかったわ!任せて!」
発つ前に恋人へ。
「春水さん、忘れないでください」
彼の左手をそっと両手で握った。見上げる視線は、彼だけを。
名残惜しそうに離れ、先に歩き出した市丸の後を追う。振り返り。
「お邪魔しましたーっ❗️」
ご挨拶をして、隊舎へ帰っていった。
「あっ‼︎うっそ‼︎🫢」
とあるページに行き着き、何やら驚いている。
雑誌を顔に近づけて、よーく見ていると、外から呼ばれる声がした。
「乱菊ちゃ〜ん」
顔を上げると、そこにいたのは。
「京楽隊長。お疲れ様です」
「お疲れ様。今、時間ある?」
話せる距離まで来た。
「大丈夫ですよ。酒饅頭、おひとつどうぞ」
窓越しに手渡した。
「ありがとう」
京楽は受け取って、さっそくひと口齧った。
「それ、何か事情知ってるでしょ」
京楽が「それ」と指差したのは、乱菊が今見ていたページ。乱菊は、わざわざそこを見せるように雑誌を逆に閉じ、掲げた。
「かわいいですね😁」
「知ってるよ、そんなこと。ボクが知りたいのは、何で載っちゃったかってことだよ」
「あたしにきかないでくださいよ。確かに、これを撮ってる時、その場にいましたけど、写真を出したのは店のアイツだし、採用したのは九番隊の編集部じゃないですか。文句ならそっちに言ってください。でも、こんだけかわいいんだから、見せびらかしちゃえば良いじゃないですかぁ」
「嫌だよ!谷間見せすぎ、脚出しすぎ、キス顔まで晒しちゃって!これ見ながら、瀞霊廷中の男が扱いてると思うと、鳥肌が止まんないよ!エッチななつみちゃんは、ボクだけのものなのに!」
瀞霊廷通信最新号の広告ページに載ってしまったもの。それは、なつみがモデルを務めた、あのランジェリーショップで撮影した写真だった。約束通り、着用した商品は部屋着ばかりであったが、肌の露出が必要以上であったことは否めない。それに、写真の公開は、店内展示のみと聞かされていたのに、なつみに無断で瀞霊廷通信に掲載されてしまった。乱菊も知らなかったということは、店側の独断であるとわかる。
「あー…、全部回収したい…」
「無理ですね。回収したところで、1回見ちゃえば脳裏に焼き付いてるでしょうし」
「あの子を変なことに巻き込まないでよ!」
「あたしは買い物に付き合っただけですよ」
「それが問題だったの!」
「お気に召しませんでした?」
「召したよ…」
視線は合わせないが、固い握手を交わす。
「けどね、今度からはボクがお金払うから。もうこんなバイトさせません!」
「え〜😩」
「『え〜』って。またやらせようとしてたの。ダメだよ」
「第二弾の話来てたのに〜。つまんないの〜」
ぶーぶーとブーイングを送る乱菊。
「キミといい、涅隊長といい、余計なことしすぎだよ。なつみちゃんに大人の遊びを教えるのは、恋人であるボクの務めだっていうのにさ!」
「私が何だって?」
「わぁあ⁉️💦」
イライラしながら目を瞑り、饅頭を齧って愚痴っていた京楽の目の前に、突然マユリが現れた。
「驚かすなよ」
「勝手に驚いたのは、そっちだヨ。そんなことより、私の陰口をしていたみたいだネェ。文句があるなら、直接言い給え。こちらからも、ひとつ言っておきたいことがあるが」
グッと接近する。
「っ、何だよ💧」
「キミがあの子にしているのは、子供扱いだヨ」
「んなッ、何でそんなこと言うのさ!」
すっと距離を取る。
「昨夜、君が彼女に用意したのは、アヒルのおもちゃらしいじゃないか」
いやらしくニタニタと笑う。
「どうしてキミが知ってるんだよ!」
「安心し給え。私に盗撮の趣味はないヨ」
盗聴だヨ。
「京楽隊長」
「なに」
乱菊が、窓枠に腕と胸を置き、外へ身を乗り出した。
「京楽隊長には、なつみになってもらいたい理想像があるかもしれませんけど、なつみにだって、京楽隊長の恋人としてこうありたいっていう理想があるんですよ。あの子なりに考えて、京楽隊長の隣りに相応しい大人の女性に成長しようとしてるんです。あたしたちは、その手伝いをしてあげてるだけです。かわいいなつみのために」
「…、わかってるよ」
続いて、マユリからのご意見。
「数多の異性から言い寄られようと、恋愛での交際はキミが初めての相手になるんだヨ。勝手がわからず、不器用に振る舞ってしまうのは致し方ないだろう。下手をしてキミの気分を害さないよう、悩みがあれば周りに頼りたい。慕っているからこそ、本人には隠しておきたい、微笑ましい乙女心というヤツじゃあないか。相思相愛の現れなのだから、いちいち腹を立てるんじゃあないヨ。そんな態度は、選ばれなかった私たちに嫌味でしかないからネ」
「そうそう。京楽隊長は贅沢言ってます」
乱菊はうんうんと頷いた。
「はいはい。もうわかったから、それ以上ボクを責めないで」
「付き合い方など人それぞれなのだから、時間をかけて歩調を合わせていけば良いだけの話だろう。気に入らなければすぐに捨ててきたキミの悪い癖が、仇となっているようだネ。まぁ、別れたいなら別れてもらって構わないヨ。私が慰めに駆けつけてやるまでだからネ」
「それはご親切にどうも」
「キミのところではないヨ」
「そもそもそうならないです〜」
醜い小言の掛け合いが聞いていられない乱菊が、酒饅頭を新たに取って、マユリに差し出した。
「はい、涅隊長。おひとつどうぞ」
「すまないネェ。ありがたく頂くヨ」
受け取る手をガッと掴んで、ちょいと尋ねる。
「で、涅隊長はなつみに何してあげたんですか?😏」
「乱菊ちゃん!」
すかさず割って入る京楽。しかし。
「残念ながら、公共の場で言えることではないんでネ。本人に確認してくれ給え」
「えー。教えてくださいよ〜」
口を尖らせる乱菊。
「何でもかんでも、大っぴらにすれば良いというものじゃあないヨ。そうだろう?市丸」
いつの間に来たのか、市丸が膝に手をついて3人の輪に参加していた。
「はぁ、はぁ、あ〜、しんど。乱菊、お茶飲ませてや」
「どうしたのよぉ。なんか問題発生?」
新しく淹れるのが面倒なので、市丸相手ならと、飲みかけの自分の湯呑みを渡してやった。
「ありがと。ひゃ〜、疲れた」
「わぁーーーーーッ‼️‼️‼️💦」
「わぁーーーーーッ‼️‼️‼️💦」
「わぁーーーーーッ‼️‼️‼️💦」
遠くから絶叫が断続的にあちこちから響いてくる。
「何あれ」
「なつみちゃんだね」
「追われているようだヨ」
「乱菊のせいや。その写真が出回ってもうて、他の店からも『ウチでこの子使わせてくれ〜』いう依頼が、アッホみたいに押し寄せて来てん。手紙やなしに地獄蝶やから、ずーっと付き纏って来るんよ。鬱陶しくて仕事にならへんもんで、イヅルに外出てください言われてな。んで、1件ずつ断っててんけど、何回も同じとこから繰り返し来んのがほとんどやで、『やってられんわ〜』いうて、諦めてもらうまで逃げ回ることにしたんよ」
「あんた関係無いじゃない」
「ボクから説得したってやっちゅー輩もおるんよ」
「それで、君は巻くことに成功し、なつみを囮として放置してきたわけだネ」
「正解。やけど、そんだけとちゃう。これに懲りて、後先考えんと変わったことしたらアカンって、思い知ってもらうつもりや」
「あぁ、その通りだ。さすがわかってるね、お兄ちゃんは」
「もともとボクだけのなつみちゃんやったのに、こんなに知れ渡ってもうて。野蛮な狼さんたちから守るん大変やで、ホンマ。勘弁して欲しいわ」
同志を見つけて安心した京楽は、嬉しそうに肩をすくめると、この輪から少し外れ、空に向かって叫んだ。
「なつみちゃーん‼︎‼︎おいでー‼︎‼︎」
(春水さん‼️)
腕を前に伸ばして待つと、なつみがパッと現れ、京楽の腕の中、縮こまって抱っこされていた。
「うぅぅっ😖」
「よしよし。もう大丈夫だよ」
ゆっくりなつみを地面に降ろしてやる。
「後ろに隠れてて。ボクが追い払ってあげるからね。って、ぅわっ⁉️💦」
視線を上げると、オオカバマダラの渡り並みの大群がこちらに向かって来ているのに気付いた。まぁ、それは比喩が過ぎるかもしれないが、たくさんいた。
だが、即座に状況を確認し、右手を構える。霊圧を高め、振り上げると、縛道の鬼道を放った。
ズババババーッ‼︎‼︎‼︎
最後尾の地獄蝶にまで届く強烈な波動が一面に広がった。
………。
衝撃が伝わったものの攻撃ではないため、全て無傷で飛び続けているが、進行が止まった。その場でしばらく考えるように羽ばたき、その後、何かを思い出したかのように、それぞれの方向へ散らばって去っていった。
「しゅごい✨」
本当は、すべきことを忘れてしまっていたのだ。とりあえず、飼い主の元へ帰ることにしたのだろう。
「すごいなぁ」
京楽の技を目の当たりにした4人は、空を見上げて感動していた。
「あぁ、たまげたヨ。いつもこうして副隊長からの連絡を無かったことにしているんだネ」
「京楽隊長!今のどうやるんですか?教えてくださいよ〜っ!」
乱菊の悩みの種でもあったらしい。
「乱菊ちゃんには教えないし、七緒ちゃんにも教えないで💧」
窓際会議はまだ続く。
「これ、何の集まりですか?」
まんまるおめめをぱちぱちさせて、なつみは隊長らの顔を見回した。
「キミのお話してたの」
「‼️ふむー(-公-)」
一瞬見開いてからの、下手なことしゃべってねぇだろーなな視線をマユリに突き刺した。
「弁えて話したつもりだヨ」
疑うなつみは腕を組み、右脚重心の左脚ちょっと斜め前への偉そうな態度で立ち、口を尖らせて睨み続けた。
「ほら、人前で気まずくなるなら、最初からやらなきゃいいんだよ」
「むぅッ‼️」
「はいはい。お兄ちゃんの後ろ隠れや」
恋人に意地悪言われたので、てとてとと市丸の後ろに回っていった。
「助けてもろて、ありがたいですけど。たぶん、一時凌ぎですよね。手を打たんと、明日も来てまうんやろうね」
「えー😫」
なつみは、市丸の背中にくっつき、羽織を掴んで前後に揺すった。やだやだぁー、と。
「山じいに頼んでみようか。あの人の鶴の一声があれば、一発で解決するでしょ」
京楽は伝令神機を取り出して、発信した。スピーカーモードにするため、みんなの輪の中央に構えた。
「あ、もしもし、雀部さん?山じいと話したいんだけど、今、大丈夫かい?」
「用件は何だ」
「なつみちゃんのことだよ」
「はぁ…。あの広告記事だな」
「そうだよ」
「待っていろ」
「ありがとう。そっちもさ、スピーカーにしてくれる?」
「そっちもということは、そっちもなのか?誰がいる」
「なつみちゃんと、市丸隊長と、涅隊長と、乱菊ちゃん」
「どういう集まりだ💧松本がいるところ、ことの経緯が想像できるが、涅は何故いる」
「それはボクらも謎」
「ただの通りすがりだヨ。そして、これから行われる会議において、貴重な1票を投じるつもりだ」
話している間に元柳斎のいる部屋に着いた。
「元柳斎殿、京楽が話したいとのこと。例のなつみの記事についてだそうです。このままお話しください」
上がってきた報告書に目を通すことを中断し、机の上に置かれた雀部の伝令神機に話しかける。
「何じゃ」
「山じい、新しい瀞霊廷通信見た?」
「見たが、どうした。恋人自慢なら聞く気は無いぞ」
「そうじゃないよ。あのページを見たいろんなお店が、なつみちゃんに仕事の依頼をしてきてるんだ。なつみちゃんの写真で広告を作りたいって」
「地獄蝶がいっぱい隊舎に集まって来て、大変だったんです。今は、京楽隊長が追い払ってくれたので、落ち着いていますが、しばらくすれば、また戻ってくると思われます。お断りのお返事するのに手一杯で、ぼく、今日の自分のお仕事全然進められてないんですよ」
伝令神機の向こう側、何やら気まずい雰囲気になったような。
「そうじゃったか…。それは悪いことをしたのぉ」
何事かを後悔する元柳斎。
「山じい、何かしたの?」
「ふむ。先刻、東仙から連絡が来ての。編集部の方に、あの写真の人物が誰かという問い合わせがあったんじゃと。それで、情報を公開する許可を儂に求めてきたんじゃ」
「げ、それで『いいよ』って言っちゃったの。相当一役買ってるね、山じい」
「こうなるとは思わんかったからのぉ…。すまん」
「でも何で総隊長さんに?なつみちゃんに直接確認したらええのに」
市丸の言う通り。
だからなつみは、自分の伝令神機を取り出して着信履歴を見てみた。
「ガッ❗️東仙隊長から来てたはッ」
顎を引いて口を開け、ショックな顔。
「そうか…、地獄蝶の相手に忙しくて気付かなかったんだ。ぼくのこともともと知ってた人たちから先に来てたっぽいから。どうりで、一気に増えたタイミングがあったわけだ」
謎解明。
「すまんの💧」
自分が東仙と連絡した後、やたらと窓の外を一方向に地獄蝶が何匹か飛んでいくのを目撃していた元柳斎、厄介事を招いてしまったと知り、ちょっぴり反省。
「まぁ、済んじゃったことだから、しょうがないよ。次の行動が大事だ。山じい、なつみちゃんはモデルの仕事を受けないから、みんなに諦めてもらうよう言ってもらえないかな」
それを伝えたくてかけたわけだが。
「……。」
ガクッ❗️💧
元柳斎の無言に京楽はコケてしまった。
「何渋ってんのさ!やんないの!あれっきりで終わらせるの!」
「…2、3件程」
「ダメ❗️どんなことされるか、わかんないんだよ❗️あれだって、ボクとしては全っ然許せないんだから❗️」
「……。何様じゃ(ボソ)」
「彼氏様だよ‼️」
なつみがムキャーッ💖と喜んで、市丸に「今の聞きました?😍」とはしゃいでいるのは、置いておいて。
「総隊長も、もっと他の写真見てみたいんですよ〜。これでやめちゃうなんて、もったいないですって。京楽隊長だって、かわいいなつみを見たいんじゃないですか?こんなことでもしないと、この子の好みじゃ大したオシャレしてもらえないんですよ?」
乱菊からの悪魔の囁きだ。
「なつみは、どう思うておるのじゃ」
「あ、逃げたな、山じい!」
「うるさいのぉ。どうなんじゃ、なつみ。撮影の仕事を受ける気は無いのかの?嫌なんか?」
自分のセンスがオシャレじゃないと言ってきた乱菊に文句を言っていたが、止めて、本題に戻ってきた。
「撮影自体は嫌じゃないですよ。みんなの反応もそんなに悪くないみたいですし。ただ、依頼件数が多すぎて困っちゃうんですよね。全部引き受けたら、死神の仕事もあるから、他のことができなくなっちゃいそうで、それが嫌ですね」
「なるほど」
「……。」
今度は京楽が納得できずに無言になっていた。
「やっ、で、でも、京楽隊長がやらないで欲しいって言ってるので、その意向にぼくも合わせたいです。恋人なので🫣💓」
また、ムキャーッ💖と市丸に駆け寄って、「言っちゃいました〜///」と報告する。
ということは、内容を整理するに。
「涅隊長、気休めにもう帰ったら…?」
「フフッ、それで君を慰められるなら、喜んでそうしてやりたいが、ここまで来てしまったら、最後まで見届けたいんだヨ。悪いが断らせてもらおう」
「あーそー。ボクの味方は市丸隊長だけだよ」
遠い目に細い目が答える。
「ボクもなつみちゃんと同じやで。しつこいのが嫌やっただけで、なつみちゃんの写真、他のも見れるなら見たいわ」
「💢」
つまり、モデルに反対なのは京楽ただ1人だけだったということだ。
「あーもーッ!大人気だな、ボクのなつみちゃんは!」
ではどうしたものか。こうしたものだ。
「そうだ!良いこと思いついた!」
乱菊が閃いた。
「女性死神協会が受ける依頼を選んで、なつみが忙しくなりすぎないように、間に入って調整してあげるっていうのは、どうかしら?そしたら、過激な仕事から、なつみを守ってあげられますよ。良い考えだと思いません?」
ニンマリ笑ってみせる。悪意なんてありませんよ〜顔だ。
「会長に頼るとアレですけど、七緒が仕切ってくれるなら、京楽隊長も安心じゃないですか?」
このひと押しは、かなり効果的である。
「まぁ、確かにね」
ちょっと納得してしまった。
そこを突いて、元柳斎が鶴の一声をここで発する。
「その案を可決する!これにて落着!とっとと仕事に戻るのじゃ‼︎‼︎」
ブチッ‼️‼️ツーツーツー…
「ぁあッ!切りやがった、あのジジイ‼︎」
握りしめる画面はホームに戻る。
「解決になってないよ‼︎」
かけ直したところで無駄なのは予想できる。大人しく伝令神機をしまうしかない。
「残念ながら、君より総隊長殿の意見の方が力があるからネェ。泣き寝入りし給え」
この時ばかりは、総隊長になりたいと思ってしまう京楽であった。
「ダァッ、クソ‼︎‼︎」
「言葉遣い悪いで〜」
「この裏切り者‼︎」
「勝手に味方に思っとっただけやん」
彼氏様とお兄様の言い合いは見ていられないなつみ。下の方から間に入って、ケンカを止めようと、懸命に見上げて訴える。
「ケンカはやめてください❗️総隊長がいいよって言っても、最後はぼくが決めるんですから、まだ何も決めてませんから、怒ることないじゃないですか❗️怖い顔しないでください❗️春水さん‼️😫」
(((シュンスイサン…?)))
「なつみちゃん、…、ま、いっか」
2人でいるときだけの呼び方を、必死なために思わず言ってしまったなつみが、縋り付いてくるわ、かわいい声でお願いしてくるわで、すっかりやられてしまったので、周りのニヤニヤな視線の中、京楽はぎゅっと彼女を抱きしめることにした。
「ごめんごめん。つい拗ねちゃった。なつみちゃんの大好きなお兄ちゃんに怒っちゃダメだよね。困らせちゃって、ごめんね」
気持ちを落ち着けてもらえて安心したなつみは、きゅーっと抱きしめ返した。それは幸せそうなお顔で。
「ごちそーさまでーす👏」
「オシアワセニ👏」
「春水さんやて。ボクもギンちゃんって呼んで欲しいわ〜」
「んッ‼️むおッ⁉️ムキャッ‼️‼️あわーッ️///💦」
「今頃我に返っても遅いよ。なつみちゃんにこんなことして良いのは、ボクだけだもんね。指を咥えることしかできない彼らに、ちょっとくらいならキミのかわいさをお裾分けしてあげても良いや。ね〜😚」
ぶちゅーっとなつみのほっぺに口付ける。
「むきゃきゃーっ😣💓💦」
自分にメロメロななつみにメロメロになってしまった京楽は、結局どうでもよくなってしまった模様。1.5人分のアツアツが漂う、その時、冷たい声が届いた。
「で、いつまでサボってるつもりですか」
「りくぁー‼️」
人前で唇にまでキスしようとしてくる京楽の顔面を押し返しながら、なつみはその人物の姿を確認した。
「李空、ノックくらいしなさいよ。今、大事な話してるのよ」
「総隊長とのお話ならそうでしょうけど、とっくに通話終わってるじゃないですか」
今は余韻で戯れて遊んでいるだけにしか見えない外の光景。
「そうだけど」
「日番谷隊長が随分前からお怒りのご様子ですよ」
「はーい。報告、ありがとう」
扉を閉める際、言っておきたいことがあるらしい李空。
「木之本」
「ん、なにっ」
上からは逃げられないなつみが、腕の下から潜って出ていった。
「お前ヤバいな」
パタン。
それだけ。
「どういう意味だ、コラァッ‼️‼️待ちやがれーッ‼️‼️」
窓に駆けつけて、部屋の中まで身を乗り出してなつみは李空の背中を追った。
「戻ってこい、コラァッ‼️‼️」
「口悪いで〜」
「これはこれでかわいい☺️」
「まるで盲目だネ」
窓枠に引っかかって、小さなおけつをぷりぷりしているところ、また新たな声が到着した。
「なつみ、大変だ。君の家が地獄蝶の群れに囲まれているよ」
瞬歩で現れた藍染だった。
「あ〜ら、こっちも知らんうちに呼び方変わってるわ」
ハァッと息を吸い、ショックで絶句する京楽。
「ハァッ…‼︎⁉︎」
前言撤回だ。
「んーーーーーッ!やっぱりモデルなんてさせない!ボクは独りでも戦うぞ!なつみちゃんは、ボクだけのものなんだから!恋人気取りすら誰にもさせるもんか!大体何だよ、その呼び方!ねっとり言うな!エロいぞ!もっと爽やかに呼べって!」
「ああ、また💦怒っちゃダメですって❗️しゅんすけさん❗️」
痛恨のミス!
「あらら、混ざってもうた(笑)」
「……ッ‼️‼️💦」
半分間違えたのではなく、最後だけ間違えただけと思いたいものだ。大事ななつみに寄り付く虫は、駆除あるのみである。余所見の種も踏み潰す。
「変なこと吹き込む連中を、許すもんかー‼️」
ズドーンと怒りが爆発すると、遠くの方でもついに爆発した。
「許さねぇのはこっちの方だ。テメェらいつまでも騒いでねぇで、とっとと帰りやがれェーッ‼️💢💢💢」
なかなかマジな霊圧が届いたため、言うことを聞くのが賢明だと判断した隊長格たち。
「帰るで、なつみちゃん。ご迷惑やからな」
「はい!早く逃げましょう!京楽隊長とは、また後でゆっくり話し合います!」
呼び方ですら逃げるなつみ。
「乱菊さん!女性死神協会へ、なるべく急いで連絡お願いします!事態は一刻を争いますよ!」
「わかったわ!任せて!」
発つ前に恋人へ。
「春水さん、忘れないでください」
彼の左手をそっと両手で握った。見上げる視線は、彼だけを。
名残惜しそうに離れ、先に歩き出した市丸の後を追う。振り返り。
「お邪魔しましたーっ❗️」
ご挨拶をして、隊舎へ帰っていった。