第八章
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お皿を再びエリンギの串揚げでパーティーさせているなつみ。
「ご馳走だぁ〜💖」
「稽古が止まって、迷惑だったんだからね」
「ごめんてばー」
お塩をふりふり。
「良いな〜、幸せそうで」
「デートでどこ連れてってもらったんだ?行ったんだろ?」
なつみが答えようとしたら、後ろから手が伸びてきて、エリンギを1本横取りされてしまった。
「あ❗️ああッ‼️⁉️」
「それが1回もデートしてないの😤」
なつみの頭にわざとらしく肘をかけた京楽がいた。いつの間に。
「また邪魔しに来たんですか?隊長」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、尾田くん。そうだよ。邪魔しに来たんだよ」盗んだエリンギを勝手に食べる。「ボクのエリンギはいつ食べてもらえるのか……」
「堂々と下ネタ言うんやめてくれへん?」
この席に居座る気満々で椅子を持って来た市丸まで参上。
「隊長まで💧今回は呼んでないですよ」
「ええやん。ケチケチせんといて」
市丸もエリンギを奪っていった。
「もう!ぼくのですよっ!」
「追加で頼めば良いだろ?」
「追加で頼んだところで、キミのエリンギは出てけーへんけどな。川ん中や(笑)」
「うるさいですぅッ‼️イジワル言わないでください‼️」
「知っとった?なつみちゃんてば、自分のおちんちん取れたら、ホルマリン漬けで取っとこうとしたんやで。記念やて。キモい言うたって(笑)」
「良いじゃないですか‼️男だった思い出の品、欲しかったんだもん」
「とっくにお魚の餌食だよ」
「むぅっ‼️」死守するエリンギをパクリ。「うまいー😋」
「ボクらあの日に熱いキスを交わしただけで、後何にもしてないからね。なつみちゃんが、仕事だ、お稽古だ、カラオケ大会だなんて言って、全然会ってくれないから‼️」
なつみの隣の席を分捕って、肩で彼女を小突いた。
「すいませんって😣💧」
「ベロちゅーなら、この子らもしてるやんな。やっと追いついたって感じ?まだまだやな〜、京楽さん♪」
「「「「「「「市丸隊長ッ‼️‼️」」」」」」」
思わず7人で反応してしまった。
「なんやの〜?誰とぉとは言うてへんやんか〜(笑)」
確かにそうだったが、もう遅い。恐る恐る京楽を伺うと。
「尾田くーん。明日覚えてろよ」
「ヒィィィッ😱」
お腹が痛くなる尾田であった。
尾田だけを犠牲にしてなるものかと、他6人が各々訴えの数々を並べ立ててうるさくする中、この状況を達観する者がいる。美沙だ。その美沙は更に達観している市丸を冷ややかに見つめる。
(自分のことは棚に上げちゃって)
なつみが自白したわけではないが、しばらく漂っていた体臭で推測してしまう。市丸が一線どころか二線を越えたのではなかろうかと。
するとその視線に気付いたのか、誰も見ていないことを良いことに、市丸はすっと人差し指を口元に当てた。
(あ〜ぁ、マジだったか)
右に首を傾げてから、お酒を飲む。
「わかった!わかった!それ以上騒ぐな」
一通り酔っ払いキス魔大暴れ事件の全容を把握した京楽がストップをかけた。
「とりあえず、下品な遊びをしたんじゃないんだね」
「してないです!してないです!」
「ならもう良いよ。なつみちゃんと付き合い始めたのはついこの間だし、それ以前のことは、目を瞑るよ。いちいち怒ったって仕方ないからね。だけど、これからはボクだけにして。良い?」
「はいっ。もちろんです///」
みんなの前でとっても恥ずかしいが、ここはちゃんとしなければ。と思っていたら、ちょんちょんとなつみの肩がつつかれた。
「なに?美沙ちゃん」
「今の言葉、京楽隊長にもあんたからそっくり言ってあげなきゃダメ」
「あ…、うん、そうだね」
たくさん頷いてから、京楽に向き直る。
「ぼくも、京楽隊長がお付き合いしていた人たちと自分を比べて、落ち込まないようにします」
「それから?」
「それから、…、他の人とちゅーしないでください…///」
極小の小声でのお願いだったが、隣にいた京楽にはしっかり届いていた。
「約束できるに決まってる。ただ、キミがしに来てくれないだけだよ😒」
「😖💦///」
雰囲気がよろしくないので、尾田が果敢にも話しかけた。
「きょーは!木之本の快気祝いで集まってるんだから、元気に笑ってなきゃダメだろ。隊長、虐めてやんないでください!」
「はぁ〜い」
京楽の気の無い返事。その後で、何故か奮起したなつみがガバッと立ち上がり、勢い任せに宣言してしまった。彼の気分を害してしまったことに対して、かなり責任を感じてしまったのだろう。
「こここ今夜❗️京楽隊長のおうちでお泊まりさせてください❗️」
前言撤回の意思は無いが、すぐに「ふきゅん💦」と両手で顔を覆った。恥ずかしい恥ずかしい!
突然の提案で動けなくなってしまったが、返事をしようと口を開いたのだが。
「あかんわ」
京楽の代わりに市丸が答えてしまった。
「何でキミが断るんだよ‼️」
「だぁって、明日朝早いんやもん、なつみちゃん。遠征行くで、遅刻されたら困んの。夜更かし厳禁や!」
「そんなぁ。ちゃんと寝ますし、ちゃんと起きるので、許可してくださいよ!京楽隊長と一緒にいる時間作りたいんです‼︎」
恥ずかしいくせして、こんなことを言ってしまうなつみ。
「なつみちゃん…」
放ったらかしていたことを反省しているのがわかったのか、京楽の気持ちはやや上向きに戻った。
「そないなことキミが言うたかて、京楽さんが悪い狼さんになってまって、寝かしてくれへんて。我慢できるわけない。なぁ」
なんて京楽本人に意見を求めたって、無駄なのは明らかだ。
「なつみちゃんがちゃんと起きられるって言ってるんだ。キミが何と言おうと、ボクはなつみちゃんのお願いを聞いてあげるつもりだよ。この子が望まないなら、変に手を出したりしないしね。来たいなら、おいで、なつみちゃん。今日は一緒に寝よう」
なつみのほっぺを愛おしそうに指の背で撫でた。
「はぁーい///」
ご馳走様ないちゃいちゃラブラブがお友だちの前で、よくも繰り広げられるものだ。すっかり惚気てしまっているなつみ。お兄ちゃんは心配でならない。
「ほんまに大丈夫なん?起きれたとしても、疲れとんのもあかんのやで」
「市丸隊長とだって、ずっと添い寝してたんですから、京楽隊長とだってできますよ!過保護やめてください!」
ぷんぷん。
「なんやの、この反抗期。わかった。そんなに言うんやったら、好きにしたらええわ。ボクはもう折れる。次は美沙ちゃんの番や。はい、このわがままちゃんを怒ったって」
言葉とは裏腹に、全く諦めていない市丸。しかし。
「あたしも、なつみの好きにすれば良いと思いますよ。あまりにも進展無さすぎて、かわいそうなんで」
「えー」
((美沙ちゃん…🥹))
美沙の意見がつまらないといったご様子の市丸に、周囲は疑問を抱く。
「市丸隊長」
「何?クーちゃん」
「隊長は、なつみと京楽隊長をくっつけたいのか、離したいのか、どっちなんですか」
応援したり、邪魔をしたりと。
「ええ質問やけど、答えは簡単や」
これまたなつみのお皿から横取りしたナスの串揚げを頬張る。
「ボクは逆を言うて、みんなの視野を広げたいだけや」
串をフリフリ。
「っていう遊びをしているんですよね」
ハルの目には、そう映るらしい。
「これはな」
ということで、食事会が終わったら、一旦家にお泊まりセットを取りに戻り、京楽宅へお邪魔することとなった。しかしその前に。
「すいませーん!りんごジュースくださーい!」
1杯引っかけなければ。
美沙と歩く帰り道。
「食べたね〜」
「お腹、パンパンじゃん、なつみ」
なつみのお腹で腹鼓を打ってやる美沙。
「ほぼお米とエリンギだな。どーしよ。歯磨きしてから行こっかな〜」
「お風呂の準備してくれるって言ってたね。一緒に入るの〜?😄」
「どうかなー。ぼく、男の時でも恥ずかしくて耐えられなかったのに、この身体だと、もっと恥ずかしいよ。できれば別々が良いな😅」
「はぁ……」
「んん、なんで美沙ちゃんがため息つくのさ」
「あんたね、もう片想いじゃないんだから、もっと自覚しなさいよ!一方的に好きなだけで良い時間は終わったの。ふたりで付き合わなきゃ」
「う、うん」
「口ではあぁ言えるけど、人の気持ちなんてすぐに変わるもんよ。好きでも、相手にしてもらえなかったら、他に気を向けたくなるもん。機嫌悪くなるのも当然でしょ。今回はちゃんと不満を言ってくれて、あんたも反省できたから良かったけど、そうじゃなかったら、もう別れてたと思うよ。京楽隊長がいくら約束を守ってくれても、あんたがそれに応えなきゃ、続かないんだからね」
「うん…。そうだね」
「今日は放ったらかしにしてた分、埋め合わせしてあげな?程々にだけど」
こくんこくんと頷いた。
「そうする。ぼくさ、元の身体になってから、いろんな人のところに会いに行ったんだけど、みんな嬉しそうにしてくれるんだよね。それが嬉しくてさ、もっと他の人のとこにも行って、挨拶したくなっちゃうの。『戻ったよー』って。京楽隊長のことは、あれだけの宣言をしてくれたから、信じてるだけで充分くっついていられると思ってたけど、違ったんだね。気持ちが向いてるだけじゃ足りなかった」
「そうよ。相手の幸せな顔を、自分の目で見て受け取れるから、自分も幸せになれるの。他の人とそれやってて、恋人とはしないなんて、ありえないでしょ」
「うん。だからいっぱいする❗️👍」
「程々にね」
「ほどほどに‼️」
時間は飛んで、なつみはちゃぷんとお風呂の中。
(京楽隊長の家のお風呂…)
ひとりで入る広めの浴槽。
(後から来るのかな。市丸隊長みたいに///)
先に頭と身体を洗ったので、思うことがある。
(石鹸の匂い〜💕)
染まってしまいますね。
手を出すといけないからと、なつみに一番風呂を譲った京楽だが、なつみは期待しないわけにはいかない。
(お風呂でイチャイチャ///)
ふにゃ〜っとお湯に溶けそうだった。にやにやと、あんなことやこんなことを考えて、肩、首、顎とどんどん沈んでいく。鼻まで浸かって、ハッとする。
ザバンッ
(ハッ‼️ダメダメ‼️今夜はプラトニックってヤツなんだから‼️)
イケナイ妄想は洗い流しましょう。
バスタオルを首にかけて、パジャマ姿で京楽のいる書斎の戸を開けた。
「お先にいただきました」
「うん。湯加減どうだった?」
「きもち、よかったです」
言い方よ。
「よかった」
書き物をしていた手を止めて、席を立つ京楽。入り口のところで立ったままでいるなつみの元へ、歩み寄った。
「まだ濡れてるじゃないか。ちゃんと乾かして」
タオルを頭に被せて、わしわし拭いてくれる。
「んー…、ちっちゃい子扱いやめてください」
「ごめん」
なつみの言葉に従い、京楽は拭くのをやめて、その手を彼女の肩に乗せた。そして、くるりと回れ右させる。
「さ、次はボクが入る番だから、キミは寝る準備をしてて」
そのまま押されて廊下を行進。
「はい。あの、寝室で髪乾かしてます」
「わかった」
誰のためなのか、この寝室にはドレッサーがある。と疑いたくなるが、京楽が自分のために置いて、使っているのだろう。机の上に香水の瓶があった。鼻を近づけると。
「京楽隊長のにほひ…///」
歴代の恋人たちの存在を意識してしまう原因は、ドレッサーだけでなく、ベッドの大きさにもある。和モダン調でシックにまとまっている、この鼻血が出そうなほど、色と線の整ったインテリアのど真ん中に、ズバンとマットレスが恐ろしいほど分厚く、何人と同時に寝ようとしたんだよと思いたくなるほど広々とした真っ白な四角が横たわっていたのだ。
「デケェ…💧」
ドレッサーの椅子を引いて、座ってみる。タオルで頭を拭き拭き。
「ランプもいちいちオシャレだなぁ…」
暖色の光の中、目がキラキラする。
「ここで、数々の女性たちが」
あぁ〜🙄とあぁ〜😣とあぁ〜🫣となる。
「ダメダメ。比べないの!」
頭を拭き拭き。
「静かなのヤだな。音楽かけよ」
伝令神機を手に取った。
♩♩♩〜、♫♫♫、、♪♩♩、、♪♪♩♬♩……
20分くらい経っただろうか。もう髪は乾いた。借りたタオルをどうするべきか、京楽にきかなければ。そろそろ上がっているんじゃないか。
脱衣所の前に立ち、閉まっている扉をノックする。
「はぁい」
「あの、タオルってどうしたら良いですか?」
向こうで足音がして、引き戸が横に開かれた。京楽は浴衣姿でなつみを見下ろしている。よかった。服を着ていた。
「入って。そこの籠に入れるんだ」
示された方にある大きめの籠に、近寄る。明日洗濯するらしい物が先に入っていた。いちばん上に…、おパ〜ンツ。
「むきゃ💖」
何故か一瞬ときめいてしまい、それを隠そうとササッとタオルをそれに被せた。
「パンツ見ちゃった?(笑)」
バレてた。が、いちおクルンと振り返ってから、プルプルッと首を横に振った。
振り返って京楽を見ると、彼は洗面台の前に置いたスツールに座り、右側で束ねて下ろした髪をタオルに挟んで、クックッと拭いていた。
「ごめんね。あともう少し乾かしておきたいんだ」
なつみは両手をにぎにぎしてからふわりと開き、とことこ京楽の後ろへ行って、作り出したものを彼の頭に被せてあげた。
「ん…、これ、何してるの?あったかいね」
京楽は左後ろを見返って言った。
「赤火砲の応用です。火をつけないくらいで、空気をあっためてます。夏の日みたいなイメージで😄」
「へぇ、便利だね。藍染隊長に教えてもらったの?」
「力の加減を調節するコツを教えてもらっただけで、こんなライフハックは自分で考えたものですよ。美沙ちゃんとお風呂屋さん行くと、『髪乾かない❗️』っていっつもイライラしてて、それ見てぼくもイライラしちゃってたんです。それでこれを思いつきました」
「そっか。彼女も髪長いもんね」
「ぼくは短いからすぐ乾くんですけど、美沙ちゃんを待ってるのめんどくさくて」
「ボクも手入れが大変でさ、時間かかっちゃうんだよ」
「短くしたらいいのに、って言いたいですけど、ダメなんですよね」
「…うん。そうだね」洗面台の傍に置かれた簪ふたつに視線が落ちる。「これを着けていたいから、伸ばしたままにしなきゃ。でも、本当を言うと、ボクは短い方が良いんだ。邪魔に思うことが多いからね。変にどこかに引っかかったり、挟んじゃったり、下ろしてると顔にかかったりしてさ。できることなら切っちゃいたいって、何度思ったことか」
「おじちゃんは、普段どうやって身につけてたんですか?」
「懐にでも入れてたんだろ。でもボクは見えるところにしておきたいから、髪に刺すしかないんだよ。あ〜あ、七緒ちゃんに渡せたらな」
「渡せたら、どうするんですか?」
「もしもの話だけど、七緒ちゃんにいつかこれを渡す日が来たら、ボク、イメチェンしちゃおっかなって、ぼんやり考えてたことがあるんだ。バッサリ髪切って、服の着こなしも、もっと自分好みに戻したい」
この男は自由人のようだが、案外そうでもないようだ。
「京楽隊長が望むなら、そうなりますよ」
「半々だから、わからないよ」
髪は乾いた。なつみは束を手に取ると、一度背中側で広げてから左側で小さな束を取って、京楽の左肩前に流した。そして、自分の右手を彼の右肩に乗せ、左手は彼の耳下辺りに添えてみた。
「切るとしたら、このくらいですか?😁」
鏡に映る、このやり取り。微笑む京楽の顔が見える。
「ちょっと短すぎないかい?もう少し下が良いなぁ」
「んーと、じゃあ、このくらいですか?」
左手を顎の高さまで下げる。
「どう思う?」
高さを合わせて、なつみは髪を折り上げてみた。鏡で確認。
「……///」
ふと鏡越しで視線が合ってしまい、照れてしまう。
「なつみちゃん…?」
手を放して、一歩下がるなつみ。
「似合うと思いますよ。けど、京楽隊長の髪、ウェーヴの癖があるので、多少上がって、短めの印象になるかもしれませんね」
「ふーん」膝に手をついて立ち上がる京楽。「もし、切るとしたら、参考にしておくよ」
「ぜひ…///」
「乾かしてくれて、ありがとう」
お礼の頭なでなでをしてから。
「そろそろ寝よっか」
なつみの背に手を添えて、京楽は移動の催促を。
「はいっ///」
狭い歩幅でトコトコ緊張気味に寝室へ向かうなつみは、京楽の手に触れられない距離を取っていた。
眠るばかりの寝室は、もう暗いままでかまわない。薄暗い中を、先になつみがベッドに上がった。
「よいしょ、よいしょ」
なつみが這う音が響く。
その音に、重みが重なる。反対側から来た京楽の音だ。
「このベッド、おっきすぎですよ。4人家族が川の字で寝れますって」
「ははっ、それは、なつみちゃんサイズの話でしょ(笑)」
「そんなことないですよ!ぼくの大の字が2個分でベッド半分ですよ!」
掛け布団の上で手脚を広げて寝るなつみは、隠すようなふざけ方。
「キミとボクの2人分サイズだよ。早く布団の中入って」
暗がりで耳がよく働くところに、心地良い京楽の声が届くものだから、余計にぽかぽかする。怒られないうちに、大人しく布団に潜り込もう。
「京楽隊長…」
入ったものの、どれくらい間隔を空けて寝ようか。
「ねぇ、ひとつお願いしていい?」
なつみが話しかけたのだが、遮られてしまった。
「何ですか?」
「なつみちゃんはボクの恋人になってくれたから、ボクとふたりでいる時は、下の名前で呼んでほしいな」
「😳」
「今ならちゅんちゅんだと、逆に萌るかな(笑)」
クククッと笑う声と振動が伝わる。
「お願い。『隊長』って堅苦しくてイヤなんだ」
京楽の手が、なつみの熱くなった耳に触れる。
「んんっ///」
出してはいけない、聞いてはいけない声が漏れてしまった。
「ごめん。今日は我慢しなきゃいけないんだよね」
慌ててその手は退いた。
京楽の方を向いて縮こまって寝転ぶなつみは、小さな声で試してみる。
「春水さん…///」
見えないはずだが、ほっぺが赤く染まったのがわかる。
嬉しくてもう一度手を伸ばしたいが、シーツの上で大人しくさせる姿勢を示す京楽。
「さっき言いかけたの、何だった?」
「あの、…、いえ、何でもないです」
「嘘。隠さないでよ」
もじもじする音が愛おしい。
「…、その、このベッドで、元カノさんたちも寝たのかなって、思っちゃって」
まさかな回答に面食らうが。
「これでは寝てないよ。そう言えば、新調して随分経つな…。安心して。ずっとひとりでしか使ってないから」
「こんなに広いのに、ひとりで?」
「うん。キミを想いながら」
「…‼︎そ、そんな、ぼく、こんなにいらないですって///」
「キミとで丁度だよ」
「市丸隊長なら嫌がるサイズですよ。こないだも愚痴ってきて。『なつみちゃんがおらんくなったから、また湯たんぽ出したわ』って。追い出したのあっちなのに。広いとさみしくて、寒く感じちゃうんですって。きょ、…春水さんも、そうじゃないんですか?」
「うん。そうかもね」
比べてしまうのはお互い様なのだろう。
「ね、市丸隊長とはどうやって寝てたの」
「どうやってって…」
明らかに拗ねている。
「くっついてたの?」
「…、はい。」
イラついたため息がした。
(あわっ、また、お、怒っちゃう😣)
京楽の不機嫌を察知したなつみは、ササッと詰め寄り、京楽の胸にくっついた。
「今はきょ、春水さんといます。市丸隊長のことは忘れてください。ぼくも忘れます。というか、もう、寝ましょう。ね」
そして舞い降りる閃き。
「そうだ‼︎デートの約束しましょう!今度のお休みの日に、おでかけしましょうよ。ダメですか?」
この懸命さを前に、紳士を保つのは一苦労だが、腕を彼女の背に回すだけで止まろう。
「ダメなもんか。そうしよう。今度こそ、ちゃんとデートに行こう」
「ちゃんとですよ。がんばってくださいね」
仕事をサボって溜めすぎて、その日を台無しにしてしまった思い出が蘇る。
「肝に銘じるよ。任せて」
頼れる返事に嬉しくなって、なつみは京楽の胸に頬を寄せた。
「お願いします😌」
自分と同じ髪の匂いを感じる。もう限界か。今夜に限っては、この高まりが邪であるとされるが、それを誘う香りを吸うリスクを負っても、深呼吸をして心を静めることにする。
「それじゃあ、約束ね。よし。寝よう!おやすみ、なつみちゃん」
彼女の後頭部を優しくポンポンした。
「はい。おやすみなさい。きょ…。春水さん」
「フフッ。慣れないね(笑)」
ちゅ……
「⁉︎」
笑っていた京楽の頬に、予期せず柔らかいものが触れた。
「お、おやすみなさいの、ちゅぅです///」
(コイツ〜〜〜ッ💢💕)
好きの気持ちがちゃんと京楽に向いていることを上手に示せて、勝手に満足しているなつみの隣で、内なる悪い狼と葛藤する京楽は大いに不満だった。
「ほどほどです😊(軽いキスは挨拶だもん。プラトニック、プラトニック♪)」
「わかったから、寝なさい😌(ガルルルルル、夢の中でめちゃくちゃに抱いてやる、ガルルルル🐺)」
なんと甘酸っぱい夜。子供たちのお泊まり会並みにお預けな夜だ。
「ご馳走だぁ〜💖」
「稽古が止まって、迷惑だったんだからね」
「ごめんてばー」
お塩をふりふり。
「良いな〜、幸せそうで」
「デートでどこ連れてってもらったんだ?行ったんだろ?」
なつみが答えようとしたら、後ろから手が伸びてきて、エリンギを1本横取りされてしまった。
「あ❗️ああッ‼️⁉️」
「それが1回もデートしてないの😤」
なつみの頭にわざとらしく肘をかけた京楽がいた。いつの間に。
「また邪魔しに来たんですか?隊長」
「人聞きの悪いこと言わないでよ、尾田くん。そうだよ。邪魔しに来たんだよ」盗んだエリンギを勝手に食べる。「ボクのエリンギはいつ食べてもらえるのか……」
「堂々と下ネタ言うんやめてくれへん?」
この席に居座る気満々で椅子を持って来た市丸まで参上。
「隊長まで💧今回は呼んでないですよ」
「ええやん。ケチケチせんといて」
市丸もエリンギを奪っていった。
「もう!ぼくのですよっ!」
「追加で頼めば良いだろ?」
「追加で頼んだところで、キミのエリンギは出てけーへんけどな。川ん中や(笑)」
「うるさいですぅッ‼️イジワル言わないでください‼️」
「知っとった?なつみちゃんてば、自分のおちんちん取れたら、ホルマリン漬けで取っとこうとしたんやで。記念やて。キモい言うたって(笑)」
「良いじゃないですか‼️男だった思い出の品、欲しかったんだもん」
「とっくにお魚の餌食だよ」
「むぅっ‼️」死守するエリンギをパクリ。「うまいー😋」
「ボクらあの日に熱いキスを交わしただけで、後何にもしてないからね。なつみちゃんが、仕事だ、お稽古だ、カラオケ大会だなんて言って、全然会ってくれないから‼️」
なつみの隣の席を分捕って、肩で彼女を小突いた。
「すいませんって😣💧」
「ベロちゅーなら、この子らもしてるやんな。やっと追いついたって感じ?まだまだやな〜、京楽さん♪」
「「「「「「「市丸隊長ッ‼️‼️」」」」」」」
思わず7人で反応してしまった。
「なんやの〜?誰とぉとは言うてへんやんか〜(笑)」
確かにそうだったが、もう遅い。恐る恐る京楽を伺うと。
「尾田くーん。明日覚えてろよ」
「ヒィィィッ😱」
お腹が痛くなる尾田であった。
尾田だけを犠牲にしてなるものかと、他6人が各々訴えの数々を並べ立ててうるさくする中、この状況を達観する者がいる。美沙だ。その美沙は更に達観している市丸を冷ややかに見つめる。
(自分のことは棚に上げちゃって)
なつみが自白したわけではないが、しばらく漂っていた体臭で推測してしまう。市丸が一線どころか二線を越えたのではなかろうかと。
するとその視線に気付いたのか、誰も見ていないことを良いことに、市丸はすっと人差し指を口元に当てた。
(あ〜ぁ、マジだったか)
右に首を傾げてから、お酒を飲む。
「わかった!わかった!それ以上騒ぐな」
一通り酔っ払いキス魔大暴れ事件の全容を把握した京楽がストップをかけた。
「とりあえず、下品な遊びをしたんじゃないんだね」
「してないです!してないです!」
「ならもう良いよ。なつみちゃんと付き合い始めたのはついこの間だし、それ以前のことは、目を瞑るよ。いちいち怒ったって仕方ないからね。だけど、これからはボクだけにして。良い?」
「はいっ。もちろんです///」
みんなの前でとっても恥ずかしいが、ここはちゃんとしなければ。と思っていたら、ちょんちょんとなつみの肩がつつかれた。
「なに?美沙ちゃん」
「今の言葉、京楽隊長にもあんたからそっくり言ってあげなきゃダメ」
「あ…、うん、そうだね」
たくさん頷いてから、京楽に向き直る。
「ぼくも、京楽隊長がお付き合いしていた人たちと自分を比べて、落ち込まないようにします」
「それから?」
「それから、…、他の人とちゅーしないでください…///」
極小の小声でのお願いだったが、隣にいた京楽にはしっかり届いていた。
「約束できるに決まってる。ただ、キミがしに来てくれないだけだよ😒」
「😖💦///」
雰囲気がよろしくないので、尾田が果敢にも話しかけた。
「きょーは!木之本の快気祝いで集まってるんだから、元気に笑ってなきゃダメだろ。隊長、虐めてやんないでください!」
「はぁ〜い」
京楽の気の無い返事。その後で、何故か奮起したなつみがガバッと立ち上がり、勢い任せに宣言してしまった。彼の気分を害してしまったことに対して、かなり責任を感じてしまったのだろう。
「こここ今夜❗️京楽隊長のおうちでお泊まりさせてください❗️」
前言撤回の意思は無いが、すぐに「ふきゅん💦」と両手で顔を覆った。恥ずかしい恥ずかしい!
突然の提案で動けなくなってしまったが、返事をしようと口を開いたのだが。
「あかんわ」
京楽の代わりに市丸が答えてしまった。
「何でキミが断るんだよ‼️」
「だぁって、明日朝早いんやもん、なつみちゃん。遠征行くで、遅刻されたら困んの。夜更かし厳禁や!」
「そんなぁ。ちゃんと寝ますし、ちゃんと起きるので、許可してくださいよ!京楽隊長と一緒にいる時間作りたいんです‼︎」
恥ずかしいくせして、こんなことを言ってしまうなつみ。
「なつみちゃん…」
放ったらかしていたことを反省しているのがわかったのか、京楽の気持ちはやや上向きに戻った。
「そないなことキミが言うたかて、京楽さんが悪い狼さんになってまって、寝かしてくれへんて。我慢できるわけない。なぁ」
なんて京楽本人に意見を求めたって、無駄なのは明らかだ。
「なつみちゃんがちゃんと起きられるって言ってるんだ。キミが何と言おうと、ボクはなつみちゃんのお願いを聞いてあげるつもりだよ。この子が望まないなら、変に手を出したりしないしね。来たいなら、おいで、なつみちゃん。今日は一緒に寝よう」
なつみのほっぺを愛おしそうに指の背で撫でた。
「はぁーい///」
ご馳走様ないちゃいちゃラブラブがお友だちの前で、よくも繰り広げられるものだ。すっかり惚気てしまっているなつみ。お兄ちゃんは心配でならない。
「ほんまに大丈夫なん?起きれたとしても、疲れとんのもあかんのやで」
「市丸隊長とだって、ずっと添い寝してたんですから、京楽隊長とだってできますよ!過保護やめてください!」
ぷんぷん。
「なんやの、この反抗期。わかった。そんなに言うんやったら、好きにしたらええわ。ボクはもう折れる。次は美沙ちゃんの番や。はい、このわがままちゃんを怒ったって」
言葉とは裏腹に、全く諦めていない市丸。しかし。
「あたしも、なつみの好きにすれば良いと思いますよ。あまりにも進展無さすぎて、かわいそうなんで」
「えー」
((美沙ちゃん…🥹))
美沙の意見がつまらないといったご様子の市丸に、周囲は疑問を抱く。
「市丸隊長」
「何?クーちゃん」
「隊長は、なつみと京楽隊長をくっつけたいのか、離したいのか、どっちなんですか」
応援したり、邪魔をしたりと。
「ええ質問やけど、答えは簡単や」
これまたなつみのお皿から横取りしたナスの串揚げを頬張る。
「ボクは逆を言うて、みんなの視野を広げたいだけや」
串をフリフリ。
「っていう遊びをしているんですよね」
ハルの目には、そう映るらしい。
「これはな」
ということで、食事会が終わったら、一旦家にお泊まりセットを取りに戻り、京楽宅へお邪魔することとなった。しかしその前に。
「すいませーん!りんごジュースくださーい!」
1杯引っかけなければ。
美沙と歩く帰り道。
「食べたね〜」
「お腹、パンパンじゃん、なつみ」
なつみのお腹で腹鼓を打ってやる美沙。
「ほぼお米とエリンギだな。どーしよ。歯磨きしてから行こっかな〜」
「お風呂の準備してくれるって言ってたね。一緒に入るの〜?😄」
「どうかなー。ぼく、男の時でも恥ずかしくて耐えられなかったのに、この身体だと、もっと恥ずかしいよ。できれば別々が良いな😅」
「はぁ……」
「んん、なんで美沙ちゃんがため息つくのさ」
「あんたね、もう片想いじゃないんだから、もっと自覚しなさいよ!一方的に好きなだけで良い時間は終わったの。ふたりで付き合わなきゃ」
「う、うん」
「口ではあぁ言えるけど、人の気持ちなんてすぐに変わるもんよ。好きでも、相手にしてもらえなかったら、他に気を向けたくなるもん。機嫌悪くなるのも当然でしょ。今回はちゃんと不満を言ってくれて、あんたも反省できたから良かったけど、そうじゃなかったら、もう別れてたと思うよ。京楽隊長がいくら約束を守ってくれても、あんたがそれに応えなきゃ、続かないんだからね」
「うん…。そうだね」
「今日は放ったらかしにしてた分、埋め合わせしてあげな?程々にだけど」
こくんこくんと頷いた。
「そうする。ぼくさ、元の身体になってから、いろんな人のところに会いに行ったんだけど、みんな嬉しそうにしてくれるんだよね。それが嬉しくてさ、もっと他の人のとこにも行って、挨拶したくなっちゃうの。『戻ったよー』って。京楽隊長のことは、あれだけの宣言をしてくれたから、信じてるだけで充分くっついていられると思ってたけど、違ったんだね。気持ちが向いてるだけじゃ足りなかった」
「そうよ。相手の幸せな顔を、自分の目で見て受け取れるから、自分も幸せになれるの。他の人とそれやってて、恋人とはしないなんて、ありえないでしょ」
「うん。だからいっぱいする❗️👍」
「程々にね」
「ほどほどに‼️」
時間は飛んで、なつみはちゃぷんとお風呂の中。
(京楽隊長の家のお風呂…)
ひとりで入る広めの浴槽。
(後から来るのかな。市丸隊長みたいに///)
先に頭と身体を洗ったので、思うことがある。
(石鹸の匂い〜💕)
染まってしまいますね。
手を出すといけないからと、なつみに一番風呂を譲った京楽だが、なつみは期待しないわけにはいかない。
(お風呂でイチャイチャ///)
ふにゃ〜っとお湯に溶けそうだった。にやにやと、あんなことやこんなことを考えて、肩、首、顎とどんどん沈んでいく。鼻まで浸かって、ハッとする。
ザバンッ
(ハッ‼️ダメダメ‼️今夜はプラトニックってヤツなんだから‼️)
イケナイ妄想は洗い流しましょう。
バスタオルを首にかけて、パジャマ姿で京楽のいる書斎の戸を開けた。
「お先にいただきました」
「うん。湯加減どうだった?」
「きもち、よかったです」
言い方よ。
「よかった」
書き物をしていた手を止めて、席を立つ京楽。入り口のところで立ったままでいるなつみの元へ、歩み寄った。
「まだ濡れてるじゃないか。ちゃんと乾かして」
タオルを頭に被せて、わしわし拭いてくれる。
「んー…、ちっちゃい子扱いやめてください」
「ごめん」
なつみの言葉に従い、京楽は拭くのをやめて、その手を彼女の肩に乗せた。そして、くるりと回れ右させる。
「さ、次はボクが入る番だから、キミは寝る準備をしてて」
そのまま押されて廊下を行進。
「はい。あの、寝室で髪乾かしてます」
「わかった」
誰のためなのか、この寝室にはドレッサーがある。と疑いたくなるが、京楽が自分のために置いて、使っているのだろう。机の上に香水の瓶があった。鼻を近づけると。
「京楽隊長のにほひ…///」
歴代の恋人たちの存在を意識してしまう原因は、ドレッサーだけでなく、ベッドの大きさにもある。和モダン調でシックにまとまっている、この鼻血が出そうなほど、色と線の整ったインテリアのど真ん中に、ズバンとマットレスが恐ろしいほど分厚く、何人と同時に寝ようとしたんだよと思いたくなるほど広々とした真っ白な四角が横たわっていたのだ。
「デケェ…💧」
ドレッサーの椅子を引いて、座ってみる。タオルで頭を拭き拭き。
「ランプもいちいちオシャレだなぁ…」
暖色の光の中、目がキラキラする。
「ここで、数々の女性たちが」
あぁ〜🙄とあぁ〜😣とあぁ〜🫣となる。
「ダメダメ。比べないの!」
頭を拭き拭き。
「静かなのヤだな。音楽かけよ」
伝令神機を手に取った。
♩♩♩〜、♫♫♫、、♪♩♩、、♪♪♩♬♩……
20分くらい経っただろうか。もう髪は乾いた。借りたタオルをどうするべきか、京楽にきかなければ。そろそろ上がっているんじゃないか。
脱衣所の前に立ち、閉まっている扉をノックする。
「はぁい」
「あの、タオルってどうしたら良いですか?」
向こうで足音がして、引き戸が横に開かれた。京楽は浴衣姿でなつみを見下ろしている。よかった。服を着ていた。
「入って。そこの籠に入れるんだ」
示された方にある大きめの籠に、近寄る。明日洗濯するらしい物が先に入っていた。いちばん上に…、おパ〜ンツ。
「むきゃ💖」
何故か一瞬ときめいてしまい、それを隠そうとササッとタオルをそれに被せた。
「パンツ見ちゃった?(笑)」
バレてた。が、いちおクルンと振り返ってから、プルプルッと首を横に振った。
振り返って京楽を見ると、彼は洗面台の前に置いたスツールに座り、右側で束ねて下ろした髪をタオルに挟んで、クックッと拭いていた。
「ごめんね。あともう少し乾かしておきたいんだ」
なつみは両手をにぎにぎしてからふわりと開き、とことこ京楽の後ろへ行って、作り出したものを彼の頭に被せてあげた。
「ん…、これ、何してるの?あったかいね」
京楽は左後ろを見返って言った。
「赤火砲の応用です。火をつけないくらいで、空気をあっためてます。夏の日みたいなイメージで😄」
「へぇ、便利だね。藍染隊長に教えてもらったの?」
「力の加減を調節するコツを教えてもらっただけで、こんなライフハックは自分で考えたものですよ。美沙ちゃんとお風呂屋さん行くと、『髪乾かない❗️』っていっつもイライラしてて、それ見てぼくもイライラしちゃってたんです。それでこれを思いつきました」
「そっか。彼女も髪長いもんね」
「ぼくは短いからすぐ乾くんですけど、美沙ちゃんを待ってるのめんどくさくて」
「ボクも手入れが大変でさ、時間かかっちゃうんだよ」
「短くしたらいいのに、って言いたいですけど、ダメなんですよね」
「…うん。そうだね」洗面台の傍に置かれた簪ふたつに視線が落ちる。「これを着けていたいから、伸ばしたままにしなきゃ。でも、本当を言うと、ボクは短い方が良いんだ。邪魔に思うことが多いからね。変にどこかに引っかかったり、挟んじゃったり、下ろしてると顔にかかったりしてさ。できることなら切っちゃいたいって、何度思ったことか」
「おじちゃんは、普段どうやって身につけてたんですか?」
「懐にでも入れてたんだろ。でもボクは見えるところにしておきたいから、髪に刺すしかないんだよ。あ〜あ、七緒ちゃんに渡せたらな」
「渡せたら、どうするんですか?」
「もしもの話だけど、七緒ちゃんにいつかこれを渡す日が来たら、ボク、イメチェンしちゃおっかなって、ぼんやり考えてたことがあるんだ。バッサリ髪切って、服の着こなしも、もっと自分好みに戻したい」
この男は自由人のようだが、案外そうでもないようだ。
「京楽隊長が望むなら、そうなりますよ」
「半々だから、わからないよ」
髪は乾いた。なつみは束を手に取ると、一度背中側で広げてから左側で小さな束を取って、京楽の左肩前に流した。そして、自分の右手を彼の右肩に乗せ、左手は彼の耳下辺りに添えてみた。
「切るとしたら、このくらいですか?😁」
鏡に映る、このやり取り。微笑む京楽の顔が見える。
「ちょっと短すぎないかい?もう少し下が良いなぁ」
「んーと、じゃあ、このくらいですか?」
左手を顎の高さまで下げる。
「どう思う?」
高さを合わせて、なつみは髪を折り上げてみた。鏡で確認。
「……///」
ふと鏡越しで視線が合ってしまい、照れてしまう。
「なつみちゃん…?」
手を放して、一歩下がるなつみ。
「似合うと思いますよ。けど、京楽隊長の髪、ウェーヴの癖があるので、多少上がって、短めの印象になるかもしれませんね」
「ふーん」膝に手をついて立ち上がる京楽。「もし、切るとしたら、参考にしておくよ」
「ぜひ…///」
「乾かしてくれて、ありがとう」
お礼の頭なでなでをしてから。
「そろそろ寝よっか」
なつみの背に手を添えて、京楽は移動の催促を。
「はいっ///」
狭い歩幅でトコトコ緊張気味に寝室へ向かうなつみは、京楽の手に触れられない距離を取っていた。
眠るばかりの寝室は、もう暗いままでかまわない。薄暗い中を、先になつみがベッドに上がった。
「よいしょ、よいしょ」
なつみが這う音が響く。
その音に、重みが重なる。反対側から来た京楽の音だ。
「このベッド、おっきすぎですよ。4人家族が川の字で寝れますって」
「ははっ、それは、なつみちゃんサイズの話でしょ(笑)」
「そんなことないですよ!ぼくの大の字が2個分でベッド半分ですよ!」
掛け布団の上で手脚を広げて寝るなつみは、隠すようなふざけ方。
「キミとボクの2人分サイズだよ。早く布団の中入って」
暗がりで耳がよく働くところに、心地良い京楽の声が届くものだから、余計にぽかぽかする。怒られないうちに、大人しく布団に潜り込もう。
「京楽隊長…」
入ったものの、どれくらい間隔を空けて寝ようか。
「ねぇ、ひとつお願いしていい?」
なつみが話しかけたのだが、遮られてしまった。
「何ですか?」
「なつみちゃんはボクの恋人になってくれたから、ボクとふたりでいる時は、下の名前で呼んでほしいな」
「😳」
「今ならちゅんちゅんだと、逆に萌るかな(笑)」
クククッと笑う声と振動が伝わる。
「お願い。『隊長』って堅苦しくてイヤなんだ」
京楽の手が、なつみの熱くなった耳に触れる。
「んんっ///」
出してはいけない、聞いてはいけない声が漏れてしまった。
「ごめん。今日は我慢しなきゃいけないんだよね」
慌ててその手は退いた。
京楽の方を向いて縮こまって寝転ぶなつみは、小さな声で試してみる。
「春水さん…///」
見えないはずだが、ほっぺが赤く染まったのがわかる。
嬉しくてもう一度手を伸ばしたいが、シーツの上で大人しくさせる姿勢を示す京楽。
「さっき言いかけたの、何だった?」
「あの、…、いえ、何でもないです」
「嘘。隠さないでよ」
もじもじする音が愛おしい。
「…、その、このベッドで、元カノさんたちも寝たのかなって、思っちゃって」
まさかな回答に面食らうが。
「これでは寝てないよ。そう言えば、新調して随分経つな…。安心して。ずっとひとりでしか使ってないから」
「こんなに広いのに、ひとりで?」
「うん。キミを想いながら」
「…‼︎そ、そんな、ぼく、こんなにいらないですって///」
「キミとで丁度だよ」
「市丸隊長なら嫌がるサイズですよ。こないだも愚痴ってきて。『なつみちゃんがおらんくなったから、また湯たんぽ出したわ』って。追い出したのあっちなのに。広いとさみしくて、寒く感じちゃうんですって。きょ、…春水さんも、そうじゃないんですか?」
「うん。そうかもね」
比べてしまうのはお互い様なのだろう。
「ね、市丸隊長とはどうやって寝てたの」
「どうやってって…」
明らかに拗ねている。
「くっついてたの?」
「…、はい。」
イラついたため息がした。
(あわっ、また、お、怒っちゃう😣)
京楽の不機嫌を察知したなつみは、ササッと詰め寄り、京楽の胸にくっついた。
「今はきょ、春水さんといます。市丸隊長のことは忘れてください。ぼくも忘れます。というか、もう、寝ましょう。ね」
そして舞い降りる閃き。
「そうだ‼︎デートの約束しましょう!今度のお休みの日に、おでかけしましょうよ。ダメですか?」
この懸命さを前に、紳士を保つのは一苦労だが、腕を彼女の背に回すだけで止まろう。
「ダメなもんか。そうしよう。今度こそ、ちゃんとデートに行こう」
「ちゃんとですよ。がんばってくださいね」
仕事をサボって溜めすぎて、その日を台無しにしてしまった思い出が蘇る。
「肝に銘じるよ。任せて」
頼れる返事に嬉しくなって、なつみは京楽の胸に頬を寄せた。
「お願いします😌」
自分と同じ髪の匂いを感じる。もう限界か。今夜に限っては、この高まりが邪であるとされるが、それを誘う香りを吸うリスクを負っても、深呼吸をして心を静めることにする。
「それじゃあ、約束ね。よし。寝よう!おやすみ、なつみちゃん」
彼女の後頭部を優しくポンポンした。
「はい。おやすみなさい。きょ…。春水さん」
「フフッ。慣れないね(笑)」
ちゅ……
「⁉︎」
笑っていた京楽の頬に、予期せず柔らかいものが触れた。
「お、おやすみなさいの、ちゅぅです///」
(コイツ〜〜〜ッ💢💕)
好きの気持ちがちゃんと京楽に向いていることを上手に示せて、勝手に満足しているなつみの隣で、内なる悪い狼と葛藤する京楽は大いに不満だった。
「ほどほどです😊(軽いキスは挨拶だもん。プラトニック、プラトニック♪)」
「わかったから、寝なさい😌(ガルルルルル、夢の中でめちゃくちゃに抱いてやる、ガルルルル🐺)」
なんと甘酸っぱい夜。子供たちのお泊まり会並みにお預けな夜だ。