入学前編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「着いた…」
学校への夜道を走り抜けた(名前)は、すっかり上がってしまった息を落ち着けようとしていた。
ぞくり、何度目かの感覚に体が震える。
校門の前に立つ(名前)は、ゆっくりと校舎を見上げる。
ここに着く前からしていた嫌な予感。それはこの場所だとより強く感じられた。
(名前)が家に帰る道中、謎の生き物に襲われた時。
今目の前の学校から放たれるプレッシャーはその時に感じたものとどこか似ている。
でも、それとこれとでは比較にならない程ずっと大きく、重い。
(名前)はこれが死の気配であることに気付いていた。
きっとこの先、あの時見たものよりも大きななにかがいるのだろう。そう分かっていても(名前)が踵を返すことはなかった。
こんな夜中に叔母達の目を盗んでまで家を抜け出した意味がなくなるから。何より、明日の自分を守るにはそうするほかないからだ。
(名前)は意を決して門扉に手を掛けよじ登った。
暗い、暗い校舎の中。
(名前)はスマホのライトを点けてその灯りを頼りに一歩一歩進んでいた。(名前)の教室は3階にあるため、まずは階段へ向かわなければいけないのだが…
(いる……それもたくさん)
入ってすぐでもわかるほどにそれの気配は強かった。
目を走らせると、あの時のなにかに似たものが其処彼処にいる。でも不思議と襲ってくることはない。こちらの様子を伺うようにじっと息を潜めている。
(名前)は灯りの照らす先を正面に向けて階段へと急いだ。
(変だな……)
3階の廊下を歩く(名前)はそこらじゅうにいるものに目を配る。それらはどれも同じ反応をしていた。
ただずっと(名前)のことを見ている。伺うように、ひっそりと。その姿は、まるで怯えているようにも見えるほどだ。
一度は自分が見たのは幻覚だと思い込もうとした(名前)だったが、ここまで目の当たりにすると現実ではないと否定する方が無理な話である。
(霊感とかない方だと思ってたんだけどな…)
(名前)は今までそういう類のものは見えたことがない。
そもそも、これらを霊と呼んでいいのかわからなかった。(名前)が霊と言われて思い浮かぶのはもっと人型の形をしたものだったからだ。
もうすぐ教室に辿り着く。この突き当たりを右に曲がればすぐだ。
(名前)は未だ緊張を解かないように歩を進める。
突然、鉄槌が振り落とされたかのような轟音がした。
それに伴って校舎全体が揺れる。
「うわっ、なに…!?」
(名前)は咄嗟にそばにある窓ガラスの枠を掴んだ。
そのまま窓の外を見た(名前)は衝撃を受ける。
上だ…、上の階から粉々になった瓦礫が落ちてきている。さっきの轟音のせい?一体上でなにが…。
そう考えていられるほどの余裕はすぐになくなった。
「おぉあ゛、おぁ゛よう゛ぅ゛」
行こうとしていた突き当たりの角から、(名前)の何倍も背丈のある化け物が顔を覗かせていた。
死の気配が目に見えるように流れている。
喉がひくつく感じがしてうまく声が出せない。
逃げたい、逃げなければ。そう思うのに、足がまるで地面に縫い付けられているかのように動かせなかった。
ああ死ぬな、これ。
すぐに悟った。あの時感じた恐怖と比にならないものが目の前にいるからだ。
でも不思議とその恐怖も薄れてくる、それは(名前)が降伏したからだった。
(名前)はそれがこちらに向かって走ってきているのを他人事かのように眺めていた。死の間際はスローモーションに見えると聞くけれど、本当だったんだと考える。
(私は走馬灯も見えないんだな)
最後の瞬間、目を閉じた(名前)が思ったのはそれだけだった。
ーバチッ
それが(名前)に触れようとした時、双方の間に静電気のような電光が走った。
驚いた(名前)が目を開けると、その化け物は電光が目に当たったのだろうか。大きな目を押さえながらもがいている。
(名前)はそれを放心状態で眺めていた。自分の体の中に、どろりとしたなにかが蓄積されていくのを感じながら。
途端に、頭の中で誰かの声がする。
逃げろ逃げろと(名前)の腕を引いている。
はっと我に返った(名前)は、その声に導かれるままに駆け出した。ぴくりともしなかった足はもう動かせていた。