過去編
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その日は、任務終わりの昼下がりだった。
任務を終えた隊士たちは、隊長の解散の声を受けてそれぞれ隊舎に戻ったり、報告書の段取りを話し合ったりしていた。
澪も遅めの昼食をとろうと歩き出したところで、不意に声をかけられる。
「澪、ちょっと寄り道せぇへん?」
唐突な誘いに、心臓が跳ねた。
何度も何度も夢見た、“隊長と2人きりの時間”。
けれどそれが、こんなにも自然にやってくるなんて──。
「この間、メシ奢る言うたやろ、せやから今から行こかと思うてな」
「はい。もちろんです」
澪は二つ返事で早まる気持ちを抑えながら、不自然にならないように普段通りに受け答えをする。
平子の後ろ姿を追いながら、澪の脳内では“何を話そう”“どんな顔をすればいい?”が高速回転を始めていた。
*******
平子に連れられてやって来たのは、瀞霊廷内でも噂になっている蕎麦屋だった。
隊士たちの間では「ごぼう天が美味い」と評判の、素朴ながら風情のある店だ。
「ここの天ぷら、美味いねんで」
「そうなんですか? 初めて来たので楽しみです」
「特にごぼう天がオススメやで。今日は隊長の奢りなんやから、遠慮なく食べてええで」
にやけながらそう言う平子に、澪は微笑みつつ、冗談めかして返す。
「ふふ……財布が寂しくなっても知りませんよ?」
そんな軽口も、今では自然に言えるようになった。
ほんの少し前の自分なら、顔に笑みを貼り付けるのがやっとで、口元が引きつってしまっていたかもしれない。
実際、入隊して間もない頃は、“理想の女性像”を守ろうと意識しすぎて、表情まで固くなってしまっていた。
ずっと追いかけてきた想い人が実際に目の前に相対して、緊張しない方が可笑しいのだけど…
──けれど、毎晩、反省ノートを開いて「今日の私はどうだったか」を見直してきた。
言い回しや、立ち居振る舞いも。少しでも自然に、少しでも“理想の女性”に近づけるように。
今日こうして笑えているのは、その積み重ねがあったからだ。
***
平子side
お茶を口にしながら、平子は澪の顔に目をやる。
(……入った頃より、ほんまええ顔するようになったなぁ)
目元の力が抜けて、柔らかい雰囲気になった。
会話の受け答えも自然やし、適度な距離感も心地ええ。
(最初の頃は、なんや……“頑張りすぎ”って感じやったんよな)
他の隊士と喋ってる時は今と変わらず普通やったのに、自分と話す時だけ──丁寧すぎる物言いや、かしこまりすぎた姿勢。
まるで「こうしなきゃいけない」っていう理想に縛られてるように見えた。
悪いことやない。
むしろ真面目で一生懸命な性格なんやろうなと好感は持ってた。
でも、どこか“壁”を感じてたのも事実やし、何か隠しとるのも感じとれる。
けど、最近は──
緊張が解けたのか俺とも自然と会話出来とるし、前よりも距離を縮めれた気がする。
けど偶に俺以外、例えばリサと話している澪は何処か普段とは違った表情を見せる。
その表情を自分にも向けて欲しい…もっと色んな表情が見たい思ってしまう。
「……平子隊長。そんなに見つめられると、落ち着きません」
入隊時から今日までの事を考えてたせいか、じっと澪を見つめてしまっていた。
その事に少し頬を赤らめながら恥ずかしげに、戸惑う澪に申し訳なさよりも自分に対してこんな表情してくれることが嬉しく素直に伝える。
「なんや、入隊したての頃よりも変わったな思てたんやけど──」
「……え?」
「前より、空気がやわらかくなっちゅうか……距離が近くなって、嬉しいわぁ」
***
澪 side
その言葉に、心臓が跳ねるのを感じた。
「……すみません、最初の頃は無愛想だったかもしれません」
「いやいや、悪い言うてるんやないで? ええ意味でや、最初の頃は緊張ばっかしてたのに今では軽口叩けるまで距離が縮まって嬉しいっちゅう話や」
たったそれだけの言葉なのに、胸がじんと熱くなった。
(…入隊時から見て貰えてたなんて)
入隊してすぐに二十席に就いたとはいえ、隊長と末席では関わる機会なんてたかが知れてる。
それでも平子隊長は私が入隊した時から見てくれていた。
それがどれ程嬉しいものか…。
ずっと平子隊長の好みに合わせて、理想の“包容力ある女性”として振舞ってきた。
それをどこかで「嘘っぽい」って思われてるかもしれない不安もあった。
けれど──
「……見てくださってたんですね。本当に……ありがとうございます」
静かにそう言うと、平子はどこか優しい笑みを浮かべた。
「そらぁ見るやろ、こんな可愛いくて気の利く部下が入ったら…」
茶化すでも揶揄うでもなくさらりと言ってくれる隊長に胸が熱くなる。
やっぱり私を見てくれるのは、この人だけだと思った。
***
少しして、ごぼう天そばが運ばれてくる。
湯気とともに立ちのぼる、香ばしい匂い。
「うわ……美味しそう……!」
思わず漏れた声に、平子がどこか満足そうに頷いた。
「せやろ? こういう地味な店の方が、実はしっかり美味いねん」
「……そうですね。なんだかお店の雰囲気も、合わさって落ち着きます。」
「「いただきます。」」
そしてそっと箸をとり、一口。
揚げたてのごぼう天の香ばしさと、優しい出汁の味が口いっぱいに広がって──
心までじんわり温まっていく。
(……あったかい)
蕎麦の味ももちろん美味しいけれど、
たぶん、今この時間そのものが、一番の“ご馳走”なんだと思った。
ほんの少し肩の力を抜いて、また一口、蕎麦をすする。
その横で、平子は変わらぬ調子で蕎麦をすすりながら──
けれど、いつもよりも少しだけ、穏やかな目をしていた。
*****
夜/澪 side
任務後の束の間の外出から戻り、入浴を済ませて髪を乾かすと、澪は自室の小さな机に向かった。
灯を落とした部屋に、ぼんやりとした行灯の明かりが揺れる。
机の上には、一冊のノート。
――反省ノート。
毎晩、必ずつけてきた。
自分の言動、仕草、口調、立ち居振る舞い。
どこが理想像に近づけていたか、逆に何が未熟だったかを記録する。
今日も筆を取り、表紙をめくる。
⸻
【本日の反省】
〇7月某日/午後
場面:任務後、平子隊長と蕎麦屋
会話の印象:自然体でいられた場面が多かった/笑顔の作りも、違和感なかった(たぶん)
口調:終始“丁寧で柔らかい”を意識(ただし、少し砕けすぎたかもしれない?)
⸻
筆を止めて、澪は少し考える。
「ふふ……財布が寂しくなっても知りませんよ?」
――あれは、やりすぎだっただろうか。
(いや、でも……隊長、笑ってくれてた)
そう思い返すと、胸がぽっとあたたかくなる。
平子隊長の笑顔。
「前より空気がやわらかくなっちゅうか……距離が近くなって、嬉しいわぁ」
その一言が、どれだけ自分を救ってくれたか。
⸻
ページの端に、小さく書き添える。
“また、平子隊長とごはんに行けますように”
少しだけ顔が火照って、筆を置いた。
反省ノートを閉じて、行灯の灯を消す。
薄暗がりの中で、澪はそっと胸に手を当てた。
(……早く副隊長になって平子隊長にこの思いを告げれますように)
そのまま、掛け布団に入る。
心の中に、あったかい蕎麦の味と、あの穏やかな横顔を思い浮かべながら──
澪は静かに、微睡みに沈んでいった。
任務を終えた隊士たちは、隊長の解散の声を受けてそれぞれ隊舎に戻ったり、報告書の段取りを話し合ったりしていた。
澪も遅めの昼食をとろうと歩き出したところで、不意に声をかけられる。
「澪、ちょっと寄り道せぇへん?」
唐突な誘いに、心臓が跳ねた。
何度も何度も夢見た、“隊長と2人きりの時間”。
けれどそれが、こんなにも自然にやってくるなんて──。
「この間、メシ奢る言うたやろ、せやから今から行こかと思うてな」
「はい。もちろんです」
澪は二つ返事で早まる気持ちを抑えながら、不自然にならないように普段通りに受け答えをする。
平子の後ろ姿を追いながら、澪の脳内では“何を話そう”“どんな顔をすればいい?”が高速回転を始めていた。
*******
平子に連れられてやって来たのは、瀞霊廷内でも噂になっている蕎麦屋だった。
隊士たちの間では「ごぼう天が美味い」と評判の、素朴ながら風情のある店だ。
「ここの天ぷら、美味いねんで」
「そうなんですか? 初めて来たので楽しみです」
「特にごぼう天がオススメやで。今日は隊長の奢りなんやから、遠慮なく食べてええで」
にやけながらそう言う平子に、澪は微笑みつつ、冗談めかして返す。
「ふふ……財布が寂しくなっても知りませんよ?」
そんな軽口も、今では自然に言えるようになった。
ほんの少し前の自分なら、顔に笑みを貼り付けるのがやっとで、口元が引きつってしまっていたかもしれない。
実際、入隊して間もない頃は、“理想の女性像”を守ろうと意識しすぎて、表情まで固くなってしまっていた。
ずっと追いかけてきた想い人が実際に目の前に相対して、緊張しない方が可笑しいのだけど…
──けれど、毎晩、反省ノートを開いて「今日の私はどうだったか」を見直してきた。
言い回しや、立ち居振る舞いも。少しでも自然に、少しでも“理想の女性”に近づけるように。
今日こうして笑えているのは、その積み重ねがあったからだ。
***
平子side
お茶を口にしながら、平子は澪の顔に目をやる。
(……入った頃より、ほんまええ顔するようになったなぁ)
目元の力が抜けて、柔らかい雰囲気になった。
会話の受け答えも自然やし、適度な距離感も心地ええ。
(最初の頃は、なんや……“頑張りすぎ”って感じやったんよな)
他の隊士と喋ってる時は今と変わらず普通やったのに、自分と話す時だけ──丁寧すぎる物言いや、かしこまりすぎた姿勢。
まるで「こうしなきゃいけない」っていう理想に縛られてるように見えた。
悪いことやない。
むしろ真面目で一生懸命な性格なんやろうなと好感は持ってた。
でも、どこか“壁”を感じてたのも事実やし、何か隠しとるのも感じとれる。
けど、最近は──
緊張が解けたのか俺とも自然と会話出来とるし、前よりも距離を縮めれた気がする。
けど偶に俺以外、例えばリサと話している澪は何処か普段とは違った表情を見せる。
その表情を自分にも向けて欲しい…もっと色んな表情が見たい思ってしまう。
「……平子隊長。そんなに見つめられると、落ち着きません」
入隊時から今日までの事を考えてたせいか、じっと澪を見つめてしまっていた。
その事に少し頬を赤らめながら恥ずかしげに、戸惑う澪に申し訳なさよりも自分に対してこんな表情してくれることが嬉しく素直に伝える。
「なんや、入隊したての頃よりも変わったな思てたんやけど──」
「……え?」
「前より、空気がやわらかくなっちゅうか……距離が近くなって、嬉しいわぁ」
***
澪 side
その言葉に、心臓が跳ねるのを感じた。
「……すみません、最初の頃は無愛想だったかもしれません」
「いやいや、悪い言うてるんやないで? ええ意味でや、最初の頃は緊張ばっかしてたのに今では軽口叩けるまで距離が縮まって嬉しいっちゅう話や」
たったそれだけの言葉なのに、胸がじんと熱くなった。
(…入隊時から見て貰えてたなんて)
入隊してすぐに二十席に就いたとはいえ、隊長と末席では関わる機会なんてたかが知れてる。
それでも平子隊長は私が入隊した時から見てくれていた。
それがどれ程嬉しいものか…。
ずっと平子隊長の好みに合わせて、理想の“包容力ある女性”として振舞ってきた。
それをどこかで「嘘っぽい」って思われてるかもしれない不安もあった。
けれど──
「……見てくださってたんですね。本当に……ありがとうございます」
静かにそう言うと、平子はどこか優しい笑みを浮かべた。
「そらぁ見るやろ、こんな可愛いくて気の利く部下が入ったら…」
茶化すでも揶揄うでもなくさらりと言ってくれる隊長に胸が熱くなる。
やっぱり私を見てくれるのは、この人だけだと思った。
***
少しして、ごぼう天そばが運ばれてくる。
湯気とともに立ちのぼる、香ばしい匂い。
「うわ……美味しそう……!」
思わず漏れた声に、平子がどこか満足そうに頷いた。
「せやろ? こういう地味な店の方が、実はしっかり美味いねん」
「……そうですね。なんだかお店の雰囲気も、合わさって落ち着きます。」
「「いただきます。」」
そしてそっと箸をとり、一口。
揚げたてのごぼう天の香ばしさと、優しい出汁の味が口いっぱいに広がって──
心までじんわり温まっていく。
(……あったかい)
蕎麦の味ももちろん美味しいけれど、
たぶん、今この時間そのものが、一番の“ご馳走”なんだと思った。
ほんの少し肩の力を抜いて、また一口、蕎麦をすする。
その横で、平子は変わらぬ調子で蕎麦をすすりながら──
けれど、いつもよりも少しだけ、穏やかな目をしていた。
*****
夜/澪 side
任務後の束の間の外出から戻り、入浴を済ませて髪を乾かすと、澪は自室の小さな机に向かった。
灯を落とした部屋に、ぼんやりとした行灯の明かりが揺れる。
机の上には、一冊のノート。
――反省ノート。
毎晩、必ずつけてきた。
自分の言動、仕草、口調、立ち居振る舞い。
どこが理想像に近づけていたか、逆に何が未熟だったかを記録する。
今日も筆を取り、表紙をめくる。
⸻
【本日の反省】
〇7月某日/午後
場面:任務後、平子隊長と蕎麦屋
会話の印象:自然体でいられた場面が多かった/笑顔の作りも、違和感なかった(たぶん)
口調:終始“丁寧で柔らかい”を意識(ただし、少し砕けすぎたかもしれない?)
⸻
筆を止めて、澪は少し考える。
「ふふ……財布が寂しくなっても知りませんよ?」
――あれは、やりすぎだっただろうか。
(いや、でも……隊長、笑ってくれてた)
そう思い返すと、胸がぽっとあたたかくなる。
平子隊長の笑顔。
「前より空気がやわらかくなっちゅうか……距離が近くなって、嬉しいわぁ」
その一言が、どれだけ自分を救ってくれたか。
⸻
ページの端に、小さく書き添える。
“また、平子隊長とごはんに行けますように”
少しだけ顔が火照って、筆を置いた。
反省ノートを閉じて、行灯の灯を消す。
薄暗がりの中で、澪はそっと胸に手を当てた。
(……早く副隊長になって平子隊長にこの思いを告げれますように)
そのまま、掛け布団に入る。
心の中に、あったかい蕎麦の味と、あの穏やかな横顔を思い浮かべながら──
澪は静かに、微睡みに沈んでいった。
