入学前編
名前変換
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(名前)は必死で校舎内を走る。
今になって身体中からぶわっと冷や汗が出てきた。
初めて見る規格外の化け物に襲われたこと。
何より、
(さっき、私、死んでもいいって思った…?)
さも当然のように死を受け入れた自分が堪らなく怖かった。
後ろを見ても先程の化け物の姿は見当たらない。当初の目的など忘れ、早くここから出ようと階段へ向かう(名前)だったが、
「っ…!」
階段のすぐ下にも、また別の化け物がいた。体格的には(名前)と同じくらいだろうか。幸い、まだこちらには気づいていないようだが、このままここにいればきっとすぐに見つかる。
(名前)は息を呑み、ゆっくりと足を動かした。が、ジリッと足元で小さな音が鳴ってしまう。
途端、目玉をギュルッと動かして階段を這い上がってくる化け物。
「あ゛ぁはぁ゛!あ゛そぼぉ゛!」
「うわあぁっ!」
叫び声を上げた(名前)は咄嗟に4階へと続く階段を駆け上がった。
走って、走って、ただひたすらに廊下を駆け抜ける。時折、カクンと膝の力が抜けて倒れ込みそうになるのを必死に堪えた。
(誰か…、助けてっ、誰か!)
救いの手を求めるも、その手を取ってくれるあてなどどこにもない。
(名前)は走った先にある渡り廊下へと繋がる扉を開け、後ろ手で扉を閉めるとそのまま背をもたれてズルズルとしゃがみ込んだ。
近くに化け物の気配はしない。逃げている間に運良く見失ってくれたようだ。
だが見つかるのも時間の問題。どうにか下に降りて抜け出す方法はないかと思考を巡らせる(名前)は、前方に人の姿があることに気がついた。
(誰…?制服…うちの生徒?どうしてこんな時間に……)
薄暗くて見えづらいが確かに人がそこにいる。1人はもう1人の肩に担がれていて、またもう1人は座ったままこちらを見ている様だった。
周りを見ると近くの建物は瓦礫が崩れ、ところどころ損壊していた。(名前)は先程の轟音と揺れの影響だと即座に理解する。
それよりも、このままここにいると奴に見つかってしまう。そうなればこの人たちも巻き添えを食らうことになるだろう。
…それだけは、絶対にあってはならない。
「逃げて!!早く!!」
(名前)はこわばる顔を無理やり動かして叫んだ。
しかし当の本人たちはその場から動こうとしない。
3人のうちの1人が言葉とは裏腹に、担いでいた人をもう1人に預けて(名前)のいる方へと近づいてくる。
雲隠れしていた月が顔を出し、辺り一面を明るく照らし出した。
(名前)はその姿に既視感を覚える。長身に白髪、黒い目隠し……(名前)が帰り道ぶつかった人と特徴が一致していた。
「いいね、イカれてる」
楽しげに(名前)を見る彼は、確かにそう呟いた。
不思議とその人から目が離せない(名前)だったが、すぐ背後に感じた気配に我に帰る。
「みぃ゛づけだぁあ゛!」
時はすでに遅く、気付いた時には(名前)のもたれる扉の隙間から化け物が目だけを覗かせていた。
一瞬怯んだ(名前)の隙を見て、化け物はそこから入り込もうとするが(名前)は必死になって扉を押さえる。
だが力で勝るわけもなく、扉が開いた反動で吹き飛ばされた(名前)は地面に頭を打ちつけた。
ズキズキと痛む頭、霞む視界。
その人の後ろ姿と倒れ込む化け物の光景を最後に、(名前)は気を失った。
(名前)が目が覚めて最初に目にしたのは、真っ白な天井だった。
部屋中に消毒剤の匂いが漂っている。近くに居合わせた看護師が(名前)が目覚めたことに気づくと、声をかけてくれた。
ここは病院で、どうやら学校で気を失った自分はここに運び込まれたらしい。昨晩(名前)と同じように、夜に忍び込んだ学校で被害を受けた先輩2人と一緒に。
症状は軽い脳震盪だと告げられた。様子を見つつ、入院する必要はないが1週間は安静にと説明を受けた。
まるで昨日のことが全部夢だったと言われてもおかしくないくらい、窓から見える外の景色は平和そのものだった。
(……気を失う前、最後に見たあの人たち…大丈夫だったのかな……)
(名前)は彼らの安否がどうも気がかりで、看護師たちに聞いても皆知らないと口を揃えるばかり。
自覚症状もない(名前)は、手続きを済ませて病院を出ようとしたが、同じように運び込まれた先輩たちの様子が気になってその病室を訪れることにした。
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