第七章
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一夜明けて、ジョンスミスは玄関先で、奥さんにお礼の挨拶をした。
「おせわになりまちた。とまらせていただいたおれい、こんどもってきまちね」
「あら、ご丁寧に。でもね、良いの。昨日、保護者の方々からいただいたから」
「んー」
不満そう。
「そんなにズルしてぇのか」
隣には、家出グッズを詰め込んだ荷物を背負ったおじちゃんが。
「約束破るな。死神は規則が厳しいんだぞ。言いつけを守るのに、今から慣れていけ。これも立派な訓練のうちのひとつだ」
「あい…。おっきくなるまで、ここにこないでち」
「そうだ」
奥さんが、ジョンスミスの小さな手を包んで握りしめてあげた。
「元気でね。また会えるのを楽しみにしてるわ」
「あい。おくたんも、おげんきで」
「さようなら」
「ばいばーい」
おじちゃんに手を引かれて、ジョンスミスは帰り道へ。
てくてくてく。
「おい、歩くのちょっと遅くねぇか?」
歩幅が狭いから、というだけではなく。
「まいごになりたくないもん」
きょろきょろと景色をよく見て歩いていたのだ。
「どうせ忘れちまうよ。来る日になったら、親にきけば良いだろうが」
「むぅ❗️うるたい❗️ぼくのつきにつるんだい❗️」
「はぁ?」
この発言に引っかかった。
「『ぼく』?『わたち』じゃねぇのか?」
「ぼくはぼくだ!」
「あぁそうか。俺の息子になるの、諦めてねぇんだな」
「おじちゃんのゆめ、かなえてあげるんでち!おんがえちちたいもん。それにね」
目線が一瞬だけおじちゃんに向けられ、また景色に戻された。
「やっぱりぼくは、ぼくってじぶんのこと、よびたいの。らくなんだよね〜。おひめたまなるために、わたちってムリちていってたけど、もう、ちにがみめざつから、ぼくにもどつの!」
「最初はぼくだったのか」
「おとうたんのマネちてたからね。ちゅーいたれてたけど、いぢわるちたかったから、ぼくっていってたの」
「その人、お前をひとりでここまで育てたんだよな。尊敬するわ。俺ならもっと早い段階で追い出したろうに」
「ちどいぞ‼️」
「酷いのはお前だ。愛されてんのに、困らせてよ」
「むぅ…。はんせーちてるもん…」
とぼとぼ。
「人生、後悔したって後戻りできねぇからな。これからをどう過ごすか、考えるしかねぇ。お前はとにかく良い子にしてろ」
「わかってゆ」
昨日、何時間と歩き続けた距離だが、野生の勘を頼りに曲がりくねって進んでいたため、最短ルートを行けば、ずっと近く感じられたが、それでもジョンスミスのペースではまだまだかかる。
「道覚えてるとこ悪いがな、特訓の続きしても良いぜ。俺の暇つぶしに付き合えよ」
「えー」
「心配すんな。ここからあそこの突き当たりまでは、まっすぐだからな」
おじちゃんの指す先を見た。
「わかった。なにつるの?」
「あそこまでな、瞬歩の練習だ」
「つかれちゃうよー」
「疲れてから言え。茶屋見つけたら、そこで休めば良いだろ?お前はな、文句言える立場じゃねーんだよ」
「まーねー。いたっ💦」
ほっぺを引っ張られた。
「おねがいちまち、ちぇんちぇー」
まずはステップをゆっくりと見せて、解説する。
「こうだ」
タンタンッ
「はやいでち」
「あ?そうか。もう1回な。よく見てろ」
タン、タン
「こう?」
タン、タン
「おう!それをダダッとやるんだ」
ザッ‼️
真横にいたおじちゃんは、一瞬で10歩程先に立っていた。
「見えてたかー?」
「はやいでちー‼️」
しかし、教えてもらったステップを自分なりにマネして、ぴょこんっとやってみた。
「だだっ‼️」
1歩前進。
「プッ😗」
「むぅ‼️」
笑われたので、もう1回。
「だだっ‼️」
焦って踏み出したため、足がもつれて転んでしまった。
ドテッ💨
「わッ⁉︎大丈夫かよ」
おじちゃんが駆けつけてくれた。
「うゆゆ…」
唸りながら、自力でゆっくり立ち上がる。
(おいおい、泣くなよ?💧)
と心配したが、それは取り越し苦労だった。
「すりむいた」
お腹や膝に付いた砂を払い、そう落ち着いてつぶやいた。
「血が出てるな」
ジョンスミスの下唇と顎のぐにぐにから、痛がってるのは見て取れたが、弱音が出てくることは無かった。膝から血が滲み出るのみだ。
「ちょっと裾上げとけよ」
しゃがんで、おじちゃんはジョンスミスの擦り剥いた傷口に手をかざす。ジョンスミスは、どうするんだろうと不安そうに見ていた。
(いたいのいたいの、とんでけー、のおまじない?)
そんな予想は当たり前のように外される。
「わぁああ✨」
肌と手の間に、温かい力が集められ、それが傷口から入り込み、ジョンスミスの内側から回復力を引き出してくれる。
「なおってくー!✨」
魔法のチカラに感激する間に、傷は完全に消えてしまった。
「ちゅごー!」
得意げにおじちゃんは立ち上がった。
「これはな、回道ってんだ。今くらいの傷なら、死神が基礎として身につけてる程度で治せるぜ」
「ちにがみかっちょよつぎる!」
「あんまり酷いと、四番隊に行かなきゃならないが、軽いもんだと、自分たちで処置すんだよ」
「へぇー」
「さぁ、瞬歩の練習続けるぞ。お前は強ぇ子だ。コケたくらいで、諦めたりしねぇよな」
「あい❗️」
その後もダダッと練習し、突き当たりまでたどり着いた。
「もだめだ😣」
宣言通り疲れてしまったため、お茶屋へ寄り道することにする。
お茶とお団子が2人前、おじちゃんとジョンスミスの間に並べられる。
「いただきまーち🍡」
もぐもぐ。
「おいちー」
「いただきまーす🍡」
もぐもぐ。
「うまいな」
長椅子の座るジョンスミスの脚はぷらんぷらん。
「ねぇねぇ」
「あん?」
「みんなケガなおせるなら、どちてちゅんちゅんなおちてなかったの?」
「あれでも治療はしてあるんだろうがな。そんな暇が無ぇのかもしれねぇな。忙しいんだろ」
「たぼってるんでちょ?」
「そうだ。サボるのに忙しいんだ」
「ヘンなの〜🍡」
お茶もひと口。
「ねぇねぇ、おっきなケガなおちてもらえるの、ちにがみだけ?」
「あー、瀞霊廷ってな、死神以外にも役職があってよ。鬼道衆とか、隠密機動とかも危険な仕事をしてっから、あの人らも四番隊に行くことあるかもな」
「ふつーのちとたちは?ルコンガイのちとたちとか」
「流魂街か。流魂街の住人は基本、瀞霊廷には入れねぇから、民間療法とかで、なんとかしのいでんのかもな。現世で医術を学んだ人がいりゃあ、その人が助けてくれるかもしれねぇが」
「そっかぁ……」
子供には相応しくない遠い目をするジョンスミス。
「怪我か病気で苦しんでる知り合いでもいんのか?」
「ううん。いないよ。でもね、ちらないちとたち」
お団子の串をお皿に戻す。
「あのね。ぼくがセイレイテイにくるとちゅう、おねえたんとおにいたんが、たのちそうに、そとでおたべりちてるのみかけたんだ」
「ふーん」
「おともだちと、たのちくおたべりつるの、あこがれてるからた、ぼく、そのちとたちのことじっとみてたの」
「褒められたことじゃねぇけどな。知らねぇ人をじろじろ見るなんて」
「わかってるもん。けどみちゃった。そちたらね、おねえたんのおかおに、おっきなきずみたいな、あざみたいな、とにかく、やばいのがついてたの。ぼく、びっくりしちゃった」
「そりゃ見ちまうか。どうしたんだろうな、その人。お前は、そのお姉さんの顔を治してあげてぇのか」
「うん。そうなればいいなとおもうけど、でもね、おねえたん、とってもちあわせそうにわらってたの。なおせないから、そのままにちてたのかな」
「ふーん…、かもな。だが、お前が驚く程の痕が付いてんのに、話し相手は仲良くしてたんだな。恋人だろうか」
「おにいたんね、たぶん、めがみえないちとなんだよ。ぜんぜん、おねえたんのかおみて、おはなちちてなかったもん。でも、おねえたんといっちょにわらってたから、あのちとたちにとって、あれがふつーなんだよね」
「そうか。いろんな人がいるもんだな……」
「もちも、おねえたんのおかおが、げんきなはだいろちてて、もちも、おにいたんのおめめがみえてたら、あのちとたち、おともだちにならなかったかな」
「さぁな」
「それとも、いまよりちあわせになってたかな」
「俺が知るかよ。本人たちにしか、わかんねぇよ」
「んー、そだよね」
こんどあえたら、きいてみよーと軽く思うジョンスミスであった。
「おじちゃんのびょーき、はやくなおちてもらえるといーね〜」
抜け出してきた家に、無事に帰ってきてしまったのは、昼時だった。
「あーあ、ついちゃった」
「やっと着いたぜ。ごめんくださーい!」
おじちゃんが家の人を呼んだ。
昨夜、奥さんは地獄蝶の報告を受けた後、捜索願いを出していた家族が、ジョンスミスを探している家族であるかどうか、家まで行って確かめていた。
会って話をすると、確かに失踪者の特徴が合致した。
「その子です!うちで預かる木之本なつみちゃんです!京楽様のところでお世話になっていたとは。大変、ご迷惑をお掛けしました。感謝しても仕切れません。すぐ迎えに伺います!」
しかし奥さんは、その申し出を止めてしまった。
「迷惑だなんて、とんでもない。今日はもう、このままうちで寝かせてしまいます。疲れているでしょうから、無理して追い返すのは、私たちにとって、心苦しいんです。それに、うちの者があの子をとても気に入ってしまったみたいですし」
なつみを泊まらせることを伝え、そして、彼女の将来について丁寧に話し合っていくことにした。
「貴族に嫁ぐことよりも、なつみちゃんは、死神になることを目指すそうですよ」
「なんですって⁉︎⁉︎」
快く受け入れたとは見られなかったが、なつみがこの家に帰ってくるのが確定したことで、了承した風にはしていた。
「わかりました。なつみちゃんの意志を尊重します」
「お願いします」
といわけで、おじちゃんが気合いを入れて交渉することは無かった。
「おじちゃん、でばんないじゃん」
「おー、できた嫁を持てて、誇らしいぜ」
高位の貴族を前に、保護者たちはなつみを叱らなかった。
「俺が帰ったら、ド叱られるんだろうよ」
「じゃあかえらないで」
「やだね」
こそこそと2人が話していると、ひと言文句は言われた。
「私たちはその子の幸せを思って、瀞霊廷に連れてきたんですよ」
おじちゃんは重々承知の上で、ここまでジョンスミスを連れてきた。返す言葉もちゃんと用意している。
「わかっています。ですが」
「ぼくのちあわせ、おとーたんとおかーたんにわかるもんか❗️おちえてあげたおぼえ、ないでちよ❗️」
「……😓」
その必要は無いらしい。
「まぁ!なんて言い方を。お姫様になって、みんなから大事にしてもらえるのが、あなたの幸せに決まってるのよ!あなたの愛らしさと、霊力があれば、それが叶うの。誰でもできることじゃないの。限られた人にしか与えられない権利なのよ?」
「ぼくのじんせいは、ぼくのものでち!ぼくのちあわせも、ぼくのちからも、ぼくのものでち!おひめたまにならないからって、だれかにめいわくかけるなんて、おもえないでち。ちにがみめざつことが、だれかのめいわくになるなんて、おもえないでち!たまちいのきゅーたいは、ほめられることでち!ぼく、いいこにつるの、おとーたんとおかーたんに、やくそくちまち!だから、ちにがみめざつこと、ゆるちてほちいでち。ぼくをここにおいてくだたい。おねがいちまち!おべんきょうも、おうちのことのおてつだいも、ちゃんとぜんぶやるでち!おねがいちまち!おねがいちまぁちッ‼︎」
なつみは、思いの丈をまっすぐに伝えた。おじちゃん…。
(出番無ぇー…😑)
「ここに住むのを決心してくれただけでも、良かったじゃないか。と、とりあえずは思っておくよ。良い子にするという約束、信じて良いんだね?」
新しいお父さんは、多少の理解を示そうとしてくれた。
「あい‼️」
「私たちを困らせたいから、気まぐれで死神を目指すと言い出したわけではないんだね」
「あい‼️みんなのためでち❗️ほんきでち❗️」
「わかったよ…。君なりに頑張りなさい」
「あい‼️」
「ただし、君に死神は向いていないと私たちが判断したら、すぐ諦めてもらうからね」
「それはイヤでち❗️」
(なッ⁉︎)
「むいてなくても、あきらめずに、くらいつくでち!ぼくはほんきなんでちから、ゆめをやめたりちないでち!かならず、ヒーローになりまち!」
誰にも、なつみを止めることはもうできなかった。
(充分、死神に向いてるよ、お前)
家を出てすぐの通りで、おじちゃんのお見送りをするジョンスミス。ジョンスミスがしっかり立っているのに対し、おじちゃんはしゃがんでいた。
「じゃあな、ジョンスミス。達者で暮らせよ」
「うん」
頷いてからジョンスミスは、てくてくとおじちゃんに近づき、彼の首にきゅっと抱きついた。
「わつれないでね、おじちゃん。ぜったい、ぼくのこと、まっててね」
「当たり前だろ」
おじちゃんも腕を回してくれた。
「いつも、お前の成長を思ってるよ」
この小さな胸に感じるのは一体。
「ピリピリつる」
「おう。お前はこれを覚えとけ。お前がピリピリ感じ取ってるのは、俺の霊圧だ」
「れいあつ?」
「霊力を引き出して、押し出す力だな。死神それぞれが特徴を持った出し方をするんだ。個性ってヤツな。お前のもあるぜ。ちっこくて、弱ぇけど」
「むぅ‼️」
小バカにされてムッとしたジョンスミスは、感情を昂らせてみた。
「ははっ、上がった。わかった。これがお前の霊圧な。俺のも覚えたか?」
「うん。おぼえた!」
「ならこれで、直接会えなくても、霊圧を探せれば近くにいるのがわかるな」
「そうなんだ。べんりだね」
おじちゃんはガシガシとジョンスミスの頭を撫でた。
「良い子にしてるんだぞ」
「うん。おじちゃんもね」
「はははっ、俺も良い子にしなきゃなんねーのか!そうだな。悲しい思いさせねぇように、気をつけるな」
膝に手をついて、立ち上がるおじちゃん。にっこり笑顔でお別れを。
「じゃあな!」
「いろいろありがとね、おじちゃん❗️またねー❗️」
小さな手がプンプン振られる。
歩き出す大人の背中。そこに向かって、ジョンスミスは叫んだ。
「おじちゃーん‼️‼️」
振り返るおじちゃん。
「何だ?」
「だいちゅきーーーッ‼️‼️」
そんな告白、彼には初めての経験だったろう。
「何て返せば良いだよ、バーカ」
喉を鳴らす照れ笑いと、身体は進行方向を向いたまま、後ろのかわいい子に振られる右手。
「ばいばーい‼️‼️」
ジョンスミスは、たとえおじちゃんに見てもらえなくても、気持ちがいっぱい届きますようにと、感謝の心を込めて、両腕を大きく振ってお別れをした。大人になった気分だ。
おじちゃんが角を曲がり、本当に離れ離れになってしまったと感じたなつみの小さな胸に、ときん。
「あれ?とおくくなったのに、ピリピリ?」
ときときの上に、手のひらを当ててみる。
「ちがう。ぼくから?」
あひる口の微笑みで、きゅっとピリピリときときを握りしめた。知らない現象だったが、大切にしたいと、あったまるほっぺをして思っていた。
これがなつみの本当の初恋だった。
「おせわになりまちた。とまらせていただいたおれい、こんどもってきまちね」
「あら、ご丁寧に。でもね、良いの。昨日、保護者の方々からいただいたから」
「んー」
不満そう。
「そんなにズルしてぇのか」
隣には、家出グッズを詰め込んだ荷物を背負ったおじちゃんが。
「約束破るな。死神は規則が厳しいんだぞ。言いつけを守るのに、今から慣れていけ。これも立派な訓練のうちのひとつだ」
「あい…。おっきくなるまで、ここにこないでち」
「そうだ」
奥さんが、ジョンスミスの小さな手を包んで握りしめてあげた。
「元気でね。また会えるのを楽しみにしてるわ」
「あい。おくたんも、おげんきで」
「さようなら」
「ばいばーい」
おじちゃんに手を引かれて、ジョンスミスは帰り道へ。
てくてくてく。
「おい、歩くのちょっと遅くねぇか?」
歩幅が狭いから、というだけではなく。
「まいごになりたくないもん」
きょろきょろと景色をよく見て歩いていたのだ。
「どうせ忘れちまうよ。来る日になったら、親にきけば良いだろうが」
「むぅ❗️うるたい❗️ぼくのつきにつるんだい❗️」
「はぁ?」
この発言に引っかかった。
「『ぼく』?『わたち』じゃねぇのか?」
「ぼくはぼくだ!」
「あぁそうか。俺の息子になるの、諦めてねぇんだな」
「おじちゃんのゆめ、かなえてあげるんでち!おんがえちちたいもん。それにね」
目線が一瞬だけおじちゃんに向けられ、また景色に戻された。
「やっぱりぼくは、ぼくってじぶんのこと、よびたいの。らくなんだよね〜。おひめたまなるために、わたちってムリちていってたけど、もう、ちにがみめざつから、ぼくにもどつの!」
「最初はぼくだったのか」
「おとうたんのマネちてたからね。ちゅーいたれてたけど、いぢわるちたかったから、ぼくっていってたの」
「その人、お前をひとりでここまで育てたんだよな。尊敬するわ。俺ならもっと早い段階で追い出したろうに」
「ちどいぞ‼️」
「酷いのはお前だ。愛されてんのに、困らせてよ」
「むぅ…。はんせーちてるもん…」
とぼとぼ。
「人生、後悔したって後戻りできねぇからな。これからをどう過ごすか、考えるしかねぇ。お前はとにかく良い子にしてろ」
「わかってゆ」
昨日、何時間と歩き続けた距離だが、野生の勘を頼りに曲がりくねって進んでいたため、最短ルートを行けば、ずっと近く感じられたが、それでもジョンスミスのペースではまだまだかかる。
「道覚えてるとこ悪いがな、特訓の続きしても良いぜ。俺の暇つぶしに付き合えよ」
「えー」
「心配すんな。ここからあそこの突き当たりまでは、まっすぐだからな」
おじちゃんの指す先を見た。
「わかった。なにつるの?」
「あそこまでな、瞬歩の練習だ」
「つかれちゃうよー」
「疲れてから言え。茶屋見つけたら、そこで休めば良いだろ?お前はな、文句言える立場じゃねーんだよ」
「まーねー。いたっ💦」
ほっぺを引っ張られた。
「おねがいちまち、ちぇんちぇー」
まずはステップをゆっくりと見せて、解説する。
「こうだ」
タンタンッ
「はやいでち」
「あ?そうか。もう1回な。よく見てろ」
タン、タン
「こう?」
タン、タン
「おう!それをダダッとやるんだ」
ザッ‼️
真横にいたおじちゃんは、一瞬で10歩程先に立っていた。
「見えてたかー?」
「はやいでちー‼️」
しかし、教えてもらったステップを自分なりにマネして、ぴょこんっとやってみた。
「だだっ‼️」
1歩前進。
「プッ😗」
「むぅ‼️」
笑われたので、もう1回。
「だだっ‼️」
焦って踏み出したため、足がもつれて転んでしまった。
ドテッ💨
「わッ⁉︎大丈夫かよ」
おじちゃんが駆けつけてくれた。
「うゆゆ…」
唸りながら、自力でゆっくり立ち上がる。
(おいおい、泣くなよ?💧)
と心配したが、それは取り越し苦労だった。
「すりむいた」
お腹や膝に付いた砂を払い、そう落ち着いてつぶやいた。
「血が出てるな」
ジョンスミスの下唇と顎のぐにぐにから、痛がってるのは見て取れたが、弱音が出てくることは無かった。膝から血が滲み出るのみだ。
「ちょっと裾上げとけよ」
しゃがんで、おじちゃんはジョンスミスの擦り剥いた傷口に手をかざす。ジョンスミスは、どうするんだろうと不安そうに見ていた。
(いたいのいたいの、とんでけー、のおまじない?)
そんな予想は当たり前のように外される。
「わぁああ✨」
肌と手の間に、温かい力が集められ、それが傷口から入り込み、ジョンスミスの内側から回復力を引き出してくれる。
「なおってくー!✨」
魔法のチカラに感激する間に、傷は完全に消えてしまった。
「ちゅごー!」
得意げにおじちゃんは立ち上がった。
「これはな、回道ってんだ。今くらいの傷なら、死神が基礎として身につけてる程度で治せるぜ」
「ちにがみかっちょよつぎる!」
「あんまり酷いと、四番隊に行かなきゃならないが、軽いもんだと、自分たちで処置すんだよ」
「へぇー」
「さぁ、瞬歩の練習続けるぞ。お前は強ぇ子だ。コケたくらいで、諦めたりしねぇよな」
「あい❗️」
その後もダダッと練習し、突き当たりまでたどり着いた。
「もだめだ😣」
宣言通り疲れてしまったため、お茶屋へ寄り道することにする。
お茶とお団子が2人前、おじちゃんとジョンスミスの間に並べられる。
「いただきまーち🍡」
もぐもぐ。
「おいちー」
「いただきまーす🍡」
もぐもぐ。
「うまいな」
長椅子の座るジョンスミスの脚はぷらんぷらん。
「ねぇねぇ」
「あん?」
「みんなケガなおせるなら、どちてちゅんちゅんなおちてなかったの?」
「あれでも治療はしてあるんだろうがな。そんな暇が無ぇのかもしれねぇな。忙しいんだろ」
「たぼってるんでちょ?」
「そうだ。サボるのに忙しいんだ」
「ヘンなの〜🍡」
お茶もひと口。
「ねぇねぇ、おっきなケガなおちてもらえるの、ちにがみだけ?」
「あー、瀞霊廷ってな、死神以外にも役職があってよ。鬼道衆とか、隠密機動とかも危険な仕事をしてっから、あの人らも四番隊に行くことあるかもな」
「ふつーのちとたちは?ルコンガイのちとたちとか」
「流魂街か。流魂街の住人は基本、瀞霊廷には入れねぇから、民間療法とかで、なんとかしのいでんのかもな。現世で医術を学んだ人がいりゃあ、その人が助けてくれるかもしれねぇが」
「そっかぁ……」
子供には相応しくない遠い目をするジョンスミス。
「怪我か病気で苦しんでる知り合いでもいんのか?」
「ううん。いないよ。でもね、ちらないちとたち」
お団子の串をお皿に戻す。
「あのね。ぼくがセイレイテイにくるとちゅう、おねえたんとおにいたんが、たのちそうに、そとでおたべりちてるのみかけたんだ」
「ふーん」
「おともだちと、たのちくおたべりつるの、あこがれてるからた、ぼく、そのちとたちのことじっとみてたの」
「褒められたことじゃねぇけどな。知らねぇ人をじろじろ見るなんて」
「わかってるもん。けどみちゃった。そちたらね、おねえたんのおかおに、おっきなきずみたいな、あざみたいな、とにかく、やばいのがついてたの。ぼく、びっくりしちゃった」
「そりゃ見ちまうか。どうしたんだろうな、その人。お前は、そのお姉さんの顔を治してあげてぇのか」
「うん。そうなればいいなとおもうけど、でもね、おねえたん、とってもちあわせそうにわらってたの。なおせないから、そのままにちてたのかな」
「ふーん…、かもな。だが、お前が驚く程の痕が付いてんのに、話し相手は仲良くしてたんだな。恋人だろうか」
「おにいたんね、たぶん、めがみえないちとなんだよ。ぜんぜん、おねえたんのかおみて、おはなちちてなかったもん。でも、おねえたんといっちょにわらってたから、あのちとたちにとって、あれがふつーなんだよね」
「そうか。いろんな人がいるもんだな……」
「もちも、おねえたんのおかおが、げんきなはだいろちてて、もちも、おにいたんのおめめがみえてたら、あのちとたち、おともだちにならなかったかな」
「さぁな」
「それとも、いまよりちあわせになってたかな」
「俺が知るかよ。本人たちにしか、わかんねぇよ」
「んー、そだよね」
こんどあえたら、きいてみよーと軽く思うジョンスミスであった。
「おじちゃんのびょーき、はやくなおちてもらえるといーね〜」
抜け出してきた家に、無事に帰ってきてしまったのは、昼時だった。
「あーあ、ついちゃった」
「やっと着いたぜ。ごめんくださーい!」
おじちゃんが家の人を呼んだ。
昨夜、奥さんは地獄蝶の報告を受けた後、捜索願いを出していた家族が、ジョンスミスを探している家族であるかどうか、家まで行って確かめていた。
会って話をすると、確かに失踪者の特徴が合致した。
「その子です!うちで預かる木之本なつみちゃんです!京楽様のところでお世話になっていたとは。大変、ご迷惑をお掛けしました。感謝しても仕切れません。すぐ迎えに伺います!」
しかし奥さんは、その申し出を止めてしまった。
「迷惑だなんて、とんでもない。今日はもう、このままうちで寝かせてしまいます。疲れているでしょうから、無理して追い返すのは、私たちにとって、心苦しいんです。それに、うちの者があの子をとても気に入ってしまったみたいですし」
なつみを泊まらせることを伝え、そして、彼女の将来について丁寧に話し合っていくことにした。
「貴族に嫁ぐことよりも、なつみちゃんは、死神になることを目指すそうですよ」
「なんですって⁉︎⁉︎」
快く受け入れたとは見られなかったが、なつみがこの家に帰ってくるのが確定したことで、了承した風にはしていた。
「わかりました。なつみちゃんの意志を尊重します」
「お願いします」
といわけで、おじちゃんが気合いを入れて交渉することは無かった。
「おじちゃん、でばんないじゃん」
「おー、できた嫁を持てて、誇らしいぜ」
高位の貴族を前に、保護者たちはなつみを叱らなかった。
「俺が帰ったら、ド叱られるんだろうよ」
「じゃあかえらないで」
「やだね」
こそこそと2人が話していると、ひと言文句は言われた。
「私たちはその子の幸せを思って、瀞霊廷に連れてきたんですよ」
おじちゃんは重々承知の上で、ここまでジョンスミスを連れてきた。返す言葉もちゃんと用意している。
「わかっています。ですが」
「ぼくのちあわせ、おとーたんとおかーたんにわかるもんか❗️おちえてあげたおぼえ、ないでちよ❗️」
「……😓」
その必要は無いらしい。
「まぁ!なんて言い方を。お姫様になって、みんなから大事にしてもらえるのが、あなたの幸せに決まってるのよ!あなたの愛らしさと、霊力があれば、それが叶うの。誰でもできることじゃないの。限られた人にしか与えられない権利なのよ?」
「ぼくのじんせいは、ぼくのものでち!ぼくのちあわせも、ぼくのちからも、ぼくのものでち!おひめたまにならないからって、だれかにめいわくかけるなんて、おもえないでち。ちにがみめざつことが、だれかのめいわくになるなんて、おもえないでち!たまちいのきゅーたいは、ほめられることでち!ぼく、いいこにつるの、おとーたんとおかーたんに、やくそくちまち!だから、ちにがみめざつこと、ゆるちてほちいでち。ぼくをここにおいてくだたい。おねがいちまち!おべんきょうも、おうちのことのおてつだいも、ちゃんとぜんぶやるでち!おねがいちまち!おねがいちまぁちッ‼︎」
なつみは、思いの丈をまっすぐに伝えた。おじちゃん…。
(出番無ぇー…😑)
「ここに住むのを決心してくれただけでも、良かったじゃないか。と、とりあえずは思っておくよ。良い子にするという約束、信じて良いんだね?」
新しいお父さんは、多少の理解を示そうとしてくれた。
「あい‼️」
「私たちを困らせたいから、気まぐれで死神を目指すと言い出したわけではないんだね」
「あい‼️みんなのためでち❗️ほんきでち❗️」
「わかったよ…。君なりに頑張りなさい」
「あい‼️」
「ただし、君に死神は向いていないと私たちが判断したら、すぐ諦めてもらうからね」
「それはイヤでち❗️」
(なッ⁉︎)
「むいてなくても、あきらめずに、くらいつくでち!ぼくはほんきなんでちから、ゆめをやめたりちないでち!かならず、ヒーローになりまち!」
誰にも、なつみを止めることはもうできなかった。
(充分、死神に向いてるよ、お前)
家を出てすぐの通りで、おじちゃんのお見送りをするジョンスミス。ジョンスミスがしっかり立っているのに対し、おじちゃんはしゃがんでいた。
「じゃあな、ジョンスミス。達者で暮らせよ」
「うん」
頷いてからジョンスミスは、てくてくとおじちゃんに近づき、彼の首にきゅっと抱きついた。
「わつれないでね、おじちゃん。ぜったい、ぼくのこと、まっててね」
「当たり前だろ」
おじちゃんも腕を回してくれた。
「いつも、お前の成長を思ってるよ」
この小さな胸に感じるのは一体。
「ピリピリつる」
「おう。お前はこれを覚えとけ。お前がピリピリ感じ取ってるのは、俺の霊圧だ」
「れいあつ?」
「霊力を引き出して、押し出す力だな。死神それぞれが特徴を持った出し方をするんだ。個性ってヤツな。お前のもあるぜ。ちっこくて、弱ぇけど」
「むぅ‼️」
小バカにされてムッとしたジョンスミスは、感情を昂らせてみた。
「ははっ、上がった。わかった。これがお前の霊圧な。俺のも覚えたか?」
「うん。おぼえた!」
「ならこれで、直接会えなくても、霊圧を探せれば近くにいるのがわかるな」
「そうなんだ。べんりだね」
おじちゃんはガシガシとジョンスミスの頭を撫でた。
「良い子にしてるんだぞ」
「うん。おじちゃんもね」
「はははっ、俺も良い子にしなきゃなんねーのか!そうだな。悲しい思いさせねぇように、気をつけるな」
膝に手をついて、立ち上がるおじちゃん。にっこり笑顔でお別れを。
「じゃあな!」
「いろいろありがとね、おじちゃん❗️またねー❗️」
小さな手がプンプン振られる。
歩き出す大人の背中。そこに向かって、ジョンスミスは叫んだ。
「おじちゃーん‼️‼️」
振り返るおじちゃん。
「何だ?」
「だいちゅきーーーッ‼️‼️」
そんな告白、彼には初めての経験だったろう。
「何て返せば良いだよ、バーカ」
喉を鳴らす照れ笑いと、身体は進行方向を向いたまま、後ろのかわいい子に振られる右手。
「ばいばーい‼️‼️」
ジョンスミスは、たとえおじちゃんに見てもらえなくても、気持ちがいっぱい届きますようにと、感謝の心を込めて、両腕を大きく振ってお別れをした。大人になった気分だ。
おじちゃんが角を曲がり、本当に離れ離れになってしまったと感じたなつみの小さな胸に、ときん。
「あれ?とおくくなったのに、ピリピリ?」
ときときの上に、手のひらを当ててみる。
「ちがう。ぼくから?」
あひる口の微笑みで、きゅっとピリピリときときを握りしめた。知らない現象だったが、大切にしたいと、あったまるほっぺをして思っていた。
これがなつみの本当の初恋だった。