過去編
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その日の午前、五番隊の執務室には客人が1人いた。
八番隊副隊長──矢胴丸リサ。
手にした文書を机に置くと、平子と軽口を交わしていた。
「……で、その報告書、回す先ひとつズレとってん。まあ、こっちで直しといたけどな」
「はー……またかいな。こっちは仕事増えるばっかやで」
平子がため息まじりに書類を受け取った、その時だった。
──控えめなノックの音とともに、失礼しますと落ち着いた声が聞こえた後にふわりと扉が開く。
姿を見せたのは、五番隊四席・如月澪。
整えられた死覇装を纏い、落ち着いた歩みで入室するその姿には、品のある静かな気配が宿っている。
その佇まいに、リサの目が細められる。
「失礼いたします。隊長、本日分の報告書をお持ちしました」
報告書を差し出しながら、澪はちらとリサへ視線を向け、小さく丁寧に頭を下げた。
「矢胴丸副隊長もお疲れさまです」
「ん。そんな堅苦しい呼び方やめぇ、気ぃ遣わんでええのに」
「一応業務中だから」
リサの声はやわらかく、2人の間に親しみを感じさせる。
澪が平子に書類についてあれこれ報告している様子を眺めながら相変わらずの様子に関心する
「副隊長も兼ねとるんかってくらい、気配りできるなぁ。……今の副隊長より、よっぽど頼れそうやん?」
「こらこら。惣右介に聞こえたら泣くで」
「泣かへん泣かへん。あいつ、根っこ図太そうやんけ」
軽口の応酬に、澪は柔らかく微笑んでいた。
「ちょうど昼も近いし、澪。いっしょに飯行こや、たまには女同士、ふたりで」
リサがそう言って顔を向けると、澪は少し驚いたように目を瞬かせた。
「えっ……良いの?何か用があったからここに来たんじゃ…」
「用事ならもう終わったから、ええに決まっとるやん。」
「ふふ……久しぶりにリサと女子会できるの嬉しい」
「 澪はほんま昔から気ぃ利くし、色気もあるし、話し相手にも困らんしなぁ。……うちの隊に来てくれへんかな?」
にやりと笑うリサに、平子が椅子の背にぐいっともたれかかる。
「はいはい。あかんで、うちは引き抜きは禁止やで。それに五番隊には澪が必要やからな」
「そんなん、半分冗談や……けど、あんたには贅沢や思てまうなぁ。澪みたいなええ女、なかなかおらんで?」
リサの言葉に、澪は少し頬を染め照れながら軽く返す。
「もう…そんなに持ち上げても、なにも出ないよ?」
平子がムスッとしながらどこか得意げに笑う。
「澪はうちの四席や。何処にも渡さへんよ」
「……言うと思たわ」
呆れたようなリサの声の奥に、どこか楽しげな響きが混じる。
「ほな、行こか、澪」
「はい、……矢胴丸副隊長」
「もう業務外なんやからほら、そんな堅苦しい呼び方やめぇ」
「ごめん……癖でつい。」
澪はふっと肩の力を抜き、心から微笑んだ。
その笑みは、平子の前で“理想の女性”を演じるときのものとは少し違う、素の澪のものだった。
二人が連れ立って部屋を出ていくと、平子は椅子に深く身を沈め、小さく笑う。
「……ま、たまには女子会もええか」
その目はどこか遠くを見ながら、優しく澪の背を追っていた。
******
「……そういや、あんた前にもまして髪の艶良くなってへんか?」
陽のぬるさが肌に心地よく降り注ぐ昼下がり、隣を歩くリサがちらりと澪の顔を覗き込んだ。
「……え?分かってくれた、椿油買うお店変えてみたんだ」
澪はいつも通り柔らかく微笑みながらも、少し照れたように目を伏せた。
気遣いと上品さを湛えたその表情には、隙がないほどの“理想の女性”像がにじむ。
けれど、リサはそんな表面だけを見ているわけではなかった。
「ふーん? あんたのそういうとこ、昔と比べたらほんま見違えたわ。色っぽいし、しっかりしとるし、努力を欠かさないし……」
「リサったらもぅ、からかわないでも」
口調は崩れているが、微苦笑しながらも、声色はやわらかく、穏やか。
平子がそばにいない今もなお、その“作られた完璧”は崩さずにいる──けれどリサには分かっていた。
それが演技であり、同時に努力の果てに築き上げた彼女自身だということも。
リサと澪がここまで親しいのは、彼女たちが中央霊術院時代、同級生として共に過ごしていたからだ。
当時からリサは、澪が平子のことを想い、自分を“理想の女性”へと磨き上げていく姿を、近くで見守ってきた。
だからこそ今も、彼女の本心を、誰よりも理解している。
「……まあ、でもな。あんたが“あいつの好みの女”になろうとしてるの、うちはずっと見てきたから」
歩を進めながら、リサは少しだけ目を細めた。
「正直なとこ、見ててたまに無理してへんのかって思う時もあるけど」
「無理なんかしてないよ」
すっと背筋を伸ばして、澪は静かに答える。
「……これが、今の私だもん。少し前の私が見たら驚くかもしれないけど、それでも、自分で選んできた道だから」
「──やっぱり、ええ女やな」
リサはそう言って、ふっと小さく笑った。
彼女は知っている。澪が、子どもの頃から平子を一途に想い続け、そのために“変わろう”と努力してきたことを。
そしてもうひとつ──
(……真子も、澪のこと、だいぶ惹かれてるし、両片思いなんよなぁ)
そんなことを、わざわざ言うつもりはかった。
澪も平子も、互いに特別な存在だと、きっと気づきながらもなかなか距離を詰められない。
だからこそ、そのもどかしさを楽しんでいる自分がいるのも、リサは自覚していた。
「……ま、そのじれったさが見てて飽きへんのやけど」
澪が不思議そうに首を傾げるのを見て、リサは取り繕うように笑った。
「なんでもない。ほな、行こか。今日はあんたの好きな卵焼き、残ってるかもしれへんよ?」
「ふふ、まだ残ってると良いなぁ」
やわらかな笑みで応じながら、澪はリサの隣に並んで歩き出す。
その姿は相変わらず凛として、けれど、先ほどより少しだけ“素の澪”がにじんでいた。
*****
小話
「そういえばまだ、あの反省ノートは書いてるんか?」
「えっ……!? そ、それは……っ」
箸を持つ手が止まり、澪は一瞬で頬を紅潮させた。目をぱちぱちと瞬かせながら、言葉を探してうろたえる。
「やっぱ書いとるんやな~。ほんま、あんたらしいわ」
にやにやと笑うリサを前に、澪は俯きながらも口を尖らせる。
「……昔の話だと思ってたのに……まだ覚えてたの……」
「そら覚えとるわ。霊術院んとき、あんた机で寝落ちしとった時、ノート開きっぱなしで、何の勉強してんのか見たら“今日の所作、話すスピード、声のトーン不自然、反省あり”とか、律儀に書いとったなぁ」
「っ……! ち、ちょっと!なんで中身まで覚えてるのっ!」
羞恥と焦りが入り混じった声で、澪が抗議する。恥ずかしさに耐えきれず、手でほっぺたを覆った。
「かわええなぁ。なに隠すことあるんや? どうせ今でも“本日の反省・平子隊長が好きすぎて直視出来ない”とか書いとるんやろ?」
「~~っっ、そ、そんなことっ、書いてませんっ!」
顔を真っ赤にして抗議する澪に、リサは肩を揺らして笑い出す。
「冗談やって、冗談。……でも、ほんま、そういうとこがええんよなぁ。あのアホの為とはいえ、恥ずかしがりつつも、ちゃんと努力続けとるってのが」
「……ずるい。からかうだけからかって、褒めるなんて……」
拗ねたように呟く澪の表情は、どこかあたたかく、少しだけ緩んでいた。
「親友としてあんたんこと応援したいんや」
「……ほんとに、もう……からかうのも、励ますのも、うまいんだから……」
笑いながらリサがそう言うと、澪もようやく顔を上げ、恥ずかしげに小さく笑った。
昼下がりの食堂に、そんな二人の笑い声が心地よく響いていた。
八番隊副隊長──矢胴丸リサ。
手にした文書を机に置くと、平子と軽口を交わしていた。
「……で、その報告書、回す先ひとつズレとってん。まあ、こっちで直しといたけどな」
「はー……またかいな。こっちは仕事増えるばっかやで」
平子がため息まじりに書類を受け取った、その時だった。
──控えめなノックの音とともに、失礼しますと落ち着いた声が聞こえた後にふわりと扉が開く。
姿を見せたのは、五番隊四席・如月澪。
整えられた死覇装を纏い、落ち着いた歩みで入室するその姿には、品のある静かな気配が宿っている。
その佇まいに、リサの目が細められる。
「失礼いたします。隊長、本日分の報告書をお持ちしました」
報告書を差し出しながら、澪はちらとリサへ視線を向け、小さく丁寧に頭を下げた。
「矢胴丸副隊長もお疲れさまです」
「ん。そんな堅苦しい呼び方やめぇ、気ぃ遣わんでええのに」
「一応業務中だから」
リサの声はやわらかく、2人の間に親しみを感じさせる。
澪が平子に書類についてあれこれ報告している様子を眺めながら相変わらずの様子に関心する
「副隊長も兼ねとるんかってくらい、気配りできるなぁ。……今の副隊長より、よっぽど頼れそうやん?」
「こらこら。惣右介に聞こえたら泣くで」
「泣かへん泣かへん。あいつ、根っこ図太そうやんけ」
軽口の応酬に、澪は柔らかく微笑んでいた。
「ちょうど昼も近いし、澪。いっしょに飯行こや、たまには女同士、ふたりで」
リサがそう言って顔を向けると、澪は少し驚いたように目を瞬かせた。
「えっ……良いの?何か用があったからここに来たんじゃ…」
「用事ならもう終わったから、ええに決まっとるやん。」
「ふふ……久しぶりにリサと女子会できるの嬉しい」
「 澪はほんま昔から気ぃ利くし、色気もあるし、話し相手にも困らんしなぁ。……うちの隊に来てくれへんかな?」
にやりと笑うリサに、平子が椅子の背にぐいっともたれかかる。
「はいはい。あかんで、うちは引き抜きは禁止やで。それに五番隊には澪が必要やからな」
「そんなん、半分冗談や……けど、あんたには贅沢や思てまうなぁ。澪みたいなええ女、なかなかおらんで?」
リサの言葉に、澪は少し頬を染め照れながら軽く返す。
「もう…そんなに持ち上げても、なにも出ないよ?」
平子がムスッとしながらどこか得意げに笑う。
「澪はうちの四席や。何処にも渡さへんよ」
「……言うと思たわ」
呆れたようなリサの声の奥に、どこか楽しげな響きが混じる。
「ほな、行こか、澪」
「はい、……矢胴丸副隊長」
「もう業務外なんやからほら、そんな堅苦しい呼び方やめぇ」
「ごめん……癖でつい。」
澪はふっと肩の力を抜き、心から微笑んだ。
その笑みは、平子の前で“理想の女性”を演じるときのものとは少し違う、素の澪のものだった。
二人が連れ立って部屋を出ていくと、平子は椅子に深く身を沈め、小さく笑う。
「……ま、たまには女子会もええか」
その目はどこか遠くを見ながら、優しく澪の背を追っていた。
******
「……そういや、あんた前にもまして髪の艶良くなってへんか?」
陽のぬるさが肌に心地よく降り注ぐ昼下がり、隣を歩くリサがちらりと澪の顔を覗き込んだ。
「……え?分かってくれた、椿油買うお店変えてみたんだ」
澪はいつも通り柔らかく微笑みながらも、少し照れたように目を伏せた。
気遣いと上品さを湛えたその表情には、隙がないほどの“理想の女性”像がにじむ。
けれど、リサはそんな表面だけを見ているわけではなかった。
「ふーん? あんたのそういうとこ、昔と比べたらほんま見違えたわ。色っぽいし、しっかりしとるし、努力を欠かさないし……」
「リサったらもぅ、からかわないでも」
口調は崩れているが、微苦笑しながらも、声色はやわらかく、穏やか。
平子がそばにいない今もなお、その“作られた完璧”は崩さずにいる──けれどリサには分かっていた。
それが演技であり、同時に努力の果てに築き上げた彼女自身だということも。
リサと澪がここまで親しいのは、彼女たちが中央霊術院時代、同級生として共に過ごしていたからだ。
当時からリサは、澪が平子のことを想い、自分を“理想の女性”へと磨き上げていく姿を、近くで見守ってきた。
だからこそ今も、彼女の本心を、誰よりも理解している。
「……まあ、でもな。あんたが“あいつの好みの女”になろうとしてるの、うちはずっと見てきたから」
歩を進めながら、リサは少しだけ目を細めた。
「正直なとこ、見ててたまに無理してへんのかって思う時もあるけど」
「無理なんかしてないよ」
すっと背筋を伸ばして、澪は静かに答える。
「……これが、今の私だもん。少し前の私が見たら驚くかもしれないけど、それでも、自分で選んできた道だから」
「──やっぱり、ええ女やな」
リサはそう言って、ふっと小さく笑った。
彼女は知っている。澪が、子どもの頃から平子を一途に想い続け、そのために“変わろう”と努力してきたことを。
そしてもうひとつ──
(……真子も、澪のこと、だいぶ惹かれてるし、両片思いなんよなぁ)
そんなことを、わざわざ言うつもりはかった。
澪も平子も、互いに特別な存在だと、きっと気づきながらもなかなか距離を詰められない。
だからこそ、そのもどかしさを楽しんでいる自分がいるのも、リサは自覚していた。
「……ま、そのじれったさが見てて飽きへんのやけど」
澪が不思議そうに首を傾げるのを見て、リサは取り繕うように笑った。
「なんでもない。ほな、行こか。今日はあんたの好きな卵焼き、残ってるかもしれへんよ?」
「ふふ、まだ残ってると良いなぁ」
やわらかな笑みで応じながら、澪はリサの隣に並んで歩き出す。
その姿は相変わらず凛として、けれど、先ほどより少しだけ“素の澪”がにじんでいた。
*****
小話
「そういえばまだ、あの反省ノートは書いてるんか?」
「えっ……!? そ、それは……っ」
箸を持つ手が止まり、澪は一瞬で頬を紅潮させた。目をぱちぱちと瞬かせながら、言葉を探してうろたえる。
「やっぱ書いとるんやな~。ほんま、あんたらしいわ」
にやにやと笑うリサを前に、澪は俯きながらも口を尖らせる。
「……昔の話だと思ってたのに……まだ覚えてたの……」
「そら覚えとるわ。霊術院んとき、あんた机で寝落ちしとった時、ノート開きっぱなしで、何の勉強してんのか見たら“今日の所作、話すスピード、声のトーン不自然、反省あり”とか、律儀に書いとったなぁ」
「っ……! ち、ちょっと!なんで中身まで覚えてるのっ!」
羞恥と焦りが入り混じった声で、澪が抗議する。恥ずかしさに耐えきれず、手でほっぺたを覆った。
「かわええなぁ。なに隠すことあるんや? どうせ今でも“本日の反省・平子隊長が好きすぎて直視出来ない”とか書いとるんやろ?」
「~~っっ、そ、そんなことっ、書いてませんっ!」
顔を真っ赤にして抗議する澪に、リサは肩を揺らして笑い出す。
「冗談やって、冗談。……でも、ほんま、そういうとこがええんよなぁ。あのアホの為とはいえ、恥ずかしがりつつも、ちゃんと努力続けとるってのが」
「……ずるい。からかうだけからかって、褒めるなんて……」
拗ねたように呟く澪の表情は、どこかあたたかく、少しだけ緩んでいた。
「親友としてあんたんこと応援したいんや」
「……ほんとに、もう……からかうのも、励ますのも、うまいんだから……」
笑いながらリサがそう言うと、澪もようやく顔を上げ、恥ずかしげに小さく笑った。
昼下がりの食堂に、そんな二人の笑い声が心地よく響いていた。
