第七章
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3日後、花束とお団子を持って、なつみは京楽のところへやって来た。仕事帰りである。八番隊舎で京楽の身体が空くのを待ち、合流して一緒に京楽家の墓へ向かった。
墓標の前に到着。
「ここだよ。兄貴と義姉さんがいたところ。石の裏を見てごらん。2人の名前があるよ」
言われた通りになつみは墓石の裏側へ回ってみた。
「おぉー…」
と声を出してみたが。
「どれですか?」
ズコッ💦
「こら‼️」
「すいません💦名前覚えてなくて💦」
「まったくもー。ボクもキミのこと言えないけどさぁ。ほら、こことここ」
「おぉ〜。これがおじちゃん。名前、長くないですか?ミドルネームかっちょいい」
京楽が指差した名前を自分の指で、上から下へなぞっていく。
「そう?ボクも本名は長いんだよ。京楽次郎総蔵佐春水だから」
「長っ⁉️」
「ちゅんちゅんは入ってないよ」
「むっ///」
恥ずかしくなって、とことこと表側に帰った。
「フフッ☺️」
汲んできた水と雑巾で軽くお掃除し、花を飾り、お団子をお供えする。
「しまったなー。酒も持って来れば良かった」
「おじちゃんもお酒好きだったんですか?」
「うん。よく一緒に飲んでたよ。味の好みが似てるんだよね」
「ふふふっ、血の繋がった家族って、羨ましいです😊」
京楽の笑顔はちょっぴり悲しそうだった。
「手を合わそうか」
「はい!」
墓の前で静かに手を合わせる京楽となつみ。冬の寒さのせいか、2人の距離は自然と近くなっていた。だから静かに心の中で挨拶していたつもりの言葉が、ぽろりと漏れてしまったのを、京楽に聞かれてしまった。
「バカ…」
「…。もっと言ってやって(笑)」
「///💦」
では、お言葉に甘えて、恥ずかしいけど、ここには京楽しか他にいないのだから。
「おじちゃんのバカー‼️‼️何死んじゃってんのー‼️‼️約束破るな‼️バカー‼️‼️奥さんだって、手紙くれるって言ったのにー‼️‼️嘘つきーッ‼️‼️」
こちょこちょ
「ぶわっはっはっはっはーッ‼️‼️🤣」
「‼︎⁉︎」
「え‼️⁉️」
「なに、急に笑いだして」
なつみは京楽から距離を取った。
「くすぐったでしょう❗️」
「してないよ!するわけないだろ!」
「えー❓😒」
疑いの視線ビームしていると、第三者が現れた。
「おった」
瞬歩で駆けつけたのは市丸だった。
「隊長❗️ぼくのことくすぐりました❓」
「は?なんで。誘ってるん?」
「なんで⁉️」
気のせいのはずがないと、なつみは他に誰かいないか探し始めた。
「どうしたんだい?なつみちゃんに用かい?」
「せや。お手紙来ててん。これ」
墓の後ろでキョロキョロするなつみに、市丸が手紙を差し出した。
「はいはい。ありがとうございます」受け取る。「でも、おうち帰ってからでもよかったのに」
「キミの瀞霊廷のおうちから送られたもんやで、急いだ方がええかなって思たんよ」
封筒の裏を見た。
「ほんとだ」
ペリペリと封を開ける横で、隊長らがおしゃべり。
「あとな、デートの邪魔と」
「はは、そんなつもりないよ」
「お持ち帰りはさせんて言いに来たんよ」
「だから、しないったら😅」
「わからんやんかー。お風呂の時間までには帰ってくるんやで。ええ?なつみちゃん」
中身の便箋を読んでおり、市丸の問いに無視してしまっていた。
「なつみちゃん?良くないことが書いてあった?」
「いえ、あの、はい、そうですね、ちょっと…」
封筒の中から、別の手紙が出てきた。
「これ、奥さんからのです」
中から出てきた方は折り封になっている。差出人の名前は、先程見たばかりの奥さんの名前になっていた。ただ、名前だけで、住所は書かれていない。
「ぼく、流魂街からお引っ越しして、しばらく住んでたおうちがあって、そこのご夫婦に何年かお世話になっていたんです。こっちでの1組目のお父さんとお母さんですね。で、数年前にお父さんが、そして先日お母さんが亡くなったんです。知らせが来てすぐ、ご挨拶に伺いました。
この手紙は、そのご夫婦の息子さんから届いたものです。遺品整理をしていたら、こっちの封筒が机の引き出しから出てきて、宛名がぼくになっていたので、送ってくれたんだそうです」
まじまじと奥さんからの手紙を見つめる。
「何で、渡してくれなかったんだろう……」
その答えはおそらく、手紙の中身に書かれているのだろう。
そちらの手紙を引き抜こうとした時。
「待った」
京楽がその手を止めた。
「ごめん、市丸隊長。さっきお願いされたばかりだけど、この子をうちに連れて行きたい。大事な話がしたいんだ」
なつみは驚いて、ビクンッとした。市丸は、やっぱりというムッとした表情。
「お風呂までには帰すよ。それは約束するから。頼む」
間にいるなつみは、2人の隊長の顔を右に左に交互に見上げる。そしてこれもやっぱりという表情で、市丸のため息。
「はぁ…。わかった。絶対やで」
「ごめんよ。ありがとう」
手紙を持つ手を胸のところに当てて、ドキドキ。
「あとさ、市丸隊長」
「何です?」
「隠しておきたいんだ。どこまでわかってるか知らないけど、とにかくこの件に関して、他言無用でお願い。この子が帰った後で、ボクから何を聞いたかも、きかないで欲しいな」
「はぁい〜。おもんないけど、なんや面倒そうやで、そうしたるわ」
「恩に着るよ」
なつみに向く市丸。
「行くなら、はよし。お参りしたんやろ?こんなとこおったら、風邪ひいてまうで」
「はい💦」
手紙を慌ててしまい、お供えのお団子を取りに行く。
「あの、隊長。せっかくなので、どうぞ。京楽隊長も」
持ってきた2本のお団子を隊長たちに渡した。
「ありがとう」
「おおきに。いただきまーす」
1個を頬張る市丸の顔を、嬉しそうに見上げるなつみ。
「おいしいですか?」
「うん。はい、残りはなつみちゃんが食べ」
「はい😊」
ふたつめから頂いた。
「おいしー😋」
「兄貴との思い出の味なんだっけ」
「はい。瞬歩を教えてもらった時に、休憩しようって、入ったお店にあったお団子です」
お団子を食べる京楽を見ると、おじちゃんの顔を思い出すようだった。自然と目元が微笑む。
「おいしいよ」
「お口に合って、良かったです😊」
市丸と別れて、京楽はなつみを自宅へと案内する。
(キンチョーするなぁ😣💦)
桃色の着物の後ろを、とことことついていく。
(大事なお話かぁ)
下唇をちょっと吸う。
(そぉゆぅーのじゃないの残念。はぁーッ!邪念‼︎じゃねーん‼︎‼︎😖)
「何考えてるの?」
「ふぉッ💦」
なつみはぷるぷるっと首を横に振る。その様子に京楽は、眉を八の字にして、ふんと息を漏らした。
「着いたよ」
「むおッ⁉️💦」
デカい…。
「どうぞ、入って」
「wwow…」
これはほぼ息だけで言った。
客間に通されたなつみ。
「お茶の用意するから、その間に手紙読んでてよ」
「手伝いますよっ」
「大丈夫。気にしないで。手隙の料理番さんに頼むだけだから」
(りょーりばんさん。すげェ…😟)
ということで、言われた通りに手紙を読むことにした。
「拝啓 木之本なつみちゃん。
お手紙を出すのが遅れて、ごめんなさい。なつみちゃんのことだから、待っていてくれたのでしょうね。
実を言うと、あなたにいくつか嘘をついていました。それを打ち明けるかどうか迷っている内に、こんなにも時間を要してしまいました。
真実を知ったら、なつみちゃんが死神を目指すのを辞めてしまうかもしれないと思い、この手紙を書くのが躊躇われましたが、やはり残しておきたいと思えたので、筆を取りました。
………」
京楽が部屋に戻ると、なつみは視線を向けた。信じ難いと訴えるように。
「奥さん、罪を犯したって書いてあります。一体、何をしたんですか。ぼくてっきり、おじちゃんが亡くなって、悲しくなって、元気がなくなって、病気にかかってしまったか、何か事故に遭って亡くなってしまったのかと思っていたのに。こんな、処刑だなんて‼︎奥さんが悪いことするはずないのに。何か間違いがあったんですよね‼︎そうですよね!京楽隊長‼︎」
涙が溢れてきた。手紙が濡れてしまわないように、遠くに置くと、前に出した腕の中で泣き出した。
「知らなかった…、ッ。どうして、教えてもらえなかったの…」
項垂れるなつみの背中に手を添えてあげる京楽。
「義姉さんは、悪くないとボクは思う。手紙を先に読んで、隠していたキミの保護者の人たちも、悪くないよ。どっちも、子供の将来を想う、親の愛情がしたことだからね」
今や、何十年と経ったその古い紙に書かれた内容に、京楽も目を通した。
「彼女らしいや……」
部屋の外で、お茶とお菓子を運んできてくれた人が、入室の許可を待っていた。
「入ってきて」
「失礼致します」
涙と鼻水を拭う少年に、ちらりと目をやる。
「夕食の準備を始めてくれ。この子と一緒に食べるよ。ただ用意ができても、呼びには来ないでくれるかい?今から大切な話をするからね」
「宜しいのですか」
「この子なんだよ。兄貴が保護した迷子の子」
その人は目を見開いた。
「真実を知ってもらいたいんだ。大丈夫。この子は秘密を守ってくれる。心配いらないよ」
「承知しました」
再び2人きり。
「落ち着いたかい?なつみちゃん」
「クスン…、すいません。取り乱してしまって」
「良いんだよ。驚いたよね」
出されたお茶を両手で持って飲む。ちびっとひと口。
「さっき京楽隊長おっしゃってましたが、秘密ってどういうことですか?良くないことがあったんですか?」
京楽もひと口。
「そうなんだ。なつみちゃん、今からボクが話すことは、誰にも言わないで欲しい。ここだけの話にして欲しいんだ。約束してくれないかい?」
とても深刻な内容なのだろうと思い、少し怖かったが、決心する。
「はい。奥さんのことちゃんと知りたいです」
「ありがとう」
なつみの方こそ、京楽を信じているのだ。
「まず、思い出してもらいたいんだけど、兄貴夫婦には一人娘がいるんだ。覚えているかい?」
「はい。会ったことは無いですし、お名前も覚えていませんが、ぼくよりはお姉さんだと伺ってます」
「うん。そうなんだ。あの子は今も元気なんだよ」
「そうですか。うれしいですね」
「フフッ、うん。ボクのかわいい姪っ子ちゃん。実はキミの知ってる人なんだよ。想像できないかい?」
「え…?」
知っている人。おじちゃんと奥さんに似ているお姉さんを思い返してみる。…検索ヒット。
「えっ…⁉︎」
「うん」
「えーーーッ‼️⁉️伊勢副隊長ぉーッ‼️⁉️💦」
「うん。七緒ちゃん☺️」
「😱」
しかし不思議だ。確かに不思議だ。
「でも、みんな、誰もそんなこと、伊勢副隊長本人だって、そんな素振り見たことありませんよ」
「みんなには内緒にしてるからね。それに、七緒ちゃんは忘れちゃってるんだよ。自分が京楽家の娘であることをね」
なつみには理解できない。
「義姉さんが、七緒ちゃんの中から、兄貴と過ごした記憶を丸ごと消してしまったんだ。そうしなきゃ、七緒ちゃんを守れないって言ってた」
「そんな大事なものを犠牲にして、何から守るって言うんですか?」
「呪いだよ」
「呪い…?そんなの」
「ボクだって気にしたくないさ。でも、義姉さんは信じていた。呪いなんて無いって、無視したかったけど、結局はたくさんの負の連鎖を生み出してしまったから、信じざるを得ないよ」
「何の呪いなんですか」
「伊勢の家は神官なんだ。キミの1人目のお父さんと同じだよ。そして、伊勢家は女系で、それも呪いのひとつなんじゃないかと思う。だから兄貴はむつこを欲しがったんだ。男にどんな恨みがあるのか知らないけど、昔々の神様の間で何か嫌な出来事があったのかもね。それで、伊勢家に婿に入った男たちは早世する。兄貴は少しだけ例外になれたかもしれないけどね。キミのおかげだ。兄貴はキミや七緒ちゃんの成長が見たくて、簡単に殺されるのを許さなかった」
眉間に皺を寄せながら、なつみはお菓子をぱくり。
「(うまッ⁉️)奥さんはその呪いを、どうにかしたんですか」
「うん。義姉さんは呪いの元凶が、伊勢家に伝わる斬魄刀だと思った。その斬魄刀を娘から遠ざけることで、呪いを断ち切ろうとしたんだ」
「それで伊勢副隊長は斬魄刀を持っていないんですね」
「そう。彼女の持つべき斬魄刀は決まっていたから、浅打を自分の物にできなかった。七緒ちゃんから呪いを離し続けられるように、ボクは彼女を無理矢理自分のそばに置いている。本当は、鬼道衆になりたがってたのにね」
(てっきり京楽隊長の一目惚れかなんかかと思ってたけど、そんな真面目な理由が…)
こら。
「それで、その斬魄刀はどこに…。はっ、もしかして、奥さんが力一杯折ってぶっ壊したとか!それとも、谷底に落としたか、土深く埋めたか、川に流したとか!」
たくさんの想像が膨らんで、鼻の穴もふんかふんか。
「惜しいね。キミの思う通り、義姉さんは斬魄刀を紛失することにしたんだ。ボクはその役を頼まれた」
「頼まれた?」
京楽はすっと脇差を抜き、なつみによく見えるよう、両手ですくうように横に持った。
「それって、狂骨ですよね」
「うん…。みんなはそう思ってる」
(む…?)
「なつみちゃん、この世界に二刀一対の斬魄刀がどれだけある知ってるかい?」
「えっと…、その花天狂骨と浮竹隊長の双魚理、檜佐木副隊長の風死もそうですかね」
「他は思い付かないだろう?」
「はい」
「あの2人の斬魄刀の形は覚えてる?」
「2本の刀と間に…」
「そこがボクとの違いだ。良いかい?斬魄刀っていうのは、1人の死神につき1本ずつが原則だ。1人の霊圧から発動できるものだから、本来は1本。彼らのは繋がっているからね、あの全体で1本なんだよ。だけどボクのは違う。ボクの斬魄刀は、本当はこっちの花天だけなんだ」
「…、あ、解号ってそういえば」
花風紊れて花神啼き 天風紊れて天魔嗤う
「花天のことだけですね」
「そうなんだ。ボクは幼い頃から二刀流に憧れててさ、霊術院に入ったとき、無理言って2本浅打を使わせてもらってたんだ。そのおかげで花天狂骨のこと不思議には思われなかったけど、ボクに応えてくれたのはお花だけだった。2本目も始解できるようになったのは、ボクに力が付いたからって思われたのかもね。でも違うんだ。狂骨はお花が産んだもの。義姉さんから預かった斬魄刀を隠すためにね」
「ってことは、それが呪いの剣ですか」
頷いた。
「芯の部分がね。お狂が隠してくれてるから、見た目にはわからないだろ?ボクは斬魄刀を2本持っている。強いからじゃない。託されたからなんだ」
褒められることをしているはずなのに、どうしてか、京楽の表情は辛そうに見えた。
「京楽隊長は、その、呪われてないんですか?」
「ボクには影響無いよ。あの家の血と関係無いから大丈夫だって聞いてる」
少し安心した。
「でも、そんな危なっかしい物、ずっと前の人が処分してたら良かったのに。どうして奥さんのときまで大事にされてたんですか」
「それは、この斬魄刀が神器だからだよ」
「え⁉︎」
神社で育ったなつみには、その事実から辿れる運命が容易に想像できた。
「そんな大切な物、失くしたら」
折るだの、ぶっ壊すだの、埋めるだの、できるはずがない。
「ボクのせいだ。あの時ボクはそんなことになるなんて思ってなくて、言われるがまま手を貸してしまった。けど、彼女が悪いことをしたなんて思ってないよ。全部七緒ちゃんのためにしたことなんだから」
「奥さんはどうなるかわかってたはずです。なのに」
「キミのおうちの人たちは、その手紙がどこから届いたものか、すぐに気付いたろうね。義姉さんが投獄されたのを、キミに知られたくなかったんじゃないかな。先に読んで、兄貴も既に死んでいることを知った。なつみちゃんの心を挫くような現実を伏せてくれたんだ。キミがずっと前を向いていけるようにね。大事にされてたんだよ」
そんなことを言われたら、またうるうるときてしまう。
「うゆゆ…。奥さんが犯罪者になっちゃうから、お家のことと縁が切れるように、伊勢副隊長は記憶を消されてしまったんですか」
「少し違うかな」
膝の上に置いていた脇差を、元のところに戻す京楽。
「七緒ちゃんは義姉さんのことは覚えてる。問題だったのはボクらだからさ。七緒ちゃんが斬魄刀の行方を追えないようにしなきゃならなかった。ボクが受け取ったから、ボクは七緒ちゃんにとって他人になる必要があったんだ。ボクが彼女の血縁であることを隠すために、京楽七緒であったことを忘れてもらうことになった。記換神機でポンッさ。転んで頭をぶつけて記憶喪失になったって、言ってあるそうだ。あんなに一緒に遊んであげたのに、ボクは彼女にとって変わった上司。父親である兄貴のことも、何も覚えていないよ」
「悲しすぎです…」
「だとしても、これが最善なんだよ。七緒ちゃんが元気でいることが、何よりも大事だから。呪いなんて気にせず、心底惚れた男と末永く幸せに暮らせるようにって」
これがあの夫婦の選んだ未来。
「だからお願い、なつみちゃん。七緒ちゃんに、ボクが叔父であることを隠していて。斬魄刀のことも。キミが兄貴や義姉さんに世話になったことも、話さないで欲しい。できるかい?」
なつみはゆっくり大きく頷いてみせた。
「はい。お任せください」
「ありがとう」
一安心の京楽は、お茶を飲んだ。
「でも、こんな大変な話、ぼくみたいなのに話しちゃうなんて。おじちゃんにお世話になったけど、全然赤の他人ですよ」
にこりと笑い、ことりと湯呑みを置く。
「ごめんね。押し付けちゃったよね」
「いえ、そんなつもりじゃ」
「ごめん。ボクは、話し相手が欲しかったんだよね。肝心の七緒ちゃんは忘れちゃってるし、兄貴夫婦を覚えてる人はいるけど、悪い印象を持ってるみたいでさ。身内以外の人と、あの2人がどんなに良い人たちだったか話せなかったんだ。そんなの寂しいじゃないか。だから、ボクはどうしても、ジョンスミスと会いたかった。キミに会いたかったんだよ。兄貴と義姉さんをちゃんと覚えててくれてるキミにね」
これが、京楽の抱いた仲直りがしたい最大の理由だった。
「ボクのワガママを許して」
「はいッ。大歓迎ですぅ😭」
大泣きのなつみに、ティッシュボックスをまた差し出してくれた。
「困ったねぇ。男の子になっても、泣き虫さんは健在だなんて」
「だって、だってぇ〜🤧💦」
優しく悲しい嘘と現実に、涙を堪えられるほど、なつみは冷めてはいない。それに、長年憧れてきた人にここまで必要とされるのも、大いに嬉しい涙の理由。
「そろそろお腹が空いたんじゃないかい?ご飯にしよう。食べながら、たくさん昔の話を聞いてくれないかい?」
「ぜひぜひ❗️聞かせてください❗️聞きたいです❗️」
「よし!行こうか😊」
「あい❗️」
楽しい夕食の時間の始まり。身内からしたら、またその話ですかとなるところ、なつみは初めて聞くため、喜んで楽しそうにどのエピソードにも耳を傾けていた。たくさんおしゃべりをするせいで、京楽の皿の上は全然減っていかないが、心はそれはそれは満たされていた。京楽の前に座るなつみは、よく笑い、よく食べた。おじちゃんが簪をもらったエピソードでは、当時の京楽と同じ表情で吹く。
「プッ😙」
「だよね!そうなるよね。なのにさ、ボク、兄貴から頭突き喰らったんだよ(笑)」
「クククククッ、聞いてるこっちが恥ずいです〜😙」
「惚気ちゃってさ」
こちょこちょ
「ブワッ⁉️💦」
そんな風に笑っていたら、墓であったくすぐりにまた襲われた。反射的に椅子から跳び上がる。
「なに、どうしたの」
ブーッブーッ
「あわっ⁉️💦」
今度は懐から振動。
あっちもこっちもで、てんやわんやななつみ。振えの正体に手を伸ばす。
「ぺいっ‼️」
伝令神機である。着信の表示を確認。
「ぺいッ⁉️💦」
『市丸隊長』
「はい❗️もしもし❗️」
「もしもしやあらへん!いつまでデートしとんの。お風呂入るで、はよ帰ってきなさいー!」
プチッ、ツーツー…
「😑💧」
「過保護なお兄ちゃんだね」
「すいません。お暇します😓」
「そうした方が良さそうだね。またお話ししよう、なつみちゃん」
申し訳なさで眉が垂れる思いだが、明るい笑顔でお返事を。
「はいっ」
墓標の前に到着。
「ここだよ。兄貴と義姉さんがいたところ。石の裏を見てごらん。2人の名前があるよ」
言われた通りになつみは墓石の裏側へ回ってみた。
「おぉー…」
と声を出してみたが。
「どれですか?」
ズコッ💦
「こら‼️」
「すいません💦名前覚えてなくて💦」
「まったくもー。ボクもキミのこと言えないけどさぁ。ほら、こことここ」
「おぉ〜。これがおじちゃん。名前、長くないですか?ミドルネームかっちょいい」
京楽が指差した名前を自分の指で、上から下へなぞっていく。
「そう?ボクも本名は長いんだよ。京楽次郎総蔵佐春水だから」
「長っ⁉️」
「ちゅんちゅんは入ってないよ」
「むっ///」
恥ずかしくなって、とことこと表側に帰った。
「フフッ☺️」
汲んできた水と雑巾で軽くお掃除し、花を飾り、お団子をお供えする。
「しまったなー。酒も持って来れば良かった」
「おじちゃんもお酒好きだったんですか?」
「うん。よく一緒に飲んでたよ。味の好みが似てるんだよね」
「ふふふっ、血の繋がった家族って、羨ましいです😊」
京楽の笑顔はちょっぴり悲しそうだった。
「手を合わそうか」
「はい!」
墓の前で静かに手を合わせる京楽となつみ。冬の寒さのせいか、2人の距離は自然と近くなっていた。だから静かに心の中で挨拶していたつもりの言葉が、ぽろりと漏れてしまったのを、京楽に聞かれてしまった。
「バカ…」
「…。もっと言ってやって(笑)」
「///💦」
では、お言葉に甘えて、恥ずかしいけど、ここには京楽しか他にいないのだから。
「おじちゃんのバカー‼️‼️何死んじゃってんのー‼️‼️約束破るな‼️バカー‼️‼️奥さんだって、手紙くれるって言ったのにー‼️‼️嘘つきーッ‼️‼️」
こちょこちょ
「ぶわっはっはっはっはーッ‼️‼️🤣」
「‼︎⁉︎」
「え‼️⁉️」
「なに、急に笑いだして」
なつみは京楽から距離を取った。
「くすぐったでしょう❗️」
「してないよ!するわけないだろ!」
「えー❓😒」
疑いの視線ビームしていると、第三者が現れた。
「おった」
瞬歩で駆けつけたのは市丸だった。
「隊長❗️ぼくのことくすぐりました❓」
「は?なんで。誘ってるん?」
「なんで⁉️」
気のせいのはずがないと、なつみは他に誰かいないか探し始めた。
「どうしたんだい?なつみちゃんに用かい?」
「せや。お手紙来ててん。これ」
墓の後ろでキョロキョロするなつみに、市丸が手紙を差し出した。
「はいはい。ありがとうございます」受け取る。「でも、おうち帰ってからでもよかったのに」
「キミの瀞霊廷のおうちから送られたもんやで、急いだ方がええかなって思たんよ」
封筒の裏を見た。
「ほんとだ」
ペリペリと封を開ける横で、隊長らがおしゃべり。
「あとな、デートの邪魔と」
「はは、そんなつもりないよ」
「お持ち帰りはさせんて言いに来たんよ」
「だから、しないったら😅」
「わからんやんかー。お風呂の時間までには帰ってくるんやで。ええ?なつみちゃん」
中身の便箋を読んでおり、市丸の問いに無視してしまっていた。
「なつみちゃん?良くないことが書いてあった?」
「いえ、あの、はい、そうですね、ちょっと…」
封筒の中から、別の手紙が出てきた。
「これ、奥さんからのです」
中から出てきた方は折り封になっている。差出人の名前は、先程見たばかりの奥さんの名前になっていた。ただ、名前だけで、住所は書かれていない。
「ぼく、流魂街からお引っ越しして、しばらく住んでたおうちがあって、そこのご夫婦に何年かお世話になっていたんです。こっちでの1組目のお父さんとお母さんですね。で、数年前にお父さんが、そして先日お母さんが亡くなったんです。知らせが来てすぐ、ご挨拶に伺いました。
この手紙は、そのご夫婦の息子さんから届いたものです。遺品整理をしていたら、こっちの封筒が机の引き出しから出てきて、宛名がぼくになっていたので、送ってくれたんだそうです」
まじまじと奥さんからの手紙を見つめる。
「何で、渡してくれなかったんだろう……」
その答えはおそらく、手紙の中身に書かれているのだろう。
そちらの手紙を引き抜こうとした時。
「待った」
京楽がその手を止めた。
「ごめん、市丸隊長。さっきお願いされたばかりだけど、この子をうちに連れて行きたい。大事な話がしたいんだ」
なつみは驚いて、ビクンッとした。市丸は、やっぱりというムッとした表情。
「お風呂までには帰すよ。それは約束するから。頼む」
間にいるなつみは、2人の隊長の顔を右に左に交互に見上げる。そしてこれもやっぱりという表情で、市丸のため息。
「はぁ…。わかった。絶対やで」
「ごめんよ。ありがとう」
手紙を持つ手を胸のところに当てて、ドキドキ。
「あとさ、市丸隊長」
「何です?」
「隠しておきたいんだ。どこまでわかってるか知らないけど、とにかくこの件に関して、他言無用でお願い。この子が帰った後で、ボクから何を聞いたかも、きかないで欲しいな」
「はぁい〜。おもんないけど、なんや面倒そうやで、そうしたるわ」
「恩に着るよ」
なつみに向く市丸。
「行くなら、はよし。お参りしたんやろ?こんなとこおったら、風邪ひいてまうで」
「はい💦」
手紙を慌ててしまい、お供えのお団子を取りに行く。
「あの、隊長。せっかくなので、どうぞ。京楽隊長も」
持ってきた2本のお団子を隊長たちに渡した。
「ありがとう」
「おおきに。いただきまーす」
1個を頬張る市丸の顔を、嬉しそうに見上げるなつみ。
「おいしいですか?」
「うん。はい、残りはなつみちゃんが食べ」
「はい😊」
ふたつめから頂いた。
「おいしー😋」
「兄貴との思い出の味なんだっけ」
「はい。瞬歩を教えてもらった時に、休憩しようって、入ったお店にあったお団子です」
お団子を食べる京楽を見ると、おじちゃんの顔を思い出すようだった。自然と目元が微笑む。
「おいしいよ」
「お口に合って、良かったです😊」
市丸と別れて、京楽はなつみを自宅へと案内する。
(キンチョーするなぁ😣💦)
桃色の着物の後ろを、とことことついていく。
(大事なお話かぁ)
下唇をちょっと吸う。
(そぉゆぅーのじゃないの残念。はぁーッ!邪念‼︎じゃねーん‼︎‼︎😖)
「何考えてるの?」
「ふぉッ💦」
なつみはぷるぷるっと首を横に振る。その様子に京楽は、眉を八の字にして、ふんと息を漏らした。
「着いたよ」
「むおッ⁉️💦」
デカい…。
「どうぞ、入って」
「wwow…」
これはほぼ息だけで言った。
客間に通されたなつみ。
「お茶の用意するから、その間に手紙読んでてよ」
「手伝いますよっ」
「大丈夫。気にしないで。手隙の料理番さんに頼むだけだから」
(りょーりばんさん。すげェ…😟)
ということで、言われた通りに手紙を読むことにした。
「拝啓 木之本なつみちゃん。
お手紙を出すのが遅れて、ごめんなさい。なつみちゃんのことだから、待っていてくれたのでしょうね。
実を言うと、あなたにいくつか嘘をついていました。それを打ち明けるかどうか迷っている内に、こんなにも時間を要してしまいました。
真実を知ったら、なつみちゃんが死神を目指すのを辞めてしまうかもしれないと思い、この手紙を書くのが躊躇われましたが、やはり残しておきたいと思えたので、筆を取りました。
………」
京楽が部屋に戻ると、なつみは視線を向けた。信じ難いと訴えるように。
「奥さん、罪を犯したって書いてあります。一体、何をしたんですか。ぼくてっきり、おじちゃんが亡くなって、悲しくなって、元気がなくなって、病気にかかってしまったか、何か事故に遭って亡くなってしまったのかと思っていたのに。こんな、処刑だなんて‼︎奥さんが悪いことするはずないのに。何か間違いがあったんですよね‼︎そうですよね!京楽隊長‼︎」
涙が溢れてきた。手紙が濡れてしまわないように、遠くに置くと、前に出した腕の中で泣き出した。
「知らなかった…、ッ。どうして、教えてもらえなかったの…」
項垂れるなつみの背中に手を添えてあげる京楽。
「義姉さんは、悪くないとボクは思う。手紙を先に読んで、隠していたキミの保護者の人たちも、悪くないよ。どっちも、子供の将来を想う、親の愛情がしたことだからね」
今や、何十年と経ったその古い紙に書かれた内容に、京楽も目を通した。
「彼女らしいや……」
部屋の外で、お茶とお菓子を運んできてくれた人が、入室の許可を待っていた。
「入ってきて」
「失礼致します」
涙と鼻水を拭う少年に、ちらりと目をやる。
「夕食の準備を始めてくれ。この子と一緒に食べるよ。ただ用意ができても、呼びには来ないでくれるかい?今から大切な話をするからね」
「宜しいのですか」
「この子なんだよ。兄貴が保護した迷子の子」
その人は目を見開いた。
「真実を知ってもらいたいんだ。大丈夫。この子は秘密を守ってくれる。心配いらないよ」
「承知しました」
再び2人きり。
「落ち着いたかい?なつみちゃん」
「クスン…、すいません。取り乱してしまって」
「良いんだよ。驚いたよね」
出されたお茶を両手で持って飲む。ちびっとひと口。
「さっき京楽隊長おっしゃってましたが、秘密ってどういうことですか?良くないことがあったんですか?」
京楽もひと口。
「そうなんだ。なつみちゃん、今からボクが話すことは、誰にも言わないで欲しい。ここだけの話にして欲しいんだ。約束してくれないかい?」
とても深刻な内容なのだろうと思い、少し怖かったが、決心する。
「はい。奥さんのことちゃんと知りたいです」
「ありがとう」
なつみの方こそ、京楽を信じているのだ。
「まず、思い出してもらいたいんだけど、兄貴夫婦には一人娘がいるんだ。覚えているかい?」
「はい。会ったことは無いですし、お名前も覚えていませんが、ぼくよりはお姉さんだと伺ってます」
「うん。そうなんだ。あの子は今も元気なんだよ」
「そうですか。うれしいですね」
「フフッ、うん。ボクのかわいい姪っ子ちゃん。実はキミの知ってる人なんだよ。想像できないかい?」
「え…?」
知っている人。おじちゃんと奥さんに似ているお姉さんを思い返してみる。…検索ヒット。
「えっ…⁉︎」
「うん」
「えーーーッ‼️⁉️伊勢副隊長ぉーッ‼️⁉️💦」
「うん。七緒ちゃん☺️」
「😱」
しかし不思議だ。確かに不思議だ。
「でも、みんな、誰もそんなこと、伊勢副隊長本人だって、そんな素振り見たことありませんよ」
「みんなには内緒にしてるからね。それに、七緒ちゃんは忘れちゃってるんだよ。自分が京楽家の娘であることをね」
なつみには理解できない。
「義姉さんが、七緒ちゃんの中から、兄貴と過ごした記憶を丸ごと消してしまったんだ。そうしなきゃ、七緒ちゃんを守れないって言ってた」
「そんな大事なものを犠牲にして、何から守るって言うんですか?」
「呪いだよ」
「呪い…?そんなの」
「ボクだって気にしたくないさ。でも、義姉さんは信じていた。呪いなんて無いって、無視したかったけど、結局はたくさんの負の連鎖を生み出してしまったから、信じざるを得ないよ」
「何の呪いなんですか」
「伊勢の家は神官なんだ。キミの1人目のお父さんと同じだよ。そして、伊勢家は女系で、それも呪いのひとつなんじゃないかと思う。だから兄貴はむつこを欲しがったんだ。男にどんな恨みがあるのか知らないけど、昔々の神様の間で何か嫌な出来事があったのかもね。それで、伊勢家に婿に入った男たちは早世する。兄貴は少しだけ例外になれたかもしれないけどね。キミのおかげだ。兄貴はキミや七緒ちゃんの成長が見たくて、簡単に殺されるのを許さなかった」
眉間に皺を寄せながら、なつみはお菓子をぱくり。
「(うまッ⁉️)奥さんはその呪いを、どうにかしたんですか」
「うん。義姉さんは呪いの元凶が、伊勢家に伝わる斬魄刀だと思った。その斬魄刀を娘から遠ざけることで、呪いを断ち切ろうとしたんだ」
「それで伊勢副隊長は斬魄刀を持っていないんですね」
「そう。彼女の持つべき斬魄刀は決まっていたから、浅打を自分の物にできなかった。七緒ちゃんから呪いを離し続けられるように、ボクは彼女を無理矢理自分のそばに置いている。本当は、鬼道衆になりたがってたのにね」
(てっきり京楽隊長の一目惚れかなんかかと思ってたけど、そんな真面目な理由が…)
こら。
「それで、その斬魄刀はどこに…。はっ、もしかして、奥さんが力一杯折ってぶっ壊したとか!それとも、谷底に落としたか、土深く埋めたか、川に流したとか!」
たくさんの想像が膨らんで、鼻の穴もふんかふんか。
「惜しいね。キミの思う通り、義姉さんは斬魄刀を紛失することにしたんだ。ボクはその役を頼まれた」
「頼まれた?」
京楽はすっと脇差を抜き、なつみによく見えるよう、両手ですくうように横に持った。
「それって、狂骨ですよね」
「うん…。みんなはそう思ってる」
(む…?)
「なつみちゃん、この世界に二刀一対の斬魄刀がどれだけある知ってるかい?」
「えっと…、その花天狂骨と浮竹隊長の双魚理、檜佐木副隊長の風死もそうですかね」
「他は思い付かないだろう?」
「はい」
「あの2人の斬魄刀の形は覚えてる?」
「2本の刀と間に…」
「そこがボクとの違いだ。良いかい?斬魄刀っていうのは、1人の死神につき1本ずつが原則だ。1人の霊圧から発動できるものだから、本来は1本。彼らのは繋がっているからね、あの全体で1本なんだよ。だけどボクのは違う。ボクの斬魄刀は、本当はこっちの花天だけなんだ」
「…、あ、解号ってそういえば」
花風紊れて花神啼き 天風紊れて天魔嗤う
「花天のことだけですね」
「そうなんだ。ボクは幼い頃から二刀流に憧れててさ、霊術院に入ったとき、無理言って2本浅打を使わせてもらってたんだ。そのおかげで花天狂骨のこと不思議には思われなかったけど、ボクに応えてくれたのはお花だけだった。2本目も始解できるようになったのは、ボクに力が付いたからって思われたのかもね。でも違うんだ。狂骨はお花が産んだもの。義姉さんから預かった斬魄刀を隠すためにね」
「ってことは、それが呪いの剣ですか」
頷いた。
「芯の部分がね。お狂が隠してくれてるから、見た目にはわからないだろ?ボクは斬魄刀を2本持っている。強いからじゃない。託されたからなんだ」
褒められることをしているはずなのに、どうしてか、京楽の表情は辛そうに見えた。
「京楽隊長は、その、呪われてないんですか?」
「ボクには影響無いよ。あの家の血と関係無いから大丈夫だって聞いてる」
少し安心した。
「でも、そんな危なっかしい物、ずっと前の人が処分してたら良かったのに。どうして奥さんのときまで大事にされてたんですか」
「それは、この斬魄刀が神器だからだよ」
「え⁉︎」
神社で育ったなつみには、その事実から辿れる運命が容易に想像できた。
「そんな大切な物、失くしたら」
折るだの、ぶっ壊すだの、埋めるだの、できるはずがない。
「ボクのせいだ。あの時ボクはそんなことになるなんて思ってなくて、言われるがまま手を貸してしまった。けど、彼女が悪いことをしたなんて思ってないよ。全部七緒ちゃんのためにしたことなんだから」
「奥さんはどうなるかわかってたはずです。なのに」
「キミのおうちの人たちは、その手紙がどこから届いたものか、すぐに気付いたろうね。義姉さんが投獄されたのを、キミに知られたくなかったんじゃないかな。先に読んで、兄貴も既に死んでいることを知った。なつみちゃんの心を挫くような現実を伏せてくれたんだ。キミがずっと前を向いていけるようにね。大事にされてたんだよ」
そんなことを言われたら、またうるうるときてしまう。
「うゆゆ…。奥さんが犯罪者になっちゃうから、お家のことと縁が切れるように、伊勢副隊長は記憶を消されてしまったんですか」
「少し違うかな」
膝の上に置いていた脇差を、元のところに戻す京楽。
「七緒ちゃんは義姉さんのことは覚えてる。問題だったのはボクらだからさ。七緒ちゃんが斬魄刀の行方を追えないようにしなきゃならなかった。ボクが受け取ったから、ボクは七緒ちゃんにとって他人になる必要があったんだ。ボクが彼女の血縁であることを隠すために、京楽七緒であったことを忘れてもらうことになった。記換神機でポンッさ。転んで頭をぶつけて記憶喪失になったって、言ってあるそうだ。あんなに一緒に遊んであげたのに、ボクは彼女にとって変わった上司。父親である兄貴のことも、何も覚えていないよ」
「悲しすぎです…」
「だとしても、これが最善なんだよ。七緒ちゃんが元気でいることが、何よりも大事だから。呪いなんて気にせず、心底惚れた男と末永く幸せに暮らせるようにって」
これがあの夫婦の選んだ未来。
「だからお願い、なつみちゃん。七緒ちゃんに、ボクが叔父であることを隠していて。斬魄刀のことも。キミが兄貴や義姉さんに世話になったことも、話さないで欲しい。できるかい?」
なつみはゆっくり大きく頷いてみせた。
「はい。お任せください」
「ありがとう」
一安心の京楽は、お茶を飲んだ。
「でも、こんな大変な話、ぼくみたいなのに話しちゃうなんて。おじちゃんにお世話になったけど、全然赤の他人ですよ」
にこりと笑い、ことりと湯呑みを置く。
「ごめんね。押し付けちゃったよね」
「いえ、そんなつもりじゃ」
「ごめん。ボクは、話し相手が欲しかったんだよね。肝心の七緒ちゃんは忘れちゃってるし、兄貴夫婦を覚えてる人はいるけど、悪い印象を持ってるみたいでさ。身内以外の人と、あの2人がどんなに良い人たちだったか話せなかったんだ。そんなの寂しいじゃないか。だから、ボクはどうしても、ジョンスミスと会いたかった。キミに会いたかったんだよ。兄貴と義姉さんをちゃんと覚えててくれてるキミにね」
これが、京楽の抱いた仲直りがしたい最大の理由だった。
「ボクのワガママを許して」
「はいッ。大歓迎ですぅ😭」
大泣きのなつみに、ティッシュボックスをまた差し出してくれた。
「困ったねぇ。男の子になっても、泣き虫さんは健在だなんて」
「だって、だってぇ〜🤧💦」
優しく悲しい嘘と現実に、涙を堪えられるほど、なつみは冷めてはいない。それに、長年憧れてきた人にここまで必要とされるのも、大いに嬉しい涙の理由。
「そろそろお腹が空いたんじゃないかい?ご飯にしよう。食べながら、たくさん昔の話を聞いてくれないかい?」
「ぜひぜひ❗️聞かせてください❗️聞きたいです❗️」
「よし!行こうか😊」
「あい❗️」
楽しい夕食の時間の始まり。身内からしたら、またその話ですかとなるところ、なつみは初めて聞くため、喜んで楽しそうにどのエピソードにも耳を傾けていた。たくさんおしゃべりをするせいで、京楽の皿の上は全然減っていかないが、心はそれはそれは満たされていた。京楽の前に座るなつみは、よく笑い、よく食べた。おじちゃんが簪をもらったエピソードでは、当時の京楽と同じ表情で吹く。
「プッ😙」
「だよね!そうなるよね。なのにさ、ボク、兄貴から頭突き喰らったんだよ(笑)」
「クククククッ、聞いてるこっちが恥ずいです〜😙」
「惚気ちゃってさ」
こちょこちょ
「ブワッ⁉️💦」
そんな風に笑っていたら、墓であったくすぐりにまた襲われた。反射的に椅子から跳び上がる。
「なに、どうしたの」
ブーッブーッ
「あわっ⁉️💦」
今度は懐から振動。
あっちもこっちもで、てんやわんやななつみ。振えの正体に手を伸ばす。
「ぺいっ‼️」
伝令神機である。着信の表示を確認。
「ぺいッ⁉️💦」
『市丸隊長』
「はい❗️もしもし❗️」
「もしもしやあらへん!いつまでデートしとんの。お風呂入るで、はよ帰ってきなさいー!」
プチッ、ツーツー…
「😑💧」
「過保護なお兄ちゃんだね」
「すいません。お暇します😓」
「そうした方が良さそうだね。またお話ししよう、なつみちゃん」
申し訳なさで眉が垂れる思いだが、明るい笑顔でお返事を。
「はいっ」