第八章
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お日様の光が障子を通して、柔らかく部屋の中に差しているのを感じた。
「んー〜」
布団の中で軽く身体を伸ばしてから、壁にかけられた時計に目をやった。
「ぅわァアアアアアッ‼️‼️」
寝起き20秒で、よくこの声が出せる。
「どうしたのぉ…。お腹でも空いたぁ…?」
隣りには、寝巻き姿の京楽がまだ寝転んでいた。
「大変です❗️もう9時半回ってますよ❗️寝過ごし過ぎですぅーッ‼️」
身体を起こして、なつみは京楽をゆっさゆっさと揺すった。
「良いじゃないか。今日はお休みなんだし、昨日は夜更かししちゃったんだし」
「二度寝しようとしないでください❗️朝の自主トレするんですよね❗️ルーティンだって、言ってたじゃないですか❗️」
「………💤」
「むぅっ❗️💢」
精々言っても8時台には目覚めているだろうと思っていたので、1時間も過ぎ、なつみはひとりでもちゃんと起きようとした。しかし。
「痛たッ😣」
ベッドの上に脱ぎっぱなしで置かれていたバスローブに手を伸ばそうとした瞬間、お尻に痛みが走った。
「あたたたたーっ😫💦」
動けば動くほどに痛む。
「なんで……🫳」
騒がしいので、目は開けておいてやろうと、京楽は頬杖をついてなつみの様子を観察した。
「筋肉痛だな😏」
何とか四つん這いでバスローブを掴みに行ったなつみのお尻に注目。
「普段使わないとこ使ったからね。いっぱい😚」
ぺたんと座り、袖に腕を通した。右、左。そして斜め上を向いて、遠い目。
「休みで良かった……😑」
しみじみ…。
「(次の日休みじゃないと、エッチはできないということか…)なるほど…」
「何が?(笑)」
「あの、つかぬことをお聞きしますが、いつの間に服着てたんですか」
確か、おやすみの挨拶をしたときは、なつみと同じく全裸で、それに、髪も結んでいたはず。今は布団の中で、はだけてはいるが浴衣を着用し、髪を縛っていない格好でいる。
「んー…?」手を頭の後ろで組んで仰向けになり、ニヤつく。「自慢じゃないけど、ボクはキミの寝顔で2発イケるから」
「そいつぁ自慢じゃないですねぇ…」
しみじみと。
「ちなみに、朝日に照らされたキミのもち肌を見て、もう勃ってるよ」
「そいつぁ朝勃起ですねぇ…」
「よく知ってるね」
「ぼくもなってましたから…。何もしなくても、ただ勃ってましたよ…。勃ちつくす、ぼくのおちんちん…(今となっては懐かしい)」
しみじみと振り返る。
(隊長とエッチのお勉強した次の日、こんな痛んだっけ。覚えがないな。でも、知ってる痛みなんだよな……。いつだろ)
お尻が痛むが、ささっとシャワーを浴び、死覇装を着た。朝食の用意をしようと台所へ行くと、廊下にいる段階でおいしそうな香りが漂ってきた。覗くと、料理番さんが椅子に座って瀞霊廷通信を読んでいた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「あの、それ…」
「おふたりの朝食です。装いますから、座ってお待ちください」
「わざわざすみません。ありがとうございます」
「旦那様もすぐ来られますか?」
「だと思います」
本当は寝ていたかった、というか、なつみとイチャついていたかった京楽だが、断固たる決意でシャワーを浴びると言うなつみについて、渋々起きていた。只今着替え中。さて、部屋着で来るか、死覇装で来るか。
食卓に着いて、なつみは京楽が現れるのを待った。
「お待たせ〜」
部屋着でした。
「服、そっちなんですね」
「だって、なつみちゃん、お尻痛くて運動したくないんでしょ?(笑)」
「後で卯ノ花隊長に、筋肉痛を和らげる方法を伺います!そしたらすぐトレーニング始めますよ。春水さんは先に始めていただいてても構いませんよ。見学も充分実になりますから」
「あら、そうですか。とりあえず、先に食べちゃお。変な時間になっちゃって、ごめんね」
料理番さんに一言を。
「いえ」
「お詫びに、後片付けはボクらでするよ」
なつみの頑固はテコでも動かない。コチョで動くかもしれないが。
「はわわわわぁ〜✨」
筋肉痛からの回復には、血行を良くすることだとお返事を受けたなつみは、マッサージやストレッチをしていた。そんな彼女の目の前では、京楽の自主トレーニングが繰り広げられている。部屋着で。
「むはぁぁぁあ〜✨」
「うわぁぁぁ〜✨」
「おうっ🫢ぷきゃ〜✨」
極秘の特訓であるため、なつみのリアクションのみでお伝えしていますが…。
「何だか照れちゃうな。そんなにボク、かっこいい?」
ぱっかーと開脚をしているなつみに話しかける。
「ときめいてテンション上げて、血流良くしようとしてるんですけど。春水さん見てるの、ほんと効果的っスよ❗️」
「……、微妙な褒め言葉、ありがとう😅」
開いた脚を閉じて、パタパタと腿を揺すって整える。
「どおりで、さっき前屈したまま『きゃー✨』って言ってたわけだ。騒いで盛り上がってただけなんだね」
「よく見てますね!あんなに速く動いてるのに。ぼく、移動してるのは見えてるんですけど、技の構えが見えませんでした。いちばん大事なとこですよね。なのに全然わかんなかったです。スゴイです!」
体操座りをするなつみの前に、「よいしょ」としゃがみ込む京楽。
「なつみちゃん、良いこと教えてあげる」
「何ですか、何ですか?✨」
興味津々に、2歩お尻を擦って前進するなつみ。
「相手の視界に突然姿を現すには、確かに速さが必要だけど、ただそれだけが方法じゃないんだよ」
「ほぅほぅ」
「一度相手の視界から自分を外す。これが結構有効なんだ」
「ほぉ!そっか。そしたら気付かれないように、後ろから慎重に距離を詰めればいいから、慌てず、確実に接近できますね」
「そう。相手の気を他に逸らすことができれば、自分のタイミングで」ちゅっ。「そいつに接触できるのさ」
「何でチュー挟んだんですか」
「ボクのお話に気を取られて、お口が無防備になってたから。ドキっとした?😚」
シュッ
ザッ
「あれ⁉️」
ひょいっ
ちゅぅぅぅッ💕💕💕
「んぅぅぅぅうッ💓💦」
ちょぽっ
「残念。キミの動きは手に取るように予測できるよ」
ちょんちょん♪
一瞬で何が起きたかというと、まずなつみが京楽の不意をついたつもりで彼の背後に回った。狙いは結った髪の束だ。引っ張って、ドッキリさせようとしたのだが、動きが見え、読まれてしまったため、逃げられてしまった。どこに消えたか探す間に抱き上げられてしまい、熱い口づけをされ、降ろしてもらったら、最後に鼻の頭をちょんちょんと軽くつっつかれた。
「お尻はもう痛くなさそうだね」
「治りましたよ」
口元をふきふき。
「あ!拭いたな〜。もう一回しちゃうぞ〜」
「やれるもんなら、どうぞ」
「おや。どこから来るのかな、その自信」
「失敗は成功のもとですから」
「じゃあ、キミが飽きるまで100回はチュッチュできるのかな」
「なら101回ですね」
「え、何で?」
「ぼくからしたら、ぼくの勝ちなんですよね」
「フッ…、勝ち逃げできるかな?」
「させはしないって話です」
「そう。それは、楽しみだな」
お出かけ前に、追いかけっこでひと汗かいておくなつみと京楽であった。
チュッ
「はい、1か〜い😚」
「むぅ💖」
綺麗にお着替えを済ませたふたりは、瀞霊廷のとある区画を歩いていた。
「この辺に画廊があるなんて、知りませんでした」
「そうだろうね。みんな、本屋さんの方に行っちゃうもんね」
静かで落ち着いた街角だ。
「あいつ、賑やかなのがそんなに好きじゃないんだ。呑みに誘っても来ないし。ノリが悪いんだよ。けど、こうして展示会を開いて、自分の作品を見てもらいたがる。たまには、新しい人と出会う刺激を求めてるのかもしれないね」
「かわいらしい方なんじゃないですか?」
「『かわいい』ね…」
「どうやってお知り合いになったんですか?春水さん、絵がお好きでしたっけ?」
「これがまた、とっても古い付き合いなんだよ」
目的地に到着。京楽が画廊の扉を開けた。
「こんにちは〜」
その呼びかけを受け、1人の男が迎えてくれる。
「おう、来たか、京楽」
「池乃、元気してた?」
「あぁ。お陰様でな。その格好からして…、今日はサボりか」
「休みだよ。ちゃんと七緒ちゃんに許可もらってんの。人聞の悪い言い方やめてよ」
「わりぃわりぃ。入れよ」
「お邪魔しま〜す」
「お、お邪魔しまーすっ」
「あ?」
京楽に続いて入ると、ようやくなつみの存在が認知してもらえた。
「連れがいたのか」
「うん。かわいいでしょ」
よく見えるようにと、京楽はなつみの肩を持って、自分の前に来させた。
「あぁ、そうだな。揃いの柄で似合ってるじゃねぇか。ちゃんと、仲の良い親子に見えるぜ」
「は?😦」「(おやこ?)😳?」
「養子だろ?違ぇの?」
何の疑いもなく言っている。
「ちぃがうよ‼️この子はボクの恋人❗️失礼なこと言わないでよ❗️😤」
「はぁ?嘘つけ。俺を騙そうったって、そうはいかねぇぞ(笑)」
彼は腕を組み、自信あり気だが、なつみが京楽の腕にすがり、悲しい表情を浮かべると、自身の誤解に気付いた。
「マジかよ。趣味変わったなぁ、お前。前連れてきたのと全然」
「おい」
言いたい事はもうわかるが、辛うじて途中で止められた。
「はいはい。口が滑っちまった」
男は反省して、なつみと目を合わせた。
「俺はここで作家をしてる池乃栄明だ。よろしくな」
「ぼくは、護廷十三隊三番隊第二十席、木之本なつみです。どうぞよろしくお願いします」
ぺこっと会釈した。
「あの、おふたりはおしゃべりされてますよね。ぼく、その間、池乃さんの作品見て周ってたいんですけど」
既に目に入った絵がかわいらしくて、早く近くで見たくなり、うずうずしているといった様子。足がパタパタしてしまう。
京楽はにこりと微笑んだ。
「コイツとのおしゃべりは、また後でで良いよ。一緒に見よ、なつみちゃん☺️」
池乃も頷いた。
「あぁ。ゆっくり見てけ。終わったら、奥に来い。茶を淹れとくからよ」
「ありがと」
「ありがとうございます😊」
縦に細長い室内をパーテーションで半分に区切り、壁面に絵画が飾られている。
「モフモフ〜💖」
触りたくなるような線の細さで、動物たちの毛並みが描かれている。しかしそれは陸上の方。海の生き物も、別の絵に描かれている。
「ツルツル、ピカピカ〜💖」
光が美しく表現されていた。
「温度も音も無いのに、あったかくて心地良い感じがしますね。どうしてこんなに描けるんだろう。本物を見ていないと」
「そうだよ。池乃は、あちこち旅に出て、絵の題材をさがしてるんだ」
「そんなことできるんですか?」
「才能がある人には、運も味方するんだよ😉」
他のも見ようと京楽に背中を押される。
「池乃の夢を眺められてるみたいで、楽しいよね。世界が愛で結ばれた、綺麗なところになれるっていう希望が写し出されてるみたいでさ」
絵の中にいる動物たちは、皆穏やかな表情を湛えている。親子であったり、群れであったり。例えひとりであっても、景色がその者に寄り添っているような。恐怖や怒りをひととき忘れる、ほっとした瞬間を切り取っているのかもしれない。
「素敵な人とお友だちで、羨ましいです」
「ふふっ、だったら、なつみちゃんもアイツのお友だちになると良いよ。キミたち、似てるところが多いから、絶対仲良くなれる」
ふたりは微笑み合った。
絵を見終えて、建物奥へ向かうと、ティーセットが並べられたテーブルを越えて、なつみはキャビネットに収められたグラスに目を奪われた。
「あ!あのコップ!」
近寄ってみると、やはりそうだ。
「春水さんのお家にあるのと同じですね!」
うがい用にと渡された、あのグラスと同じデザインの切子である。
「もしかして、お揃いで買ったんですか?😙」
もう、仲良しなんだから〜、なんて言いたげなお口。
池乃と京楽は席に着いて、ニマニマするなつみを笑って眺めていた。
「違うよ」
「俺の作品だ」
「え⁉️絵描きさんなだけじゃないんですか⁉️」
信じ難いといったご様子。
「池乃は、いろんなものを自分でつくっちゃうんだよね。ガラス細工もやるし、焼き物もやるし、家具とかも」
「すごい✨」
「意匠が独創的で、ボク、気に入ってるからさ、ウチにある物の大半を池乃に頼んで作ってもらってるんだよね」
「そうなんですね!ぼくてっきり、セレブ御用達なお店で購入されたものかと思ってました」
「高級は高級だよ(笑)」
なつみも空いている席に座った。
「まるで俺がぼったくってるみたいな言い方するなよ。コイツがな、勝手に金払っちまうんだよ。俺は材料費にちょっと上乗せしたくらいで良いって言ってんのにだ」
「黙って受け取っとけよ」
「こればっかだ」
「芸術作品の価値は作者が決めるもんじゃないの。欲しがるお客が評価して決めるもんなの」
「ただの趣味程度にしか考えてねぇのに、コイツがバカ払うから、下手なもん作れねぇんだよな」
「だから良いんだろ」
ふたりの掛け合いが微笑ましく、なつみはクスクスしていた。池乃に味方した運とは、京楽と仲良くなったことであると見えてしまったから。
「おい、紅茶だ。飲めるか?」
池乃がポットを差し出した。
「はいっ。いただきます。大好きです😊」
答えて、ソーサーごとそっと前に押した。
「ボク、ミルクティーじゃないと飲めな〜い😙」
ストレート派のお友だちに文句があるらしい。
「うるせぇ。だったらコンビニ行ってこい」
「あるわけないじゃん、そんなのぉ。しょうがないから、自販機行ってくる(笑)」
立つ素振りすら無いが。
「どっちもありません🤭))」
なつみは更にクスクスした。
「不便だよね〜」
「なんとかしろよ、金持ち」
「世の中お金で解決できないことも多いってこと、だね」
「お前じゃ説得力に欠けるけどな」
3人半ばそれぞれにつられて、マネするようにお茶に手が伸びた。
「池乃さんが、こんなにいろんなものをお作りになるのって、お金で解決できないことを得るためなんですか?」
カップをソーサーにカチャと戻して答えてくれる。
「良いことに気付くじゃねぇか、おチビさん」
「む!」
上げて下げられムッとする。
「悪い。木之本さんな(笑)」
「そーです」
「俺は一応、美術分野の中で絵を専攻してんだけどな。絵が上手くなりたいからって、それだけをやるのは間違ってると思うんだ。
どれだけ模写をしても、筆の動かし方や、色の選び方を試してみても、満足できないことがある。そんな時はな、思い切って、全然違うことに手を出してみるんだよ。そしたら、偏った考え方からじゃ想像もしなかった、自分らしい正解の方法ってのを見つけられたりするんだよな。
物を生み出すって、技術も然ることながら、経験も重要でな。視覚だけじゃなく、五感全部から吸収した思い出を、いかに自分の理想とするカタチに再現するかが、大きな鍵になってくる。
だから、ひとつのことを極めたいからって、それしかやらねぇと、すぐ限界が来ちまうんだ。不可能な難題にぶち当たっても、同じ失敗を繰り返すしかねぇ。その解決策は、限界の外にあるわけだから、俺は垣根を超えて、いろんなモノづくりを齧ってるってことな。
まぁ、金もそりゃちったぁ無きゃやってけねぇけど、創造に必要なのは、優れた造り手になろうとする心意気!寄り道を許せる余裕だ!目の前のことを否定したくなったら、何がどうあると自分の心がときめくか、しっかり把握してなきゃならねぇ。闇雲はただの迷惑。世界は広くて、自分を見捨てたりしないって信じると、こんな生き方ができるんだよな」
「池乃が世界を裏切らないから、見捨てられたりしないよ。ボクもね」
なつみに語りかけていた池乃の視線を、自分に向けるように京楽がそう言うものだから。
(ラブラブじゃ〜ん😚)
となつみは思った。
「あぁ、そうだな。お前と浮竹には世話になりまくってるから、裏切るなんざ無理だな」
「仲間なんだから、助け合うのは当然さ」
(仲間😊)
京楽の知らなかった一面が見られて、なつみは嬉しそう。
「春水さんから伺いました。おふたりは霊術院で同級生だったと。長いお付き合いで、とっても羨ましいです」
「なぁに言ってるのさ、なつみちゃん。ボクらのお付き合いも、末長く続いていくんだよ。コイツが嫉妬するくらい」
人前なのに、京楽は躊躇いなく恋人のほっぺを指の背で撫でた。なつみの方では恥ずかしくて、目を閉じて赤くなってしまった。
「俺の前で、やめてくれだとさ」
池乃が代弁してくれた。
「お前にもしてやろうか(笑)」
「やめろよ(笑)」
戯れ合うオジサンたち。
(ヤバいぃ。ハンサムなオジサマ同士のBLぅ〜💖)
それはそれで恥ずかしくて見てられない🫣
「あ、あの!池乃さんは、どちらの所属なんですか。鬼道衆ですか?」
京楽の腕をガードする池乃の動きが止まった。
「なんだ。教えてないのか?俺は、ただの画家だ。所属も何も無ねぇよ」
「えっ⁉︎ そうなんですか⁉︎」
「そうだよ」
「どうして。引退されたとかですか」
「違ぇ。俺は初めから、どこにも配属されてねぇよ。術院を中退したんだ」
「中退⁉︎」
「そう。池乃はボクらとは違う道を選んだんだよ。コイツらしい理由で」
なつみのお口はあんぐりとして、「信じられない」と顔に出していた。
旧友ふたりが、まだなつみが神社でよちよちしていた頃を振り返り、語ってくれる。
「池乃はね、それは優秀な生徒だったんだよ」
「言い過ぎんな。1年目の話だ、そんなの。京楽と浮竹は入学したときから、群を抜いて成績が良かった。俺はその少ぉし下くらいだったな」
「謙遜しなさんな。学年で3位だよ。ボクが1位で、浮竹も1位。つまり、実質2位」
「つまり、俺を優秀と呼べば、ある意味自画自賛ってわけだ」
「そうです。その通りで〜す」
「コイツな、『見て見て、ボク1位だよ〜』って自慢してくるヤツだったんだ。クソうぜぇ。だから、女子に逃げられるコイツを見る度にガッツポーズしてた」
「性格悪いぞ」
「お互い様だろ」
悪口も仲が良いからこそのトーン。
「差が出始めたのは、その翌年辺りからだな。斬魄刀を支給されてからだ」
「キミらの世代もそうだろうけど、ボクらの頃も、自分で1振選ぶやり方だったんだよ。成績順だから、ボクらは選びたい放題だった」
「なのにな…。俺を呼んだのは、曰く付きの斬魄刀だった」
(曰く付き?)
「刀のくせに、戦いを拒む厄介なヤツだったんだよ」
「そんなのあるわけないって、ボクも思ってたんだけど、本当だったんだよね。その斬魄刀を持つと、敵を前にしたとき、『斬りたくない』って思うようになるんだって。授業では、虚の倒し方を教えられるでしょう?そういうときだって、『そんなことしたら、かわいそう』って思っちゃうらしいんだ」
「おかげで斬術の成績は落ち、気持ちもつられたせいで鬼道の成長も止まった」
「力が無いわけじゃないのにね。気付いたら池乃は進級も難しくなってたんだ」
(そんな…)
「コイツらは順調に出世街道を歩いていった。俺は完全に取り残されてたな」
「でも、そんなことで嫌いになんかならないから、ボクと浮竹はよく池乃と話すようにしてた。うまくいかなくても、諦めない姿勢がかっこよかったからさ。池乃なら、なんとか問題を乗り越えられるって信じてた」
「けど俺は、諦めることにしたんだ」
「…。あれは、ショックだったね」
「総隊長の態度からわかってたもんな。京楽と浮竹は特別だ。どんなに足掻いても、俺が肩を並べられるわけがなかった。時間が経つほどに、明白になる」
(悲しいお話だ…)
「ふたりが卒業して、入隊して、俺は独りになる時間が増えた。それで、よく考えるようになったんだよな。自分がどうして、霊術院に入ろうと思ったのか。思い返せばなんてことない。俺はただ、自分が持つ能力の使い方を教わりたかっただけだって、気付いた。虚退治とか、出世とか、どうでもよかった。そのまんまほったらかしたら迷惑になる力の抑え方を知れれば、それで満足のはずだったんだよ。なのに、いろんな連中と競い合わされて、戦えるようになるのがそこでの当たり前で、それが生き残る方法だみたいに、刷り込まれちまって。実際はそんなことないのにだ。刀は自分の心も映すもんだ。アイツも、俺も、元から争いを望んじゃいない。大事なことに気付けたと思った。そんで、退学届を出した。理由はこうだ。『命を奪うのみが平和維持であると指導するこの場は、私にとって大変居心地が悪いです‼︎』なんてな。もうちょっとちゃんとした文章だったと思うが、まぁ、そんな内容だ。ウケるだろ」
「…、なつみちゃん?大丈夫?」
涙を堪えんばかりの表情で、なつみは席から立ち上がり、力強く拍手を池乃に贈った。
「感動しました‼️池乃さん、かっこよすぎです‼️もうこれは、イケちゃん先輩と呼ばせてください‼️👏」
「イケ…、そりゃどうも💧」
「ぼくも同じことを思っていました。そしてお話を聞く限り、その斬魄刀はずばり」すっと抜いた。「ムッちゃんのことですね‼️」
「は?」
「えーーーッ⁉︎嘘ぉっ⁉︎」
池乃よりも京楽の反応の方が大きかった。
「ムッちゃんを選んだとき、ぼく、先生に言われたんですよ。『それは術院の外を知らない刀』だって。変な言い方だったから気になりましたけど、ぼくにアピールしてきたのがムッちゃんだけな感じだったから、『これが良いです❗️』って断言したんです」
「ちょっと見せてくれ」
「はい😊」
なつみはムッちゃんを池乃に渡した。
「…。本当だ。微かに覚えがある、この感覚」
すっかりなつみ色に染まっているが、池乃の記憶とリンクするものが伝わってくるらしい。
「そんな縁って、ある?(笑)」
「あぁ、あり得ねぇよ。コイツを黙らせるなんて、無茶苦茶だ」
顔をしかめ、首を横に振りつつ、ムッちゃんを返す。
「黙らせてなんかないですよ。いろいろ話し合って、納得できる選択をしてきただけです。しかも最近、ムッちゃんで斬ってないですし、ぼく。もっぱらガードにしか使ってなくて、昇華はこのマントでやってます。あ、魂葬はムッちゃんの役ですよ😊」
なつみには普通のことだが、池乃からすると。
「お前って、変な奴だな」
「む」
「変じゃないの。特別って言ってあげて」
「🥰💕💕💕」
照れちゃう照れちゃう。
「別に、バカにしたわけじゃねぇって」ちょっと顔を近づけて、イジワルそうに笑ってみせた。「気に入ったって言ったんだ」
「ッ🫢///」
「おーい。なつみちゃんはボクの恋人だって言ったろ」
池乃の鼻を摘んで自分の方を向けさせる京楽。
「あいよ〜。そんな怖い顔すんなって」
(はわわ〜、そんなに見つめ合っちゃ、合っちゃ〜💖)
このトキメキの内が伝わっていて欲しいような、欲しくないような。
「今までの京楽を思えば、すぐ別れちまうんだろうなって言ってやりてぇけど、木之本相手なら、大丈夫そうだな。常識をひっくり返しちまうお前なら、コイツの目が他に逸れることはないだろ。俺も興味湧くくらいだし。お前らが別れたって聞いたら、俺、ブチギレても良いか?😄」
「池乃もなつみちゃんに負けないくらい無茶苦茶だよ」
「ハハッ、お褒めの言葉、ありがてぇやな。そうだ。お前らがいつまでも仲睦まじく絡んでられるように」
(絡むって///💦)
「言い方他にあるだろ。嬉しいけど」
「あー…、付き合ってられるように?俺の願いを込めて、そうだなぁ、揃いの茶碗でも作ってやろうか」
「お茶碗かい!」
「なんだよ。文句か?」
「せっかくならさぁ、身につけられる物が良いな」
それを聞いて、なつみはボケをひらめいてしまった。
「簪(笑)」
「やめてよ!3本なんて多すぎるよ😄」
「あはは、洒落がわかる奴じゃねぇか。じゃあ簪で。なんて嘘だよ!怒んなよ!」
また戯れ合うオジサンたち。
(はぁ、堪らん😍)
「指輪!指輪でどうだ!恋人っつったら、ペアリングだろ!」
(きゃ〜💖)
「良いじゃん。それでいこう」
「お代はもらわねぇぞ。俺が好きで作るだけだからな。できたら連絡してやる」
「頼んだよ。持つべきものは友だちだね」
「金は要らねぇが、京楽に1個頼みがある」
「なに?」
「あ、2個だ」
「ん?」
「向こうにそろそろ行きてぇのと、木之本の連絡先が欲しいのと」
「1個目は快く手配してあげるよ。でも、2個目は何で?」
「相談役は多い方が良いだろ。それに、お前だけ独占しようとすんな。コイツは俺にとって、かわいい後輩なんだからよ」
京楽が反論しようと口を開きかけたとき。
「はい、どうぞ😊」
「えぇぇ、なつみちゃぁん💦」
なつみは伝令神機を差し出していた。
「ぼくもイケちゃん先輩とお話ししたいです。この出会いに乾杯ってヤツですよ😃」
「言い方💧」
「本人がそうしたいって言ってるんだ。目ぇつぶれ、京楽」
「はぁ」
ひょいひょいと片手を振って、どうぞご勝手にと示した。
「なつみちゃん、ボクとは」
「しません😊」
「クソォォ😖」
総隊長命令ですから。
「は?どういうこと?」
「気にすんな!」
「イケちゃん先輩で登録しよーっと」
「じゃあ俺は、なつみな」
「えー、嫌です」
「なんでだよ」
ここぞとばかりに京楽はなつみの肩を抱く。
「なつみちゃんは呼び捨てされるのが嫌いなんですぅ。木之本さんにしとけ!」
「呼ばせてくれよ。お前の友だちも下の名前で呼び捨てしてるだろ。俺らはもう友だちなんだから、なつみったら、なつみだ!な!」
「んー。お願いされたら『良いよ』って決めてるから、仕方ないですね。呼び捨てで許してあげます」
「一丁前に上から目線だな。小さいくせして」
「イケちゃん先輩、友だち少ないでしょ😑」
「3人いるから充分だ」
「ッ///」
「減らしてやろうか」
「無理だな。お前ら、俺のこと大好きじゃん」
なんとも不思議な人なのである。
「んー〜」
布団の中で軽く身体を伸ばしてから、壁にかけられた時計に目をやった。
「ぅわァアアアアアッ‼️‼️」
寝起き20秒で、よくこの声が出せる。
「どうしたのぉ…。お腹でも空いたぁ…?」
隣りには、寝巻き姿の京楽がまだ寝転んでいた。
「大変です❗️もう9時半回ってますよ❗️寝過ごし過ぎですぅーッ‼️」
身体を起こして、なつみは京楽をゆっさゆっさと揺すった。
「良いじゃないか。今日はお休みなんだし、昨日は夜更かししちゃったんだし」
「二度寝しようとしないでください❗️朝の自主トレするんですよね❗️ルーティンだって、言ってたじゃないですか❗️」
「………💤」
「むぅっ❗️💢」
精々言っても8時台には目覚めているだろうと思っていたので、1時間も過ぎ、なつみはひとりでもちゃんと起きようとした。しかし。
「痛たッ😣」
ベッドの上に脱ぎっぱなしで置かれていたバスローブに手を伸ばそうとした瞬間、お尻に痛みが走った。
「あたたたたーっ😫💦」
動けば動くほどに痛む。
「なんで……🫳」
騒がしいので、目は開けておいてやろうと、京楽は頬杖をついてなつみの様子を観察した。
「筋肉痛だな😏」
何とか四つん這いでバスローブを掴みに行ったなつみのお尻に注目。
「普段使わないとこ使ったからね。いっぱい😚」
ぺたんと座り、袖に腕を通した。右、左。そして斜め上を向いて、遠い目。
「休みで良かった……😑」
しみじみ…。
「(次の日休みじゃないと、エッチはできないということか…)なるほど…」
「何が?(笑)」
「あの、つかぬことをお聞きしますが、いつの間に服着てたんですか」
確か、おやすみの挨拶をしたときは、なつみと同じく全裸で、それに、髪も結んでいたはず。今は布団の中で、はだけてはいるが浴衣を着用し、髪を縛っていない格好でいる。
「んー…?」手を頭の後ろで組んで仰向けになり、ニヤつく。「自慢じゃないけど、ボクはキミの寝顔で2発イケるから」
「そいつぁ自慢じゃないですねぇ…」
しみじみと。
「ちなみに、朝日に照らされたキミのもち肌を見て、もう勃ってるよ」
「そいつぁ朝勃起ですねぇ…」
「よく知ってるね」
「ぼくもなってましたから…。何もしなくても、ただ勃ってましたよ…。勃ちつくす、ぼくのおちんちん…(今となっては懐かしい)」
しみじみと振り返る。
(隊長とエッチのお勉強した次の日、こんな痛んだっけ。覚えがないな。でも、知ってる痛みなんだよな……。いつだろ)
お尻が痛むが、ささっとシャワーを浴び、死覇装を着た。朝食の用意をしようと台所へ行くと、廊下にいる段階でおいしそうな香りが漂ってきた。覗くと、料理番さんが椅子に座って瀞霊廷通信を読んでいた。
「おはようございます」
「おはようございます」
「あの、それ…」
「おふたりの朝食です。装いますから、座ってお待ちください」
「わざわざすみません。ありがとうございます」
「旦那様もすぐ来られますか?」
「だと思います」
本当は寝ていたかった、というか、なつみとイチャついていたかった京楽だが、断固たる決意でシャワーを浴びると言うなつみについて、渋々起きていた。只今着替え中。さて、部屋着で来るか、死覇装で来るか。
食卓に着いて、なつみは京楽が現れるのを待った。
「お待たせ〜」
部屋着でした。
「服、そっちなんですね」
「だって、なつみちゃん、お尻痛くて運動したくないんでしょ?(笑)」
「後で卯ノ花隊長に、筋肉痛を和らげる方法を伺います!そしたらすぐトレーニング始めますよ。春水さんは先に始めていただいてても構いませんよ。見学も充分実になりますから」
「あら、そうですか。とりあえず、先に食べちゃお。変な時間になっちゃって、ごめんね」
料理番さんに一言を。
「いえ」
「お詫びに、後片付けはボクらでするよ」
なつみの頑固はテコでも動かない。コチョで動くかもしれないが。
「はわわわわぁ〜✨」
筋肉痛からの回復には、血行を良くすることだとお返事を受けたなつみは、マッサージやストレッチをしていた。そんな彼女の目の前では、京楽の自主トレーニングが繰り広げられている。部屋着で。
「むはぁぁぁあ〜✨」
「うわぁぁぁ〜✨」
「おうっ🫢ぷきゃ〜✨」
極秘の特訓であるため、なつみのリアクションのみでお伝えしていますが…。
「何だか照れちゃうな。そんなにボク、かっこいい?」
ぱっかーと開脚をしているなつみに話しかける。
「ときめいてテンション上げて、血流良くしようとしてるんですけど。春水さん見てるの、ほんと効果的っスよ❗️」
「……、微妙な褒め言葉、ありがとう😅」
開いた脚を閉じて、パタパタと腿を揺すって整える。
「どおりで、さっき前屈したまま『きゃー✨』って言ってたわけだ。騒いで盛り上がってただけなんだね」
「よく見てますね!あんなに速く動いてるのに。ぼく、移動してるのは見えてるんですけど、技の構えが見えませんでした。いちばん大事なとこですよね。なのに全然わかんなかったです。スゴイです!」
体操座りをするなつみの前に、「よいしょ」としゃがみ込む京楽。
「なつみちゃん、良いこと教えてあげる」
「何ですか、何ですか?✨」
興味津々に、2歩お尻を擦って前進するなつみ。
「相手の視界に突然姿を現すには、確かに速さが必要だけど、ただそれだけが方法じゃないんだよ」
「ほぅほぅ」
「一度相手の視界から自分を外す。これが結構有効なんだ」
「ほぉ!そっか。そしたら気付かれないように、後ろから慎重に距離を詰めればいいから、慌てず、確実に接近できますね」
「そう。相手の気を他に逸らすことができれば、自分のタイミングで」ちゅっ。「そいつに接触できるのさ」
「何でチュー挟んだんですか」
「ボクのお話に気を取られて、お口が無防備になってたから。ドキっとした?😚」
シュッ
ザッ
「あれ⁉️」
ひょいっ
ちゅぅぅぅッ💕💕💕
「んぅぅぅぅうッ💓💦」
ちょぽっ
「残念。キミの動きは手に取るように予測できるよ」
ちょんちょん♪
一瞬で何が起きたかというと、まずなつみが京楽の不意をついたつもりで彼の背後に回った。狙いは結った髪の束だ。引っ張って、ドッキリさせようとしたのだが、動きが見え、読まれてしまったため、逃げられてしまった。どこに消えたか探す間に抱き上げられてしまい、熱い口づけをされ、降ろしてもらったら、最後に鼻の頭をちょんちょんと軽くつっつかれた。
「お尻はもう痛くなさそうだね」
「治りましたよ」
口元をふきふき。
「あ!拭いたな〜。もう一回しちゃうぞ〜」
「やれるもんなら、どうぞ」
「おや。どこから来るのかな、その自信」
「失敗は成功のもとですから」
「じゃあ、キミが飽きるまで100回はチュッチュできるのかな」
「なら101回ですね」
「え、何で?」
「ぼくからしたら、ぼくの勝ちなんですよね」
「フッ…、勝ち逃げできるかな?」
「させはしないって話です」
「そう。それは、楽しみだな」
お出かけ前に、追いかけっこでひと汗かいておくなつみと京楽であった。
チュッ
「はい、1か〜い😚」
「むぅ💖」
綺麗にお着替えを済ませたふたりは、瀞霊廷のとある区画を歩いていた。
「この辺に画廊があるなんて、知りませんでした」
「そうだろうね。みんな、本屋さんの方に行っちゃうもんね」
静かで落ち着いた街角だ。
「あいつ、賑やかなのがそんなに好きじゃないんだ。呑みに誘っても来ないし。ノリが悪いんだよ。けど、こうして展示会を開いて、自分の作品を見てもらいたがる。たまには、新しい人と出会う刺激を求めてるのかもしれないね」
「かわいらしい方なんじゃないですか?」
「『かわいい』ね…」
「どうやってお知り合いになったんですか?春水さん、絵がお好きでしたっけ?」
「これがまた、とっても古い付き合いなんだよ」
目的地に到着。京楽が画廊の扉を開けた。
「こんにちは〜」
その呼びかけを受け、1人の男が迎えてくれる。
「おう、来たか、京楽」
「池乃、元気してた?」
「あぁ。お陰様でな。その格好からして…、今日はサボりか」
「休みだよ。ちゃんと七緒ちゃんに許可もらってんの。人聞の悪い言い方やめてよ」
「わりぃわりぃ。入れよ」
「お邪魔しま〜す」
「お、お邪魔しまーすっ」
「あ?」
京楽に続いて入ると、ようやくなつみの存在が認知してもらえた。
「連れがいたのか」
「うん。かわいいでしょ」
よく見えるようにと、京楽はなつみの肩を持って、自分の前に来させた。
「あぁ、そうだな。揃いの柄で似合ってるじゃねぇか。ちゃんと、仲の良い親子に見えるぜ」
「は?😦」「(おやこ?)😳?」
「養子だろ?違ぇの?」
何の疑いもなく言っている。
「ちぃがうよ‼️この子はボクの恋人❗️失礼なこと言わないでよ❗️😤」
「はぁ?嘘つけ。俺を騙そうったって、そうはいかねぇぞ(笑)」
彼は腕を組み、自信あり気だが、なつみが京楽の腕にすがり、悲しい表情を浮かべると、自身の誤解に気付いた。
「マジかよ。趣味変わったなぁ、お前。前連れてきたのと全然」
「おい」
言いたい事はもうわかるが、辛うじて途中で止められた。
「はいはい。口が滑っちまった」
男は反省して、なつみと目を合わせた。
「俺はここで作家をしてる池乃栄明だ。よろしくな」
「ぼくは、護廷十三隊三番隊第二十席、木之本なつみです。どうぞよろしくお願いします」
ぺこっと会釈した。
「あの、おふたりはおしゃべりされてますよね。ぼく、その間、池乃さんの作品見て周ってたいんですけど」
既に目に入った絵がかわいらしくて、早く近くで見たくなり、うずうずしているといった様子。足がパタパタしてしまう。
京楽はにこりと微笑んだ。
「コイツとのおしゃべりは、また後でで良いよ。一緒に見よ、なつみちゃん☺️」
池乃も頷いた。
「あぁ。ゆっくり見てけ。終わったら、奥に来い。茶を淹れとくからよ」
「ありがと」
「ありがとうございます😊」
縦に細長い室内をパーテーションで半分に区切り、壁面に絵画が飾られている。
「モフモフ〜💖」
触りたくなるような線の細さで、動物たちの毛並みが描かれている。しかしそれは陸上の方。海の生き物も、別の絵に描かれている。
「ツルツル、ピカピカ〜💖」
光が美しく表現されていた。
「温度も音も無いのに、あったかくて心地良い感じがしますね。どうしてこんなに描けるんだろう。本物を見ていないと」
「そうだよ。池乃は、あちこち旅に出て、絵の題材をさがしてるんだ」
「そんなことできるんですか?」
「才能がある人には、運も味方するんだよ😉」
他のも見ようと京楽に背中を押される。
「池乃の夢を眺められてるみたいで、楽しいよね。世界が愛で結ばれた、綺麗なところになれるっていう希望が写し出されてるみたいでさ」
絵の中にいる動物たちは、皆穏やかな表情を湛えている。親子であったり、群れであったり。例えひとりであっても、景色がその者に寄り添っているような。恐怖や怒りをひととき忘れる、ほっとした瞬間を切り取っているのかもしれない。
「素敵な人とお友だちで、羨ましいです」
「ふふっ、だったら、なつみちゃんもアイツのお友だちになると良いよ。キミたち、似てるところが多いから、絶対仲良くなれる」
ふたりは微笑み合った。
絵を見終えて、建物奥へ向かうと、ティーセットが並べられたテーブルを越えて、なつみはキャビネットに収められたグラスに目を奪われた。
「あ!あのコップ!」
近寄ってみると、やはりそうだ。
「春水さんのお家にあるのと同じですね!」
うがい用にと渡された、あのグラスと同じデザインの切子である。
「もしかして、お揃いで買ったんですか?😙」
もう、仲良しなんだから〜、なんて言いたげなお口。
池乃と京楽は席に着いて、ニマニマするなつみを笑って眺めていた。
「違うよ」
「俺の作品だ」
「え⁉️絵描きさんなだけじゃないんですか⁉️」
信じ難いといったご様子。
「池乃は、いろんなものを自分でつくっちゃうんだよね。ガラス細工もやるし、焼き物もやるし、家具とかも」
「すごい✨」
「意匠が独創的で、ボク、気に入ってるからさ、ウチにある物の大半を池乃に頼んで作ってもらってるんだよね」
「そうなんですね!ぼくてっきり、セレブ御用達なお店で購入されたものかと思ってました」
「高級は高級だよ(笑)」
なつみも空いている席に座った。
「まるで俺がぼったくってるみたいな言い方するなよ。コイツがな、勝手に金払っちまうんだよ。俺は材料費にちょっと上乗せしたくらいで良いって言ってんのにだ」
「黙って受け取っとけよ」
「こればっかだ」
「芸術作品の価値は作者が決めるもんじゃないの。欲しがるお客が評価して決めるもんなの」
「ただの趣味程度にしか考えてねぇのに、コイツがバカ払うから、下手なもん作れねぇんだよな」
「だから良いんだろ」
ふたりの掛け合いが微笑ましく、なつみはクスクスしていた。池乃に味方した運とは、京楽と仲良くなったことであると見えてしまったから。
「おい、紅茶だ。飲めるか?」
池乃がポットを差し出した。
「はいっ。いただきます。大好きです😊」
答えて、ソーサーごとそっと前に押した。
「ボク、ミルクティーじゃないと飲めな〜い😙」
ストレート派のお友だちに文句があるらしい。
「うるせぇ。だったらコンビニ行ってこい」
「あるわけないじゃん、そんなのぉ。しょうがないから、自販機行ってくる(笑)」
立つ素振りすら無いが。
「どっちもありません🤭))」
なつみは更にクスクスした。
「不便だよね〜」
「なんとかしろよ、金持ち」
「世の中お金で解決できないことも多いってこと、だね」
「お前じゃ説得力に欠けるけどな」
3人半ばそれぞれにつられて、マネするようにお茶に手が伸びた。
「池乃さんが、こんなにいろんなものをお作りになるのって、お金で解決できないことを得るためなんですか?」
カップをソーサーにカチャと戻して答えてくれる。
「良いことに気付くじゃねぇか、おチビさん」
「む!」
上げて下げられムッとする。
「悪い。木之本さんな(笑)」
「そーです」
「俺は一応、美術分野の中で絵を専攻してんだけどな。絵が上手くなりたいからって、それだけをやるのは間違ってると思うんだ。
どれだけ模写をしても、筆の動かし方や、色の選び方を試してみても、満足できないことがある。そんな時はな、思い切って、全然違うことに手を出してみるんだよ。そしたら、偏った考え方からじゃ想像もしなかった、自分らしい正解の方法ってのを見つけられたりするんだよな。
物を生み出すって、技術も然ることながら、経験も重要でな。視覚だけじゃなく、五感全部から吸収した思い出を、いかに自分の理想とするカタチに再現するかが、大きな鍵になってくる。
だから、ひとつのことを極めたいからって、それしかやらねぇと、すぐ限界が来ちまうんだ。不可能な難題にぶち当たっても、同じ失敗を繰り返すしかねぇ。その解決策は、限界の外にあるわけだから、俺は垣根を超えて、いろんなモノづくりを齧ってるってことな。
まぁ、金もそりゃちったぁ無きゃやってけねぇけど、創造に必要なのは、優れた造り手になろうとする心意気!寄り道を許せる余裕だ!目の前のことを否定したくなったら、何がどうあると自分の心がときめくか、しっかり把握してなきゃならねぇ。闇雲はただの迷惑。世界は広くて、自分を見捨てたりしないって信じると、こんな生き方ができるんだよな」
「池乃が世界を裏切らないから、見捨てられたりしないよ。ボクもね」
なつみに語りかけていた池乃の視線を、自分に向けるように京楽がそう言うものだから。
(ラブラブじゃ〜ん😚)
となつみは思った。
「あぁ、そうだな。お前と浮竹には世話になりまくってるから、裏切るなんざ無理だな」
「仲間なんだから、助け合うのは当然さ」
(仲間😊)
京楽の知らなかった一面が見られて、なつみは嬉しそう。
「春水さんから伺いました。おふたりは霊術院で同級生だったと。長いお付き合いで、とっても羨ましいです」
「なぁに言ってるのさ、なつみちゃん。ボクらのお付き合いも、末長く続いていくんだよ。コイツが嫉妬するくらい」
人前なのに、京楽は躊躇いなく恋人のほっぺを指の背で撫でた。なつみの方では恥ずかしくて、目を閉じて赤くなってしまった。
「俺の前で、やめてくれだとさ」
池乃が代弁してくれた。
「お前にもしてやろうか(笑)」
「やめろよ(笑)」
戯れ合うオジサンたち。
(ヤバいぃ。ハンサムなオジサマ同士のBLぅ〜💖)
それはそれで恥ずかしくて見てられない🫣
「あ、あの!池乃さんは、どちらの所属なんですか。鬼道衆ですか?」
京楽の腕をガードする池乃の動きが止まった。
「なんだ。教えてないのか?俺は、ただの画家だ。所属も何も無ねぇよ」
「えっ⁉︎ そうなんですか⁉︎」
「そうだよ」
「どうして。引退されたとかですか」
「違ぇ。俺は初めから、どこにも配属されてねぇよ。術院を中退したんだ」
「中退⁉︎」
「そう。池乃はボクらとは違う道を選んだんだよ。コイツらしい理由で」
なつみのお口はあんぐりとして、「信じられない」と顔に出していた。
旧友ふたりが、まだなつみが神社でよちよちしていた頃を振り返り、語ってくれる。
「池乃はね、それは優秀な生徒だったんだよ」
「言い過ぎんな。1年目の話だ、そんなの。京楽と浮竹は入学したときから、群を抜いて成績が良かった。俺はその少ぉし下くらいだったな」
「謙遜しなさんな。学年で3位だよ。ボクが1位で、浮竹も1位。つまり、実質2位」
「つまり、俺を優秀と呼べば、ある意味自画自賛ってわけだ」
「そうです。その通りで〜す」
「コイツな、『見て見て、ボク1位だよ〜』って自慢してくるヤツだったんだ。クソうぜぇ。だから、女子に逃げられるコイツを見る度にガッツポーズしてた」
「性格悪いぞ」
「お互い様だろ」
悪口も仲が良いからこそのトーン。
「差が出始めたのは、その翌年辺りからだな。斬魄刀を支給されてからだ」
「キミらの世代もそうだろうけど、ボクらの頃も、自分で1振選ぶやり方だったんだよ。成績順だから、ボクらは選びたい放題だった」
「なのにな…。俺を呼んだのは、曰く付きの斬魄刀だった」
(曰く付き?)
「刀のくせに、戦いを拒む厄介なヤツだったんだよ」
「そんなのあるわけないって、ボクも思ってたんだけど、本当だったんだよね。その斬魄刀を持つと、敵を前にしたとき、『斬りたくない』って思うようになるんだって。授業では、虚の倒し方を教えられるでしょう?そういうときだって、『そんなことしたら、かわいそう』って思っちゃうらしいんだ」
「おかげで斬術の成績は落ち、気持ちもつられたせいで鬼道の成長も止まった」
「力が無いわけじゃないのにね。気付いたら池乃は進級も難しくなってたんだ」
(そんな…)
「コイツらは順調に出世街道を歩いていった。俺は完全に取り残されてたな」
「でも、そんなことで嫌いになんかならないから、ボクと浮竹はよく池乃と話すようにしてた。うまくいかなくても、諦めない姿勢がかっこよかったからさ。池乃なら、なんとか問題を乗り越えられるって信じてた」
「けど俺は、諦めることにしたんだ」
「…。あれは、ショックだったね」
「総隊長の態度からわかってたもんな。京楽と浮竹は特別だ。どんなに足掻いても、俺が肩を並べられるわけがなかった。時間が経つほどに、明白になる」
(悲しいお話だ…)
「ふたりが卒業して、入隊して、俺は独りになる時間が増えた。それで、よく考えるようになったんだよな。自分がどうして、霊術院に入ろうと思ったのか。思い返せばなんてことない。俺はただ、自分が持つ能力の使い方を教わりたかっただけだって、気付いた。虚退治とか、出世とか、どうでもよかった。そのまんまほったらかしたら迷惑になる力の抑え方を知れれば、それで満足のはずだったんだよ。なのに、いろんな連中と競い合わされて、戦えるようになるのがそこでの当たり前で、それが生き残る方法だみたいに、刷り込まれちまって。実際はそんなことないのにだ。刀は自分の心も映すもんだ。アイツも、俺も、元から争いを望んじゃいない。大事なことに気付けたと思った。そんで、退学届を出した。理由はこうだ。『命を奪うのみが平和維持であると指導するこの場は、私にとって大変居心地が悪いです‼︎』なんてな。もうちょっとちゃんとした文章だったと思うが、まぁ、そんな内容だ。ウケるだろ」
「…、なつみちゃん?大丈夫?」
涙を堪えんばかりの表情で、なつみは席から立ち上がり、力強く拍手を池乃に贈った。
「感動しました‼️池乃さん、かっこよすぎです‼️もうこれは、イケちゃん先輩と呼ばせてください‼️👏」
「イケ…、そりゃどうも💧」
「ぼくも同じことを思っていました。そしてお話を聞く限り、その斬魄刀はずばり」すっと抜いた。「ムッちゃんのことですね‼️」
「は?」
「えーーーッ⁉︎嘘ぉっ⁉︎」
池乃よりも京楽の反応の方が大きかった。
「ムッちゃんを選んだとき、ぼく、先生に言われたんですよ。『それは術院の外を知らない刀』だって。変な言い方だったから気になりましたけど、ぼくにアピールしてきたのがムッちゃんだけな感じだったから、『これが良いです❗️』って断言したんです」
「ちょっと見せてくれ」
「はい😊」
なつみはムッちゃんを池乃に渡した。
「…。本当だ。微かに覚えがある、この感覚」
すっかりなつみ色に染まっているが、池乃の記憶とリンクするものが伝わってくるらしい。
「そんな縁って、ある?(笑)」
「あぁ、あり得ねぇよ。コイツを黙らせるなんて、無茶苦茶だ」
顔をしかめ、首を横に振りつつ、ムッちゃんを返す。
「黙らせてなんかないですよ。いろいろ話し合って、納得できる選択をしてきただけです。しかも最近、ムッちゃんで斬ってないですし、ぼく。もっぱらガードにしか使ってなくて、昇華はこのマントでやってます。あ、魂葬はムッちゃんの役ですよ😊」
なつみには普通のことだが、池乃からすると。
「お前って、変な奴だな」
「む」
「変じゃないの。特別って言ってあげて」
「🥰💕💕💕」
照れちゃう照れちゃう。
「別に、バカにしたわけじゃねぇって」ちょっと顔を近づけて、イジワルそうに笑ってみせた。「気に入ったって言ったんだ」
「ッ🫢///」
「おーい。なつみちゃんはボクの恋人だって言ったろ」
池乃の鼻を摘んで自分の方を向けさせる京楽。
「あいよ〜。そんな怖い顔すんなって」
(はわわ〜、そんなに見つめ合っちゃ、合っちゃ〜💖)
このトキメキの内が伝わっていて欲しいような、欲しくないような。
「今までの京楽を思えば、すぐ別れちまうんだろうなって言ってやりてぇけど、木之本相手なら、大丈夫そうだな。常識をひっくり返しちまうお前なら、コイツの目が他に逸れることはないだろ。俺も興味湧くくらいだし。お前らが別れたって聞いたら、俺、ブチギレても良いか?😄」
「池乃もなつみちゃんに負けないくらい無茶苦茶だよ」
「ハハッ、お褒めの言葉、ありがてぇやな。そうだ。お前らがいつまでも仲睦まじく絡んでられるように」
(絡むって///💦)
「言い方他にあるだろ。嬉しいけど」
「あー…、付き合ってられるように?俺の願いを込めて、そうだなぁ、揃いの茶碗でも作ってやろうか」
「お茶碗かい!」
「なんだよ。文句か?」
「せっかくならさぁ、身につけられる物が良いな」
それを聞いて、なつみはボケをひらめいてしまった。
「簪(笑)」
「やめてよ!3本なんて多すぎるよ😄」
「あはは、洒落がわかる奴じゃねぇか。じゃあ簪で。なんて嘘だよ!怒んなよ!」
また戯れ合うオジサンたち。
(はぁ、堪らん😍)
「指輪!指輪でどうだ!恋人っつったら、ペアリングだろ!」
(きゃ〜💖)
「良いじゃん。それでいこう」
「お代はもらわねぇぞ。俺が好きで作るだけだからな。できたら連絡してやる」
「頼んだよ。持つべきものは友だちだね」
「金は要らねぇが、京楽に1個頼みがある」
「なに?」
「あ、2個だ」
「ん?」
「向こうにそろそろ行きてぇのと、木之本の連絡先が欲しいのと」
「1個目は快く手配してあげるよ。でも、2個目は何で?」
「相談役は多い方が良いだろ。それに、お前だけ独占しようとすんな。コイツは俺にとって、かわいい後輩なんだからよ」
京楽が反論しようと口を開きかけたとき。
「はい、どうぞ😊」
「えぇぇ、なつみちゃぁん💦」
なつみは伝令神機を差し出していた。
「ぼくもイケちゃん先輩とお話ししたいです。この出会いに乾杯ってヤツですよ😃」
「言い方💧」
「本人がそうしたいって言ってるんだ。目ぇつぶれ、京楽」
「はぁ」
ひょいひょいと片手を振って、どうぞご勝手にと示した。
「なつみちゃん、ボクとは」
「しません😊」
「クソォォ😖」
総隊長命令ですから。
「は?どういうこと?」
「気にすんな!」
「イケちゃん先輩で登録しよーっと」
「じゃあ俺は、なつみな」
「えー、嫌です」
「なんでだよ」
ここぞとばかりに京楽はなつみの肩を抱く。
「なつみちゃんは呼び捨てされるのが嫌いなんですぅ。木之本さんにしとけ!」
「呼ばせてくれよ。お前の友だちも下の名前で呼び捨てしてるだろ。俺らはもう友だちなんだから、なつみったら、なつみだ!な!」
「んー。お願いされたら『良いよ』って決めてるから、仕方ないですね。呼び捨てで許してあげます」
「一丁前に上から目線だな。小さいくせして」
「イケちゃん先輩、友だち少ないでしょ😑」
「3人いるから充分だ」
「ッ///」
「減らしてやろうか」
「無理だな。お前ら、俺のこと大好きじゃん」
なんとも不思議な人なのである。